公務員に労働基本権付与絶対反対-政府は巨悪と手を結ぶな

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2008/10/26

反労働基本権-実質的に団結権を否定し労働組合の免責特権を縮小した1980~90年代イギリス保守党政権の労働政策を賞賛する(1)

  このたびの金融危機で16年ぶりにイギリスの景気拡大が止まったと報道されてますが、悲観しません。イギリスの社会基盤は地方公務員をのぞいてサッチャー改革以後健全化している。労働党政権でもコーポラティズムをとっていない。欧州大陸諸国のような硬直した労働者保護法制が少ない。健全化の端緒が1980年と1982年の雇用法における労働組合活動の規制と、免責特権の縮小、実質的な団結権の否定だった。労働党政権によって法的組合承認手続が復活したが大きな揺り戻しにはなっていないからである。
 
 1984~85年のイギリス炭坑ストのシリーズも書いていきたいと思いますが、1983年のメッセンジャー争議、1986年のワッピング争議における印刷工組合の完全敗北の意義も大きいことがわかったので、平行して一連の争議と1980年代の労働立法との関連からその歴史的意義を述べるシリーズを書くこととする。

事実上1901年タフベール判決へ部分的に回帰し「免責特権」を縮小した1982年雇用法は決定的な意義がある

 そもそも争議行為は、契約違反の誘致行為、契約の履行不能をもたらす行為、強迫、共謀、営業妨害など理由として、コモン・ロー上の不法行為を構成する。
 しかし、ストライキ以前の問題として、コモンローの理論を遡っていくと、営業制限の法理ににもとづく営業の自由のコロラリーとしての個人の労働の自由、労働力取引の自由を阻害するものとして、「取引を制限するコンスピラシー」(doctrine of restraint of trade)ないし「他人の取引を侵害するコンスピラシー」(conspiracy to injure of another)の概念構成により、労働者の団結そのものも、コンスピラシー(共謀)の要件に該当するものとして把握されていた。
 労働組合は、たんに共済互助団体にとどまるなら、他者を害するものにではないかもしれない。しかしその本質は個人の賃金と労働条件を規制し、労働供給を制限することにある。脅迫、威圧、暴力あらゆる手段を使って、賃金、労働時間、仕事の遂行方法、能率を制限しようとするのが労働組合の本質であり、団結そのものもコモンロー営業制限の法理により、取引を制限する共謀とみなされるのである。
 古典的法律百科事典ホールズべリの『イギリスの法』では「営業の自由」をこう説明してます。
「ある者が欲するときに欲するところでなんらかの適法的な営業または職業を営む権限を有するというのがコモン・ローの一般原則であって、国家の利益にとって有害である、個人の行動の自由のすべての制限に反対することは公益となるので、コモン・ローは、契約の自由に対する干渉の危険を冒してでさえも、営業に対するなんらかの干渉を猜疑的につねに注視してきたのである。その原則は『営業』ということばの通常の意味における営業の制限に限られない」*1
 私がインディビディアリズム、個人主義的自由主義のチャンピオンとして崇めたい人物は、1758年のランカシャー地方の織布工層の大ストライキを弾圧したマンスフィールド卿(King,s Bench主席裁判官)であります。近代で最も優れた法曹の一人です。マンスフィールド卿は1783年のエックレス判決において労働者の団結それ自体が共謀法理により犯罪であると明白に述べました。
「商品を所有する者は個人として自己の欲する価格でそれを販売し得る。しかし彼等が一定価格以下では販売しないことを共謀し、合意するならば、それはコンスピラシーである。同様にあらゆる人間は自己の好む場所で労働できる。しかし、一定価格以下では労働しないとして団結することは、起訴さるべき犯罪である」*2

 労働者個人と雇用主の労働力取引・雇用契約について第三者の干渉、規制も悪しき「営業の制限」なのである。コモンローは(今もそうであるが)団結・団体主義に敵対的なのである。この法伝統からすると、団結に合法化の余地はないのだが、19世紀にコモンローを否定的に評価するベンサム主義の台頭からイギリスはおかしくなり、この間の経過は詳しくふれないが、19世紀後半にはイギリス議会制定法が、本来の犯罪行為を免責する特権を労働組合に付与し、1906年争議法で労働組合に民事免責特権も付与したために、労働組合は政権を崩壊させるほどに強大化していくのである。
 イギリスで労働組合が「合法化」されたと見なされるのは、1875年の共謀罪及び財産保護法により、コモンロー上のコンスピラシーの法理で、団結行動を起訴できないものとし、平和的ピケッティッグの違法性を除去したとされる。いわゆる「刑事免責」がなされたことからである。これに対抗するために裁判所は民事共謀としての不法行為の共謀法理が案出された。
 1901年のタフベール判決は、タフベール鉄道会社が、カーディフ駅でピケッティングにより、スト破りの労働者を雇用できなかった損害賠償として組合に2万5千ポンドを支払うよう命じた判決だが、労働組合は裁判所に対抗するために国会議員を出して、民事免責制定法を勝ち取る政治活動を行った結果、1906年の労働争議法で、労働組合に関する不法行為の訴訟は受理されないとした。いわゆる「民事免責」がなされ、事実上、労働組合活動の「法認」というかたちになった。つまり労働組合は「免責特権」を得たのであった。本来、コモンロー上不法行為とされるものを、議会制定法で免責する。組合員、役員をコモンローによって生ずる責任を負わずにすむようにした。これによって労働組合は強大化した。
 ところで、イギリスの1960年代ころまでの労使関係の特徴を「コレクティブレッセフェール」とか「ボランタリズム」と呼ばれることがある。コレクティブレッセフェールとは集団主義の自由放任ということですが、オットー・カーン・フロイントが労使関係の議会制定法による介入抑制的姿勢をイギリス労働法の特徴として定義したことに始まるが、国家は労使関係について中立的不干渉で積極的に団体交渉を奨励するものではない。しかし団体交渉、労働協約のルールによる優位性に読み換えて理解される場合があり、混乱した理解のされ方になっていて難しい。
 いずれにせよ、これは我が国の「労働三権」のように積極的に政府が法律で労働組合や団体交渉を保護するという体制ではない。労使関係について制定法の干渉が抑制されることによりイギリスの労働組合の職場支配力、労働過程と労働供給を支配して、経営権より事実上の力関係で優位にたつことができるという体制である。「免責特権」によりコモンローによる起訴から免れ、議会制定法による労使関係の介入が抑制されているなかで、労働組合が法的にしばられないで、自律性を有する体制のことである。
 免責特権による消極的労働組合保護、ボランタリズムであるがゆえに、労働協約も紳士協定以上のものではなかった。欧州大陸諸国のような、法的拘束力の強い労働協約や硬直した労働者保護立法も必要としないのである。たとえばコレクティブレッセフェールゆえにストライキ中の労働者は失業手当を受けられない。積極的ストライキ権を有さないのでストライキはコモンロー上の拒絶契約違反となり不当解雇の訴えや解雇手当の請求も認められないのである。しかし実際には、コレクティブレッセフェール体制ではストライキで解雇された組合員、スト収拾後の再雇用が暗黙の了解とされ、争議期間の不払い賃金も時間外労働や出来高賃金の名目で取り戻すことができた。それは法的な保護ではなく、事実上の力関係で労働組合が強かったからである。コレクティブレッセフェールとは1906年労働争議法体制と理解しても大筋で誤りではないだろう。*7

 1906年労働争議法は「ある人によって労働争議の企図ないし促進のためになされる行為は、それが誰かある他の人に雇用契約を破棄するよう誘導するとか、誰か他の人の営業、企業、または雇用の妨害になるとか、または誰か他の人が彼の資本あるいは労働を欲するままに処分する権利の妨害という理由だけでは起訴できない」*3とすることによりストライキに付随する民事責任を免責したのである。雇用契約違反の誘導、営業・仕事・雇用の妨害、労働の自由の妨害といったコモンロー上の不法行為であっても制定法上免責するということになっている。1906年法は大手をふるって法違反を行い個人の自由を犠牲にしていたのが従来のイギリスの法制であった。
 このような他者の自由を侵害する悪も許容する人定法的秩序というものに本質的に正義性はないわけです。要するに我々が労働基本権と言っている組織労働者の権利なるものは本質的に正義性とか権利性とかいうものはないんですよ。ましてや憲法上の権利とか人権という性質のものではない。むしろ労働の自由を否定する悪しきものですよ。
 伝統的コモンローは営業と誠実な勤勉さを奨励するパプリックポリシー(公序-公共政策)により、人々がそれぞれ自分の持っている財産(労働能力や信用という広い意味での無体財産を含む)を自由に取引する私的自治をサポートします。それが正しい在り方だと思います。
  したがって私は、1906年労働争議法は市民法的秩序では許されない不法行為を是認する立法なので到底承伏できないわけです。1906年労働争議法を批判した重要人物がハイエクです。
 ハイエクは1906年労働争議法を市民の責任から生じる当然の報いを 免れる「特権」を組合に与えたものとして明確に批判した。彼は法的責任の免除に代わって不法行為と契約についてコモンローに戻るよう論じた。*4
 この趣旨を一部実現したのが1982年雇用法なのである。
 サッチャー政権最初の1980年雇用法は穏やかな改革だったが、1979年「不満の冬」における公務員労働組合の横暴を見た国民にとって、フライングピケットやピケの大量動員の規制、二次的争議行為の規制は支持されたのであり世論も味方だった。スト権投票の公費援助など組合の組合民主化のための内部規制に政府がタッチするものとしたことはボランタリズムを否認する立法介入である。
 1980年雇用法は(1)争議行為などのための組合の秘密投票の費用援助。(2)合理的理由のない組合加入拒否と除名に対する保証。(3)ピケッティングを組合員自身の「就労の場所の周辺」に限定した上で、行為規範によりピケ人数を6人以下に限定した。(4)ほとんどの二次争議を違法化し、損害賠償及び差止の雇用法は道を開いた。
 1982年雇用法は組合否認を経営者がとれることとし、事実上1901タフベール判決へ部分的に回帰し「免責特権」を縮小し、新自由主義の政策を実行したことで画期的なものである。70年代に制定された法定組合承認手続を否定したことは、ボランタリズムゆえに、団体交渉は基本的に任意的なものであるという1960年代までの慣例を継承するものであるが、実質的には労働組合の内部規制、争議態様の規制という立法介入とセットにされたことにより、労働組合の自律性と団体交渉による労使問題の解決に信頼性をおく、コレクティブレッセフェール体制の否定である。
  (1)消極的団結権を保証する規定を設けて、クローズド・ショップ の効力や組合加入を弱め、団体交渉の拡大や組合の承認を求める行為も禁止した。(2) 1974年労働組合・労使関係法による労働争議の定義を狭め免責の範囲を縮減した上で、(3)組合の民事免責枠を大幅に削り、不法行為責任を問う制度を設けて組合基金に対する損害賠償請求を可能にした。(4) ストライキ参加者の選択的解雇を不当解雇法制の規制対象から外した。*6

つづく

註1  堀部政男「イギリス革命と人権」東大社会科学研究所編『基本的人権2』東京大学出版会1968所収
 註2  片岡曻『英国労働法理論史』有斐閣1952
  註3中西洋『《賃金》《職業=労働組合》《国家》の理論》』ミネルヴァ書房(京都)1998年 143頁
  註4 William Brown Simon Deakin 他 ; 阿部 誠 (アベ マコト) 他訳 「 1979~97年における英国の労使関係立法の影響 」『大分大学経済論集』51(2) [1999.07]
    [PDF] http://ir.lib.oita-u.ac.jp/dspace/bitstream/123456789/7068/1/51-2-4.pdf
  パソコンにダウンロードして読めます。
註 6家田愛子「ワッピング争議と法的諸問題の検討(1) 一九八六年タイムズ新聞社争議にもたらした,イギリス八〇年代改正労使関係法の効果の一考察」『名古屋大學法政論集』. v.168, 1997, p.105-150
    http://ir.nul.nagoya-u.ac.jp/dspace/handle/2237/5752
   パソコンにダウンロードして読めます。
註7 家田愛子「ワッピング争議と法的諸問題の検討(2)完 一九八六年タイムズ新聞社争議にもたらした,イギリス八〇年代改正労使関係法の効果の一考察」『名古屋大學法政論集』 v.169, 1997, p.153-195の178頁以下
   http://ir.nul.nagoya-u.ac.jp/dspace/handle/2237/5761?mode=full
  パソコンにダウンロードして読めます。

その他引用文献   小笠原 浩一 「書評論文 田口典男著『イギリス労使関係のパラダイム転換と労働政策』と上田眞士著『現代イギリス労使関係の変容と展開--個別管理の発展と労働組合』を読む 」『日本労働研究雑誌』50(7) (通号 576) [2008.7] 

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