感想 上原正夫「アメリカにおける男女平等-男だけの徴兵登録合憲判決に寄せて-」
判例タイムズ446号1981年10月1日号。私が知る限り1981年のロストカー判決ROSTKER v. GOLDBERG, 453 U.S. 57 (1981) http://caselaw.lp.findlaw.com/scripts/getcase.pl?court=US&vol=453&invol=57の唯一の判例評釈である。
上原氏の判例論評はバーガーコート時代の主要判決を網羅しており有益である。
この事件は、カーター大統領がソ連のアフガニスタン出兵に対する決意のほどを示すために75年以来の選抜徴兵法による登録再開の必要とあわせて女子をも登録・徴集する同法の改正を求めたが、議会は登録再開を是認したが、女子の登録に反対し、男子を登録するための予算だけを認めたところ、数人の男子青年が同法の性差別は憲法修正5条のデュープロセス条項に違反すると主張し、1980年7月フィラデルフィアの連邦地裁は、原告の請求を認め、登録の中止を命じた。政府は急遽執行停止命令を連邦最高裁のブレナン判事から取り、登録は計画どおり実施され、この事件が最高裁に係属し1981年6月25日6太より合憲判決が下された。
レ-ンキスト判事が法廷意見を記し、バーガー長官、スチュアート、ブラックマン、パウエル、スティーブンス各判事が同調した。ホワイト判事とマーシャル判事が反対意見を記し、ブレナン判事が双方に同調した。
レーンキスト法廷意見は、裁判所は議会の決定を尊重すべきであり、特に国防及び
軍事に関する場合には、当裁判所は議会に対して最大の経緯を払ってきたと司法の自己抑制を基本的態度としたうえで、集団としての女子は男子と違い戦闘に不向きである。陸軍と海兵隊は既定の政策として女子の戦闘参加を制限しており、議会の判断は論理的であり、法の適正手続に反するものではなく合憲であるとした。
ホワイト反対意見は、最近の諸戦争においては、戦闘不適格者のなしうる勤務の要員をも、軍事上の効率を落とすことなく確保するために登録と徴兵を必要としており議会が男子だけを登録しても構わないという性差別を正当化する適切な理由はないとする。
マーシャル反対意見は国の独立を守るという公民としての基本的義務から、文句なしに女子を排除することは法の平等な保護についての憲法上の保障に矛盾する。本件はCRAIG v. BOREN, 429 U.S. 190 (1976)判決
http://caselaw.lp.findlaw.com/scripts/getcase.pl?court=us&vol=429&invol=190。の中間審査基準によって審査されなければならない。すなわち政府は女子を登録から排除する性差別を正当化するためには、、戦闘部隊の徴集準備という重要な国政上の目的に本質的にかかわっていることを立証しなけれならないとする。
私は司法積極主義を是認しますからレーンキストの司法自制主義とは違う考えですが、共同防衛・軍事については議会の判断を尊重するという法廷意見に大筋で同意します。ホワイト判事の反対意見に一理あるが、議会の判断を覆すのは行きすぎのように思う。マーシャル判事のいう性差別事件に中間審査以上の厳格な審査という見解には疑問を持ちます。
本判決の意義は、反響が男女同権条項(ERA)憲法修正の反対派に有利に働いた事である。男女同権条項(ERA)は1972年に連邦議会を通過しその後5年間に35州で批准されたがあと3州の批准で成立というところで、進捗しなくなり期限切れで憲法修正は不成立に終わったが、この間、反対派の相当な巻き返しがあったわけです。反対派は男女同権条項が成立すると家庭が破壊され、女子も兵隊にとられると平等な権利が女性にとっても良くないということをさかんに宣伝していた。
この判決によって、議会が積極的に女子も徴兵登録する方針をとらない限り、兵隊にとられる事はないということが明らかになったわけです。
男女同権条項の明文を加えたらそうはいきません。当然、性差別的な選抜徴兵法は違憲となり、男女平等に徴兵登録される。女子は戦闘に向かないというのはステレオタイプ、男女役割分担の固定観念を打破するためにも、女子も徴兵ということになる。男女同権条項(ERA)は女子に戦闘靴をはかせるという宣伝で、憲法修正の動きが止まってしまったわけです。
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