人事院勧告を廃止しなくても給与大幅引き下げはできる
本日の日経1面記事が国家公務員給与1割削減の方針とある。本日の官房長官の会見でも引き下げ幅未定としながら検討していると報道されている。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110430-00000525-san-pol日経記事にもあるように人事院勧告は法的拘束力はない。昭和29年から昭和34年まで人事院のベースアップ勧告は留保され、報告のみがなされていた。給与を決定すべき諸条件に幾多の不確定な要因を含んでいる現段階において単なる民間給与との較差をもって俸給表の改正を行うことは当を得た措置ではないとしていたのである。ところが昭和35年に春闘相場を上回る12.4%の給与改定を勧告した。これは調査時点を3月から春闘相場が反映する4月に変更したことと、ラスパイレス方式を採用したことによる。以後の人事院勧告は高率ベア勧告になるが、政策上の理由で昭和45年まで完全実施は見送られていた。従って政策的に勧告を受け容れないで政治判断で給与を引き下げてもよいのである。とくに財政難のときはなおさらである。政治判断で引き下げがあってもよい。
また人事院勧告が代償措置だというのも、昭和29年ごろから、人事院の組織防衛のために国会の審議の過程で出てきた議論にすぎないのであって公式的なものではない。浅井清初代人事院総裁が国家公務員法に関する著作を多く書いているが、代償措置だということはどこにも書かれていない。そもそもアメリカで公務員の団体協約を最初に認めたのが1959年のウィスコンシン州が最初で、ヴァージニアやノースカロライナは今日でも団体交渉を禁止しているように勤務条件法定墨守の州も少なくない。そもそも民間企業の労働基本権を認めたルーズベルト大統領は公務員は団体交渉に強く反対していた。科学的人事行政推進のために人事院の制度を、とくに、フーバー公務員課長の強い指導力で作ったという経緯なのであって、労働基本権とからめる必要はなかったのである。
ただ昭和40年のドライヤー報告で、ILOがそのような意味で人事院勧告に承認したことから、組織防衛の論理となっていた。また社会党議員が、人事院勧告完全実施を迫る口実として、国会で追究してきた経緯と、昭和39年池田・太田会談で史上空前「陸海空統一スト」の脅しに屈した池田首相がストを回避させるため、公企体と民間賃金格差を是正に努力することで合意し、公企体等の春の賃上げについては、まず公労委の調停の中で、民間の春闘の賃上げを反映すべく努力がなされ、その上に立って仲裁裁定が出されることになった。いわゆる民間賃金準拠原則が確立したため、公企体では民間準拠ルールをが確立しているのに、非現業の一般公務員は、勧告を完全実施せず、民間との格差があるのはおかしいではないかという理屈で、人事院勧告を従来よりも重視するようになったということだろう。
いずれにせよ、人事院勧告を廃止するために、団体交渉権を付与する必要はなかったし、財政的にもっともね健全なのは、人事院勧告を廃止し、団体交渉権も付与しないありかたであり、その方向で政策を推進すべきであった
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