カード ピケッティング問題2 合衆国その1 ヒッチマン判決とアメリカ鉄鋼会社判決
これはカードですからまとまった作文の前のネタ集めです。引用・もしくは言い換え、要約とと自分の意見を記している。
ピースフルピケッティングをも認めない見解
Atchison.T.and S.F.Ry.Co,V.Gee,139 Fecl;582,584(Cir.CT.Iowa,1905.)
「平和的ピケットなるものは存在しないし、又存在し得ない。丁度高雅な卑俗とか、平和的暴動とか、合法的私刑とかがあり得ないのと同様である。談合したり、説得したり、説得したりする場合はピケット・ラインなどは設けるべきではない。」
Vegelahn v. Guntner 167 Mass. 92, 44 NE 1077 (1896)
「ピケ・ラインをはることは必然的に身体に対する侵害を含み、それが適法な争議の目的のため行われても違法である」(マサチューセッツ州最高裁)
ホームズが反対意見を記した著名な判例。
古西 信夫「英米のピケッティング」『立正法学』 7(1~4) [1974.03.00]
ピケット・ラインを張る行為を違法とする判例
組合不在企業へのオルグ活動を経営者の財産権(炭坑を非組合員によって操業する権利)を侵害し、非組合員労働者の契約上の権利を侵害するとものとしてレイバーインジャンクションを支持した名判決として1917年のヒッチマン判決Hitchman Coal & Coke Co. v. Mitchell, 245 U.S. 229 http://supreme.justia.com/us/245/229/case.htmlがあります。
ウェストヴァージニア州にあるヒッチマン炭坑会社Hitchman Coal & Coke Coは1903年に労働組合が組織されたが3回にわたるストライキで組合は敗北し、1907年に鉱夫たちは「会社に雇われている間は労働組合に加入しません。それに違反した場合は労働契約は終了したものとみなされて異議ありません」といういわゆる黄犬契約に署名させられたが、アメリカ炭坑労働組合は非組合化が他の州の鉱夫の労働条件に影響するため、組織化にのり出した。ストライキ手当を用意し、密かに組合加入をさせながら、会社に組合承認の要求を突きつけた。
対してヒッチマン炭坑会社は、「組合化のために会社に強制して会社と被用者の関係に干渉する差止める」ことを裁判所に求め、1907年に仮差止命令、1908年に中間的差止命令、1912年に永久的差止命令が出されたが、これに対する抗告があり1914年こに原審がくつがえされたが、1917年連邦最高裁は第一審の差止命令を是認した(有泉亨「物語労働法13第11話レイバー・インジャクション2」 『法学セミナー』188号1971年9月)
ピットニー判事による法廷意見は労働組合が黄犬契約の存在を知りながら会社に対してクローズドショップ協定を結ぶよう強要するため、労働者に組合加入を働きかけることは契約違反の誘致にあたり、組合の勧誘行為の差止命令を認め、オルグ活動は労働者の「非組合員的地位」に対して有する経営者の財産権(炭坑を非組合員によって操業する権利)を侵害し、非組合員労働者の契約上の権利を侵害するとの判断を下した。(水町勇一郎『集団の再生―アメリカ労働法制の歴史と理論』有斐閣2005 竹田有「アメリカ例外論と反組合主義」古矢旬・山田史郎編『シリーズ・アメリカ研究の越境第2巻権力と暴力』ミネルヴァ書房2007年)
この判決では組合員が黄犬契約を破棄して組合に加入するよう説得するためピケ・ラインを張ったその行為に対し、「ピケ・ラインをはること自体脅迫であり違法である」としている。司法が正常だった時代のひとつの判例であります。契約の自由の観点でもこの時代に戻るのが最善です。
出入口に2人以上のピケを違法とし、1人だけでも悪口・脅迫・つきまといは違法とした著名な判例
ピケに対してかなり厳しい判決だが、全面的否認ではないものとして1921年のアメリカン・スチール・ファンダリーズ対三都市労働評議会判決AMERICAN STEEL FOUNDRIES v. TRI-CITY CENTRAL TRADES COUNCIL, 257 U.S. 184 (1921) http://altlaw.org/v1/cases/395490
を取りあげる。
これは1914年職能別組合が賃上げのためストライキを宣言したが呼応した従業員はごく少数のため、組合役員がピケに立ったところ、原告会社はTRI-CITY CENTRAL TRADES COUNCILと14人の個人を相手に、「会社がその業務を行うために熟練工を保持しまたは獲得することを妨げてはならない」いうインジャンクションを求め、第一審は1914年6月永久差止命令を出した。差止の内容は脅迫的言動をすること、原告の被用者または被用者たろうとする者を妨げること、原告の工場の前もしくは近くで、または原告の工場の通路で一人または多数の見張りをおいてピケットをつづけることであった。組合側が上訴したが、結局1921年末に最高裁によってレイバーインジャンクションが支持された。(有泉亨「物語労働法第11話レイバー・インジャンクション(2)『法学セミナー』188号 1971)
法廷意見は新任のタフト主席判事(元大統領)が執筆したが、AFL終身会長のサミュエル・ゴンパースが「労働者のマグナカルタ」と絶賛した1914制定クレイトン法の第20条を実質死滅させた反労働組合判決として著名である。 クレイトン法、第20条は次のように規定する「裁判所は雇用者の財産あるいは財産権に弁償不可能な損害が及ぶことを防止する以外は、雇用者と被傭者の間の争議について、この条文に列挙された平和的・合法的な行動に対してインジャンクションを発することはできない」
一読して組合活動を広範に容認し、差止命令を禁止しているようにも読めるが、しかし何が財産権なのか、いかなる行動が「平和的」「合法的」かは裁判所が判断するのである。
タフト主席判事はクレイトン法第20条がいうインジャンクション禁止規定は、レイバーインジャンクションを扱う際の「裁判所の衡平法判断に対しいかなる新しい原理を付け加えるものではない」と言ってのけた。
(紀平英作『ニューディール政治秩序の形成運営の研究』京都大学学術出版会1993 83~85頁参照)
しかし判決をよく読むとピケッティング自体が違法ではなく、工場の出入り口付近に人を配置することを否定していない意味で、全くクレイトン法を無視したものではないと解釈できるので不満が残るところであるが、相当に反労働組合の判決であって、レイバーインジャンクションを支持し組合活動に厳しい姿勢を堅持し、実質クレイトン法20条を叩き潰したと評価されている意味で高く評価して良いと思う。
ピケッティングについて判決は次のように述べている。
引用は(有泉亨「物語労働法第11話レイバー・インジャンクション(2)『法学セミナー』188号 1971)
「工場の行き来に、他人の同様の権利と衝突しない限り労働者は妨害されることなく自由に道路を歩く権利がある。一方社会人が他人の行為に影響を与える目的で平穏に話しかけ、意見を交換するよう申し出ることは、その他人の権利に対する攻撃ないし侵害とはならない。しかし、その申し出が正当に拒否された場合には、しつっこくねばり、追随し、跡をつけることは、不当な妨害であって、ともすると脅迫になりがちな行為である。人はこのような行為から自由である権利を有し、その人の雇い主は彼を自由ならしめる権利を有する」
In going to and from work, men have a right to as free a passage without obstruction as the streets afford, consistent with the right of others to enjoy the same privilege.
We are a social people and the accosting by one of another in an inoffensive way and an offer by one to communicate and discuss information with a view to influencing the other's action are not regarded as aggression or a violation of that other's rights.
If, however, the offer is declined, as it may rightfully be, then persistence, importunity, following and dogging become unjustifiable annoyance and obstruction which is likely soon to savor of intimidation.
From all of this the person sought to be influenced has a right to be free and his employer has a right to have him free.
「従業員または従業員になろうとするものに対するしつっこい妨害が、営業の場所に近ければ近いだけ、使用者の営業に対する権利、特に労働市場への接触という財産の権利に対する妨害は大きくなる。このような近くでこの種の議論が行われるとなれば、物見高い、あるいは利害関係を持つだろう通行人の注意を引き、人がむらがる。かくして妨害の程度は増大し、脅迫の様相を呈するであろう。本件においては、四人ないし一二人で構成されるピケットのグルーブが三つもしくは四つでピケット・ラインを形成した。電気工、クレー掛、機械工、鍛冶などの関係組合から数人のピケッターを出し、暴力の行使が起こった。これが三週間つづいた。このような状態の下でなされた情報の提供、議論の申し入れ、説得などはすべて威圧以外の何ものでもない。このような場所と状況の下で平穏な意見の交換を云々することは馬鹿げている。グループでやるピケットの人数が脅迫を構成する。ピケットという言葉そのものが戦争的目的を含んでいて平穏の説得とは両立しがたいみのである。一、二の暴行が行われたということが全運動を性格づけ、指導者がいかに真剣に平穏の説得を指令してみても、暴行が脅迫的効果をもたらすのである。‥‥‥この種のピケットを差し止めることができるというのがわれわれの結論である。」
The nearer this importunate intercepting of employees or would-be employees is to the place of business, the greater the obstruction and interference with the business and especially with the property right of access of the employer.
Attempted discussion and argument of this kind in such proximity is certain to attract attention and congregation of the curious, or, it may be, interested bystanders, and thus to increase the obstruction as well as the aspect of intimidation which the situation quickly assumes.
In the present case the 3 or 4 groups of picketers, were made up of from 4 to 12 in a group.
They constituted the picket line.
Each union interested, electricians, cranemen, machinists and blacksmiths, had several representatives on the picket line, and assaults and violence ensued.
They began early and continued from time to time during the 3 weeks of the strike after the picketing began.
All information tendered, all arguments advanced and all persuasion used under such circumstances were intimidation.
They could not be otherwise.
It is idle to talk of peaceful communication in such a place and under such conditions.
The numbers of the pickets in the groups constituted intimidation.
The name 'picket' indicated a militant purpose, inconsistent with peaceable persuasion.
The crowds they drew made the passage of the employees to and from the place of work, one of running the gauntlet.
Persuasion or communication attempted in such a presence and under such conditions was anything but peaceable and lawful.
When one or more assaults or disturbances ensued, they characterized the whole campaign, which became effective because of its intimidating character, in spite of the admonitions given by the leaders to their followers as to lawful methods to be pursued, however sincere.
Our conclusion is that picketing thus instituted is unlawful and can not be peaceable and may be properly enjoined by the specific term because its meaning is clearly understood in the sphere of the controversy by those who are parties to it.
この判例によってピケットは工場、事業場の出入口ごと一人に限定されるべく、その一人も悪口、脅迫にわたってはならず、嫌がる者に追随してはならない。また工場などの近くにぶらぶら歩きをしてはならないという判例法が成りたち、それに違反すればインジャンクションで差し止められることになった。
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