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2011/04/24

団体交渉コレクティビズムから個別雇傭契約自由放任主義へパラダイム変換(下書き10-11)書き換え

前回http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/post-c017.html

合衆国-非組合企業隆盛の理由(10-11書き換え)

1.アメリカの経営者の反労働組合主義と憲法革命以前の保守的な司法

承前

● Lochner era(ロックナー時代)の経験(2)

(4) Lochner eraの汚点-労働時間規制を合憲とした1917年バンティング判決(最悪の判決)と1908年女性の契約の自由を否定したミュラー判決をどう評価すべきか 

①ロックナー判決は正しいが、その影響力を過大に評価出来ない理由

  1890年から1937年まで主としてデュープロセス条項によって55の連邦法と228の州法が違憲とされている【*1】とはいえ、ロックナー時代を過大評価をしてはいない。ロックナー-アデア-コッページ-アドキンス-モアヘッドといった雇用契約の自由判決を高く評価するが、しかしながら裁判所は20世紀の革新主義的政策のすべてに立ち向かったわけではないし、革新主義的政策の侵入を明らかに許しているからだ。明示的にロックナー判決が判例変更されたのが1937年ということであるが、  例えば1917バンティング判決やミュラ-判決が挙げられる。つまり1917バンティング判決は、労働時間規制を違憲とする1905年ロックナー判決を引用せずに、判例変更し、1930年Texas & New Orleans R. Co. v. Brotherhood of Ry. Clerksはエルドマン法の黄犬契約を違憲とした1908年アデア判決を引用することなく事実上判例変更した。つまりその時の気分で安易に事実上先例を覆した例があるからである。 
  そうしたことからアメリカ社会の左傾化の防波堤となったのは、実体的デュープロセスだけではなく、むしろ1914年クレイトン法6条、20条を実質骨抜きにしてレイバー・インジャンクションを断固支持したの裁判所の判断が大きいと私は考える。
  また、1935~36年ニューディール立法違憲8判決【*2】についていえばデュープロセス条項を理由に違憲とした判決は、それほど多くわけではない。
  鉄道会社に退職者の年金の負担を強いることがデュープロセス条項に反するとした鉄道退職者対アルトン鉄道会社事件Railroad Retirement Board v. Alton Railroad Co., 295 U.S. 330 (1935)http://supreme.justia.com/us/295/330/case.html、農地の抵当流れを防いで農民負債者を救済するフレジャー・レムケ農地抵当法が、債権者の権利の簒奪としてデュープロセス条項に反するとしたルイヴィル共同株式保有銀行対ラザフォードLouisville Joint Stock Land Bank v. Radford, 295 U.S. 555 (1935)http://supreme.justia.com/us/295/555/case.html、女子・未成年者の最低賃金を定めたニューヨーク州法をデュープロセス条項に反し違憲としたモアヘッド対ニューヨーク州関係ティパルド判決Morehead v. New York ex rel. Tipaldo, 298 U.S. 587 (1936)http://supreme.justia.com/us/295/555/case.htmlなどである。
  連邦の社会経済立法については、実体的デュープロセスでなく州際通商条項、課税条項、州権の保留条項による違憲判断がけっこう多い。とりわけ、州際通商条項(合衆国憲法1条8節3項外国、諸州、およびインディアンとの部族と間の、通商を規制する権限)による違憲判決が多かったが、これは憲法解釈のテクニックであって、本質的には経済的自由の審査ではなく、州権か連邦かという立法の効力の問題である。
 合衆国憲法は1条8節で連邦議会に与えられた権限を列挙しているが、連邦議会制定法は連邦議会の権限の行使であるという憲法上の基礎を欠けば効力はなく、権能はその分、州または合衆国の人民に留保されている。
 初期の判例は州際通商を広く解釈していた。1824年のギデンズ対オグデン判決は「通商とは売買を意味するのみならず、運輸やコミュニケーションなどのあらゆる商取引を包含する」【*3】と定義している。しかし連邦最高裁は南北戦争後、州権を優先し、連邦の権限を抑制するようになり、その考え方は二重主権と呼ばれた【*4】。
 その典型的な判例がハマー対ダーゲンハート判決Hammer v. Dagenhart, 247 U.S. 251 (1918)http://caselaw.lp.findlaw.com/cgi-bin/getcase.pl?court=US&vol=247&invol=251(1938年に判例変更)の製造、通商二分論である。
 これは連邦の児童就労を伴って生産された物品の、州間発送を禁止する児童労働法を違憲とするものである。
 デイ判事による法廷意見は製造業や鉱業は通商ではないとして、州外に出荷することを意図して製造しても連邦政府の州際通商規制権限の対象とならない。工場や鉱山の年少者労働の規制は、州の内部事項であり、州の内部事項を規制することは憲法修正10条に反する述べた。
 連邦議会の州際通商権限と州の内部管理事項権限はそれぞれ排他的であるという考えを方である【*5】。従ってこの解釈に従えば連邦議会には州際通商そのものである鉄道や運輸業の労働の規制権限が認められても、産業一般の労働の規制は州の内部管理事項への干渉として認められないことになる。
 州際通商規制権限は憲法革命以後、連邦政府の権限を拡張しているが、最近でも、2011年1月31日フロリダ州のペンサコラ連邦地裁判決が18歳以上の国民に医療保険への加入を義務付ける2010年医療保険制度改革法の条項について、憲法の州際通商条項に基づく連邦議会の権限を越えるとしている(連邦政府は控訴)http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920008&sid=a5vYWFYeLHH8ように今日でも議論のある問題たが、経済的自由そのものに踏み込んだ憲法判断でなく、連邦政府の権限という入り口の議論である。
 だから、「契約の自由」だけで、ばっさばっさと違憲判決を下していた訳ではないのである。

②これこそワースト判決1917バンティング対オレゴン

 ロックナー判決は1917年のバンティング対オレゴン判決BUNTING v. STATE OF OREGON , 243 U.S. 426 (1917) http://caselaw.lp.findlaw.com/scripts/getcase.pl?court=us&vol=243&invol=426で黙示的判例変更がなされた。これは工場労働において原則として一日10時間を上限する労働時間を定め、13時間まではは例外的に割増し賃金の支払いにより働かせてもよいとするオレゴン州法について、ロックナー判決に言及せず、5対3で合憲判断とした判決だった(法廷意見は何とロックナー判決で多数意見に与したマッケナ判事。これにホームズ、クラーク、デイ、ピットニー各判事が同調、反対-E.ホワイト主席判事、ヴァン・デヴァンター、マクレイノルズ各判事。なおブランダイス判事はこの訴訟に係わっていたことから審理不参加)。
 マッケナ法廷意見は、欧州など外国における平均労働時間に関する統計に依拠してこの州法を支持した。
 オーストラリア8時間
 イギリス9時間
 アメリカ合衆国9時間45分
 デンマーク9時間45分
 ノルウェー10時間
 スウェーデン、フランス、スイス10時間30分
 ドイツ10時間15分
 ベルギー、イタリア、オーストリア11時間
 ロシア12時間

 この統計はハーバートロースクールのフランクファーター教授(後にFDRのスピーチライターから、連邦最高裁判事)が書いた上告趣意書で用意された【*6】。フランクファーターは、レイバー・インジャンクションを裁判所による統治として激しく批判し、イギリスの1906年労働争議法をモデルとした争議行為合法化を目指し、反インジャンクション法である1932年のノリス・ラガーディア法の制定に深く関わった。FDRのブレインとして、イギリス支援のために第二次大戦参戦を促し、シオニズム運動にも関わった)左翼急進主義者であるフランクファーターの上告趣意書を鵜呑みにしたその1点だけでもワースト判決である。

 アメリカ合衆国における平均労働時間は1865年に11時間、1884年に11時間半だった【*7】また当時鉄鋼業が1日12時間労働週休なしも少なくなかったことから、所定労働時間の10時間が長時間労働とは思えない。
 もっともこの州法の労働時間制限は13時間であるが、標準労働日の超過労働時間を割増し賃金とするのは労働組合が主張してきたものである。
 浜林正夫によるとイギリスで割増し賃金の残業手当が一般化するのは19世紀後半と述べている【*8】。これは労働組合が労働時間短縮と込みで残業手当を要求したためである。事実上労働組合の要求を法定化したものと理解することができるが、労働時間規制プラス賃金規制でるから、雇傭契約の自由の侵害である。
 労働時間規制の先例であるロックナー判決Lochner v. New Yorkでは州の権限として公衆の安全、健康、道徳の保護のために私的財産、私権を規制するポリスパワーの行使を認めるが、この種のポリスパワーの立法については、ポリスパワーの公正で、合理的で適切な行使であるか、自由に対する個人の権利への不合理で不必要で恣意的な干渉であるか【9】審査されなければならない。裁判所がポリスパワーの行使によって契約の自由が干渉されていると認めると、干渉をもたらす規定が達成するという目的を特定し、その規定から目的が実際に達成されると認めなければ、手段を採用する規定の効力は否定される【*10】という審査基準をとっているが、バンティング判決ではロックナー判決も引用せず、その審査基準で十分な検討もなされていない。とりわけ割増賃金の公益性については立証不可能である。違憲反対の3判事も意見を述べておらず、司法審査としてはぬるいものとなっている。工場労働に限定されているとはいえ、契約の自由をないがしろにしていることでワースト判決である。つまり、ロックナーは明示的に判例変更されなかったものの、労働時間規制が違憲とされたのは12年間と短かったのである。
 ここで、労働時間に伝統社会と産業革命以後当時の労働時間について浜林正夫【*11】から引用すると、H.J。ヴォート『イギリスにおける時間と労働 1750~1830』2000年はエンゲルス以来の産業革命期に労働時間が大幅にみ増加したという定説を批判し、1760年、1800年、1830年の3つの時点で一日の平均労働時間は11時間とあまり変化していないことを明らかにした。これは2800件の裁判の尋問記録から採ったもので、工事労働の調査ではない。しかし、この実証研究から明らかなことは18世紀後半から19世紀前半のイギリス人は平均11時間働いていた、つまり常識としてふつう1日11時間は働くものだということである。1日の労働時間は大きな変化はなかったが、労働日数は増加した。ロンドンで208日から306日に増加は、年間労働時間数は、2288時間から、3366時間に増加した。 したがって、10時間労働を上限とする原則は、過去100年から150年の平均的な労働時間より短く、不当に雇傭契約の自由を侵害しているといえる。
 さらに浜林は伝統社会における労働日Working dayという概念についても説明している。 Working day とは働く日という意味ではなく、一日の労働時間帯を指すつまり   Working hour per dayという意味であると説明している。中世のギルドでは夜業を禁止しており、労働時間とは夜明けから夜になるまでを指していたという。しかし近代社会 は同職組合の入職規制や営業規制を打破して始まるものだから、この概念にこだわることはないだろう。過当競争防止の夜業禁止は契約の自由に反するものである。いずれにせよ、冬は12時間、夏は15~16時間という定めもあったから、13時間労働制限も正当化できないと私は考える。

③1908ミュラー判決-ロマンチックパターナリズム

  オレゴン州における洗濯業および工場における女性について1日10時間を超えて働かせてはいけないという州法を合憲とした1908年のミュラー対オレゴン判決MULLER V. OREGON, 208 U. S. 412 (1908) http://www.larrydewitt.net/SSinGAPE/muller.htmはロックナー判決の枠組みを変更するものではないが、現代においてはワースト判決と評価してよい。1954年公民権法タイトル7により雇用上の性差別される事例だろう。女性を従属的な性とみて、庇護され保護されるべきというロマンチックパターナリズムそのものであり、現代の性差別撤廃の趣旨では排撃されるべき立法である。
  ただし当時は、女性は合衆国憲法修正14条「いかなる州も、人から法のデュー・プロセスによらずして生命、自由もしくは財産を剥奪してはならない。またいかなる州も、その管轄権の中で何人にも法の平等な保護を否定してはならない。」の「人」に女性は含まれないものとされていた。「人」に女性を含むとされたのは1971年のリード対リード判決以降なのである。要するに女性は契約の自由をみ享受する権利の主体とはされなかったから合憲判断なのである。なお合衆国において女性に選挙権が付与されたのは1920年の修正第19条からである。
 法廷意見は極保守派でロックナー判決でも多数意見に与したブリューア判事が執筆し、多くのことを語っているが、要点は女性は「契約の自由」を享受する市民とはみなされなかったことにある。「女性は常に男性に男性に従属してきたことは歴史が明らかにしている‥‥未成年者と同様‥‥女性は、裁判所において、権利が保護されるよう特別な配慮が必要な存在と見倣されたきた‥‥女性には、それらの権利を完全に主張することを妨げる気質と生活習慣が存在している‥‥政治上、人身上、契約上の権利の制限がすべて取り除かれても、女性の性質からして女性は男性に従属し保護を求めるだろう‥‥これらの事によって男性から区別されるため、女性は女性だけのクラスに位置付けられるのが相当であり、女性保護を目的とした法律は、例え男性には支持され得ないものでも、支持される」【*12】と女性についてステレオタイプに理由付け結論している。
 私は「人」に女性を含む必要はないという趣旨で1971年のリード判決に反対であり、ブリューア判事にに敬意を表し原則論としてはミュラー判決を支持してもよい。しかし、女性の保護・後見者である男性の判断を尊重していないという点で問題のある判決だといえる。裏返して言うと、契約の自由を侵害する規制立法が容認されている現代は、男性が女・子ども並みに扱われているということを物語るものである。

 ● Lochner era(ロックナー時代)の経験(3)

最良の判決 アデア-コッペ-ジ-ダーゲンハート

Lochner eraにおける「契約の自由」の侵害としての違憲判決、及び州際通商条項違憲判決の主要な判例を取り上げる。今回は3判決だが、憲法革命まで主要判決を全て取り上げる

1.黄犬契約を禁止するエルドマン法(鉄道労働法)を「契約の自由」の侵害として違憲と判断したアデア対合衆国判決ADAIR v. U S, 208 U.S. 161 (1908) http://caselaw.lp.findlaw.com/cgi-bin/getcase.pl?court=us&vol=208&invol=161

 1908年アデア判決は、1915年コッページ判決と並んで、「契約の自由」というという明文規定はないが実体的デュープロセスとしての憲法上の権利を根拠に、団結団体行動に対する経営支配を排除する立法を違憲と判決したベスト判決と考える。
 1898年制定のエルドマン法Eldman Act(連邦法-鉄道法)10条は州際の運搬業労働者を組合員であるという理由だけで、組合に加入しない協定にサインすることを拒絶したという理由だけで解雇することを犯罪とし、さらに、争議に参加した労働者をブラックリストにのせて回覧することを違法とした【*13】。
 事案はルイビル・ナッシュビル鉄道会社の支配人であるウィリアム・アデアが、O・B・コッページという機関車の火夫を解雇した。コッページは解雇の理由は黄犬契約の署名を拒否したからだとしてエルドマン法違反として提訴したというものである。
 ハーラン判事による法廷意見は州際の鉄道会社の黄犬契約を禁止するエルドマン法は憲法違反と断定した。「労働者が適当と考える条件と、労働の買手が買う条件を定める権利とは異ならない。雇用者と被用者は平等な権利を有しており、この平等性を妨害する立法は、契約の自由に関する専断的な干渉になる」【*14】と述べ、修正5条のデュープロセス条項違反として違憲判断が下されている。
 黄犬契約の自由を述べたアデア判決は団結団体行動を否定するものとして大きな意義を持つ。黒人解放の先駆、偉大な少数意見裁判官として知られロックナー判決で反対意見に回ったハーランが法廷意見が反労働組合判決の起草者であることでも有意義な判決である。反対-マッケナ、ホームズ。
 なお、この判例は1926年鉄道労働法を合憲としたTexas & New Orleans R. Co. v. Brotherhood of Ry. Clerks, 281 U.S. 548 (1930) http://supreme.justia.com/us/281/548/case.htmlにより黙示的に判例変更されるまで20年以上効力を有した【*15】。
 
2.黄犬契約禁止の州立法を違憲としたコッページ対カンザス判決COPPAGE v. STATE OF KANSAS, 236 U.S. 1 (1915)
 
http://caselaw.lp.findlaw.com/cgi-bin/getcase.pl?court=us&vol=236&invol=1
 
 カンザス州は、使用者が、雇用の条件として黄犬契約の締結を労働者に求めることを禁じる州法を制定した。事案は、カンザス州フォートスコットにあるフリスコ鉄道の管理人
であるT・B・コッページはヘッジイスという転轍手に転轍手組合から脱退するか、職場から去るよう求めた。ヘッジイスはこれを拒否したため、コッページは鉄道会社を代理して彼を解雇した【*16】。
 ピットニー判事の法廷意見は、アデア判決に依拠して、問題のカンザス州法を合衆国憲法修正14条のデュープロセス条項に反し違憲と判決し、労働者側は経済上の弱者であって労働の売買は対等な立場で行われていないゆえ、黄犬契約禁止を認める州裁判所の見解を排除する優れた理論を示している。要するにに団結権思想に道理など認めないきっぱりした姿勢を示したことで最良の判決のいえる。
 「実際、少し考えれば、私的所有の権利と自由な契約の権利が共に共存するところでは、当事者は契約をする時、他方より多く財産を持っているか、少ないか、または全く持っていないという問題によって影響を受けることは避けられない。‥‥全ての物が共有されない限り、ある人々が他の人々よりも多くの財産をもつことは自明であるので、契約の自由と私的所有を認めるならば、同時に、これらの権利の行使の必然的結果である財産の不平等を正当と認めなくては道理上うまくいかない。‥‥修正第14条は『リバーティ』と『プロパーティ』を共存する人権と認めており‥‥」目的の審査でパスするとしても次に、手段の合理性が、すなわち問題となっている法律は達成される目的にむとって「合理的」「実質的」な関連をもっているかが厳しく問われる【*17】。
 カンザス州法は「財産をもつ者からその一部を奪うことによって富の質を平等化するという想像可能な望ましさを越えたものであり、(州の権限である)健康、安全、道徳または福祉には関係ない」【*18】と述べた。反対-ホームズ、デイ、ヒューズ。
 私が思うにこの見解に立てば、団結権も団体行動権も契約の自由を侵すもので合法化はありえないことになる。

 私有財産権の存するところには富の不均衡はつきものであり、あらゆる契約で当事者双方が平等な立場に置かれるとは限らない。契約や私有財産権の自由を守りながら、これらの権利の行使に必然的に伴うことになる富の不均衡の合法性を認めないということは、事理に反するとしたのである。契約当事者の交渉力の対等性などありえない。元請けと下請けの関係、大企業の押し込み営業、あらゆる契約に交渉力の格差はつきもので、それを否定すれば社会主義となってしまう。現代においては古典的自由主義者シカゴ大学ロースクールのエプステイン教授がピットニー判事と同様の趣旨を述べている。

3.児童労働法を違憲としたハマー対ダーゲンハート判決Hammer v. Dagenhart, 247 U.S. 251 (1918) http://caselaw.lp.findlaw.com/cgi-bin/getcase.pl?court=US&vol=247&invol=251

 合衆国議会は1916年に、工場から出荷させる前30日以内に、その工場で14歳未満の者を使用したり、14歳以上16歳未満の者を1日8時間以上、、もしくは週48時間を超えてまたは午前む6時以前と午後7時以降に就労させた場合、その工場で製造された商品を州際通商で輸送することを禁止する【*19】 Child Labor Act が制定された。ノースカロライナ州のダーゲンハートは16歳未満の子供を2人を綿糸工場で働かせていた父親であるが、この法律の違憲性を理由に法律の執行の差止を連邦地裁に求め、最高裁に係属したのがこの事件である。
 連邦最高裁は5対4の僅差であった。デイ判事が法廷意見を記し、E・ホワイト主席判事、ヴァン・デヴァンター、ピットニー、マックレイノルズ各判事が賛同した。

 デイ判事による法廷意見は、児童労働法が合衆国議会に附与された州際通商を規制する権限の範囲内にないとして違憲判決を下した。つまり商品の製造や石炭の採掘は通商ではなく,これらのものが後に州際通商で輸送されたり使用されるものであったとしても、それによってこれらの生産が通商になるわけではないとして、法律を違憲とした。PDFhttp://www2.kobe-u.ac.jp/~emaruyam/law/faculty/2009/090629memo.pdf 反対-ホームズ、マッケナ、ブランダイス、クラーク。
 このように、最高裁は通商と製造の二分論によって州際通商規制権限を狭く解釈し、州の内部事項管理権限とそれぞれ排他的という考えを用いて、児童労働規制を叩きつぶしたのである。
 

【*1】中谷実『アメリカにおける司法積極主義と消極主義』法律文化社1987 27頁註1
【*2】河内信幸『ニューディール体制論-大恐慌下のアメリカ社会-』学術出版会2005年 374頁以下
前掲書 16頁 註2
【*3】阿部竹松『アメリカ憲法』成文堂2008 214頁
【*4】ジェイ・M. ファインマン著 尾崎 哲夫訳『アメリカ市民の法律入門』自由国民2000 45頁
【*5】木南敦史『通商条項の合衆国憲法』東京大学出版会
【*6】ウィリアム・H・レーンクィスト著根本猛訳『アメリカ合衆国最高裁』心交社1992年 242頁
【*7】中谷実 前掲書16頁註12
【*8】浜林正夫『パブと労働組合』新日本出版社2002 194頁
【*9】M.L. ベネディクト著常本照樹訳『アメリカ憲法史』北海道大学図書刊行会1994年
【*10】記録学術創成セミナー木南敦「市場をめぐる法と政策―市場秩序法としての独禁法―」 http://kaken.law.kyoto-u.ac.jp/gakuso/j/activity/record_workshop.html
【*11】浜林正夫『パブと労働組合』新日本出版社2002 183頁以下
【*12】「合衆国最高裁判所における女性労働『保護』法理の成立(2)完 : 最高裁判所のジェンダー分析に向けて」名古屋大學法政論集. v.167, 1997http://hdl.handle.net/2237/5741
【*13】松岡三郎「アメリカ憲法とワグナー法」『法律論叢』31巻6号1958
【*14】石田尚『実体的適法手続』信山社出版1988
【*15】松岡三郎 前掲論文
【*16】ウィリアム・H・レーンクィスト著根本猛訳『アメリカ合衆国最高裁』心交社1992年 247頁
【*17】中谷実『アメリカにおける司法積極主義と消極主義』法律文化社1987 22頁
【*18】レーンクィスト前掲書248頁
【*19】木南敦『通商条項と合衆国憲法』東京大学出版会1995 175頁

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