団結否認権の確立Right to Work lawが必要だ 下書き1-(29)
Taff Vale Railway Company v.Amalgamated Society of Railway Servants (19 01)
タフ・ヴェイル事件(その4)
前回
http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/right-to-work-2.html
○二審 控訴院判決(1900年11月2日)
一審1900年9月5日高等法院ファ-ウェル判決を覆し、次のような理由で労働組合は告訴される責任を負わないとした。
「本件訴訟が『合同鉄道従業員組合』という名において、被告にたいして主張されうるためには、組合を法人として創設するか、あるいはそれが登録名において訴えうることを制定することによって、このことを可能とする成文法がなければならない。‥‥〔1871年の〕労働組合法にその登録名において提訴・応訴する権限を与える条項はなく、また組合をそれ自体として訴えられるために法人として構成するような規定も存在しないということが、第一に指摘されるべきである。‥‥‥‥われわれの判断では、明示であれ黙示であれ、そのことが可能とされる制定法が見いだされなければならない。かかる存在は、それと反対に明示的な制定法が見出されなければ、訴えうるというのは誤りである」【*37 185頁】タフ・ヴェイル鉄道会社は敗訴したので貴族院の判決を求めて上訴とした。
松村高夫が当時の新聞論調を解説しているが『タイムズ』は一貫して労働組合有責論を展開し、控訴院判決を批判した。「労働組合は団体としてその行動に対して有責とされるべきであり、また、組合が不当に行動したならば、組合基金は損害を補償すべきでなく、組合自体も必要ならば不当な行動を差止命令によって制止されるべきである、とわれわれは強く確信する‥‥」と論評しており、貴族院判決の伏線となった。【*36 139頁】
『タイムズ』論評はまっとうなものである。なお差止命令については、アメリカ合衆国では既に1894年のプルマンストライキで、郵便逓送の妨害や、州際通商の妨害を根拠とした禁止命令(インジャンクション)が下されており、そうした時代状況とも関連としてみていく必要がある。
○タフ・ヴェイル事件貴族院判決(1901年7月22日)
常任上訴貴族【*38】全員の賛成により控訴院判決を覆し、第一審ファーウェル裁判官の判決を復活させたものである。
労働組合は法人ではないと認定されながらも、組合役員の行動によって生じたとされる非合法なピケッティング等による損害に対して法人能力があるものとして起訴されるとした。また判決は、労働組合に対し「差止命令」だけでなく「職務執行令状」もだせるとし、これに従わない場合は法廷侮辱罪で即決収監するとされた。さらに、登録組合だけでなく非登録組合に対しても、損害の有責性について起訴できるとした。【*36 186】
私が思うに本判決の意味は、刑事免責によりストライキを合法化したとされる1875年共謀罪・財産保護法の下においても説得をともなうピケッティングが契約違反誘致として不法行為とされ、「スト破り」代替労働者の全国規模での導入も承認され、さらに組合基金よりストライキがもたらした損害賠償請求が可能となり、実質的にストライキはリスクが大きく労働組合が勝利することは困難になったことにある。
貴族院各判事は次のように述べた。
大法官ホールズベリー卿
「もし立法府が財産を所有し、使用人を雇い、損害を与える能力のあるものを創造したとすれば、それは、そのものが授権と勧誘を通じて故意に他人に与えた損害について起訴される能力ををも黙示的に与えた、と考えるべきである」【*41 192頁】
マクノートン卿
「‥‥立法府は大きな富を所有し、代理人によって行為する能力をもちながら、この富みを用い代理人を雇用することによって、他人に対し違法行為を行っても絶対に責任を負わないような多数の団体を保その権限により創造したのだだろうか。議会はそのようなことは一切しなかった。私は、1871年及び1876年の法律のいずれにおいても‥‥いかなる規定をも発見できなかった。もし労働組合が法の上にあるのでないとしたら‥‥登録労働組合は登録名によって訴えまたは訴えられることができるであろうか。‥‥私はそのような訴訟方法に格別の困難を見いだすことはできない。なるほど、登録労働組合は法人ではないが、それは登録名と登録事務所補をもっている。‥‥議会は、登録登録労働組合が一定の場合には登録名で訴えられ刑罰を科されることを規定し(組合事務所の登録義務や登録官への報告義務違反)、それが登録名で訴えられる唯一の場合であるとは規定していない。私は労働組合を登録名で訴えることができるとしても、労働組合の原則や規定になんら反しないと思う」【*41 193頁】「労働組合は被告らのように選ばれた者がその立場上団体を公正に代表する考えられる者であるならば、登録の有無を問わず、代表訴訟において訴えられるということに、私は何の疑いももたない」【*37 187頁】
シェインド卿
「組合の名において告訴する権限と告訴される責任は、明瞭にかつ必然的に法律の条項によって含意されている」【*36 145頁】
ブランプトン卿
「違法行為が権限ある組合役員によって認可され指示されたストライキの促進上、組合の代理人として行為する者によって行われないかぎりで、組合はその違法行為について責任を負う。それが登録名においてそれが登録名においてそして登録名によって責任を負うかどうかが唯一の残っている問題であるめ。私はこの問題が肯定されない理由がわからない。思うに、1871年労働組合法の下で、定めた法的存在はおそらく厳密な意味では法人ではないとはいえ、それにもかかわらず制定法によって創設された・新たに設立された法人的団体であり、何千人もの個々の個人からなる法人格なき労働組合と区別され、それはもはや他の名において存在しない」」【*37 186頁】
○損害賠償支払判決 高等法院ウィルズ判決(1902年12月19日)
タフ・ヴェイル鉄道会社は1901年7月貴族院判決に基づき、1901年12月24日に合同鉄道従業員組合に対し、ストライキがもたらした損害賠償として2万4626ポンドを請求する訴訟を起こした。内訳は、利潤の損失が14万5千ポンド、特別支出が6577ポンドあり、その内訳はスト破り代替労働者の供給団体である全国自由労働連合に新規雇用費として959ポンド、スト破り代替労働者のためのベッドの借用量や食費に2141ポンド、超過労働・監視労働に1467ポンド、訴訟費用が348ポンドとなっている。【*36 146頁】
1902年12月に高等法院ウィルズ裁判官により以下の三点にみ集約し判決が下された。
(1)組合、ベル〔合同鉄道従業員組合総書記〕、ホームズ〔合同鉄道従業員組合西部イングランド地区オルグ書記〕は共謀して不法な手段により、原告の営業に損害を与えた。
(2)上記三者は、原告の従業員に対し契約を破棄するよう説得した。
(3)上記三者は、ストライキを遂行するため原告に対し不法名行動をとった。
そして1903年2月組合側はもはや争議の合法性を主張することはできないとの判断で控訴をとりやる方針をとり、損害賠償額をてきるだけ少なくすることで、鉄道会社側弁護士と交渉に入り7項目の訴訟終結条件で合意された。
それによるとタフ・ヴェイル鉄道会社は2万3千ポンドを受け取る。金は1903年3月23日に支払われる、となっていた。
2月23日高等法院ウィルズ裁判官は、以上の終結条件を法的に
認めた。3月19日に鉄道会社へ金が支払われこの事件は終結した。【*36 193頁以下】
この裁判の過程はまっとうなものであり、当然私は貴族院判決に好意的な考えであるというか支持する。この判決が維持されていたならば良かったと考える。しかし労働組合側からみると、そもそも組合は訴えることも訴えられることもないものと考えていたのに、組合基金から損害賠償できることによって大きな打撃になったばかりでなく憤激する内容だった。スト破りによる代替労働も同鉄道の特殊事情から困難と思われていたが、会社側は鉄道経験者を雇用しスト破りは十分代替労働の役割を果たしたのである。判決は会社の雇用権としてスト破り団体からの雇用を承認するもので、今後スト破り団体が労働者を供給することによりストを打つことも難しくなる。1975年の共謀罪・財産保護法の刑事免責でストライキ権が与えられたと思われていたのに、実は合法的なストライキは組合が考えていたよりも狭い範囲に解釈されることとなったため、タフ・ヴェイル判決は事実上ストをやらない共済互助団体の範囲でしか実質的に労働組合の存立を許さない内容と思えたと考えられる。
*36松林高夫『イギリスの鉄道争議と裁判-タフ・ヴェイル判決の労働史』ミネルヴァ書房2005
*37林和彦 「タフ・ヴェイル判決と立法闘争」『早稲田大学大学院法研論集』7号1971
*41菅野和夫「違法争議行為における団体責任と個人責任--損害賠償責任の帰属の問題として (一)」『法学協会雑誌』88(2) [1971.02.00]ける団体責任と個人責任」
*42貴族院(上院)は、中世から上訴管轄権を行使してきたが、1876年上訴管轄権法(AppellateJurisdiction Act 1876c.59)により、初めてイギリス全土の最終審の場としての地位が確認されることとなった。1876年法はこの目的のために、一般には法官貴族又は法律貴族(正式呼称は常任上訴貴族:Lord of Appeal in Ordinary)と呼ばれる一代限りの貴族を置き、大法官及び司法部門における上位の職を経験した貴族と共に、その任に当たることを定めていた。なお2004年の憲法改革により最終審は最高裁判所に移行した。岡久慶「憲法改革法案:司法権独立の強化【短信:イギリス】」『外国の立法』222号, 2004.11.25.
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