勝間和代の嘘「先進国の出生率は労働時間に影響される」(2)
(承前)
勝間和代は我が国も1993年EU労働時間指令に倣って1週間の労働時間を48時間以内とすべきだという危険な主張を行っている。http://mainichi.jp/select/biz/katsuma/crosstalk/2009/01/post-7.html
1993年EU労働時間指令についてはイギリス保守党メジャー政権が激しく抵抗したため、結果として例外規定として週48労働時間の上限の免除を受けるかどうかについて個々の労働者が選択するオプト・アウト制度を勝ち取っている。イギリスは、EUに加盟しながらも、本来、加盟国の義務であるユーロの導入や労働時間指令についてオプトアウト(適用除外)の権利を獲得し、「社会福祉国家」を標榜する欧州大陸諸国と一線を画してきたのである。
保守党政権ではEU労働時間指令を受け容れず、一律の労働時間規制はなかったが、労働党ブレア政権によりEU労働時間指令を受け容れた。つまり、労働時間は週平均48時間を超えてはならないとされている「1998年労働時間規則」を設けたが、しかしながら同時に労働者により署名された書面による個別的オプト・アウトの合意により、法定労働時間規則の適用を免除する制度も設けた(個別的オプトアウト)。
2004年の『海外労働情報』によるとEU加盟国の平均週労働時間が40時間をわずかに超える程度で、加盟国の半数以上が40時間を下回っているのに対し、英国は43時間を超え突出している。週48時間以上働く労働者の割合は16%で、そのうち46%は管理職的な地位にあり指令の対象外となるため、実際にオプト・アウトを必要とする労働者の数は限られている。しかし、使用者側のあるアンケート調査では、759社中65%の企業が、自社の従業員(一部または全部)にオプト・アウトに同意するよう求めているほか、CBI(イギリス産業連盟)の調査では、英国の労働者の33%が同意書にサインしており、事実上労働時間指令がイギリスでは空洞化しているとされている。http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2004_4/eu_01.htm
サッチャー・メジャーの保守党政権は労働組合を弱体化して、団体交渉と協約による集団主義から人的資源管理等の個別主義に労使関係のパラダイム転換を図ってきたのであり、労働時間指令がそもそも自由主義的労働政策と、個別主義が進行しているイギリスの実情に反するものであった。
私は昨年の金融危機まで15年間イギリスの経済が好調で景気が拡大していた要因の一つとして、労働党政権で指令を受け容れつつも適用免除の個別的オプトアウト制度が採られたため、ホワイトカラーの生産性を維持向上させたことがあると考える。
このようにイギリスはEU労働時間指令に抵抗したことが経済成長に有益となり国益にもなった。反対に我が国は林=プレスコット説が1990年代の我が国の経済低迷の要因として労働時間の短縮を挙げているように、政府の時短政策で「失われた10年」を経過することになったのである。
もっとも欧州議会には個別的オプトアウト制度の廃止を求める議論があります。 http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2009_1/eu_01.htmしかし「オプト・アウトは競争力の維持と雇用を創出するために重要」とイギリスが強く反発した。これをなくしたら欧州での経済的自由は窒息するのではないかと思う。2009年4月28日のニュースではオプト・アウト制度は維持されることとなったとあります。Press Associationの記事によるとイギリスでは300万人が48時間以上働いている。ビジネス長官のマンデルソン卿は 「何百万人もの人々がオプトアウトのため、より暮らし向きが良いです、そして、私は私たちが取り外しに抵抗できたのに安心しています。」と言いました。
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/europe/article6184467.ece
http://www.guardian.co.uk/money/2009/apr/02/working-time-directive-eu-negotiations
(参考)
海外労働情報 2006年 EU労働時間指令のオプト・アウト(適用除外)を維持
http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2006_8/england_01.htm
海外労働情報2005年労働時間指令の改正案をめぐる論議
http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2005_6/eu_01.htm
PDF http://www.jil.go.jp/institute/reports/2005/documents/036_4.pdf
勝間和代がオプト・アウト制度にどういう見解を持つか知らないが、労働時間を規制したいということだから、欧州議会の考え方とたぶん同じだろう。勝間を経済閣僚に起用しEU労働時間指令のような政策が推進されるとするならば我が国の経済は低迷し、自由な企業の進展を阻害することになるだろう。それは悪夢というほかない。すでに林=プレスコット説で労働時間の短縮が「失われた10年」の要因とされているのにそれを繰り返すことほど愚かなことはない。
すでに、勝間をはじめとするフェミニストが推し進めている男性の長時間労働をなくす政策、それは少子化対策と男女共同参画が口実として推進しているわけですが、フェミニストが言うように本当に男子長時間労働者の割合と出産率の相関関係があるか検討するため、次のデータを提示したいと思います。
男子の長時間労働者 合計特殊出生率
(週49時間以上%) (2005年)
韓国 54.0 1.08
日本 39.6* 1.26
イギリス34.5 1.78
ニュージーランド34.0 1.96***
豪州 29.1 1.79
アメリカ 24.3** 2.05
フランス 20.4 1.94
カナダ 15.7 1.54
フィンランド13.7 1.80****
オランダ 11.0* 1.71
ノルウェー 5.3** 1.84****
出所 労働政策研究・研修機構『データブック国際労働比較』199頁、69頁
PDFhttp://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2009/06/p199_t6-3.pdf
PDFhttp://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2009/02/p069_t2-9.pdf
長時間労働者率は 2004年~2005年のデータである。
豪州は週50時間以上のデータ
無印 対象年齢は25歳以上
*対象年齢 15歳以上
** 対象年齢16歳以上
***2000~2005年
**上記の資料にないためEU“Eurostat”、Council of Europe“Recent Demographic Developments in Europe”のデータ内閣府共生社会統括官のサイト「補章海外の少子化の動向74頁)から2005年のデータを引くhttp://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2007/19pdfhonpen/pdf/j1040200.pdf
上記データを検討してみると、男子長時間労働者が34%と相対的に高いニュージーランドの出生率が1.96に対し、男子長時間労働者が5.3%とかなり低いノルウェーが1.84である例、地理的に接近している例では、34.5%と男子長時間労働者比率が相対的に高いイギリスが、11%と相対的に低いオランダより、合計特殊出生率では上回っているということからして、勝間のいう男子の長時間労働と出生率の相関を読み取ることができない。
韓国と日本の出生率の低さは別の要因だと言わなければならない。
また 統計上、長時間労働者の割合が多いとされるのは韓国・日本だけではないのである。ニュージーランド・イギリス・オーストラリア・アメリカといったカナダを除く英米法圏諸国も長時間労働者率が高いことも注目したい。一方、個別オプト・アウトでEU労働時間規則を事実上空洞化しているイギリスを除く、欧州諸国の長時間労働者の比率は低いといえる。
このことは、やや古いデータですがこの平成18年の内閣府国民生活書のグラフ がわかりやすいです。http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/3130.html 内閣府共生社会統括官のこのサイトもわかりやすいと思います。http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2007/19webhonpen/html/i1423601.html
ニュージーランド、イギリス、オーストラリアが相対的に長時間労働者が多い理由は、国民党・保守党・自由党といった保守政党が新自由主義的政策を推進した結果かもしれません。典型的には ニュージーランドの1991年雇用契約法(Employment Contracts Act)個人は企業と直接雇用条件を定めることができる自由主義的政策がそうですが、労働時間が減らない要因の一つかもしれない。ニュージーランド・イギリス・アメリカは欧州のような集権的な産業別組合とのコーポラティズム体制、社会福祉国家とは性格が異なるのである。いずれにせよ、相対的に長時間労働者の割合の高い米英豪ニュージーランドと、長時間労働者の割合が低い欧州諸国と比較すると、アメリカやニュージーランドのようにむしろ合計特殊出生率の高い事例があることから明らかなように相関関係を見いだすことはできない。
つづく
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