SASインスティチュートの企業文化との比較(5)
先述した、リテンションに成功しているIT企業4社、すなわちシスコシステムズ、SASインスティチュート、マイクロソフト、クアルコムでありますが、そんなの当たり前だろう超一流企業だからといわれるかもしれない。仰せの通りでございます。しかし人間は常に卓越性を目指すべきだ。たとえ三流四流企業に勤めていたとしても超一流の文化を学んでいきたいわけです。
コーヒーやソフトドリンクを無料提供するのはマイクロソフトがはじまりだといわれている。それは家庭のような環境で知識労働者に仕事に集中して働いてもらうためだ。小銭を取り出して、販売機にコインをチャリンと入れた瞬間に集中がとぎれてしまう。操作を誤って機械に毒づいていらいらしたらもっと悪い。無料提供で飲み放題にしても大したコストにならないという判断のようだ。ノーワーク・ノーペイとか職務専念義務に反するとか形式にこだわると導入できないかもしれないが。
SASインスティチュートはキャンパスといわれる構内にフィットネスセンター、プール、ビリヤード、卓球、テニスコート、サッカー、ゴルフのパット練習場がある。無料でテニスのラケットの弦の張り替えのサービスもある(註1)。
クアルコムは夜食の提供、コインランドリーサービスもあるらしい。
グーグルhttp://www.itmedia.co.jp/news/articles/0701/09/news032.htmlにスイミングスパがあるのはたぶんSASインスティチュートの模倣だろう。カフェテリアは飲み物だけでなく食事も無料提供。マイクロソフトが無料ドリンクをやったからこっちは食い放題にしようという発想だろう。住み込みの奉公人に食事を提供するのはあたりまえだから古風な政策ともいえる。会社に愛犬を連れてくるのも自由だとか。タダ飯が食えて、スイミングスパで楽しめるんだったら一日中会社にいても楽しいということになる。これも仕事を存分にやっていただくための政策だろう。
私は、グーグルみたいな遊び心のある会社が良いとは言ってない。それは優秀な社員を雇っているからタダ飯でもペイできるということだろう。しかし従業員ができるだけ仕事にエネルギーと時間を投入しやすい環境と企業文化は望ましいものである。
時短やワークライフバランスなんて全くばかげている。超一流企業は、激しい競争の重圧をはね除けるために、仕事が大好きで仕方ない。会社に一日中いても楽しい仕事中毒的な人を欲しているとみるべきである。
もちろんSASインスティチュートはファミリーフレンドリーな政策で有名ですが、それは他のIT企業との差別化政策でしょうし、生産性が高いから週35時間ということもできる。コラボレーション(協同)の精神が社是になっている。社員は協力的でとても親切だ。そういう特別の企業風土だからできるのである。
政府の「子どもと家族を応援する日本」重点戦略のように生産性や企業風土を度外視して、男性の長時間労働を攻撃し、有給休暇完全消化とか、育児休業の男性取得率の数値目標とかいうのは、できるだけ仕事をしない主義を奨励しているのも同じ。これは社会主義的な政策でほんとうにばかげている。フェミニストは国を滅ぼしても我が儘を通したいと思っているが、こんなことではいずれ、国際競争力で中国や韓国にも負けてしまうんじゃないか。
そういう意味ではシスコの企業文化を見習いたい。 シスコは人間の能力に限界を設定しないというのが企業文化である。「ここまではやるべきとか、そこまではできないとか、過去の物差しで仕事はしない」(註2)という。それは優秀な社員に存分に仕事をしてもらうためだろう。
シスコは、一時時価総額世界一になり、2000年にフォーチューンの「最も称賛される企業」の4位にランクされた卓越した企業であることは言うまでもない。それはチェンバースの手腕によるところが大きいと考えるが、自発的離職率の低い働きがいのある企業とされている。
しかし、基本給は業界の65%といわれる。それ以外はインセンティブ給。ボーナスは「業績と顧客満足度」に基づいて支払われる(註3)。また、成績下位5%は解雇される(註4)。
基本給が業界の65%ということは、それだけリスクが少ない。業績本位だから本当に才能ある人材が会社を引っ張っていくことになる。貢献できない人はお引き取りいただくので、安全志向の人には居心地が悪く、社員間の競争を促すシステムになるが、そういうシステムのほうが本当に仕事が好きな人には働きやすく良い環境ということだ。
そういう会社は今日では決して少なくないと思う。男なのに育児休暇を取ったり、有給休暇を存分に取っていられるか。社員間競争も激しいんだ。猛烈に働いて、業績をあげなければいけないんですよ。会社のためには頑張りたい。フェミニストに隷属して働かない主義をやっていたらそのうちクビになりますよ。
マイクロソフトの社風については、『巨大ソフトウエア-帝国を築いた男 』ジェームス・ウォレス、ジム・エリクソン著. 奥野卓司監訳 翔泳社に次のように述べられている「企業文化はほぼ変わらないまま受け継がれた。勤労を貴ぶ気風、集中力、過酷な要求、創造性、若々しさ、気さくな人間関係、それが溶け合いマイクロソフトの社風をつくり上げた。好みの服装で出社し、自分で勤務時間を決めむ、一歩会社を出ればやりたいことをやる。それでいてだれもがチームの一員であり、家族的絆で結ばれていた」
マイクロソフトも業績至上主義である。「マイクロソフトでは立ち止まることも休むこともできないのである。もし休んだり立ち止まったりしていると別の社員が横を通りすぎて、自分は不要な人間になってしまうかもしれない。企業というのは無慈悲である。仮に10年間献身し続けたとしても、そこには何の意味もない。毎日、自分は価値ある人間であることを証明し続けなければならない。だから、すべての社員は、企業のために絶えず最高の仕事を成し遂げようとするのである」(註5)とされる。
評価はプロジェクトの成功いかんである。同僚のプレッシャーがメンバー全員の成果を高めるのである。プロジェクトの成功はメンバーにかかっているから。従って、メンバーの足を引っ張るようなことはしない。勝手に休んだり、育休をとることはできないのではないか。それがあたりまえだろう。
政府のやっているワークライフバランス、それは特別生産性が高く、かつあまり業績本位主義でない会社でないと無理である。にもかかわらず、意識改革して男も育休を取り、休みまくって、家庭指向の女性社員の低い生産性に合わせることを強要するものである。こんな愚かで馬鹿げた政策はない。無為と怠惰は悪の根源である。誠実な勤勉さと、コミットメントを阻害するから反倫理的、これこそ悪魔のような政策だ。
ではワークライフバランスを重視する典型企業、
SASインスティチュートの制度はどうだろう。報酬に直結する業績評価制度は見直され、実績によって若干差がつく報酬体系といわれる。従業員の報酬は、職務グループ内に設定される5~6のレベルで決定される。それぞれのレベルは職務期待値、スキル、経験、コンスピラシーを基準にしている。昇給はマネージャーが裁量権を持っており、年1回市場水準データと目標管理による業績評価をベースに決定される(註1)。人的資源管理で長期雇用を前提としているので、さほど業績至上主義ではないかもしれない
しかし会社全体の自発的離職率は4%といっても、営業部門は18%と高く、これは能力のない社員の辞職が促されている結果とみられている。
業績主義についてはシスコに比較するとぬるいかもしれないが、成果主義的な制度であることに変わりない。
(註1)伊藤健市「SASインスティチュート社の人的資源管理」伊藤・田中・中川編著『現代アメリカ企業の人的資源管理』税務経理協会2006年
(註2)デービッド・スタウファー(金利光訳)のワールドビジネスサクセスシリーズ『E・コマースで世界をリードするシスコ』三修社2004年 44頁
(註3)伊藤健市「賃金システムの変遷と人的資源管理」伊藤・田中・中川編著『現代アメリカ企業の人的資源管理』税務経理協会2006年
(註4)、デービッド・スタウファー(金利光訳)のワールドビジネスサクセスシリーズ『E・コマースで世界をリードするシスコ』三修社2004年 109頁
(註5)デビッド・シーレン著、成毛・岩崎訳『マイクロソフトのマネジメント』2000年日本能率協会マネジメントセンター 110~111頁
参考 遠竹智寿子 グーグル訪問記「グーグルは想像以上にグーグルだった」http://ascii.jp/elem/000/000/032/32386/
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