ロックナー判決マンセー論(12)
承前
昭和63年12.08 最高裁 第一小法廷北九州市交通局三六協定拒否闘争事件判決〔民集42巻10号〕http://www.lios.gr.jp/hanrei/rouki/04058.htmlとの関連で三六協定拒否闘争が、争議行為ではないかと当局に質問したところ、当局は、この判例は超過勤務が平常勤務として組み入れられていたバス運転手の例であるとして、この事例とは違うという趣旨を言っていたが、しかし実際に昼休み時の窓口電話受付業務を拒否している。普段は実務をやらない管理職に不慣れな仕事をさせている。平常やっているこの仕事をやらないのだから、バス運転手の例と大差はないのである。
というより、本質的に東京都というところは労働組合の示威行為を容認し、国労札幌地本ビラ貼り事件判決(最高裁第三小法廷昭和54・10・30『労働判例』329)の示すところの、「職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうる」企業秩序の定立が全くなされていない。
国労札幌地本判決の意義はプロレーバー学説の、受忍義務説と違法性棄却説を明確に否定したことにあるのだが、東京都はこの水準には全然達していないのだ。その実例をひとつひとつ挙げたいところだが、東京都の管理職が施設構内の労働組合活動について労働基本権が使用者の施設管理権を制約するというプロレーバーの受忍義務説に好意的だと思うのは、実際に管理職と話して「受忍義務」という言葉を発したからだ。庁舎構内における労働組合の無許可職場集会について監視せず、解散命令や就業命令はいっさいやりません。組合の示威行為を制度的に容認している。結果的に労働組合の威圧力を強め、規律ある行動をとりたいまじめな職員を萎縮させ、争議行為に加担している。
制度的にというのは、東京都の庁内管理規則(「水道局の庁内管理規定も同じ)で、腕章・はちまき・ゼッケン・旗・幟・プラカード・拡声器の着用又は持ち込み。集会・演説を明文で禁止してないんです。http://www.reiki.metro.tokyo.jp/reiki_honbun/g1010033001.html
一 庁内において、拡声器の使用等によりけん騒な状態を作り出すこと。
二 集団により正常な通行を妨げるような状態で練り歩くこと。
三 前号に定めるもののほか、正常な通行を妨げること。
四 テント等を設置し、又は集団で座り込むこと。
五 清潔保持を妨げ、又は美観を損うこと。
六 凶器、爆発物その他の危険物を持ち込むこと。
七 庁舎その他の物件を損壊すること。
八 寄附金を募集し、又は物品の販売、保険の勧誘その他これらに類する行為をすること。
九 印刷物その他の文書を配布し、又は散布すること。
十 はり紙若しくは印刷物を掲示し、又は立札、立看板、懸垂幕等を掲出すること。
十一 面会を強要し、又は乱暴な言動をすること。
十二 前各号に定めるもののほか、庁内の秩序を乱し、公務の円滑な遂行を妨げること
「拡声器の使用等によりけん騒な状態を作り出すこと」という項目はありますが、拡声器の持ち込んだ集会自体を禁止してない。実際、東京都水道局では勤務時間内事務室内の頭上報告とよばれる集会でも拡声器が用いられています。立て看も撤去されずに放置された例を私は知っている。
私は仕事で都第二本庁舎を訪れたとき、第二庁舎前のNSビルとの間にある半地下の広い空間での勤務時間内動員集会(水道局全水道東水労の集会)が終了し、ビルの中に入って、組合旗の赤旗を先頭にして、はちまき、ゼッケンを着用した態様でシュプレヒコールを叫びながら、デモ隊のように練り歩きエレベーターに乗り込んでいく長蛇の列と遭遇しました。監視も解散命令もなし。そもそも旗の掲揚、持ち込みは明文で禁止されてないのです。「集団により正常な通行を妨げるような状態で練り歩くこと」を禁止してますが、緩い解釈をすれば、集団練り歩きは、来庁者の通行を故意に妨害しないということて容認されうる文面になっている。
東京都が制度的に示威行為容認というのは、上記の庁内管理規則の緩さからも明らかだと思います。私は、水道局品川営業所、江東営業所、千代田営業所などで勤務した経験で、ストライキ時には赤旗や幕などが掲揚され、闘争時の勤務時間内構内での職場集会でも赤旗などが掲揚されます。というのも敷地内で旗の掲揚を明文で禁止してないのです。たんにこの1点だけでも労働組合の示威行為容認であることは明らかでしょう。
一方、これとは対照的なものとして国の九段第二合同庁舎(東京法務局・麹町税務署・中央労働基準監督署・関東運輸局東京分室等のある)正面玄関自動扉前に設置されている2個にある立て札について述べます。千代田営業所に勤務していたため、仕事上法務局の窓口に屡々訪問したので立て札のことをよく覚えているからです。庁舎構内において次の行為を禁止すると書かれています。
1、凶器・危険物の持ち込み。2、腕章・はちまき・ゼッケン・旗・幟・プラカード・拡声器の着用又は持ち込み。3集会・演説・座り込み、及びこれに類する示威行為の禁止。4、面会の強要、・文書の頒布その他管理を妨げる行為。
要するに国は、組合活動とは名指ししていないもののの庁舎構内での職場集会や示威行為は明確に禁止しているわけです。
「防衛省本省市ヶ谷庁舎の管理に関する規則」PDF http://jda-clearing.jda.go.jp/kunrei_data/a_fd/1999/ax20000330_00038_000.pdfはこうです。
庁舎管理者は、庁舎に立ち入ろうとする者の人数、行動その他の事情から判断して、これらの者が示威運動その他庁舎における秩序を乱す行為をするおそれがあると認めるときは、庁舎への立入りを禁止するものとする。
(禁止又は退去命令)
庁舎管理者は、庁舎において次のいずれかに該当する行為をした者について、第22条庁舎の管理上必要があると認めるときは、その行為を禁止し、又は庁舎から直ちに退去することを命ずるものとする。
1)職員に面会を強要すること。
2)銃器、凶器、爆発物その他の危険物を庁舎に持ち込み、又は持ち込もうとすること。
3)旗、のぼり、幕、宣伝ビラ、プラカードその他これらに類する物又は拡声器、宣伝カー等を所持し、使用し、又は持ち込み、若しくは持ち込もうとすること。
4)庁舎管理者が立入を禁止した区域に立ち入り、又は立ち入ろうとすること。
5)建物、立木、工作物その他の施設設備を破壊し、損傷し、若しくは汚損し、又はこれらの行為をしようとすること。
6)文書、図面等を配布し、若しくは掲示し、又はこれらの行為をしようとすること。
7)多数集合し、放歌高唱し、練り歩き、その他これらに類する行為をし、又はこれらの行為をしようとすること。
8)座込みその他通行の妨害になるような行為をし、又はこれらの行為をしようとすること。
9)金銭、物品等の寄附を強要し、若しくは押売りをし、又はこれらの行為をしようとすること。
10)前各号に掲げるもののほか、庁舎における秩序を乱し、若しくは職員の安全を脅かすような行為をし、又はこれらの行為をしようとすること。
集会や演説、ゼッケンやはちまきを明文で禁止してない点につき疑問に思いますが、旗・のぼり。拡声器は禁止してます。
「新潟県庁舎等管理規則」http://www.pref.niigata.jp/reiki/reiki_honbun/e4010323001.htmlでは
座込み、立ちふさがり又はねり歩きをすること。放歌、高唱若しくは演説をし、又は拡声器を使用すること。物品の販売、宣伝、勧誘、寄付募集その他これらに類する行為をすること。はり紙、看板、プラカード、旗、幕その他これらに類する物を掲示し、又は掲出すること。その他の仮設物を設置し、又は定められた場所以外の場所に物件を置くこと。集会その他の催物を開催することを禁止しており、旗、幕、その他これらに類する物、集会は禁止しており明らかに東京都より細かく規制している。
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