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2012/06/10

カード 無許可組合集会 済生会中央病院事件(中労委-東京地裁-高裁-最高裁二小)

済生会中央病院事件 最高裁第二小法廷平成元年12月11日判決民集43巻12号 1786頁『労働判例』552号(救済命令取消訴訟上告審判決)の意義について

争点 勤務時間内であるが事実上の休憩時間、業務に支障のない態様でなされた無許可組合集会に対する警告書交付は不当労働行為に当たるか

(要旨)

1 無許可組合集会に対する警告書交付は不当労働行為にあたらない。

 済生会中央病院事件最高裁判決は企業経営内の組合活動に関する指導判例である国労札幌地本事件最高裁判決の判例法理に拠って、元空腹時血糖室における午後3時40分~4時の2回の勤務時間内組合集会、テニスコートにおける12時30分~午後1時29分、12時30分~午後1時11分、12時30分~1時5分の三回に及ぶ昼休みを29分~5分超過し勤務時間に食い込む春闘集会に対する警告書交付について労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎないからから、病院(上告人)の行為が不当労働行為に該当する余地はないとして、原判決を破棄した。

 

2 「権利の濫用と認められる特段の事情」として、当該施設を利用する目的(とくにその必要性)等を総合考慮して判断する法益権衡論を明確に退ける。

 
 指導判例国労札幌地本ビラ貼り事件最高裁昭和54年10・30判決民集33巻6号647頁『労働判例』329号は、「労働組合又はその組合員が使用者の所有し管理する物的施設であってて定立された企業秩序のもとに事業の運営の用に供されているものを使用者の許諾を得ることなく組合活動のために利用することは許されないもの」であり許諾を得ない施設利用は「使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動として許容され」ないとする。
 本件原判決(東京高裁)もこの判例法理の枠組みで検討されているが、先例を逸脱して「権利の濫用であると認められるような特段の事情」を労働組合寄りに緩く解釈するのが特徴的であり、「いずれもその時期にこれを開催する必要性が認められること」等の集会の目的、必要性、態様等に照らすとこれら事情は右権利濫用と認められる特段の事情に該当するとしたうえ、警告書交付は威嚇的なものであるとして支配介入にあたると判示した。
 この判断は、無許可集会事案で「特段の事情」について、当該施設を利用する目的(とくにその必要性)等を総合考慮して判断する法益権衡論を主張した池上通信機事件最高裁第三小法廷昭和63年7月19日判決『労働判例』527号http://web.churoi.go.jp/han/h00282.htmlの伊藤正巳補足意見(結果的同意意見)に類似しているが、伊藤補足意見は少数意見にすぎず、多数意見はこの見解を退けており、したがって、原判決破棄は先例に沿った妥当な判決である。
 また、最高裁は日本チバガイギー事第二小法廷判決平成元年1月19日判決『労働判例』533号http://web.churoi.go.jp/han/h00308.htmlでも無許可集会事案で中労委の上告趣旨においる互譲調和論的な法益権衡論(「権利の濫用」を広く解釈し「労働者の団結権、団体行動権保障の趣旨からする施設利用の組合活動の必要性と、その施設利用により使用者が蒙る支障の程度との比較衡量により、両者の権利の調和を図ることが要請される。そして、使用者の施設管理権行使が右の調和を破るときには、権利の濫用があるといわなければならない」)を退けて「業務上ないし施設管理上の支障に藉口」するもので不当労働行為にあたる中労委の判断を違法と判示している。
 本件最高裁判決は、判例法理に拠れば「労働時間中に職場集会を開く必要性を重視して、それが許されるとすること」はないと断言しており、判例法理を変質させようとする意図のある、当該施設を利用する目的等を総合考慮して判断する法益権衡論を再度、明確に退けたものであって、指導判例の趣旨に沿った純法理的な判断をとったものとして評価できる。

3 勤務時間内の無許可集会は正当な行為とはされないのが原則であることを明確に示す。

 本件最高裁判決が「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。したがって、労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない。」「労働時間中に職場集会を開く必要性を重視して、それが許されるとすること」はないと断言したことは、指導判例である国労札幌地本判決が「労働組合が当然に当該企業の物的施設を利用する権利を保障されていると解すべき理由はなんら存しない」「利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用しうる権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない」とプロレイバー受忍義務説を明確に排除した趣旨から当然の帰結と考えるが、国労札幌地本事件がビラ貼り事案であったのに対し、本件が無許可集会事案であることがから、組合集会についてもこの判例法理が適用されることを再確認した点で大きな意義がある。
 本件テニスコート無許可昼休み集会は、勤務時間に食い込んでおり、休憩時間集会の判例とはいえないが、少なくとも本判決によって勤務時間内の企業施設内における無許可集会が正当な組合活動と評価されることはほとんどなくなったとみることができる。
 また、本件は警告書交付であるが、繰り返し行われた場合の懲戒処分も有効であることを示唆する判例といえる。ただし近年、組合旗無許可掲出事案であるが、光仁会病院事件東京高裁平成21年8月19日判決http://web.churoi.go.jp/han/h10253.htmlでは。組合分会長が108日間にわたって病院正門の左右に計4~5本、赤地に白抜きで「団結」等と記された組合旗を無許可で設置したこときは正当な組合活動ということはできず懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえないが、停職3 か月、その間、賃金不支給、本件病院敷地内立入禁止という処分は、懲戒事由(本件組合旗設置)に比して著しく過重であって相当性を欠くとして、組合活動に対する嫌悪を主たる動機としてなされたものとみなされら不当労働行為に該当すると判決された。最高裁第二小法廷は平成22年9月2日http://web.churoi.go.jp/han/h10310.htmlも上告を棄却している。
 したがって、正当な行為と評価されない組合活動に対し懲戒処分それ自体不相当でないとしても、過重な懲戒処分は不当労働行為とされる可能性があるので注意が必要である。

 
4 本判決の趣旨に反し、国労札幌地本判決の判例法理に従わない最高裁判例(国産自動車交通事件第三小法廷平成6年6月7日判決)の疑問

 本件は、組合活動に好意的な初審東京都地労委、再審中労委、東京地裁、東京高裁の計四審の判断を最高裁が覆したという意味でも、無許可集会事案の重要判例と考える。この判決の後、最高裁はオリエンタルモーター事件第二小法廷平成7年9月8日『労働判例』679号において、食堂の組合による集会等施設利用につき、本判決を引用したうえ、条件が折り合わないまま、施設利用を許諾しない状況が続いていることをもって不当労働行為には当たらないとしたことから、企業施設の組合活動の正当性を「許諾」と「団体交渉等による合意」に基づく場合に限定した国労札幌地本判決の判例法理が集会事案でも再確認された。したがって、下記のように無許可集会事案で5度にわたって最高裁が不当労働行為にあたらないとする判断を下していることにより(すなわち全逓新宿郵便局事件、池上通信機事件、日本チバガイギー事件、本件、オリエンタルモーター事件)国労札幌地本判決の判例法理は安定的なものと評価することに大筋で間違いはないと思う。
 ところが、国産自動車交通事件第三小法廷平成6年6月7日判決『労働法律旬報』NO.1349は国労札幌地本判決の論理を異なる事案として施設管理権に言及することなく、タクシー労働者を組織する「新協力会」が賃金のスライドダウンに反対するため無許可で会社構内(空地)を約三時間半にわたって占拠して開催した臨時大会(出番者も多数参加)に対して、会社が幹部を懲戒解雇した事案で、違法な争議行為あるいは組合活動ではないとして、解雇を無効とした東京高裁平成3年9月19日判決(前記『労働法律旬報』所収)の判断を是認している。
 高裁の判断は、本件は就労を予定していた者(出番者)も多数参加したことから、実質ストライキであり、構内を無断で使用したことは責任を免れないとしても、それにより大会開催によるストライキが違法にはならないというものである。
 なるほど出庫車の妨害など違法なピケッティング、業務阻害がなかった点など、ストそれ自体の違法性はないとしても、ストライキであるなしにかかわらず、会社の施設管理権の侵害が法益権衡によって正当化されるというのは疑問である。実際、JR東海(大阪第三車両所)事件 大阪地裁平成12年3月29日判決『労働判例』790号http://www.zenkiren.com/jinji/hannrei/shoshi/07533.htmlは、ストライキ開始前に会社施設に会社施設への入構・滞留することは、施設管理権の侵害にあたるかが争われ、争議行為中の会社施設への立入等を禁止した労働協約及び、および、会社施設での組合活動を禁じた就業規則が存在する本件においては、組合員らの会社施設内への入構及び右施設における滞留は、右施設管理権を違法に侵害する行為であるとされ、また、組合員らの入構を拒否した等の被告の措置は右施設施設管理権の濫用にも当たらないとしているのであり、ストライカーの入構拒否は施設管理権の行使として当然のものと思われるし、業務を阻害してないからといって施設構内の集会が違法でないというのは法的評価は納得できるものではない。
 国産自動車交通判決は、施設管理権絶対の判例に風穴を開けたと評される(鴨田哲郎「組合大会による会社施設利用の正当性」『労働法律旬報』NO.1349)が、この事件の「新協力会」は臨時大会開催当日まで親睦団体で労働組合ではなかったとされるから、組合結成の自由にかかわるものであること、会社に施設管理権に関する就業規則もなく、過去、親睦団体として集会が十年間に三十数回会社を認めていたこと、構内といっても空地であったこと、懲戒処分が解雇という厳しいものであったことからすれば、特殊な事例のようにも思える。国労札幌判決を無視したといっても判例を覆したものではなく。大勢に影響するほどの過大評価をする必要はないだろう。
 判例の大勢は下記の表の左側にあるとみて、大筋で間違いではない。

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(要旨-補足) 上記要旨を若干敷衍したもの

 社会福祉法人恩賜財団済生会は明治天皇の『済生勅語』によって、皇室よりの下付金により明治44年に伏見宮貞愛親王を総裁とし、桂太郎総理が会長となって創設された。第五代総裁は六月六日に薨去された寛仁親王殿下であった。全国各地に支部をおいて、事業経営を分担せしめ、本部は各支部の運営事業について企画、指導、連絡の任に当っている。社会福祉法人恩賜財団済生会支部東京都済済生会中央病院(以下「病院」という。)は、本部の一支部である東京都済生会が経営する病院であり、独立採算制による事業体であって、その責任において労務管理をなしているものである。病院は大正4年北里柴三郎を院長として発足し、芝赤羽橋に所在する。事件当時500名を雇用、現在はホームページによると916名の常勤職員を擁する。
 全済生会労働組合(以下「全済労」という。)は、社会福祉法人恩賜財団済生会関係の従業員が組織する28 の労働組合をもって構成する連合体の労働組合である。全済生会労働組合中央病院支部(以下「組合」という。)は、病院及びその付属施設の従業員約120 名(初審結審時)が組織する労働組合である。病院には上記組合のほか、本件申立外済生会中央病院労働組合があり、その組合員は約260 名(中労委結審時)があるが、 昭和50 年5 月12 日、病院の一部従業員が、組合の指導方針並びにその行動に基本的に全く賛同し得ないので、袂をはっきり分つとして結成したものだが、ここで取り上げる無許可集会の警告交付は組合分裂以前の事案である。

 本件は、(1)組合の職場集会について、「警告書並びに通知書」を発したこと、(2)争議行為について、「警告書並びに通知書」を発したこと、(3)婦長及び医長が、組合員に組合からの脱退を勧誘したこと、(4)チェック・オフを中止したこと、(5)新賃金の支給を別組合より遅らせたこと等について救済を申立した事案で、初審東京地労委昭和52年 3月 1日命令http://web.churoi.go.jp/mei/m00938.htmlは、病院に対し、(1)「警告書並びに通知書」の撤回、(2)組合脱退勧誘の禁止、(3)チェック・オフの再開を命じ、また、社会福祉法人恩賜財団済生会及び病院に対し、これらについてのポスト・ノーティスを命じるとともに、その余の申立について棄却した。また、中労委昭和54年12月 5日命令『労働判例』335http://web.churoi.go.jp/mei/m01277.htmlも再審査申立を棄却し、初審命令を維持したところ、済生会及び病院は、これを不服として55年1月26日、東京地裁に行政訴訟を提起したが東京地裁は、請求棄却(一部却下)の判決を下した。

 ここでは(1)の組合職場集会にたいする「警告書並びに通知書」を発したことが、不当労働行為に当たるかという争点に絞ってとりあげる。

 警告書が交付された集会とは2件の事実である。

1 元空腹時血糖室での勤務時間内の集会二回

第一は看護婦の勤務表の変更に対し、二回の勤務時間内の職場集会(平成50年4月2日と3日午後3時40分から4時)を開き、急患室勤務拒否についての報告と今後の対応を話し合った。そして、急患勤務の看護婦の増員を要請した。この職場集会は、看護婦の勤務状況を考慮し、ために時間内というかたちをとり、かつ休憩室ではなく勤務配置場所である元空腹時血糖室でなされ、参加者は業務に支障のないかたちで対応した。この職場集会につき、病院側が、数日後「警告ならびに通告書」を支部組合に発した。従来、勤務時間中の職場集会を無届・無許可で行っても病院から何らリアクションはなかった。

2 テニスコートにおける昼休み職場集会三回(勤務時間に5~29分食い込む)

第二の件は、テニスコートにおいて賃金をめぐって支部組合が三日間(昭和50年5月6日、7日、9日)にわたり、昼休み時間の12時30分より、昼休みを超過して勤務時間にくい込んだ(各々29分、11分、5分)集会が行われ、10日に同じく病院側が、「警告書」交付した。

警告書並びに通告書4月5日
「このような集会を勤務中に行うことは労働協約第9 条(就業時間中組合活動の禁止)ならびに就業規則第23 条(職務専念義務)、第24 条(規則を守る義務)に違反する行為であります。……今度かかる行為を絶対に繰返さないよう、ここに厳重に警告しておくとともに責任追及の権限を留保しておく……。」
警告書5月10日
「………業務を放棄し、………多数の組合員を対象に………集会を行ったことは、労働協約第9 条並びに就業規則第23 条、第24 条に違反する不当な行為である。………この件については、4 月5 日………病院見解を明らかにしたように責任追及の権限を留保する。かかる行為を今後も繰返し行った場合は、病院として重大な決意をもって臨むことをここに正式に通告しておく。」

 東京地裁昭和61年1月29日判決『労働判例』467号は、第一の集会について事実上の休憩時間と目される時間帯に、業務や急患への対応に配慮された方法で行われた無許可集会等について、現実に業務に支障を生じていないから、「特段の事由」に当たるとして、この集会への警告を不当労働行為とする東京地労委・中労委の救済命令を支持した。
第二の集会については「労働者や労働組合が使用者の許諾なく当然に使用者の施設を利用し、また就業時間中組合活動を行い得るものではなく、使用者が労働者らの就業時間中の施設を利用しての集会に対し中止を求める等の措置を採ることは権利の濫用と認められる特段の事情のない限り許さるものとていうべき」という国労札幌地本ビラ貼り事件・最高裁昭和54年10・30第三小法廷判決民集33巻6号647頁『労働判例』329号の判例法理の枠組みに基づいて検討しながら、「集会の目的、必要性、態様等に照らすとこれら事情は右権利濫用と認められる特段の事情に該当するものというべく、本件昼休み集会をもって違法ということはできず、しかもこれら集会に対する原告病院の支部組合に対する警告書は重大な決意をもって臨む旨記載され原告病院として今後の行為に対しては処分をもって臨む強い姿勢を示す威嚇的なものであって、右集会の目的、態様に比し相当性の範囲をこえる」として、この集会への警告を不当労働行為とする東京地労委・中労委の救済命令を支持し、済生会の請求を棄却、控訴審東京高裁も控訴を棄却した。
 つまり初審・再審・一審・控訴審の判断は無許可集会の警告を支配介入であるとしたのであるが、最高裁は、四審の判断を覆し、病院側の権利の濫用と認められる「特段の事情」があるとは解されないとして、本件警告は労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎないから不当労働行為に該当する余地はないとして、原判決を破棄した

 上告審判決は、企業施設における組合活動の指導判例である国労札幌地本事件最高裁判決の判例法理に沿った妥当な判断として評価できる。
 国労札幌地本判決は戦後プロレイバー労働法学のきわめて悪質な学説のひとつ「受忍義務説」を明確に排除し「労働組合又はその組合員が使用者の所有し管理する物的施設であって定立された企業秩序のもとに事業の運営の用に供されているものを使用者の許諾を得ることなく組合活動のために利用することは許されないもの」であり「その利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであつて、正当な組合活動として許容され」ないとするものである。
 問題は、最高裁が判示した『その利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情』という判断基準の法的評価であった。
 この点、昭和五四年判決が言い渡された当時、『権利の濫用と認められるような特段の事情』は最高裁のリップサービスに過ぎないだろう、現実には濫用と認められるものはほとんどないだろうと考えられ、労働組合に大変厳しい判決と受け止められた。
 学説では『権利の濫用』とは不当労働行為を意味するという理解がある。横井芳弘は「施設利用の組合間差別」(「組合活動と施設管理権」『中央労働時報』660号)下井隆史は「使用者側にはっきりとした反組合的意図がある場合」(「労働組合のビラ貼り活動に関する再論」『判例タイムズ』407号)
しかし最高裁は具体的に何を基準として『権利の濫用』となるのかは明らかにしていない。従って判例の累積で、具体的にどの程度のことか理解するほかない。

 この判断基準に挑戦したのはまず、池上通信機事件 最高裁第三小法廷昭和63年7月19日判決『労働判例』527号 http://web.churoi.go.jp/han/h00282.htmlで、結論同意の補足意見を記した伊藤正己裁判官だった。この事件は組合結成以来、工場の食堂を会社の許可を得ないで職場集会のために使用してきたことに対して、職制による阻止、説得、組合に対する警告等が不当労働行為にあたるかが争われた救済命令取消訴訟で、不当労働行為にあたらないとした横浜地裁判決を支持したものだが、伊藤正己裁判官補足意見を要約すると「原判決は、その措辞からみて、労働組合又は組合員が使用者の所有する物的施設を利用して行う組合活動の正当性の判断について厳格すぎる感は免れないけれども、その結論は正当であるから、本件上告はこれを棄却すべきである」というものだが、「特段の事情」については「特段の事情があるかどうかについては、硬直した態度で判断するのではなく企業内組合にあっては当該企業の物的施設を利用する必要性が大きい実情を加味し、労働組合側の当該施設を利用する目的(とくにその必要性、代替性、緊急性)、利用の時間、方法、利用者の範囲、労働組合によって当該施設が利用された場合における使用者側の業務上の支障の有無、程度等諸般の事情を総合考慮して判断されるべきもの」という法益権衡論を展開し、これは違法性阻却説とみなされている。(渡辺章『労働法講義 下 労使関係法・雇用関係法Ⅱ』信山社2011 184頁)
 明らかに、先例を変質させる意図があり組合活動を支援するサイドのものである。しかし、それは伊藤裁判官単独の少数意見にとどまるものであって最高裁自体はこれを退けている。
 次いで、この判断基準に挑戦したのが中労委であった。日本チバガイギー事件 最高裁第一小法廷平成元年1月19日判決『労働判例』533号)http://web.churoi.go.jp/han/h00308.htmlは午後五時からの食堂使用および屋外集会(終業時刻が工場は午後五時、本部部門は午後五時四五分の開催の不許可は施設管理権行使の範囲内にあり、不当労働行為にあたらないとする東京地裁判決を支持するものだが、これは集会不許可は「業務上ないし施設管理上の支障に藉口」するもので不当労働行為にあたる中労委の判断を否定したものであった。中労委は上告趣旨で「労働者の団結権、団体行動権保障の趣旨からする施設利用の組合活動の必要性と、その施設利用により使用者が蒙る支障の程度との比較衡量により、両者の権利の調和を図ることが要請される。そして、使用者の施設管理権行使が右の調和を破るときには、権利の濫用があるといわなければならない」と述べ、『権利の濫用と認められる特段の事情』をまるでプロレイバーの互譲調和論のような法益権衡論を導入を主張したのである。これも、悪質なもので、国労札幌地本判決の判例法理に風穴をあけ変質させようとする意図がある。最高裁は「特段の事情」に法益調整比較衡量の基準を持ちこむことを再度否定したのである。
 本件、東京地裁判決は第二の警告書交付について「集会の目的、必要性、態様等に照らすとこれら事情は右権利濫用と認められる特段の事情に該当するものというべく、本件昼休み集会をもって違法ということはできず」と判断しているが、これは池上通信機事件で少数意見にすぎなかった伊藤補足意見の違法性阻却説に依拠した判断で、先例に反するものであることは明らかであるから、最高裁が容認しないのは当然である。
 最高裁判決は端的に警告書交付について「労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為是正を求めるものにすぎない」から不当労働行為に当たらないと判示しているからこの企業秩序定立権ともいえる使用者の権利を掣肘するような法益調整論は明確に退けたのである。
 つまれり最高裁は無許可集会事案で、池上通信機、日本チバガイギー、済生会中央病院と3度にわたって「特段の事情」に法益権衡論を持ち込もうとする挑戦を退けたこととなり、判例法理は安定したものとなったと評価できるのである。
 本件の昼休み集会は、若干勤務時間に食い込んでおり、休憩時間についての判例とはいいにくいが、少なくともこの判決によって勤務時間中の企業施設内の無許可集会が正当な組合活動とみなされる余地はなくなったと解釈できそうである。(ただしこれに反する判例として国産自動車交通事件があることは、要旨の4で述べたとおり)

済生会中央病院事件 中労委昭54・12・5命令『労働判例』335号 http://web.churoi.go.jp/mei/m01277.html

  要点-無許可職場集会に対する警告書の交付は不当労働行為にあたる

認定した事実
職場集会に対する警告
(1) 昭和50 年4 月5 日付「警告並びに通告書」交付について① 病院は、従来から急患室の看護婦不足を補うため、アルバイト勤務と称して外来看護婦の応援を求め、毎月末に翌月の勤務表を作成して当該外来看護婦の合意の下にその勤務表に従った勤務を割当てていた。
② ところが、看護婦不足が甚だしくなった昭和50 年3 月には、従前の勤務態様では看護婦のやりくりがつかず、いつもは毎月25 日頃に作成される勤務表がこの月は27 日に作成された。その内容は、外来看護婦に対して、従来なかった深夜勤を導入し、また夜勤回数を増やすものであった。
③ この勤務表に基づく外来看護婦の勤務は、本来アルバイトであったから、事前に申出れば勤務しないことができる建前のものであったが、勤務表がいったんできあがれば大体その通り勤務していた。
④ 3 月28 日午後3 時半から4 時までの間、外来勤務員20 余名が急患室に隣接した元空腹時血糖室に集まり、上記勤務表に関する事情調査のための集会を開き、その結果、組合は病院に対して同勤務表について抗議した。
⑤ 4 月1 日、病院は同勤務表を修正した。
⑥ 組合は上記の経過報告とその後の対策協議のため、翌2 日及び3 日の午後3時40 分から4 時までの間、前記元空腹時血糖室で集会を行い、三交替に必要な急患室の看護婦の増員を要求することを決定し、その旨を病院に要求した。
⑦ 4 月5 日、病院は組合に対し、上記⑥の集会について「このような集会を勤務中に行うことは労働協約第9 条(就業時間中組合活動の禁止)ならびに就業規則第23 条(職務専念義務)、第24 条(規則を守る義務)に違反する行為であります。……今度かかる行為を絶対に繰返さないよう、ここに厳重に警告しておくとともに責任追及の権限を留保しておく……。」との「警告並びに通告書」(以下「警告書」という。)を交付した。
⑧ なお、上記⑥の集会に参加した外来勤務員は、その勤務の性質上、一斉に昼休みをとることはできず、各職場の繁忙及び各勤務員によって異なるが、外来業務の終了する午後3 時過ぎになって昼休み相当の休憩時間がとれる場合が多く、各種集会も従来から概ねこの時間帯に行われていた。本件集会も、この時間に業務のない者が集まり、急患室に業務が発生すれば直ちに対応できるよう急患室に隣接する元空腹時血糖室で行われ、現実に業務に差支えがあったことは具体的に認められない。
また病院が、従来からこの時間帯に行われていた組合の集会について、上記のような警告書を発した例は認められない。
(2) 昭和50 年5 月10 日付「警告書」交付について
① 昭和50 年3 月3 日、組合は病院に対し、4 月1 日から基本給の25%プラス一律一万円の賃上げその他を要求し、同月20 日までに回答を求めたところ、病院は回答期限の延期を求め、さらに同要求について組合からあった4 月1日から17 日までの5 回にわたる団体交渉の申入れに対しても検討中等を理由にこれに応じなかったが、同月21 日病院発行の「労務情報」を全従業員に配布して24 日に有額回答を行う旨を公表し、同24 日組合と団体交渉を行ったうえ、賃上げについて平均11,268 円、賃上率10.41%を「最初にして最後の回答」として組合に提示した。
② 組合は同回答を不満とし、4 月30 日の団体交渉においてこれを拒否したところ、病院は5 月6 日の団体交渉において組合が争議行為を行わないことを条件として上記回答に一律2,000 円の上積みと看護婦の夜勤手当の増額を認めたが、組合はこれをなお不服とし、同日午後6 時から時間外勤務、宿日直拒否闘争に入ることを病院に通告したので、病院は上記上積回答を撤回し、翌7 日「労務情報」を全従業員に配布して「平和的解決の条件拒否さる」との見出しのもとに上記経過を公表した。
③ 組合は5 月8 日団体交渉を行ったが、病院から前記上積回答の再提案を受けたのみで交渉は進捗しなかった。同日組合は翌9 日に予定していたストライキを回避して交渉を続け、結局5 月28 日上記上積回答を承認して受諾するに至った。
④ この間、組合は5 月6 日、7 日、9 日の各12 時30 分から病院構内で春闘集会を開いたが、いずれも就業時間の午後1 時を過ぎ、6 日は29 分、7 日は11分、9 日は5 分を超過した。病院は5 月10 日組合に対し、上記集会について「………業務を放棄し、………多数の組合員を対象に………集会を行ったことは、労働協約第9 条並びに就業規則第23 条、第24 条に違反する不当な行為である。………この件については、4 月5 日………病院見解を明らかにしたように責任追及の権限を留保する。かかる行為を今後も繰返し行った場合は、病院として重大な決意をもって臨むことをここに正式に通告しておく。」との「警告書」を交付した。
⑤ なお、過去の闘争時に若干就業時間にも食い込む昼休み集会が開かれたことがあるが、これに対して病院が警告や注意をしたことはなかった。さらに病院は、この集会の超過時間を厳格に3 日にわたって測定しながら、その間一度も注意をしていなかった。また、集会参加者は業務に差支える場合は自由に退出し、現実に業務に支障があったことは認められない。

判断
2 職場集会に対する警告について
本部及び病院は、昭和50 年4 月5 日付「警告書」交付及び同年5 月10 日付「警告書」交付について、就業時間中は職務専念義務があり、具体的な業務の支障の有無にかかわらず、使用者の許容がない限り、組合活動を正当になし得ない。また、「警告書」交付は使用者の表現の自由の範囲内であり、かつ、対抗行為として許されるものであり、とくに5 月10 日付「警告書」は、4 月5 日付同文書で警告したにもかかわらず再度、時間内集会をもったため交付したものであり、しかも単に警告したに止まり、何らの処分もしていないのに、これを過重なものであるとした初審判断は納得し難いと主張するので、以下これについて判断する。
(1) 昭和50 年4 月5 日付「警告書」交付同年4 月2 日及び3 日の職場集会は、前記第1 の3 の(1)の⑥認定のとおり、就業時間中に行われたものである。しかしながら病院では、外来勤務者の勤務の特殊性から所定の昼休みが十分とれないため、従来からおおむね外来患者がいなくなる午後3 時過ぎ頃、昼休み相当時間として休憩をとることを認めていた。本件職場集会もその時間帯に行われたものである。さらに従前からこの時間帯を利用して行われた各種集会に対して病院は、上記事情を考慮してか、格別の警告をすることなく黙認していた。してみると、本件職場集会が、就業時間中の組合活動として職務専念義務に反するとする本部及び病院の主張をそのまま採用することはできない。これに加えて、外来看護婦の勤務の変更に対処するため緊急に開催する必要があったものであること、場所も急患業務の発生に備えて、急患室の隣を選ぶなど、業務に支障をきたさないよう配慮されていることなどの事情を考え併せると、正当な組合活動の範囲を逸脱したものとは認められない。したがって、病院がこれに対して、前記第1 の3 の(1)の⑦認定のような「警告書」を発したことは、組合に対する支配介入といわざるをえない。
(2) 同年5 月10 日付「警告書」交付
同年5 月6 日、7 日、9 日の職場集会は、前記第1 の3 の(2)認定のとおり、組合の昭和50 年度の賃金引上等の団体交渉が難航し、要求貫徹のため争議行為に入るなど、いわゆる争議時に開催されたものであること、また、当初から就業時間中に開催されたものでなく、就業時間内に多少食い込んだものであったこと、過去において闘争時に若干就業時間に食い込む昼休み集会が行われていたが、病院が、これに対して警告や注意をしたことはなかったことなどが認められる。
もっとも、組合にとって集会を開催する必要性があり、従来このような集会が黙認されていたことがあったとしても、もともと就業時間中の組合活動は使用者の了解を得て行い得るものであるから、本件のように全く了解の手続きもとらずに行った場合、使用者が再発を防止する意図で何らかの注意あるいは警告を発したとしても、これを不当とはいえない。しかし、本件「警告書」は、突然に「責任追求の権限を留保する………病院として重大な決意をもって臨む」など、処分を暗示した厳重なものであるから、再発防止のための警告というより、春闘の大詰という労使対立のなかで、威嚇的言辞を用い組合員の動揺をねらったものといわざるをえない。
よって、上記(1)及び(2)の病院の行為は、不当労働行為であるとした初審判断は相当である。

済生会中央病院事件(東京地裁昭和61年1月29日判決『労働判例』467号http://web.churoi.go.jp/han/h00805.html

(判旨)-本件職場集会は違法でない 警告は不当労働行為にあたる

昭和50年4月5日の警告について
「本件各集会は原告病院が外来看護婦の急患室勤務の負担を加重する勤務表を作成したことに端を発し‥‥職場内で協議する必要から開かれたものであって、その開催された時間帯も事実上休憩時間と目される時間帯であり、業務や急患に対応しうるように配慮された方法で行われ、現実に業務に支障が生じていないこと、従来本件と同様の態様でなされた集会について原告らは何ら注意を与えていないことが認められ、これら事情は、本件集会が就業時間後に開催しなかったのが外来看護婦の中に保育の必要性がいた者がいたにすぎないものであったとしても、なお前記の特段の事由に該当するものというべきであり、本件職場集会をもって違法ということはできない。そして、これら本件集会の右の目的、必要性、態様等に照らし原告病院の行った警告の内容は責任追及を暗示するものであって相当性の範囲をこえ、表現の自由の範囲外である」

昭和50年5月10日の警告について
「‥‥労働者や労働組合が使用者の許諾なく当然に使用者の施設を利用し、また就業時間中組合活動を行い得るものではなく、使用者が労働者らの就業時間中の施設を利用しての集会に対し中止を求める等の措置を採ることは権利の濫用と認められる特段の事情のない限り許さるものというべきことは前説示のとおりであり、本件各昼休み集会はいずれも就業時間中にマイクを使用して原告病院の施設を利用しているものであるが、本件昼休み集会はいずれも昭和五〇年の賃金引上げ等のま団体交渉が難航している最中に行われたものであって、集会がこの時期にもたれることに十分な理由があったこと、集会は原告病院の施設を利用するものではあるが、それはテニスコートであって病院業務に直ちに影響を及ぼす場所とはいえないこと。また集会は就業時間中に開かれたとはいうものの、昼休み時間内に終了せず偶々就業時間に食い込んだものであって、その程度も大幅でないこと、また集会参加者は業務にに支障のない者であり、途中支障があれば自由に退出できるなど業務の影響を配慮むしていること、過去かような集会に対し原告病院が注意等を与えたことがないこと等右集会の目的、必要性、態様等に照らすとこれら事情は右権利濫用と認められる特段の事情に該当するものというべく、本件昼休み集会をもって違法ということはできず、しかもこれら集会に対する原告病院の支部組合に対する警告書は重大な決意をもって臨む旨記載され原告病院として今後の行為に対しては処分をもって臨む強い姿勢を示す威嚇的なものであって、右集会の目的、態様に比し相当性の範囲をこえるものといわざるを得ず、表現の自由の範囲外であることも明らかである。」

判決(抜粋)-無許可集会の警告書交付は支配介入と判断し不当労働行為にあたる

(一)昭和五〇年四月五日付警告書の交付について

(1)原告病院は、従来から、急患室の看護婦不足を補うため、アルバイト勤務と称して外来看護婦の応援を求め、毎月二五日頃に翌日の勤務表を作成して、当該外来看護婦にその勤務表に従った勤務を割り当てていた。
 この勤務表は外来看護婦が事前に都合を申し出ない限り、当該外来看護婦の同意を得ることなく、一方的に作成し、しかも一たんできあがってしまうと概ねその通りの勤務に服するのが実情であった。
(2)原告病院では、昭和五〇年三月頃看護婦不足が甚だしくなり、看護婦の遣り繰りがつかなくなったことから同年四月分の勤務表の作成が遅れ、しかも同年三月二七日になって作成された勤務表には、従来外来看護婦になかった午後一一時から翌日午前八時までの深夜勤が導入され、また午後四時から一一時までの夜勤の回数も増加した勤務が予定されていた。
 外来看護婦の通常の勤務時間は午前八時から午後四時までとなっているところ、深夜勤を行い翌日外来の通常勤務を行えば午後一一時から翌日午後四時までの勤務となって過重なものむになる可能性があった。
(3)そこで支部組合は、昭和五〇年三月二八日午後三時二八日午後三時三〇分頃から、右勤務表について協議するため、外来看護婦ら二十余名を急患室に隣接した元空腹時血糖室に集めて職場集会を開いた。
(4)その後同年四月一日、原告病院は支部組合との間で労働協議会を開催した。その席上、原告病院は外来看護婦の急患室勤務はアルバイトであることを確認した。これに対し支部組合は任意に右勤務表に応ずることはできないと主張し、右勤務表に基づく急患室勤務を拒否することとした。
(5)次いで支部組合は、原告病院が病棟看護婦を急患室勤務に補充する動きを示したこともあって、同月二日及び三日いずれも午後三時四〇分から元空腹時血糖室でこれまでの経過報告とともにその後の対策を協議するため、外来看護婦らを集めて、職場集会を開き検討した。
(6)そうして、支部組合は、同月三日付で原告病院に対して三交替勤務に必要な急患室勤務の看護婦の増員を要求した。
(7)これに対し、原告病院は、同月五日、支部組合に対し、本件命令第一3(1)⑦記載のとおりの「警告並びに通告書」を交付した。
(8)支部組合が右四月二日、三日の集会をいずれも就業時間内である午後三時四〇分から開催したのは、外来看護婦ら外来関係の勤務者については午前中の診療が正午までに終わることはなく、通常の正午から午後一時までの昼休みが現実にはとれず、結局午後の診療が一段落し休憩時間のとれるのが右午後三時すぎであったことからこの時間に行うことにしたのであり、また終業後とする外来看護婦の中に保育所に幼児を引き取りに行かなければならない者もいたことを考慮したためである。そしてこの集会に参加した者はいずれも園次官に業務のない者であり、しかも途中業務の発生した者は中座して業務に就いているのである。また集会の場所を元空腹時血糖室に選んだのも、ここが急患室隣りであって急患室業務の必要が生じれば直ちに対応できるとの配慮からであった。
なお支部組合が右各集会を開くにあたって原告病院に届け出たり許可を得たことはないが、従来この時間帯にこのような届出も許可もなく集会を開催しても、原告らから警告や注意を受けたことはなかった。
 以上の事実を基礎に検討するに、本件各職場集会はいずれも勤務時間中に原告病院に届け出ることもなくその施設を利用して行われたものであって、いずれも支部組合が原告らの許諾なくなし得るものではなく、これら集会に対し使用者は権利の濫用と認められる特段の事情のない限りその中止を求めたりすることができるものと解するを相当とする。そこで、本件にそのような特段の事由が存するか否かについて検討するに、本件各集会は原告病院が外来看護婦の急患室勤務の負担を加重する勤務表を作成したことに端を発し、四月一日時点で原告病院との間で一応の決着はみたもののなお原告病院側の対応をめぐって職場内で協議する必要から開かれたものであって、その開催された時間帯も事実上休憩時間と目される時間帯であり、業務や急患に対応しうるように配慮された方法で行われ、現実に業務に支障が生じていないこと、従来本件と同様の態様でなされた集会について原告らは何ら注意を与えていないことが認められ、これら事情は、本件集会が就業時間後に開催しなかったのが外来看護婦の中に保育の必要性がいた者がいたにすぎないものであったとしても、なお前記の特段の事由に該当するものというべきであり、本件職場集会をもって違法ということはできない。そして、これら本件集会の右の目的、必要性、態様等に照らし原告病院の行った警告の内容は責任追及を暗示するものであって相当性の範囲をこえ、表現の自由の範囲外であること明らかであるというべきである。そして、右警告書の交付をもって支部組合及び全済労に対する支配介入と判断した被告の認定に誤りはなく、原告済生会の主張は理由がない」

(二)同年五月一〇日付け警告書について

(1)支部組合は、昭和五〇年三月三日、原告病院に対し、同年四月一日から基本給の二五パーセントに一律一万円を加えた加えた賃上げその他を要求し、同月二〇日までにその回答を求めた。原告病院は回答期限の延期を求め、さらに同要求についての支部組合から団体交渉の申し入れに対しても検討中を理由にこれに応じず、同月二四日に至り支部組合から団体交渉を行ったが、賃上げについて平均一万一二六八円賃上げ率一〇・四一パーセントを最初にして最後の回答と表現して支部組合に提示した。
(2)支部組合は原告病院の右回答を不満とし、同月三〇日の団体交渉において支部組合が争議行為を行わないことを条件として二〇〇〇円の上積みと看護婦の夜勤手当の増額を認める案を提示したが、支部組合はなお不服として拒否するとともに、原告病院にた対し同日六時から時間外勤務、宿日直拒否闘争に入ることを通知した。そこで原告病院は上積み回答を撤回した。原告病院は同月七日「労務情報」を全従業員に配布して「平和的解決の条件拒否さる。」との見出しのもとに右経過を公表した。
(3)支部組合は同月八日原告病院と再度団体交渉を行ったが、六日に提案された上積み案以上の案は出ず、交渉は進捗しなかった。賃上げ交渉は進捗しなかったが支部組合はなお解決を図るため、翌九日に予定していたストライキを回避して交渉を続け、結局同月二八日支部組合は右六日の上積み案を受け容れて賃上げ問題は解決するに至った。
(4)この間支部組合は五月六日、七日及び九日の各一二時三〇分から原告病院構内のテニスコートを使用して春闘集会を開いたが、いずれも就業時間内の午後一時を過ぎ、六日は二九分、七日は一一分、九日は五分を超過した。そこで原告病院は同月一〇日支部組合に 対し、右集会について本件命令第一3(2)④記載のとおりの警告書を交付した。
(5)なお、本件各昼休み集会には病院看護婦のうち、業務のある者や外来看護婦等業務に支障のある者は出席せず、また集会中でも業務のあるものは自由に退出していた。また本件各昼休み集会ではマイクを使用する等して行っていたが、集会を行うことについて原告の許可や届け出は行っていなかった。しかし、過去の闘争時に若干就業時間に食い込む昼休み集会が開かれたことはあるが原告病院が警告や注意をしたことはなかった。
 右事実を基礎に検討するに、労働者や労働組合が使用者の許諾なく当然に使用者の施設を利用し、また就業時間中組合活動を行い得るものではなく、使用者が労働者らの就業時間中の施設を利用しての集会に対し中止を求める等の措置を採ることは権利の濫用と認められる特段の事情のない限り許されないものというべきことは前説示のとおりであり、本件各昼休み集会はいずれも就業時間中にマイクを使用して原告病院の施設を利用しているものであるが、本件昼休み集会はいずれも昭和五〇年の賃金引上げ等の団体交渉が難航している最中に行われたものであって、集会がこの時期にもたれることに十分な理由があったこと、集会は原告病院の施設を利用するものではあるが、それはテニスコートであって病院業務に直ちに影響を及ぼす場所とはいえないこと。また集会は就業時間中に開かれたとはいうものの、昼休み時間内に終了せず偶々就業時間に食い込んだものであって、その程度も大幅でないこと、また集会参加者は業務に支障のない者であり、途中支障があれば自由に退出できるなど業務の影響を配慮むしていること、過去かような集会に対し原告病院が注意等を与えたことがないこと等右集会の目的、必要性、態様等に照らすとこれら事情は右権利濫用と認められる特段の事情に該当するものというべく、本件昼休み集会をもって違法ということはできず、しかもこれら集会に対する原告病院の支部組合に対する警告書は重大な決意をもって臨む旨記載され原告病院として今後の行為に対しては処分をもって臨む強い姿勢を示す威嚇的なものであって、右集会の目的、態様に比し相当性の範囲をこえるものといわざるを得ず、表現の自由の範囲外であることも明らかである。したがって原告病院の警告書の交付をもって原告病院による支部組合及び全済労への支配介入であると判断した被告には誤りはなく、原告のこの点に対する主張は理由がない。」

済生会中央病院事件 東京高裁昭和63年1月29日判決『労働判例』467号
http://web.churoi.go.jp/han/h00517.html
恩賜財団済生会の控訴 控訴棄却
警告書交付は不当労働行為にあたる

済生会中央病院事件 最高裁第二小法廷平成元年12月11日『労働判例』552号
http://web.churoi.go.jp/han/h00554.html
恩賜財団済生会の上告

控訴審判決の一部破棄自判

(判決)抜粋-無許可集会に対する警告書交付は不当労働行為にあたらない

「原審の右判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。したがって、労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない。また、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動に当たらない。そして、もとより、労働組合にとって利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用し得る権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うと解すべき理由はない(最高裁昭和四九年(オ)第一一八八号同五四年一〇月三〇日第三小法廷判決・民集三三巻六号六四七頁)。
 これを本件についてみるに、本件職場集会(一)、(二)は、労働時間中に、病院の管理する物的施設(元空腹時血糖室、テニス・コート)を利用して開かれたものである。しかして、従来、病院が本件のような職場集会について何ら注意をしたことがなかったとしても、それをもって直ちに病院が労働時間中に病院の管理する物的施設を利用して職場集会を開くことにつき黙示の許諾をしていたということはできないし、病院がそのような職場集会を開くことについて反省を求めることの妨げとなるものでもない。また、右の権利の濫用であると認められるような特段の事情があるかどうかの判断に際し、病院の管理する物的施設を利用して職場集会を開く必要性を強調することができないことはさきに説示したところから明らかである。同様に、労働時間中に職場集会を開く必要性を重視して、それが許されるとすることができないことも、前記説示に照らし当然である。なお、支部組合が本件職場集会(一)を開催したのが外来看護婦が通常の昼休みをとることができない傾向にあったためであるとしても、そのことが支部組合として午後三時四〇分から本件職場集会(一)を適法に開くことができる根拠となるものでもない。以上によれば、本件職場集会(一)、(二)の開催につき病院の明示又は黙示の許諾があるとも、また、その開催を許さないことが病院の権利の濫用であると認められるような特段の事情があるとも解されないのであって、結局、病院が本件職場集会(一)、(二)に対して本件警告書を交付したとしても、それは、ひっきょう支部組合又はその組合員の労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎないから、病院(上告人)の行為が不当労働行為に該当する余地はないというべきである。したがって、東京都地方労働委員会の昭和五二年三月一日付初審命令(都労委昭和五〇年(不)第六一号事件初審命令)の主文第1項のうち昭和五〇年四月五日付「警告並びに通告書」及び同年五月一〇日付「警告並びに通告書」のうち集会にかかるもの(一通)並びに主文第4項(1)のうち同年四月五日付「警告並びに通告書」及び同年五月一〇日付「警告並びに通告書」のうち集会にかかるもの(一通)について、これを維持した被上告人の昭和五四年一二月五日付再審査申立棄却命令(中労委昭和五二年(不再)第二五号事件再審査命令)の該当部分の取消しを求める上告人の請求は理由があるから、これを認容すべきである。原判決及び第一審判決が本件職場集会(一)、(二)に対する警告が不当労働行為に該当するとしたのは、法七条三号の解釈適用を誤ったものであり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであって、この点をいう論旨は理由がある。よって、右部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消し、上告人の請求を認容することとする。」

奥野久之裁判官 の反対意見(抜粋)

一論旨は要するに、
1 本件職場集会(一)、(二)は、いずれも病院に無断で労働時間中に行われたものであるから、就業規則の定める職務専念義務、又は雇用契約若しくは信義則上の職務専念義務に反する違法なものである、
2 病院が支部組合又はその組合員に対し元空腹時血糖室、テニス・コートの利用を許さないことにつき権利の濫用であると認められるような特段の事情も存在しないので、支部組合が病院の許諾を得ないままこれらの施設を本件職場集会(一)、(二)に使用したことは、病院の当該施設に対する管理権限を侵し、企業秩序を乱す違法なものである、したがって、支部組合が本件職場集会(一)、(二)を開いたことは正当な組合活動に当たらないから、病院(上告人)がこれに対し警告したことが不当労働行為となる筈がなく、原判決には、法七条三号の解釈適用を誤り、理由不備、理由齟齬の違法がある、というのである。
二なるほど、原審の認定によると、本件職場集会(一)はいずれも病院に届出をせず許可を得ないまま午後三時四〇分から元空腹時血糖室で行われ、また、本件職場集会(二)はいずれも届出をせず許可を得ないまま午後一二時三〇分頃からテニス・コートで開かれたが、五月六日は二九分、同月七日は一一分、同月九日は五分、午後一時からの労働時間に食い込んだというのであるから、本件職場集会(一)、(二)は、労働時間の一部を利用し、また病院の施設を無断で使用した点で、従業員としての労働契約上の義務に反し、あるいは病院の施設管理権を侵したということができそうである。
三しかしながら、労使間の団体交渉に直接関連して行われる組合活動については、一般的には違法とされるべき行為であっても、組合員の意思を集約するために必要であり、かつ、労働組合ないしその組合員(労働者)のした義務違反ないし病院の権利に対する侵害の内容、態様及び程度その他諸般の事情をも総合して、団体行動権の実質的保障の見地から相当と判断される場合には、正当な組合活動として取り扱うべき場合があると考えられるのであって、当裁判所昭和四九年(オ)第一一八八号同五四年一〇月三〇日第三小法廷判決(民集三三巻六号六四七頁)の考え方は私の採らないところである。
四そこで、本件職場集会(一)、(二)につき具体的事情に即して考えてみるに、
1 原審の認定によると、(1) 本件職場集会(一)は、病院が作成した同年四月分の看護婦の勤務表が、従来なかった午後一一時から翌日午前八時までの深夜勤を導入し、午後四時から午後一一時までの夜勤の回数をも増加させたことに端を発したものであって、その後行われた職場交渉の経過を報告するとともにその後の対策を協議検討するため支部組合が外来看護婦を集めて行ったものであり、(2) 支部組合が本件職場集会(一)を午後三時四〇分から開催したのは、外来看護婦は正午から午後一時までの正規の時間帯には体憩時間をとることができず、実際に休憩時間をとることができるのが午後三時過ぎとなるためであり、また、終業後に保育所に幼児を引取りに行かなければならない者があることを考慮したためであった、(3) 本件職場集会(一)に参加した者はいずれもその時間に差し追った業務のない者であり、しかも途中業務につく必要を生じた者は中座して業務に就いた、(4) 本件職場集会
(一)の場所を元空腹時血糖室に選んだのは、ここが急患室の隣であって急患業務の必要が生ずれば直ちに対応できるとの配慮からであり、(5) なお、従来支部組合がこの時間帯に職場集会を開いても警告や注意を受けたことはなく、現に同年三月二八日午後三時三〇分頃から元空腹時血糖室で職場集会を開いたことについても警告等はされなかったというのである。
そうすると、本件の場合、支部組合としては病院の勤務表案等について直接利害関係のある外来看護婦の職場集会を開いて対策を協議する緊急の必要性があるところ、できるだけ多くの外来看護婦を協議に参加させるため事実上の休憩時間帯を選び、しかもいつでも急患業務に対応できる元空腹時血糖室を使用し、業務に支障のある者は中座するなどの配慮をしていたことが窺えるのであって、これらの事情を総合勘案すると本件職場集会(一)は正当な組合活動に当たるというべきである。
しかるに病院は、前例に反し、卒然として、原審の認定するような責任追求を暗示する警告書を交付したのであって、これに病院が外来看護婦に対し正規の時間に休憩を与えることができない勤務体制をとっていたことを併せ考えると、病院の右警告書の交付は、明らかに行き過ぎであり、支部組合及び全済労に対する支配介入となるものと考えられる。よって、この点に関する原審の判断は、結論において正当であり、論旨は理由がない。
2 原審の認定によると、(1) 本件職場集会(二)は、支部組合として昭和五〇年度春闘の山場においてその基本方針を協議し決定するため開催されたものであり、(2)本件職場集会(二)には、業務に差し支えのある外来看護婦らはもとより、病棟看護婦の中でも業務のある者は出席せず、また、集会中でも業務のある者は自由に退出していた、(3) 過去にも病院内で昼休み集会が開かれ、若干午後の労働時間に食い込むことはあったが、病院から警告や注意がされたことはなかったというのである。
そうすると、本件職場集会(二)は支部組合が同年度春闘の最終的な対処方針を決定すべき緊急の必要に迫られていた段階でされたものであり、しかも労働時間に食い込んだ時間は比較的僅少であるうえ、病院にとっては付属施設に過ぎないテニス・コートを使用し、病院の業務に支障のないよう最大限の配慮をしていたということができるから、本件職場集会(二)が組合活動として正当性を欠いたとは考えられない。
しかるに、病院は、ストライキが回避された翌日、前例に反して重大な決意をもって臨む旨記載した警告書を交付したのであるから、これが支部組合及び全済労に対する支配介入に当たるとした原審の判断は、結論において正当であり、この点に関する論旨も理由がない。

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