ILO87号条約批准問題をめぐる政策決定過程の問題点(1)
(公務員労働基本権付与に反対シリーズその1)
要旨
1-ILO87号条約は98号条約のような公務員の適用除外規定はないが、この点につきILO事務局は日本政府労働省国際労働課長の求めた確認に対し、公務員は考えなくて差しつかえないとしていたにもかかわらず、ILO総会で倉石忠雄労相が条約批准に前向きな発言を行うと、掌を返して、公務員も当然適用されるものと言い出した。日本政府をだましたのである。外交上非礼であり許せない。
2-昭和38年6月25日衆議院国際労働条約87号条約等特別委員会の大橋武夫労相の答弁に代わった堀秀夫政府委員(労政局長)は、明確にILO87号条約は争議権を取り扱うものではないと答弁しており、条約批准にともなって、政府には公務員に基本権を付与するとかそういう考えは当初から全くなかった。それが条約批准の趣旨でもないことはいうまでもない。
川西正彦
はじめに
現在、行政改革推進本部専門調査会で検討されている公務員の労働基本権付与について私は全面的に反対ですが、この問題が持ち上がっているひとつの理由は、ILO(結社の自由委員会)における公務員制度案件により、労働組合側から政府に圧力がかかっていることにあります。その経緯の概略は、12月の会議の資料のhttp://www.gyoukaku.go.jp/senmon/dai5/siryou2.pdfの5頁以下にありますが、平成13年12月25日の「公務員制度改革大綱」の閣議決定が労働基本権の制約を維持したまま、能力・実績主義の新たな人事制度を導入する方針としたことから、平成14年の2月と3月に連合、全労連がILO(結社の自由委員会)に提訴し、同年11月と15年6月と18年3月に6月ILO理事会にて結社の自由委員会報告書を採択され、14年11月のものでは、「公務員の労働基本権に対する現行の制約を維持するとの考えを再考すべき」「法令を改正し、結社の自由の原則と調和させる見地から、全ての関係者と率直かつ有意義な協議を速やかに行うこと」「これらの協議は、日本の法令及び又は慣行が第87号条約及び98号条約の規程に反している、国の行政に直接従事しない公務員への団体交渉権及びストライキ権の付与など6事項の論点について特に扱うべきである」、15年6月のものは「協議は、公務員への団体交渉権及び団体協約権の締結の保障、ストライキ権の付与など5事項の論点について特に扱うべきである」としていることである。
要するに組合がILOに申し立てを行い、外圧を利用して政策変更を迫る1950~60年代に頻繁になされていた闘争手段である。私はILOを利用した闘争、及びILOそのものにも不快感をもっているが、政府はこうしたいちゃもんに対して適切な対処ができず、ずるずると労働基本権付与について検討するところまで譲歩してしまったことは甚だ遺憾であるが、過ぎてしまったことはしかたがないから、こうした外圧に屈しないよう反論を具体的に述べて生きたい。そこで、ひとつの題材としてILO87号条約批准の政策決定過程の問題点をとりあげたい。
1 昭和30年代のILO87号条約批准問題の概略
(1)拙劣な政策決定--ILO総会倉石忠雄労相のフライング発言の背景---ILOにだまされた日本政府当局---
ILO87号条約(結社の自由・団結権の擁護に関する条約-1948ILO総会採択)にともなう関連法改正は5度審議未了で廃案になり、7~8年ほどの複雑な政治過程を経てドライヤー委員会の現地調査と、ジュネーブにおける証人喚問というすったもんだのあげく、昭和40年通常国会で改正案中の問題点は棚上げ、公務員制度審議会の審議に委ねるなどとした船田中衆院議長斡旋案を受け入れることでようやく成立したというものであった。
87号条約というのは労使おのおのによる団体設立・加入の自由、労使の各団体の代表者選任の自由、これらの団体の行政権限による解散からの自由を定めたものであるが、条約批准の経緯の発端は昭和32年の春闘に際して国鉄関係労組の役員の解雇処分と団交拒否問題が起こり、33年に機関車労組(後の動労)と全逓が総評と連名でILOに対し、非解雇役員を抱えていることを理由に当局が交渉に応じないことについて申し立てを行ったことである。これは179号事件として一括処理された。
当時、公労法17条の争議禁止規定に違反して、18条により組合幹部が次々と解雇されていたが、公労法4条3項により職員でなければ組合員にも組合役員にもなれないことになっていた。組合委員長がクビになると法律上委員長なしの組合になり、その委員長名の組合文書は無効だということで、当局は受理を拒む、いきおい入口で形式上の感情的な争いとなり、肝心の問題は少しも解決しないという問題があったのである(註1)。発端は公労法4条3項の問題だけだった。
昭和31年当時、労働省労政課長だった中西實(後に事務次官・公労委会長)昭和31年の公労法改正で4条3項を削除したかったが、それができなかったのは自民党の政調会では「四条三項を削除したら無責任な組合役員が外から入って来ては大変だ。」という声が強かったためであり、それを悔やんでいた。しかし87号条約を批准すると否応なしに、4条3項を削除せざるをえなくなるため、事務次官になってから条約批准を労政局に検討させたと述べている(註1)。要するに中西實はプロレーバーとみられるが、自民党の反対派議員を抑えて国内法を改正する外圧として利用するために批准するというのが労働省当局の動機だった。ただそれだけなのである。それが発端だったのにこれだけ大きな問題になったのは次のような拙劣な政策決定があったことにもよる。
中西實によると既に批准ずみだった98号条約(団結権及び団体交渉権の適用に関する条約)が公務員の適用除外規定があるので国内法にふれないのに対し、87号条約は公務員の適用除外規定がないので政府当局批准を見送っていたと述べている。しかし中西實は事務次官となり、ILO理事会から帰ってきた飼手眞吾審議官(後のILO東京支局長)より「ILOでは結社の自由を極めて重視しており、特に結社の自由委員会を設けているほどで、ILO八七号条約の批准国が増えるのを期待している」という報告をうけた。そこで宮本一朗国際労働課長を二度ILO事務局に派遣して87号条約と公務員の関係で確認をとったところ、条約批准国のなかには公務員を除いている国もあるから一般公務員については考えなくても差しつかえないということだったので、「この条約を批准するのですか」とためらっていた倉石忠雄労相を中西實事務次官が説得して了承してもらったということである(註1)。
その後、ILO総会で倉石労相は「日本は87号条約の批准につき考慮中」という前向きな発言を行うと、ILO事務局は掌を返すようにして一般公務員にも当然適用されるべきものと言い出したのである。中西はこう言ってます「ところが、ILO事務局はその後になって八七号条約は公務員にも当然適用されるべきものだと言い出した。こちらの確かめ方も悪かったのかも知れないがILO事務局なんていい加減なものだ」(註1)。いい加減なもんだじゃすまされない重大な問題だと思います。いわば政府当局はILO事務局に騙されたことになる。騙すほうも悪いが騙される労働省当局の政策決定も拙劣なものだというほかない。そんなことで労働省だけで処理できる問題ではなくなった。果たして、人事院はじめ各省から反対の火の手があがった。そのため87号条約批准問題で延々遅くまで議論するという異例の長時間事務次官会議となったというが、結果的に倉石労相のILO総会の発言はフライング発言になった。これは労働省だけで独断専行できる案件ではなく、実質的に事務次官会議で承認されていない案件だった。倉石労相は国内法改正は小幅ですみ、一般公務員の法改正まで影響は及ばないと事務次官から説明されていたから了承したのであって、国家公務員法や地方公務員法にまで影響が及ぶとは考えていなかったはずだからである。
以上のような経緯があり、政府は労働大臣の諮問機関である労働問題懇談会に批准の可否を諮問し、87号条約は批准すべきである。公労法4条3項、地公労法5条3項は削除すべきである。労使関係法全般についても再検討するとの答申を昭和34年2月に得たので、35年4月岸内閣は、同条約の批准の国内法整備の関係国内法改正案を提出したが、この最初の法案は問題の発端となった公労法、地公労法の改正だけでなく、国家公務員法、地方公務員法、鉄道営業法の改正が含まれていた。この最初の法案には「職員は違法な組合指令に従うことを禁止されること」「国鉄の服務違反の罰則は、強化すること」といった公共部門の組合活動に制限を科す内容が含まれており、野党側が87号条約批准に便乗した改悪であるとして強く反対し一度も審議されず、廃案となり、安保闘争のあおりで岸首相は辞職した。
問題の発端からこのへんの経緯は、具体的に国会の議事録を引用したほうがわかりやすいかもしれません。自民党の森山欽司委員が鋭い質問をしているので引用したいと思います。森山欽司氏は「リベラル色の濃い三木派の中では珍しくタカ派。1950年代から、教育正常化運動の先頭に立ち、日教組と激しく対立した。地元の栃木県における日教組の組織率は、全国で最低水準となった。1960年の、郵政政務次官時代には、違法ストに対し厳正な処分で応じ、郵政当局の労務政策を転換させた。‥‥1979年には全逓の生産性向上運動反対闘争(いわゆる“反マル生闘争”)に対し、自民党労働問題調査会会長として、解雇を含む組合員の大量処分に主導的な役割を果たした。同年、運輸大臣として、所管の日本船舶振興会の笹川良一会長や全日空の安西正道社長に引退を勧告し、実力次官といわれた住田正二を在任1年で更迭、カラ出張による不正経理が発覚した鉄建公団の川島廣守総裁ら5理事を更迭するなど首切り欽司の異名をとった」とウィキペディアにあるようにかなり厳しい政治家だったようだ。地味だが実績のある政治家で、今日こういうタイプの政治家が少なくなっているように思います。
(2)参考資料-昭和38年6月25日国際労働条約八七号条約等特別委員会議事録抜粋
要旨 昭和38年6月25日国際労働条約八七号条約等特別委員会の森山欽司委員の質問に対し堀秀夫政府委員(労政局長)は、明確にILO87号条約は争議権を取り扱うものではないと答弁しており、条約批准にともなって、公務員に基本権を付与するとかそういう考えははじめからなかった。それは条約批准の趣旨であるはずがない。(参考資料の赤字部分です)
043回国会 国際労働条約第87号等特別委員会 第3号
昭和三十八年六月二十五日(火曜日)
午後二時十四分開議
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/043/0002/04306250002003c.html
質問者 自民党森山欽司委員
答弁者 大橋武夫労働大臣
答弁している政府委員
労働事務官(労政局長)堀秀夫
公安調査庁長官 齋藤三郎
○小笠委員長代理 これより会議を開きます。
委員長が本日所用のため出席できませんので、委員長の指名によりまして、私がかわって委員長の職務を行なうこととなりましたから、よろしくお願いいたします。
結社の自由及び団結権の保護に関する条約(第八十七号)の締結について承認を求めるの件、公共企業体等労働関係法の一部を改正する法律案、地方公営企業労働関係法の一部を改正する法律案、国家公務員法の一部を改正する法律案及び地方公務員法の一部を改正する法律案の各案件を一括議題とし、質疑に入ります。
質疑の申し出がありますので、これを許します。森山欽司君。
○森山委員 ILO八十七号条約及び関係国内法案が国会に提出されましたのは、昭和三十五年四月二十八日の第三十四回通常国会でございました。今日は昭和三十八年六月二十五日、法案が提出されましてからまさに満三年余を経過して、国会は四十三国会になっておりまして、十国会目で与野党の質疑に入り、審査がようやく軌道に乗るようになったわけでございます。この法案が提出されるまでの経過を加えてみますと、おそらく六年越しの懸案であろうかと思っておるわけでございますが、問題が起こりましてから、さらにまた法案が提出されましてから、相当長時日を経過しておりますので、この法案の内容の理解ということについて、私ども必ずしも十分でない情勢にあろうかと思います。
そこで私は、まずこういうILO八十七号条約及び関係国内法案が提出されるに至りました問題の発端、事の起こりは何であったか。この条約の批准自体は、わが国における結社の自由が憲法その他の法律によって保障されておるのでありますけれども、さらに国際労働条約の水準まで高めるというふうに理解はいたしておりますものの、しかし、そういう筋だけではなくして、事の起こり、問題の発端ということについて、政府側の説明を伺いたいと思います。
○大橋国務大臣 私の就任前の古いこともございますので、答弁の正確を期する意味で政府委員からお答えさせていただきます。
○堀政府委員 ILO八十七号条約の問題が取り上げられましたのは、御承知のように、この条約は昭和二十三年のILO総会において採択されたものでございます。そこで、国内的にその経緯を申し上げますと、昭和三十二年、四十回のILO総会におきまして、日本の国内の諸組合からの提訴等がありまして、その問題がILO総会において取り上げられたのでありますが、政府におきましても、問題の重要性にかんがみまして、同年九月、ILO八十七号条約の批准の可否につきまして、労働問題懇談会を労働省に設置いたしまして、これに諮問したのであります。
この懇談会は、昭和三十四年二月十八日、政府に対しまして次のような答申を行ないました。それは、
ILO八十七号条約は批准すべきものである。右条約を批准するためには、公労法四条三項、地公労法五条三項等を廃止しなければならない。この廃止にあたっては、関係諸法規等についての必要な措置を考慮する。要は、労使関係を安定し、業務の正常な運営を確保することにあるので、関係労使が国内法規を順守し、よき労働慣行の確立につとめることが必要である。
以上のような要点を内容といたしますところの答申を政府に対して行なったのであります。政府はこれを受けまして、昭和三十四年二月二十日の閣議におきまして、
八十七号条約を批准するとともに、これに伴いまするところの公労法四条三項、地公労法五条三項の廃止にあたりましては、業務の正常な運営を確保するために関係諸法規について所要の改正を行なう、これらの措置を講じた後、条約批准の手続をとるものとする。
まだそのほか細目はございまするが、以上のようなことを骨子といたしまする閣議決定をいたしました。それに基づきまして法案の提出に至ったわけでございます。
大体、国内的にILOの批准問題が脚光を浴びるに至りましたのは以上のような経緯でございまして、その後、ただいま先生お話しのように、国会に関係法案を提出いたしましたが、そのつど審議未了になるというようなことで今日に至っておるわけでございます。
○森山委員 私がお伺いしているのは、法案作成に至るまでのそういう立法的な準備段階の話を伺っているのではなくして、先ほどお話がありましたように、昭和三十二年にILOに組合のほうから提訴された。一体どういうことを提訴したのだということであります。そして、自来今日まで、ILOにおいてこの条約を批准した国は六十一カ国あるというふうに聞いておりますが、その中で特に日本の問題が大きく取り上げられてきた。また、国内的にも、この問題が早急な解決を望まれながら、難渋をしておった大きな問題であった。そのことは一体何であるかということを、もう少し明確にしていただきたいと思います。
○堀政府委員 先ほど私がちょっと簡単に申し上げたのでございますが、国内の労働組合におきましてILOに対して申し立てをいたしましたのは、当時の機関も労組及び全逓でございます。機関車労組は、昭和三十二年の春の賃金引き上げをめぐる紛争に際しまして、公労法に違反して争議行為を行なったので、国鉄当局は、その責任者として組合の役員を解雇したのでありますが、これらの組合は、この被解雇者を事実上の役員としてとどめたのであります。国鉄当局は、これに対しまして、公労法四条三項の規定に抵触するものとして、機関車労働組合及び同じような事態のありました国鉄労働組合との団体交渉に応じないこととしたのでありますが、機関車労組は、昭和三十三年の四月、ILOに対しまして、公労法四条三項は労働組合権を侵害するものである、こういう申し立てを行なったのであります。
次に、郵政関係につきましては、昭和三十三年春の賃上げの紛争に際しまして、同じく公労法違反の争議行為を行なった全逓労組の役員を解雇したのでありますが、全逓労組がこれらの被解雇者を事実上役員としてとどめたので、郵政当局は、やはり団体交渉に応じなかったのであります。これに対して、全逓労組もまたILOに対して申し立てを行なった、こういうことになっておるのであります。
その後、同じくこれらの問題につきまして、現在までILO結社の自由委員会において審議されておりますこの日本に関する事件、これは百七十九号事件と一括して呼ばれておるのでありますが、国内の組合としては総評、機労、全逓、日教組、国公共闘、国労、自治労、それから国際組合といたしましては、国際自由労連、国際運輸労連、国際郵便電信電話労連、国際公務員連合、国際自由教員連合、こういうような各組合から申し立てが行なわれておるのであります。
これらの申し立てを大別いたしますると、一つは当局側の労働組合権侵害の具体的な事実を訴えておるわけでございます。それから第二には、先ほど申し上げましたように、公労法四条三項に違反しておるというような問題、その他法律上の問題につきまして、法律制度が八十七号に違反しておるというような点につきましての申し立てがなされておるわけでございます。
以上が、大体今日までILOにおいて八十七号関係をめぐりましていろいろな審議が行なわれておる発端になった問題でございます。
○森山委員 ですから、初めから、この事の起こりは、昭和三十二年の春に国鉄や郵便などの公共企業体の組合が違法な争議行為を行なったことだ、そういうことから問題が起きたのだということをはっきりお話ししていただければけっこうだったんです。
昭和三十二年のいわゆる春闘におきましては、各企業で、法の禁止に違反して争議行為が行なわれた。国鉄は一番激しかったのでありまして、勤務時間内の職場大会や、順法闘争などと称する争議行為が繰り返して行なわれました。その結果、汽車や電車は運休となったり、おくれたりしたものが全国で何千本も出ました。通勤者や旅行者が大きな迷惑をこうむったことはもちろん、生産者が出荷ができなかったり、送った荷物が途中で滞ったり、生鮮食料品で腐るものが出る。国民大衆の受けた有形無形の損害はばく大なものであった。こういう状態に対して、国鉄当局が、当然の措置として、違法行為の責任者である国鉄労組及び機関車労組の三役等二十三名を公労法十八条の規定に基づいて解雇した、そういうことが問題の起こりであったのだということを、この審議を始める前に明確にしておく必要があろうと私は思うのであります。
また、全逓の場合におきましても、昭和三十三年の春闘におきまして、郵便事業の職員の組合である全逓労組が、公労法の禁止に違反して違法な争議行為を行なった。その結果、三役を含む七名を解雇したのをはじめ、多数の者が処分を受けた。このときの全逓労組の争議行為は、みずから公労委に調停を申請しておきながら、調停案を自分たちの組合に有利にするために公労委に圧力をかけると称して行なわれた言語道断なものであった。この争議の結果、何十万という郵便や小包が最高十日から一週間もおくれ、国民が非常な迷惑をこうむった。特に就職や入学試験の通知が届かなかったためにせっかくの就職の機会を失ったり、入学ができなかったというような事態が生じたことは、人道問題とさえいえるのであります。こういう違法なる行為に対して、郵政当局が三役の解雇その他の処分を行なったことは、当然過ぎるほど当然の事態である。にもかかわらず、それらの解雇されましたところの組合幹部が、従来の組合の役職に居直る。それは公労法に違反する。その結果、団交拒否というようなことになり、裁判にも出したが、裁判に本、負けてしまった。なかなか話がつかない。中途に公労委のほうからあっせん案が出てまいりました。そのあっせん案によって当面の収拾はしたが、機関車労組あるいは全逓等は、ついにこれを国際舞台に持ち出した。自分たちの違法な争議行為を海外に持ち出して、海外の援助を請うてみずからの立場を合法化しようとしたのがこのILO八十七号条約の問題の発端ではなかったかと私は思うのです。これに対する労働大臣の一所見を伺いたい。
○大橋国務大臣 どういうふうに考えるべきか、私といたしましては、このILO条約は日本がILOに加盟をいたしておりまする以上は、ILOの基本的な原則を示しておる条約でございまするので、これに加盟をするように日本としては取り運んでまいりますということは、これは加盟当時から当然のことではなかろうかと思うのでございます。むろんこのILOの加盟問題が、国内問題としていろいろな経緯をとってまいっておりますその間におきましては、御指摘のように、国内労働組合の法規違反の事柄がILOに提訴され、これらがいろいろILO問題について国内に反映をいたしておるということも十分に認めることができるのでございますが、ともかくILO条約の批准ということの根本は、日本がILOに加盟をいたした当時からの基本的な問題でありますし、またこれに加盟するということが、日本の国内の労使間の将来のために好影響をもたらすものと確信をいたす次第でございます。
○森山委員 労働大臣が言われようとすることは、問題の発端は違法な争議行為であった、それについてその違法な状態を打開する道がない、その窮地を打開するために組合は海外に援助を求めた、それがILO八十七号条約の問題の発端であったということはお認めになるが、しかし、今回ILO八十七号条約を批准しようとするのは、そういう違法な行為を是認するというような考え方は毛頭なく、ILO八十七号の本来の趣旨に沿って結社の自由というものを――これはわが国においては憲法でも、あるいは関係法律においても十分保障されておるが、さらに国際労働条約の線にまでその水準を高めようというのが今回の御提案の趣旨である、こういうふうに理解をしてよろしゅうございますか。
○大橋国務大臣 まさに私のお答え申し上げたいと思いましたことを、私以上に明快にお話しがございました次第でございます。
○森山委員 ということでございますならば、この八十七号条約及び関係法案の御提案の趣旨は了解するにやぶさかではないのでございます。そしてまた、これらの問題については、昨日も提案理由の説明におきまして関係者大臣からお話しがございました。
ただ、この八十七号条約の批准と関係法律案の提出につきまして、世上、特に急進政党の方々並びにわが国言論界及び文化人の一部から、これをもって便乗改正であるというような意見を述べる者があるのでございます。これについて労働大臣はどういう御見解を持っておられるか。便乗と考えておるのであるか、あるいは、便乗ではない、こうやることが当然のことであるとお考えになっておるのか。この辺の事情について御説明を願いたい。
○大橋国務大臣 ILO条約批准に伴います関係法案は、自由にして民主的な労働組合の発展を期するという労働政策の基本的立場に基づくものでございまして、特にILO条約の趣旨に抵触する国内法の規定を改めますほか、ILO条約の趣旨、精神であります労使団体の自主運営、相互不介入の原則をより一そうよく実現するための改正をいたしますとともに、公務員、公共企業体の業務の正常な運営を確保するための改正を行なうものなのでございます。したがいまして、これらの国内法の改正は、ILO条約八十七号を批准するに当然必要な最小限度のものでございまして、便乗的なものは毛頭も含んではおりません。現にこのことは、この問題につきまして特に政府が諮問をいたしました労働問題懇談会の答申におきましても、公労法、地公労法の改正のほかにこれらの改正が必要であることを示唆いたしているような次第でございます。
○森山委員 自由にして民主的な労働組合運動の運営を期待するということで国内法規の改正をお考えになったということは、ILO八十七号条約の精神と申しますか、労使団体の自主運営と相互不介入の原則、そういうものを実現するという趣旨でお考えになった。その辺のところはどういうふうになっておりましょうか。
○大橋国務大臣 御質問の趣旨をいま一度お述べいただきたいと存じます。
○森山委員 自由にして民主的な労働運動が伸びていくように国内法規の改正をされたというふうに私はお話を承った。自由にして民主的な労働組合運動、そういうこととILO八十七号条約の精神と申しますか、労使団体の自主運営、相互不介入の原則、そういうものをどういうふうに組み合わしてお考えになっているか、承りたい。
○大橋国務大臣 今回の国内法の改正は、八十七号条約を批准するに際しまして、同条約に抵触する規定を改めますとともに、公務員、公共企業体の業務の正常な運営を確保するための整備を行なう。このほか同条約の趣旨、精神をより一そう実現するために改正をするという考えで立案をいたしたものでございます。しかしながら、ILO条約の趣旨とする労使団体の自主運営、相互不介入の原則が、わが国の労使関係に十分取り入れられているかどうかはなお問題のあるところでございまして、この点検討を要しますことは、同条約の批准に関して行なわれました労働問題懇談会の答申にも指摘せられてあるところでありますので、これらの原則がわが国の労使関係に十分取り入れられますよう、今後とも検討を続けてまいりたいと存じます。
○森山委員 そうすると、関連国内法規は、わが国の労働組合運動の正常な発展とILO八十七号条約の精神である労使団体の自主運営、相互不介入の原則を実現するという二つの目的をもちまして国内法の改正をはかられた、こういうふうに理解をしてよろしいわけでございますね。
○大橋国務大臣 さようでございます。
○森山委員 そして、この労使団体の自主運営、相互不介入の原則を実現するために関係国内法を検討されるというお話がございましたが、今回の改正でこれらの原則は十分わが国の運動に取り入れられることになるのかどうかということになりますと、先ほど大臣のお話だと、まだ十分じゃない、だから一そう検討を進めたいということですが、この線に沿って将来国内関係法を改正するというお考えをお持ちでございますか。
○大橋国務大臣 さしあたり法規の改正につきまして今後のスケジュールとして具体的なものを持ち合わしている次第ではございません。しかしながら、わが国の労働運動の今日までの実情を考えまして、今回の法令の改廃だけによって申し分のない状況に直ちになるというようなことを考えることはいかがかと存じまして、この上とも日本の労働運動の健全な発展のために努力をいたすべきものではないか、かように存じておるところでございます。
○森山委員 公共企業体の職員ばかりでなく、公務員が争議行為を行なうことは、国家公務員法、地方公務員法、公共企業体労働関係法等でそれぞれ明文の規定をもって禁止されておる。にもかかわらず、これらのものを組織する職員団体ないし労働組合が実力行使等と称して争議行為を行なう事例が今日なおあとを断たないというわけでありますが、これに対する政府の所見及び対策を伺いたいと思います。
○大橋国務大臣 お尋ねのございましたように、公務員や公共企業体の職員が、国家公務員法、地方公務員法あるいは公労法と、明文の規定のありますにもかかわりませず、これに反する実力行使と称する行動、あるいは正面切ってストライキをかまえて争議行為に出るという事例は、遺憾ながらなお一部に見られるところでございます。政府といたしましては、公共企業体等の紛争にあたりましては、自主解決が不可能な場合には、すみやかに公労委の調停、仲裁等の手続を踏みますよう労使当事者におすすめをいたし、公労委の仲裁裁定が出ました場合には、これを完全実施するという方針で一貫して臨んでおることは御承知のとおりであります。また、国家公務員について人事院勧告に関しましても、極力これを尊重し、地方公務員についても人事委員会の勧告が尊重されるよう施策いたしてまいったところでありまして、今後ともこの方針で施策を進め、これらの職員の勤務条件を向上させるように努力をいたしたいと存じます。しかし、それにもかかわらずなお違法行為に出るような職員に対しましては、理事者側において法規に照らし、適正な処分をもって臨むべきは当然であろうと存じます。
○森山委員 政府の、争議行為が禁止されておるにもかかわらずなお実力行使と称して争議行為を行なう場合についてのお考えはわかりましたが、その争議行為の禁止については、一部に、完全な代償措置が必要とされているにかかわらず、わが国の場合は公務員、公共企業体職員の争議行為の禁止には完全にして十分な代償保障措置がないから、これらの争議行為の禁止はILO八十七号条約に違反するという説をなす者があります。この点について政府の見解を伺いたいと思います。この問題については、ILOの見解も出ておるようでございますから、この機会に争議行為の禁止とILO八十七号条約の関係を明確にしていただきたいと思います。
○大橋国務大臣 答弁を正確にいたしまするために、政府委員から申し上げます。
○堀政府委員 ILO八十七号条約は、その審議経過から見まして、直接争議権の問題に触れるものではないことは明らかでございます。これはILO八十七号条約の審議経過中に、条約案はもっぱら結社の自由を取り扱うものであって、争議権を取り扱うものではないということを数カ国政府が強調したが、この主張は正当のように思われる、こういっておるところでも明らかになっておると思います。また、日本に関する六十号事件の問題につきまして、――本委員会は、結社の自由及び団結権擁護に関する八十七号条約または団結権及び団体交渉権に関する九十八号条約が特別には取り扱っていない権利であるストライキ権一般のいかなる限度まで労働組合権を構成すべきであるかの点について見解を表明することは要請されていないと考える、こういっておるところでも明らかだと思います。
ただ、ただいまお話しのようなストライキが禁止されるような場合におきまして、これを労働者の利益を十分に保護するための適当な保障措置が必要であるという、そういう原則の問題につきましては、ILOにおきましてもときどき出されております報告の中にもそのような趣旨を述べておるのであります。たとえば五十九年報告におきましては、――若干の労働者がストライキを禁止されるすべての場合においては、これらの労働者の利益を十分に保護するための適当な保障をこれらの労働者に対して与えることが必要である、と述べておるのであります。ただし公務員につきましては、公務員の雇用条件は法令によってきめられて、確保されておるのでありますから、公権力の機関として行動するこれらの公務員につきましてはストライキに参加することができないのが通例である、このように同じく五十九年の報告でいっているのであります。
そこで、ただいま大臣から申し上げましたように、公労法関係の組合につきましては争議権は禁止されておりますが、かわりにいわゆる強制仲裁制度があることは御承知のとおりでありますし、また仲裁等はそのまま最近は完全実施される原則が確立されておるわけであります。公務員につきましては、ILOの述べております幾多の文書からも、直接法令で勤務条件が保障されておるという見地から、これとはまた別個の観点で見るべきであるわけであります。しかもその上に、ただいまお話しのありました人事院勧告、あるいは人事委員会の勧告というような制度もありますから、わが国の法制は、ILO八十七号あるいは九十八号、あるいはその他の一般的の考え方から申しまして抵触はしておらない、このように考えております。
○森山委員 この争議行為の禁止について代償保障措置というのは、ILOはどういうことばを使って表現しておるのですか。
○堀政府委員 ILOの五十九年報告によりますと、――若干の労働者がストライキを禁止されるすべての場合において、これらの労働者の利益を十分に保護するための適当な保障をこれらの労働者に対して与えることが必要である、こういう文句であります。
○森山委員 そうすると、現在の少なくとも公共企業体については適当な保障がされておる、こういう政府の見解でございますね。
○堀政府委員 そのとおりでございます。
○森山委員 次に、在籍専従の問題を伺いたいと思います。
これは公共企業体にも公務員にも関係がございますが、今回のILO八十七号条約の関係法律といたしまして、公共企業体の場合も公務員の場合も、在籍専従制度を廃止することになっております。この理由を伺いたいと思います。
○堀政府委員 公務員は、本来全体の奉仕者として公務に専念すべき義務を有しておるのであります。また、公社職員も、公社の高度の公共性にかんがみまして、公務員に準ずるものとして職務に専念すべき義務を持っておるのでありますが、現行法のもとにおきましては職員でない者の労働組合の役員就任が認められておりませんために、もし在籍専従を許可しなければ労働組合にその業務に専従する役員を置くことができないこととなり、労働組合の運営が思うように行えないこともあり得るので、特に在籍専従制度が認められておるわけであります。
しかし、今回ILO八十七号条約を批准することに伴いまして、本改正法案におきましては役員の選出を自由にし、非職員であっても労働組合の役員に就任し得ることとしたのでありますから、本来職員はその職務とする公務に専念すべきものであるということにかんがみまして、この際在籍専従制度を廃止することにしたものであります。
○森山委員 従来の在籍専従の実態を見ますと、いまお話しになったような意味においても廃止する必要があろうとも思われますが、従来の在籍専従の中には、たとえばある教職員出身の在籍専従者のごとき、教員の生活は一年足らず、今日まで十数年間専従職員として仕事をやってまいっております。そして、もうすでにか、あるいはこれから間もなくかわかりませんが、恩給か共済年金の期限が来るというふうに聞いておるのです。どうしてそういうことになるのか。学校の先生として子供を教えることを一生懸命やっているならともかく、学校の先生として子供を教えることはわずか一年足らずの経験しかなくて、あとはあげて組合の仕事をやっておる。しかも、今日まで十数年たって恩給がつくとか共済年金がもらえるとか、そういう事例があるということを聞きまして、私は現行の専従制度というものは非常に不合理があると思うわけでございますが、そういう点についてどういうお考えを持っているか、伺いたいと思います。
○堀政府委員 お話しのように、現在の在籍専従制度にはいろいろ不合理な面があると思うのでございます。これは、現行の法律体系が先ほど申し上げましたようなことになっております結果認められたこの在籍専従制度に伴うところの不合理な面でありまして、今回これが廃止されることになりますれば、その不合理な面はなくなると考えておるわけであります。
○森山委員 なぜ不合理な面があるかということを伺いたいのです。
○堀政府委員 大体、本来職務に専念すべき立場にある職員が在籍専従に従事するということが、たてまえからして不合理であると考えるわけであります。また、その在籍専従に従事します者が、お話しのように長い間その在籍専従に専念するというようなことになりますと、これもまた非常におかしな面があるわけでありますし、あるいはその在籍専従期間中におきまして、たとえば退職したときにおきましての退職手当というような問題につきましても、現在の法体系はいろいろ問題があるわけでございます。
○森山委員 問題は、その在籍専従というものの専従の法的性格ですね。私が聞いておるところでは、休暇ということです。休暇というのは、われわれは、一日二日休むとか、そういうのを休暇だと普通は考えておるのです。十何年も休暇をとるというような、そういう方法しか一体在籍専従というものにはないのかどうか、それを伺いたい。
○堀政府委員 ただいま私の説明がちょっともたもたしておりまして恐縮でございますが、私が、長い間、十何年もこのような在籍専従に専念するということが非常に不合理であると申しましたのは、いまのような休暇を受けて、しかもそれが長い間続くというようなことは非常に問題があるということでありまして、ただいまのお話のとおりでございます。特に民間等におきましては、現在わが国の組合が企業別組合であるというような点もありまして、若干まだこういうものが残っておるわけでありまするが、その場合においても休暇専従というような例は非常に少ないわけであります。でありまするから、現在の休暇専従というような問題につきましては、特に在籍専従制度の中でも不合理な面が著しい面ではないか、このように考えておるわけでございます。
○森山委員 しからば、どういう形における在籍専従があるかということになるわけでありますが、後ほど他の方々からも御質疑があろうかと思いますから、私は省略さしていただきます。
ただ、在籍専従制度を廃止すると、非組合員たる過激分子が組合の役員として入り込んできて、組合運動が過激化することも考えられるのですが、こういう点についてはどうですか。
○堀政府委員 お説のように、在籍専従制度が廃止された後におきまして、企業と何の関係もない部外者が専従役員に就任いたしまして組合運動を指導するというようなことの可能性も考えられるわけでございます。しかし、政府といたしましては、組合運動も戦後十数年の歴史を経まして、徐々に組合民主主義が確立されつつある現状でございまするので、部外からの専従役員につきましては、このような基盤と背景のもとにおきまして組合員が選出するものでありまするから、在籍専従廃止によりまして摩擦も起こると思うのでございまするが、労使関係がこれによって悪化するというおそれは一般的には少ないのではないか、このように考えておるわけでございます。
○森山委員 この在籍専従を廃止するという原則は立てておられまするが、今回の改正法を見ると、附則で三年間の猶予期限を設けております。その設けられた理由を説明してください。
○堀政府委員 従来から公務員、公社職員関係の組合におきましては、在籍専従役員をもって組合が運営されておるわけでございまするので、この際一挙にこの制度を廃止するというようなことにいたしますると、組合の運営に支障を生ぜしめるおそれがありまするので、特に三年間の猶予期間を設けまして、その間に組合が在籍専従制度に依存することなく、みずからの力によって自主的に組合を運営し得る体制を確立されるということを可能ならしめるために、三年間は従来どおり在籍専従制度を認める、このように附則で規定しておるわけでございます。
○森山委員 次に、今度の公労法の改正法案の第十七条の二に「組合の決定又は指令であって、前条第一項の規定により禁止された行為を行なうことを内容とするものは、関係組合並びにその組合員及び役員を拘束しない。」とありまして、争議行為の決定または指令の不拘束性の規定をしておりますが、これはどういう趣旨で設けられたか、伺いたいと思います。
○堀政府委員 ただいまお話しのありましたように、公労法十七条で禁止されております争議行為につきまして、これを行なうというようなことを内容にする組合の決定、指令、これは現行法上におきましても当然のことであると考えるのであります。このような当然なことをなぜ今回新たに設けたかという御質問でございまするが、従来までこのようなことが当然と考えられておるにもかかわらず、上部の労働組合の決定または指令によりまして、十七条で禁止されている争議行為が行なわれてきておった例も見受けられるのであります。また、そういうような組合の決定または指令に従わなかったことを理由として組合が統制処分に付するというようなことは法律上無効であるわけでありますが、そのような考え方をする人が一部にある。あるいは公労法十七条で禁止されている争議行為を行なったことを理由にして解雇その他の処分を受けた場合におきまして、組合の決定または指令が上からあったのだ、それに従ったのだから責任はないのだ、このような抗弁も一部になされる場合があるわけでございます。こういうような法律上当然のことにつきまして、従来ややもすればこれに反するところの考え方があったわけでありますので、この際こういう当然のことをさらに明文をもって明らかにいたしまして、関係の労使にのみ込んでいただくという意味で十七条の二を設けた次第でございます。
○森山委員 そうすると、違法争議行為についての組合の決定または指令が組合員を拘束しない、そういう措置だというが、こういう規定を設けた結果相当な効果があるとお考えでございますか。
○堀政府委員 大体この種の規定は法律上当然のことでありますから、かりにこれがない場合におきましても、これは当然そのとおりなのであります。ただ現状は、一部においてややもするとこれに反するような考え方があるわけでありまして、そのような現状におきましては、このような規定を明文をもって設けるということは、関係労使に対してその趣旨を明らかにするという趣旨から有意義であります。しかし、これらのようなことが労使関係者に十分理解されるというような時代におきましてはこれは必要がない規定かもしれません。要するに十七条の二の規定は、従来の法律上当然無効であるということを念のために明らかにした規定であるわけであります。
○森山委員 条理上当然のことであるということをわざわざこのむずかしい法案の中に織り込んだということについては、相当な必要性を痛感されたから織り込んだのじゃないのですか。
○堀政府委員 先ほど申し上げましたいままでの実情にかんがみまして、必要性があると考えて織り込んでおるわけでございます。
○森山委員 また、こういう規定を入れると相当効果があると考えたから規定したのじゃないのですか。
○堀政府委員 政府といたしましてはそのような考えでございます。
○森山委員 そうすると、相当な必要があり、また相当な効果があるということでこの条文をつくられた、こういうふうに理解してよろしゅうございますか。
○大橋国務大臣 先ほど来、政府委員から申し上げましたるごとく、法律的にはこの条文は新しい法律上の原則をつくるものではなく、従来から解釈上当然と理解されておったことを明文をもってはっきりするという解釈的な規定でございます。したがいまして、必要があるかないかということになりますと、法律上は必ずしも必要なものと考えるべきではないかもしれませんが、しかし、書く以上は、ある程度書く意味のある場合もあると考えます。
○森山委員 こういう規定は法文として規定しなくとも当然のことを規定したものであるというお話でありますが、これは仮定の議論でございますけれども、かりにこういう規定がなくても法律的解釈には差がない、こういうふうに考えてよろしゅうございますか。現行法上でも同じだ、こういうことでございますか。
○堀政府委員 現行法でも同じでございます。そのような判例もございます。
○森山委員 現行法と同じだというのでございますが、ここに新たに十七条の二という項目が設けられた以上、この問題について、どうせ規定してもしなくても法律的に同じならば、という御意見もあろうかと思うのです。しかし、政治的に見ますればそういう必要性もあり効果もあると考えてつくった条項でございますから、政府としてはこの条項の重要性をどの程度考えられておるか、伺いたい。
○大橋国務大臣 政府といたしましては法律的に絶対に必要なものであると考えておらないことは、先ほど申し上げたとおりでございます。しかし、かような規定を設けることに相当有意義な場合もある、こう思っております。
○森山委員 先ほどお伺いした在籍専従制度廃止の問題、それからただいまの争議行為指令の不拘束、拘束しないという改正、こういうふうな改正によって今後公共企業体等の労使関係のより一そうの正常化を期待することができるというふうに政府はお考えですか。
○大橋国務大臣 そのとおりでございます。
○森山委員 公共企業体関係はあと一問で終わりたいと思います。
すでに公共企業体等の関係のあり方について、臨時公共企業体合理化審議会その他の審議会から答申が出されておると聞いております。いろいろな問題点がある。政府は、現在公共企業体等のあり方で健全な労使関係を確立し、業務の正常な運営を最大限に確保することができると考えているのかどうか、公共企業体等の根本についてのお考えを承っておきたいと思います。
○大橋国務大臣 公共企業体の労使関係のあり方につきましてはいろいろ問題の存するところでありまして、今回の改正においてもその正常化をはかるために若干の措置を講じているところであります。もちろん公共企業体の労使関係の正常化をはかり、その業務の正常な運営を確保するためには、今回の改正をもって十分とは申しがたく、政府といたしましては、今後ともさらに労使関係の正常化のためにできるだけの努力をいたしたいと存じます。
○森山委員 公共企業体関係の質問はひとまずおきまして、次に公務員の関係についてお伺いいたしたいと思います。
まず、端的に私は、ILOの批准に伴って共産主義運動が労働運動面にどういう影響を及ぼすか、特に公務員の場合をお考えになって、公安調査庁のお考えを聞かしていただきたいと思います。
○齋藤(三)政府委員 ILO条約の批准に伴いまして、どのような共産主義運動が労働組合運動に影響を与えるかというお尋ねかと存じまして、お答え申し上げます。
まず考えられますのは、レッド・パージであるとか、あるいはいろいろな事情で現在組合外におる共産党員、あるいは政治活動家が組合員に入るとか、あるいは労働組合の役員になるということが可能となると存じております。したがいまして、さような場合になりますと、それらの人々の抱く階級闘争主義あるいは政治闘争主義というものが組合の活動にいろんな影響を及ぼすのではないか、かような点をまず第一に考えております。
しかしながら、反面、最近の傾向でございまするが、労働組合の中で社共の対立、あるいは日共のしめつけというような傾向もございます。したがいまして、さような傾向がそれらに対してどのような影響を及ぼすかということは、今後の労働組合の動向いかんにかかわるものと存じております。
また、国家公務員の問題でございまするが、現在国家公務員は、全体で党員が二万五千くらいと私どもは推定いたしております。大体官公庁の労組は総評に入っておりまするが、六十組合の総評傘下のうち三十四組合が官公庁関係でございます。また四百万の総評の加盟員のうち二百四十万が官公庁労組ということになっておりまして、官公庁労組がわが国の労働運動に対して非常な大きな中心勢力になっておるというふうに見てよい、かように存じております。現在官公庁労組の日共党員二万五千と申し上げましたが、そのうち数の多いのは教職員関係あるいは自治体関係、国鉄、電通関係などであります。また、組合人員に比較しまして党員の割合の多いというのは全税関、全司法、全国税、全建労等が見られるのであります。かような関係で、これらの官公庁労組に対する本条約の影響については十分戒心を要する必要がある、かように存じております。
○森山委員 ただいま公安調査庁の長官からILO批准に伴う共産主義運動の影響、労働運動面への影響の一端のお話があったわけでございますが、その際、公務員の組合運動の現状のまた一端のお話があったわけであります。この際、この条約批准の結果憂慮すべき事態が生じないかということを政府の立場――公安調査庁も政府でございますけれども、公務員の給与等を担当する主務大臣としての労働大臣から御見解を承りたいと思います。
○大橋国務大臣 最近におきまする職員団体の動向等をながめてまいりますると、逐次健全な方向に進みつつあるように存じます。また、現在の状況から考えられますることは、今回の国内法の改正によりまして役員選出の自由の原則の結果、職員以外の者が役員に就任することが法律的に可能になってまいりまするが、このことによりまして現在の組合における勢力関係に大きな変動を来たすような事態はない、こう考えておるのでございます。
しかし、事は重大でございまするので、今後政府といたしましては、職員と協力いたしまして、相ともに組合の健全化に努力をいたしたいと考えております。
○森山委員 私は、この種の質問を国会で承っておりますと、関係大臣からも、労働運動は逐次健全な方向をたどって心配がないというふうに、たいへんさわりのない御返事があるわけでございます。はたしてわが国の国家公務員の場合の労働運動のいき方というものについて、それほど楽観してよろしい状態であるかどうか、もう一度重ねて伺いたいと思います。
○大橋国務大臣 国家公務員の労働運動も、やはり国内の組合運動の大勢に全然切り離れた動きはあり得ないのでございまして、わが国労働運動の健全化への傾向というものから考えまするならば、私は大きな心配はない、こう存じております。
○森山委員 そういう御見解もけっこうでございますが、それでは伺いたいのです。先ほど公安調査庁の長官から二万五千名の公務員関係の党員がおる。数で多いところとともに、比率の多いところとして全税関、全司法、全建労、全国税等があげられたわけですが、この種組合の行き方については、大臣はどういうふうに考えておられるか、承りたい。
○大橋国務大臣 御指摘の組合は、公務員職員団体の中では、いわゆる左寄りの組合でございまして、かねてから政府といたしましても、これらの組合の動向につきましては注意をいたしておるところでございます。そのために、関係当局に対しましては、十分に管理体制の強化によって組合の過激な行動を避けるように注意を喚起しておるところでございますが、今回の公務員法の改正その他の新しい法案の実施に際しましても、ますますこの点に留意をいたしたいと存じます。
○森山委員 公務員の組合運動の中には注目すべきものがいろいろあるわけでございますから、政府においてこの点格段の留意をいたされるように私は希望をいたしておきたいと思います。
(以下略)
(註1)中西實「三一年の公労法改正に関連して」『季刊公企労』70最終号
その他引用・参考
堀秀夫「ILO八七号条約批准問題(1)「ドライヤー委員会」の思い出」『季刊公企労』70最終号
鈴木伸一「日本の労働立法政策-ILO八七号条約批准問題をめぐる政策決定過程」『季刊人事行政』19号1982-2
人事院『国家公務員法沿革史. 資料編 』1969~1972
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上記の内容に関して森山欽司氏の評伝が、
森山真弓衆院議員のホームページで読めるように
なっています。
http://www.mayumi.gr.jp/book/index.html
投稿: 通りすがり | 2007/06/23 22:53