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2010/03/11

団結否認権の確立Right to Work lawが必要だ 下書き1-(27)

 今、国政で一番危惧しているのは法務省の民法改正案(夫婦別姓導入等)なので、これに集中して取り組むべきだが、小宮山洋子なんかが突き上げてますから、千葉法相で是非やりたいと云うことでしょうから。また発売中の『サピオ』ゴー宣も読みました。この件も勿論怒ってます。
 しかしながら現在、東京都水道局は争議行為期間中ですが、組合の示威行為や違法行為に中止命令・解散命令が行われない敵対的職場環境を打開しない限り、常にはめられる危険性が多分にあるので、まず身の安全が第一なので面識のある範囲の敵と闘って行くことを優先課題にせざるをえない状況であります。さぼるつもりはないが、反団結権シリーズを進めて行くこととし、余った時間で夫婦別姓等反対や、闇法案反対、女系容認論にも反対していきたいと思います。



1901年タフ・ヴェ-ル判決の事実関係はピケッティングであるがゆえに、まず1871年の労働組合法化以後の状況をふりかえっておく。

1871年刑事修正法-ピケットは厳しく規制されうる立法

1871年の労働組合法は世界史上初めて労働組合を合法化したが、それと抱き合わせで立法化された1871刑事修正法は従前の1859年労働者妨害法よりも事実上、ピケッティングを厳しく規制する内容となっていた。
同法は新たな制定法の犯罪を次のように規定する。
(1)他人の身体または財産に対して身体または財産に暴力を用いること。
(2)訴えに基き治安判事が治安維持を命ずる理由ありとするが如き態様にて脅迫するthreaten or intimidate)こと。
(3)他人を妨害する(molest or obstract)こと、但し本法上「妨害」とは以下の行為を言う。
(a)しつように至る所他人を尾行すること。
(b)他人の所有しもしくは使用する器具・衣類・その他の財産を隠匿し、またはこれを奪取し、もしくはその使用を妨げること。
(c)その人が居住し、労働し、事業を行いもしくは偶然居合せた家屋その他の場所またはかかる家屋その他の場への通路を監視(watch)または包囲(beset)、もしくは二人またはそれ以上の人間と友に街路もしくは道路において不穏な状態で他人を尾行すること。
但し右(1)(2)(3)の各行為は以下の目的をもってなされる場合に限られる。すなわち
(a)使用者が強制して労働者を解雇させもしくは雇用を中止させること、または労働者をして仕事を離れしめもしくは完了前に仕事を中断せしめること。
(b)使用者を強制して雇用もしくは仕事を提供せしめず、または労働者を強制してそれを受けせしめないこと。
(c)使用者または労働者を強制して、一時的もしくは永続的な団体または団結に加入させ、加入せしめないこと。
(d)使用者または労働者を強制して、一時的もしくは永続的な団体または団結によって課される罰金・違約金を払わせしめること。
(e)使用者を強制して事業をなす方式またはその雇用する労働者の人数・種類を変更せしめること。
 右(a)ないし(e)の目的をもって(1)ないし(3)の行為をなした者は、三月以下の禁錮に処せられる。但し(1)ないし(3)の行為を(a)ないし(e)にいう強制の目的をもってなさない限り、その行為が取引の自由を害しまたは害する傾向を有するとの理由により処罰を受けない【*6 268頁】
 ピケッティングについては監視・包囲の定義は与えられておらず、ただその場所が明記されたにとどまるが、片岡曻は殆どすべて禁止されるようになったと述べている。具体的には、1871年刑事修正法が通過すると、その威力は立ちどころに現れ、ピケットが悪口を用いたことを理由として無数の告訴が行われ、労働者を勧誘してストライキ中の工場での就業に応じさせまいとする組合員の行動は、すべて禁錮に処せられる結果となり、七人の婦人が一人のスト破りに軽蔑の意をこめて「バァ」と言っただけで投獄されるようになった。【*6 230頁】。

 1875共謀罪・財産保護法第7条-平和的説得を実質容認せず

 同法第3条は「2人あるいはそれ以上の人々が雇主たちと労働者たちとの間の労働争議を企図し促進しようとして行い、または行おうとして結んだ協定ないし団結は、もしそうした行為が1人でなされたとき犯罪として罪せられるのでなければ、コンスピラシーとして起訴しえない」と明定することよりコンスピラシーの法理を排除した。また、「暴力(Violens)」「脅迫(threats or intimidation)」「妨害(molestation or obstruction))といった抽象的な諸規定をあらためて、 5つの具体的な行為類型として記述するかたちで、実質的に平和的ピケッティングを合法化しようとした。
片岡曻【*6 227頁以下】が同法第7条を分析している。
  共謀罪・財産保護法第7条はthreats,molestation , obstructionの三つの使用を止めた。そして、暴力・脅迫(intimidation)・しつように不穏な尾行・器具・衣類の隠匿・監視包囲を禁止する規定のみをおいた。すなわち
  何人も他人を強制して、その者が行為をなす権利を有することにつきこれをおこなわしめないこと。またはその者がある行為をなさない権利を有するにつきこれを行わしめることにつき、を目的として「不法にかつ法律上の権限をなくして」以下の行為を行うこと。
(1)その者または妻子に暴力を加え、脅迫し、またはその財産に損害を与え、脅迫し、またはその財産に損害を与えること。
(2)至る所しつようにその者を尾行すること。
(3)その者の所有しもしくは使用する器具・衣類その他の財産を隠匿し、または奪取し、またはその使用を妨げること。
(4)その者が居住し、労働し、事業を行いもしくは偶然居合せた家屋その他の場所またはそれへの通路を監視または包囲すること。
(5)二人または二人以上の者とともに街路もしくは道路において不穏な状態でその者を尾行すること。
 以上の行為をなす者は略式手続により二十ポンド以下の罰金または禁錮。

  平和的ピケッティングを合法化というのは第七条の次の但書であった。「単に情報を授受する目的で他人の居住し、労働し、事業を行いもしくは偶然居合わせた家屋その他の場所またはそれらの通路に待機する(ateend)」ことは「監視・包囲」とみなさないとしたのである。
 ところが、裁判所は平和的説得によるピケッティングを容認しなかった。つまり第七条の但書には情報を授受する目的を述べていて、人を説得する目的とは云っていないのである。
 1896年のリヨンズ対ウィルキンス訴訟Lyons V.Wilkins Caseは「仕事をしないように人々を説得する目的でなされたピケッティングは、単に情報の取得または交換と見なされないものと考えられるべきで、1875年法に反し違法である」とされたのである。【*36 5頁】この判例によると人を「スト破り」blacklegと 呼ぶことは脅迫行為と考えられている。第七条にあるように、他人に合法的なことをするよう、あるいはしないよう強制する目的で、監視・包囲することは違法行為とされた【*36 129頁】
 一般的にイギリスでは、1871年の労働組合合法化や団結・ストライキの刑事免責である1875年共謀罪・財産保護法によって個人主義から集団主義への移行と説明されることがあるが、制定法の文言をよく読むとピケッティングは裁判所によって規制されうるものであった。実質的には団体主義と個人主義の妥協であり、他者の権利を侵害する行為については厳しい目が向けられていたのである。少なくとも19世紀においては。
 1825年から50年間有効だった1825年法を前提としてA.V.ダイシーは労働組合主義とは何か、端的に述べた文章がある「労働組合主義は個人の自由に反し、例えば監視(Picketing)は恐喝の一形式にすぎず、また同盟罷業は理論上は適法であるが、実際においては、雇主あるいは非組合員のいずれかに対し、ある形式の恐喝を有効に使用せずに有効に遂行することは困難だ。」【*39 210頁】

 スト破り代替要員の就労を妨害しなければ、労働組合は労働市場を独占できずストは敗北し賃金のつり上げはできない。要するに労働組合主義というの脅迫と恐喝、他者の権利侵害なくして成り立たないものであるが故に市民法原理では本来受け容れがたいしろものだった。

 説得を目的とするピケッティングを違法とする判例のおかげで1893年には全国自由労働協会というスト破りの組織がつくられ、「自由労働者証」というチケットを発行、これはどこの組合にも入ってないという証明で優先的に雇うとことにより、新組合に打撃を与えた。【*17 172頁】
 スト破り団体によって多くのストライキは敗北又は妥協を余儀なくされた。1892年のダラム坑夫スト、1893年のランカシャー綿業スト、ハルのドックストはすべて労働側の敗北又は妥協で終わり、1898年のスコットランド西部坑夫ストは労働者勝利だったが、同年の南ウェールズ坑夫ストは半年の闘争の後敗北した。【*34】
 タフ・ヴェイル事件も全国自由労働協会からスト破り代替要員が送り込まれた事件なのである。
 

 *6片岡曻『英国労働法理論史』有斐閣1952
 *17 浜林正夫『イギリス労働運動史』学習の友社2009年
 *34林和彦「英国労働争議法の生成(上)」『早稲田大学大学院法研論集』6号1970
 *36松林高夫『イギリスの鉄道争議と裁判-タフ・ヴェイル判決の労働史』ミネルヴァ書房2005
 *39A.V.ダイシー 清水金二郎訳『法律と世論』法律文化社1972年

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