英国近世における反独占、営業の自由の確立の意義(3)
今回も前置きです
宮沢元総理の葬儀がありましたが、アメリカ人は働かなくなったという発言が顰蹙をかったことを思い出します。そんなばかなことはないですよ。製造業労働者の年間実労働時間だけを見てもアメリカは1993年から2000年にかけて日本を上回って働いてます。OECDの統計でも一人当たりの年間労働時間は1998年から2001年までアメリカが日本を上回ってます。PDF http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/documents/7-2.pdf
http://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2004_5/america_01.htm
私が思うには統計以上にアメリカ人はもっとよく働いているのではないかという気がします。専門職なら週70~80時間は当たり前、エグゼクティブは想像を絶するほどよく働くともいわれますから。元総理は勘違いをされていました。
それはともかく6月ブログで書いた、「『パプリックスの奇跡』について」と「高業績業務システムと90年代以降の仕事遂行方法」でなにが言いたかったかというとコミットメント型の従業員関係が優れている。従業員の仕事に対する熱意を企業成長のエンジンにすることのできる社風、組織に共有のメンタルモデルのある企業は強いということです。ウォルマートやパブリックスがこれにあたります。
このことをより明確にするために、後に反コミットメント型の企業の例も取り上げて比較しますが、ビジネス書を読むと「コミットメント」はかなり多義的に用いられています。ここで言っているのはカルロス・ゴーンの言うような達成目標とか具体的なことでなく、もっとも単純な意味です。骨身を惜しまず誠実に仕事に励むことができる。献身的に働くことができる。仕事に熱中することができ、それを妨げないのが良い企業だということです。もっともウォルマートはレーバーコストを抑えるためアソシエートと呼ばれる時給ワーカーの従業員の労働時間の上限を定めてますが、それは1938年公正労働基準法という悪法のために制限せざるをえないのである。
組合不在企業のコミットメント型の企業文化については、ウォルマート、ホームデポ、パブリックス、サンマイクロシステムズ、スターバックスに言及しましたが、もっと多くの企業を取り上げるべきでした。非組合型労使関係の実例については余裕がないので先に進めます。
そこで、コミットメント型の従業員関係の企業が台頭してきた前提というものを考えてみましょう。
非組合型労使関係の台頭の意義
第一に70年代以降ニュ-ディール型労使関係(産業別組合との団体交渉・労働協約)が衰退し非組合型の労使関係へのパラダイム転換があります。70年代以降この流れがなぜ起きたか。大まかに述べておきたいと思います。
1920年代の遺産(1)
第一にアメリカでは1920年代に非組合型労務管理が発達しその遺産があるということです。
19世紀末までのアメリカの大勢は団体交渉は支持されず、個人主義的自由放任主義が基調であった。1900年の時点で組織率は非農業労働者の6%にすぎず、大量生産産業はほとんど組織化されていなかった。しかしセオドア・ルーズベルトやウッドロウ・ウィルソンの革新主義政治により組合も成長し、1920年には組織率は19%を超えた。
しかし、アメリカ人の労働組合や団体交渉に対する嫌悪は強く1920年代になるとの全米製造業者協会のオープンショップ主義や、団体交渉のオールタナティブとなるアメリカン・プラン、ウェルフェアキャピタリズムの労務管理手法がとられ、非組合型労務管理が発達した。その成果は、大恐慌と1932年ノリス・ラガーディア法以降30年代のプロレイバー政策による産業別組合の台頭で台無しにされたとはいえ、経営史として20年代の経験の持つ意義は大きかったと考える。20年代労働組合員は1920年の505万人から、29年の344万人まで減少し、非農業労働者組織率は20年の19.4%から30年の10.1%にまで衰退しました。そのような意味でも20年代は黄金時代だったのです。
非組合型の労使関係の台頭というテーマは、イーストマン・コダックやシアーズ・ローバックなど組合不在企業の文化を研究したジャコービィの著作が読まれるようになってから、よくいわれるようになりました。ただジャコービィの著作は雇用慣行の歴史で、人事労務管理論が軸のように思われます。たんにジャコービィのようなウェルフェア・キャピタリズムの好意的な評価だけでは満足でません。もっと法制史的背景を明らかにすべきです。
続く
引用・参考文献
水町勇一郎『集団の再生-アメリカ労働法制の歴史と理論』2005年 有斐閣
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