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2012年6月の14件の記事

2012/06/30

想定外、ロバーツ主席判事の罰金とは課税であるとの解釈(医療保険改革法連邦最高裁合憲判決)

   州際通商条項interstate commerce clause(連邦議会の権限を定めた合衆国憲法第8節の3項外国との通商、各州間およびインディアン部族との通商を規制すること)を争点とする裁判で、これほど注目されたのは、ニューディール期以来のことではないか。
 つまり、1935年のシェクター養鶏会社事件判決はニューディール政策の要であった全国産業復興法の公正競争規約を無効とした。同じく1935年のアルトン鉄道会社事件判決は、州際通商規制権限に基づいて、会社に退職金の年金をを負担させるのは不当とする違憲判決であり、1936年のカーター事件判決は炭鉱における労働者の雇用は州際通商とはいえない地方事項として、瀝青炭の価格を統制し一定の労働条件を保障する瀝青炭資源保全法を違憲とした。
 又、課税権条項が争点となった1936年のバトラー判決は、連邦政府には課税権条項により「一般的福祉」のために租税を賦課・徴収することが認められているが、農業調整法の加工税は「租税」ではなく農業生産規制する一般的仕組みであり、その規制は憲法修正第十条の「州権限の留保条項」により州の権限として留保されているとして違憲判決を下した。(河内信幸『ニューディール体制論』2005年)
 次々とニューディール立法に違憲判決が下されたことにF・D・ルーズベルトは「邪魔者は最高裁判所だ」として反発、このままでは労働者や農民が蜂起するとして「裁判所詰め込み案」とよばれる70歳に達した判事が半年たって辞職しないとき、大統領は同数の裁判官を追加任命する権限を付与するという法案を提出、最高裁に対する敵意を示したが、これは廃案となったものの、1937年を契機に、中間派のヒューズ主席判事とロバーツ判事が態度を変更したことなどから、判例が次々と覆され、一連のニューディール立法に合憲判断を下すようになった。これを「憲法革命」というが、1937年のラフリン鉄鋼会社事件では全国労使関係法(ワグナー法)を合憲とした。州際通商規制権限に関して幅広い解釈を行い、州際通商に密接で実質的な関連をもっている産業を規制する認めたのである。
私はオールドコートの判断を好意的に考えるが、要するに、裁判官のテクニックいかんで連邦議会の州際通商規制権限は幅広く解釈することもあるし、限定的に解釈することもありうる。


 医療保険改革法の今回の判決については事前の予想では70%違憲判断という報道がされており反オバマケア派の期待は高まっていた。それは決定票を握るとみられたケネディ判事が口頭弁論で違憲判断をほのめかしたからであるが、もし事前の予想どおり医療保険改革法を叩き潰すことになったならば、「憲法革命」以前にまでは戻らないとしても、「保守革命」的な衝撃のある劇的な判決となっただろう。
アメリカ合衆国の国体は欧州型福祉国家と一線を画する司法国家であることを印象づけることになったはずだ。

 今回の判決は、複雑だった。http://www.foxnews.com/us/2012/06/28/health-care-law-survives-with-roberts-help/http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPJT818116720120629 http://www.cnn.co.jp/usa/30007160.htmlまず、連邦議会は州際通商規制権限によって国民に保険の加入を義務づけることはできないと述べた。この司法判断を過半数の5人の判事がとっているのである。(このため速報を競っていたCNNとFOXニュースが、違憲判決と誤報したというのである。)
 ところが5人のうちの1人、ロバーツ主席判事は「しかし」と切り出し「保険の非加入者に罰則を科す条項が『合理的には課税と考えられる』とみなし、『課税権は議会の権限である』という論法で」(読売6月30日より引用)、事実上、加入義務化を合憲だと指摘したというのである。
一方4人の判事は、州際通商条項のもとで保険加入を国民に義務づけることができるという判断をとったため、結果的にロバーツ主席判事と結びつき5対4の僅差で事実上合憲判決になったというのである。
 
 ロバーツ主席判事が、州際通商条項による規制権限の争点を、課税権条項にすりかえるという一見して奇妙な論理を展開することによって、オバマケアを救うこととなったのである。この判断の専門家の論評を読んでないが、今後調べたい。

 
 ●州際通商条項は国民に保険加入を義務づけることに適用できないとした裁判官
 
 スカリア判事(レーガン任命)、ケネディ判事(レーガン任命)、トーマス判事(ブッシュ父任命)、アリート判事(ブッシュ子任命)

 
 ●州際通商条項によって国民に保険加入を義務づけることはできないが、保険に加入していない国民に課税することはできる。保険加入をしない国民に罰金を科す条項は合理的には課税と考えられるとした裁判官
  
 ロバーツ主席判事(ブッシュ子任命)

 
 ●州際通商条項により国民に保険加入を義務づけることができるとした裁判官
 
 ギンズバーグ判事(クリントン任命)、ブライヤー判事(クリントン任命)、ソトマイヨル判事(オバマ任命)、ケーガン判事(オバマ任命)
 

 PBSニュースアワー(BSNHK放映)を見たが、訴訟提起者であるフロリダ州のマッカラム元司法長官が登場し、「法律の下での罰金を税金とよぶロバーツ主席判事の判断にショックを受け、失望した。‥‥ロバーツ主席判事の税についての弁論はわざとらしく不誠実である。法を解釈しているのではなく書き直していると言った人が正しいと思う。拡大解釈をした。」「ただ、今後プラスになることもいくつかある。州際通商条項を製品やサービスの購入を国民に義務づけるために適用できないとする大きな判例になる」と言っていた。
 
 CBSイブニングニュース(BS-TBS放映)ではブッシュ子任命のロバーツ主席判事は堅い保守派とみられていたので予想外とし、ジョージタウン大学のバーネット教授が登場し、「びっくりした、違憲だと思っていた」との率直な感想を述べていた。
 
 ABCナイトライン(BSNHK放映)は、ティーパーティー派の議員が登場し、どちらの陣営にとっても想定外と言っていた。解説者のステファノブロスは、ロバーツ主席判事の判断は司法自制主義という自らのポリシーを貫徹したものとして好意的な意見を述べた。

 
 私の感想は、違憲判決を期待していたのでがっかり。最高裁長官が国民のイデオロギー的対立を深刻化させる違憲判断を避けたバランス判決という見方もできるだろう。
  

2012/06/24

いよいよ医療保険改革連邦最高裁判決

 開廷期末の今週、判決が下される。判決は木曜日らしい。こちらの金曜日になる。

カード 国労札幌地本事件最高裁判決の意義(2)「施設管理権」という言葉をあえて用いなかった意味

カード 国労札幌地本ビラ貼り判決の続編である
http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/post-359d.html

企業施設内の組合活動に関する指導判例である国労札幌地本ビラ貼り事件最高裁第三小法廷昭和54年10・30判決民集33巻6号647頁『労働判例』329号の意義についてポイントを6点挙げると

1 プロレイバー学説(受忍義務説・違法性阻却説)の明確な排除

2 使用者の企業秩序定立権という判例法理の確立

3 労働組合に個々の労働者の権利の総和を超える権能を認める団結法理の否認

4 抽象的な企業秩序の侵害のおそれのみで、施設管理権の発動を認めていること(具体的な企業の能率阻害を要件としない)

5 「利用の必要性が大きいことのゆえに‥‥‥労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない」と明確に述べ、法益権衡論を排除していること

6 本件は国鉄の事案でありながら、私企業における施設管理権対組合活動の問題ととらえられており、官公庁の庁舎管理権とは一線を画している

1については前回説明しているので2以下の論点を取り上げる。

施設管理権という言葉をあえて用いなかった意味

 
 およそ労働法学なるものの通説は信用してはいけない。労働法学者の圧倒的多数が濃淡の差こそあれプロレイバーであり、ミリバントで階級的な労働組合運動を支援し労働基本権を確立するというイデオロギー的立場にあると考えられるからである。「受忍義務説」(使用者の施設管理権も団結権・団体行動権の保障によって内在的・本質的に制約を受け「受忍義務」を負うとする悪質な学説)などもそうである。
 受忍義務説の論理構成は「施設管理権」とは元来法律用語ではなく、昭和28・9年頃使用者側から主張された政策概念としたうえ、所有権・占有権の一つの機能として位置づけ、次のように物的管理権に限定して承認するというものであった。【註1】
「本来それは、使用者が企業施設に対する所有権に基づいて当該施設を支配し、それの維持、保全のための必要な措置をする等の管理を行う権能(物的管理権)をさすものと解せられ‥‥」【註2】 そのように、施設管理権の物権的性格を強調しそれゆえ「物的管理権である以上、施設管理権は組合活動に対して直接向けられるべきものではない」とされる。【註3】
 プロレイバー学説に従うと、施設管理権とは、物的管理権であって、企業の秩序の維持のために措置を行う権能ではない。そうすると狭義の業務命令権と抵触しない就業時間外、休憩時間は、示威運動であれ、騒々しい集会も、広範な組合活動が規制できないことになる。対象物を毀損するなど損害を生じせしめた場合(例えば窓ガラスを破損した)、結果的損害の事後的塡補を請求する権利程度のものに矮小化されるのである。
 詭弁のように思える。工場や機械を所有しても実際に人を配置して操業しなければ財産を生み出さない。店舗の主人であっても実際に営業行為をやらなければ財産を生み出さない。物的施設は経営目的に従って使用収益にまで用いるのでなければ財産としての意味をなさないのであるから、施設管理権を使用者が物的施設に対して有する所有権等に基づく権能を、その消極的な維持改善にとどめるというのは到底納得がいくものではない。 

 そこで、国労札幌地本ビラ貼り事件最高裁判決は、「施設管理権」という言葉をあえて用いず、「職場環境を適正良好に維持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限」と表した。
 その権限の根幹となるものとして「企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して企業秩序のもとにその活動を行うものであって、企業は、その構成員に対してこれに服することを求めうべく」と判示している。【註4】
 「施設管理権」と表さないのは、労働法学者の主流であるプロレイバー学説がそもそも政策概念であって、物的管理権に限定されるべきものとしているからで、つけこまれる隙をみせない判断によると考えられる。しかし、「当該物的施設を管理利用する使用者の権限」はほぼ「施設管理権」と同じ意味と解し、「施設管理権」判例と理解してさしつかえないだろう。

 国労札幌地本判決に道を開いた組合活動に厳しい施設管理権に関する下級審判例の集積

 国労札幌地本事件最高裁判決は突然出されたものではなく、以下のような組合活動に厳しい判断を下した下級審判例の集積を背景としている。【註5】

 
 ビラ配布事案で日本ナショナル金銭登録機事件横浜地裁昭43・2・9判決『労働判例』NO.172 『労働経済判例速報』805号 は「‥‥およそ企業の有する施設管理権は、企業がその目的に合致するようその施設を管理する権限であって、単に物的管理のみを指称するものではないというべきであり‥‥その組合の活動が、使用者の建物、敷地等を利用して行う場合には、使用者の施設管理権に基づき使用者の意思に反して活動することはできず、このことは特段の事情のない限り、休憩時間中あるいは就業時間外のものであっても変わることはないといわなければならない。」と判示している。

 
 国鉄がビラ貼りによる損害賠償を請求した動労甲府支部ビラ貼り事件東京地裁昭和50・7・15判決労民集26巻4号567頁『判例時報』784号はより明確に「施設管理権」には「管理及び運営の目的に背馳(はいち)し、業務の能率的かつ正常な運営を阻害する行為を一切排除する権能を有する」と示している。
 同判決は原告国鉄によるビラ貼り制止行為について、本件建物につき「その所有権が内容とする権能の範囲において自由にその権能の範囲において自由にその権能を行使することができるから、本件ビラ貼りの如き施設利用行為を許容しないで同事務所を使用することを享受することができるわけであり、さらに施設管理権に基づいて同事務所の管理及び運営の目的に背馳(はいち)し、業務の能率的かつ正常な運営を阻害する行為を一切排除する権能を有するから、本件、ビラ貼りの如き業務阻害行為を禁止することができるわけである。したがって、本件ビラ貼り行為は原告の右所有権ないし施設管理権を侵害するものである」。と述べ、労働組合が使用者の施設を利用してビラ貼り活動をするためには「当該施設にビラをはる権原‥‥があることを要するところ、‥‥右のような権原があることの主張及び立証がない以上、動機たる目的がなんであろうと、」所有権ないし施設管理権を侵害するものであり、損害を賠償すべきものであるとした。

 
 ビラ配布事案である日本エヌ・シー・アール事件東京高裁昭和52年7月14日判決『判例時報』NO.868『労働判例』NO.281は「一般に事業場は、当然に使用者の管理に属し、労働者は、自己の労働力を使用者に委ねるために事業場に出入りを許され、就業時間中は使用者の指揮命令に従い労務に服する義務を負うものであり、労働組合は労働者が団結により経済的地位の向上を図ることを目的として自主的に結成加入した団体であって、使用者から独立した別個の存在である。従って、労働者の労働組合活動は原則として就業時間外にしかも事業所外においてなすべきであって、労働者が事業上内で労働組合活動をすることは使用者の承認のない限り当然には許されず、この理は労働組合運動が就業時間中の休憩時間に行われても、就業時間外に行われても変わりがないと解すべきである‥‥使用者の有する事業場の管理権は本来経営目的達成のために管理するものであるから、これに基づく指示命令を施設の物的利用の仕方に関するものに限られると解するのは相当ではなく」と判示している。
 同判決の「労働者は、自己の労働力を使用者に委ねるために事業場に出入りを許され」という部分は、国労札幌地本事件最高裁判決では「労働者は‥‥雇用契約の趣旨に従つて労務を提供するために必要な範囲において、かつ、定められた企業秩序に服する態様において(企業施設を)利用するという限度にとどまるものであることは、事理に照らして当然であり」と述べられ、ほぼ同趣旨で採用されていることがわかる。

 
 中でもプロレイバー受忍義務説を明確に排除した判例としてプロレイバー労働法学が最も敵視したのが、東京地裁民事一九部中川幹郎裁判官チームによる動労甲府支部東京地裁判決であった。
 動労甲府支部判決は「企業内組合であっても、当該施設にビラを貼る権原があることを要する」と述べ、ビラを貼る組合の「権原」があるとの主張も立証もない以上、所有権、施設管理権の侵害とする明快なものでわかりやすい。
 「権原」とは有斐閣法律用語辞典によると「ある行為をすることを正当なものとする法律上の原因。例えば地上権、賃借権等を有する者が他人の土地に工作物を設置している場合に、地上権、貸借権がこれに当たる‥‥」ということであるが、この判決の意義は、使用者の施設管理権と組合活動との間の衝突紛争における司法判断において、プロレイバー的な利益衡量、法益調整処理を行わず、ビラ貼りをめぐる争いをあくまでも法律上の権利・権限問題として捉え、組合の企業施設利用を端的に財産権侵害としたことであり、【註6】市民法理でわりきったことである。
 ただし、動労甲府支部判決は、ビラを貼る組合の権限という箇所にかっこをつけて「使用者がその施設の利用を許容しなかったことによって不当労働行為が成立するにいたった客観的事情も含む」としており、組合にビラ貼りの権原があるとすれば、労働協約によって使用者がビラ貼りの場所を貸与した場合であることを示唆しており、【註7】この考え方は国労札幌地本最高裁判決にも採用された。「労働組合による企業の物的施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものである」と述べているからである。
 なお、動労甲府支部判決は国鉄の春闘時のビラ貼りや落書きについて「こういう争議行為戦術の横行は国民のひんしゅくをかい、国鉄を私物化するものではないかと問い糺されることを懼れなければならない」とも述べており、名判決といえるだろう。
 要するに憲法二十八条の認める労働基本権といえども、契約その他市民法秩序の下で認められている権原なくしては、私有財産を利用し得る何らの権限を与えるものではないという趣旨であるが、市民法秩序を覆し、財産権の侵害を正当化する悪質なプロレイバー学説を粉砕する意義のある判決として私は評価する。
 国労札幌地本事件最高裁判決は、「権原」なくして利用権限なしという直接的表現はとってないが、我が国の労働組合が企業別組合が大半であるため、組合活動をする際、企業の物的施設の利用の必要性が高いことを認めながらも「利用の必要性が大きいことゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用しうる権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない」と述べているから、実質的に、「権原」なくして利用権限なしと言っているのも同然であり、動労甲府支部東京地裁判決の判例法理と大筋において違いはないもの解釈してよいだろう。

 
企業秩序定立権の先例

 しかし、国労札幌地本事件最高裁判決は、動労甲府支部事件東京地裁判決のような所有権・財産権侵害という明快で正面切った論理構成をとってない。強い反発の予想される直球勝負をあえて回避して、プロレイバー学説排除、法益権衡論排除の観点でより巧妙な論理構成をとることとなったものと考えられる。
 そこで、最高裁がプロレイバー学説に対抗すべく案出したのが、富士重工業事件最高裁昭和52年12月13日第三小法廷判決、民集31巻1037頁で示された「企業秩序定立権」を進展させた判例法理ということではないだろうか。
 富士重工業事件は、ある従業員の違反行為の調査に別の従業員が応ずる義務の有無に関するもので、結論は調査に応じない従業員の懲戒譴責処分を違法無効とするものであるが、「企業秩序」の一般論を次のように述べた。
 「そもそも、企業秩序は、企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なものであり、企業は、この企業秩序を維持確保するために、これに必要な諸事項を規則をもって一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができ、また、企業秩序に違反する行為があった場合には、その違反行為の内容、態様、程度等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、又は違反者に制裁を行うため、事実関係の調査をすることは、当然のことと言わなければならない。」
 「企業秩序」の維持確保のために「企業」に求められる権能として、(1)規則制定権(2)業務命令権(3)企業秩序回復指示・命令権(4)懲戒権を当然のこととして列挙したうえ、このような「企業」体制を前提とした労働契約を媒介に労働者の「企業秩序遵守義務」を演繹している。【註8】「労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによつて、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負うが、企業の一般的な支配に服するものということはできない」と述べた。
 使用者と被用者はマスター・サーバント関係でもなければ、親分子分関係でもない。だから一般的支配に服するものではないのである。ただし従業員は労働契約に基づく約定の労務義務のほか、企業秩序遵守義務とその他の義務も負うとするのである。

 この企業秩序論は同日の判決である目黒電報電話局事件最高裁第三小法廷昭和52年12月13日判決民集31巻974頁でも採用され「一般私企業の使用者が、企業秩序維持の見地から、就業規則により職場内における政治活動を禁止することは、合理的な定めとして許されるべき」「従業員は労働契約上企業秩序を維持するための規律に従うべき義務があり、休憩中は労務提供とそれに直接附随する職場規律による制約は受けないが、右以外の企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れない」と判示している。

(つづく)
 

 

引用・参考文献
【註1】西谷敏「施設管理権の法的性格とその限界」『法学雑誌』大阪市立大学法学会26(3・4), 1980
【註2】片岡曻『法から見た労使関係のルール』労働法学出版1962 109頁
【註3】峯村光郎『経営秩序と団結活動』総合労働研究所1969 161頁、本多淳亮『業務命令施設管理権と組合活動』労働法学出版1964 21頁
【註4】河上和雄「企業の施設管理権と組合活動--昭和54年10月30日最高裁第三小法廷判決について(最近の判例から)法律のひろば』33(1)1980 参照
【註5】河上和雄前掲論文では、本文で取り上げた、動労甲府支部事件東京地裁判決、日本エヌシーアール事件東京高裁判決、目黒電報電話局最高裁判決のほか東京新聞争議事件東京地裁昭44・10・18判決労民集20巻5号1346頁も参照指示しているが、私はこの東京新聞事件のピケッテイングの判断を疑問に思うので、ここではあえて無視することとする。
【註6】菊池高志「労働契約・組合活動・企業秩序法政研究 『法政研究』49(4) 1983 〔※ネット公開〕http://hdl.handle.net/2324/1792
【註7】角田邦重「リボン闘争・ビラ貼りー中川判決の法理と問題点ーホテル・オークラ事件・動労甲府事件」討論 籾井・角田・雪入・山本「企業内組合活動の自由と東京地裁労働部中川判決批判」『労働法律旬報』888号〔1975〕
【註8】池田恒男「国労札幌ビラ貼り事件」最高裁判決の「画期的」意義--現代日本法の一断面」『社會科學研究』33(5) 1981

2012/06/20

目の前でビラを配布していたのに「知ったこっちゃない」としらばっくれる管理職

 本日早朝、所長に昨日の都庁総務局から局総務部経由で依頼のあった「北朝鮮による拉致被害者の救出を目指す署名」の協力依頼等の回覧がスタートしたのが、午後四時半すぎだったが、四時前に分会ニュースとして署名に協力しないとう東水労の声明文が分会書記長によって勤務時間中に各組合員の机上に配布れた問題について、組合ビラを配布してから、署名回覧を回すという申し合わせが組合役員とできていたのか尋ねたところ、目の前で配布していたのに「ビラなんか知ったこっちゃない」としらばっくれ、私の疑問を全面否定した。
 組合が声明を出すのは勝手だが、勤務時間中に配ることを黙認している以上、管理職が組合の組合員に対する統制に加担したことになる。組合員はビラによって統制とうけとめるから、署名しにくい状況になる。しかも全労協加盟組合、社民党系で親北朝鮮だということをいったら、「組合が支持している党が政権をとっているのだから、署名しにくくなって当然だろ」との誤った認識と思える暴言も吐いた。
 ビラのような「国交正常化を通じて外交で拉致問題の解決を求める」というのは親北朝鮮派の政治的見解であって、全労協や社民党はそうかもしれなが、今の民主党政権であれ政府はそういう見解にはないはずだ。
 いずれにせよ。ビラの勤務時間中の配布は黙認されたから、署名を集まりにくくした責任の一端が管理職にあると考える。

2012/06/19

職場における北朝鮮による拉致被害者の救出を目指す署名問題

 私の職場、水道局の営業所だが、6月8日午後賃金ハンドブックが配布され、6月15日に東水労ニュースが16時45分に配布された。6月18日早朝、所長席で組合分会書記長が非常に接近した距離で話し合っていたので何事かと思っていたところ、19日15時半ごろか、分会ニュースが配られた。
 そのあと、17時ごろ東京都総務局からの要請として東京都水道局総務部からの文書で、内閣総理大臣宛の北朝鮮による拉致被害者の救出を目指す署名の協力依頼(任意であることが手書きで書かれていた)。とブルーリボンバッジ購入の斡旋という回覧板が回ってきた。
 八百万以上の署名を集めているが、一千万の目標に到達しないので都の職員にも協力していただくような趣旨のことが書かれていた。
 緑の羽根や赤い羽根などの募金の回覧は勤務時間中回ってくる毎年やっていることだ。また、組合がよくカンパや、なんとか基本条例推進とか、日航整理解雇事件に公正な判決を要望、さようなら原発1000万人アクション脱原発署名などといった署名用紙の配布や回覧を勤務時間中にやっているのを知ってるが、当局からの署名要請というのは記憶がない。
 「寄附金を募集し、又は物品の販売、保険の勧誘その他これらに類する行為をすること」は庁舎管理規則で禁止事項となっており、組合のそれは規則に反するのに黙認されているわけだが、当局の場合でも署名は本来業務と関係なく、職務専念を妨げるし、思想調査にのなりかねないから、このような署名についてはで疑問なしとしない。
 私は迷ったが、結局、処世術として署名したほうが得策と判断し、署名し、ブルーリボンバッチも購入することとした。
 私はこれまで、グリコ森永事件被害企業支援と称する、森永の菓子の詰め合わせパック(不人気商品の押しつけのように思われた)をはじめとして、赤い羽根や、緑の募金、大震災義捐金も1円も出してない。それくらい募金や署名は嫌いだが、今回はあえて署名もし、バッチも買うこととした。それは全水道東水労が全労協加盟組合で、今年も日比谷メーデーに2割動員であった。社民党系である。
 このメーデーに参加しているのが労組が社民党系組合と推定できる。ちなみに当日の記録を引用すると
鍛冶橋コース
都高教、都庁職関係(福祉保健、住宅本庁、税務支部など)東京清掃労組

土橋コース
大田区職労、杉並区職労、他の市区職労、練馬区職労、
民間、東学、都障労組、東水労、国労

 旧社会党の系統だから親北朝鮮と考えられる。実際、朝鮮学校を高校授業料無償化の対象とすることを支援するビラも組合掲示板に貼ってあったからである。

 そうすると、水道局ではあまり署名が集まらない可能性が高いと判断し、それなら自分は非組合員だからあえて署名しようと考えたものである。
 
 私は回覧で4人目だったから、たぶん午後4時半すぎから署名要請の回覧スタートと思われる。
 その前に組合のビラ(分会ニュース)が配られていたのである。
 そのビラには署名要請について5月25日に当局から提示があったが、東水労は協力しないという声明であり、東水労は国交正常化を通じて外交で拉致問題の解決を求める云々とか書かれていた。
 これは所長と分会がしめしあわせた疑いが濃厚である。組合の協力しない声明が先に配られれば、組合員は組合の統制に従う圧力としてうけとめるので、組合員は署名しにくくなる。
 勤務時間中にビラ配りを黙認(所長のいる前で配っている)から、署名しにくい環境にするよう管理職が協力した疑いが濃厚なのである。
 

2012/06/17

「平清盛」第24話6/17放映分感想

 ドラマでは守仁親王が皇太子で、美福門院が養母として後見し、平時子は守仁親王の乳母だったこと、後白河は守仁親王への中継ぎとして即位したにすぎないこと、統子内親王は非婚内親王の皇后であることを説明していない。
 信西の実績といわれる保元2年の「保元新制」冒頭の王土王民宣言「九州(国土を意味する)一人の有あり、王命のほかに何ぞ私威を施さん」もスルーである。
(国土は天皇のものであって、天皇の命令以外の私的なおこないは何の権威もない)福島正樹『日本の中世の歴史2院政と武士の登場』吉川弘文館2009
 相撲節会などの年中行事の復活も、保元新制の儀礼国家再建の施策のひとつだったはずだ。 『兵範記』で周知の、美福門院と信西の談合で譲位が決まったというストーリーもとらなかった。
 なお、ドラマでは源義朝が、保元の乱の活躍にもかかわらず、平清盛の播磨守より格下の任左馬頭に不満を持っていたという通説をとっていたが、近年、元木泰雄によって、通説は否定されていることである。
 「左馬頭は、本来公卿の子弟である公達が就くべき官職であり、事実義朝の前任者は鳥羽院最大の寵臣権中納言家成の長男隆季であった。その隆季を強引に左京大夫に転出させ、義朝があとを襲ったのだから破格の恩賞であり、後白河天皇の義朝に対する深い信頼と手厚い処遇の所産」と説明されている『河内源氏』中公新書167頁。
 由良御前が、皇后統子内親王の女房で、統子内親王は後白河と同じく母待賢門院の手許で育てられたことから、弟の後白河とは良好な関係にあったこと。義朝は後白河近臣の藤原信頼とも結びつきがあり、源義朝が疎外されるということは考えにくく、従来の説は妥当なものではないと考える。

2012/06/16

入手資料整理74

9687 島田陽一「フランス一八八四年法における労働組合承認の論理」『季刊労働法』1
27 1983
9688 中野善敦「フランス法制における罷業権の変遷について」『労働経済判例速報』66
号 1952
9689 大和田敢太「フランスにおける罷業権の生成過程についての一考察(一)(二)完」
『法学論叢』102巻2号 1977、103巻6号 1978
9690 石崎政一郎「罷業権の問題-フランス法を中心として-」『法律タイムズ』3巻5号 1949
9691「新しい管理者(昭和41年5月・郵政省人事局編)-1- 」新しい管理者(昭和41年5月・郵政省人事局編)-2- 『労働法律旬報』645号646号 1967

昭和37年全逓の闘争至上主義組合運動に対峙していくために作成されたと思われる冊子である、今日でも学ぶべき点は少なくない。

 管理者としての基本的な心構え

1 業務の正常運営
   業務の正常運営をすることに最大最善の関心と努力を払う・
2 労務管理の万全化
3 職員の勤務意欲の上昇化
4 職場規律の維持確立 ほか
 
「特に全逓の場合は春、夏、秋、冬、スケジュール闘争を行い、三六協定もこれを戦術に利用し、一年の相当部分の期間を超勤拒否している状態である。これは日本だけに見られる現象であり、全逓がいまだに闘争至上主義から脱脚しきれないでいる」と組合運動のありかたを批判する

 これと反対の労務管理のありかたとして例えば東京都水道局において昨年10月31日~4日まで行われた昼休み当番拒否闘争があった。http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-b360.html昼当番とは、昼休憩時間に窓口収納や電話問い合わせの要員として上司より指名された職員(輪番制)が、休憩時間を午後一時から二時にずらして勤務するものだが、労働協約でも指定する職員に休憩時間をずらすことができるとしており、組合も認めている勤務形態だが、昼当番に当たった組合員が、組合分会役員と交代し、組合分会役員は昼当番を拒否して、管理職にその仕事をやらせる。ただし近くに組合役員が控えていて、本来管理職の仕事でない経常業務でわからないことが多いだろうから、対応の仕方をいちいち教えてやるというものである。
 組合役員が管理職に経常業務をやらせるというのは労務指揮権の重大な侵害であり、業務の正常な運営ではないが、東京都の管理職は郵政省の基本方針にある「業務の正常運営をすることに最大最善の関心と努力を払う」とポリシーの欠如のため、唯々諾々管理職が組合分会役員の指図に従い、闘争に協力する。警告も、就業命令もやらないし、訓告などの最低限の懲戒処分の対象にもしない。管理者としての基本的心構えの欠如、事なかれ主義といえる。
 これは、地公労法11条にも反するものであるが、明らかに郵政省とは対応が正反対であり、腐りきっていると断言せざるわえない。
9692山本桂一「フランスにおける公務員の団結権」『法学協会雑誌』67巻6号 1949
9693三菱重工業事件東京地裁昭58・4・28判決『労働判例』410
9694北九州市病院局(四六年闘争)事件福岡地裁昭58・5・26判決『労働判例』410カード
9695越谷市職員組合事件浦和地裁昭59・6・21判決『労働判例』441カード
9696全逓長崎中央郵便局事件長崎地裁昭59・2・29判決『労働判例』441
9697中労委(倉田学園)事件東京地裁平9・2・27判決『労働判例』719
9698北九州市事件最高裁三小平元・4・25判決『労働判例』553
9699日教組・都教組事件最高裁一小平元・12・18判決、岩手県教組事件最高裁一小12・18判決『労働判例』553
9700国産自動車交通事件東京地裁平元・12・26判決『労働判例』554
9701済生会中央病院事件最高裁二小平元・12・11判決、北九州市事件平元・6・20判決『労働判例』552

2012/06/11

カード 勤務時間外 無許可集会 掲示板撤去 国鉄清算事業団(東京北等鉄道管理局)事件 東京地裁平成3年7月3日判決『労働判例』594号

争点-昭和58年東京駅にあった組合分会掲示板35枚のうち4枚以外の撤去・業務用への転用、東京駅構内における非番者無許可集会の警告・メモ・写真撮影、処分通知書手交の際の管理職の言動につき不当労働行為救済申立を棄却した公労委命令の是非
 
判旨-不当労働行為にあたらない(公労委命令維持)

掲示板の撤去・業務用転用-理由・手続に合理性があり支配介入を構成しない
 
 分会掲示板の設置、使用の経緯についてみると‥‥本件分会掲示板35枚の設置使用についてはいずれも助役の承認のあったものであるが、事務規定では労働組合の掲示板の設置については箇所長の許可が必要であるとされているのであって、本件においては
箇所長は東京駅駅長であるから、本件分会掲示板の設置、使用につき権限を有する者の正式の許可があるとはいえず‥‥労使間の正式の合意があったものとまでは評価できない。‥‥当時の国鉄は経営の改善という点からも職場規律の是正をせまられていたのであり‥‥東京駅当局の分会掲示板、使用の見直しは、職場規律の是正の一環としてなされたものであることが認められる。‥‥国鉄当局がとった手続についてみると‥‥東京北、南及び西の各鉄道管理局長は国労に対して昭和五七年三月四日に他の事項とともに管理者の許可のないビラ、横断幕、看板の撤去を申し入れていること、昭和五八年五月二七日に東京駅当局により組合掲示板の実態調査が行われ、九月一二日に出札、構内、乗客及び旅行センターの各一枚合計四枚を除きその余のものについては東京駅当局よりの手によって撤去あるいは業務用に転用され‥‥撤去等が行われた約二ヶ月前である‥‥七月六日には掲示板の枚数は一職場一枚を原則とするとの東京駅当局の方針が分会にに伝えられていることによれば、昭和五六年三月ころに行われた出札の職場の現場協議にらおいて東京駅当局は組合掲示板について一職場に一つと発言していることが認められ‥‥分会に対して説明がなされ一定の猶予期間をおいて撤去等がなされたということができる。‥‥本屋及び改札について分会掲示板が認められなかったのは東京駅当局が両班の掲示物には管理者に対する誹謗、中傷がみられるのでそのような掲示物を掲示
しないと約束ができるまで許可しないとの方針をとったためである‥‥‥本屋班ニュースには「ゴマスリ××助役」「××助役ウソをつく。セールスばかりやって仕事はおろそかだ」「労務屋=××、××助役、××の用心棒になりさがる」「改札助役××・庶務助役××ら十三~十四人のブラ勤助役」改札班の機関紙の日刊東改ニュースには「××助役のことは女房も頭にきている。一家そろってのろってやるぞ」「俺達の弱みにつけこんできたきたねえ野郎だよおまえ××って野郎は。今度は局の連中がパスを見せずに入ろうとしたら、すぐにパスを取り上げるからな。おまえはろくな死に方しねえぞクソ××」などの管理者を誹謗、中傷する記事があった‥‥事務規定第一七条には個人を誹謗する掲示物を掲示された場合には組合掲示板の使用を停止するとの規定があることが認められ、これによれば東京駅当局が本屋及び改札について管理者を誹謗、中傷する掲示物を掲示しないとの約束ができるまで掲示板の設置を許可しないとの方針をとったことはやむをえない。以上のような組合掲示板のり設置という便宜供与が行われるようになった経緯、、便宜供与が見直されるようになった理由、便宜供与の変更を行うためにとられた手続、変更後の便宜供与の内容等の事情を総合して考慮すると、本件掲示板の撤去及び業務用への転用が組合に対する支配介入にあたるとすることはできない。

無許可組合集会への警告、メモ、写真撮影--職場規律維持のためにやむをえない対応であり不当労働行為にはあたらない
  (事実)
 分会は二〇年以上前から東京駅構内の遺失物取扱所裏において、年に四・五回程度午前九時三〇分ころから約三〇分間勤務時間外の組合員(非番者)140名前後が参加する組合集会(以下「非番者集会」)を開いて春闘、秋闘などの重要な課題についての意思統一を行っていた。事務規定二〇条では所属長集会所その他構内等の一時的な利用について申し出があった場合は、業務上の支障またはそのおそれがないこと、使用の目的、責任者、時間等を明らかなことを条件として認めることができると定めているが、非番者集会はこの規定の手続きをへることなく行われていた。しかし、東京駅当局は今回までは非番者集会について事務規程二〇条が定める手続をとるように申入たことはなく、非番者集会を開くことに対して警告を行うこともなかった。遺失物取扱所裏の敷地は丸の内南口の通路及び中央線ホームに接しているが、大部分が壁、ドア等に囲まれており上は二階が丸の内電力支区、三階が寝室となっている建物によって覆われており、非番者集会の様子が外部から見えることはない。非番者集会はシュプレヒコールなどが行われることがあるが、その音は電車の発着する音などによってかき消されるような状態であった。遺失物取扱所裏の敷地は、毎日午前八時三〇分までに遺失物取扱所に遺失物を取りに来る警視庁の自動車の出入りに使われるほか、改札口を通らずに直接駅長室に来た身体障害者や職員がときおり通路として利用することがある程度であった。昭和五八年五月一七日午前に分会員約八〇名が無届けで駅長室前に集まり、組合員が組合活動として着用していたワッペンのとりはずしを求める管理職の行動に対する抗議集会を行いシュプレヒコールをくりかえすなどしたため管理職らが行っていた会議に支障が生じる事態となった。そこで東京駅当局は、分会に対して、東京駅構内で組合集会を開く場合には事務規程に定める手続をとるようにとの申入れを行った。六月二〇日には、事務規定二〇条の手続を経ることなく遺失物取扱所裏の敷地で分会員約一三〇名が集まり夏季一時金カット及び労働協約の破棄通告に抗議する非番者集会が、午前九時三〇分ころから約三〇分にわたって行われた。同日に非番者集会が開かれることを‥本屋班ニュースで事前に知った東京駅当局は、分会長らに対して事務規定二〇条の承認を得ていない組合集会は行わないよう申し入れるとともに、遺失物取扱所裏の敷地に集会を禁止する旨の貼紙をして警告をした。それにもかかわらず非番者集会が開催されたため、W主席助役は集会の責任者に対して直ちに解散するよう通告し、K庶務助役、S助役ら一〇数名の管理職が現認のために待機してメモをとったり写真撮影を行ったりした。七月二五日にも‥手続を経ることなく、遺失物取扱所裏の敷地で約一二〇名が集まり‥‥非番者集会が‥‥約三十分間にわたって行われた。‥‥事前に知った東京駅当局は分会長らに対し‥‥組合集会は行わないよう申し入れるとともに、遺失物取扱所裏の敷地に集会を禁止する貼り紙を禁止する旨の貼紙を出して警告をした。それにもかかわらず非番者集会が開催されたためK庶務助役、S助役ら一〇数名の管理者が現認のために待機してメモをとったりした。
(不当労働行為になるものか否かの検討)
 非番者集会は二〇年以上にわたって、年に四、五回行われてきたものであり、これに対して昭和五八年六月以前には東京駅当局から警告が出されることがなかったことは前記認定のとおりてであるが、この非番者集会は事実上行われてきたもものにすぎず、このことからただちに非番者集会について東京駅当局の黙示の許諾があったとすることはできない。
 本件非番者集会に対して東京駅当局が警告を行う等の対応をとったのは、昭和五八年五月一七日に事務規程二〇条の承認を得ていない分会の抗議集会が行われ業務に支障が生じたために、組合集会については原則どおりに事務規程二〇条の手続をとるように分会に申しいれていたにもかかわらず、分会がこれを無視して非番者集会を強行したことによるものであり、職場規律を是正するためにやむをえずとった対応であるというべきである。
 以上のように従来行われてきた非番者集会については東京駅当局の黙示の許諾があったとはいえないこと、東京駅当局が今回の警告を行う等の対応をとったのは職場規律の是正のためであったことからすれば、本件非番者集会に対して東京駅当局が警告を行う等の対応をとったのは、不当労働行為にあたるということはできない。

本判決の意義

 昭和58年当時の東京駅構内遺失物取扱所裏の敷地(丸の内南口通路・中央線ホームに近いが外部から見えない場所)で行われていた国労の非番者組合集会に対する警告、メモ、写真撮影が不当労働行為にあたるがが争われたものであるが公労委、東京地裁ともに不当労働行為にあたらないとした。
 非番者であるから労務提供義務はないと言う点で、休憩時間の組合集会事案の米空軍立川基地出勤停止事件 東京高裁昭和40・4・27判決『労働関係民事裁判例集』16巻2号317頁、全逓新宿郵便局事件 最高裁第三小法廷昭和58年12月20日『労働判例』421号 『労働法律旬報』1087・88号http://hdl.handle.net/2298/14070 東京城東郵便局事件東京地裁昭和59年9月6日判決『労働判例』442号、工場は勤務時間外だが、本部棟は勤務時間内だった状況で食堂利用・屋外集会の拒否が争われた日本チバガイギー事件最高裁第一小法廷平成元年1月19日判決『労働判例』533号)http://web.churoi.go.jp/han/h00308.htmlと類似した事案といえる。
 長年、警告が行われなかったものだが、、職務規律是正のため警告等を行うことは不当労働行為にあたらないとしている。
 重要判例は最高裁判例である全逓新宿郵便局と日本チバガイギーのケースで、本判決は「おまけ」であるが、休憩時間の示威運動、違法行為慫慂を含む組合集会を是認する東京都水道局の管理職http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/post-b43d.htmlにもの申すためにはできるだけ多くの判例を示したほうが迫力があるのでこの判決もリストに加えたものである。

2012/06/10

カード 無許可組合集会 済生会中央病院事件(中労委-東京地裁-高裁-最高裁二小)

済生会中央病院事件 最高裁第二小法廷平成元年12月11日判決民集43巻12号 1786頁『労働判例』552号(救済命令取消訴訟上告審判決)の意義について

争点 勤務時間内であるが事実上の休憩時間、業務に支障のない態様でなされた無許可組合集会に対する警告書交付は不当労働行為に当たるか

(要旨)

1 無許可組合集会に対する警告書交付は不当労働行為にあたらない。

 済生会中央病院事件最高裁判決は企業経営内の組合活動に関する指導判例である国労札幌地本事件最高裁判決の判例法理に拠って、元空腹時血糖室における午後3時40分~4時の2回の勤務時間内組合集会、テニスコートにおける12時30分~午後1時29分、12時30分~午後1時11分、12時30分~1時5分の三回に及ぶ昼休みを29分~5分超過し勤務時間に食い込む春闘集会に対する警告書交付について労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎないからから、病院(上告人)の行為が不当労働行為に該当する余地はないとして、原判決を破棄した。

 

2 「権利の濫用と認められる特段の事情」として、当該施設を利用する目的(とくにその必要性)等を総合考慮して判断する法益権衡論を明確に退ける。

 
 指導判例国労札幌地本ビラ貼り事件最高裁昭和54年10・30判決民集33巻6号647頁『労働判例』329号は、「労働組合又はその組合員が使用者の所有し管理する物的施設であってて定立された企業秩序のもとに事業の運営の用に供されているものを使用者の許諾を得ることなく組合活動のために利用することは許されないもの」であり許諾を得ない施設利用は「使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動として許容され」ないとする。
 本件原判決(東京高裁)もこの判例法理の枠組みで検討されているが、先例を逸脱して「権利の濫用であると認められるような特段の事情」を労働組合寄りに緩く解釈するのが特徴的であり、「いずれもその時期にこれを開催する必要性が認められること」等の集会の目的、必要性、態様等に照らすとこれら事情は右権利濫用と認められる特段の事情に該当するとしたうえ、警告書交付は威嚇的なものであるとして支配介入にあたると判示した。
 この判断は、無許可集会事案で「特段の事情」について、当該施設を利用する目的(とくにその必要性)等を総合考慮して判断する法益権衡論を主張した池上通信機事件最高裁第三小法廷昭和63年7月19日判決『労働判例』527号http://web.churoi.go.jp/han/h00282.htmlの伊藤正巳補足意見(結果的同意意見)に類似しているが、伊藤補足意見は少数意見にすぎず、多数意見はこの見解を退けており、したがって、原判決破棄は先例に沿った妥当な判決である。
 また、最高裁は日本チバガイギー事第二小法廷判決平成元年1月19日判決『労働判例』533号http://web.churoi.go.jp/han/h00308.htmlでも無許可集会事案で中労委の上告趣旨においる互譲調和論的な法益権衡論(「権利の濫用」を広く解釈し「労働者の団結権、団体行動権保障の趣旨からする施設利用の組合活動の必要性と、その施設利用により使用者が蒙る支障の程度との比較衡量により、両者の権利の調和を図ることが要請される。そして、使用者の施設管理権行使が右の調和を破るときには、権利の濫用があるといわなければならない」)を退けて「業務上ないし施設管理上の支障に藉口」するもので不当労働行為にあたる中労委の判断を違法と判示している。
 本件最高裁判決は、判例法理に拠れば「労働時間中に職場集会を開く必要性を重視して、それが許されるとすること」はないと断言しており、判例法理を変質させようとする意図のある、当該施設を利用する目的等を総合考慮して判断する法益権衡論を再度、明確に退けたものであって、指導判例の趣旨に沿った純法理的な判断をとったものとして評価できる。

3 勤務時間内の無許可集会は正当な行為とはされないのが原則であることを明確に示す。

 本件最高裁判決が「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。したがって、労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない。」「労働時間中に職場集会を開く必要性を重視して、それが許されるとすること」はないと断言したことは、指導判例である国労札幌地本判決が「労働組合が当然に当該企業の物的施設を利用する権利を保障されていると解すべき理由はなんら存しない」「利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用しうる権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない」とプロレイバー受忍義務説を明確に排除した趣旨から当然の帰結と考えるが、国労札幌地本事件がビラ貼り事案であったのに対し、本件が無許可集会事案であることがから、組合集会についてもこの判例法理が適用されることを再確認した点で大きな意義がある。
 本件テニスコート無許可昼休み集会は、勤務時間に食い込んでおり、休憩時間集会の判例とはいえないが、少なくとも本判決によって勤務時間内の企業施設内における無許可集会が正当な組合活動と評価されることはほとんどなくなったとみることができる。
 また、本件は警告書交付であるが、繰り返し行われた場合の懲戒処分も有効であることを示唆する判例といえる。ただし近年、組合旗無許可掲出事案であるが、光仁会病院事件東京高裁平成21年8月19日判決http://web.churoi.go.jp/han/h10253.htmlでは。組合分会長が108日間にわたって病院正門の左右に計4~5本、赤地に白抜きで「団結」等と記された組合旗を無許可で設置したこときは正当な組合活動ということはできず懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえないが、停職3 か月、その間、賃金不支給、本件病院敷地内立入禁止という処分は、懲戒事由(本件組合旗設置)に比して著しく過重であって相当性を欠くとして、組合活動に対する嫌悪を主たる動機としてなされたものとみなされら不当労働行為に該当すると判決された。最高裁第二小法廷は平成22年9月2日http://web.churoi.go.jp/han/h10310.htmlも上告を棄却している。
 したがって、正当な行為と評価されない組合活動に対し懲戒処分それ自体不相当でないとしても、過重な懲戒処分は不当労働行為とされる可能性があるので注意が必要である。

 
4 本判決の趣旨に反し、国労札幌地本判決の判例法理に従わない最高裁判例(国産自動車交通事件第三小法廷平成6年6月7日判決)の疑問

 本件は、組合活動に好意的な初審東京都地労委、再審中労委、東京地裁、東京高裁の計四審の判断を最高裁が覆したという意味でも、無許可集会事案の重要判例と考える。この判決の後、最高裁はオリエンタルモーター事件第二小法廷平成7年9月8日『労働判例』679号において、食堂の組合による集会等施設利用につき、本判決を引用したうえ、条件が折り合わないまま、施設利用を許諾しない状況が続いていることをもって不当労働行為には当たらないとしたことから、企業施設の組合活動の正当性を「許諾」と「団体交渉等による合意」に基づく場合に限定した国労札幌地本判決の判例法理が集会事案でも再確認された。したがって、下記のように無許可集会事案で5度にわたって最高裁が不当労働行為にあたらないとする判断を下していることにより(すなわち全逓新宿郵便局事件、池上通信機事件、日本チバガイギー事件、本件、オリエンタルモーター事件)国労札幌地本判決の判例法理は安定的なものと評価することに大筋で間違いはないと思う。
 ところが、国産自動車交通事件第三小法廷平成6年6月7日判決『労働法律旬報』NO.1349は国労札幌地本判決の論理を異なる事案として施設管理権に言及することなく、タクシー労働者を組織する「新協力会」が賃金のスライドダウンに反対するため無許可で会社構内(空地)を約三時間半にわたって占拠して開催した臨時大会(出番者も多数参加)に対して、会社が幹部を懲戒解雇した事案で、違法な争議行為あるいは組合活動ではないとして、解雇を無効とした東京高裁平成3年9月19日判決(前記『労働法律旬報』所収)の判断を是認している。
 高裁の判断は、本件は就労を予定していた者(出番者)も多数参加したことから、実質ストライキであり、構内を無断で使用したことは責任を免れないとしても、それにより大会開催によるストライキが違法にはならないというものである。
 なるほど出庫車の妨害など違法なピケッティング、業務阻害がなかった点など、ストそれ自体の違法性はないとしても、ストライキであるなしにかかわらず、会社の施設管理権の侵害が法益権衡によって正当化されるというのは疑問である。実際、JR東海(大阪第三車両所)事件 大阪地裁平成12年3月29日判決『労働判例』790号http://www.zenkiren.com/jinji/hannrei/shoshi/07533.htmlは、ストライキ開始前に会社施設に会社施設への入構・滞留することは、施設管理権の侵害にあたるかが争われ、争議行為中の会社施設への立入等を禁止した労働協約及び、および、会社施設での組合活動を禁じた就業規則が存在する本件においては、組合員らの会社施設内への入構及び右施設における滞留は、右施設管理権を違法に侵害する行為であるとされ、また、組合員らの入構を拒否した等の被告の措置は右施設施設管理権の濫用にも当たらないとしているのであり、ストライカーの入構拒否は施設管理権の行使として当然のものと思われるし、業務を阻害してないからといって施設構内の集会が違法でないというのは法的評価は納得できるものではない。
 国産自動車交通判決は、施設管理権絶対の判例に風穴を開けたと評される(鴨田哲郎「組合大会による会社施設利用の正当性」『労働法律旬報』NO.1349)が、この事件の「新協力会」は臨時大会開催当日まで親睦団体で労働組合ではなかったとされるから、組合結成の自由にかかわるものであること、会社に施設管理権に関する就業規則もなく、過去、親睦団体として集会が十年間に三十数回会社を認めていたこと、構内といっても空地であったこと、懲戒処分が解雇という厳しいものであったことからすれば、特殊な事例のようにも思える。国労札幌判決を無視したといっても判例を覆したものではなく。大勢に影響するほどの過大評価をする必要はないだろう。
 判例の大勢は下記の表の左側にあるとみて、大筋で間違いではない。

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(要旨-補足) 上記要旨を若干敷衍したもの

 社会福祉法人恩賜財団済生会は明治天皇の『済生勅語』によって、皇室よりの下付金により明治44年に伏見宮貞愛親王を総裁とし、桂太郎総理が会長となって創設された。第五代総裁は六月六日に薨去された寛仁親王殿下であった。全国各地に支部をおいて、事業経営を分担せしめ、本部は各支部の運営事業について企画、指導、連絡の任に当っている。社会福祉法人恩賜財団済生会支部東京都済済生会中央病院(以下「病院」という。)は、本部の一支部である東京都済生会が経営する病院であり、独立採算制による事業体であって、その責任において労務管理をなしているものである。病院は大正4年北里柴三郎を院長として発足し、芝赤羽橋に所在する。事件当時500名を雇用、現在はホームページによると916名の常勤職員を擁する。
 全済生会労働組合(以下「全済労」という。)は、社会福祉法人恩賜財団済生会関係の従業員が組織する28 の労働組合をもって構成する連合体の労働組合である。全済生会労働組合中央病院支部(以下「組合」という。)は、病院及びその付属施設の従業員約120 名(初審結審時)が組織する労働組合である。病院には上記組合のほか、本件申立外済生会中央病院労働組合があり、その組合員は約260 名(中労委結審時)があるが、 昭和50 年5 月12 日、病院の一部従業員が、組合の指導方針並びにその行動に基本的に全く賛同し得ないので、袂をはっきり分つとして結成したものだが、ここで取り上げる無許可集会の警告交付は組合分裂以前の事案である。

 本件は、(1)組合の職場集会について、「警告書並びに通知書」を発したこと、(2)争議行為について、「警告書並びに通知書」を発したこと、(3)婦長及び医長が、組合員に組合からの脱退を勧誘したこと、(4)チェック・オフを中止したこと、(5)新賃金の支給を別組合より遅らせたこと等について救済を申立した事案で、初審東京地労委昭和52年 3月 1日命令http://web.churoi.go.jp/mei/m00938.htmlは、病院に対し、(1)「警告書並びに通知書」の撤回、(2)組合脱退勧誘の禁止、(3)チェック・オフの再開を命じ、また、社会福祉法人恩賜財団済生会及び病院に対し、これらについてのポスト・ノーティスを命じるとともに、その余の申立について棄却した。また、中労委昭和54年12月 5日命令『労働判例』335http://web.churoi.go.jp/mei/m01277.htmlも再審査申立を棄却し、初審命令を維持したところ、済生会及び病院は、これを不服として55年1月26日、東京地裁に行政訴訟を提起したが東京地裁は、請求棄却(一部却下)の判決を下した。

 ここでは(1)の組合職場集会にたいする「警告書並びに通知書」を発したことが、不当労働行為に当たるかという争点に絞ってとりあげる。

 警告書が交付された集会とは2件の事実である。

1 元空腹時血糖室での勤務時間内の集会二回

第一は看護婦の勤務表の変更に対し、二回の勤務時間内の職場集会(平成50年4月2日と3日午後3時40分から4時)を開き、急患室勤務拒否についての報告と今後の対応を話し合った。そして、急患勤務の看護婦の増員を要請した。この職場集会は、看護婦の勤務状況を考慮し、ために時間内というかたちをとり、かつ休憩室ではなく勤務配置場所である元空腹時血糖室でなされ、参加者は業務に支障のないかたちで対応した。この職場集会につき、病院側が、数日後「警告ならびに通告書」を支部組合に発した。従来、勤務時間中の職場集会を無届・無許可で行っても病院から何らリアクションはなかった。

2 テニスコートにおける昼休み職場集会三回(勤務時間に5~29分食い込む)

第二の件は、テニスコートにおいて賃金をめぐって支部組合が三日間(昭和50年5月6日、7日、9日)にわたり、昼休み時間の12時30分より、昼休みを超過して勤務時間にくい込んだ(各々29分、11分、5分)集会が行われ、10日に同じく病院側が、「警告書」交付した。

警告書並びに通告書4月5日
「このような集会を勤務中に行うことは労働協約第9 条(就業時間中組合活動の禁止)ならびに就業規則第23 条(職務専念義務)、第24 条(規則を守る義務)に違反する行為であります。……今度かかる行為を絶対に繰返さないよう、ここに厳重に警告しておくとともに責任追及の権限を留保しておく……。」
警告書5月10日
「………業務を放棄し、………多数の組合員を対象に………集会を行ったことは、労働協約第9 条並びに就業規則第23 条、第24 条に違反する不当な行為である。………この件については、4 月5 日………病院見解を明らかにしたように責任追及の権限を留保する。かかる行為を今後も繰返し行った場合は、病院として重大な決意をもって臨むことをここに正式に通告しておく。」

 東京地裁昭和61年1月29日判決『労働判例』467号は、第一の集会について事実上の休憩時間と目される時間帯に、業務や急患への対応に配慮された方法で行われた無許可集会等について、現実に業務に支障を生じていないから、「特段の事由」に当たるとして、この集会への警告を不当労働行為とする東京地労委・中労委の救済命令を支持した。
第二の集会については「労働者や労働組合が使用者の許諾なく当然に使用者の施設を利用し、また就業時間中組合活動を行い得るものではなく、使用者が労働者らの就業時間中の施設を利用しての集会に対し中止を求める等の措置を採ることは権利の濫用と認められる特段の事情のない限り許さるものとていうべき」という国労札幌地本ビラ貼り事件・最高裁昭和54年10・30第三小法廷判決民集33巻6号647頁『労働判例』329号の判例法理の枠組みに基づいて検討しながら、「集会の目的、必要性、態様等に照らすとこれら事情は右権利濫用と認められる特段の事情に該当するものというべく、本件昼休み集会をもって違法ということはできず、しかもこれら集会に対する原告病院の支部組合に対する警告書は重大な決意をもって臨む旨記載され原告病院として今後の行為に対しては処分をもって臨む強い姿勢を示す威嚇的なものであって、右集会の目的、態様に比し相当性の範囲をこえる」として、この集会への警告を不当労働行為とする東京地労委・中労委の救済命令を支持し、済生会の請求を棄却、控訴審東京高裁も控訴を棄却した。
 つまり初審・再審・一審・控訴審の判断は無許可集会の警告を支配介入であるとしたのであるが、最高裁は、四審の判断を覆し、病院側の権利の濫用と認められる「特段の事情」があるとは解されないとして、本件警告は労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎないから不当労働行為に該当する余地はないとして、原判決を破棄した

 上告審判決は、企業施設における組合活動の指導判例である国労札幌地本事件最高裁判決の判例法理に沿った妥当な判断として評価できる。
 国労札幌地本判決は戦後プロレイバー労働法学のきわめて悪質な学説のひとつ「受忍義務説」を明確に排除し「労働組合又はその組合員が使用者の所有し管理する物的施設であって定立された企業秩序のもとに事業の運営の用に供されているものを使用者の許諾を得ることなく組合活動のために利用することは許されないもの」であり「その利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであつて、正当な組合活動として許容され」ないとするものである。
 問題は、最高裁が判示した『その利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情』という判断基準の法的評価であった。
 この点、昭和五四年判決が言い渡された当時、『権利の濫用と認められるような特段の事情』は最高裁のリップサービスに過ぎないだろう、現実には濫用と認められるものはほとんどないだろうと考えられ、労働組合に大変厳しい判決と受け止められた。
 学説では『権利の濫用』とは不当労働行為を意味するという理解がある。横井芳弘は「施設利用の組合間差別」(「組合活動と施設管理権」『中央労働時報』660号)下井隆史は「使用者側にはっきりとした反組合的意図がある場合」(「労働組合のビラ貼り活動に関する再論」『判例タイムズ』407号)
しかし最高裁は具体的に何を基準として『権利の濫用』となるのかは明らかにしていない。従って判例の累積で、具体的にどの程度のことか理解するほかない。

 この判断基準に挑戦したのはまず、池上通信機事件 最高裁第三小法廷昭和63年7月19日判決『労働判例』527号 http://web.churoi.go.jp/han/h00282.htmlで、結論同意の補足意見を記した伊藤正己裁判官だった。この事件は組合結成以来、工場の食堂を会社の許可を得ないで職場集会のために使用してきたことに対して、職制による阻止、説得、組合に対する警告等が不当労働行為にあたるかが争われた救済命令取消訴訟で、不当労働行為にあたらないとした横浜地裁判決を支持したものだが、伊藤正己裁判官補足意見を要約すると「原判決は、その措辞からみて、労働組合又は組合員が使用者の所有する物的施設を利用して行う組合活動の正当性の判断について厳格すぎる感は免れないけれども、その結論は正当であるから、本件上告はこれを棄却すべきである」というものだが、「特段の事情」については「特段の事情があるかどうかについては、硬直した態度で判断するのではなく企業内組合にあっては当該企業の物的施設を利用する必要性が大きい実情を加味し、労働組合側の当該施設を利用する目的(とくにその必要性、代替性、緊急性)、利用の時間、方法、利用者の範囲、労働組合によって当該施設が利用された場合における使用者側の業務上の支障の有無、程度等諸般の事情を総合考慮して判断されるべきもの」という法益権衡論を展開し、これは違法性阻却説とみなされている。(渡辺章『労働法講義 下 労使関係法・雇用関係法Ⅱ』信山社2011 184頁)
 明らかに、先例を変質させる意図があり組合活動を支援するサイドのものである。しかし、それは伊藤裁判官単独の少数意見にとどまるものであって最高裁自体はこれを退けている。
 次いで、この判断基準に挑戦したのが中労委であった。日本チバガイギー事件 最高裁第一小法廷平成元年1月19日判決『労働判例』533号)http://web.churoi.go.jp/han/h00308.htmlは午後五時からの食堂使用および屋外集会(終業時刻が工場は午後五時、本部部門は午後五時四五分の開催の不許可は施設管理権行使の範囲内にあり、不当労働行為にあたらないとする東京地裁判決を支持するものだが、これは集会不許可は「業務上ないし施設管理上の支障に藉口」するもので不当労働行為にあたる中労委の判断を否定したものであった。中労委は上告趣旨で「労働者の団結権、団体行動権保障の趣旨からする施設利用の組合活動の必要性と、その施設利用により使用者が蒙る支障の程度との比較衡量により、両者の権利の調和を図ることが要請される。そして、使用者の施設管理権行使が右の調和を破るときには、権利の濫用があるといわなければならない」と述べ、『権利の濫用と認められる特段の事情』をまるでプロレイバーの互譲調和論のような法益権衡論を導入を主張したのである。これも、悪質なもので、国労札幌地本判決の判例法理に風穴をあけ変質させようとする意図がある。最高裁は「特段の事情」に法益調整比較衡量の基準を持ちこむことを再度否定したのである。
 本件、東京地裁判決は第二の警告書交付について「集会の目的、必要性、態様等に照らすとこれら事情は右権利濫用と認められる特段の事情に該当するものというべく、本件昼休み集会をもって違法ということはできず」と判断しているが、これは池上通信機事件で少数意見にすぎなかった伊藤補足意見の違法性阻却説に依拠した判断で、先例に反するものであることは明らかであるから、最高裁が容認しないのは当然である。
 最高裁判決は端的に警告書交付について「労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為是正を求めるものにすぎない」から不当労働行為に当たらないと判示しているからこの企業秩序定立権ともいえる使用者の権利を掣肘するような法益調整論は明確に退けたのである。
 つまれり最高裁は無許可集会事案で、池上通信機、日本チバガイギー、済生会中央病院と3度にわたって「特段の事情」に法益権衡論を持ち込もうとする挑戦を退けたこととなり、判例法理は安定したものとなったと評価できるのである。
 本件の昼休み集会は、若干勤務時間に食い込んでおり、休憩時間についての判例とはいいにくいが、少なくともこの判決によって勤務時間中の企業施設内の無許可集会が正当な組合活動とみなされる余地はなくなったと解釈できそうである。(ただしこれに反する判例として国産自動車交通事件があることは、要旨の4で述べたとおり)

済生会中央病院事件 中労委昭54・12・5命令『労働判例』335号 http://web.churoi.go.jp/mei/m01277.html

  要点-無許可職場集会に対する警告書の交付は不当労働行為にあたる

認定した事実
職場集会に対する警告
(1) 昭和50 年4 月5 日付「警告並びに通告書」交付について① 病院は、従来から急患室の看護婦不足を補うため、アルバイト勤務と称して外来看護婦の応援を求め、毎月末に翌月の勤務表を作成して当該外来看護婦の合意の下にその勤務表に従った勤務を割当てていた。
② ところが、看護婦不足が甚だしくなった昭和50 年3 月には、従前の勤務態様では看護婦のやりくりがつかず、いつもは毎月25 日頃に作成される勤務表がこの月は27 日に作成された。その内容は、外来看護婦に対して、従来なかった深夜勤を導入し、また夜勤回数を増やすものであった。
③ この勤務表に基づく外来看護婦の勤務は、本来アルバイトであったから、事前に申出れば勤務しないことができる建前のものであったが、勤務表がいったんできあがれば大体その通り勤務していた。
④ 3 月28 日午後3 時半から4 時までの間、外来勤務員20 余名が急患室に隣接した元空腹時血糖室に集まり、上記勤務表に関する事情調査のための集会を開き、その結果、組合は病院に対して同勤務表について抗議した。
⑤ 4 月1 日、病院は同勤務表を修正した。
⑥ 組合は上記の経過報告とその後の対策協議のため、翌2 日及び3 日の午後3時40 分から4 時までの間、前記元空腹時血糖室で集会を行い、三交替に必要な急患室の看護婦の増員を要求することを決定し、その旨を病院に要求した。
⑦ 4 月5 日、病院は組合に対し、上記⑥の集会について「このような集会を勤務中に行うことは労働協約第9 条(就業時間中組合活動の禁止)ならびに就業規則第23 条(職務専念義務)、第24 条(規則を守る義務)に違反する行為であります。……今度かかる行為を絶対に繰返さないよう、ここに厳重に警告しておくとともに責任追及の権限を留保しておく……。」との「警告並びに通告書」(以下「警告書」という。)を交付した。
⑧ なお、上記⑥の集会に参加した外来勤務員は、その勤務の性質上、一斉に昼休みをとることはできず、各職場の繁忙及び各勤務員によって異なるが、外来業務の終了する午後3 時過ぎになって昼休み相当の休憩時間がとれる場合が多く、各種集会も従来から概ねこの時間帯に行われていた。本件集会も、この時間に業務のない者が集まり、急患室に業務が発生すれば直ちに対応できるよう急患室に隣接する元空腹時血糖室で行われ、現実に業務に差支えがあったことは具体的に認められない。
また病院が、従来からこの時間帯に行われていた組合の集会について、上記のような警告書を発した例は認められない。
(2) 昭和50 年5 月10 日付「警告書」交付について
① 昭和50 年3 月3 日、組合は病院に対し、4 月1 日から基本給の25%プラス一律一万円の賃上げその他を要求し、同月20 日までに回答を求めたところ、病院は回答期限の延期を求め、さらに同要求について組合からあった4 月1日から17 日までの5 回にわたる団体交渉の申入れに対しても検討中等を理由にこれに応じなかったが、同月21 日病院発行の「労務情報」を全従業員に配布して24 日に有額回答を行う旨を公表し、同24 日組合と団体交渉を行ったうえ、賃上げについて平均11,268 円、賃上率10.41%を「最初にして最後の回答」として組合に提示した。
② 組合は同回答を不満とし、4 月30 日の団体交渉においてこれを拒否したところ、病院は5 月6 日の団体交渉において組合が争議行為を行わないことを条件として上記回答に一律2,000 円の上積みと看護婦の夜勤手当の増額を認めたが、組合はこれをなお不服とし、同日午後6 時から時間外勤務、宿日直拒否闘争に入ることを病院に通告したので、病院は上記上積回答を撤回し、翌7 日「労務情報」を全従業員に配布して「平和的解決の条件拒否さる」との見出しのもとに上記経過を公表した。
③ 組合は5 月8 日団体交渉を行ったが、病院から前記上積回答の再提案を受けたのみで交渉は進捗しなかった。同日組合は翌9 日に予定していたストライキを回避して交渉を続け、結局5 月28 日上記上積回答を承認して受諾するに至った。
④ この間、組合は5 月6 日、7 日、9 日の各12 時30 分から病院構内で春闘集会を開いたが、いずれも就業時間の午後1 時を過ぎ、6 日は29 分、7 日は11分、9 日は5 分を超過した。病院は5 月10 日組合に対し、上記集会について「………業務を放棄し、………多数の組合員を対象に………集会を行ったことは、労働協約第9 条並びに就業規則第23 条、第24 条に違反する不当な行為である。………この件については、4 月5 日………病院見解を明らかにしたように責任追及の権限を留保する。かかる行為を今後も繰返し行った場合は、病院として重大な決意をもって臨むことをここに正式に通告しておく。」との「警告書」を交付した。
⑤ なお、過去の闘争時に若干就業時間にも食い込む昼休み集会が開かれたことがあるが、これに対して病院が警告や注意をしたことはなかった。さらに病院は、この集会の超過時間を厳格に3 日にわたって測定しながら、その間一度も注意をしていなかった。また、集会参加者は業務に差支える場合は自由に退出し、現実に業務に支障があったことは認められない。

判断
2 職場集会に対する警告について
本部及び病院は、昭和50 年4 月5 日付「警告書」交付及び同年5 月10 日付「警告書」交付について、就業時間中は職務専念義務があり、具体的な業務の支障の有無にかかわらず、使用者の許容がない限り、組合活動を正当になし得ない。また、「警告書」交付は使用者の表現の自由の範囲内であり、かつ、対抗行為として許されるものであり、とくに5 月10 日付「警告書」は、4 月5 日付同文書で警告したにもかかわらず再度、時間内集会をもったため交付したものであり、しかも単に警告したに止まり、何らの処分もしていないのに、これを過重なものであるとした初審判断は納得し難いと主張するので、以下これについて判断する。
(1) 昭和50 年4 月5 日付「警告書」交付同年4 月2 日及び3 日の職場集会は、前記第1 の3 の(1)の⑥認定のとおり、就業時間中に行われたものである。しかしながら病院では、外来勤務者の勤務の特殊性から所定の昼休みが十分とれないため、従来からおおむね外来患者がいなくなる午後3 時過ぎ頃、昼休み相当時間として休憩をとることを認めていた。本件職場集会もその時間帯に行われたものである。さらに従前からこの時間帯を利用して行われた各種集会に対して病院は、上記事情を考慮してか、格別の警告をすることなく黙認していた。してみると、本件職場集会が、就業時間中の組合活動として職務専念義務に反するとする本部及び病院の主張をそのまま採用することはできない。これに加えて、外来看護婦の勤務の変更に対処するため緊急に開催する必要があったものであること、場所も急患業務の発生に備えて、急患室の隣を選ぶなど、業務に支障をきたさないよう配慮されていることなどの事情を考え併せると、正当な組合活動の範囲を逸脱したものとは認められない。したがって、病院がこれに対して、前記第1 の3 の(1)の⑦認定のような「警告書」を発したことは、組合に対する支配介入といわざるをえない。
(2) 同年5 月10 日付「警告書」交付
同年5 月6 日、7 日、9 日の職場集会は、前記第1 の3 の(2)認定のとおり、組合の昭和50 年度の賃金引上等の団体交渉が難航し、要求貫徹のため争議行為に入るなど、いわゆる争議時に開催されたものであること、また、当初から就業時間中に開催されたものでなく、就業時間内に多少食い込んだものであったこと、過去において闘争時に若干就業時間に食い込む昼休み集会が行われていたが、病院が、これに対して警告や注意をしたことはなかったことなどが認められる。
もっとも、組合にとって集会を開催する必要性があり、従来このような集会が黙認されていたことがあったとしても、もともと就業時間中の組合活動は使用者の了解を得て行い得るものであるから、本件のように全く了解の手続きもとらずに行った場合、使用者が再発を防止する意図で何らかの注意あるいは警告を発したとしても、これを不当とはいえない。しかし、本件「警告書」は、突然に「責任追求の権限を留保する………病院として重大な決意をもって臨む」など、処分を暗示した厳重なものであるから、再発防止のための警告というより、春闘の大詰という労使対立のなかで、威嚇的言辞を用い組合員の動揺をねらったものといわざるをえない。
よって、上記(1)及び(2)の病院の行為は、不当労働行為であるとした初審判断は相当である。

済生会中央病院事件(東京地裁昭和61年1月29日判決『労働判例』467号http://web.churoi.go.jp/han/h00805.html

(判旨)-本件職場集会は違法でない 警告は不当労働行為にあたる

昭和50年4月5日の警告について
「本件各集会は原告病院が外来看護婦の急患室勤務の負担を加重する勤務表を作成したことに端を発し‥‥職場内で協議する必要から開かれたものであって、その開催された時間帯も事実上休憩時間と目される時間帯であり、業務や急患に対応しうるように配慮された方法で行われ、現実に業務に支障が生じていないこと、従来本件と同様の態様でなされた集会について原告らは何ら注意を与えていないことが認められ、これら事情は、本件集会が就業時間後に開催しなかったのが外来看護婦の中に保育の必要性がいた者がいたにすぎないものであったとしても、なお前記の特段の事由に該当するものというべきであり、本件職場集会をもって違法ということはできない。そして、これら本件集会の右の目的、必要性、態様等に照らし原告病院の行った警告の内容は責任追及を暗示するものであって相当性の範囲をこえ、表現の自由の範囲外である」

昭和50年5月10日の警告について
「‥‥労働者や労働組合が使用者の許諾なく当然に使用者の施設を利用し、また就業時間中組合活動を行い得るものではなく、使用者が労働者らの就業時間中の施設を利用しての集会に対し中止を求める等の措置を採ることは権利の濫用と認められる特段の事情のない限り許さるものというべきことは前説示のとおりであり、本件各昼休み集会はいずれも就業時間中にマイクを使用して原告病院の施設を利用しているものであるが、本件昼休み集会はいずれも昭和五〇年の賃金引上げ等のま団体交渉が難航している最中に行われたものであって、集会がこの時期にもたれることに十分な理由があったこと、集会は原告病院の施設を利用するものではあるが、それはテニスコートであって病院業務に直ちに影響を及ぼす場所とはいえないこと。また集会は就業時間中に開かれたとはいうものの、昼休み時間内に終了せず偶々就業時間に食い込んだものであって、その程度も大幅でないこと、また集会参加者は業務にに支障のない者であり、途中支障があれば自由に退出できるなど業務の影響を配慮むしていること、過去かような集会に対し原告病院が注意等を与えたことがないこと等右集会の目的、必要性、態様等に照らすとこれら事情は右権利濫用と認められる特段の事情に該当するものというべく、本件昼休み集会をもって違法ということはできず、しかもこれら集会に対する原告病院の支部組合に対する警告書は重大な決意をもって臨む旨記載され原告病院として今後の行為に対しては処分をもって臨む強い姿勢を示す威嚇的なものであって、右集会の目的、態様に比し相当性の範囲をこえるものといわざるを得ず、表現の自由の範囲外であることも明らかである。」

判決(抜粋)-無許可集会の警告書交付は支配介入と判断し不当労働行為にあたる

(一)昭和五〇年四月五日付警告書の交付について

(1)原告病院は、従来から、急患室の看護婦不足を補うため、アルバイト勤務と称して外来看護婦の応援を求め、毎月二五日頃に翌日の勤務表を作成して、当該外来看護婦にその勤務表に従った勤務を割り当てていた。
 この勤務表は外来看護婦が事前に都合を申し出ない限り、当該外来看護婦の同意を得ることなく、一方的に作成し、しかも一たんできあがってしまうと概ねその通りの勤務に服するのが実情であった。
(2)原告病院では、昭和五〇年三月頃看護婦不足が甚だしくなり、看護婦の遣り繰りがつかなくなったことから同年四月分の勤務表の作成が遅れ、しかも同年三月二七日になって作成された勤務表には、従来外来看護婦になかった午後一一時から翌日午前八時までの深夜勤が導入され、また午後四時から一一時までの夜勤の回数も増加した勤務が予定されていた。
 外来看護婦の通常の勤務時間は午前八時から午後四時までとなっているところ、深夜勤を行い翌日外来の通常勤務を行えば午後一一時から翌日午後四時までの勤務となって過重なものむになる可能性があった。
(3)そこで支部組合は、昭和五〇年三月二八日午後三時二八日午後三時三〇分頃から、右勤務表について協議するため、外来看護婦ら二十余名を急患室に隣接した元空腹時血糖室に集めて職場集会を開いた。
(4)その後同年四月一日、原告病院は支部組合との間で労働協議会を開催した。その席上、原告病院は外来看護婦の急患室勤務はアルバイトであることを確認した。これに対し支部組合は任意に右勤務表に応ずることはできないと主張し、右勤務表に基づく急患室勤務を拒否することとした。
(5)次いで支部組合は、原告病院が病棟看護婦を急患室勤務に補充する動きを示したこともあって、同月二日及び三日いずれも午後三時四〇分から元空腹時血糖室でこれまでの経過報告とともにその後の対策を協議するため、外来看護婦らを集めて、職場集会を開き検討した。
(6)そうして、支部組合は、同月三日付で原告病院に対して三交替勤務に必要な急患室勤務の看護婦の増員を要求した。
(7)これに対し、原告病院は、同月五日、支部組合に対し、本件命令第一3(1)⑦記載のとおりの「警告並びに通告書」を交付した。
(8)支部組合が右四月二日、三日の集会をいずれも就業時間内である午後三時四〇分から開催したのは、外来看護婦ら外来関係の勤務者については午前中の診療が正午までに終わることはなく、通常の正午から午後一時までの昼休みが現実にはとれず、結局午後の診療が一段落し休憩時間のとれるのが右午後三時すぎであったことからこの時間に行うことにしたのであり、また終業後とする外来看護婦の中に保育所に幼児を引き取りに行かなければならない者もいたことを考慮したためである。そしてこの集会に参加した者はいずれも園次官に業務のない者であり、しかも途中業務の発生した者は中座して業務に就いているのである。また集会の場所を元空腹時血糖室に選んだのも、ここが急患室隣りであって急患室業務の必要が生じれば直ちに対応できるとの配慮からであった。
なお支部組合が右各集会を開くにあたって原告病院に届け出たり許可を得たことはないが、従来この時間帯にこのような届出も許可もなく集会を開催しても、原告らから警告や注意を受けたことはなかった。
 以上の事実を基礎に検討するに、本件各職場集会はいずれも勤務時間中に原告病院に届け出ることもなくその施設を利用して行われたものであって、いずれも支部組合が原告らの許諾なくなし得るものではなく、これら集会に対し使用者は権利の濫用と認められる特段の事情のない限りその中止を求めたりすることができるものと解するを相当とする。そこで、本件にそのような特段の事由が存するか否かについて検討するに、本件各集会は原告病院が外来看護婦の急患室勤務の負担を加重する勤務表を作成したことに端を発し、四月一日時点で原告病院との間で一応の決着はみたもののなお原告病院側の対応をめぐって職場内で協議する必要から開かれたものであって、その開催された時間帯も事実上休憩時間と目される時間帯であり、業務や急患に対応しうるように配慮された方法で行われ、現実に業務に支障が生じていないこと、従来本件と同様の態様でなされた集会について原告らは何ら注意を与えていないことが認められ、これら事情は、本件集会が就業時間後に開催しなかったのが外来看護婦の中に保育の必要性がいた者がいたにすぎないものであったとしても、なお前記の特段の事由に該当するものというべきであり、本件職場集会をもって違法ということはできない。そして、これら本件集会の右の目的、必要性、態様等に照らし原告病院の行った警告の内容は責任追及を暗示するものであって相当性の範囲をこえ、表現の自由の範囲外であること明らかであるというべきである。そして、右警告書の交付をもって支部組合及び全済労に対する支配介入と判断した被告の認定に誤りはなく、原告済生会の主張は理由がない」

(二)同年五月一〇日付け警告書について

(1)支部組合は、昭和五〇年三月三日、原告病院に対し、同年四月一日から基本給の二五パーセントに一律一万円を加えた加えた賃上げその他を要求し、同月二〇日までにその回答を求めた。原告病院は回答期限の延期を求め、さらに同要求についての支部組合から団体交渉の申し入れに対しても検討中を理由にこれに応じず、同月二四日に至り支部組合から団体交渉を行ったが、賃上げについて平均一万一二六八円賃上げ率一〇・四一パーセントを最初にして最後の回答と表現して支部組合に提示した。
(2)支部組合は原告病院の右回答を不満とし、同月三〇日の団体交渉において支部組合が争議行為を行わないことを条件として二〇〇〇円の上積みと看護婦の夜勤手当の増額を認める案を提示したが、支部組合はなお不服として拒否するとともに、原告病院にた対し同日六時から時間外勤務、宿日直拒否闘争に入ることを通知した。そこで原告病院は上積み回答を撤回した。原告病院は同月七日「労務情報」を全従業員に配布して「平和的解決の条件拒否さる。」との見出しのもとに右経過を公表した。
(3)支部組合は同月八日原告病院と再度団体交渉を行ったが、六日に提案された上積み案以上の案は出ず、交渉は進捗しなかった。賃上げ交渉は進捗しなかったが支部組合はなお解決を図るため、翌九日に予定していたストライキを回避して交渉を続け、結局同月二八日支部組合は右六日の上積み案を受け容れて賃上げ問題は解決するに至った。
(4)この間支部組合は五月六日、七日及び九日の各一二時三〇分から原告病院構内のテニスコートを使用して春闘集会を開いたが、いずれも就業時間内の午後一時を過ぎ、六日は二九分、七日は一一分、九日は五分を超過した。そこで原告病院は同月一〇日支部組合に 対し、右集会について本件命令第一3(2)④記載のとおりの警告書を交付した。
(5)なお、本件各昼休み集会には病院看護婦のうち、業務のある者や外来看護婦等業務に支障のある者は出席せず、また集会中でも業務のあるものは自由に退出していた。また本件各昼休み集会ではマイクを使用する等して行っていたが、集会を行うことについて原告の許可や届け出は行っていなかった。しかし、過去の闘争時に若干就業時間に食い込む昼休み集会が開かれたことはあるが原告病院が警告や注意をしたことはなかった。
 右事実を基礎に検討するに、労働者や労働組合が使用者の許諾なく当然に使用者の施設を利用し、また就業時間中組合活動を行い得るものではなく、使用者が労働者らの就業時間中の施設を利用しての集会に対し中止を求める等の措置を採ることは権利の濫用と認められる特段の事情のない限り許されないものというべきことは前説示のとおりであり、本件各昼休み集会はいずれも就業時間中にマイクを使用して原告病院の施設を利用しているものであるが、本件昼休み集会はいずれも昭和五〇年の賃金引上げ等の団体交渉が難航している最中に行われたものであって、集会がこの時期にもたれることに十分な理由があったこと、集会は原告病院の施設を利用するものではあるが、それはテニスコートであって病院業務に直ちに影響を及ぼす場所とはいえないこと。また集会は就業時間中に開かれたとはいうものの、昼休み時間内に終了せず偶々就業時間に食い込んだものであって、その程度も大幅でないこと、また集会参加者は業務に支障のない者であり、途中支障があれば自由に退出できるなど業務の影響を配慮むしていること、過去かような集会に対し原告病院が注意等を与えたことがないこと等右集会の目的、必要性、態様等に照らすとこれら事情は右権利濫用と認められる特段の事情に該当するものというべく、本件昼休み集会をもって違法ということはできず、しかもこれら集会に対する原告病院の支部組合に対する警告書は重大な決意をもって臨む旨記載され原告病院として今後の行為に対しては処分をもって臨む強い姿勢を示す威嚇的なものであって、右集会の目的、態様に比し相当性の範囲をこえるものといわざるを得ず、表現の自由の範囲外であることも明らかである。したがって原告病院の警告書の交付をもって原告病院による支部組合及び全済労への支配介入であると判断した被告には誤りはなく、原告のこの点に対する主張は理由がない。」

済生会中央病院事件 東京高裁昭和63年1月29日判決『労働判例』467号
http://web.churoi.go.jp/han/h00517.html
恩賜財団済生会の控訴 控訴棄却
警告書交付は不当労働行為にあたる

済生会中央病院事件 最高裁第二小法廷平成元年12月11日『労働判例』552号
http://web.churoi.go.jp/han/h00554.html
恩賜財団済生会の上告

控訴審判決の一部破棄自判

(判決)抜粋-無許可集会に対する警告書交付は不当労働行為にあたらない

「原審の右判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。したがって、労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない。また、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動に当たらない。そして、もとより、労働組合にとって利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用し得る権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うと解すべき理由はない(最高裁昭和四九年(オ)第一一八八号同五四年一〇月三〇日第三小法廷判決・民集三三巻六号六四七頁)。
 これを本件についてみるに、本件職場集会(一)、(二)は、労働時間中に、病院の管理する物的施設(元空腹時血糖室、テニス・コート)を利用して開かれたものである。しかして、従来、病院が本件のような職場集会について何ら注意をしたことがなかったとしても、それをもって直ちに病院が労働時間中に病院の管理する物的施設を利用して職場集会を開くことにつき黙示の許諾をしていたということはできないし、病院がそのような職場集会を開くことについて反省を求めることの妨げとなるものでもない。また、右の権利の濫用であると認められるような特段の事情があるかどうかの判断に際し、病院の管理する物的施設を利用して職場集会を開く必要性を強調することができないことはさきに説示したところから明らかである。同様に、労働時間中に職場集会を開く必要性を重視して、それが許されるとすることができないことも、前記説示に照らし当然である。なお、支部組合が本件職場集会(一)を開催したのが外来看護婦が通常の昼休みをとることができない傾向にあったためであるとしても、そのことが支部組合として午後三時四〇分から本件職場集会(一)を適法に開くことができる根拠となるものでもない。以上によれば、本件職場集会(一)、(二)の開催につき病院の明示又は黙示の許諾があるとも、また、その開催を許さないことが病院の権利の濫用であると認められるような特段の事情があるとも解されないのであって、結局、病院が本件職場集会(一)、(二)に対して本件警告書を交付したとしても、それは、ひっきょう支部組合又はその組合員の労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎないから、病院(上告人)の行為が不当労働行為に該当する余地はないというべきである。したがって、東京都地方労働委員会の昭和五二年三月一日付初審命令(都労委昭和五〇年(不)第六一号事件初審命令)の主文第1項のうち昭和五〇年四月五日付「警告並びに通告書」及び同年五月一〇日付「警告並びに通告書」のうち集会にかかるもの(一通)並びに主文第4項(1)のうち同年四月五日付「警告並びに通告書」及び同年五月一〇日付「警告並びに通告書」のうち集会にかかるもの(一通)について、これを維持した被上告人の昭和五四年一二月五日付再審査申立棄却命令(中労委昭和五二年(不再)第二五号事件再審査命令)の該当部分の取消しを求める上告人の請求は理由があるから、これを認容すべきである。原判決及び第一審判決が本件職場集会(一)、(二)に対する警告が不当労働行為に該当するとしたのは、法七条三号の解釈適用を誤ったものであり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであって、この点をいう論旨は理由がある。よって、右部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消し、上告人の請求を認容することとする。」

奥野久之裁判官 の反対意見(抜粋)

一論旨は要するに、
1 本件職場集会(一)、(二)は、いずれも病院に無断で労働時間中に行われたものであるから、就業規則の定める職務専念義務、又は雇用契約若しくは信義則上の職務専念義務に反する違法なものである、
2 病院が支部組合又はその組合員に対し元空腹時血糖室、テニス・コートの利用を許さないことにつき権利の濫用であると認められるような特段の事情も存在しないので、支部組合が病院の許諾を得ないままこれらの施設を本件職場集会(一)、(二)に使用したことは、病院の当該施設に対する管理権限を侵し、企業秩序を乱す違法なものである、したがって、支部組合が本件職場集会(一)、(二)を開いたことは正当な組合活動に当たらないから、病院(上告人)がこれに対し警告したことが不当労働行為となる筈がなく、原判決には、法七条三号の解釈適用を誤り、理由不備、理由齟齬の違法がある、というのである。
二なるほど、原審の認定によると、本件職場集会(一)はいずれも病院に届出をせず許可を得ないまま午後三時四〇分から元空腹時血糖室で行われ、また、本件職場集会(二)はいずれも届出をせず許可を得ないまま午後一二時三〇分頃からテニス・コートで開かれたが、五月六日は二九分、同月七日は一一分、同月九日は五分、午後一時からの労働時間に食い込んだというのであるから、本件職場集会(一)、(二)は、労働時間の一部を利用し、また病院の施設を無断で使用した点で、従業員としての労働契約上の義務に反し、あるいは病院の施設管理権を侵したということができそうである。
三しかしながら、労使間の団体交渉に直接関連して行われる組合活動については、一般的には違法とされるべき行為であっても、組合員の意思を集約するために必要であり、かつ、労働組合ないしその組合員(労働者)のした義務違反ないし病院の権利に対する侵害の内容、態様及び程度その他諸般の事情をも総合して、団体行動権の実質的保障の見地から相当と判断される場合には、正当な組合活動として取り扱うべき場合があると考えられるのであって、当裁判所昭和四九年(オ)第一一八八号同五四年一〇月三〇日第三小法廷判決(民集三三巻六号六四七頁)の考え方は私の採らないところである。
四そこで、本件職場集会(一)、(二)につき具体的事情に即して考えてみるに、
1 原審の認定によると、(1) 本件職場集会(一)は、病院が作成した同年四月分の看護婦の勤務表が、従来なかった午後一一時から翌日午前八時までの深夜勤を導入し、午後四時から午後一一時までの夜勤の回数をも増加させたことに端を発したものであって、その後行われた職場交渉の経過を報告するとともにその後の対策を協議検討するため支部組合が外来看護婦を集めて行ったものであり、(2) 支部組合が本件職場集会(一)を午後三時四〇分から開催したのは、外来看護婦は正午から午後一時までの正規の時間帯には体憩時間をとることができず、実際に休憩時間をとることができるのが午後三時過ぎとなるためであり、また、終業後に保育所に幼児を引取りに行かなければならない者があることを考慮したためであった、(3) 本件職場集会(一)に参加した者はいずれもその時間に差し追った業務のない者であり、しかも途中業務につく必要を生じた者は中座して業務に就いた、(4) 本件職場集会
(一)の場所を元空腹時血糖室に選んだのは、ここが急患室の隣であって急患業務の必要が生ずれば直ちに対応できるとの配慮からであり、(5) なお、従来支部組合がこの時間帯に職場集会を開いても警告や注意を受けたことはなく、現に同年三月二八日午後三時三〇分頃から元空腹時血糖室で職場集会を開いたことについても警告等はされなかったというのである。
そうすると、本件の場合、支部組合としては病院の勤務表案等について直接利害関係のある外来看護婦の職場集会を開いて対策を協議する緊急の必要性があるところ、できるだけ多くの外来看護婦を協議に参加させるため事実上の休憩時間帯を選び、しかもいつでも急患業務に対応できる元空腹時血糖室を使用し、業務に支障のある者は中座するなどの配慮をしていたことが窺えるのであって、これらの事情を総合勘案すると本件職場集会(一)は正当な組合活動に当たるというべきである。
しかるに病院は、前例に反し、卒然として、原審の認定するような責任追求を暗示する警告書を交付したのであって、これに病院が外来看護婦に対し正規の時間に休憩を与えることができない勤務体制をとっていたことを併せ考えると、病院の右警告書の交付は、明らかに行き過ぎであり、支部組合及び全済労に対する支配介入となるものと考えられる。よって、この点に関する原審の判断は、結論において正当であり、論旨は理由がない。
2 原審の認定によると、(1) 本件職場集会(二)は、支部組合として昭和五〇年度春闘の山場においてその基本方針を協議し決定するため開催されたものであり、(2)本件職場集会(二)には、業務に差し支えのある外来看護婦らはもとより、病棟看護婦の中でも業務のある者は出席せず、また、集会中でも業務のある者は自由に退出していた、(3) 過去にも病院内で昼休み集会が開かれ、若干午後の労働時間に食い込むことはあったが、病院から警告や注意がされたことはなかったというのである。
そうすると、本件職場集会(二)は支部組合が同年度春闘の最終的な対処方針を決定すべき緊急の必要に迫られていた段階でされたものであり、しかも労働時間に食い込んだ時間は比較的僅少であるうえ、病院にとっては付属施設に過ぎないテニス・コートを使用し、病院の業務に支障のないよう最大限の配慮をしていたということができるから、本件職場集会(二)が組合活動として正当性を欠いたとは考えられない。
しかるに、病院は、ストライキが回避された翌日、前例に反して重大な決意をもって臨む旨記載した警告書を交付したのであるから、これが支部組合及び全済労に対する支配介入に当たるとした原審の判断は、結論において正当であり、この点に関する論旨も理由がない。

2012/06/07

ウィスコンシン州リコール選挙の報道を見た感想

  リコール選は、大統領選にはさほど影響はないという見方がある。というのは今日の読売新聞によると出口調査ではオバマ支持が52%とされているからである。PBSとCBSイブニングニュースの録画を見たが、どちらかで出口調査によると知事は共和党でも大統領はオバマという人が10%くらいいると解説していた。したがってウィスコンシンはさほど期待してない。勝負はオハイオ、バージニア、ノースカロライナ、フロリダといった前回オバマが獲ったが、もともとブッシュで勝っていた州でロムニーが勝てるかということだろ。
 しかし、州の反労働組合政策を後押しする影響はあると分析されている、AP通信によると、ウィスコンシンで新しい州法が発効してから、州の2番目の労組、米国州・郡・市職員同盟は、州で、そのメンバーのほぼ半分を失っている。文書は2011年3月と2012年2月の間に、63577から34942からに低下したという。http://seattletimes.nwsource.com/html/politics/2018367799_apusrecallunions.htmlだからスコット・ウォーカーはユニオンバスターの英雄なのだ。
 6月5日の投票でもカリフォルニアのサンディエゴとサンノゼで公務員の年金改革が支持された。
 インディアナ州に続いて、労働権州に移行する州が出てくることを期待している。ミシガン州、ニューハンプシャー州などを注目している。

2012/06/06

ウィスコンシン州リコール選ウォーカー勝利は公共部門労働組合の敗北を意味する

Walker , Scott GOP

1,331,076

53%

Barrett , Tom Dem

1,158,337

46%

6月5日のリコール再選挙は、世論調査どおり7ポイント差でウォーカー知事(共和)が勝利した。前回2010年にはウォーカーは113万票獲得し5ポイント差でべレット候補に勝っているが、票は上積みされている。

http://www.jsonline.com/news/statepolitics/unions-are-clear-losers-in-walker-victory-565l09i-157377275.html
 ウォーカー知事が公共部門労働組合バスターといわれるのは、次の政策を実行したためである。

団体交渉を賃金のみに制限する

賃上げは消費者物価指数上昇内に留める

消費者物価指数を上回る賃上げは住民投票による賛成を必要とする

労働協約の期限は一年単位とし、新協約が締結されるまで賃上げを凍結する

団体交渉単位認定投票を毎年行うこと

組合費チェックオフ制度の廃止

組合員は組合費を任意に支払えるように(任意に支払わなくてもよいように)すること

州公務員の人件費を総額で3億ドル以上削減するために、年金と医療保険を交渉の対象から外したのである。州公務員の年金と医療保険掛金の自己負担額を引き上げて州政府負担分を減額する。内訳は給与の5.8%を年金へ、12.6%を医療保険掛金に振り分けるというものである。

http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2012_2/america_01.htm

たんに団体交渉権の制限だけではない毎年交渉代表選挙を行うのである。組合は過半数の支持を失えばそこで団体交渉権は消失するのである。それだけに労働組合陣営は生き残りをかけた戦いであった。六月一日にはクリントン元大統領も民主党候補の応援にやってきた。今回九十万の署名で解職請求が成立しリコール出直し選挙に持ち込み、リコール選は今回が三回めだというが、現職知事が勝ったのは初めて。
 ロイターの記事でもいっているようにこの結果は民主党・労働組合の士気を挫くと考えられる。http://www.newsmax.com/Newsfront/wisconsin-recall-exit-polls/2012/06/05/id/441311
 勝因の一つがウォーカー知事が三千万ドルの選挙資金を集めたことと、日経などで報道されているが、ウィスコンシンは人口568万だから、兵庫県の558万とほぼ同じである。にもかかわらず一つの選挙のために24億円相当の資金を集めたというのはすごいと思う。
 ウィスコンシンが労働問題に進歩的な州であったことは、1911年に合衆国で初めて労働者災害補償制度をつくった州(連邦は1916年)であり、1959年に全米で初めて州公務員との労働協約を締結する権利を認め、最終的に賃金、年金、休暇時間を交渉する能力と権限を付与したことでも明らかなことである。特にウィスコンシン大学マディソン校という一流大学のある州都マディソンはベトナム反戦運動の拠点であったように、「マディソン人民共和国」と揶揄されるような、特別な都市との心証が強い。
 今回のリコール出直し選挙でも民主党のべレット候補が勝てたのは州都のあるデイン郡とまわりのいくつかの郡、ミルウォーキーなどで大半の郡はウォーカー知事が勝利した。ルーラルでは財政危機に際して州公務員の年金や保険のをカットすることを支持したということになる。http://www.jsonline.com/news/statepolitics/152346265.html
 ミルウォーキーの地元紙ジャーナルセンチネイルはウォーカーを支持していた。
 BSワールドウェイブを見たが団体交渉権の制限をめぐってのリコール選挙であることにはまったくふれずに、たんに大統領選の前哨戦としてのり報道に徹したのは偏りすぎている。

2012/06/05

いよいよウィスコンシン決戦

 ウィスコンシンは1959年アメリカで初めて州公務員の団体協約を合法化した州だか、団体交渉権の制限をめぐってウォーカー州知事のリコール投票騒ぎとなり、6月5日に投票が行われる。左右のイデオロギー対決なので重要な投票になるし、大統領選の前哨戦でもあるhttp://www.politico.com/news/stories/0612/77042.html  もちろんウオーカーの勝利を祈ります。世論調査ではリードしていると伝えられているが労働組合側は40万件の電話、30万軒の戸別訪問で攻勢をかけているので侮れない。少なくとも大島優子鉄板といわれる総選挙より重要な意味がある。でもそっちも関心がないわけではないので、録画はとっておく。

2012/06/02

カード 休憩時間 無許可組合集会 ビラ貼り等 三菱重工業事件 東京地裁昭和58年4月28日判決『労働判例』410号


要点-昼休み時間中の食堂前広場における無許可集会は正当な組合活動として許容されない
事件の概要-(協約の精神にもとる問題とされた事案は広範に及ぶので一部のみをの記載)
本件は原告組合が会社が組合事務所、チェックオフ、組合専従、時間内組合活動の便宜供与に関する協約等の期間満了を理由に、右各提供を拒否したこと等が、不法行為にあたるとして損害賠償と新聞紙上の謝罪文掲載を求めたものであるが、判決は請求を棄却した。
そのなかで昼休みの食堂前広場における無許可集会、ビラ貼り等について検討され、労働協約に違反し許されないとし、この問題が解決しなかったことを一つの理由として労働協約の更新が拒否されてもやむをえないとされた。つまり無許可集会、ビラ貼り等が正当な組合活動として許容されるものということはできないとの判断をとっている。ここでは問題を無許可集会、ビラ貼り等にしぼってとりあげる。
 被告会社は船舶、原動機、各種産業機械の製造・修理を行う。原告は日本労働組合総評議会全日本造船機械労働組合三菱重工支部で、五分会を有し、昭和48年に約560人を組織していた。被告会社には原告のほか全日本総同盟全国造船重機労働組合連合会三菱重工労働組合(重工労組)が昭和40年に発足し約七万五千人の組合員を擁していた。
 本件、便宜供与が拒否され、協約締結が更新されなかった重要な理由は労働時間の問題で、会社側の提案(週休二日制実施の前提として一日の労働時間を30分延長する)を拒否したことだが、広島精機製作所における下記のような協約の精神にもとる状況が改善されなかったことも理由の一つになっている。。
  当時の労働協約には、
「第二七条 組合員が次の各号の一に該当する場合はけん責に処する。……
5 事業所の許可なく事業所内又は施設(社宅及び寮の私室を除く)で集会、演説、放送、各種印刷物の掲示・貼付・配布、署名運動、募金その他これに類する行為をしたとき………」
と定められていた。被告会社においては職場秩序維持の必要から、生産の場である事業所内、施設内においては、政治・宗教活動はもちろんのこと、職場の安寧を損うおそれのある前記行為は原則としてこれを禁ずることとしており、現に過去においてこの種の行為を被告会社が事業所内、施設内で行うことを許可したことは一度もない。
 構内における組合活動もこの原則の例外ではなかつたが、組合活動については組合活動の実質的な保障と職場秩序との調和する合理的範囲において、労使間の慣行として一部例外的な取扱いが行われており、これをめぐって広島精機製作所(以下広機と略す)において次のような事件が発生した。
 (なお原告広機分会は昭和41年原告から一括脱退し名称を三菱重工広島精機労働組合に変更したが、単一組織への移行をめぐって内部対立が起き、昭和44年4月に解散して、約百名が重工労組へ、約30名が原告に加入していた)
 昭和四六年一〇月二一二値被告会社の許可

(ア) 無許可集会・演説の強行とこれに伴う暴力行為
 被告会社と原告との労働協約では、その第一〇条に「組合は、会社の了解を得て、会社の諸施設その他を利用することができる。……」と、会社施設利用に際しては会社の了解を要する旨を規定し、また各事業所においては、危険防止、職場秩序維持の必要から労使間で集会禁止場所等が慣行として定められ、各分会もこれを遵守してきた。
 広機は、極めて精密な工作機械を製作する事業所で、その作業の性格上作業者は作業中に高度の集中力を要求されるため、昼休みには完全に休養できる場所を確保する必要性が特に強かつた。そこで、広機においては、構内食堂及びその周辺の広場、芝生、植込みを休養の場所に当て、これらの場所における集会・演説・放送その他けんそうにわたるおそれのある行為を禁止することにより、社員に十分な休養を与えるよう配慮してきた。特に被告会社長崎造船所において複数組合が併存するようになつて以来、両組合間で拡声器の音量をあげての放送合戦、集会場所の奪い合いといつたトラブルが発生しており、そうした先例に鑑みても、やはり複数組合の併存する広機においては、食堂及びその周辺における組合集会等を禁ずる強い必要性があつた。
 しかるところ、広機分会は、昭和四四年四月二五日、広機の了解を得ることなく、昼休みに食堂内で春闘総決起集会を開催し、勤労課員の解散命令を無視してこれを強行した。
 広機は、直ちに広機分会幹部に抗議したが、広機分会は、開催場所については分会の自由だとの態度をとつたため、広機は更に同年五月七日付け書面をもつて広機分会に厳重抗議し、反省を求めた。
 同年六月に、広機分会から広機に対して、六月二八日昼休みに食堂前広場で総決起集会を開催したいとの書面による申入れがあつた。広機は同月二七日付け書面をもつて、食堂前広場での集会は許可できないが、組合事務所周辺の空地でなら差し支えない旨回答するとともに、その理由についても十分説明したが、広機分会はこれを無視して六月二八日の集会を食堂前広場で強行した。
 これに対し、広機は、前回同様直ちに広機分会幹部に抗議するとともに、広機分会に対しても同年七月一六日付け書面をもつて厳重に抗議し、広機分会の反省を促した。
 しかるに、広機分会には一向に反省の色はなく、かえつて広機の事前了解を求めることもなく集会を強行するようになり、同年一一月からは集会後にデモ行進を行うようになつた。更に翌昭和四五年四月ころからは大きな立看板を設置し、拡声器を使って休息中の社員に演説を行うようになつた。同年六月三〇日には、集会の中止を求めに行つた勤労課員に対し広機分会の幹部である者がのどを突き、あるいは突き倒す等の暴行を加え、負傷させるという事件も発生した。
 このような無許可集会は、昭和四四年には五件であつたものが、翌昭和四五年には一九件、昭和四六年五月末までには合計三一件を数えるに至つた。
 昭和四六年一〇月二一日、広機の食堂前において被告会社の許可を得ることなく拡声器を使って「佐藤内閣打倒、沖縄返還粉砕」等の演説を行うとともに同趣旨の演説を行うとともに同趣旨のビラを配布し、更には、被告会社の許可を得ることなく被告会社が使用していた掲示板にビラを掲示した。そして、これらを制止しようとした勤労課員に対し広機分会員が暴行を加えた。
 広機分会は、同年一一月一九日、昼休みに右食堂前において被告会社の許可を得ることなく集会を行い、拡声器を使って沖縄返還協定阻止等の演説を行った。更に同日二時五五分から三時五五分までの全員ストライキの際には、赤旗やプラカードを持ってシュプレヒコールをしながら構内デモ行進わ行って、他の従業員の正常な業務の運営を妨げた。そして、これを制止しようとした勤労課員に対して、広機分会員が暴行を加えた。
 広機分会は、右のほか同年九月から同年一一月の間に、無許可集会を二回、無許可のビラ掲示・貼付を五回行った。
  
(イ) 不当なビラ掲示・貼付の強行とこれに伴う暴力行為
 会社構内において、むやみにビラを掲示・貼付することは、美観を損ねることはもちろんのこと、生産能率面、災害防止面からも生産現場においては極めて不具合である。作業場の周辺に「オヤツ」というようなものがあり、それに気をとられたために作業ミスをおかしたり、けがをしたという事例は枚挙にいとまがない。生産会社においては、ハウスキーピングという担当者を特に決めて職場の整理整頓から環境整備まで非常に気を使つており、例えば工場見学者がある場合においては、時間・場所等を十分検討し、作業服に着がえてもらい案内員を置くなどできるだけ作業者の邪魔にならないよう配慮を行つている。
 右の事情からすれば組合は、ビラの掲示・貼付をどこにしてもよいということはできない。被告会社では、原告との労働協約の第九条で「会社は、組合が報道、告知及び教育宣伝のため、会社内所定の場所に掲示することを認める。」と定め、具体的には事業所・分会の協議により、作業場周辺でない例えば通路等に掲示板を設け、それ以外の場所へのビラの掲示・貼付は一切禁止してきた。
 当時、広機分会に対しては、組合分裂によつて二組合が併存するに至つたという経緯もあつて未だ掲示板を貸与しておらず、労使間で設置場所等について協議中であつたが、広機分会は、一方的に掲示物を現に使用中の他組合の掲示板や会社の掲示板に強行掲示し、広機の抗議を無視してこうした行為を繰り返していた。
 また、昭和四五年四月二三日、広機分会は一二時五五分から一五時五五分まで重点指名ストライキを行つたが、この際、正規の作業服を着用していないスト対象者が、広機の退去命令にもかかわらず、他の一般社員が作業している職場内をほうこうし、スト対象者の機械に「スト決行中」と大書した半紙大のビラを貼付した。勤労課員がこれを撤去しようとしたところ、そのスト対象者は大声でわめき、押す、突くなどの腕力をもつて妨害し、約三〇分間にわたり周辺で作業をしている多数の社員の正常な業務の運営を妨げた。
 更に、同月二八日一二時〇五分から翌二九日八時〇五分までの全員ストライキに際しては、広機分会組合員が、会社の禁止命令を無視して「スト決行中」なるビラを広機分会組合員使用の機械、器具、机上等に貼付し、これを制止しようとした勤労課員に対して広機分会執行委員長をはじめとする分会組合員数名が大声でわめきながら組み付き、実力をもって妨害した。ある勤労課員は三名の分会員によつて組み付かれ、首を絞められ、鉄製部品の上に押し倒されて負傷した。また、はち巻、腕章をつけた多数の広機分会組合員が工場内をほうこうしたため、一時間以上にわたつて職場の秩序が乱された。
 こうした広機分会による掲示板、機械、器具等への不当なビラ貼付事件は、昭和四四年四月から昭和四六年五月末日までの間に四四件発生するに至り、これに伴つて暴力行為も頻発した。
(ウ) 構内における不当なビラ配布の強行とこれに伴う暴力行為
 会社の構内におけるビラ配布は、職場の秩序を乱し、また、ときによつては職場における従業員の集中力を散漫にさせ、更にビラの内容によつては職場内に対立感情を持ち込ませる等の弊害が少なくないため、被告会社においては、構内におけるビラ配布それ自体を禁止することとしており、労働組合にもこの原則を適用している。しかし、組合が自らの組合員に対して組合機関紙及び連絡文書を構内において休憩時間中に配布することはなんら禁止していないし、また組合が不特定多数の者にビラを配布しようと思えば入場時又は退場時に門前で配布することもできるのであるから、構内におけるビラ配布を禁止しても組合活動上大きな支障をきたすことはない。
 こうした状況の中で、広機分会も従来は構内でビラ配布をすることはなかつたが、昭和四四年一〇月二一日に突如、休憩時間中に食堂前でビラ配布を開始した。そこで、広機は直ちに口頭で抗議したが、その後も数回にわたつて同様の行動を繰り返したので、広機は同年一一月一〇日付けの書面をもつて厳重抗議した。
 その後もたびたび同様の事件があり、昭和四五年四月一六日に理由を付した抗議文を広機分会幹部に手交し、話し合つた際には「会社の見解は理解できた。分会としても検討する。」との回答を得たが、その後も構内におけるビラ配布は繰り返され、その回数は昭和四六年五月末日までに二四回に及んだ。

判旨-要点のみ
「無許可集会、ビラの掲示・貼付、ビラの配付等について検討するに、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが使用者の権利の濫用と認められるような特段の事情がある場合を除いて正当な組合活動として許容されるものということはできないと解されるところ‥‥当時の原告と被告会社との労働協約は、一〇条において、組合は、会社の了解を得て、会社の諸施設その他を利用することができる旨定め、二七(二八)条において、組合員が事業所の許可なく事業所内又は施設(社宅及び寮の私室を除く)で集会、演説、放送、各種印刷物の掲示・貼付・配付、署名活動、募金その他これに類する行為をしたときはけん責に処する旨定めていると認められること‥‥事実関係に照らすと被告会社が原告に施設の利用を許さないことが権利の濫用にあたるとまで認めることはできず、右の無許可集会等は労働協約に違反し、許されないものであるということができる。

判決抜粋-無許可集会等は許されない
「‥‥本件便宜供与は、期間の定めのある労働協約に基づいて継続されてきたところ、労働協約は被告会社が期間満了に伴う更新を拒否したため失効し、原告は右便宜供与を受ける権利を失ったということができる。そして、このように労働組合が右便宜供与を受ける権利を失った以上、使用者が右便宜供与を打ち切ったとしても、原則として不当労働行為(支配介入)は成立しないとと解すべきである。しかし、使用者が組合を弱体化する意図の下に、労働協約更新を拒否したうえ、それに藉口して右便宜供与を打ち切ったと認められる特段の事情がある場合には、例外的に不当労働行為が成立すると解すべきである。そこで、本件が右のような例外的な場合にあたるかどうかについて判断する。
 ‥‥広機問題のうち‥‥各ストライキは違法であるということができる‥‥無許可集会、ビラの掲示・貼付、ビラの配付等について検討するに、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが使用者の権利の濫用と認められるような特段の事情がある場合を除いて正当な組合活動として許容されるものということはできないと解されるところ‥‥、原告と被告会社との労働協約は、一〇条において、組合は、会社の了解を得て、会社諸施設その他を利用することができると定め、二七(二八)条において、組合員が事業所の許可なく事業所内又は施設(社宅及び寮の私室を除く)で、集会、演説、放送、各種印刷物の掲示・貼付・配布、署名活動、募金これに類する行為をしたときは譴責に処することを定めていると認められること‥‥被告会社が原告に施設の利用を許さないことが権利の濫用にあたると認めることはできず、右の無許可集会等は労働協約に違反し許されないものであるということができる。更に‥‥構内への乱入や暴行等が許されないことは明らかである。そして、これらのことに、被告会社には労働協約を更新する義務はないことを併せ考えると‥‥会社が、原告に対して、広機問題について統制責任を問うとともに、3ヶ月ごとに労働協約を更新してきたが、広機問題は一向に解決しなかったので、このことを一つの理由として労働協約の更新を拒否したのも、やむをえなかったということができる」
 
本判決の意義
昼休みの無許可集会が組合活動の正当な行為と評価されなかった事案としては、全逓新宿郵便局事件 最高裁第三小法廷昭和58年12月20日『労働判例』421号、東京城東郵便局事件 東京地裁昭和59年9月6日判決『労働判例』442号があるが私企業の例として取り上げたものである。
食堂前の拡声器利用の演説が行われているが、都労連や全水道東水労の勤務時間内外の庁舎構内の集会でも拡声器が利用されているだけでなく、勤務時間内事務室内の頭上報告でも水道局では拡声器使用の例があるが、いっさい現場で中止命令もやらないということは私企業との比較でもいかに腐りきっているかということである。

2012/06/01

カード 無許可組合集会 全逓長崎中央郵便局事件 長崎地裁昭和59年2月29日判決『労働判例』441号カード  

国会終盤で突然、国家公務員労使関係4法案審議入りに動揺はしているが、私としてはまず職場の問題から片付けていく方針なので、無許可職場集会問題から一つ一つこつこつと積み上げていく、国政についても剣が峰に追い詰められたところから逆転を狙う方針に変わりないので気落ちすることなく頑張る。  

要点-無許可職場集会の解散命令は不法不当なものではない。

 本件は、労使紛争下の管理職に対する行為につき、暴行・傷害罪等が成立するとしたもだか、年末闘争中の無許可集会に対する解散命令が不法不当ないと評価がなされている。重要な判決ではないが、郵便局の掲示板のスト宣言文掲示、闘争期間中の集会の不許可、労務連絡官の動員による取り締まりといった、郵便局の労務管理のありかたがうかがえる判例として、掲載した。東京都水道局では掲示板に「闘争宣言」が掲出されても撤去しないし、闘争期間中の集会・示威行動も黙認されている点で、郵便局とは方針が正反対となってる。

事件概要(抜粋)-四十四年四月一七日(中略)被告人Y1(全逓長崎中央支部長)は全逓支部が掲示板に掲示したスト宣言文を当局が撤去したことに抗議すべく、局長室に組合員二十数名とともに押し入り、A次長および他の管理職数名が解散、退去を求めたのに対し怒り、N貯金課長をつかまえて廊下側の窓まで押していき、他二名の組合員と共同して同課長を抱き上げ、上半身を廊下側に逆さになるまで傾斜させ、もって数人共同して暴行を加え(多くの事件が列挙されるが中略)法内超勤につき、当局は三六協定ないし組合の同意なくしてこれを命じうるものとし、全逓はこれを不可とする立場をとっていたところ、四五年一一月二一日、全逓支部とのあいだに三六協定締結の交渉が行われている時間帯に、第二集配課副課長が支部員に法内超勤を命じたことから、紛議が生じ、支部組合員による抗議がなされたが、その際被告人Y1は、解散命令を発したC労務連絡官に対し、喉元を手指で突く暴行を加え、全逓支部は四五年一二月一日より年末闘争に突入し、同支部保険分会は、同日午後五時頃から、男子休憩室において、当局の許可を得ることなく、分会集会を開いた、五時二十五分頃、Y庶務課長が、無許可集会であることを理由に、解散を命じ、分会員がこれをとり囲んで抗議していたところ、被告人Y1があらわれ、同被告人は同課長に対し、腕組みした左肘で顎を一回突き上げる暴行を加え、さらに五時三十五分頃、A労働課長が加わり、再三にわたって解散命令を発したところ、被告人Y1は、腕組した姿勢で同補佐を押して数メートル後退させ、右肘で同人の股間を一回蹴る暴行を加え(後略)。

判決(抜粋)-被告人らの「本件有形力の行使は可罰的違法性に欠けるものはなく(以下略)」「労働組合又はその組合員が使用者との合意ないし許諾がないまま企業の物的施設を利用して組合活動を行うときは、これらの者に対して利用を許さないことが、当該物的施設につき使用者の権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合‥‥を除いては施設管理権に抵触するものであ」るから、「本件全逓支部の地下食堂及び地下男子休憩室の無届利用行為も、長崎中央郵便局長の庁舎管理権限を侵すものとして正当なものとすることはできず、これに対しM課長らが即刻解散等を命じたことは不法不当なものということはできない」

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