団結否認権の確立Right to Work lawが必要だ 下書き1-(40)
1984年労働組合法(その2)
第3章 組合の政治資金拠出には、組合員による政治資金投票の義務づけと、政治資金の拠出を拒否する組合員の賃金から拠出金相当額をチェックオフしてはならない使用者の義務等
●政治基金の拠出のための政治的決議の有効期間を10年とする
労働組合が政党資金への拠出、政党・候補者への支援などの政治活動のために政治資金から金銭を拠出するときは、最低10年ごとに組合員による郵便または職場による秘密投票によって過半数の賛成を得て政治的決議をしなければならない【*51】。
歴史的に労働組合の政治基金の拠出については、1908年オズボーン判決が重要である。1人の合同鉄道従業員組合員が、労働党ないし議員維持のために拠出を義務づけ、政治目的のために組合の基金を費やすことは認められないとの訴えを提起し、貴族院判決は、これを認容し、国会議員に対する俸給および選挙費の支給などの政治活動は、1876年法に定められている労働組合の目的に該当しないので、組合規約、組合員全体の合意を根拠としても適法とできないとした【*38 11~12頁】。
この問題は1913年法により解決が図られた。組合員の平等、機会均等、秘密投票による多数決に基づいて政治活動を組合の目的とする政治的決議を行い、認証官の認可を受けるが、認可の要件は、一般の組合の基金とは別に、政治活動の基金を設け、組合員に基金の拠出を拒絶する権利を与えることだった。しかし、この政治的決議は、一度可決すると反対決議により撤回されない限り有効に継続する問題があった。
1984年法は政治的決議の有効期間を10年と定めた。政治的決議の投票の費用は政治寄金から支払われなければならない。
●組合員の政治資金の拠出の免除とチェックオフの制限
組合員は組合に文書で通知することによって政治資金の拠出を免除される。また文書で使用者に通知した時は、使用者は政治資金の拠出金相当額を賃金からチェックオフしてはならないと定めた【*51】。
●資金源の制限等
政治的決議が有効な場合、組合自身以外の組合員またはその他の者による政治寄金に対する寄付、および基金の資産運用から生じる利益以外の資金を付け加えてはならない。組合は内部のその他の基金から政治資金に資金を充当できない。政治資金の赤字を補填するため借金をすることもできない。政治資金の負債は組合のその他の基金から返済できない。政治的決議が失効した後は組合員から拠出金を要求できない。組合は政治的基金の徴収を合理的実行可能な限り、速やかに停止することを確保しなければならない。必要な措置には、使用者に対して、チェックオフ制度の改正を通知することが含まれる【*65】
●違反による被害の救済
組合員は違反に対して高等法院(スコットランドでは高等裁判所)に申立てることができる。裁判所は、組合員の申立を支持する宣言を行うことができ、拠出金の徴収を停止することを確保する措置を講じることを組合に要求する命令を下すことができる。当該命令が下された場合、最初の申立を行った以外の組合員も、当該命令の強行を請求できる【*65】。
政治基金拠出の組合内部運営の規制の効果として、労働党の組合離れを促すこととなり、中道穏健な路線への転換を容易にし、労働党が政権担当能力を取り戻す要因になったとする逆説的な見方もある。つまり党利党略としては失敗だったかもしれないが、組合民主主義や個々の組合員の利益のためであり政策としては妥当なものと評価する。
以上が1984年労働組合法の内容の概要であるが、ひるがえって我が国においても労働組合の内部運営の規制立法の必要性に関して私の意見も述べる。
労働組合の内部運営に関する規制立法としては、アメリカの1959年ランドラム・グリフィン法Landrum-Griffin Act(労使情報報告・公開法) も知られている。組合員の権利組合員の平等取り扱い、組合員の言論の自由、組合員に対する懲戒の保護)と、民主的手続の保障、情報の公開、組合役員の報告義務、汚職の禁止を定めた藻のであるが、1950年代にILA(国際港湾労組)やチームスターズ(全米トラック運転手組合)の腐敗が大きな社会問題となり1957年連邦上院の特別委員会で暴露されたチームスターズの内情は巨額の役員報酬、組合基金の濫用・着服、脱税、マフィアとの結びつき、支部組合の搾取、組合員に対する脅迫、使用者に有利な条件を認める見返りとしての金品収受といった悪行が暴露されこうした労働組合の腐敗を防止し是正するための立法だった【*60 27頁】
我が国では、アメリカの1959年ランドラム・グリフィン法が制定された当時、政府・財界には日本にもそれを導入しようとする動きがあった。それに対して、日本の労働組合と労働法研究者はこれに反対し、結果として、労働組合法第5条が制定されることになったのだが、同条項は労働委員会に申立てする際に必要な要件にすぎないと理解されており、組合民主主義を促進するための包括的な規定は存在しないままである【*62】。労働組合法第5条それ以上の組合員の権利の保護、労働組合内部運営の法的干渉、規制については50年たってもほとんど立法課題とされていないのは労働組合に非常に甘い体質といえる。プロレイバー学者による団結自治に干渉するのは労働基本権の侵害だというような反対論によって聖域化されるのは正しくない。ユニオンショップ等の組合保障措置やチェックオフなど労働組合に有利な制度が温存されているために莫大な組合費が労働者から収奪されていて、金余り状態ともいわれているわけである。みかじめ料、ショバ代よりこちらのほうがずっと問題だ。政治献金にしても企業・団体献金の禁止ということではなく、労働組合の政治基金を認めつつも、それが民主的手続きを経た組合員の支持による支出かという観点で規制すべきだろう。
とくに我が国の場合はユニオンショップやチェックオフのような組合保障措置を制度的に是認し、組織強制により強制的に組合員となり、組合費を収奪されている個々の組合員の権利を保障するために政府が組合内部運営にも法的干渉があってよいはずなのである。イギリスの1979年緑書にみられるように、組織強制を政府が容認している以上(イギリスでは現在は違法だが1984年段階ではクシ協定は容認されていた)、組織強制されている人の利益を擁護する義務が政府にはあるというべきだろう。
政治は個人の権利を擁護することを基本とすべきである、イギリスの労働改革がそうであり、組合員個人の権利のために公正な選挙のために公金が支出されるのである。保守党政権の労働組合改革における、労働組合観は個人的権利の総和としての団結を容認しているだけであって、団結自治という名目で組合員個人の権利を抑圧することを許さない思想が前提になっている。この認識に立てば、階級的利益や労働組合の既得権益より個人の権利を擁護する方向での改革が可能になる。
*38小宮文人『イギリス労働法』2001信山社
*51林和彦「イギリス保守党政権下の労働市場の規制緩和(一)」」『日本法学』72巻3号 2006
*60中窪裕也『アメリカ労働法』第2版弘文堂1910年
*62佐藤敬二「アメリカ労働法における中間団体としての労働組合」
PDFhttp://www.ritsumei.ac.jp/~satokei/Research/2002/jinbunken.pdf
*65鈴木隆「イギリス1984年労働組合法と組合民主主義 -2-」『島大法学』31巻3号
【参考】我が国の労働組合法第5条
第5条 労働組合は、労働委員会に証拠を提出して第2条及び第2項の規定に適合することを立証しなければ、この法律に規定する手続に参与する資格を有せず、且つ、この法律に規定する救済を与えられない。但し、第7条第1号の規定に基く個々の労働者に対する保護を否定する趣旨に解釈されるべきではない。
2 労働組合の規約には、左の各号に掲げる規定を含まなければならない。
1.名称
2.主たる事務所の所在地
3.連合団体である労働組合以外の労働組合(以下「単位労働組合」という。)の組合員は、その労働組合のすべての問題に参与する権利及び均等の取扱を受ける権利を有すること。
4.何人も、いかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地又は身分によつて組合員たる資格を奪われないこと。
5.単位労働組合にあつては、その役員は、組合員の直接無記名投票により選挙されること、及び連合団体である労働組合又は全国的規模をもつ労働組合にあつては、その役員は、単位労働組合の組合員又はその組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票により選挙されること。
6.総会は、少くとも毎年一回開催すること。
7.すべての財源及び使途、主要な寄附者の氏名並びに現在の経理状況を示す会計報告は、組合員によつて委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少くとも毎年一回組合員に公表されること。
8.同盟罷業は、組合員又は組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票の過半数による決定を経なければ開始しないこと。
9.単位労働組合にあつては、その規約は、組合員の直接無記名投票による過半数の支持を得なければ改正しないこと、及び連合団体である労働組合又は全国的規模をもつ労働組合にあつては、その規約は、単位労働組合の組合員又はその組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票による過半数の支持を得なければ改正しないこと
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