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2007年1月の3件の記事

2007/01/28

ILO87号条約批准問題をめぐる政策決定過程の問題点(2)

1 昭和30年代のILO87号条約批准問題の概略

川西正彦

(3)ストの脅しに屈した昭和30年代の労働政策に対する疑問
  (岸・鈴木会談、池田・太田会談は労働組合に甘い政策判断だと思う)

 前回述べたようにILO87号条約批准問題の発端は昭和33年に機関車労組と、全逓が非解雇役員を抱えていることを理由に当局が交渉に応じないことについてILOに提訴したことにはじまる。労働省当局の関心は職員でなければ組合員にも組合役員にもなれないとする公労法4条3項、地公労法5条3項の削除だけにありILO事務局が当初非現業公務員は考えなくてよいとしていたことから当局は条約批准を安易に考えていた。しかし、倉石忠雄労相(鳩山内閣)がILO総会で批准に前向きな発言を行うと、ILO事務局は掌を返して公務員も適用されると言いだしたため、ILO87号条約批承認案件にともなう関連法の改正案では国家公務員法や地方公務員法も改正や人事院の改組をともなう幅広い内容となった。昭和35年に岸内閣が提出した改正案ではつぎのような規定があった。
(1)管理、監督又は秘密を扱うカテゴリーに属する職員は、一般の職員が結成する組合に加入できないこと
(2)在籍専従は、法律施行後三年間に制限されること。この規定は公労法、地公労法、国公法及び地公法のすべてに設けること。
(3)職員は、違法な組合指令に従うことが禁止されること。
(4)総理府に設置される人事局は、人事院からその主要な機能を引き継ぐこと。
(5)人事院規則で規定している組合の登録に関する事項を法律で規定すること。
(6)国鉄の服務違反に関する罰則は強化すること

 組合側は公労法4条3項、地公労法5条3項の削除については賛成したが、残余の部分の多くは組合活動に制限を科すものであったから、これを批准承認にともなる便乗改悪として反対したため、国会では一度も審議されずに廃案となった。
 鈴木伸一によると公労法4条3項、地公労法5条3項は実質的には空文にひとしくなってから以降、社会党はILO問題の解決が組合の権利を一層制限するにすぎないという理由で、その解決に熱心でなくなったが、社会党は総評は未解決な問題の処理を延引させることでILOの制裁が一層厳しくなることを期待していたと言う。要するに組合側へ譲歩するよう要求を出して解決を延引してごたつくだけごたつかせて、日本政府への風当たりを強くしてILO制裁に期待するという作戦だった。それゆえにこの問題は複雑な政治過程を経ることとなったが、その前に本筋から離れるが昭和30年代の労働政策に私が疑問に思うことがあるのでそれを述べよう。

 昭和32年岸・鈴木会談-仲裁裁定完全実施の慣例化は実力行使の威嚇に屈したように思える

 昭和31年の公労法の改正で同法35条で「政府は仲裁裁定が実施できるようにできるだけ努力しなければならない」ことを法文で明確にしたが、これは明らかにプロレーバーの政策であり労働組合を増長させる要因になったと思う。なぜならば昭和24年公労法制定以後、仲裁裁定は15件に達したが、財政事情から実施されたのは専売の3件のみだった。この明文化は組合の闘争意欲をかきたてるものになったに違いない。公労法改正にともない予算中の給与総額制度に弾力を持たせるため、各公社法の一部改正がなされ、仲裁裁定があった場合、裁定を実施するに必要な金額は、予算の定めるところにより、主務大臣の承認または認可を受け、給与総額を超えて給与として支給することができるとしたのである。
 そこで問題の昭和32年である。これはILO87号条約批准問題の発端となった国鉄の争議行為により国鉄労組及び機関車労組の三役等二十三名を公労法十八条の規定に基づいて解雇されたという事件が起きた年なのですが、この年は春闘方式の2年目で神武景気を背景に労働側が高姿勢だった。その規模は前年を上回る320万人の参加があり、まず官公庁労組が2月中旬から下旬にかけて第一波、第二波の実力行使、炭労が3月7日から48時間スト、3月11日から15日を「高原闘争」として炭労、国労を中心にストライキを集中させた。国労、専売、全電通、全印刷は、前年の11月から12月に公労委に調停申請し、機労、全逓、全林野、全造幣、アル専は32年2月に入って要求を提出した。
 政府は2月、内閣に松浦労相を議長とする「労働問題連絡協議会」を設置、公労協の闘争について「公共企業体労組については、公労法所定の手続きに従って措置し仲裁裁定は尊重する。違法行為に対しては、当局においては厳正な措置をする」ことで対応する方針をとった。いわゆるアメとムチであるが、違法ストの処罰は当然のことだろう。
 公労委の調停は難航した。小倉国鉄副総裁は1200円に上積して解決するならそうして貰いたいという言質をとられた。藤林調停委員長が怒って退席したというのだが、国労の機関紙「国鉄新聞」の3月1日付によると、今国会で公務員は900円の給与改定が行われるため、これに合わせよという圧力が政府・日経連から藤林氏にかかっていたのだという。3月9日の公労委が提示した調停案は基準内賃金を1200円(専売は1100円)増額することとし、電電と郵政については使用者側委員が平均1100円を上回ることを承認されなかったことが少数意見として付記されるといった内容だった。公労協は10日の戦術会議で政府が調停案を受諾して予算措置を講じれば応諾することを公労委に回答した。
 政府は3月11日に官邸に、松浦周太郎労相、中村梅吉法相、水田三喜男通産相、宮澤胤勇運輸相、大久保留次郎行政管理庁長官兼国家公安委員長、石田博英官房長官、倉石忠雄自民党国会対策委員長、平田大蔵次官、斎藤労働次官、伊藤郵政政務次官、石井警察庁長官、公社側から十河国鉄総裁、入間野専売公社総裁、靫電電公社副総裁らが集まって協議したが、1200円の増給を32年度の予算の枠内で実施できるかはさらに検討を要する。1200円の数字の基礎が不明であるということで結論は出なかった。宮沢胤勇運輸相は小倉副総裁秘密書簡で国鉄当局が国労に確約した賃金確定32年1~3月分と3月末の業績手当に要する財源の移流用の了解を大蔵次官に求めたが了解はえられなかった。
 こうした情勢のため総評を中心とした官民労組の統一闘争は3月11日から実施され
国労が2日間にわたり1662箇所の駅、201箇所の客貨車区等で半日職場大会、遵法闘争を実施したため、大量の列車運休遅延を出し全国的に大混乱した。
 社会党は11日政府に対し「調停案を受諾せよ」との申し入れを行うとともに、政府・労組間の斡旋に乗り出した。
  政府は11日午後院内大臣室で、岸首相、池田蔵相、松浦労相、石田官房長官らが対策を協議した結果「公労協の実力行使を回避するため、公労協に対して時期をみて仲裁裁定を申請する」方針を決定し、同夜開かれた岸首相ら政府首脳と社会党浅沼書記長との会談で19日、20日に予定されている国労などの第四波実力行使を回避するため努力することで意見の一致をみた。
  ところが12日の閣議及び同日夕刻の労働関係閣僚懇談会では、「調停案の拒否理由や、仲裁裁定がなされた場合の態度については検討を要する」との態度をとったため、公労協は仲裁裁定を故意に遅らせているとして16日に第三.五波の実力行使を設定した。
 社会党は緊急国対会議を開き「仲裁裁定は4月1日から実施するよう、政府が確約する以外官公労の第四波を避ける方法はない」との態度を決定、14日に横路節雄国会対策委員長、池田禎二代議士らが石田博英官房長官と会見、15日に岸信介首相と鈴木茂三郎社会党委員長との会談を開くことを申し入れ、自民党、運輸省、国鉄総裁との折衝を開始した。
 政府は14日の次官会議、15日の閣議で各調停案を拒否して仲裁申請を行う方針を決定、石田官房長官は「仲裁裁定については公労法の精神にのっとり誠意をもってこれを尊重する。この際労使とも静かに仲裁裁定を待つことを希望する」との談話を発表。 16日午前零時20分~45分に岸・鈴木会談が首相官邸で開かれた、政府側は岸首相、松浦労相、石田官房長官、社会党は鈴木委員長、浅沼書記長、横路国対委員長、池田禎二代議士らが出席、会談後石田官房長官と浅沼書記長が共同発表を行った。
 石田官房長官は「社会党から仲裁裁定を尊重するとの申し入れがあったがこれは総理も今までにしばしば述べたところで、異論がないと回答した。また、政府機関を通じて下部に徹底せよとの申し入れもあったが、あらためて田中副長官をして徹底するよう答えた。‥‥争議の解決にあたり責任者の処分をしないとの申し入れについては慎重に考慮すると答えた」と述べた。
 浅沼書記長は「岸首相から仲裁裁定については誠意をもって尊重し、その実現のため努力すると述べられた」とした。
 この会談を受け公労協は実力行使回避に動いた。国労は年度末手当0.31月分と賃金確定にかえての一時金を3月22日に支給することで了解したが、しかしこの妥結は大蔵省の了解をえておらず、23日に支給困難となったため国労は午後から抜き打ち職場大会に入り、東京管内の主要線が運行困難となり、運輸大臣が午後3時50分に国鉄総裁に業績手当の支払いを命じ収拾されたが、ダイヤは終日乱れ、翌朝まで乗客の騒動が続く始末だった。
 この岸-鈴木会談は仲裁裁定の完全実施を定着させたものと評価されている。例えば全逓の宝樹委員長が「仲裁裁定の完全実施は英断だった」としているように公労協側の獲得物は大きかった(会談をお膳立てしたキーパーソンは石田博英官房長官だった。岸首相を説得したのが石田長官といわれている)。しかし、にもかかわらず、違法行為は続けられたし、安保闘争の集団行動で自信をつけた社会党、総評はスト権奪還のためのILO闘争を方針とするなどエスカレートしていった。岸-鈴木会談は客観的にみると第四波の実力行使を回避するための政治決着で、間欠ストの続行という脅しは相当にきいているとみることができるし、結果論として労働組合にアメを与え増長させる要因となったと思うからこの政策判断を疑問に思う。
 仲裁裁定完全実施定着の「立役者」石田博英氏は労働大臣就任4度に及ぶが、石田労政の組合に好意的な政策は日経連からも批判されている。昭和36年の春闘において、公労協が3月31日に半日ストを構えたが、石田労相はストを止めてもらうために、職権により公労委に仲裁請求を行った。
 その結果、公労委の定昇別10%(林野、アル専は12%)平均2300円の賃上げになったが、その後に妥結した民間の組合の賃上げも大幅で、結局この年の春闘相場は約3000円という大幅なものになったのである。
日経連の前田専務理事は「この大幅な賃上げは経営者の屈服賃金であり、その原因は人事院勧告ならびに公労委の仲裁裁定にある。公労協のスト宣言は法秩序の挑戦であるが、政府がこれに対し、調停段階をとばして仲裁請求を行ったことは、ストの圧力に屈して事なかれ主義に陥ったものだ」としているが、私もそのとおりだと思う。

 昭和39年池田・太田会談-民賃準拠ルールの確立 史上空前「陸海空統一スト」の脅しに屈した池田首相
 
39年春闘で総評はヨーロッパ並高賃金の獲得、大幅賃上げを目標にし、その前年に総評の太田薫議長、岩井章事務局長は高原闘争で執拗に闘う、25~30%賃上げをぶちあげていたが、4月17日に史上空前の「陸・海・空統一ストライキ」を構えた。これは公務員は日教組・自治労など5単産、公労協は国労・動力車・全逓・全電通など9単産、民間は私鉄など24単産386万人が17日に概ね半日以上一斉にストに突入するものだった。

 公労協は4月4日に「スト宣言」、大橋武夫労相は違法ストに対する反省を促すとともに各当局もそれぞれ警告を出したが、組合側は無視、国労は7日に全国35線区のスト実施地区を明らかにし、「ストダイヤ」を発表した。右派系組合員・共産党系組合はストに反対した。マスコミはこれを大々的に報道し固唾を呑んで事態の推移を見守ったが、池田勇人首相(この年の11月に喉頭癌の前がん症状で辞任)が事態の収拾に乗りだし15日に総評太田議長との直接会談でスト回避を説得することを決定し、NHKテレビに出て政府の立場を国民に説明するパフォーマンスをやってのけた。
 このお膳立てに奔走したのが池田番の政治記者だった田中六助氏(後の通産大臣・幹事長)とされる。
 16日午前9時40分総理官邸において、池田勇人首相、黒金泰美官房長官と太田総評議長、岩井事務局長、安垣政治局長が出席した行われた会談では、次の二点を文書で確認した。

1公共企業体と民間企業との賃金格差は、公労委が賃金問題を処理するに当たって、当然考慮すべき法律上の義務である。従って公労委における調停等の場を通じて、労使ともにこの是正に努力するものとする。
2公労委の決定についてはこれを尊重する。

 このほか、住宅、義務教育費などの負担問題、労働災害問題、公労委の組織、運営、公企体のありかた、最低賃金問題で首相が見解を述べ総評側が了承した。

 会談のなかで、池田首相は「私が一番申し上げたいことはストライキを止めてほしいということだ」云々と切り出し、太田氏が「明日のストライキを延期するよう努力するつもり」と答えたというのが会談の内容だった。こういう会談の設定は組合側に有利なのである。ストを止めてもらわないと首相のメンツを潰すことになるから、メンツを潰されないようにするため組合側にアメを与えなければならないからである。

 この会談により事態は収拾され17日のストは小規模のものになった。マスコミ・世論は史上空前のストを止めた首相に好意的だったが、その代償は大きかったと思う。5月19日に国鉄・林野9.5% 、郵政7.5%、電電・専売6.5%、平均2209円賃上げの仲裁裁定が出された。これは兼子公労委委員長の談話によると「民間賃金の引上げ趨勢がおおむね明らかになってきたので、これを裁定の内容に反映させた」としている。
 以後これが先例となって公企体等の春の賃上げについては、まず公労委の調停の中で、民間の春闘の賃上げを反映すべく努力がなされ、その上に立って仲裁裁定が出されることになった。いわゆる民間賃金準拠原則が確立されたのである。
 ストで脅した結果の組合側の獲得物は大きかった。民間並の生産性を有し、企業としての業績をあげているなら別だが、民賃準拠ルールを与えたことは今日的観点からすれば疑問に思える。またまた組合にアメを与える結果となったのである。
 池田・太田会談に対しては日経連あたりから、強盗が玄関の前に立っていて、中に入れてくれと言っておるのに戸をあけたようなものとの非難があり、自民党反主流派も批判していた。
 しかも、このことは非現業公務員の給与問題にまで波及したのである。社会党に公企体職員と非現業公務員の不均衡な給与政策、公企体には財政的に苦しくても仲裁裁定は完全実施できるのに人事院勧告は完全実施できないのかと政府を攻撃する口実を与えることになった(昭和29年から昭和34年まで人事院のベースアップ勧告は留保され、報告のみがなされていた。給与を決定すべき諸条件に幾多の不確定な要因を含んでいる現段階において単なる民間給与との較差をもって俸給表の改正を行うことは当を得た措置ではないとしていたのである。ところが昭和35年に春闘相場を上回る12.4%の給与改定を勧告した。これは調査時点を3月から春闘相場が反映する4月に変更したことと、ラスパイレス方式を採用したことによる。以後の人事院勧告は高率ベア勧告になるが、政策上の理由で昭和45年まで完全実施は見送られていた)。
 
 以上、私は昭和30年代の政策、その時期は労働運動の高揚期であったにせよ、岸-鈴木会談、池田-太田会談の政策判断を疑問とするものである。結局ストライキの圧力に政府は屈している。昭和32年に仲裁裁定完全実施慣行が成立し、39年に民賃準拠ルールが確立したのは、ストで脅して政府の政策を縛ることに成功したのである。結果、公共企業体はその生産性に釣り合わないレーバーコストを抱え込むことになったのではないか。公共企業体の組合にアメを与えて国鉄などの業績が良くなったいえるだろうか。そういうことはなかったわけである。スト権を付与することに慎重にならざるをえないのはこうした教訓にもよるものである。

引用参考文献
鈴木伸一「日本の労働立法政策-ILO八七号条約批准問題をめぐる政策決定過程」『季刊人事行政』19号1982-2
芦村庸介「裁定完全実施に道拓いた岸・鈴木会談の実現」『季刊公企労』70最終号
渡邊健二「池田・太田会談(1)民賃準拠の原則確立」『季刊公企労』70最終号
堀秀夫「池田・太田会談(2)労働事務次官の立場から」『季刊公企労』70最終号

2007/01/21

ILO87号条約批准問題をめぐる政策決定過程の問題点(1)

(公務員労働基本権付与に反対シリーズその1)

 要旨

1-ILO87号条約は98号条約のような公務員の適用除外規定はないが、この点につきILO事務局は日本政府労働省国際労働課長の求めた確認に対し、公務員は考えなくて差しつかえないとしていたにもかかわらず、ILO総会で倉石忠雄労相が条約批准に前向きな発言を行うと、掌を返して、公務員も当然適用されるものと言い出した。日本政府をだましたのである。外交上非礼であり許せない。

2-昭和38年6月25日衆議院国際労働条約87号条約等特別委員会の大橋武夫労相の答弁に代わった堀秀夫政府委員(労政局長)は、明確にILO87号条約は争議権を取り扱うものではないと答弁しており、条約批准にともなって、政府には公務員に基本権を付与するとかそういう考えは当初から全くなかった。それが条約批准の趣旨でもないことはいうまでもない。

川西正彦

はじめに

 現在、行政改革推進本部専門調査会で検討されている公務員の労働基本権付与について私は全面的に反対ですが、この問題が持ち上がっているひとつの理由は、ILO(結社の自由委員会)における公務員制度案件により、労働組合側から政府に圧力がかかっていることにあります。その経緯の概略は、12月の会議の資料のhttp://www.gyoukaku.go.jp/senmon/dai5/siryou2.pdfの5頁以下にありますが、平成13年12月25日の「公務員制度改革大綱」の閣議決定が労働基本権の制約を維持したまま、能力・実績主義の新たな人事制度を導入する方針としたことから、平成14年の2月と3月に連合、全労連がILO(結社の自由委員会)に提訴し、同年11月と15年6月と18年3月に6月ILO理事会にて結社の自由委員会報告書を採択され、14年11月のものでは、「公務員の労働基本権に対する現行の制約を維持するとの考えを再考すべき」「法令を改正し、結社の自由の原則と調和させる見地から、全ての関係者と率直かつ有意義な協議を速やかに行うこと」「これらの協議は、日本の法令及び又は慣行が第87号条約及び98号条約の規程に反している、国の行政に直接従事しない公務員への団体交渉権及びストライキ権の付与など6事項の論点について特に扱うべきである」、15年6月のものは「協議は、公務員への団体交渉権及び団体協約権の締結の保障、ストライキ権の付与など5事項の論点について特に扱うべきである」としていることである。
 要するに組合がILOに申し立てを行い、外圧を利用して政策変更を迫る1950~60年代に頻繁になされていた闘争手段である。私はILOを利用した闘争、及びILOそのものにも不快感をもっているが、政府はこうしたいちゃもんに対して適切な対処ができず、ずるずると労働基本権付与について検討するところまで譲歩してしまったことは甚だ遺憾であるが、過ぎてしまったことはしかたがないから、こうした外圧に屈しないよう反論を具体的に述べて生きたい。そこで、ひとつの題材としてILO87号条約批准の政策決定過程の問題点をとりあげたい。
 
 昭和30年代のILO87号条約批准問題の概略

(1)拙劣な政策決定--ILO総会倉石忠雄労相のフライング発言の背景---ILOにだまされた日本政府当局---

 ILO87号条約(結社の自由・団結権の擁護に関する条約-1948ILO総会採択)にともなう関連法改正は5度審議未了で廃案になり、7~8年ほどの複雑な政治過程を経てドライヤー委員会の現地調査と、ジュネーブにおける証人喚問というすったもんだのあげく、昭和40年通常国会で改正案中の問題点は棚上げ、公務員制度審議会の審議に委ねるなどとした船田中衆院議長斡旋案を受け入れることでようやく成立したというものであった。
 87号条約というのは労使おのおのによる団体設立・加入の自由、労使の各団体の代表者選任の自由、これらの団体の行政権限による解散からの自由を定めたものであるが、条約批准の経緯の発端は昭和32年の春闘に際して国鉄関係労組の役員の解雇処分と団交拒否問題が起こり、33年に機関車労組(後の動労)と全逓が総評と連名でILOに対し、非解雇役員を抱えていることを理由に当局が交渉に応じないことについて申し立てを行ったことである。これは179号事件として一括処理された。
 当時、公労法17条の争議禁止規定に違反して、18条により組合幹部が次々と解雇されていたが、公労法4条3項により職員でなければ組合員にも組合役員にもなれないことになっていた。組合委員長がクビになると法律上委員長なしの組合になり、その委員長名の組合文書は無効だということで、当局は受理を拒む、いきおい入口で形式上の感情的な争いとなり、肝心の問題は少しも解決しないという問題があったのである(註1)。発端は公労法4条3項の問題だけだった。
 昭和31年当時、労働省労政課長だった中西實(後に事務次官・公労委会長)昭和31年の公労法改正で4条3項を削除したかったが、それができなかったのは自民党の政調会では「四条三項を削除したら無責任な組合役員が外から入って来ては大変だ。」という声が強かったためであり、それを悔やんでいた。しかし87号条約を批准すると否応なしに、4条3項を削除せざるをえなくなるため、事務次官になってから条約批准を労政局に検討させたと述べている(註1)。要するに中西實はプロレーバーとみられるが、自民党の反対派議員を抑えて国内法を改正する外圧として利用するために批准するというのが労働省当局の動機だった。ただそれだけなのである。それが発端だったのにこれだけ大きな問題になったのは次のような拙劣な政策決定があったことにもよる。
 中西實によると既に批准ずみだった98号条約(団結権及び団体交渉権の適用に関する条約)が公務員の適用除外規定があるので国内法にふれないのに対し、87号条約は公務員の適用除外規定がないので政府当局批准を見送っていたと述べている。しかし中西實は事務次官となり、ILO理事会から帰ってきた飼手眞吾審議官(後のILO東京支局長)より「ILOでは結社の自由を極めて重視しており、特に結社の自由委員会を設けているほどで、ILO八七号条約の批准国が増えるのを期待している」という報告をうけた。そこで宮本一朗国際労働課長を二度ILO事務局に派遣して87号条約と公務員の関係で確認をとったところ、条約批准国のなかには公務員を除いている国もあるから一般公務員については考えなくても差しつかえないということだったので、「この条約を批准するのですか」とためらっていた倉石忠雄労相を中西實事務次官が説得して了承してもらったということである(註1)。
 その後、ILO総会で倉石労相は「日本は87号条約の批准につき考慮中」という前向きな発言を行うと、ILO事務局は掌を返すようにして一般公務員にも当然適用されるべきものと言い出したのである。中西はこう言ってます「ところが、ILO事務局はその後になって八七号条約は公務員にも当然適用されるべきものだと言い出した。こちらの確かめ方も悪かったのかも知れないがILO事務局なんていい加減なものだ」(註1)。いい加減なもんだじゃすまされない重大な問題だと思います。いわば政府当局はILO事務局に騙されたことになる。騙すほうも悪いが騙される労働省当局の政策決定も拙劣なものだというほかない。そんなことで労働省だけで処理できる問題ではなくなった。果たして、人事院はじめ各省から反対の火の手があがった。そのため87号条約批准問題で延々遅くまで議論するという異例の長時間事務次官会議となったというが、結果的に倉石労相のILO総会の発言はフライング発言になった。これは労働省だけで独断専行できる案件ではなく、実質的に事務次官会議で承認されていない案件だった。倉石労相は国内法改正は小幅ですみ、一般公務員の法改正まで影響は及ばないと事務次官から説明されていたから了承したのであって、国家公務員法や地方公務員法にまで影響が及ぶとは考えていなかったはずだからである。
 以上のような経緯があり、政府は労働大臣の諮問機関である労働問題懇談会に批准の可否を諮問し、87号条約は批准すべきである。公労法4条3項、地公労法5条3項は削除すべきである。労使関係法全般についても再検討するとの答申を昭和34年2月に得たので、35年4月岸内閣は、同条約の批准の国内法整備の関係国内法改正案を提出したが、この最初の法案は問題の発端となった公労法、地公労法の改正だけでなく、国家公務員法、地方公務員法、鉄道営業法の改正が含まれていた。この最初の法案には「職員は違法な組合指令に従うことを禁止されること」「国鉄の服務違反の罰則は、強化すること」といった公共部門の組合活動に制限を科す内容が含まれており、野党側が87号条約批准に便乗した改悪であるとして強く反対し一度も審議されず、廃案となり、安保闘争のあおりで岸首相は辞職した。
 問題の発端からこのへんの経緯は、具体的に国会の議事録を引用したほうがわかりやすいかもしれません。自民党の森山欽司委員が鋭い質問をしているので引用したいと思います。森山欽司氏は「リベラル色の濃い三木派の中では珍しくタカ派。1950年代から、教育正常化運動の先頭に立ち、日教組と激しく対立した。地元の栃木県における日教組の組織率は、全国で最低水準となった。1960年の、郵政政務次官時代には、違法ストに対し厳正な処分で応じ、郵政当局の労務政策を転換させた。‥‥1979年には全逓の生産性向上運動反対闘争(いわゆる“反マル生闘争”)に対し、自民党労働問題調査会会長として、解雇を含む組合員の大量処分に主導的な役割を果たした。同年、運輸大臣として、所管の日本船舶振興会の笹川良一会長や全日空の安西正道社長に引退を勧告し、実力次官といわれた住田正二を在任1年で更迭、カラ出張による不正経理が発覚した鉄建公団の川島廣守総裁ら5理事を更迭するなど首切り欽司の異名をとった」とウィキペディアにあるようにかなり厳しい政治家だったようだ。地味だが実績のある政治家で、今日こういうタイプの政治家が少なくなっているように思います。

 (2)参考資料-昭和38年6月25日国際労働条約八七号条約等特別委員会議事録抜粋

要旨 昭和38年6月25日国際労働条約八七号条約等特別委員会の森山欽司委員の質問に対し堀秀夫政府委員(労政局長)は、明確にILO87号条約は争議権を取り扱うものではないと答弁しており、条約批准にともなって、公務員に基本権を付与するとかそういう考えははじめからなかった。それは条約批准の趣旨であるはずがない。(参考資料の赤字部分です)

043回国会 国際労働条約第87号等特別委員会 第3号
昭和三十八年六月二十五日(火曜日)
   午後二時十四分開議
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/043/0002/04306250002003c.html

質問者 自民党森山欽司委員
答弁者 大橋武夫労働大臣
答弁している政府委員 
労働事務官(労政局長)堀秀夫
公安調査庁長官 齋藤三郎

○小笠委員長代理 これより会議を開きます。
 委員長が本日所用のため出席できませんので、委員長の指名によりまして、私がかわって委員長の職務を行なうこととなりましたから、よろしくお願いいたします。
 結社の自由及び団結権の保護に関する条約(第八十七号)の締結について承認を求めるの件、公共企業体等労働関係法の一部を改正する法律案、地方公営企業労働関係法の一部を改正する法律案、国家公務員法の一部を改正する法律案及び地方公務員法の一部を改正する法律案の各案件を一括議題とし、質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、これを許します。森山欽司君。
○森山委員 ILO八十七号条約及び関係国内法案が国会に提出されましたのは、昭和三十五年四月二十八日の第三十四回通常国会でございました。今日は昭和三十八年六月二十五日、法案が提出されましてからまさに満三年余を経過して、国会は四十三国会になっておりまして、十国会目で与野党の質疑に入り、審査がようやく軌道に乗るようになったわけでございます。この法案が提出されるまでの経過を加えてみますと、おそらく六年越しの懸案であろうかと思っておるわけでございますが、問題が起こりましてから、さらにまた法案が提出されましてから、相当長時日を経過しておりますので、この法案の内容の理解ということについて、私ども必ずしも十分でない情勢にあろうかと思います。
 そこで私は、まずこういうILO八十七号条約及び関係国内法案が提出されるに至りました問題の発端、事の起こりは何であったか。この条約の批准自体は、わが国における結社の自由が憲法その他の法律によって保障されておるのでありますけれども、さらに国際労働条約の水準まで高めるというふうに理解はいたしておりますものの、しかし、そういう筋だけではなくして、事の起こり、問題の発端ということについて、政府側の説明を伺いたいと思います。
○大橋国務大臣 私の就任前の古いこともございますので、答弁の正確を期する意味で政府委員からお答えさせていただきます。
○堀政府委員 ILO八十七号条約の問題が取り上げられましたのは、御承知のように、この条約は昭和二十三年のILO総会において採択されたものでございます。そこで、国内的にその経緯を申し上げますと、昭和三十二年、四十回のILO総会におきまして、日本の国内の諸組合からの提訴等がありまして、その問題がILO総会において取り上げられたのでありますが、政府におきましても、問題の重要性にかんがみまして、同年九月、ILO八十七号条約の批准の可否につきまして、労働問題懇談会を労働省に設置いたしまして、これに諮問したのであります。
 この懇談会は、昭和三十四年二月十八日、政府に対しまして次のような答申を行ないました。それは、
 ILO八十七号条約は批准すべきものである。右条約を批准するためには、公労法四条三項、地公労法五条三項等を廃止しなければならない。この廃止にあたっては、関係諸法規等についての必要な措置を考慮する。要は、労使関係を安定し、業務の正常な運営を確保することにあるので、関係労使が国内法規を順守し、よき労働慣行の確立につとめることが必要である。
 以上のような要点を内容といたしますところの答申を政府に対して行なったのであります。政府はこれを受けまして、昭和三十四年二月二十日の閣議におきまして、
 八十七号条約を批准するとともに、これに伴いまするところの公労法四条三項、地公労法五条三項の廃止にあたりましては、業務の正常な運営を確保するために関係諸法規について所要の改正を行なう、これらの措置を講じた後、条約批准の手続をとるものとする。
 まだそのほか細目はございまするが、以上のようなことを骨子といたしまする閣議決定をいたしました。それに基づきまして法案の提出に至ったわけでございます。
 大体、国内的にILOの批准問題が脚光を浴びるに至りましたのは以上のような経緯でございまして、その後、ただいま先生お話しのように、国会に関係法案を提出いたしましたが、そのつど審議未了になるというようなことで今日に至っておるわけでございます。
○森山委員 私がお伺いしているのは、法案作成に至るまでのそういう立法的な準備段階の話を伺っているのではなくして、先ほどお話がありましたように、昭和三十二年にILOに組合のほうから提訴された。一体どういうことを提訴したのだということであります。そして、自来今日まで、ILOにおいてこの条約を批准した国は六十一カ国あるというふうに聞いておりますが、その中で特に日本の問題が大きく取り上げられてきた。また、国内的にも、この問題が早急な解決を望まれながら、難渋をしておった大きな問題であった。そのことは一体何であるかということを、もう少し明確にしていただきたいと思います。
○堀政府委員 先ほど私がちょっと簡単に申し上げたのでございますが、国内の労働組合におきましてILOに対して申し立てをいたしましたのは、当時の機関も労組及び全逓でございます。機関車労組は、昭和三十二年の春の賃金引き上げをめぐる紛争に際しまして、公労法に違反して争議行為を行なったので、国鉄当局は、その責任者として組合の役員を解雇したのでありますが、これらの組合は、この被解雇者を事実上の役員としてとどめたのであります。国鉄当局は、これに対しまして、公労法四条三項の規定に抵触するものとして、機関車労働組合及び同じような事態のありました国鉄労働組合との団体交渉に応じないこととしたのでありますが、機関車労組は、昭和三十三年の四月、ILOに対しまして、公労法四条三項は労働組合権を侵害するものである、こういう申し立てを行なったのであります。
 次に、郵政関係につきましては、昭和三十三年春の賃上げの紛争に際しまして、同じく公労法違反の争議行為を行なった全逓労組の役員を解雇したのでありますが、全逓労組がこれらの被解雇者を事実上役員としてとどめたので、郵政当局は、やはり団体交渉に応じなかったのであります。これに対して、全逓労組もまたILOに対して申し立てを行なった、こういうことになっておるのであります。
 その後、同じくこれらの問題につきまして、現在までILO結社の自由委員会において審議されておりますこの日本に関する事件、これは百七十九号事件と一括して呼ばれておるのでありますが、国内の組合としては総評、機労、全逓、日教組、国公共闘、国労、自治労、それから国際組合といたしましては、国際自由労連、国際運輸労連、国際郵便電信電話労連、国際公務員連合、国際自由教員連合、こういうような各組合から申し立てが行なわれておるのであります。
 これらの申し立てを大別いたしますると、一つは当局側の労働組合権侵害の具体的な事実を訴えておるわけでございます。それから第二には、先ほど申し上げましたように、公労法四条三項に違反しておるというような問題、その他法律上の問題につきまして、法律制度が八十七号に違反しておるというような点につきましての申し立てがなされておるわけでございます。
 以上が、大体今日までILOにおいて八十七号関係をめぐりましていろいろな審議が行なわれておる発端になった問題でございます。
○森山委員 ですから、初めから、この事の起こりは、昭和三十二年の春に国鉄や郵便などの公共企業体の組合が違法な争議行為を行なったことだ、そういうことから問題が起きたのだということをはっきりお話ししていただければけっこうだったんです。
 昭和三十二年のいわゆる春闘におきましては、各企業で、法の禁止に違反して争議行為が行なわれた。国鉄は一番激しかったのでありまして、勤務時間内の職場大会や、順法闘争などと称する争議行為が繰り返して行なわれました。その結果、汽車や電車は運休となったり、おくれたりしたものが全国で何千本も出ました。通勤者や旅行者が大きな迷惑をこうむったことはもちろん、生産者が出荷ができなかったり、送った荷物が途中で滞ったり、生鮮食料品で腐るものが出る。国民大衆の受けた有形無形の損害はばく大なものであった。こういう状態に対して、国鉄当局が、当然の措置として、違法行為の責任者である国鉄労組及び機関車労組の三役等二十三名を公労法十八条の規定に基づいて解雇した、そういうことが問題の起こりであったのだということを、この審議を始める前に明確にしておく必要があろうと私は思うのであります。
 また、全逓の場合におきましても、昭和三十三年の春闘におきまして、郵便事業の職員の組合である全逓労組が、公労法の禁止に違反して違法な争議行為を行なった。その結果、三役を含む七名を解雇したのをはじめ、多数の者が処分を受けた。このときの全逓労組の争議行為は、みずから公労委に調停を申請しておきながら、調停案を自分たちの組合に有利にするために公労委に圧力をかけると称して行なわれた言語道断なものであった。この争議の結果、何十万という郵便や小包が最高十日から一週間もおくれ、国民が非常な迷惑をこうむった。特に就職や入学試験の通知が届かなかったためにせっかくの就職の機会を失ったり、入学ができなかったというような事態が生じたことは、人道問題とさえいえるのであります。こういう違法なる行為に対して、郵政当局が三役の解雇その他の処分を行なったことは、当然過ぎるほど当然の事態である。にもかかわらず、それらの解雇されましたところの組合幹部が、従来の組合の役職に居直る。それは公労法に違反する。その結果、団交拒否というようなことになり、裁判にも出したが、裁判に本、負けてしまった。なかなか話がつかない。中途に公労委のほうからあっせん案が出てまいりました。そのあっせん案によって当面の収拾はしたが、機関車労組あるいは全逓等は、ついにこれを国際舞台に持ち出した。自分たちの違法な争議行為を海外に持ち出して、海外の援助を請うてみずからの立場を合法化しようとしたのがこのILO八十七号条約の問題の発端ではなかったかと私は思うのです。これに対する労働大臣の一所見を伺いたい。
○大橋国務大臣 どういうふうに考えるべきか、私といたしましては、このILO条約は日本がILOに加盟をいたしておりまする以上は、ILOの基本的な原則を示しておる条約でございまするので、これに加盟をするように日本としては取り運んでまいりますということは、これは加盟当時から当然のことではなかろうかと思うのでございます。むろんこのILOの加盟問題が、国内問題としていろいろな経緯をとってまいっておりますその間におきましては、御指摘のように、国内労働組合の法規違反の事柄がILOに提訴され、これらがいろいろILO問題について国内に反映をいたしておるということも十分に認めることができるのでございますが、ともかくILO条約の批准ということの根本は、日本がILOに加盟をいたした当時からの基本的な問題でありますし、またこれに加盟するということが、日本の国内の労使間の将来のために好影響をもたらすものと確信をいたす次第でございます。
○森山委員 労働大臣が言われようとすることは、問題の発端は違法な争議行為であった、それについてその違法な状態を打開する道がない、その窮地を打開するために組合は海外に援助を求めた、それがILO八十七号条約の問題の発端であったということはお認めになるが、しかし、今回ILO八十七号条約を批准しようとするのは、そういう違法な行為を是認するというような考え方は毛頭なく、ILO八十七号の本来の趣旨に沿って結社の自由というものを――これはわが国においては憲法でも、あるいは関係法律においても十分保障されておるが、さらに国際労働条約の線にまでその水準を高めようというのが今回の御提案の趣旨である、こういうふうに理解をしてよろしゅうございますか。
○大橋国務大臣 まさに私のお答え申し上げたいと思いましたことを、私以上に明快にお話しがございました次第でございます。
○森山委員 ということでございますならば、この八十七号条約及び関係法案の御提案の趣旨は了解するにやぶさかではないのでございます。そしてまた、これらの問題については、昨日も提案理由の説明におきまして関係者大臣からお話しがございました。
 ただ、この八十七号条約の批准と関係法律案の提出につきまして、世上、特に急進政党の方々並びにわが国言論界及び文化人の一部から、これをもって便乗改正であるというような意見を述べる者があるのでございます。これについて労働大臣はどういう御見解を持っておられるか。便乗と考えておるのであるか、あるいは、便乗ではない、こうやることが当然のことであるとお考えになっておるのか。この辺の事情について御説明を願いたい。
○大橋国務大臣 ILO条約批准に伴います関係法案は、自由にして民主的な労働組合の発展を期するという労働政策の基本的立場に基づくものでございまして、特にILO条約の趣旨に抵触する国内法の規定を改めますほか、ILO条約の趣旨、精神であります労使団体の自主運営、相互不介入の原則をより一そうよく実現するための改正をいたしますとともに、公務員、公共企業体の業務の正常な運営を確保するための改正を行なうものなのでございます。したがいまして、これらの国内法の改正は、ILO条約八十七号を批准するに当然必要な最小限度のものでございまして、便乗的なものは毛頭も含んではおりません。現にこのことは、この問題につきまして特に政府が諮問をいたしました労働問題懇談会の答申におきましても、公労法、地公労法の改正のほかにこれらの改正が必要であることを示唆いたしているような次第でございます。
○森山委員 自由にして民主的な労働組合運動の運営を期待するということで国内法規の改正をお考えになったということは、ILO八十七号条約の精神と申しますか、労使団体の自主運営と相互不介入の原則、そういうものを実現するという趣旨でお考えになった。その辺のところはどういうふうになっておりましょうか。
○大橋国務大臣 御質問の趣旨をいま一度お述べいただきたいと存じます。
○森山委員 自由にして民主的な労働運動が伸びていくように国内法規の改正をされたというふうに私はお話を承った。自由にして民主的な労働組合運動、そういうこととILO八十七号条約の精神と申しますか、労使団体の自主運営、相互不介入の原則、そういうものをどういうふうに組み合わしてお考えになっているか、承りたい。
○大橋国務大臣 今回の国内法の改正は、八十七号条約を批准するに際しまして、同条約に抵触する規定を改めますとともに、公務員、公共企業体の業務の正常な運営を確保するための整備を行なう。このほか同条約の趣旨、精神をより一そう実現するために改正をするという考えで立案をいたしたものでございます。しかしながら、ILO条約の趣旨とする労使団体の自主運営、相互不介入の原則が、わが国の労使関係に十分取り入れられているかどうかはなお問題のあるところでございまして、この点検討を要しますことは、同条約の批准に関して行なわれました労働問題懇談会の答申にも指摘せられてあるところでありますので、これらの原則がわが国の労使関係に十分取り入れられますよう、今後とも検討を続けてまいりたいと存じます。
○森山委員 そうすると、関連国内法規は、わが国の労働組合運動の正常な発展とILO八十七号条約の精神である労使団体の自主運営、相互不介入の原則を実現するという二つの目的をもちまして国内法の改正をはかられた、こういうふうに理解をしてよろしいわけでございますね。
○大橋国務大臣 さようでございます。
○森山委員 そして、この労使団体の自主運営、相互不介入の原則を実現するために関係国内法を検討されるというお話がございましたが、今回の改正でこれらの原則は十分わが国の運動に取り入れられることになるのかどうかということになりますと、先ほど大臣のお話だと、まだ十分じゃない、だから一そう検討を進めたいということですが、この線に沿って将来国内関係法を改正するというお考えをお持ちでございますか。
○大橋国務大臣 さしあたり法規の改正につきまして今後のスケジュールとして具体的なものを持ち合わしている次第ではございません。しかしながら、わが国の労働運動の今日までの実情を考えまして、今回の法令の改廃だけによって申し分のない状況に直ちになるというようなことを考えることはいかがかと存じまして、この上とも日本の労働運動の健全な発展のために努力をいたすべきものではないか、かように存じておるところでございます。
○森山委員 公共企業体の職員ばかりでなく、公務員が争議行為を行なうことは、国家公務員法、地方公務員法、公共企業体労働関係法等でそれぞれ明文の規定をもって禁止されておる。にもかかわらず、これらのものを組織する職員団体ないし労働組合が実力行使等と称して争議行為を行なう事例が今日なおあとを断たないというわけでありますが、これに対する政府の所見及び対策を伺いたいと思います。
○大橋国務大臣 お尋ねのございましたように、公務員や公共企業体の職員が、国家公務員法、地方公務員法あるいは公労法と、明文の規定のありますにもかかわりませず、これに反する実力行使と称する行動、あるいは正面切ってストライキをかまえて争議行為に出るという事例は、遺憾ながらなお一部に見られるところでございます。政府といたしましては、公共企業体等の紛争にあたりましては、自主解決が不可能な場合には、すみやかに公労委の調停、仲裁等の手続を踏みますよう労使当事者におすすめをいたし、公労委の仲裁裁定が出ました場合には、これを完全実施するという方針で一貫して臨んでおることは御承知のとおりであります。また、国家公務員について人事院勧告に関しましても、極力これを尊重し、地方公務員についても人事委員会の勧告が尊重されるよう施策いたしてまいったところでありまして、今後ともこの方針で施策を進め、これらの職員の勤務条件を向上させるように努力をいたしたいと存じます。しかし、それにもかかわらずなお違法行為に出るような職員に対しましては、理事者側において法規に照らし、適正な処分をもって臨むべきは当然であろうと存じます。
○森山委員 政府の、争議行為が禁止されておるにもかかわらずなお実力行使と称して争議行為を行なう場合についてのお考えはわかりましたが、その争議行為の禁止については、一部に、完全な代償措置が必要とされているにかかわらず、わが国の場合は公務員、公共企業体職員の争議行為の禁止には完全にして十分な代償保障措置がないから、これらの争議行為の禁止はILO八十七号条約に違反するという説をなす者があります。この点について政府の見解を伺いたいと思います。この問題については、ILOの見解も出ておるようでございますから、この機会に争議行為の禁止とILO八十七号条約の関係を明確にしていただきたいと思います。
○大橋国務大臣 答弁を正確にいたしまするために、政府委員から申し上げます。
○堀政府委員 ILO八十七号条約は、その審議経過から見まして、直接争議権の問題に触れるものではないことは明らかでございます。これはILO八十七号条約の審議経過中に、条約案はもっぱら結社の自由を取り扱うものであって、争議権を取り扱うものではないということを数カ国政府が強調したが、この主張は正当のように思われる、こういっておるところでも明らかになっておると思います。また、日本に関する六十号事件の問題につきまして、――本委員会は、結社の自由及び団結権擁護に関する八十七号条約または団結権及び団体交渉権に関する九十八号条約が特別には取り扱っていない権利であるストライキ権一般のいかなる限度まで労働組合権を構成すべきであるかの点について見解を表明することは要請されていないと考える、こういっておるところでも明らかだと思います。
 ただ、ただいまお話しのようなストライキが禁止されるような場合におきまして、これを労働者の利益を十分に保護するための適当な保障措置が必要であるという、そういう原則の問題につきましては、ILOにおきましてもときどき出されております報告の中にもそのような趣旨を述べておるのであります。たとえば五十九年報告におきましては、――若干の労働者がストライキを禁止されるすべての場合においては、これらの労働者の利益を十分に保護するための適当な保障をこれらの労働者に対して与えることが必要である、と述べておるのであります。ただし公務員につきましては、公務員の雇用条件は法令によってきめられて、確保されておるのでありますから、公権力の機関として行動するこれらの公務員につきましてはストライキに参加することができないのが通例である、このように同じく五十九年の報告でいっているのであります。
 そこで、ただいま大臣から申し上げましたように、公労法関係の組合につきましては争議権は禁止されておりますが、かわりにいわゆる強制仲裁制度があることは御承知のとおりでありますし、また仲裁等はそのまま最近は完全実施される原則が確立されておるわけであります。公務員につきましては、ILOの述べております幾多の文書からも、直接法令で勤務条件が保障されておるという見地から、これとはまた別個の観点で見るべきであるわけであります。しかもその上に、ただいまお話しのありました人事院勧告、あるいは人事委員会の勧告というような制度もありますから、わが国の法制は、ILO八十七号あるいは九十八号、あるいはその他の一般的の考え方から申しまして抵触はしておらない、このように考えております。
○森山委員 この争議行為の禁止について代償保障措置というのは、ILOはどういうことばを使って表現しておるのですか。
○堀政府委員 ILOの五十九年報告によりますと、――若干の労働者がストライキを禁止されるすべての場合において、これらの労働者の利益を十分に保護するための適当な保障をこれらの労働者に対して与えることが必要である、こういう文句であります。
○森山委員 そうすると、現在の少なくとも公共企業体については適当な保障がされておる、こういう政府の見解でございますね。
○堀政府委員 そのとおりでございます。
○森山委員 次に、在籍専従の問題を伺いたいと思います。
 これは公共企業体にも公務員にも関係がございますが、今回のILO八十七号条約の関係法律といたしまして、公共企業体の場合も公務員の場合も、在籍専従制度を廃止することになっております。この理由を伺いたいと思います。
○堀政府委員 公務員は、本来全体の奉仕者として公務に専念すべき義務を有しておるのであります。また、公社職員も、公社の高度の公共性にかんがみまして、公務員に準ずるものとして職務に専念すべき義務を持っておるのでありますが、現行法のもとにおきましては職員でない者の労働組合の役員就任が認められておりませんために、もし在籍専従を許可しなければ労働組合にその業務に専従する役員を置くことができないこととなり、労働組合の運営が思うように行えないこともあり得るので、特に在籍専従制度が認められておるわけであります。
 しかし、今回ILO八十七号条約を批准することに伴いまして、本改正法案におきましては役員の選出を自由にし、非職員であっても労働組合の役員に就任し得ることとしたのでありますから、本来職員はその職務とする公務に専念すべきものであるということにかんがみまして、この際在籍専従制度を廃止することにしたものであります。
○森山委員 従来の在籍専従の実態を見ますと、いまお話しになったような意味においても廃止する必要があろうとも思われますが、従来の在籍専従の中には、たとえばある教職員出身の在籍専従者のごとき、教員の生活は一年足らず、今日まで十数年間専従職員として仕事をやってまいっております。そして、もうすでにか、あるいはこれから間もなくかわかりませんが、恩給か共済年金の期限が来るというふうに聞いておるのです。どうしてそういうことになるのか。学校の先生として子供を教えることを一生懸命やっているならともかく、学校の先生として子供を教えることはわずか一年足らずの経験しかなくて、あとはあげて組合の仕事をやっておる。しかも、今日まで十数年たって恩給がつくとか共済年金がもらえるとか、そういう事例があるということを聞きまして、私は現行の専従制度というものは非常に不合理があると思うわけでございますが、そういう点についてどういうお考えを持っているか、伺いたいと思います。
○堀政府委員 お話しのように、現在の在籍専従制度にはいろいろ不合理な面があると思うのでございます。これは、現行の法律体系が先ほど申し上げましたようなことになっております結果認められたこの在籍専従制度に伴うところの不合理な面でありまして、今回これが廃止されることになりますれば、その不合理な面はなくなると考えておるわけであります。
○森山委員 なぜ不合理な面があるかということを伺いたいのです。
○堀政府委員 大体、本来職務に専念すべき立場にある職員が在籍専従に従事するということが、たてまえからして不合理であると考えるわけであります。また、その在籍専従に従事します者が、お話しのように長い間その在籍専従に専念するというようなことになりますと、これもまた非常におかしな面があるわけでありますし、あるいはその在籍専従期間中におきまして、たとえば退職したときにおきましての退職手当というような問題につきましても、現在の法体系はいろいろ問題があるわけでございます。
○森山委員 問題は、その在籍専従というものの専従の法的性格ですね。私が聞いておるところでは、休暇ということです。休暇というのは、われわれは、一日二日休むとか、そういうのを休暇だと普通は考えておるのです。十何年も休暇をとるというような、そういう方法しか一体在籍専従というものにはないのかどうか、それを伺いたい。
○堀政府委員 ただいま私の説明がちょっともたもたしておりまして恐縮でございますが、私が、長い間、十何年もこのような在籍専従に専念するということが非常に不合理であると申しましたのは、いまのような休暇を受けて、しかもそれが長い間続くというようなことは非常に問題があるということでありまして、ただいまのお話のとおりでございます。特に民間等におきましては、現在わが国の組合が企業別組合であるというような点もありまして、若干まだこういうものが残っておるわけでありまするが、その場合においても休暇専従というような例は非常に少ないわけであります。でありまするから、現在の休暇専従というような問題につきましては、特に在籍専従制度の中でも不合理な面が著しい面ではないか、このように考えておるわけでございます。
○森山委員 しからば、どういう形における在籍専従があるかということになるわけでありますが、後ほど他の方々からも御質疑があろうかと思いますから、私は省略さしていただきます。
 ただ、在籍専従制度を廃止すると、非組合員たる過激分子が組合の役員として入り込んできて、組合運動が過激化することも考えられるのですが、こういう点についてはどうですか。
○堀政府委員 お説のように、在籍専従制度が廃止された後におきまして、企業と何の関係もない部外者が専従役員に就任いたしまして組合運動を指導するというようなことの可能性も考えられるわけでございます。しかし、政府といたしましては、組合運動も戦後十数年の歴史を経まして、徐々に組合民主主義が確立されつつある現状でございまするので、部外からの専従役員につきましては、このような基盤と背景のもとにおきまして組合員が選出するものでありまするから、在籍専従廃止によりまして摩擦も起こると思うのでございまするが、労使関係がこれによって悪化するというおそれは一般的には少ないのではないか、このように考えておるわけでございます。
○森山委員 この在籍専従を廃止するという原則は立てておられまするが、今回の改正法を見ると、附則で三年間の猶予期限を設けております。その設けられた理由を説明してください。
○堀政府委員 従来から公務員、公社職員関係の組合におきましては、在籍専従役員をもって組合が運営されておるわけでございまするので、この際一挙にこの制度を廃止するというようなことにいたしますると、組合の運営に支障を生ぜしめるおそれがありまするので、特に三年間の猶予期間を設けまして、その間に組合が在籍専従制度に依存することなく、みずからの力によって自主的に組合を運営し得る体制を確立されるということを可能ならしめるために、三年間は従来どおり在籍専従制度を認める、このように附則で規定しておるわけでございます。
○森山委員 次に、今度の公労法の改正法案の第十七条の二に「組合の決定又は指令であって、前条第一項の規定により禁止された行為を行なうことを内容とするものは、関係組合並びにその組合員及び役員を拘束しない。」とありまして、争議行為の決定または指令の不拘束性の規定をしておりますが、これはどういう趣旨で設けられたか、伺いたいと思います。
○堀政府委員 ただいまお話しのありましたように、公労法十七条で禁止されております争議行為につきまして、これを行なうというようなことを内容にする組合の決定、指令、これは現行法上におきましても当然のことであると考えるのであります。このような当然なことをなぜ今回新たに設けたかという御質問でございまするが、従来までこのようなことが当然と考えられておるにもかかわらず、上部の労働組合の決定または指令によりまして、十七条で禁止されている争議行為が行なわれてきておった例も見受けられるのであります。また、そういうような組合の決定または指令に従わなかったことを理由として組合が統制処分に付するというようなことは法律上無効であるわけでありますが、そのような考え方をする人が一部にある。あるいは公労法十七条で禁止されている争議行為を行なったことを理由にして解雇その他の処分を受けた場合におきまして、組合の決定または指令が上からあったのだ、それに従ったのだから責任はないのだ、このような抗弁も一部になされる場合があるわけでございます。こういうような法律上当然のことにつきまして、従来ややもすればこれに反するところの考え方があったわけでありますので、この際こういう当然のことをさらに明文をもって明らかにいたしまして、関係の労使にのみ込んでいただくという意味で十七条の二を設けた次第でございます。
○森山委員 そうすると、違法争議行為についての組合の決定または指令が組合員を拘束しない、そういう措置だというが、こういう規定を設けた結果相当な効果があるとお考えでございますか。
○堀政府委員 大体この種の規定は法律上当然のことでありますから、かりにこれがない場合におきましても、これは当然そのとおりなのであります。ただ現状は、一部においてややもするとこれに反するような考え方があるわけでありまして、そのような現状におきましては、このような規定を明文をもって設けるということは、関係労使に対してその趣旨を明らかにするという趣旨から有意義であります。しかし、これらのようなことが労使関係者に十分理解されるというような時代におきましてはこれは必要がない規定かもしれません。要するに十七条の二の規定は、従来の法律上当然無効であるということを念のために明らかにした規定であるわけであります。
○森山委員 条理上当然のことであるということをわざわざこのむずかしい法案の中に織り込んだということについては、相当な必要性を痛感されたから織り込んだのじゃないのですか。
○堀政府委員 先ほど申し上げましたいままでの実情にかんがみまして、必要性があると考えて織り込んでおるわけでございます。
○森山委員 また、こういう規定を入れると相当効果があると考えたから規定したのじゃないのですか。
○堀政府委員 政府といたしましてはそのような考えでございます。
○森山委員 そうすると、相当な必要があり、また相当な効果があるということでこの条文をつくられた、こういうふうに理解してよろしゅうございますか。
○大橋国務大臣 先ほど来、政府委員から申し上げましたるごとく、法律的にはこの条文は新しい法律上の原則をつくるものではなく、従来から解釈上当然と理解されておったことを明文をもってはっきりするという解釈的な規定でございます。したがいまして、必要があるかないかということになりますと、法律上は必ずしも必要なものと考えるべきではないかもしれませんが、しかし、書く以上は、ある程度書く意味のある場合もあると考えます。
○森山委員 こういう規定は法文として規定しなくとも当然のことを規定したものであるというお話でありますが、これは仮定の議論でございますけれども、かりにこういう規定がなくても法律的解釈には差がない、こういうふうに考えてよろしゅうございますか。現行法上でも同じだ、こういうことでございますか。
○堀政府委員 現行法でも同じでございます。そのような判例もございます。
○森山委員 現行法と同じだというのでございますが、ここに新たに十七条の二という項目が設けられた以上、この問題について、どうせ規定してもしなくても法律的に同じならば、という御意見もあろうかと思うのです。しかし、政治的に見ますればそういう必要性もあり効果もあると考えてつくった条項でございますから、政府としてはこの条項の重要性をどの程度考えられておるか、伺いたい。
○大橋国務大臣 政府といたしましては法律的に絶対に必要なものであると考えておらないことは、先ほど申し上げたとおりでございます。しかし、かような規定を設けることに相当有意義な場合もある、こう思っております。
○森山委員 先ほどお伺いした在籍専従制度廃止の問題、それからただいまの争議行為指令の不拘束、拘束しないという改正、こういうふうな改正によって今後公共企業体等の労使関係のより一そうの正常化を期待することができるというふうに政府はお考えですか。
○大橋国務大臣 そのとおりでございます。
○森山委員 公共企業体関係はあと一問で終わりたいと思います。
 すでに公共企業体等の関係のあり方について、臨時公共企業体合理化審議会その他の審議会から答申が出されておると聞いております。いろいろな問題点がある。政府は、現在公共企業体等のあり方で健全な労使関係を確立し、業務の正常な運営を最大限に確保することができると考えているのかどうか、公共企業体等の根本についてのお考えを承っておきたいと思います。
○大橋国務大臣 公共企業体の労使関係のあり方につきましてはいろいろ問題の存するところでありまして、今回の改正においてもその正常化をはかるために若干の措置を講じているところであります。もちろん公共企業体の労使関係の正常化をはかり、その業務の正常な運営を確保するためには、今回の改正をもって十分とは申しがたく、政府といたしましては、今後ともさらに労使関係の正常化のためにできるだけの努力をいたしたいと存じます。
○森山委員 公共企業体関係の質問はひとまずおきまして、次に公務員の関係についてお伺いいたしたいと思います。
 まず、端的に私は、ILOの批准に伴って共産主義運動が労働運動面にどういう影響を及ぼすか、特に公務員の場合をお考えになって、公安調査庁のお考えを聞かしていただきたいと思います。
○齋藤(三)政府委員 ILO条約の批准に伴いまして、どのような共産主義運動が労働組合運動に影響を与えるかというお尋ねかと存じまして、お答え申し上げます。
 まず考えられますのは、レッド・パージであるとか、あるいはいろいろな事情で現在組合外におる共産党員、あるいは政治活動家が組合員に入るとか、あるいは労働組合の役員になるということが可能となると存じております。したがいまして、さような場合になりますと、それらの人々の抱く階級闘争主義あるいは政治闘争主義というものが組合の活動にいろんな影響を及ぼすのではないか、かような点をまず第一に考えております。
 しかしながら、反面、最近の傾向でございまするが、労働組合の中で社共の対立、あるいは日共のしめつけというような傾向もございます。したがいまして、さような傾向がそれらに対してどのような影響を及ぼすかということは、今後の労働組合の動向いかんにかかわるものと存じております。
 また、国家公務員の問題でございまするが、現在国家公務員は、全体で党員が二万五千くらいと私どもは推定いたしております。大体官公庁の労組は総評に入っておりまするが、六十組合の総評傘下のうち三十四組合が官公庁関係でございます。また四百万の総評の加盟員のうち二百四十万が官公庁労組ということになっておりまして、官公庁労組がわが国の労働運動に対して非常な大きな中心勢力になっておるというふうに見てよい、かように存じております。現在官公庁労組の日共党員二万五千と申し上げましたが、そのうち数の多いのは教職員関係あるいは自治体関係、国鉄、電通関係などであります。また、組合人員に比較しまして党員の割合の多いというのは全税関、全司法、全国税、全建労等が見られるのであります。かような関係で、これらの官公庁労組に対する本条約の影響については十分戒心を要する必要がある、かように存じております。
○森山委員 ただいま公安調査庁の長官からILO批准に伴う共産主義運動の影響、労働運動面への影響の一端のお話があったわけでございますが、その際、公務員の組合運動の現状のまた一端のお話があったわけであります。この際、この条約批准の結果憂慮すべき事態が生じないかということを政府の立場――公安調査庁も政府でございますけれども、公務員の給与等を担当する主務大臣としての労働大臣から御見解を承りたいと思います。
○大橋国務大臣 最近におきまする職員団体の動向等をながめてまいりますると、逐次健全な方向に進みつつあるように存じます。また、現在の状況から考えられますることは、今回の国内法の改正によりまして役員選出の自由の原則の結果、職員以外の者が役員に就任することが法律的に可能になってまいりまするが、このことによりまして現在の組合における勢力関係に大きな変動を来たすような事態はない、こう考えておるのでございます。
 しかし、事は重大でございまするので、今後政府といたしましては、職員と協力いたしまして、相ともに組合の健全化に努力をいたしたいと考えております。
○森山委員 私は、この種の質問を国会で承っておりますと、関係大臣からも、労働運動は逐次健全な方向をたどって心配がないというふうに、たいへんさわりのない御返事があるわけでございます。はたしてわが国の国家公務員の場合の労働運動のいき方というものについて、それほど楽観してよろしい状態であるかどうか、もう一度重ねて伺いたいと思います。
○大橋国務大臣 国家公務員の労働運動も、やはり国内の組合運動の大勢に全然切り離れた動きはあり得ないのでございまして、わが国労働運動の健全化への傾向というものから考えまするならば、私は大きな心配はない、こう存じております。
○森山委員 そういう御見解もけっこうでございますが、それでは伺いたいのです。先ほど公安調査庁の長官から二万五千名の公務員関係の党員がおる。数で多いところとともに、比率の多いところとして全税関、全司法、全建労、全国税等があげられたわけですが、この種組合の行き方については、大臣はどういうふうに考えておられるか、承りたい。
○大橋国務大臣 御指摘の組合は、公務員職員団体の中では、いわゆる左寄りの組合でございまして、かねてから政府といたしましても、これらの組合の動向につきましては注意をいたしておるところでございます。そのために、関係当局に対しましては、十分に管理体制の強化によって組合の過激な行動を避けるように注意を喚起しておるところでございますが、今回の公務員法の改正その他の新しい法案の実施に際しましても、ますますこの点に留意をいたしたいと存じます。
○森山委員 公務員の組合運動の中には注目すべきものがいろいろあるわけでございますから、政府においてこの点格段の留意をいたされるように私は希望をいたしておきたいと思います。
 (以下略)

(註1)中西實「三一年の公労法改正に関連して」『季刊公企労』70最終号
その他引用・参考
堀秀夫「ILO八七号条約批准問題(1)「ドライヤー委員会」の思い出」『季刊公企労』70最終号
鈴木伸一「日本の労働立法政策-ILO八七号条約批准問題をめぐる政策決定過程」『季刊人事行政』19号1982-2
人事院『国家公務員法沿革史. 資料編 』1969~1972

2007/01/14

6年前の公務員制度改革についての意見書

  雑用ができて時宜にかなった内容のブログを書く時間がなくなったので、今回のエントリーは、労力を省いてパソコンのなかにあったものを出すだけにします。
 6年ほど前、平成13年小泉政権が誕生した年の通常国会の終盤の時期に国会議員に封書で送った公務員に労働三権付与反対と公務員制度改革に関連する意見書の一部です。元々私は文章が下手だが今読んでみると、掘り下げ方が乏しいし、多岐にわたる論点を盛り込みすぎ、引用のつぎはぎが多く、こなれていない内容で表に出すには恥ずかしい文章ですが、今話題になっているホワイトカラー・エグゼンプションというかコアタイムのある裁量労働制待望論も書いていたし、ほぼ素の意見、本音で書いているものなので比較的穏やかに書いてある一部分にすぎないが転載することとします。なお、以前書いたブログの内容と若干重複するところがあると思います。又、これは「ながら条例」改正前のことなので現在とは状況が違うものもありますが、6年前の状況をそのまま伝えることとした。言葉の使い方で疑問もないわけではなく、引用文献が不明になったものもありますが、一部のみ修正しほぼ当時のままで転載します。

川西正彦 

  公務員制度改革の方針に概ね賛成であり、身分保障の廃止、人事院の廃止又は機能の縮小による各省庁の人事管理の強化も含めて正しい方向だと思うが、自民党の太田誠一行政改革本部長が労働基本権の回復も辞さずと表明されていること(週刊労働ニュース2001-5-28、5月22日の連合主催シンポジウム)に反対であり、概ねこの問題一本に絞って意見を述べます。
 能力・成果主義の導入については異論はない。わが国の企業は戦後、電産型賃金体系に象徴されるような生活年功給として再編されたが、1975年に高度成長が終焉し、雇用か賃金かの選択に迫られ、労使は年功主義を捨て能力主義に転換した、さらに90年代後半の低成長と高齢化により、再び雇用か賃金かの択一を迫られ労使は雇用の安定を求めて、上級職能に定昇がなく業績によってその都度リセットされる成果主義賃金を取り入れた(注1)。楠田丘によれば21世紀の日本型人事は、「人材育成のための能力主義(昇格)、実力と意思・適性によって職責を決めていくための職責等級制(昇進)、本人のチャレンジ意欲を含めて役割を設定する目標面接制度(MBO)、その達成度で処遇する成果主義(昇給)の分離4本立て」(注1)と説明している。
 民間大企業の企業内組合は新しい人事管理の導入に協調的であり、主要120社のうち8割以上が一般社員の成果・能力主義人事・賃金制度が導入ずみである。しかし公務員の労働組合は民間の企業内組合とは体質が異なり、従来型の集団等質主義人事・年功序列・自動昇給賃金体系に固執するのであり、公務員制度改革が目指している能力・成果主義やそれに伴う人事管理の強化に反対するに決まっている。ストライキ権の付与など労働組合を増長させることはもってのほかであり、公務員制度改革の方向に背反する。
 わが東京都水道局においても自己申告による目標面接制度---これは1961年にエドワード・C・シュレーによって具体化され、アメリカではホワイトカラーの目標面接制度(MBO)としてはじまり、80年代の不況期にはGM・フォード・GEのリストラ、リエンジニアリングで浮上してきたもので、日本では重化学工業の集団目標管理に導入され、90年代後半から大量に抱え込んだホワイトカラ-を対象として広範に導入されている---があるが、労働組合は勤務時間・勤務場所内職場集会で所長に尻を向けて、所長席前から号令をかけて、異動希望以外について記載をしないよう団結強制し、自己申告の形骸化を図るとして組合員の申告書を検閲するためコピーの提出を義務づけており、異動希望を聞く以外に上司との面接は行われていない。
 一般職員の勤勉手当の成績率導入も阻止されている。同じく違法職場集会で勤務評定についても組合との協議でいかなる職員も良好以上の評価とする無差別な在り方となっており、これを維持していきたいと競争主義は悪であり許さないとアジ演説をしている。
  業務遂行方法についても、勤務場所内職場集会で労組の方針と違う能率的なやりかたをしている営業所を追究するなどと威嚇・威圧して、労働組合ができるだけ非能率的な業務遂行方法に職務を統制しようとしているわけです。勤務時間勤務場所内の職場集会(当局が頭上報告として積極的に容認しているものを含む)は年中頻繁になされており、当局は認めないが明白な業務阻害であるにもかかわらず、就業命令・解散命令など一切出すことはない。

 毎年スケジュール化された争議行為期間が組まれ事実上組合の職場支配となる。勤務時間内に所長席前に陣取ってお客さまからの電話がりんりん鳴っている状況でアジ演説がなされスト権投票の呼びかけがあり、役員が号令をかけてふれまわって棄権させないようにし役員監視の状況で投票がなされ(業務阻害になるにもかかわらず施設が便宜供与される)、勤務時間内の屋外の闘争決起集会には必ず一回動員すると団結強制し、壁面等にビラ貼りが連日なされ、超過勤務拒否闘争などの戦術がある。
 所長要請行動が頻繁になされ、所長席の天井や周囲にビラが貼られたり吊り下げられた状況で、組合員が取り囲んで所長に怒鳴りつける。所長は恥じることもなく、組合の走狗となって、組合の要請を本局に伝達者として出張するのである(香淳皇后の葬儀においても、所長は黙祷時間には逃げ出してしまい組合が仕切って庁内放送のボリュームをしぼって黙祷をさせないようにした。弔旗も掲げられなかった)。
 これらは全く年中行事化しており昨年度も三ヶ月間あった。いわゆる警告ストライキ、間欠ストライキ、遵法闘争に類する態様であるが、勤務時間内職場集会(いちいち判例をあげない)、超過勤務拒否争であれ―――― 昭和63年最高裁第一小法廷北九州市交通局三六協定拒否闘争事件判決〔民集42巻10号〕によりますと、地公労法は、「職員及び組合は、地方公営企業に対して同盟罷業、怠業、その他の業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。また‥‥このような禁止された行為を、そそのかしあおってはならない」と規定し、右規定に違反する行為をした職員を解雇できると規定し、昭和52年最高裁大法廷名古屋中郵事件判決〔刑集31巻3号〕各事由は、地方公営企業職員にも妥当し、私企業におけるような団体交渉による勤務条件の決定という方式は当然妥当しないと述べたうえで、組合要求を貫徹するための超勤拒否闘争は争議行為であり違法と司法の判断は確定しております――――ビラ貼り(昭和54年10月30日最高裁第三小法廷国労札幌ビラ貼り事件判決)であれ、司法で懲戒処分を適法と確定している事柄である。
 しかし当局は組合分会長や書記長等が争議行為をそそのかす行為をとっているにもかかわらず、処分されることはなく、座り込み闘争の指令など限定的にしか処分の対象としておらず、労働組合を増長させている。
 組合の要求項目には職員定数削減など管理権事項に関わる項目も多く、昨年度も組合は今年も現業新規採用何名を勝ち取った。定員削減提案を押し返した。現業委託業務化のたくらみを阻止した勝利だなどと称している。
 従来、引越による中止精算などの伝票はすべて手書きで委託業者のキーパンチャがオンラインシステムに入力するという能率的でない方法だったが、今年の10月からパソコンが導入されるようになった。
 組合は、OAは悪であり、パソコンは仕事にのめりこませるので悪であるなどと時代錯誤なことを言い、昨年度の争議行為によって一人一台専用を許さず、共用を原則とし、ダイレクト入力阻止を勝ち取ったと称している。電話で引越を受付るとき、直接パソコンに入力すれば早くすむのに、いったん手書きでメモにとったものを電話をきってから入力させるというのである。 〔現在はお客様センターというコールセンターが出来たので状況は違う〕
 民間企業はむろん合衆国の連邦公務員でもペーパーワーク削減は業績評価の重点項目になっているのに、あくまでもペーパーワークは削減させないというもので、労働組合の職務統制で非能率的な業務遂行方法を強要されるは全く不愉快である。こんなことを繰り返していたら、いつまでたっても超コスト構造で行政改革になりっこない。
 私は現状でも我慢の限界を超えており、ビラが壁面や机などの脇に貼られて、業務遂行に集中できない敵対的で不良な職場環境であると上司に訴えている。というより私はビラを剥がすこともある。これは江東営業所のことだが、ビラを剥がしたところ所長が有形力を行使して私を転倒させひきづりまわされた。いわば労使結託して私のような非組合員の団結強制に従わない行動を抑止しようと躍起なのである。そうしたことで事実上の間接管理といってもよい。
 われわれのような下っ端の職員は組合役員に組織強制・職務統制され従うべきものという前提があり、管理職は組合役員だけ相手にしていればよく、むしろ組合が強い方が直接管理といえる個別の目標面接制度などに管理職がかかわらず楽な仕事でいいとでも思ってるんじゃないか。私は勤労者として真面目に、組合により有形・無形を問わず業務遂行を阻害されることなく、使用者のために業務を遅滞することなく誠実に労働する義務を果たしていきたいという最も基本的なことを言っているだけでありますが。現状ではそれは絶対に認めないということになっている。
 私は、理念的には憲法28条廃止、ILO脱退(これは中長期的目標-ノンユニオニズムを国家戦略にしてほしい)、勤労者に組合の団結強制から保護する権利の付与、すなわち団結否定権(団体行動せざる自由、ストに参加せず就労する自由)の付与(注2)。組織強制の規制、ユニオンショップの否定、エージェンシーショップの否定(合衆国南部を主として22州が自由勤労権を保障している)、ピケッティングの規制(英国のように六人以下で平和的なものに限定、就労者の通行阻害の否定)、団結自治の否定、例えば公認ストライキ投票制度(英国のように郵便投票により第三者の監査が入る制度、ストライキが公認されても勤労者の団結否定権を付与)といった徹底的な反組合政策が理想と考え、極論すれば1800年の宰相小ピットの提案による団結禁止法(注3)が最善とすら思ってるくらい団結とストを嫌悪する人間だが、むろん現実的なものではないかもしれない。
 日経連がILOに参画し、多くの経営者が、労資協調的な企業内組合に満足しユニオンショップを無難なものとみなしており、実際、組合のある大企業は、実質的にオスターマンの「サラリーマン型」内部労働市場型というアメリカの非組合企業の経営の在り方に近いからである(中略)。 
 ジャコービィによれば「(戦前の)日本では全国的な職能別組合は著しく弱く、全国組合の規制力はむしろゲームに遅れて、巨大企業、人事管理、福利厚生、現代大量生産技術などが発展した後に生まれた。戦後の日本では経営側が技術と内部労働市場の管理を一手に握り、労働組合は労働過程と企業内での人員配置にかかわる管轄権を放棄した。人員配置の計画段階から発言力をもっているアメリカの労働組合と違って、戦後日本の組合は、既成事実を上から与えてそれに順応することを迫られた」(注4)のであって、日本の企業内組合が欧米の職務統制型組合と性格を異にし、人員配置や技術導入の意思決定に経営者が不可侵の特権を有したことが、日本の経済成長と成功となった。であるから、民間の労働組合が有害だという認識は一般的にはないかもしれない。
 例えば、電機業界では富士通、横河電機、NEC、東芝、松下電器などが多くが成果主義や裁量労働制を導入し、特に富士通は徹底していて、専門職にとどまらないスピリット制度という裁量労働制をやっているという。電機連合は、能力賃金、裁量労働制を柱とした議案「新しい日本型雇用・処遇システムの構築」を採択した。
 電機連合が個別業績主義に反対しなくなったのは、競合他社との激しい競争があるから。アメリカのハイテク産業は非組合企業だから、先進的なシステムでないと業界の激しい競争に勝ち抜いていけないからであって、公共部門の労働組合とは全く事情が違うから-----私はスピリット制度を一般職員に適用できる在り方が一番良いと思います。これは、実質的にコモンローに基づくイギリスのホワイトカラー及び事務員(クラーク)や家事使用人の働き方(誠実労働義務により任意の残業はむろんのこと手当を支給する義務はない*〔原文に追加、イギリスではもともと成年男子は安全上規制のある業種しか時間規制はなかった。保守党政権の規制撤廃政策で成年男女の規制はなくなり残った労働時間規制は、1933年および1963年の児童少年法による13歳以上の就学児童の労働時間、日曜労働の禁止のみになっていた。ところが労働党政権になって、保守党政権が無効を主張していた「EU労働時間指令」の有効性が欧州裁判所の判決で確認され事情は変化しているhttp://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2004_5/england_01.htm)、アメリカのホワイトカラーイグゼンプトの働き方と大体同じことですが、富士通はみなし労働時間を9時間にしているので、定額の業務手当を払っている。中規模企業では定額の超勤打ち切り手当という方法をやっているらしい。これは労基法と整合しないが、実質的にスピリット制度に近い〔引用文献不明〕。みなし8時間にすれば手当を払う必要はないわけで、それが最善だと思うが‥‥‥公務員でもコアタイムの職務専念を前提としたうえで任意残業は自由にして、行動規範を加味した成果主義で評価するというやり方でよいと思う。富士通のスピリットのように定額手当があり(私は必要ないと思うが)、なおかつ行動規範を加味した成果主義によりそれなりに評価されれば、その人にとってもプラスになる----。
 しかし水道局の労働組合(全水道東水労のこと)というのは、とにかく、年功賃金、自動昇給維持、競争主義反対、勤勉手当(三回めのボーナス)差別支給反対、労働保護規制撤廃反対、時差出勤やフレックスタイムも含めて柔軟性のある働き方に全て反対で、他の公務員労組もだいたい同じことである〔民間企業の組合とは性格がかなり違うということ。いままでどうり、節度のありすぎる能率的でない働き方で組合が仕切っていくやり方〔組合の職務統制のこと〕から変わるなどということは全く考えにくいことなのである。
 都労連は税収が増えたから賃上げだとか無茶苦茶なことを言っている。東京都は年に三回ボーナス(期末手当・勤勉手当)があるが、本来ボーナスというのはアメリカの非組合企業のやっている利潤分配制に変わるもので、会社の業績次第で変動するものである。税収は業績ではない。
 民間企業がリストラをやった成果で収益を維持しているから税収が入るのだから、それを生産性の低い公務員が収奪するというのはけしからんことだと思います。業績が悪化すればカットされるのが筋である。
 市場抑制力が欠如し競合他社との競争のない公共部門の労働組合は民間の労働組合と同一視できない。組合を制御するには相当なリーダーシップがないと無理。
 三重県で管理権事項も含めた労使協議制をやってるようだが、きわめて危険な取り組みだと思う。北川知事は組合を制御できる自信があるのかもしれないが、実際、この前の事前承認のない勤務時間内組合活動問題(水道局にも午後三時以後役員以外でも組合活動の離席自由などの不適切な慣行がある)でも、結局わかりにくい決着になってしまった感がある。私は労働組合の力の濫用を認容する監督職員に虐められている下級公務員である(上層の人事管理部門はそれを救治することを絶対にしないという閉塞状況)私は肌身をもって公務員の労働組合は有害であり悪質であると認識している。
 太田誠一行政改革本部長は労働基本権の回復も辞さずとして、内閣総理大臣が労働協約締結の交渉当事者となると言う見解を示されている。公務員制度のネオコーポラティズムの方向と解釈しております。
 この場合団体交渉事項の範囲が問題になります。たぶん法令規則等で既定の事項や、公務員制度の内容をなす事項、行政機関の任務、機構、予算構成、能率、技術革新等のいわゆる管理権事項は団体交渉事項から外すのだろうが、交渉事項の範囲の設定は公務員特有の難問があるだろう。組合側は業務遂行方法や管理権事項に踏み込んで範囲の拡大を要求するに決まっている。
 ストライキを認めるということだが、組合のピケッティグやパトロールによる就労妨害を是認するのですか。
就労したい非組合職員は襲撃され威嚇と暴力のなすままにされるのですか。労働組合は非組合員をフリーライダーとして認めないユニオンショツプが妥当との見解ですが、非組合員を認めますか。団結否定権やスト不参加者にインセンティブがあるような在り方にしますか。 労働組合の力の濫用から、事業・仕事・個人を保護するいかなる手だてをとりますか(例えば英国は公務員も民間も同じ土俵の法制だが、一般市民が高等法院に争議差し止め命令を申し立てる権利を認め、このような訴訟を奨励し、助力するための機関として「違法争議行為に対する保護のためのコミッショナー」を設立し、公益事業のストの歯止めにしている-注5)。
 
 (中略)
日本の大企業の多くは労使協調的な企業内組合があるが、オスターマンの内部労働市場の類型論でいうとアメリカの非組合セクターのモデルに類似しており、大局的にみれば労働組合の衰退によって日本型に近い経営手法に接近していったともいえる(組合セクターでもGMのサターン実験など日本的手法を取り入れた)
 アメリカの労働組合組織率は2000年に民間で9%、公共部門が37.5%にまで落ち込んだ。協約適用労働者の範囲はこれより高い数字となろうが、あと10年すると民間セクターでは5%に落ち込むと言われており、非組合主義が主流になることは疑う余地がない。
 もはや、団体交渉の普及といった赤い30年代のニューディール主義者の労働政策は古臭く、ばかげたものである。もうそういう時代じゃない。だからニューディール主義者が勝手につくった憲法28条も古くさいし廃止すべきだと申し上げている。連邦公務員だって団体交渉を導入しない方がよかったわけだ。
 とはいっても非組合-現代ウェルフェアキャピタリズムは80年代から90年代に大恐慌以来の試練を経験した。
 古くからの代表的な非組合企業でノーレイオフ主義のイーストマン・コダック、IBM、シアーズ・ローバックなどが、リストラに踏み切ったことである。コダックは競争相手のない市場で高コスト生産者になった例であり、IBMは93年までに10万人を削減した、シアーズは5万人のレイオフを断行した。シアーズの競争相手はディスカウントストア(Kマートやウォルマート)であるが、競争の激しい業界で温情主義的経営を維持することは不可能になった。高コスト構造のウェルフェア企業はリストラを余儀なくされたのである。
 アメリカの産業別組合は厳格な職務統制と年間賃金保障のような所得保障を選び取った(労働組合は企業が失職中の補償を行う限り定期的なレイオフを容認し、終身的な雇用保障は求めなかった)。先任権は中位の組合員に有利な制度であった。これに対して、非組合セクターは暗黙の社是としてのノーレイオフ、シングルステータス政策にみられるような人当たりの善さ、気前よい報酬と給付その他制度(利潤分配制を含む)の全社的政策などで、組合セクターに対抗していた。従来、レイオフが多いのは組合セクターであって、非組合セクターは沈滞期の給与カット、労働時間削減などのワークシェアリング、社内配転、訓練、能力開発でレイオフを極力避ける経営を行っていのだが(これは日本企業も同じ。パートタイムなどのコンティンジェントワーカーが雇用保障を維持するクッションになっていることも同じ、日本では企業内組合の職務統制の欠如が、レイオフに変えて、配転その他の手段による雇用保障の順応を容易にしたとされる)、株主主権が強調され高コスト構造の企業のリエンジニアリングはやむをえないものとなっていったのである。
 90年代従来になかったホワイトカラーのレイオフも断行されたことは衝撃だった。このことは、同じ体質の日本の大企業にもいえることであった。それ故ホワイトカラーの働き方が議論され、日経連の政府規制の撤廃要望にみられる労働基準法の罰則規定の廃止、全ホワイトカラーの裁量労働制の適用などの労働改革の必要性が強調されたのであるが、連合や民主党などの反対により、労働改革は中途半端で妥協的なものになっている。私は日経連案丸呑みが一番よかったと思う。アメリカで労働時間規制適用除外のホワイトカラーは40%というなら、日本は50%以上にして生産性を高めていくという積極的な施策じゃないとだめだと思う。
 ところがアメリカではリストラ後もウェルフェア企業の体質は変わっていないとジャコービィは言っている。
 コダックは大規模なレイオフを断行し地理的分散によるリストラを行いながら、なおロチェスターに数千の従業員を擁し、教育訓練、賃金配当制を含む諸付加給付に巨額な支出を行っており、社員のレクリエーションも相変わらず重視され、自社製品割引制度も続けられているらしい。労使結束して自らを「ファミリー」と称し、組合を寄せ付けない要塞になんら変わりないことを誇っている。1995年に大企業20社が自社労働者の児童ケア、老齢者ケアに数百万ドルを投ずると約束したが、コダックのほか、ヒューレット=パッカード、IBM、モービル、テキサス・インスツルメントが含まれている。アメリカ社会の危険負担の中心的制度が今後も会社であり続ける公算が大きいので、この種のエリート企業の福祉政策は続行されるとみられている(注11)。

 しかし今日においてアメリカ企業の人事管理の重要な戦略は、第一にダウンウンサイジング(正規雇用を減らしてコスト削減)例えばヒューレット=パッカードは基幹従業員の専門職を保存するため、必要度の低い部門を切り離して、事務職とサービス職の一部を給付と雇用保障のない「フレックス部隊」にするリストラを行った。
 もう一つは内部柔軟性(職務の定義を拡大し、市場の圧力に応じて組織の内部で柔軟に異動させる能力)を高めることである。アメリカでは60年代後半から、職務記述書と職務評価による職務等級制度が普及したが、この制度は成果より出世志向になる難点があったため、80年代から職務等級制度はそのままで、目標管理を組み合わせる成果主義を取り入れた。
 90年代になると職務等級制度の序列構造自体が問題視され、新しい成果主義の潮流にある。大企業は組織のフラット化、MBA取得者が幅をきかせるスタッフ官僚制の打破、顧客満足度の重視から官僚的体質の組織を解体しつつあり、すなわち職務等級のブロードバンド化と、職務評価の廃止してコンピタンシーの重視、市場給与相場の重視、ハイテク企業や金融業界は職務等級なしで市場給与相場比較のみになっている(注13)。
 市場給与相場による報酬体系では毎年のベースアップは否定されることになる。日本企業は従来から内部柔軟性があり、成果主義は取り入れやすいのであって日米の雇用システムは収斂されていく傾向にあるとみてよい。
 結論はこうです。そもそも英国では制定法上の主従法に規律される工場労働者と、コモンロー上の主従法に規律される、事務職や家事奉公人との区別があり、社会的地位も異なるのである。故にホワイトカラーと工場労働者を区別して議論する必要があるが、ここではラフな議論をします。
 終身雇用というのは基本的に需要が安定している企業に成立する。アメリカはコモンロー上解雇自由原則であるにもかかわらず、非組合大企業が雇用保障政策をとった。産業別組合は雇用保障ではなく所得保障に重点を置いたから対抗上そういうことになったともいえるが、社内配転の容易な長期雇用はヒューマンリソースマネージメントの利点があり、組織が硬直化して新技術を導入しにくい組合セクターより相対的に有利な状況をもたらし、労働組合の衰退は確実になった。アメリカの経営者は組合を恐れなくなり非組合企業どうしの激しい競争になっている。こうなると従来型の非組合セクターの人道主義は高コスト構造となり、リストラを余儀なくされた。経営基盤の強い企業は人道主義を維持するだろうが、強いマネージメントがなければ雇用保障は維持できなくなった。厳しい見方をすればウェルチが述べているような論法に辿り着く。従業員は競争に勝ちたいという意識を持って会社に来るものとなる。雇用保障は顧客を満足させる仕事ができるかどうかによる。ただ顧客だけが雇用を保障するのであり企業ではない。企業は終身的な雇用を保障できなくても、継続的な訓練や教育により生涯にわたる雇用の機会を得られるようにすれば、それは善い企業である。ということになるだろう。もっとも、優れた企業風土と組織力、卓越したマネージメントのある非組合企業は、ノーレイオフを維持しているのである。長期雇用を望む人は会社をよく選択するということでよいのだと思う。
 日本も状況的には同じことであるが、世界一の人件費にもかかわらず強固な雇用保障を続行している。人員削減をして初めて、IT導入が生産性向上に繋がるのであって、人員削減をしなければ意味がない。労働組合が雇用の確保に重点を置いているためである。
 ただ、能力成果主義人事管理は相当浸透した。しかしこれはアメリカのは非組合セクターでやってきたことである。
 例えばIBMであるが、90年代初期の業績悪化で大規模な人員削減をしたとはいえ、典型的な長期雇用ノーレイオフ主義企業とみなされている。
 IBMの目標管理は、年初に各人が目標を設定し、年末にその結果を提出し、上司がこれを評価するもので、個々人の目標には、<1>会社目標の達成につながるもの<2>組織的な改善と個人スキルの向上をもたらすもの<3>チームとしての目標の三種類がある。また人事評価は<1>本人<2>直属でない上司<3>同僚<4>直属の部下<5>顧客<6>直属の上司からの評価を総合・調整のうえ、決定される。三百六十度評価システムという。給与は、<1>個人の長期の成果の反映である基本給部分(市場給与相場によると考えられる)<2>企業業績、個人業績から決定される変動給部分から成っている(注14)。もっともIBMは教育訓練、能力開発投資に比重がかかっていて、教育投資分を回収する成果を上げてもらわないと困るわけである。これは長期雇用型といっても、毎年のベースアップや自動昇給は否定されているシステムである。
 つまり、長期雇用を社是とするアメリカの非組合セクターは個別業績評価が基本であり、長期雇用を前提とする限り、それが最低限の要求であるというのは日本でも取り入れられ、公務員を除いて常識になった。
  しかし、公務員労働組合は、競争主義と個別業績評価は悪と再三再四強調している。実際にある職員が今月は誰それよりよい成績を残すぞと言うと、組合役員が競争主義はいけないよと釘をさすような職場である。係長がノートパソコンを持ち込んで仕事をしていると、組合役員がつかつかと寄ってきて叱りつけるような職場である。
 勤務評価は例外なく良好以上の評価、全員特別昇給も順送りで組合協議〔この点は状況が変わっている〕、自動昇給システム等の維持を一貫して変えることはない。身分保障もなにもかも維持したいとしているのが組合であり、管理職でなく、組合役員の指揮による職務統制(節度のありすぎる生産性の低い働き方の強要-事実上の間接管理)という体質を変えることはない。どうして労働三権を回復することと、人事管理等制度の改革が両立するのだろうか。ありえないことである。
 長文になったが総括します。そもそも個別の賃率決定や業績評価あるいは目標面接は非組合セクターもしくはホワイトカラー(合衆国では組合セクターでも、ホワイトカラーは非組合が一般的)の人事管理であったとみてよい。
 イギリスでは従来のショップスチュワードによる間接管理からヒューマンリソースマネージメントや目標面接等の直接管理が普及し、個別の業績評価が普及するようになったのはサッチャー及びメジャー政権下の労働改革で労働組合の力が弱体化した状況によるものである。
 であるから、いわんとすることは能力成果主義の導入と労働組合を増長させるような政策とは全くの論理矛盾としか思えないのである。ネオコーポラティズムはだめだと思います。最善のマネージメントとはリエンジニアリングであれ、ダウンサイジングであれ、経営者が自由に設計できること。
 つまり団体交渉がないことであり、労働組合の駆逐である。そしてそれが個々の勤労者にとっても有益であることを次の機会に述べたい。むしろユニオンバスター政策に転換して労働組合を切り崩し、強硬に身分保障廃止、徹底した能力成果主義を導入するやり方の方が、行政改革として成功するのではないでしょうか。

(注1)楠田丘「職能資格制度の明暗と将来展望」『日本労働研究雑誌』489号、2001年4月号

(注2)タフトハートレー法は周知であろうから注記しないが、英国の保守党政権による労働改革で筆者が最も高く評価している文書は1987年英政府緑書『労働組合と組合員』で、個人が争議行為の呼びかけを無視して就労することは「欠くべからざる自由」との原則論を示し(古川陽二「翻訳と解説:英政府緑書『労働組合と組合員』」『沖縄法学』16号、1988)これは労働改革の仕上げであるメジャー政権において勤労者の権利として確定されたようだ。

(注3)神崎和雄「イギリス団結禁止法に関する試論」『 関東学園大学紀要経済学部編』第10集1985

(注4)S.M.ジャコービィ著 荒又重雄他訳『雇用官僚制』北海道大学図書刊行会 1989

(注5)山田省三「一九九〇初頭のイギリスにおける労使関係と労働法の動向」『労働法律旬報』1370号、1995
鈴木隆「イギリス労使関係改革立法と労働組合改革」『島大法学』39巻3号

(注11)S.M.ジャコービィ著 内田一秀訳『会社荘園制-アメリカ型ウェルフェア・キャピタリズムの軌跡』北海道大学図書刊行会 1999

(注13)高橋俊介『成果主義』 東洋経済新報社、1999

(注14)『日経連タイムス 』  1996/09/26  「関東経協視察団の見た欧米企業、良好な労使関係構築へ努力/変動型賃金制度に移行
 
 

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