ロックナー判決マンセー論(5)
ロックナー判決は中間審査基準だといわれる-2
「中間審査基準」で検索(グーグル)すると、日大法学部の甲斐素直教授の精神的自由権総論がトッブで出てくるんですが、
http://www5a.biglobe.ne.jp/~kaisunao/ken-kogi/04jiyu-ken.htm
こう説明してますね。
「1 厳格な審査基準(strict scrutiny test)
① 立法目的が正当であること、
② 立法目的を達成するために採用された手段が、立法目的の持っている「やむにやまれぬ利益 compelling interest)」を促進するのに必要不可欠であること、
③ そのことの挙証義務を立法者に負わせる という基準
2 厳格な合理性基準 strict rationality test(中間審査基準 intermediate standard)
① 立法目的が重要な国家利益 important government interest に仕えるものであり、
② 目的と手段の間に「事実上の実質的関連性 substantial relationship in facts」が存在することを要求⇒立法目的が、法によって用意された手段によって合理的に促進されるものであることを、国は事実に基づいて証明しなければならない。
合理性基準を基本的に適用しながらも、事実上の実質的関連性の審査に当たって、問題の性質上、立法目的の合理性そのものの合理性に関しても審査できること、及びそれに当たって国家利益に適合するか否かを審査可能である点で、合理性基準よりも司法介入を強く認める点に特徴がある。」
先に述べたクレイグ判決は中間審査基準(厳格な合理性テスト)でした。女性より男性を有利に扱わない法律は、重要な政府の目的に仕え、目的の達成に実質的に関連してなければならないというものです。交通安全が重要な政府の目的であることは認めます。その目的と手段において実質的関連が立証されなければ性差別は違憲となるというものです。当該年齢の男子が女子より飲酒運転を起こしやすい傾向にあるということだが、当該年齢男子の2%が飲酒運転で捕まっているという統計データは希薄な一致であり取るに足りない。しかもこの統計データは3.2%という薄いビールの飲酒効果を判定できない。男子に3.2%ビールを売る年齢を女子より3年高くすることと、交通事故防止効果との実質的関連はないと判断された。しかも、この州法はビールを当該年齢の男に売却することを禁止しても飲酒自体は禁止していないのでなおさら実質的関連はないということだった。
とはいえ飲酒運転の理由で逮捕される全ての人のその93%は男だった。女性より男性が飲酒運転しやすい。特に若い男性はという資料解釈もあり得るわけで、性差別立法も不合理ではないというレ-ンキスト判事の反対意見は、多数派裁判官の主観的判定を批判しているようだが、中間審査基準はそれなりに厳格という心証であります。
そこで ロックナー判決に戻しますが、労働者がビスケット、パン、ケーキの製造、製菓施設の労働において、週60時間、一日10時間を超える就労を要求され又は許されてはならないという労働時間規制は違憲ですが、ニューヨーク州が、ベーカリーの清潔さ及び健康的な作業環境を維持するため排水・換気設備を規制することは認めているわけです。
各州は公衆の安全と健康を守るポリスパワーを持つことを認めている。その上で、労働時間規制立法でも、ユタ州の鉱山労働及び鉱山精錬労働を1日8時間規制を合憲としたHOLDEN v. HARDY, 169 U.S. 366 (1898)は、ベッカム判事とブリューワ判事が反対したにもかかわらず、私も多分反対します疑問にも思いますが、ロックナー判決では先例として是認します。それは労働者の肉体の酷使から守る合理的で適切な政府の介入だったとしています。
それは長時間の鉱山労働が健康を害しやすいとの判断があると考えられます。要するに一般的な職業とは違って、きつい汚い危険な肉体労働だからです。
しかし、パンやお菓子を製造するベーカリー被用者は一般常識として健康に悪い労働ではないとしています。鉱山労働とは全然違います。
当時の労働時間はどうだったのでしょうか。まず岡田泰男(『アメリカ経済史』慶應義塾大学出版会2000年159頁)によると、南北戦争当時は、1日11時間が一般的、1890年頃は10時間、但し1903年製鋼工場は12時間だったし、南部綿工場は13~14時間としています。
この論点はもう少し精査しておきたいです。
ベーカリーよりはるかにきつい労働と考えられる製鋼工場は1920年頃まで12時間労働でした。しかも休日なしですから週84時間労働です。1930年代のノースカロライナ、カナポリスの繊維工場は週66時間というのを読んだ記憶があります。
1日10時間というのは普通の労働時間で長時間とはいえませんよ。
ベーカリーの仕事の歴史まで準備できなかったので、内容をよく知りませんが、格別汚いきつい仕事という認識はない。実際、今日ではケーキ職人はパティシエとか言って、憧れの職業です。雨宮塔子の夫は高収入で玉の輿というじゃないですが。汚い仕事ではない。パン屋さんは一般的な職業です。
続く
« ロックナー判決マンセー論(4) | トップページ | ロックナー判決マンセー論(6) »
「ロックナー判決論」カテゴリの記事
- ロックナー判決再評価論1(2023.02.18)
- 財産権保護とアメリカ的制憲主義その1(2011.05.24)
- バーンスタイン教授がロックナー判決復興のために活躍してます(2011.05.12)
- Lochner’s Bakeryの写真があった(2011.05.11)
- 感想 仲正昌樹『集中講義!アメリカ現代思想-リベラリズムの冒険』(2008.10.13)
コメント