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2012/05/14

カード 休憩時間 ビラ配り 目黒電報電話局事件最高裁第三小法廷昭和52年12月13日判決民集31巻974頁

目黒電報電話局事件最高裁第三小法廷昭和52年12月13日判決民集31巻974頁 『判例時報』871号『判例タイムズ』357号6頁『労働判例』287号
  懲戒戒告処分無効確認 - 最高裁判所第三小法廷昭和47(オ)777:判決 http://thoz.org/hanrei/%E6%98%AD%E5%92%8C47%28%E3%82%AA%29777
http://www.jil.go.jp/hanrei/conts/026.htm
http://fourbrain.blogspot.com/2002/04/blog-post_3841.html
http://www.jil.go.jp/kikaku-qa/hanrei/data/124.htm
事件の概要-日本電電公社目黒電報電話局施設部試験課勤務の職員Xは、昭和42年6月16日から22日まで「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と書かれたプレートを着用して勤務したところ、これを取り外すよう上司から再三注意を受けた。同月23日Xはこの命令に抗議し、ワッペン・プレートを胸につけることを呼びかける目的で、「職場の皆さんへの訴え」と題したビラ数十枚を、休憩時間中に職場内の休憩室と食堂で手渡しまたは机上におくというという方法で配布した。
 電電公社は上記プレート着用行為が就業規則の五条七項「職員は、局所内において、選挙活動その他の政治活動をしてはならない」に違反する。ビラ配布行為は五条六項「職員は、局所内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配布その他これに類する行為をしようとするとき、事前に別に定める管理責任者の許可を受けなければならない」に違反し懲戒事由に該当するとして、Xを戒告処分に付したが、その効力について争われた事件である。一、二審は原告の主張を認容し、戒告処分を無効としたが、最高裁は破棄自判して一、二審の判断を覆した。

 判決抜粋-懲戒処分は適法
 
公社は設立目的からに照らしても企業性を強く要請されており、公社と職員の関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係とその本質を異にするものではなく、私法上のものであると解される。‥‥一般私企業においては、元来、職場は業務遂行のための場であつて政治活動その他従業員の私的活動のための場所ではないから、従業員は職場内において当然には政治活動をする権利を有するというわけのものでないばかりでなく、職場内における従業員の政治活動は、従業員相互間の政治的対立ないし抗争を生じさせるおそれがあり、また、それが使用者の管理する企業施設を利用して行われるものである以上その管理を妨げるおそれがあり、しかも、それを就業時間中に行う従業員がある場合にはその労務提供業務に違反するにとどまらず他の従業員の業務遂行をも妨げるおそれがあり、また、就業時間外であつても休憩時間中に行われる場合には他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後における作業能率を低下させるおそれのあることがあるなど、企業秩序の維持に支障をきたすおそれが強いものといわなければならない。したがつて、一般私企業の使用者が、企業秩序維持の見地から、就業規則により職場内における政治活動を禁止することは、合理的な定めとして許されるべきであり、特に、合理的かつ能率的な経営を要請される公社においては、同様の見地から、就業規則において右のような規定を設けることは当然許される‥‥被上告人が着用した本件プレートに記載された文言は、それ自体、アメリカ合衆国が行つているベトナム戦争に反対し、右戦争の遂行の拠点としての役割を果たす米軍立川基地の拡張の阻止を訴えようとしたものであるが‥‥わが国の政治的な立場に反対するものとして社会通念上政治的な意味をもつものであつたことを否定することができない。‥‥被上告人は右文言を記載したプレートを着用してこれを職場の同僚に訴えかけたものというべきであるから、それは社会通念上政治的な活動にあたり、しかもそれが目黒局の局所内で行われたものである以上、公社就業規則五条七項に違反することは、明らかである。‥‥ところで、公社法三四条二項は「職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない」旨を規定しているのであるが、これは職員がその勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきである。本件についてこれをみれば、被上告人の勤務時間中における本件プレート着用行為は、前記のように職場の同僚に対する訴えかけという性質をもち、それ自体、公社職員としての職務の遂行に直接関係のない行動を勤務時間中に行つたものであつて、身体活動の面だけからみれば作業の遂行に特段の支障が生じなかつたとしても、精神的活動の面からみれば注意力のすべてが職務の遂行に向けられなかつたものと解されるから、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事すべき義務に違反し、職務に専念すべき局所内の規律秩序を乱すものであつたといわなければならない。同時にまた、勤務時間中に本件プレートを着用し同僚に訴えかけるという被上告人の行動は、他の職員の注意力を散漫にし、あるいは職場内に特殊な雰囲気をかもし出し、この面からも局所内の秩序維持に反するものであつたというべきである。
すなわち、被上告人の本件プレート着用行為は、実質的にみても、局所内の秩序を乱すものであり、公社就業規則五条七項に違反し五九条一八号所定の懲戒事由に
該当する。 したがつて、前記のように公社就業規則に違反する被上告人の本件プレート着用に対しその取りはずしを命じた上司の命令は、適法というべきであり、これに従わなかつた被上告人の前記第一の一の(二)の行為は、公社就業規則五九条三号所定の懲戒事由である「上長の命令に服さないとき」に該当する。

被上告人の‥‥ビラ配布行為は許可を得ないで局所内で行われたものである以上、形式的にいえば、公社就業規則五条六項に違反するものであることが明らかである。もつとも、右規定は、局所内の秩序風紀の維持を目的としたものであるから、形式的にこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの配布が局所内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないと解するのを相当とする。ところで、本件ビラの配布は、休憩時間を利用し、大部分は休憩室、食堂で平穏裡に行われたもので、その配布の態様についてはとりたてて問題にする点はなかつたとしても、上司の適法な命令に抗議する目的でされた行動であり、その内容においても、上司の適法な命令に抗議し、また、局所内の政治活動、プレートの着用等違法な行為をあおり、そそのかすことを含むものであつて、職場の規律に反し局所内の秩序を乱すおそれのあつたものであることは明らかであるから、実質的にみても、公社就業規則五条六項に違反し、同五九条一八号所定の懲戒事由に該当するものといわなければならない。‥‥被上告人は、本件処分は、上告人が被上告人を共産党員であると認識し、その思想信条を嫌い、そのため行つた差別待遇にほかならないとして、労働基準法(以下「労基法」という。)3条違反を主張する。しかしながら、原審の確定した事実によれば、本件処分は被上告人の前記違法な行為を理由として行われたものであることが明らかであるから、被上告人の右主張は理由がない。‥‥また、被上告人は、本件ビラ配布は正午の休憩時間を利用して行つたものであるのにこれを懲戒処分の対象とすることは、労基法34条3項に違反する、と主張する。一般に、雇用契約に基づき使用者の指揮命令、監督のもとに労務を提供する従業員は、休憩時間中は、労基法34条3項により、使用者の指揮命令権の拘束を離れ、この時間を自由に利用することができ、もとよりこの時間をビラ配り等のために利用することも自由であつて、使用者が従業員の休憩時間の自由利用を妨げれば労基法34条3項違反の問題を生じ、休憩時間の自由利用として許される行為をとらえて懲戒処分をすることも許されないことは、当然である。しかしながら、休憩時間の自由利用といつてもそれは時間を自由に利用することが認められたものにすぎず、その時間の自由な利用が企業施設内において行われる場合には、使用者の企業施設に対する管理権の合理的な行使として是認される範囲内の適法な規制による制約を免れることはできない。また、従業員は労働契約上企業秩序を維持するための規律に従うべき義務があり、休憩中は労務提供とそれに直接附随する職場規律に基づく制約は受けないが、右以外の企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れない。しかも、公社就業規則五条六項の規定は休憩時間中における行為についても適用されるものと解されるが、局所内において演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等を行うことは、休憩時間中であつても、局所内の施設の管理を妨げるおそれがあり、更に、他の職員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後の作業能率を低下させるおそれがあつて、その内容いかんによつては企業の運営に支障をきたし企業秩序を乱すおそれがあるのであるから、これを局所管理者の許可にかからせることは、前記のような観点に照らし、合理的な制約ということができる。本件ビラの配布は、その態様において直接施設の管理に支障を及ぼすものでなかつたとしても、前記のように、その目的及びビラの内容において上司の適法な命令に対し抗議をするものであり、また、違法な行為をあおり、そそのかすようなものであつた以上、休憩時間中であつても、企業の運営に支障を及ぼし企業秩序を乱すおそれがあり、許可を得ないでその配布をすることは公社就業規則五条六項に反し許されるべきものではないから、これをとらえて懲戒処分の対象としても、労基法34条3項に違反するものではない。‥‥」

判決論評
菊池高志「労働契約・組合活動・企業秩序法政研究 『法政研究』49(4) 1983 〔※ネット公開〕http://hdl.handle.net/2324/1792
楠元茂「<論文>いわゆる服装斗争の法的考察 : 人権規定の第三者効力との関連において」『商経論叢』27 1978ね http://ci.nii.ac.jp/naid/110000048788
石橋洋「企業内政治活動・ビラ配布の自由と企業秩序 : 目黒電報電話局事件・明治乳業事件判決を素材として」『季刊労働法』142 1987〔※ネット公開〕http://hdl.handle.net/2298/14089
吉田 美喜夫 「企業秩序と労働者の権利・義務-目黒電報電話局事件・富士重工業事件最高裁判決(回顧と展望)『日本労働法学会誌』52 1978
外尾健一「労働判例リ-ディングケ-ス-17-目黒電報電話局事件--休憩時間の自由利用」『労働判例』720 1997
大内伸哉「判例講座 Live! Labor Law(17)企業内での政治活動は,どこまで許されるの?--目黒電報電話局事件(最三小判昭和52.12.13民集31巻7号974頁)」『法学教室』347 2009

目黒電報電話局判決の意義

●プレート着用と職務専念義務について

 判決は「勤務時間中における本件プレート着用行為は‥‥作業の遂行に特段の支障が生じなかつたとしても、精神的活動の面からみれば注意力のすべてが職務の遂行に向けられなかつたものと解されるから、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事すべき義務に違反し、職務に専念すべき局所内の規律秩序を乱すものであつたといわなければならない。同時にまた、勤務時間中に本件プレートを着用し同僚に訴えかけるという被上告人の行動は、他の職員の注意力を散漫にし、あるいは職場内に特殊な雰囲気をかもし出し、この面からも局所内の秩序維持に反する」と述べており、単に自己の職務専念義務に反するにどまらず、他の労働者の職務への専念を妨げるものとして捉えている。
 批判的な論評を書いている菊池高志ですら「多数労働者が密接な関連・協力関係にたって業務が遂行される近代的経営の現実に立てば、他の労働者の義務遂行の障害とならないよう配慮すべき義務を負うと考えることにも合理性がある」と述べているのであるから、「他の職員の注意力を散漫にする行為」は秩序維持に反するものと言ってよい。

休憩時間と企業施設の管理権について

 一般に使用者は、労働基準法第三十四条第三項の規定により、労働者に対して休憩時間を自由に利用させる義務を負うとされるが、本件懲戒処分は休憩時間の自由利用を妨げるもので労働基準法に違反するとする被上告人の主張については次のような理由で退けた。
 休憩時間の自由利用も、それが「企業施設において行われる場合には、使用者の企業施設に対する管理権の合理的な行使として是認される範囲内の適法な規制による制約を免れることはできない」のであって「従業員は労働契約上企業秩序を維持するための規律に従うべき義務があり、休憩中は労務提供とそれに直接附随する職場規律に基づく制約は受けないが、右以外の企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れない」。局所内における「演説、集会、貼紙、掲示、ビラ掲示」は、休憩期間中になされても「その内容いかんによっては企業の運営に支障をきたし企業秩序を乱すおそれがあるから」、これらの行為を局所管理者の許可制にした就業規則は休憩時間にも適用される。本件ビラ配布は、その目的とビラの内容ゆえに、配布態様において施設の管理に支障がなくても、企業秩序を乱すおそれがあるから、実質的にも就業規律違反であり、懲戒処分は労基法34条3項に反しないとした。
 ここで注意すべきことは、休憩時間の従業員の行動を規制する根拠として「施設管理権」だけではなく「企業秩序を維持するための規律に従うべき義務」を加えていることである。従業員には企業秩序遵守義務があるということは、本件決と同日の富士重工業事件(最高裁昭和52年12月13日第三小法廷判決、民集31巻1037頁)で明解の示されていた。「企業秩序」の根拠として「企業」という存在にとって不可欠を挙げ、「企業秩序」の維持確保のために「企業」に求められる権能として、(1)規則制定権(2)業務命令権(3)企業秩序回復指示・命令権(4)懲戒権を当然のこととして列挙し、このような「企業」体制を前提とした労働契約を媒介に労働者の「企業秩序遵守義務」を演繹している。「労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによつて、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負うが、企業の一般的な支配に服するものということはできない」としたのである。(池田恒夫池田 恒男「国労札幌ビラ貼り事件」最高裁判決の「画期的」意義--現代日本法の一断面」『社會科學研究』33(5) 1981)
 
 「施設管理権」だけではなぜ不都合かというと、プロレイバー労働法学が施設管理権を物的管理権に限定して定義づけたためである。つまり、元来「施設管理権」とは法律用語ではなく、昭和28・9年頃使用者側から主張された政策概念としたうえ、所有権・占有権の一つの機能として位置づけ、次のように物的管理権に限定して承認するという学説が広く流布されたためである。(西谷敏「施設管理権の法的性格とその限界」『法学雑誌』大阪市立大学法学会26(3・4), 1980 )
「本来それは、使用者が企業施設に対する所有権に基づいて当該施設を支配し、それの維持、保全のための必要な措置をする等の管理を行う権能(物的管理権)をさすものと解せられ‥‥」片岡曻『法から見た労使関係のルール』労働法学出版1962 109頁
 そのように、施設管理権の物権的性格を強調しそれゆえ「物的管理権である以上、施設管理権は組合活動に対して直接向けられるべきものではない」とされる(峯村光郎『経営秩序と団結活動』総合労働研究所1969 161頁、本多淳亮『業務命令施設管理権と組合活動』労働法学出版1964 21頁
 プロレイバー学説に従うと、施設管理権は人的管理権を含まない物的管理権であるため、使用利用自体の規制とそれに違反する者に対する制裁を行う権利とはならず、組合活動の経過生じた物的損害に対し(たとえば窓ガラスを割るなど)対象を毀損するなど損害を生じたときに事後的な原状回復ないし填補を求める権利に矮小化されるのである。
 これは、休憩時間における示威運動や闘争戦術を容易にし組合に利する学説であるが、この悪質なプロレイバー学説に対抗するための判例法理として「企業秩序を維持するための規律に従うべき義務」が案出されたものとみてもよい。

就業規則の形式的違反と実質的違反

 一般にこの判決は、被用者の企業施設の政治活動、あるいは組合活動に対して厳しく規制する判例と評価されることが多いが、私はそう思わない。それはこの判決の「形式的にこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの配布が局所内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないと解するのを相当とする」という部分を引用して、休憩時間もしくは就業時間外におけるビラ配布を理由とする懲戒処分を無効とした判例が少なからずあるからである(明治乳業福岡工場事件 最高裁第三小法廷昭和58・11・1『労働判例』417号、倉田学園事件・最高裁第三小法廷平成6年12・20民集48巻8号1496頁)。
 つまり、ビラ配布の成否を論ずるに当たって、当該ビラ配布の態様は問題視されるものでなかったことを認めながら、その目的・内容が規律に反し秩序を乱すおそれのあるものであったことが実質的な就業規則違反となるというのが最高裁の見解である(菊池高志上掲論文)
 つまりこの趣旨からするとビラ配りは態様・目的・内容からみて形式的にではなく実質的な規則違反がないと、懲戒処分が無効となる可能性があるのである。
 

2012/05/13

「平清盛」第19話5/13放映分感想

 第19話は頼長の内覧の再宣下拒否、呪詛の噂、大蔵合戦、美福門院に忠誠を誓う祭文、法皇の臨終に駆けつけた上皇の面会拒否といった展開だったが、平治の乱の首謀者武蔵守藤原信頼が初めて登場した。
 平忠盛が皇后藤原得子の皇后宮亮、久安5年の院号宣下の後は内蔵頭兼播磨守の平忠盛が美福門院の別当も兼ねていた。筆頭殿上人で年預とされていたから、美福門院の有力な近臣である。
 したがって美福門院を盟主として忠誠を誓う祭文は当然のように思えるが、池禅尼が重仁親王の乳母であった(ドラマではなぜかスルー)ことから崇徳上皇とも縁があったため、平清盛は中立的な態度をはじめとっていたとされる。それが池禅尼の決断で、美福門院を盟主とする朝廷方に遅れて参戦することになったとふつういわれる。
 また平忠正は宇治に館があり、頼長の家人だったとされるが、ドラマの展開をみてると平忠正がなぜ、上皇・頼長方に参戦するのかよくわからないのである。
 大蔵合戦とは源義平が叔父源義賢らを殺害した事件だが、何のお咎めもなかった事情について説明がなかった。元木泰雄『河内源氏』中公新書によると武蔵守藤原信頼が黙認したのである。藤原信頼と源義朝との提携はこの時から始まっていたという。
 保元の乱の朝廷方でもっとも活躍したのが義朝であるが、美福門院だけでなく信頼を通じて後白河とも政治的提携があったから当然のことだった。
 

「平清盛」第18話5/6放映分感想(続)

 五月六日放映の『平清盛』が近衛崩後の皇位継承問題を扱っていたが、それ自体重要な事柄なので私の考えも述べておく。

 保元の乱の朝廷方の盟主となり、大きな政治的な影響力をふるった美福門院藤原得子について、保立道久がゴッドマザーと言っているが、それは近衛実母というだけでなく、崇徳皇子重仁親王(実母は兵衛佐局)の養母であり、後白河の践祚の後、皇太子に立てられた守仁親王(のちの二条、実母は贈皇太后藤原懿子)の養母であり、東宮妃よし子内親王(のち中宮、女院宣下高松院)の実母であったということである。
 保元の乱の後も王家の女性尊長として、皇太子と東宮妃双方の母后として宮廷で求心力を維持したためである。

 『古事談』『山塊記』『愚管抄』などで近衛崩後(久寿七年1155)の皇位継承候補に浮上したとされているのは、4名。

 孫王 (雅仁親王の息童・仁和寺の信法法親王の附弟)
 雅仁親王
 重仁親王
 暲子内親王(鳥羽皇女・実母美福門院)

 もっとも早く皇位継承候補に浮上したのは孫王(雅仁親王の息童、後白河践祚後に親王宣下、守仁と命名)である。この王子は生母藤原懿子が生後間もなく薨ぜられたため、鳥羽法皇が引き取り、美福門院が養育した。九歳で仁和寺に入寺させられていたが、仏典を読みこなし聡明だった。仁平三年(1153)、関白忠通が、近衛が病気のため孫王への譲位を鳥羽法皇に奏請したのである。しかし法皇はこれを却下した。この時はまだ病気が重篤であると認識していなかったか、謀略とみなしたためとされている。
 しかし『山塊記』によれば法皇は美福門院の意を汲んで孫王を皇位に即けたいと思ったが、現存の父を差し置いて子が即位するという例がなかったため、まず雅仁親王を践祚させ、相次いで孫王を皇位に即けることにしたとされている。これがたぶん真相に近いものと一般的には考えられている。というのは、久寿二年近衛崩後の八月に法皇の本所というべき鳥羽南殿・北殿を含む所領を美福門院に譲与し、孫王の立太子も美福門院が掌ったことから、女院は重い地位にあった。また王者議定で法皇の御前に召され相談に預かったのは側近の元右大臣源雅定と権大納言藤原公教であり、いずれも美福門院の近臣である(関白忠通とは消息を遣わして意見を聴取)、源雅定(前年に出家、ドラマでは関白の向かい側にいた僧体の人物)は、永治元年に藤原得子の皇后宮大夫に任ぜられている。また藤原公教は鳥羽院執事別当で、美福門院の別当職も兼ねていた。両者とも女院の意向に反する意見を持っていたとは考えにくいのである。実際、保元三年(1158)八月に突然、美福門院と信西入道の談合で後白河譲位の議が決定されたので、後白河はあくまでも守仁親王(二条)への中継ぎという位置づけである。

 『愚管抄』によれば法皇は雅仁親王が遊芸にばかり熱を入れ「即位ノ器量ニハアラズ」と評価していた。つまり望まれて即位したわけではない。
 帝王の器量にあらずという評価は基本的に当たっている。今日では、後白河の偏った性格(抜群の記憶力の良さ、特定の分野への強いこだわり、蒐集癖、冷酷な一面)からみてアスペルガー症候群という説があり(遠藤基郎『後白河上皇―中世を招いた奇妙な「暗主」』 (日本史リブレット人) 山川)、君主としての評価が難しい。
 にもかかわらず後白河が即位したのは、一般的には鳥羽院近臣になっていた信西入道の政治力とされることが多いが、『玉葉』『愚管抄』『古事談』によると、関白忠通による法皇の皇位継承についての諮問の奉答が雅仁親王であったと伝えている。つまり関白忠通は、孫王から雅仁親王に皇位継承の推薦者を変えたことになる。これについては、後白河即位の恩を摂関家の進言にしようとする作為とみなす橋本義彦の見解もあるが、私は『古事談』の雅仁親王は「后腹」なので即位を進言したという記事を重くみたい。
 もちろん白河や鳥羽の生母が女御であったように、生母が皇后であることは皇位継承の絶対条件ではない。しかしわが国では皇后は天子の嫡妻という本来の性格より、立后が皇太子を引き出す政治行為としての性格が強かった。少なくとも平安時代においては、母后が政治的に敗者となったケース(たとえば正子内親王や藤原定子所生の皇子)を別として、后腹の皇子が有力な皇位継承候補と認識されていたはずである。
 要するに法皇は後白河即位に消極的だったが、皇位継承の暗黙のルールを無視できなかったのでそういう結果になったと考える。
 重仁親王の即位が嫡々相承の正理から有力な候補だったとする説もあるが、后腹ではない。もっとも皇后藤原得子が養母であったから、三品に叙され后腹に准じた厚遇であったわけだが、肝心の養母である美福門院がノーといえば、それまでの存在であったいえるのではないか。
 暲子内親王(鳥羽皇女・実母美福門院)が候補に浮上したというのは、重仁親王への皇位継承を阻止して崇徳を復権させない、あくまでも天下の政柄は鳥羽法皇、美福門院で握るためのプランだろうが、非婚女帝では問題の先送りになるだけだし、おっとりした性格であったことから、崇徳上皇が挙兵するような危機に立ち向かえるか不安もあったので、このプランは消えたものと勝手に推測する。

 参考 橋本義彦『平安の宮廷と貴族』「美福門院藤原得子」吉川弘文館1996 河内祥輔『保元の乱・平治の乱』吉川弘文館2002
 

 

2012/05/11

本日はこの忙しい五月に突然係長に休暇を命じた所長と罵り合い

 本日午前10時頃所長が突然、収納係長に月曜日まで休めと言い出し、くどいほど繰り返しただけでなく、強制的に月曜まで休んでもらうとの出勤停止を命じたのである。
 ほとんど定時で帰ってしまう係長なので、体調を顧慮したものとは考えられず、たんに有給休暇の消化の強要である。5月と6月に2日ずつ休めといっていたから、同じことは新人教育でもやっていたので。

 私が割って入ってこれは就労妨害だから、就労の権利を侵害する行為と指摘したところ、私を名指しで休んでもらいたいといいかえしたから罵り合いになった。

 これは前例があり、昨年6月に係長級に休むようにさかんに言っていた。私に対しても夏休みを強要しようししたので、それは自分が判断することだといっても、強要しようとするので、この時、おれに喧嘩をふっかけるのかとか怒りだして険悪になった、
夏休みの奨励は都労連との合意で組合の求めでやっていることで、実は非常に迷惑なのである。休みが多いほど、人の仕事をフォローしなければまらないので、コスト吸収が大きくなるだけなのである。ただでさえ次世代育成ブラン、有給生理休暇、その他もろもろの休みがあり、休みを奨励すればするほど、そのコストを私のようなラインの末端が吸収しなければならないから、ますます休めなくなるという構造である。
 ワークライフバランスが国策だとして、こういうばかげたことがまかりおっているのはおかしい。
 休みの強制は出勤停止と類似しており就労妨害になるのでやめさせるよう局長に請求する予定。

 水道局では引っ越しシーズンの三月から五月は繁忙期と認識している。したがって私が5月に日曜出勤したことはあっても休むということはありえないし記憶がない。
ふつう5月は大型連休で休んだ分は必ず残業しないとおっつかないのが普通なのである。
それなのに休めなどいうのは神経を逆なでするものでする。
もちろん七~八年前にコールセンター(監理団体の株式会社PUCの委託業務)ができたので、営業所に直接かかってくる電話はかなり減っているはずである。しかしコールセンターのオペレーターが処理できない事案は、営業所に持ちこまれるし、新規の口座振替申し込み等の処理なども増えるからである。そのうえ担当替えもあるので、後任に教えたり、逆に新しい仕事だとノウハウを覚える必要がある。庶務系の仕事もやったことがあるが少なくとも五月までは忙しいという認識である。特に昨年は、病気で休む人がいたり、大震災の支援業務に行きたいという人がいて、その分の仕事もやったりけっこう大変だった。
 未納料金の催促をするセクション(収納係)は基本的に波がない仕事量だが、祝日の多い五月はその分日程がタイトになるので、
忙しくなる 今年は五月五日が土曜日で旗日が一日少ないだけでも助かったという認識である。
 営業所は月曜の来客や電話が多いのは昔からそうで、月曜と金曜に休むことはありえない。もっとも私は心臓を手術したのち定期的に診察を受けているので、金曜日の午前中休むようになったが、それは担当医師の診察側の都合で仕方がなかったたためである。とにかく私は月曜に休むということは絶対にない。せいぜい冠動脈バイパス手術のときくらいだ。
 また連休の谷間に休むということもありえない。連休の谷間に休まれるのは迷惑だということをよく知っているからである。五月一日は全労協系の日比谷メーデーの二割動員があり、月初め、三連休明けだから、人がすくない分大変なのである。
 ところが、所長は5月1日に休み、2日は飲み会が設定されていたのででてきたが、これも不快に思った。
 私語の多い所長だが、4月の人事異動で(株)PUCの出向を狙ってたようだが、あいつにとられたとか言って悔しがってた。天下りのための人脈を作るのに都合の良いポストらしい。局に戻ると本局の有力ポストに戻れるらしい。7月の異動はろくなポストが残ってないからな、とかいってあいつに文句いったから嫌われてるのかなとか言っていた。
 私はラインの末端だが、ランク・アンド・ファイルは年度末で忙しく働いてるのに、露骨に天下りに都合のようい利権ポストねらいとかいいたいほうだいなのは不快に思った。
 360度評価もないし、管理職はものすごく甘やかされている。

2012/05/10

火葬場の事例

 ブログを書くために上島亨『日本中世社会の形成と王権』名古屋大学出版会2010年という本を買ったのだが、「第四章〈王〉の死と葬送」に、鳥羽法皇など平安後期の葬送について比較的詳しく書かれている。火葬の例として一条、後一条、白河、堀河のケースに言及されている
 山作所(火葬場)の詳しいものとして『吉事略儀』の後一条天皇の長元九年(1036)五月一九日の事例である。それによると、場所は神楽岡(平安京の東北、吉田山)東辺、周囲は切懸を立てた方三六丈・高六尺の荒垣で巡らされ、切懸の上部に白布をめぐらす。南面に鳥居が建てられ、荒垣の内側にも切懸を立てた内垣が設けられ南面に鳥居が建てられた。内外の垣内に白砂が敷かれて清浄な空間とされていた。荒垣鳥居に西脇に「葬場殿」内垣の中央に「貴作所」が建てられる。その中央にある荼毘所は「貴所屋」と呼ばれ、清く貴い空間とされていた。これを火葬当日に造るのである。荼毘の際、念仏が唱えられ、火葬後は「貴所」の板敷壁等を破却し、酒で火を消す。さらに僧が真言を唱えながら土砂をまき、そののち権大納言藤原能信、源師房以下数名が御骨を拾った。
 棺を乗せた御輿が山作所に向かう時は、関白藤原頼通以下公卿が付き添うが、御骨を拾うのはゆかりのある人々、比較的小人数に限られる(白河法皇のケースは8名)のが通例のようだ。
 「天皇の遺骸は神聖なものとして荼毘にふされる」と著者は述べている。
 火葬を検討しているとのことだが、中世以降の例は知らないが、この山作所をどこに造ろうとしているのだろうか、酒をかけて火を消すことができるのか。御骨を拾うのはどのような人々が呼ばれるのかとの感想を持った。

2012/05/09

ノースカロライナ州憲法修正で同姓婚禁止

 「男女間の結婚のみが、この州で有効な、または承認される唯一のドメスティックな法的結合である」として同姓婚もシビルユニオンも禁止する州憲法修正である。すでに29の州で同姓婚は禁止されているが、南部ではノースカロライナだけが残っていた。憲法修正の賛成票は非公式な集計で61%と伝えられている。http://www.cbsnews.com/8301-503544_162-57430515-503544/north-carolina-passes-amendment-banning-same-sex-marriage/?tag=pop;stories http://www.newsobserver.com/2012/05/08/2052643/marriage-amendment-latest-results.html
 http://www2.journalnow.com/news/2012/may/08/16/marriage-amendment-supporters-hold-upper-hand-earl-ar-2258472/
 アメリカ人の50%が同姓婚擁護とされているから、反対派61%の得票は社会的に保守的な州であると理解できる。

条文の訳はこのブログからの引用http://d.hatena.ne.jp/miyakichi/20120509/p1

この記事は5/17に修正しました。

2012/05/08

「合葬」ご遠慮報道の感想

 

 宮内庁が葬送・陵所のあり方を見直すとの報道があったが、「合葬」も選択肢として検討というのは疑問に思っていたところ、本日の産経新聞に風岡次長の7日の定例会見で「合葬」を皇后さまがご遠慮の意向と報道された。ただしなお選択肢として残して検討するのだという。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120507-00000558-san-soci
 疑問というのは、先例との違和感である。新聞によると天皇と皇后の合葬は宣化と橘皇女、天武と持統の二例だけだという。15年くらい前に飛鳥に観光目的で行ったことがあり、自転車で回ったが、檜隈大内陵(天武持統合葬陵)も見た。
 しかし、橘皇女は仁賢皇女、持統は呂后に比擬される史上最強の皇后で、天智皇女である。なんで、持統女帝の例を現代において模倣しなければならないのか理解できないわけだ。ご遠慮も無理もないと思った。
 もっとも、例えば仁明女御藤原貞子(右大臣藤原三守女)のように、仁明天皇と同じ深草山稜の兆域内に葬られたという美しいエピソードもある。
文徳実録仁寿元年二月丁卯条によると「正三位藤原朝臣貞子、出家して尼となる。貞子は先皇の女御なり、風姿魁麗にして、言必ず典礼なり。宮掖の内、その徳行を仰ぎ、先皇これを重んず。寵数は殊に絶える。内に愛あるといえとせも、必ず外に敬を加う。先皇崩じて後,哀慕追恋し、飲食肯わず。形容毀削し、臥頭の下、毎旦、涕泣の処あり。左右これを見、悲感に堪えず、ついに先皇のために、誓いて大乗道に入る。戒行薫修し、遺類あることなし。道俗これを称す」 
 藤原貞子は、貴人の女性の出家の初例と考えられるが、尋常でない悲しみかたであり、位階最上位の女御で、寵愛されたこともあって同じ兆域内に葬られたということだが、合葬ではない。
 今放映されてる大河ドラマ『平清盛』に登場する鳥羽院と美福門院のケースだが、鳥羽院は、鳥羽東殿に塔二基を建て、一基は法皇納骨の料、もう一基は女院の料と定めていた。法皇の遺命により美福門院は鳥羽東殿を陵所と定められていたのである。
 ところが美福門院は永暦元年四四歳で崩御されるが、遺体は火葬に付され遺命により高野山に埋納された。これは法皇の遺命に反するものである。日本の歴史の一転機となった保元の乱の勝者であり、大きな影響力をふるった女院であるが、なぜ遺命に背いたかは余人の測り知れないことである。(橋本義彦『平安の宮廷と貴族』「美福門院藤原得子」吉川弘文館平成八年)
 いずれにせよ、合葬は千三百年以上なかったことであり、慎重な検討がのぞましい。

2012/05/06

「平清盛」第18話5/6放映分感想

 このドラマは角田文衛の崇徳=白河胤子説をとっている。『待賢門院璋子の生涯』によれば生理日まで詳細に検討したうえでの結論なので、宮廷史的にはそのほうが面白い。藤原忠実の『殿暦』が入内前の、藤原璋子と備後守藤原季通の密通を暴いており、「乱行の人」と罵っていることから、少なくとも処女ではなかった、摂関家では受け入れらない性的倫理観を持った女性であったと考えられるためである。
 ただ『古事談』の「叔父子」説は、橋下義彦、美川圭、元木康雄、河内祥輔といった歴史家が否定的な見解を述べており、美川圭の『院政』中公新書2006年によると、それは美福門院-忠通サイドが重仁親王への皇位継承を阻止するため流布させた噂にすぎないとする。確定的なことはいえないのである。
しかしいずれにせよ、鳥羽法皇と崇徳上皇の確執はドラマのように「叔父子」が決定的原因であったとは思えない。
 崇徳天皇は長承三年(当時16歳)、母后待賢門院の名誉を傷つけるものとして激怒し、藤原得子の一族眷属に厳しい処分を下している、得子の兄長輔は昇殿を停止され、備後守、伯耆守だった2人の兄も国務を停止させられ、一族眷属が財産を没収されただけでなく、得子と鳥羽上皇を結びつけたとされている鳥羽院近臣の実力者藤原顕頼も屋敷を召し上げられた。この毅然とした政治姿勢は、鳥羽上皇だけでなく院近臣にも警戒感をもたれる結果となったと考えられる。院政といっても公式的な権力の頂点は天皇だから、こういうこともあるのである。
 得子の善勝寺流藤原氏は諸大夫の範疇であるから、正式に上皇の宮に入侍したわけでく女御宣旨を蒙ることのできる家格ではないから、この時点では公式の配偶者とは認められていないにもかかわらず勝手に上皇の寵愛を得たためである。
 しかし、ドラマではこのエピソードをスルーしてしまったので、険悪になったのは「叔父子」の一点を原因と説明するしかなくなっている。
 悪僧の強訴に対しての法皇の閲兵もスルーだったが、天皇や法皇が毅然たる政治姿勢を示した史実は無視されている。これは根拠もとぼしいのに、さかんに流布されている昔から天皇不執政、昔から象徴天皇だった説に反してしまうので、NHKが教育的配慮であえてスルーしたのかもしれない。
 第18話は、近衛崩御と皇位継承者を決定する「王者の議定」だった。祈祷の場面はそれなりに臨場感があり絵的には悪くなかった。平氏の会合でどちらにつくか話し合うというシーンがあったが意味不明であり、池禅尼が重仁親王の乳母であったエピソードもスルーのようだ。
 史実の「王者の議定」では、ごく少数の人物だけが法皇の相談に預かったとみられている。関白藤原忠通、法皇の側近源雅定(元右大臣)、権大納言藤原公教だけ(河内祥輔『保元の乱・平治の乱』20頁)。ドラマのように会議を開いたわけではない。またドラマのように法皇が崇徳派に配慮するようなプランははじめからなかったと思う。

カード 休憩時間・無許可集会 全逓新宿郵便局事件

全逓新宿郵便局事件 東京地裁昭47・6・10判決『労働法律旬報』815号
全逓新宿郵便局事件 東京高裁昭55・4・30判決『労働判例』340

http://hanrei.biz/h71540
全逓新宿郵便局事件 最高裁第三小法廷昭和58年12月20日『労働判例』421号 『労働法律旬報』1087・88号
http://hdl.handle.net/2298/14070

  公労委救済申立事案。全逓と郵政労〔反全逓・労使協調の右派組合、現在は旧全逓の日本郵政公社労働組合と統合し日本郵政グループ労働組合となっている〕の対立をめぐり局長や職制の言動が不当労働行為に当たるか等についても争われているが、ここでは休憩時間中等の休憩室、年賀区分室(予備室)での無許可職場集会に対し、当局側が庁舎管理権にもとづく集会解散通告あるいは発言メモ・集会監視が支配介入に当たるか争われた事案にしぼって取り上げる。
      
全逓新宿支部では、昭和四〇年春闘頃から批判派が職場を明るくすると標榜して「新生会」を形成し、そのほとんどのメンバーが同年六月一日全逓を脱退したうえ、郵政労に加入し、新宿支部を結成した。そうした中、全逓新宿支部は、五月一〇日の昼休み、集配課休憩室で組合員70~80名を集めて、また六月七日午後五時過ぎ、同月一一日昼休み、四階年賀区分室付近で、職場集会を開催したが、右は無許可であったため、管理職らがマイクで解散を求め、あるいは集会の様子をメモする等したため、全逓新宿支部の職場集会を妨害・監視した等の当局の一連の行為が労組法7条3号の不当労働行為を構成するものとして公労委に救済申立を行った。
  公労委は不当労働行為の成立を否認した救済命令を発した(昭和42年2月13日『労働法律旬報』815号)。全逓はこれを不満として公労委・国を相手どり救済命令の取り消し求めたところ、第一審判決(東京地裁昭和47年6月10日『労働法律旬報』815号)は四七年六月、全逓の主張をほぼ認め、無許可集会の解散命令も不当労働行為に該当するとし、公労委の棄却命令を取り消した。しかし控訴審判決(東京高裁昭和55年4月30日)『労働判例』340号では、公労委・国の敗訴部分を全面的に取り消す判決を下した。国労札幌地本事件最高裁判決を援用し、休憩室での職場集会は正当な組合活動にあたらず、職制が解散を命じこれをメモするのは正当な職務と認めた。全逓の上告による最高裁第三小法廷昭和58年12月20日判決(『労働判例』421号)は、原判決を認容し、全逓の主張を斥けた。
昭和47年の第一審は庁舎管理権の性格を物的管理権にすぎないとするプロレイバー学説の影響を明らかに受けたもので、受忍義務説の立場に立っている。法益調整論により、無許可集会の解散通告を不当労働行為に該当するとしたのである。到底容認しがたいワースト判決と評価できるが、その後、施設管理権に関する判例法理が進展し、昭和54年の国労札幌地本事件判決によってプロレイバー学説が明確に排除された。昭和55年控訴審判決と、昭和58年の最高裁判決は指導判例である昭和54年の国労札幌地本事件最高裁判決の判例法理に沿い、無許可職場集会は正当な組合活動に当たらないから、当局による解散通告(命令)や監視は不当労働行為に当たらないと判決した。
 国労札幌地本事件判決はビラ貼り事案であったが、集会事案においてもその意義を確認できるものであり、労務提供義務のない休憩時間の無許可集会の解散通告を明確に不当労働行為に該たらないとした点でも重要な先例である。


  ●第一審  全逓新宿郵便局事件 東京地裁昭47・6・10判決『労働法律旬報』815号

判旨-不当労働行為に該当する
〔組合寄りの受忍義務説を展開〕

「無許可集会によって庁舎の一部を使用することが、庁舎管理権に抵触するがために、郵便局長が庁舎管理権に基づいて、無許可集会の解散命令を命ずることができることは、前述したとおりである。庁舎管理権とは、庁舎が国有の場合は、本来財産権に胚胎する機能であって、公物たる建物に損害または危害が及ぼす恐れのある場合に、その損害または危険を除去または予防するために相当な措置を講ずることを第一の内容とし、これとともに公物設置の目的に対する障害の防止と除去を内容とするものである。一方労働組合の集会は、組合活動としての法の保障するところである。わが国のように企業内組合の主流を占めるところにおいては、組合の集会は、多く使用者の施設を使用せざるを得ないことになる。ここに庁舎管理権と団結権(組合活動)との相克を生ずる。いかなる権利といえども、絶対的無制約なものはなく、他の権利による制約を受忍し、これと両立すべき相対性を内包する。すなわち、両者の調和の必要性が生じるのである。企業内組合の組合活動が庁舎使用を余儀なくされる場合も多いことを考慮すれば、施設に損害または危険を生じる恐れや施設設置の目的に障害を及ぼす恐れのない限り、正当な組合活動に対する庁舎管理権の発動は、できるたけ抑制的であることが望ましいことになる。‥‥本件においても、組合が使用した四階年賀区分室附近は普段郵便業務に使用している場所でもないし、また、これを組合の集会に使用することによって、新宿郵便局の業務上特別の支障や庁舎に損害を及ぼす危険等もなかったのである。そうすると、同局長が組合または集会の責任者に対して使用禁止を通告することはともかく、集会の運営そのものを妨害するような挙に出ることは、庁舎管理権の目的を逸脱したものと解さざるを得ない。‥‥殊に、労働組合の集会は、個々の労働者の意思を組合の運営に民主的に反映するための最良の手段である。そのため、集会においては、組合員の自発的意思決定と自由な発言が保障されなければならない。‥‥職制が組合集会を監視することは、組合の構成員としての労働者の自主的な意思決定と自由な発言を阻害し、組合の運営に影響を及ぼすことになるから、組合運営の支配介入となるのである‥‥休憩室は施設、その施設設置の目的に徹し、本来職員の自由使用に委ねられている所である。それを利用する職員が組合員だからといって、これを異別に取扱うべき理由はない。そして、職員が休憩室を利用する態様は、それが施設に損傷を及ぼしたり、または排他的であって他の職員の自由使用をことさら妨げたりしない限り、使用者によって制約されるべきものではないのである。その使用が組合の集会であることと、例えば娯楽のための集会であることによって許容を区別すべき理由はない。現に新宿郵便局の場合には、昭和三九年一一月ごろから組合は、休憩室を特段に使用許可を受けることなくして使用し、当局もこれについて別段の禁止措置を講じなかったのである。これは、集会が休憩室本来の使用目的に背馳する態様のものではなかったからと思われる。したがって、組合の排他的使用によって、非組合員たる他の多くの職員の休憩室使用が顕著に妨害されるとか、その集会に職員以外の者を導入するとか等、休憩室使用目的の障害自由が発生しない限り、庁舎管理権の発動としては、その集会の解散を命ずることは許されないのである」と判示。

●控訴審 全逓新宿郵便局事件 東京高裁昭和55年4月30日『労働判例』340号

   
判旨-不当労働行為に該当しない。

 ‥‥昭和四〇年五月一〇日午後〇時三五分ごろから、集配課休憩室において、休憩時間中の被控訴人組合員約七、八十名が職場集会を開いたこと、この集会は、休憩室利用について郵便局管理者の許可を得ていなかつたので、同集会場にH次長、A庶務課長、W集配課長らが赴き、再三携帯マイク又は大声で解散するよう通告したこと、この集会は午後一時ごろまで続行されたことは、当事者間に争いがない。‥‥
 1 右集会において携帯マイクを使つて解散するよう通告したのはH次長であり、それは、A・W両課長がこの集会は許可していないから解散するようにと命じたのに対し、「休憩室で休憩中の者が何をしようと自由ではないか。」などと言つて取り囲み、集会を中断して集団抗議を行つていたからであること。
 2 郵政省就業規則及びその運用通達は、国有財産の使用に関する取扱いにつき、「組合から組合事務室以外の庁舎の一時的な使用を申し出たときは、庁舎使用許可願を提出させ、業務に支障のない限り、必要最小限度において認めてさしつかえないこと。」と定めており、新宿郵便局においても、休憩室の使用を含めて、このとおり行われてきたところ、昭和三九年一二月ごろから、被控訴人新宿支部は、休憩室については自由に使つてよい室であるとして、庁舎使用許可願を提出しないで集会するようになり、右五月一〇日の集会も同様許可願の提出がなかつたものであるが、同支部のかかる方針については、許可願の提出を命ずる当局との間に、しばしば対立が見られたこと。等の事実を認めることができる。‥‥ 思うに、企業施設は、本来企業活動を行うために管理運営されるべきものであり、この点において、企業主体が国のような行政主体である場合と、また私人である場合とて異なるものではない。そして、企業主体は、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設の使用については許可を受けなければならない旨を一般的に定め、又は具体的に指示命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示命令を発し、又は所定の手続に従い制裁として懲戒処分を行うことができるものと解するのが相当である。 ところで、企業に雇用されている労働者は、企業の所有し管理する物的施設の利用をあらかじめ許容されている場合が少なくない。しかしながら、この許容が、特段の合意があるのでない限り、雇用契約の趣旨に従つて労務を提供するために必要な範囲において(休憩室、食堂等にあつては、休養をし食事をする等その設置の趣旨に従つた範囲において)、かつ、定められた企業秩序に服する態様において利用するという限度にとどまるものであることは、事理に照らして当然であり、したがつて、当該労働者に対し右の範囲を超え又は右と異なる態様においてそれを利用し得る権限を付与するものということはできない。また、労働組合が当然に当該企業の物的施設を利用する権利を保障されていると解すべき理由は何ら存しないから、労働組合又はその組合員であるからといつて、使用者の許諾なしに右物的施設を利用する権限を持つているということはできない。もつとも、当該企業に雇用される労働者のみをもつて組織されるいわゆる企業内組合の場合にあつては、当該企業の物的施設内をその活動の主要な場とすることが極めて便宜であるのが実情であるから、その活動につき右物的施設を利用する必要性の大きいことは否定し得ないところではあるが、利用の必要性が大きいことの故に、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために当然に利用し得る権限を有し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を当然に受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない。したがつて、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理運営する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動に当たらない。 以上については、最高裁判所昭和五四年一〇月三〇日第三小法廷判決(裁判所時報七七七号一ページ)がほぼ同旨の判断を示すところであるが、本件においては、特に、被控訴人が休憩室を組合の職場集会のため使用するにつき、庁舎管理権者の許可を受けなければならないかどうかが争点となつている。そして、休憩室の使用については、右にいささか言及したところであるが、休憩室が職員の自由使用にゆだねられているといつても、それは、休憩時間における休養等その設置の趣旨に添う通常の休憩の態様において使用する場合に限られるものである。本件五月一〇日職場集会のように、明らかに他の目的をもつて集配課休憩室を使用することは、休養のための休憩室の自由使用とは著しくその態様を異にし、集会を行うこと自体休憩室設置の趣旨には到底添い難く、したがつて、一般の庁舎の目的外使用の場合と全く同様に、許可願を提出して承認を受けた上でなければ、該集会のために休憩室を使用することはできないものというほかはない。被控訴人は、休憩時間中に休憩室で交される親睦的な雑談でも時に多人数・長時間にわたることがあり、一方、職場集会といつても複数の職員の話合いにほかならないと主張するけれども、かかる事由をもつて右の判断を左右することはできない。また、本件の全証拠によつても、休憩室の使用につき郵政省と被控訴人との間に特段の合意が成立していたこと、及び許可願の提出がないことを理由に被控訴人新宿支部の本件集配課休憩室の使用を許さなかつたことが当局の権利濫用と目すべき特段の事情は、これを認めることができない。 このように見てくると、A庶務課長及びW集配課長が、本件五月一〇日職場集会の現場である集配課休憩室に赴き、この集会は許可していないから解散するようにと命じたことは、何ら被控訴人新宿支部の組合集会を不当に妨害したこととはなり得ない。そもそも右職場集会は正当な組合活動に当たらないものというべきであり、特に、携帯マイクによるH次長の解散通告があつた時には、集会を中断して右両課長を取り囲んで集団抗議をしていたのであるから、右解散通告が組合集会を不当に妨害したことにならないことはいうまでもない。したがつて、五月一〇日職場集会に対する解散通告は、不当労働行為を構成するものではない。

  六月七日・一一日の被控訴人新宿支部の各職場集会に対する監視について 昭和四〇年六月七日午後五時ごろから、四階年賀区分室付近において、被控訴人組合員約八〇名が職場集会を開いたが、この集会は、年賀区分室利用について郵便局管理者の許可を得ていなかつたので、午後五時一五分ごろ同集会場にA庶務課長及びY労務担当主事らが赴き解散するよう通告したけれども、この集会は午後五時四五分ごろまで続行されたこと、その際、A庶務課長らは、組合員が解散するか、勤務時間中の者がいないかを見極めるため同集会場にとどまつたこと、次いで、同月一一日正午ごろから、四階年賀区分室付近において、被控訴人組合員約一二〇名が組合掲示物撤去に対する抗議集会を開いたが、この集会は、年賀区分室利用について郵便局管理者の許可を得ていなかつたので、午後〇時二〇分ごろ同集会場にA庶務課長らが赴き解散するよう通告したけれども、この集会は午後〇時五五分ごろまで続行されたこと、その際、A庶務課長らは、組合員が解散するか、勤務時間中の者がいないかを見極めるため同集会場にとどまつたこと、以上の各事実は、当事者間に争いがない。 ‥‥
右各集会は、いずれも庁舎使用許可願の提出がなかつたものであり、また、右各集会現場においてA庶務課長とともに組合員が解散するかどうか等を見極めていたY労務担当主事は、集会の模様(開始・終了の時刻、解散命令を発したか・これに応じたか等)のメモを取つていたこと。

2 右各集会が開かれた四階年賀区分室付近という所は、会議室と呼ばれており、年賀郵便を区分するために年末年始にかけて使われるのが本来の目的であり、その時期を除いては、職員が平常執務する場所ではなく、いわば予備室的なものであること。等の事実を認めることができる。 被控訴人は、右のごとき年賀区分室付近は、組合集会のため使用するにつき許可願を提出する必要がないと主張するけれども、右六において休憩室の使用につき詳細に説示したところと同じ理由により、右主張は採用することができない。もつとも、年賀区分室付近は、右認定2のように年末年始以外は平常使われていないという点において、休憩室の場合といささか異なるところがあるけれども、これを組合集会のために使用することは、年賀区分室設置の本来の趣旨目的とは遠く隔るものであり、使用の態様も本来のそれと大いに異なるのであるから、結局においては、休憩室の場合と同様に、平常は使われていない年賀区分室付近といえども、許可願を提出して承認を受けた上でなければ、組合集会のためにこれを使用することはできないものというべきである。 そうすると、右のように許可願を提出しないで開いた四階年賀区分室付近における右各集会は、正当な組合活動に当たるものではなく、したがつて、A庶務課長らが各集会現場に赴き解散するよう通告するとともに、現場にとどまつて組合員が解散するかどうか等を見極めていたことは、組合集会を不当に妨害し監視したこととはなり得ない。また、右六において指摘したように、右解散通告の指示命令に従わないことは、懲戒事由にも該当するのであるから、これを現認したA庶務課長らは上司に報告する義務があり、したがつて、Y労務担当主事がその模様(開始・終了の時刻、解散命令を発したか・これに応じたか等)をメモに録取することは、正当な職務の遂行であり、何ら組合集会に対する不当な妨害・監視となるものでもない。 右のとおりであるから、本件六月七日・一一日の各職場集会におけるA庶務課長らの行為は、不当労働行為を構成するものではない

上告審 全逓新宿郵便局事件 最高裁第三小法廷昭和58年12月20日『労働判例』421号
   
 判旨-不当労働行為に該当しない

「 ‥‥労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権利を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動に当たらず、使用者においてその中止、原状回復等必要な指示、命令を発することができると解すべきことは、当裁判所の判例とするところであり(最高裁五四年一〇月三〇日第三小法廷判決・民集三三巻六号六四七頁)、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原審の適法に確定した事実関係の下においては昭和四〇年五月一〇日新宿郵便局集配課休憩室において、同年六月七日及び一一日同局四階年賀区分室付近において、それぞれ無許可で開かれた上告人組合新宿支部の職場集会に対し、同局次長らの行った解散命令等が、不当労働行為を構成しないとした原審の判断は、正当として是認することができる。」(以下略)

http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/rn/51/rn1981-544.html
(論評)
石橋洋「無許可職場集会の正当性 : 全逓新宿郵便局事件・最高裁第三小法廷判決(昭五八・一二・二〇)」『労働法律旬報』1087・88号 1984.1.25〔※ネット公開〕http://hdl.handle.net/2298/14070
9923 秋山泰雄「使用者の言論と不当労働行為-新宿郵便局事件・最高裁第三小法廷判決(昭五八・一二・二〇)」『労働法律旬報』1087・88号 1984.1.25
藤内和公「新宿郵便局事件(最判昭和58.12.20)」『日本労働法学会誌』 64 1984 

カード 休憩時間・アカハタ号外配布 日本ナショナル金銭登録機懲戒解雇事件東京地裁判決

9677日本ナショナル金銭登録機懲戒解雇事件 東京地裁昭和42・10・25判決『労働関係民事裁判例集』18巻5号1051頁 『判例時報』506号56頁、『判例タイムズ』213号147頁
 休憩時間中のアカハタ号外配布を理由とする全国金属労組日本ナショナル金銭登録機支部中央執行委員兼蒲田支部委員長に対する懲戒解雇が不当労働行為に当たらないとした事例であるが、控訴審で取り消された。なお類似した事案では明治乳業福岡工場事件 最高裁第三小法廷昭和58・11・1『労働判例』417号が休憩時間に食堂において『赤旗』号外等の配付について、工場内の秩序を乱すことのない特別の事情が認められる場合として就業規則違反とみなすことができないという判断を下しているが、この判決は、休憩時間における政治活動禁止の根拠を比較的長文で説示している点で関心を持つ。

 「‥‥本件のように特定政党の党勢拡張を計り、あるいは公職選挙に特定政党の候補者に投票させる目的のもとに宣伝を行う文書を配付する如き政治活動は、たとえ「労働組合の行為」として行われても‥‥「労働組合の正当な行為」に該るとは認めることができない‥‥‥‥労働基準法第三四条第三項が休憩時間を自由に利用させることを使用者に命じているのは、労働者に義務を課するなどしてその休憩を妨げることを禁じたものであって、労働者が休憩時間中いかなる行為をも自由にできることを保障したものではない。従って、労働者は休憩時間中法の禁ずる行為をすることができないのは勿論、使用者がその事業場の施設及び運営について有する管理権にもとづいて行なう合理的な禁止には従わなければならない。換言すれば使用者が、事業場内における労働者のある種の行動を休憩時間中も含めて一般的に禁止しても、それが労働者を完全に仕事から切り離して休息させ、労働による疲労の回復と労働の負担軽減をはかろうとする休憩制度本来の目的を害せず、また事業場管理権の濫用にわたらない合理的な制限である限り無効ということはできない。これを本件についてみると事業場内において過すことを通例とする多数労働者の休憩時間が一部労働者の政治活動によって妨げられることがあっては休憩制度本来の趣旨はかえって没却されることとなり、ひいては事業場内における生産能率の低下をまねくおそれもないではないから、使用者が事業場内における労働者の政治活動を休憩時間中にそれを含めて一般的に禁止しても事業場管理権の濫用ではなく、もとより休憩制度本来の趣旨をなんら害するものではない。従って、事業場内における労働者の政治活動禁止を規定した就業規則の前記条項は物理的管理権の侵害を伴うと否とに拘らず、休憩時間中の政治活動一般に適用があるべきものであって、これと相容れない見解に立脚する申請人の主張はこれを採用し難い。」

論評

正田 彬「休憩時間中の政治活動日本ナショナル金銭登録機事件東京地裁昭42・10・25判決」『季刊労働法』68号
沼田稲次郎「休憩時間中の政治活動--日本ナショナル金銭登録機事件判決(東京地裁42.10.25)を中心に(講演)」『労働法学研究会報 』749 1968

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