カード 休憩時間 無許可組合集会 ビラ貼り等 三菱重工業事件 東京地裁昭和58年4月28日判決『労働判例』410号
要点-昼休み時間中の食堂前広場における無許可集会は正当な組合活動として許容されない
事件の概要-(協約の精神にもとる問題とされた事案は広範に及ぶので一部のみをの記載)
本件は原告組合が会社が組合事務所、チェックオフ、組合専従、時間内組合活動の便宜供与に関する協約等の期間満了を理由に、右各提供を拒否したこと等が、不法行為にあたるとして損害賠償と新聞紙上の謝罪文掲載を求めたものであるが、判決は請求を棄却した。
そのなかで昼休みの食堂前広場における無許可集会、ビラ貼り等について検討され、労働協約に違反し許されないとし、この問題が解決しなかったことを一つの理由として労働協約の更新が拒否されてもやむをえないとされた。つまり無許可集会、ビラ貼り等が正当な組合活動として許容されるものということはできないとの判断をとっている。ここでは問題を無許可集会、ビラ貼り等にしぼってとりあげる。
被告会社は船舶、原動機、各種産業機械の製造・修理を行う。原告は日本労働組合総評議会全日本造船機械労働組合三菱重工支部で、五分会を有し、昭和48年に約560人を組織していた。被告会社には原告のほか全日本総同盟全国造船重機労働組合連合会三菱重工労働組合(重工労組)が昭和40年に発足し約七万五千人の組合員を擁していた。
本件、便宜供与が拒否され、協約締結が更新されなかった重要な理由は労働時間の問題で、会社側の提案(週休二日制実施の前提として一日の労働時間を30分延長する)を拒否したことだが、広島精機製作所における下記のような協約の精神にもとる状況が改善されなかったことも理由の一つになっている。。
当時の労働協約には、
「第二七条 組合員が次の各号の一に該当する場合はけん責に処する。……
5 事業所の許可なく事業所内又は施設(社宅及び寮の私室を除く)で集会、演説、放送、各種印刷物の掲示・貼付・配布、署名運動、募金その他これに類する行為をしたとき………」
と定められていた。被告会社においては職場秩序維持の必要から、生産の場である事業所内、施設内においては、政治・宗教活動はもちろんのこと、職場の安寧を損うおそれのある前記行為は原則としてこれを禁ずることとしており、現に過去においてこの種の行為を被告会社が事業所内、施設内で行うことを許可したことは一度もない。
構内における組合活動もこの原則の例外ではなかつたが、組合活動については組合活動の実質的な保障と職場秩序との調和する合理的範囲において、労使間の慣行として一部例外的な取扱いが行われており、これをめぐって広島精機製作所(以下広機と略す)において次のような事件が発生した。
(なお原告広機分会は昭和41年原告から一括脱退し名称を三菱重工広島精機労働組合に変更したが、単一組織への移行をめぐって内部対立が起き、昭和44年4月に解散して、約百名が重工労組へ、約30名が原告に加入していた)
昭和四六年一〇月二一二値被告会社の許可
(ア) 無許可集会・演説の強行とこれに伴う暴力行為
被告会社と原告との労働協約では、その第一〇条に「組合は、会社の了解を得て、会社の諸施設その他を利用することができる。……」と、会社施設利用に際しては会社の了解を要する旨を規定し、また各事業所においては、危険防止、職場秩序維持の必要から労使間で集会禁止場所等が慣行として定められ、各分会もこれを遵守してきた。
広機は、極めて精密な工作機械を製作する事業所で、その作業の性格上作業者は作業中に高度の集中力を要求されるため、昼休みには完全に休養できる場所を確保する必要性が特に強かつた。そこで、広機においては、構内食堂及びその周辺の広場、芝生、植込みを休養の場所に当て、これらの場所における集会・演説・放送その他けんそうにわたるおそれのある行為を禁止することにより、社員に十分な休養を与えるよう配慮してきた。特に被告会社長崎造船所において複数組合が併存するようになつて以来、両組合間で拡声器の音量をあげての放送合戦、集会場所の奪い合いといつたトラブルが発生しており、そうした先例に鑑みても、やはり複数組合の併存する広機においては、食堂及びその周辺における組合集会等を禁ずる強い必要性があつた。
しかるところ、広機分会は、昭和四四年四月二五日、広機の了解を得ることなく、昼休みに食堂内で春闘総決起集会を開催し、勤労課員の解散命令を無視してこれを強行した。
広機は、直ちに広機分会幹部に抗議したが、広機分会は、開催場所については分会の自由だとの態度をとつたため、広機は更に同年五月七日付け書面をもつて広機分会に厳重抗議し、反省を求めた。
同年六月に、広機分会から広機に対して、六月二八日昼休みに食堂前広場で総決起集会を開催したいとの書面による申入れがあつた。広機は同月二七日付け書面をもつて、食堂前広場での集会は許可できないが、組合事務所周辺の空地でなら差し支えない旨回答するとともに、その理由についても十分説明したが、広機分会はこれを無視して六月二八日の集会を食堂前広場で強行した。
これに対し、広機は、前回同様直ちに広機分会幹部に抗議するとともに、広機分会に対しても同年七月一六日付け書面をもつて厳重に抗議し、広機分会の反省を促した。
しかるに、広機分会には一向に反省の色はなく、かえつて広機の事前了解を求めることもなく集会を強行するようになり、同年一一月からは集会後にデモ行進を行うようになつた。更に翌昭和四五年四月ころからは大きな立看板を設置し、拡声器を使って休息中の社員に演説を行うようになつた。同年六月三〇日には、集会の中止を求めに行つた勤労課員に対し広機分会の幹部である者がのどを突き、あるいは突き倒す等の暴行を加え、負傷させるという事件も発生した。
このような無許可集会は、昭和四四年には五件であつたものが、翌昭和四五年には一九件、昭和四六年五月末までには合計三一件を数えるに至つた。
昭和四六年一〇月二一日、広機の食堂前において被告会社の許可を得ることなく拡声器を使って「佐藤内閣打倒、沖縄返還粉砕」等の演説を行うとともに同趣旨の演説を行うとともに同趣旨のビラを配布し、更には、被告会社の許可を得ることなく被告会社が使用していた掲示板にビラを掲示した。そして、これらを制止しようとした勤労課員に対し広機分会員が暴行を加えた。
広機分会は、同年一一月一九日、昼休みに右食堂前において被告会社の許可を得ることなく集会を行い、拡声器を使って沖縄返還協定阻止等の演説を行った。更に同日二時五五分から三時五五分までの全員ストライキの際には、赤旗やプラカードを持ってシュプレヒコールをしながら構内デモ行進わ行って、他の従業員の正常な業務の運営を妨げた。そして、これを制止しようとした勤労課員に対して、広機分会員が暴行を加えた。
広機分会は、右のほか同年九月から同年一一月の間に、無許可集会を二回、無許可のビラ掲示・貼付を五回行った。
(イ) 不当なビラ掲示・貼付の強行とこれに伴う暴力行為
会社構内において、むやみにビラを掲示・貼付することは、美観を損ねることはもちろんのこと、生産能率面、災害防止面からも生産現場においては極めて不具合である。作業場の周辺に「オヤツ」というようなものがあり、それに気をとられたために作業ミスをおかしたり、けがをしたという事例は枚挙にいとまがない。生産会社においては、ハウスキーピングという担当者を特に決めて職場の整理整頓から環境整備まで非常に気を使つており、例えば工場見学者がある場合においては、時間・場所等を十分検討し、作業服に着がえてもらい案内員を置くなどできるだけ作業者の邪魔にならないよう配慮を行つている。
右の事情からすれば組合は、ビラの掲示・貼付をどこにしてもよいということはできない。被告会社では、原告との労働協約の第九条で「会社は、組合が報道、告知及び教育宣伝のため、会社内所定の場所に掲示することを認める。」と定め、具体的には事業所・分会の協議により、作業場周辺でない例えば通路等に掲示板を設け、それ以外の場所へのビラの掲示・貼付は一切禁止してきた。
当時、広機分会に対しては、組合分裂によつて二組合が併存するに至つたという経緯もあつて未だ掲示板を貸与しておらず、労使間で設置場所等について協議中であつたが、広機分会は、一方的に掲示物を現に使用中の他組合の掲示板や会社の掲示板に強行掲示し、広機の抗議を無視してこうした行為を繰り返していた。
また、昭和四五年四月二三日、広機分会は一二時五五分から一五時五五分まで重点指名ストライキを行つたが、この際、正規の作業服を着用していないスト対象者が、広機の退去命令にもかかわらず、他の一般社員が作業している職場内をほうこうし、スト対象者の機械に「スト決行中」と大書した半紙大のビラを貼付した。勤労課員がこれを撤去しようとしたところ、そのスト対象者は大声でわめき、押す、突くなどの腕力をもつて妨害し、約三〇分間にわたり周辺で作業をしている多数の社員の正常な業務の運営を妨げた。
更に、同月二八日一二時〇五分から翌二九日八時〇五分までの全員ストライキに際しては、広機分会組合員が、会社の禁止命令を無視して「スト決行中」なるビラを広機分会組合員使用の機械、器具、机上等に貼付し、これを制止しようとした勤労課員に対して広機分会執行委員長をはじめとする分会組合員数名が大声でわめきながら組み付き、実力をもって妨害した。ある勤労課員は三名の分会員によつて組み付かれ、首を絞められ、鉄製部品の上に押し倒されて負傷した。また、はち巻、腕章をつけた多数の広機分会組合員が工場内をほうこうしたため、一時間以上にわたつて職場の秩序が乱された。
こうした広機分会による掲示板、機械、器具等への不当なビラ貼付事件は、昭和四四年四月から昭和四六年五月末日までの間に四四件発生するに至り、これに伴つて暴力行為も頻発した。
(ウ) 構内における不当なビラ配布の強行とこれに伴う暴力行為
会社の構内におけるビラ配布は、職場の秩序を乱し、また、ときによつては職場における従業員の集中力を散漫にさせ、更にビラの内容によつては職場内に対立感情を持ち込ませる等の弊害が少なくないため、被告会社においては、構内におけるビラ配布それ自体を禁止することとしており、労働組合にもこの原則を適用している。しかし、組合が自らの組合員に対して組合機関紙及び連絡文書を構内において休憩時間中に配布することはなんら禁止していないし、また組合が不特定多数の者にビラを配布しようと思えば入場時又は退場時に門前で配布することもできるのであるから、構内におけるビラ配布を禁止しても組合活動上大きな支障をきたすことはない。
こうした状況の中で、広機分会も従来は構内でビラ配布をすることはなかつたが、昭和四四年一〇月二一日に突如、休憩時間中に食堂前でビラ配布を開始した。そこで、広機は直ちに口頭で抗議したが、その後も数回にわたつて同様の行動を繰り返したので、広機は同年一一月一〇日付けの書面をもつて厳重抗議した。
その後もたびたび同様の事件があり、昭和四五年四月一六日に理由を付した抗議文を広機分会幹部に手交し、話し合つた際には「会社の見解は理解できた。分会としても検討する。」との回答を得たが、その後も構内におけるビラ配布は繰り返され、その回数は昭和四六年五月末日までに二四回に及んだ。
判旨-要点のみ
「無許可集会、ビラの掲示・貼付、ビラの配付等について検討するに、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが使用者の権利の濫用と認められるような特段の事情がある場合を除いて正当な組合活動として許容されるものということはできないと解されるところ‥‥当時の原告と被告会社との労働協約は、一〇条において、組合は、会社の了解を得て、会社の諸施設その他を利用することができる旨定め、二七(二八)条において、組合員が事業所の許可なく事業所内又は施設(社宅及び寮の私室を除く)で集会、演説、放送、各種印刷物の掲示・貼付・配付、署名活動、募金その他これに類する行為をしたときはけん責に処する旨定めていると認められること‥‥事実関係に照らすと被告会社が原告に施設の利用を許さないことが権利の濫用にあたるとまで認めることはできず、右の無許可集会等は労働協約に違反し、許されないものであるということができる。
判決抜粋-無許可集会等は許されない
「‥‥本件便宜供与は、期間の定めのある労働協約に基づいて継続されてきたところ、労働協約は被告会社が期間満了に伴う更新を拒否したため失効し、原告は右便宜供与を受ける権利を失ったということができる。そして、このように労働組合が右便宜供与を受ける権利を失った以上、使用者が右便宜供与を打ち切ったとしても、原則として不当労働行為(支配介入)は成立しないとと解すべきである。しかし、使用者が組合を弱体化する意図の下に、労働協約更新を拒否したうえ、それに藉口して右便宜供与を打ち切ったと認められる特段の事情がある場合には、例外的に不当労働行為が成立すると解すべきである。そこで、本件が右のような例外的な場合にあたるかどうかについて判断する。
‥‥広機問題のうち‥‥各ストライキは違法であるということができる‥‥無許可集会、ビラの掲示・貼付、ビラの配付等について検討するに、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが使用者の権利の濫用と認められるような特段の事情がある場合を除いて正当な組合活動として許容されるものということはできないと解されるところ‥‥、原告と被告会社との労働協約は、一〇条において、組合は、会社の了解を得て、会社諸施設その他を利用することができると定め、二七(二八)条において、組合員が事業所の許可なく事業所内又は施設(社宅及び寮の私室を除く)で、集会、演説、放送、各種印刷物の掲示・貼付・配布、署名活動、募金これに類する行為をしたときは譴責に処することを定めていると認められること‥‥被告会社が原告に施設の利用を許さないことが権利の濫用にあたると認めることはできず、右の無許可集会等は労働協約に違反し許されないものであるということができる。更に‥‥構内への乱入や暴行等が許されないことは明らかである。そして、これらのことに、被告会社には労働協約を更新する義務はないことを併せ考えると‥‥会社が、原告に対して、広機問題について統制責任を問うとともに、3ヶ月ごとに労働協約を更新してきたが、広機問題は一向に解決しなかったので、このことを一つの理由として労働協約の更新を拒否したのも、やむをえなかったということができる」
本判決の意義
昼休みの無許可集会が組合活動の正当な行為と評価されなかった事案としては、全逓新宿郵便局事件 最高裁第三小法廷昭和58年12月20日『労働判例』421号、東京城東郵便局事件 東京地裁昭和59年9月6日判決『労働判例』442号があるが私企業の例として取り上げたものである。
食堂前の拡声器利用の演説が行われているが、都労連や全水道東水労の勤務時間内外の庁舎構内の集会でも拡声器が利用されているだけでなく、勤務時間内事務室内の頭上報告でも水道局では拡声器使用の例があるが、いっさい現場で中止命令もやらないということは私企業との比較でもいかに腐りきっているかということである。
« カード 無許可組合集会 全逓長崎中央郵便局事件 長崎地裁昭和59年2月29日判決『労働判例』441号カード | トップページ | いよいよウィスコンシン決戦 »
「労働」カテゴリの記事
- 主張を貫くことができず不甲斐なく思う(2019.11.20)
- フォルクスワーゲン・チャタヌーガ工場UAW交渉代表選挙僅差で敗北(2019.06.30)
- パワハラ対策必要ない (2019.03.21)
- 重ねて、残業時間上限規制政府案に反対 2(2017.01.29)
- 重ねて、残業時間上限規制政府案に反対(2017.01.29)
コメント
« カード 無許可組合集会 全逓長崎中央郵便局事件 長崎地裁昭和59年2月29日判決『労働判例』441号カード | トップページ | いよいよウィスコンシン決戦 »
皇室や糸屋ゆかりの大根焚と粕汁
96年晩秋頃から開催地でレジや自動販売機などの硬貨を洗う奉仕活動や
地元の中央募金会と社会福祉協議会を通て公的団体に寄付を行う
募金活動と縁起物などを販売する募金販売会に
道路使用許可や電気代にチャクトウとガス代を含む買掛金・売掛金を
年別・市別に清算を行う=糸屋の銭洗い募金販売会と市清算会=と
葛野(京)野菜や国内種に地元の郷土野菜に拘り
御子様・皇子様.ご誕生に由来し童.誕生に広がった
伝統祭事の=大根焚と(粕汁)冬の味覚の接待会=は
公正取引委員会などや国税に検疫所と皇宮や日本チェーンストアー協会など
公的機関が立会い皇室の代表者が確認を行った=糸屋の売出=とは別に
糸屋安全衛生協議会が酉の市や達磨市など各地の野市で開催し
百貨店が歴代に制服を披露するなど工夫して
各社が協賛して往ったのを御存知ですか。
コンビニの店先や建設現場で硬貨を洗う姿を見掛た事が有ませんか。
投稿: 環境大学新聞 | 2012/06/03 11:36