感想 リチャード・エプステイン『公用収用の理論』(1)
ロックナー判決マンセーと言いながら、恥ずかしながらこの著書(松浦好治監訳 木鐸社 2000年)も読んでなかったのですが、偶々丸の内丸善でアメリカ法の棚にあったので買いました。
私がシカゴ大学ロースクールのエプステイン教授を好む理由は、20世紀社会立法を歯切れ良く違法、違憲として叩き斬っていくところにあります。
著者の主張を簡単に言うと、緒言に、「憲法の公用収用条項(「正当な補償なしに私有財産を公共の用のために収用されることはない」)とそれに並行する条項は‥‥土地利用規制・家賃統制・労働災害補償法・所得移転給付・累進税などを根拠の薄いものあるいは違憲の疑いにあるにとする」と言ってますが、327頁以下にさらに重要な事が書かれていた。
労働時間や賃金の規制立法は契約自由の実体的デュープロセスの法理でなくても、公用収用条項でカバーできるとする。雇用契約における労働時間や賃金の制限は「疑いなく部分収用である‥‥どこから見ても階級立法であり、憲法上全面的に無効にされることが求められる」つまりロックナー判決は実体的デュープロセスの法理でなく別の理由で違憲にできたということのようです。
さらに「連邦労働関係法は契約自由と私有財産の排他的占有に対して複雑な制限を伴うのだから、公用収用法上の根拠から当然違法とされなければならない」
つまりワグナー法以降の団結・団体交渉権を労働組合に付与する立法自体が違法という主張であり、ニューディール立法の全面否定である。
この論理からすれば失業者へのワークシェアリングを立法趣旨とする所定時間外の割増賃金を定める公正労働基準法も違法・違憲になってしかるべきだろう。我が国では共産党も産経新聞も同じ穴の狢で、残業代支払い訴訟に好意的な論評をやってますが、とんでもない。もうこういう訴訟はなくして、企業の財産を剥奪するのを止めましょうと言うべきだ。労働基準法自体が契約自由、個人の労働の自由侵害と言うだけでなく、財産権の侵害という角度からも問題だと言わなければならないわけです。エプステイン教授は公民権法タイトル7のような雇用差別禁止法にも批判的ですが、コモンローの不法行為法だけでいいんだっちゃーのという考えですね。
我が国にはエプスタイン教授のような自由主義の復権のために20世紀的社会立法の大部分を無効にするという壮大な構想を持つリバータリアンの学者に乏しいと思う。若い人にはそういうタイブの出現を期待している。
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