労働基準法の刑事罰規定は撤廃すべきだ
労働基準法の刑事罰規定は以前から日経連が撤廃を要請していることだと思いますが、例えば年収700万とか結構給料を払っていて、本来なら時間外手当適用除外でもよさそうなのに、時間外手当を払っていないのが不払い労働だとしか、サービス残業だとかいって杓子定規に会社側が攻撃されるのは非常に不合理・正義に反するあり方であり、こういうあり方はもうやめようということでなければならないと思います。
私は36協定みたいな労使協定による時間規制それ自体根本的に見直すべきで、ニュージーランドの国民党政権による1991年雇用契約法(Employment Contracts Act)のように個人は企業と直接雇用条件を定め、労働協約や集団的労働関係に拘束されない個人の雇用契約(代理人を自由に選べる)が可能なような(但しこの優れた立法は労働党政権とILOの批判により覆された)、真に自由な労働の在り方を希求するものであり、政府がパターナルセオリーによって時間規制する労働法制をなくす抜本的な改革が望ましいと考えるものであるが、少なくともアルバイト並みの時給ワーカーならともかく、中長期雇用が前提となってしかるべき給与をいただいている、あるいは年功序列の生活給が保障されているホワイトカラー、専門職は役職、ヒラいかんにかかわらず仕事の性格から時間外手当適用除外であるベキだし、そうして生産性と向上していかないと、レーバーコストで釣り合わないホワイトカラーの長期雇用は難しくなっていって、結局勤労者の身にはね返ってくる問題になるんじゃないかと考えます。
割増賃金を容認するとしてもマニュアルワーカーなど作業労働や低賃金低所得者に苛酷な長時間労働を強いることを抑制する立法趣旨に限定していく方向がよりましだと考えます。
ところが報道によると、厚生労働省は、ホワイトカラー・エグゼンプション導入にあたって、四週4日以上、年間週休2日相当(104日)の休日確保を企業に義務づけ、違反した場合、現行の法定労働時間違反の刑事罰規定より重く管理責任を強めるとしている(日経12月22日朝刊)。http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20061222AT3S2101Q21122006.html。
これではなんのための適用除外かわかりません。刑事罰規定は撤廃すべきなのに、形を変えて強化するのは矛盾してます。(なお関連して言いますが、自分は土曜が半ドンだった時代を知っています。週休2日は土曜の分を残業でカバーしなくてはいけないので困惑した。その週にかたずけるべき仕事が金曜までに終わらないときは労働協約による規制に遠慮することなく土曜も出てきたいと思っている人は少なくないはず。アメリカでは週休2日でも土曜は仕事がなくても会社に顔を出して挨拶するしきたりのある業界もあるようですが、土曜は休みでなく仕事のための予備日みたいな感覚で働ければずっと楽なんです。週休2日に拘る必要もないです)
また厚生労働省は時間外手当適用除外の「『対象労働者は管理監督者の一歩手前に位置する者』と言及。年収要件を、「管理監督者一般の平均的な年収水準を勘案しつつ、労働者の保護に欠けないよう、適切な水準を定める」とする方向で調整している。』(朝日) http://www.asahi.com/business/update/1220/082.htmlと報道されてますが、当初は400万ということだったのに対象労働者の範囲を狭くしています。日経では800万~900万で調整と報道http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt38/20061215NN003Y82915122006.htmlしてますが、バリバリ働いて成果を挙げたい一般社員は従来どおりの時間規制ではホワイトカラーの生産性を向上させて国際競争力に対応できるようにする改革とはならない。小幅なものにとどまった印象があります。大体、800万~900万以上に限定するんじゃ中小企業にメリットがないように思えますが。
一方で、一定時間を超えた残業の割増賃金の引き上げもやるということですが、これはフェミニストの勝手な理屈、男性が長時間労働のために家庭や育児の責任を分担していないという。女性の勝手な理屈で、少子化対策の口実で導入されるようですが、ばかげてます。余計なお世話です。時短政策をやめてほっとしていたのに。日本は労働時間で米国や英国よりも短くなり、勤勉な国とはいえなくなった。ドイツみたいに時短が進んでレーバーコストが高くなるのは国際競争力という観点でも良くないです。シーメンスがアイルランドに逃げたいとか言っているんでしょ。クラインさんの雑誌記事で読んだことがありますよ。今度はフェミニズム迎合で割増賃金引き上げで残業を抑制して男にも家庭責任を分担させろみたいな偏った政策をやろうとしている。
せっかく景気が回復して「上げ潮じゃー」とか言っているのに企業税減税に積極的な本間税調会長更迭に続いて、レーバーコストを増大させる政策なんかやったら企業はがっかりするんじゃないですか。
結局、厚生労働省の政策決定のやり方は、労使合意が前提で、経営側と労働側の主張を折半させるようなやり方だから、どちらにも全面的には加担しないで妥協に妥協を重ねるので、抜本的な改革にならないのである。イギリスの保守党政権のような徹底した反労働組合政策とか、先ほど述べたニュージーランド国民党政権の労働改革のような、理念を貫徹する政策ができないから、中途半端で妥協的なものしか出てこない。自由主義的な政策のためにネオ・コーポラティズム的手法をとること自体矛盾である。せっかくホワイトカラー・エグゼンブションを導入しても、歪な形で小幅のものにとどまり、一方で割増賃金引き上げみたいなレーバーコストを増大させる政策では、効果が相殺されてしまうように思える。
川西正彦
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