公務員に争議権付与カウンターレポート下書き-アメリカ合衆国・オーストラリアとの比較法制(3)
第一回http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-d339.html
第二回http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-0419.html
連邦公務員はスト参加で解雇される(3)
また連邦法7116条では、使用者・労働組合双方の不正労働行為(Unfair Labor Practice、ULP)を定義しており、ストライキ(strike)、業務停止(work stoppage)、怠業(slowdown)、ピケ(picketing)への参加(participate)、および、これを呼びかけること(call)が、労働組合としての不正労働行為にあたるとしている。これらの行為をおこなえば、労働組合の排他的交渉代表権が取り消される。また、職員には、懲戒処分が科せられる。これらの不正労働行為のなかでも、ストライキだけが刑事罰の対象となっており、1,000ドル以下の罰金などが科せられるとしている。PDFhttp://www.gyoukaku.go.jp/koumuin/kentou/working/dai7/siryou7.pdf
もっとも労働組合の支持によって当選したカーター政権により1978年連邦公務員法改正法Civil Service Reform Act of 1978により団体交渉制度が導入された。これは、連邦公務員の団結権および団体交渉権を宣言して〔民間企業の全国労使関係と同じく〕排他的交渉代表権の枠組を定め、労使双方の誠実交渉義務を設定してこれを不当労働行為手続で担保するとい全体構造であるが、団体交渉の範囲は限定されており、給与については法定制度が維持されている(次回以降後述)。
団体交渉の対象になりえない事項としては(1)行政庁の任務、予算、組織、被用者数及び機密保持措置を決定する権限(2)被用者を採用し、配置し、指揮し、レイ・オフし、または官職に留める権限(3)懲戒処分を行う権限(3)仕事を割り当てたり、下請けに出す権限などである。また、当局の選択によって交渉事項となりうるのは、組織単位、作業プロジェクトまたはは勤務割に割り当てる被用者の数、種類、等級又は官職や業務遂行の技術、方法、手段などである。
連邦公務員人事委員会は、人事管理庁Office of Personnel Management)とメリット・システム保護委員会Merit Systems Protection Boardとに分割された。
7万人の中間管理職クラスに能力給が適用され、従来の定期昇給と官民格差を是正するための昇給ベースアップという自動昇給システムからはずされた。
メリット・システム保護委員会は。従来、成績不良者に対する降格や免職と勤務評定との関連が明確でなく、統一的基準規定がなく、メリットシステムが形骸化していた状況を改め、勤務評定・不利益処分・不服申立てを関連つけた制度整備を行ったものである。
これは人事院公平局を独立させたような組織だが、任期7年の三名の委員と任期5年の法律専門家たる特別顧問により構成される。メリット・システムの原則を実現するための法律等による違反行為の有無を監視し、違反行為に対する不服申立てなどについて審査決定し、人事管理庁の制定する規則や細則の審査もできる。
人事委員会を分割してこの組織を設けた眼目が、勤務成績不良者の降任、免職を容易にすることにあった。すなわち、成績不良職員は、自己改善のための援助を与えられることにはなっているものの、90日前の通告が必要だった免職等が、30日前の通告となり、不服申し立ての手続きは迅速化するということだった。
しかし、この制度でも硬直的と批判されている。実際に解雇される例が少ないのだ。2002年国家安全保障省新設のさい、2002年11月の国土安全保障省創設にあたって大統領は、国土安全保障省の労働者の採用、解雇、異動について大きな権限を持つことになったが、ブッシュ大統領はこの行政上の保護を剥奪すべきことを力説した。要するに、容易に採用、昇進、解雇ができるようにしたいとのことだった。
また連邦労使関係院(Federal Labor RelationsAuthority)があらたに設置されたが、協約上に強制仲裁を含む苦情処理手続を規定することが義務づけられ、従来排除されていた「勤務成績を理由とする解雇、免職、給与低下、休職、停職や昇進の遅れ、人員削減などが対象となっているらしい。この制度、勤務成績を理由とする解雇に組合が口を出せる制度をつくったために、一層硬直したものになったという見方ができる。2002年の国家安全保障省設立のさいに、団体交渉権廃止をブッシュが力説したのもこの点にあったと考えられる。
引用・参考
菅野和夫「公務員団体交渉の法律政策」アメリカ(一)」『法学協会雑誌』98巻1号 1981
大久保史郎「アメリカ公務員制度改革改革詳論」『立命館法学』150-154号、1980
大河内繁男「アメリカにおける公務員制度の改革」『公企労研究』42号、1980
『欧米国家公務員制度の概要』財団法人社会経済生産性本部・生産性労働情報センター、1997
国土安全保障省と団体交渉権問題など
http://www.jil.go.jp/jil/kaigaitopic/2003_02/americaP01.html
http://www.govexec.com/dailyfed/1102/111202p1.htm
http://www.govexec.com/dailyfed/1102/112202b1.htm
http://www.usatoday.com/news/washington/2002-09-12-homeland_x.htm
http://www.csmonitor.com/2002/0905/p10s02-comv.html
http://www.brookings.edu/views/op-ed/light/20030509.htm
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