入手資料整理36
9718伊藤健市 中川誠士 堀龍二編著『アメリカの経営・日本の経営-グローバルスタンダードの行方』ミネルヴァ書房2010年
内容
アメリカモデルと日本モデル
アメリカモデルの変貌―IBMを事例に
コーポレート・ガバナンスの変容にみる日本の経営とアメリカの経営
ソニーの組織改革とコーポレート・ガバナンス
日本IBMの給与制度
ファイザーの人事考課
ジョンソン・エンド・ジョンソンのコンピテンシー
日本IBMの人材教育―プロフェッショナル専門職を中心に
ザ・リッツ・カールトン・ホテルのキャリア開発―企業理念の浸透と実践のためのキャリア形成
アフラックのワークライフバランス〔ほか〕
新刊書である。伊藤健市(関西大学商学部教授)とそのグループの著書は4~5冊はもっており、先進企業の企業文化は関心のあるテーマ(とくに組合不在企業)なので当然買った。
堀龍二「日本IBMの給与制度」について感想を述べる。『労政時報』など引用が多のだが、直接取材したというよりも情報を集約したようにみえる論文である。
IBMの基本方針は全世界共通で「個人の尊重」であり給与に関していえば「発揮された能力、業績などに基づいて、公正な昇給・昇進などの処遇を行う」ことであるとしている。
先進企業だけあって事業構造の変化に対応し、組織のフラット化、第一線の社員への権限委譲が進んでいる。組織のフラット化の意味する所は顧客ニーズの迅速な対応と、専門職への権限委譲によるね意思決定のスピードアップである。専門職については1980年に人事考課を廃止して目標管理で個人業績を評価しているが、1994年にし専門職課長相当以上が年俸制となり、一般職も人事考課を廃止して、目標管理で業績評価をすることに統一した。又、この論文では言及してないがが、IBMを含め、アメリカでは多くの企業が評価の公平性、客観性、納得性のため、360度評価(上司だけでなく同僚・顧客の評価も参考にする)が行われているはずである。
都庁はグループウェアでロータスノーツを使っていて、日本IBMと取引がある。ただペーパーレス反対、OA反対、グループウェア導入に反対の労働組合の妨害によってロータスノーツの使い方のインストラクターの指導がなされなかったことに強い不満がある。給水部系の職場はやったが、営業部系の職場はやらなかったのだ。だから未だにどうやって使ってよいのかわからないのだ。デジタル棄民となっているわけである。目標管理は私の職場(東京都水道局)もやっていて、人事考課の参考的な位置づけになっているが、組合の制限的労働慣行(仕事統制)が支配している状況(職員は組合の職務統制と争議指導に服することが第一に要求される)では、それと矛盾する目標管理は実質形骸化している。期初6月と途中経過の11月の丁度都労連との争議行為頃殺気立っている状況で面接をやるだけでそれは異動希望調書の話が主体で、最終報告時に期末で達成度合いを評価する面接がなく、だから、私がヒラなのに係長級担当とされている仕事も含めて困難な多くの仕事をこなしても最終結果をフォローしないから貢献度を正確に評価されてないとの不満があるわけである。管理職も熱心に見ることはなく、形式的・事務的な面接になる。労働組合が形骸化する運動をやっていて、書き方の雛形をつくったり組合の圧力で面接を任意としている職場がある。任意はルールに反していると言うと、面接の強制はできないという回答である。又自己評価もB評価に統一するよう組合が指示している。結局の所、昔ながらの人事考課がなされていて上役の機嫌をとるヒラメ人材でないと昇進できない心証が強い。360度評価があれば、上役には機嫌をとり丁寧に応対するが、同僚や下の人には横柄とか一生懸命に仕事をして上役の判断のミスをカバーしているのにお前はワーカホリックだとか攻撃するだけで、ねぎらいの言葉の一つもないとか、ガス抜きができるが、それもないので不満だけが残るのは三流企業だといわなければならないだろう。
基本給については日本IBMはアメリカ型職務等級制度を1967年来導入していたと書かれている。60~70年代にはアメリカではどこでもやっている制度である。つまり全ての仕事を社員1人分に相当する単位である「職位」に整理・分類(職務分析)したうえで、その職務内容とその業務を遂行するための能力や実務経験と程度を明確化した職務記述書をもとに各職位の重要度・困難度を評価し、職級(職務の格付け)を決定する。
つまり職務に対して給与を支払うもので、日本企業の職能給・属人給とは違う。このへんは富士通のサイトが説明しているので、みてください。http://sme.fujitsu.com/accounting/wage/wage004.htmlきわめて単純にいうとアメリカは仕事に人をつけて仕事の責任の重さで給与を払う。日本は人に仕事をつけて、人の能力・年功等の属性で給与を払う。
一般論としてアメリカ型職務等級制度は次のような問題点が指摘されていた。職務記述書で職務を明確化すると、職務内容や業業構造の変化に対応しきれない、つまり日本のやり方は職務分析も職務記述書もなく、かなり柔軟に人に仕事をつけたりできるが、アメリカの従来の制度は柔軟性に乏しい。また従来は成果主義でなかったため、業績いかんにかかわらず給与が支払われていたこと。
そこで、職務等級のブロードバンディング化が90年代以降の流れとなっている。本書によると日本IBMでは20以上あった職務等級を9のバンドに簡素化して処遇を柔軟化した。
基本給内の昇給方法は管理職・専門職は「職務・業績別メリット給」という個人業績のみだが、一般職については日本の年功賃金と同じ「標準年齢別一律メリット昇給」を1973年から導入していた。また基本給以外に「長年の貢献に報いる趣旨」で「職能(格)手当」が1975年から導入された。これは勤続を重ねること平均して5年ごとに自動的に昇格・増額とするきわめて日本的・年功的な手当である。
オスターマンによるとアメリカでも80年代半ばまでは日本と似たような実質的に年功賃金だったといわれるが、そうしてみると、日本IBMにしても日本的な慣行を考慮した制度であった。
しかし「標準年齢別一律メリット昇給」は1996年に廃止され「職能(格)手当」は2004年に廃止された。
但し「標準年齢別一律メリット昇給」の廃止に伴い若年層の生活に配慮して給与の安定的な上昇を保障するための「業績加給」制度が設けられた。これは業績の総合評価A~D別に一定の加給額が設定され、D評価でなければ必ず昇給する手当としている。
賞与については1960年以来、基本給の4か月分を6月と12月に支払ってきたが、会社全体と、個人の業績連動型とした。ノンエグゼプト(超勤手当支払いのある一般職と専門職の一部)が年間の賞与が会社業績によって基本給の7.5~8.5か月の幅で変動する。エグゼンプト(上位専門職)は7~9か月の幅となる。個人業績ではA評価が一回乗り賞与4か月分の基本給に対して+0.4か月D評価が-0.4か月である。
評価が悪くても会社の業績が悪くても一般職で年間6.7か月の賞与があるのは報酬に気前の良い企業との心証をもった。
手当については元々IBMは本社も直接仕事とは関係しない家族手当や扶養手当がなく、職能(格)手当、財形扶助、住宅費扶助、昼食費扶助しかなかったが、住宅費扶助を残して廃止された。
基本的に仕事の内容と業績と関係のない手当はこれだけのようだ。
以上のように、さすがに先進企業だけあって業績主義は進んでいるといっても目標管理は結果だけでなくプロセスを重視しており、職務と人の両方を評価していることをこの論文は強調している。又「業績加給」制度は年功的な含みのある制度とも理解できるのである。
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