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2012/04/29

カード 国労札幌地本ビラ貼り判決

 企業施設構内における組合活動の指導判例は、国労札幌地本ビラ貼り事件・最高裁昭和54年10・30第三小法廷判決民集33巻6号647頁『労働判例』329号である。
国労札幌地本事件とは、原告が国労札幌地本札幌支部の組合員、被告が国鉄。国労は昭和44年春闘に際して、各地方本部に対して示した行動指針の一環としてビラ貼付活動を指令した。原告らは支部・分会の決定を受けて「合理化反対」「大幅賃上げ」等を内容とする春闘ビラ(ステッカー)を勤務時間外職員詰所にある自己又は同僚組合員の使用するロッカーに、後日はがした痕跡が残らないように、セロテープ、紙粘着テープによって少ない者は2枚、最も多い者は32枚貼付した(原告以外の組合員も含めて総計310個のロッカーに五百数十枚のビラを貼った)。原告らは貼付行動の際、これを現認した職制と応酬、制止をはねのけたことが裁判所により認定されたが、この原告の行為が掲示板以外での掲示類を禁止した通達に違反し、就業規則に定めた「上司の命令に服従しないとき」等の懲戒事由に該当するとして、原告らを戒告処分に付し、翌年度の定期昇給一号俸分の延伸という制裁を課したのに対し、戒告処分の無効を訴えたものである。
 一審(札幌地裁昭47・12・22)は被告勝訴、原審(札幌高裁昭49.8.29)は一転して原告の請求を全面的に認めたが、最高裁第三小法廷は全員一致で再度逆転原判決破棄自判して、原告の請求を終局的に斥けた。【註1】

 この判決の意義は、戦後プロレイバー労働法学のきわめて悪質な学説のひとつ「受忍義務説」を明確に排除したこと、「労働組合又はその組合員が使用者の所有し管理する物的施設であつて定立された企業秩序のもとに事業の運営の用に供されているものを使用者の許諾を得ることなく組合活動のために利用することは許されないもの」であり「使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであつて、正当な組合活動として許容され」ないとするものである。
 本判決は救済命令取消訴訟に大きな影響をもたらし、以降大多数のビラ貼り事案については正当な組合活動として許容する下級審判例はほとんどみられなくなっただけでなく、無許可集会等多くの企業施設構内の組合活動に関する事案で本判決が引用され、概ねその趣旨に沿った判決を下している。
 代表的なものとして二例を挙げると、済生会中央病院事件 最高裁第二小法廷平成元年12月11日判決『労働判例』552号は、事実上の休憩時間と目される時間帯に、業務や急患への対応に配慮された方法で行われた無許可集会について、現実に業務に支障を生じていないから、「特段の事由」に当たるとして、この集会への警告を不当労働行為とする中労委の救済命令を支持した第一審・控訴審の判断に対し、病院側の権利の濫用と認められる「特段の事情」があるとは解されないとして、本件警告は労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎないから不当労働行為に該当する余地はないとして、原判決を破棄したものである。
 同判決は「特段の事情」にプロレイバー的な法益調整論を導入をして風穴を開けようとした中労委や下級裁判所の判断を明確に否定したことで、最高裁が「受忍義務説」を明確に排除した国労札幌地本判決の企業秩序定立権を重んじる判断を維持したことで意義のある判決といえよう。
 この判決によって複数併存組合での差別のような「特段の事情」があるケースを除いて、勤務時間にかかる無許可集会が正当な組合活動とされる余地はなくなったと考える。
 オリエンタルモーター事件最高裁第二小法廷平成7年9月8日『労働判例』679号は組合執行委員長らによる守衛への暴言、脅迫を契機として業務に支障のない限り食堂の集会利用等の使用を承認してきた慣行を変更し不許可とした事案にきつき、それでは組合活動が著しく困難となるとして、不当労働行為に当たるとした控訴審の判断を覆し、これまで業務に支障のない限り使用を認めてきたとしても、それが食堂の使用について包括的に許諾していたということはできないし、食堂の無許可使用を続けてきた組合の行為は正当な組合活動に当たらないとした。さらに条件が折り合わないまま、施設利用を許諾しない状況が続いていることをもって不当労働行為には当たらないとしたことから、企業施設の組合活動の正当性を「許諾」と「団体交渉等による合意」に基づく場合に限定した国労札幌地本判決の枠組に従った判断と評価できる。これらの判例を見る限り、国労札幌地本判決の判例法理は安定的に推移しているとみることができるのである。【註2】
 国労札幌地本判決は、当初組合活動に非常に厳しいもので「権利の濫用と認められる特段の事情」というのは裁判所はほとんど認めないのではないか、したがって、使用者の許諾しない施設内の組合活動は労働組合法によって保護されないとみられていた。中労委は「特段の事情」に法益調整論を持ち込み、風穴を開けようとしたが、この試みは成功していない。
  しかし、国労札幌地本判決以降も最高裁はビラ配りなど若干の判決で、無許可の施設内の組合活動を理由とした懲戒処分を無効とした判例も少なからずあるので注意を要するのである。
  そうした判例で引用されているのは、目黒電報電話局事件最高裁第三小法廷昭和52年12月13日判決の「形式的にこれに(就業規則)違反するようにみえる場合でも、ビラの配布が局所内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないと解するのを相当である」という見解で、形式的には規則違反でも実質的に秩序を乱していない行為については、規則違反とはならないという趣旨で組合活動等を許容する判断を下している例である。
 倉田学園事件・最高裁第三小法廷平成6年12・20民集48巻8号1496頁は就業時間前に職員室において、ビラを二つ折りにして、机の上に置いたというもので、業務に支障を来していないこと、ビラの内容も団体交渉の結果や活動状況で違法・不当な行為をそそのかす内容が含まれていないため、無許可で職場ニュースを配布したことを理由とする組合幹部の懲戒処分は懲戒事由を定める就業規則上の根拠を欠く違法な懲戒処分と判示した。
 また明治乳業福岡工場事件 最高裁第三小法廷昭和58・11・1『労働判例』417号は組合支部長の地位にある従業員が昼の休憩時間に食堂において『赤旗』号外や共産党の参議院議員選挙法定ビラを食堂において、手渡しまたはと食卓に静かに置くという態様のビラ配りについて工場内の秩序を乱すことのない特別の事情が認められる場合は就業規則違反とみなすことができないという判断である。
  以上の二判例について、私は国労兵庫鷹取分会事件神戸地裁昭和63年3月22日決定『労働判例』517号のように詰所内における休憩時間におけるビラ配布妨害排除の仮処分申請を否認した判例があるように「権利の濫用」「特別の事情」として許容しない下級審判例もあることから疑問なしとしない。明治乳業福岡工場事件については、組合活動というより組合支部長個人の政治活動の事案ともいえる。また横井大三裁判官の「職場内に政治的ないし感情的対立を生じさせ、その秩序を乱すおそれのある行為であることを否定できない」との反対意見がある。
 なお、近年の施設管理権判例では光仁会病院事件東京高裁平成21年8月19日判決http://web.churoi.go.jp/han/h10253.htmlがある。組合分会長が108日間にわたって病院正門の左右に計4~5本、赤地に白抜きで「団結」等と記された組合旗を無許可で設置した事案だが、高裁は組合旗設置を正当な組合活動ということはできず懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえないが、停職3 か月、その間、賃金不支給、本件病院敷地内立入禁止という懲戒処分は、懲戒事由(本件組合旗設置)に比して著しく過重であって相当性を欠くものであり、組合活動に対する嫌悪を主たる動機としてなされたものであるから不当労働行為に該当するした。最高裁
第二小法廷は平成22年9月2http://web.churoi.go.jp/han/h10310.html上告を棄却している・
 

国労札幌地本事件判決抜粋-思うに、企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のもとにその活動を行うものであつて、企業は、その構成員に対してこれに服することを求めうべく、その一環として、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもつて定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるもの、と解するのが相当である。
 ところで、企業に雇用されている労働者は、企業の所有し管理する物的施設の利用をあらかじめ許容されている場合が少なくない。しかしながら、この許容が、特段の合意があるのでない限り、雇用契約の趣旨に従つて労務を提供するために必要な範囲において、かつ、定められた企業秩序に服する態様において利用するという限度にとどまるものであることは、事理に照らして当然であり、したがつて、当該労働者に対し右の範囲をこえ又は右と異なる態様においてそれを利用しうる権限を付与するものということはできない。また、労働組合が当然に当該企業の物的施設を利用する権利を保障されていると解すべき理由はなんら存しないから、労働組合又はその組合員であるからといつて、使用者の許諾なしに右物的施設を利用する権限をもつているということはできない。もつとも、当該企業に雇用される労働者のみをもつて組織される労働組合(いわゆる企業内組合)の場合にあつては、当該企業の物的施設内をその活動の主要な場とせざるを得ないのが実情であるから、その活動につき右物的施設を利用する必要性の大きいことは否定することができないところではあるが、労働組合による企業の物的施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものであることは既に述べたところから明らかであつて、利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用しうる権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない、というべきである。右のように、労働組合又はその組合員が使用者の所有し管理する物的施設であつて定立された企業秩序のもとに事業の運営の用に供されているものを使用者の許諾を得ることなく組合活動のために利用することは許されないものというべきであるから、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで叙上のような企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであつて、正当な組合活動として許容されるところであるということはできない。
 二 そこで、以上の見地に立つて、本件について検討する。
 原審が確定した前記の事実によれば、本件ビラの貼付が行われたロツカーは上告人の所有し管理する物的施設の一部を構成するものであり、上告人の職員は、その利用を許されてはいるが、本件のようなビラを貼付することは許されておらず、また、被上告人らの所属する国労も、上告人の施設内にその掲示板を設置することは認められているが、それ以外の場所に組合の文書を掲示することは禁止されている、というのであるから、被上告人らが、たとえ組合活動として行う場合であつても、本件ビラを右ロツカーに貼付する権限を有するものでないことは、明らかである。そして更に、前記の事実によると、被上告人らの本件ビラ貼付行為は、賃金引上げ等の要求を組合員各自がみずから確認し合つてその意思を統一し、もつて組合の団結力の昂揚をはかり、あわせて上告人当局に右要求をアピールする等のために、国労のいわゆる春闘の一環として行われた組合活動であり、上告人の許可を得ないでされたものであるところ、右ロツカーの設置された部屋の大きさ・構造、ビラの貼付されたロツカーの配置、貼付されたビラの大きさ・色彩・枚数等に照らすと、貼付されたビラは当該部屋を使用する職員等の目に直ちに触れる状態にあり、かつ、これらのビラは貼付されている限り視覚を通じ常時右職員等に対しいわゆる春闘に際しての組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼすものとみられるのであつて、このような点を考慮するときは、上告人が所有・管理しその事業の用に供している物的施設の一部を構成している本件ロツカーに本件ビラの貼付を許さないこととしても、それは、鉄道事業等の事業を経営し能率的な運営によりこれを発展させ、もつて公共の福祉を増進するとの上告人の目的にかなうように、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保する、という上告人の企業秩序維持の観点からみてやむを得ないところであると考えられ、貼付を許さないことを目してその物的施設についての上告人の権利の濫用であるとすることはできない。本件ビラの貼付が被上告人らの所属する国労の団結力の昂揚等を図るのに必要であるとしてされたものであり、ビラの文言も上告人その他の第三者の名誉を毀損しその他不穏当にわたるものがあるとまではいえず、剥離後に痕跡が残らないように紙粘着テープを使用して貼付され、貼付されたロツカーの所在する部屋は旅客その他の一般の公衆が出入りしない場所であり、被上告人らの本件ビラ貼付により上告人の本来の業務自体が直接かつ具象的に阻害されるものでなかつた等の事情のあることは、先に判示したところからうかがい得ないわけではないが、これらの事情は、いまだもつて上記の判断を左右するものとは解されないところである。したがつて、被上告人らの本件ビラ貼付行為は、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該施設を管理利用する使用者の権限を侵し、上告人の企業秩序を乱すものとして、正当な組合活動であるとすることはできず、これに対し被上告人らの上司が既述のようにその中止等を命じたことを不法不当なものとすることはできない。
 そして、日本国有鉄道法三一条一項一号は、職員が上告人の定める業務上の規程に違反した場合に懲戒処分をすることができる旨を定め、これを受けて、上告人の就業規則六六条は、懲戒事由として「上司の命令に服従しないとき」(三号)、「その他著しく不都合な行いのあつたとき」(一七号)と定めているところ、前記の事実によれば、被上告人らは上司から再三にわたりビラ貼りの中止等を命じられたにもかかわらずこれを公然と無視してビラ貼りに及んだものであつて、被上告人らの各行動は、それぞれ上告人の就業規則六六条三号及び一七号所定の懲戒事由に該当するものというべきである。
 そうすると、被上告人らの各行動は懲戒事由に該当しないとした原審の判断は、ひっきよう、法令の解釈、適用を誤つたものであり、右の違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。」(後略)

もっと短い要旨 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/s1013-4e.html#4-2

判例評釈等参考文献の主なもの(このほか多くの書物に論評がある)

(最初の番号は自宅のファイルのNO.なので一般には関係ない)

河上和雄 企業の施設管理権と組合活動--昭和54年10月30日最高裁第三小法廷判決について(最近の判例から)『法律のひろば』33(1)1980
9391池田 恒男「国労札幌ビラ貼り事件」最高裁判決の「画期的」意義--現代日本法の一断面」『社會科學研究』33(5)
9392山口 浩一郎   「使用者の施設管理権と組合活動の自由--最高裁「国労札幌地本事件」判決を素材として 」『労働法学研究会報 』 31(3) [1980.01.25 ]
石橋洋「最近の判例法理の検討-1-企業内組合活動の自由と施設管理権」『労働法律旬報』994 1980〔※ネット公開〕http://hdl.handle.net/2298/14057
9613国労札幌支部事件最高裁判決をめぐって-国鉄側代理人の見解 鵜沢秀行「職場内活動のゆき過ぎを是正した妥当な判決」国労側代理人の見解 宮里邦雄「団結権への配慮に欠ける『施設管理権絶対優先論』」国労札幌支部事件 最高裁第三小法廷昭54・10・30判決『労働判例』329
鼎談下井隆史・西谷敏・渡辺章「ビラ貼りと企業秩序・施設管理権--最高裁昭和五四年一〇月三〇日判決をめぐって」『ジュリスト』709 1980
9611籾井常喜「国労札幌地本事件・最高裁一〇・三〇判決の意味するもの」『労働法律旬報』
竹下英男「国労札幌ビラ貼り事件判決(最判昭和54.10.30)」『日本労働法学会誌』55 1980
0.30) 」
角田邦重「法的理性を喪失した最高裁判所の「企業秩序」論--国労札幌ビラ貼り事件・最高裁判決批判」『労働法律旬報』990 1979
2464片岡曻「団結権の解釈をめぐる正統と逆流-最高裁国労札幌地本判決によせて」『労働法律旬報』988、1979
佐藤昭夫「労使対等を敵視するもの--国労札幌ビラ貼り事件・最高裁判決について 」(最高裁一〇.三〇判決を問う<特集>) 『労働法律旬報』988、1979
國武輝久「戦後的状況の転換点--ビラ貼り活動と施設管理権 (最高裁一〇.三〇判決を問う<特集>)」『労働法律旬報』988、1979

国労札幌地本事件最高裁判決の意義

一 プロレーバー学説(受忍義務説)の明確な排除

(一)戦後労政の基本方針
  
 戦後状況の中で縦横に行われる労働組合の企業内組合活動に対抗し、労働行政は、早い時期から企業内組合活動には厳しい姿勢をとっていた。
  昭和23年12月22日労発32号日労働次官通牒「民主的労働組合及び民主的労働関係の助長について」では「就業時間中の組合活動はこれを認めないこと」という方針が打ち出され、昭和25年5月13日労発第157号(労政局通牒)「労働協約の締結促進について」では「組合活動の自由は、他人の権利を尊重する義務を伴うものであって無制限のものではない。とくに使用者の施設管理の権限、労働規律維持の権限に抵触する組合活動は、使用者の承認なくしては行いえないものである」とされた。【註3】
 また昭和23年6月21日に決定されたの日経連の協約締結指針のなかでは「一般組合員の就業時間中における組合活動は、明らかに組合活動の行き過ぎであると同時に経営者側の無為無策によるものであって、組合専従者の問題と同様、組合の自主性独立性に反する不当な組合慣行というべきである」という観点を示した。
 日経連は経営権確立運動を展開し、昭和25年6月13日の「労働協会締結促進運動に対する要望」において「企業経営の存続する限り、労働秩序を維持する権限及び会社の施設管理権は使用者に所属する権限であり、この権限に基づいて使用者は、就業時間中及び会社構内における組合活動を制限することは出来る」と謳った。【註4】
 つまり、労働協約、就業規則等であらかじめ確認されたもの以外は、経営内での活動は使用者の許容する範囲に限られるものであって、使用者に裁量の権限がある、という見解が打ち出されていた。
  労働大臣の私的諮問機関労使関係法研究会が昭和41年に提出した報告書では「事業場は当然使用者の管理に属し、労働者は、みずからの労働力を使用者の処分に委ねるために事業場に出入りを許され、就業時間中は使用者の指揮命令のもとに労務に服する義務を負う」ことや「労働組合は、労働者が団結を通じてみずからの経済的地位の向上ををはかることを目的として自主的に結成する団体であって、本来使用者ないし企業とは別個独立の存在である」ことを理由として「労働組合運動は、一般に就業時間外に、かつ、事業場の外において行われるのが原則である」とし「就業時間中に、あるいは事業場内で労働者が労働組合活動を行うことは使用者の包括的、個別的承認がない限り、当然には許されないのが原則である」。との所見を示した(労使関係研究会報告書『労使関係運用の実情及び問題〔第三分冊〕』日本労働協会昭和42年)。【註5】

 
 (二)労務指揮権+施設管理権の空隙
  
  使用者の経営権確立運動は、企業内組合活動を規制する根拠として、当初は労働規律から施設利用までカバーする「経営権」に求めていたが、包括的な経営権の観念を裁判所が必ずしも受け入れなかった。そのために根拠は「労務指揮権」+「施設管理権」であるとされるようになった。
  しかし、「労務指揮権」はその法的根拠を労務当事者の契約に求めざるをえず、「施設管理権」の主張も脆弱性を有していた。その根拠を所有権・占有権という物権的権利に求める限り、所有権の一部をなし、建物、敷地等の会社施設を維持、保全、改良する具体的機能として内容づけられることとなり、妨害排除の物権的請求権か、無権利者による無断利用、毀損行為をとらえて行う不法行為にともなう賠償請求という、民法上の主張にとどまり従業員懲戒の根拠としては弱いという難点があり、プロレイバーにつけこむ隙を与えていた。
  また労務指揮権+物的維持管理権限に限定された施設管理権の主張は、直接労務指揮権限をもって規律しえない時間帯である、休憩時間、就業時間前、就業後の組合活動について空隙を残すことになった。
  この空隙を埋めることができるようになったのが、企業運営の諸権利を統合する上位概念として形成された「企業秩序論」と称される判例法理(昭和52年12月13日 富士重工業事件最高裁第三小法廷判決)が成立してからのことである。
 

 (三)悪質なプロレイバー学説「受忍義務説」の席捲

 プロ・レイバー労働法学の「受忍義務説」は昭和30~40年代に大きな影響を及ぼし、企業秩序を混乱させる元凶の一つとなったもので、今日でも多くの学者が支持している。【註6】
 プロ・レイバー労働法学というのはミリバントで階級的な労働組合運動を支援するため労働基本権を確立し、労働組合に市民法秩序を超える権力を付与しようとする学説なのであるから、はじめからいかがわしい性格を有している。
 わが国の最も醜悪な部分の一つであり、集団による他者、個人の自由の侵害を正当な権利の行使としている点で、近代市民法秩序を破壊することを正当化する理論なので害毒であると明確に述べなければならないし、駆逐、排撃されなければならない性質のものである。放射能よりよっぽとど悪質なものである。その影響を除染すべきである。
  私はこの害毒を駆逐するためについに立ち上がることとなった。
 「受忍義務説」は、憲法28条の労働基本権は、近代市民法秩序の核心である財産権、所有権、営業の自由を制約する契機として理解し、具体的には使用者の労務指揮権、施設管理権を制約するものとして、市民法秩序を基本的に否定し、労働組合による不法行為を権利として広範に容認しようというものだが、他人の権利を侵害することが権利だなどというべらぼうな理屈をこねているものであり、その根底には戦闘的・階級的労働組合運動を支援するというイデオロギー的背景がある。

  もう少し詳しく述べるとこうである。受忍義務説の立論の基礎は憲法28条の団結権、団体行動権をプロ・レ-バー的に広く解釈し、それは私人間効力の及ぶもので使用者の権利や自由(その中心は財産権、具体的には労務指揮権や施設管理権)を一定の制約の契機が含まれていると解するものである。片岡曻・大沼邦宏『労働団体法』青林書院1991年 p263は
 「労働組合は‥‥‥労働力の取引過程の取引過程に介入し‥‥企業の内部にまで踏み込んで集団的な規制力を及ぼそうとする‥‥それは不可避的に使用者の取引を制約することになるし‥‥市民法上の権利や自由を侵害せざるをえないのであってそれゆえ現実に久しく違法評価を受けてきたのである‥‥にもかかわらず、むしろ、それを歴史的かつ社会的所与としつつ、生存権の理念に基づいて団結権に高度の法価値を認め、積極的な法的保護を与えることを意味している。要するに団結権(広義)は、その性格上、団結活動と対立する使用者の権利の自由の譲歩なくしてありえないものである」と説き「かくして、団結権(広義)は『市民法上の諸権利に対抗しそれを制約するあらたな権利として登場してきたものであり、それを基本権として憲法上保障することじたい、全法体系を貫く価値観の転換をともなわずにはいない‥‥』(籾井常喜『組合活動の法理』からの引用)ということができよう」と述べ、団結権(広義)とは他者の市民法の諸権利を制約する権利、全法体系の価値観の転換をともなうものである断言している。
 しかも、「受忍義務説」が「正当な」組合活動と評価すべきというのは組織、運営に関わる組合活動だけではない。、片岡・大沼前掲書は「団結を維持・強化するためーに必要な活動も認容しなければならない」p273「労働者相互の働きかけの自由、それに対する干渉・妨害を抑止することが、使用者の受忍義務の中心的な内容をなす」p274、さらに「団体行動権の保障が『圧力形態としての本質の法的承認』を意味するものである以上、使用者は結局のところ、かかる本質を有する労働者の集団行動を認容し、いわば団結力に基づく威圧を甘受すべく義務づけられていると解する」p276。「業務運営や施設管理に多少の支障が生じたとしても‥‥直ちに組合活動の正当性が否定されるわけではない。損なわれる使用者の法益よりも大きな法価値が認められ、なお正当と評価されるケースは少なくないだろう」、「示威ないし圧力行動たる実質を有する組合活動の場合にも‥受忍義務が使用者に課され、それに対応する法的保護が労働者や労働組合に与えられることは基本的に承認されなければならない」p279とも述べられている。
 他者の市民法的権利を制約する権利、他者の権利を侵害する権利とはべらぼうなものである。泥棒する権利、強姦する権利と言っているのと同じたぐいのものである。泥棒されることを受忍せよ。強姦を受忍せよと言うのと同じことなのだ。

(四)受忍義務説に影響を受けた判例

 
 受忍義務説は司法にも影響を与えた。

 ①互譲調和論

 昭和34年1月12日福岡高裁判決(三井化学三池染料事件)民集10巻6号1114頁では「そもそも会社の構内管理権は決して無制限なものではなく、組合の団結権に基く、組合活動との関係で調和的に制限せらるべきであるから、会社は組合活動の便宜を考慮してある程度の譲歩を行うべきであり、組合としてもでき得る限り右管理権を尊重しなければならない」と述べた。互譲調和論といわれる。

②  使用者の受忍義務を承認した下級審判例

 互譲調和論は曖昧さを残していたが昭和38年9月28日全電通東海電通局ビラ貼事件名古屋地裁判決『判例時報』359号に至って「使用者の施設管理権も労働者の団結権保障とのかねあいから、使用者が労働者に対して施設利用の便宜を拡張するとか、禁止の解除を行うとかの意味ではなく、権利の本質的な意味で制約をうけ、そこから生じる使用者の不利益は使用者において受忍すべき場合があると考える。」と使用者の受忍義務を団結権保障のコロラリーとして承認するに至った。
 事案は昭和34年総評の指導する春闘において、同年3月全電通役員が中心となって東海電気通信局(名古屋市中区)庁舎の正面玄関やガラス窓等に、不当処分撤回、大巾賃上げ等を求める趣旨のビラ約四千枚を糊で貼付した行為が、庁舎の外観を著しく汚したものとして刑法260条の建造物損壊罪に問われたものであるが、判決は建物の大部分をビラで貼りつくすとか、醜悪で見るに耐えない等の程度に至らなければ建造物の効用を毀損したとはいえないとして、刑法260条の構成要件に至ってないと判断し、みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札する行為を拘留又は科料に処すとした軽犯罪1条33号との関係も論及し、労使の紛争状態の組合活動については同法は適用されないと断じた。更に傍論として仮に本件ビラ貼りが形式上建造物損壊に当たるとしても、それは組合活動の一環として合法的であり、違法性を欠き無罪であるとした。
  
 このようなミリバントな労働組合に都合のよい司法判断や、労働委員会の裁定例は、団結権があたかも企業内施設利用権を含み、施設管理権は制約されて当然という組合の主張にお墨付きをあたえることとなり、職場規律を乱し、労働組合をつけあがらせる一つの要因になっていたものと推察できる。
 「受任義務説」は同じプロ・レイバーからも批判され「違法性阻却説」が昭和45年頃から主張された。「受忍義務説」は広義の団結権が施設管理権を制約すると説くが、この説は組合活動の根拠を団体行動権の免責特権に求める説であって、免責特権とは本来違法、不法行為として責任を追及されるべきものについて責任を追求しないというものであるから、責任の解除にすぎず、受忍ではないと説き、積極的な請求権とは認められないし、労働組合の企業施設の利用権などというものも否認する、にもかわらず違法性を阻却すると説くものである。
 もちろん違法性阻却説というのも所詮プロレーバー学説であり、結論は受忍義務説と同じなのであるでが、プロレイバーが割れたことは、判例法理の変動に影響を与えたとみることができる。
 国労札幌地本事件判決は「労働組合による企業の物的施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものであることは既に述べたところから明らかであつて、利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用しうる権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない」と述べ明確に「受認義務説」を排除した。これが同判決の意義の第一である。

註1】池田 恒男「国労札幌ビラ貼り事件」最高裁判決の「画期的」意義--現代日本法の一断面」『社會科學研究』33(5)
【註2】古川陽二「一〇・三〇判決以降の施設管理権と組合活動に関する判例動向」『労働法律旬報』1517/18 2001年
【註3】籾井常喜『経営秩序と組合活動-不当労働行為の法理経営秩序と組合活動』総合労働研究所,1965年 183頁 片岡曻・大沼邦博『労働団体法上巻』青林書院1991年321頁
【註4】籾井常喜『経営秩序と組合活動-不当労働行為の法理経営秩序と組合活動』総合労働研究所,1965年 183頁
【註5】片岡曻・大沼邦博『労働団体法上巻』青林書院1991年321頁
【註6】主な論者として本多淳亮『業務命令・施設管理権と組合活動』労働法学出版 1964 、籾井常喜『経営秩序と組合活動: 不当労働行為の法理』総合労働研究所 1965 、峯村光郎『経営秩序と団結活動』総合労働研究所 1969 、片岡曻『労働組合法の争点:法からみた労使関係のルール』総合労働研究所 1971、外尾健一『労働団体法』 筑摩書房1975

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