感想 P・オスターマン『アメリカ・新たなる繁栄へのシナリオ』(1)
伊藤・佐藤・田中・橋場訳ミネルヴァ書房2003年
オスターマンMIT教授が内部労働市場の分析からアメリカの非組合セクターと日本の大企業の経営が類似していることを指摘した学者である。
つまり日本的経営といわれるものは特殊なものではない。我が国固有の文化でも全くない。
このことは序文で述べているとおりである。「例えば50年代から80年代半ばまではアメリカの労働市場は多くの点で日本の労働市場によく似ていた。経済の中核をなす企業では、従業員は終身雇用といわゆる内部労働市場のルールを享受していたとする考え方が有力」しかしこのシステムは80年代半ばに崩壊していくのである。
池田信夫ブログ「19世紀には労働者は派遣だった」http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/78d36ac0e6fa382a3cdfa1e4cfd43669によると---「終身雇用は日本の文化や伝統に根ざしたものだ」という御手洗富士夫氏の主張は、論理的にも歴史的にも根拠がない。長期雇用は、垂直統合という20世紀に固有の企業統治システムの副産物にすぎない。----としているとおりである。
アメリカにおいては1920年代に労働組合の組織化運動を挫折させるために指導的なノンユニオン企業がウェルフェアキャピタリズムとして知られている、温情主義的な企業ベースの企業年金、医療保険の給付制度を創設している。その基本思想は「経営者は労使の一方を擁護する存在ではなく、事業全体の受託者である。経営者の責任には、経済的責任と同時に労働者の雇用、安全、賃金を保障する責任がある。」PDF(百田義治より引用)http://www.jalm.jp/yoko08/05.pdfアメリカの会社法が株主の利益のためにあるとしても80年代以前の実態はそうではなかった。ある意味で日本企業とそう変わりなかった。この理念に見られるように、経営者は制度の受託者として従業員の生活に責任を持つと考え方は実はアメリカ起源なのである。
ウェルフェアキャピタリズムは大恐慌で崩壊するが、ベストプラクティスとしての会社イメージを確立し、コダックなど大恐慌でも組合の組織化を許さなかったノンユニオン企業に継承された。コダックが暗黙の前提としてのノーレイオフ、オープンドアーポリシーや有給休暇などで先進的であり、レクリエーション活動を重視する在り方は日本の経営家族主義に類似しているように思える。
アメリカでは組合セクターより、IBM、デジタルエキップメント、プロクター&ギャンブルといった典型的な組合不在企業がノーレイオフポリシーで雇用保障が前提の経営を行っていた。日本の大企業の終身雇用と基本的におなじである。
しかしコダックなどは90年代にウォール街からの圧力で大規模なリストラをせざるをえなくなったのである。
デジタルエキップメントが気前の良い給料、従業員に充実した福祉を提供する企業として有名であり、まさにウェルフェアキャピタリズムの継承者のようであったが、結果的にはコンパックに買収される羽目となった。
ダウンサイジング、リエンジニアリングが当たり前になったのは80年半ば以降であるが、いかなる経営環境の変化によるものか。76頁に一つの回答がある。一つはレバリッジドバイアウトの増大、二つめは機関投資家ヘの株主所有の集中拡大だった。1965年には個人が会社の株式の84%を保有していたが、90年までに54%に低下し、94年には上場1000社のうち機関投資家は株式の57%を保有することとなった。機関投資家が経営者に高い水準の業績を要求するようになった。いわゆる株主優位、株主主権という流れがあり、投資家からの圧力で雇用保障や従業員福祉がリスクになっていった。経営者の優先順位が変わったのである。80年代半ば以前は経営者の関心がヒューマン・リレーションズ政策であったのが、厳格な財務規律が重んじられるようになったということのようだ。(続く)
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