感想 長淵満男『オーストラリア労働法の基軸と展開』(1)
信山社1996年で古い本であるが読書ノートを記す。
オーストラリアでは自由党が反労働組合政策である。1975年12月に発足したフレーザー自由党・国民地方党連合政権は、強すぎる労働組合に対する非難の世論を背景としてイギリスのサッチャー政権の労働政策を先取りするような労働立法を行った。ただオーストラリアでは労働党政権になると前政権の政策を転換しコーポラティズム的政策を実施する揺り戻しがあるうえ、強制仲裁のような特徴的な制度があってわかりにくい面がある。が、連邦レベル、州レベルとも自由党の労働政策は研究しておく価値があるので本書を購入した。
フレーザー政権の改革は評価してよいのではないか。まず組合民主化のための労働組合内部問題の規制である。組合規約の不履行について組合員が訴訟を起こす資金提供を行う。組合選挙を公平な第三者の登録官にゆだねること。会計帳簿のコピーを組合員に提供することなど。かくれた立法目的は組合民主化により好戦的な組合幹部を追放するものであったが、実際にはそうならなかった。
第二に争議行為の禁止のために1977年労使関係局にスト制裁のための訴訟を追行する権限をもたせた。オーストラリアではそれ以前からストライキを教唆、扇動、幇助等の行為をする組合役員に刑罰を加える規定があったが、ストライキの差し止めや裁定遵守の命令を裁判所が下すことができるようにした。命令等を無視してストライキを継続すれば法定侮辱罪となる。
第三に二次的争議行為、二次的ボイコットを取引を不当に制限するものとして違法化したことである。
第四が60年代に増長した連邦公務員についてストライキ、作業停止等に参加すれば即時に解雇、または出勤停止にできるようにした。チェックオフも廃止したため、公務員の組織率はその後低下していくことになる。(11頁以下参照)
イギリスの80年代の労働立法と類似点がある。イギリスでは公認ストライキは認められるが、二次的争議行為を違法化したことは同じである。組合選挙の郵便秘密投票と第三者の監査が入る制度はフレーザー政権の立法がモデルと考えられる。イギリスでは国営企業の民営化後組合承認をしないことで実質組合を追い出すことになった。ただイギリスは地方公務員が民営化されずに多く残っており、ブレア政権になってストライキもみられるのである。
なぜ、オーストラリアでは強制仲裁制度があリ、ストライキに厳しい禁止立法があるかというとオーストラリアは英国の1871年の共謀・財産保護法による刑事免責を受容したものの、1906年の労働争議法による民事免責を導入しておらず、労働組合の争議戦術態様がコモンローに抵触すれば責任を追及されるということである(30~31頁)。
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