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2012年7月の18件の記事

2012/07/30

明治天皇百年祭といわれても

 きょうが、明治天皇崩御から百年、そして今年は大正百年という節目の年なのだが、特別政府行事があるわけでもなし、明治末年を知っている年寄りなんてどこにもいないし、あぁ教科書なんかに載っている夏目漱石が喪章つけて肘をついてる写真の年か、再来年が第一次大戦から百年かてなもんで。だいたい神社新報では1面トップかもしれないが、きょうの産経で明治神宮の全面広告があったから辛うじて知ったと言う人が少なくないのではないか(産経は小堀桂一郎氏の正論と竹田恒泰氏の寄稿を載せている)。しかし読売と毎日も見たが、明治天皇百年祭なんてひとこともない。ほとんどのマスメディアはまったく無視しているわけである。
 武道館で明治百年記念式典をやった昭和43年とは大きなかわりようだ。左翼は反対運動をやっていたと思う。当時私は小学校3年だったが、母校(世田谷・烏山北小)に明治100年記念の植樹ないしモニュメントが残っているからよく記憶しているのである。

2012/07/29

カード 国労札幌地本事件最高裁判決の意義(4)企業秩序定立権・その2抽象的危険説の確立

第一回http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/post-359d.html
第二回http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-5017.html
第三回http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-7e7a.html
(承前)

日テレ報道番組コメンテーターで著名な河上和雄元最高検公判部長による国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号の評釈【註1】があるが、「本判決が、具体的企業の能率阻害を判示せず、抽象的な企業秩序の侵害のおそれのみをもって、施設管理権の発動を認めている点は‥‥目黒電報電話局事件に関する最高裁判決(昭和五二・一二・一三)の延長線上にある判示として、あらためていわゆる抽象的危険説を確立したもの」と評されている。さりげなく書かれているが、これも重要な論点のように思う。
 つまり国労札幌地本ビラ貼り事件・控訴審判決札幌高裁昭49・8・28は「控訴人らが右ロッカーに本件ビラを貼付したことにより被控訴人の業務が直接阻害されあるいは施設の維持管理上特別に差し支えが生じたとは認めがたい等の諸般の事情を考え合わすと‥‥本件ビラ貼付行為は、正当な組合活動として許容されるべき」と判示したが、この判断は上告審判決で覆された。
 最高裁判決(最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号)は「貼付されたビラは当該部屋を使用する職員等の目に直ちに触れる状態にあり、かつ、これらのビラは貼付されている限り視覚を通じ常時右職員等に対しいわゆる春闘に際しての組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼすものとみられるのであつて‥‥‥本件ロツカーに本件ビラの貼付を許さないこととしても‥‥‥上告人の企業秩序維持の観点からみてやむを得ないところであると考えられ‥‥‥剥離後に痕跡が残らないように紙粘着テープを使用して貼付され、貼付されたロツカーの所在する部屋は旅客その他の一般の公衆が出入りしない場所であり、被上告人らの本件ビラ貼付により上告人の本来の業務自体が直接かつ具象的に阻害されるものでなかつた等の事情のあることは‥‥‥うかがい得ないわけではないがこれらの事情は、いまだもつて上記の判断を左右するものとは解されないところである。従って被告人のらのビラ貼付行為は‥‥‥上告人の企業秩序を乱すものとして、正当な組合活動であるとすることはできず」上司が「中止等を命じたことを不法不当なものとすることはできない」と判示した。
 要するに、最高裁の判断は、控訴審判決のいう「業務が直接阻害されあるいは施設の維持管理上特別に差し支えが生じ」ていなくとも、ロッカーのビラ貼付が「組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼす」ことは本来の鉄道事業を能率的に運営する企業秩序維持の観点から「企業秩序を乱す」ものであるから、正当な組合活動であるとすることはできない。「本来の業務自体が直接かつ具象的に阻害されるものでなかつた等」の事情は「判断を左右するものとは解されない」と判示したのであるからこれは抽象的危険説をとったものとされるのである。

 

具体的危険説と抽象的危険説

 政治活動等をめぐる判例では、目黒電報電話局事件・最三小法判昭52・12・13日民集31巻974頁 労働判例』287号で一応の決着をみるまで、具体的危険説をとるものと抽象的危険説をとるものに下級審判例が分かれていた。

● 具体的危険説

 具体的危険説とは「現実かつ具体的に経営秩序が紊され経営活動に支障を生じる行為」でなければ施設管理権の発動ができないというものである。高木紘一【註2】によるとナショナル金銭登録機事件東京高判昭44・3・3労民集18巻5号、東洋ガラス事件横浜地川崎支決昭43・2・27労民集19巻1号、日本パルプ工業事件鳥取地米子支判昭50・4・22『労働判例』229号明治乳業事件福岡地判昭51・12・7『労働判例』256号がそうした判例である。

 ここでは二つの判例を引用する。

○日本パルプ工業事件鳥取地裁米子支部判決昭50・4・22『労働判例』229【註3】

事件の概要-原告は電気作業班の勤務時間を終了午後四時すぎに、休憩室において、同じく勤務を終えたMに対し、日米安全保障条約終了運動のビラを配布し署名を求めたが、Mはビラの受取りと署名を拒否し押し問答となり、さらに原告はDに対してもビラを配布したが、Dは構内の政治活動は禁止されているとして、受取を拒否したところ、原告はDに対し安保条約を廃棄すべきという事情を訴えはじめ、Mは原告とDを残して当日予定された業務研修の会場に赴いたが、5分遅刻し研修は開始されていた。
 会社は労働協約に付随する「政治活動に関する了解事項」および懲戒自由に定めた就業規則に該当するとして原告を譴責処分とした。原告は処分の無効確認と謝罪文の掲示、慰藉領の支払いを求めて争ったところ、鳥取地裁米子支部は譴責処分は有効であるとして原告の請求を棄却する判決を下した。

判旨-譴責処分は有効
「政治活動がその性質上対立的契機を内包し、場合によって政治的抗争が企業内に持ち込まれ、企業活動に支障をきたす場合があるものというものの、ただ抽象的にそのような危険性があることのみを理由として企業内における政治活動の自由(表現の自由)を無条件、一般的に禁止することは、私的自治の許容限界を超越するものであり、民法九〇条の公序良俗に違反して無効であると解さざるをえず、私的自治の名のもとに右政治活動が禁止される範囲は、現実かつ具体的に会社業務が阻害される場合に限られるといわなければならない。‥‥‥‥そこで本件ビラ配布行為について検討を加えるに‥‥‥‥本件ビラ配布が、その場において被告会社の秩序を乱し、作業能率を低下させるものではなかったことはき明らかである。‥‥‥‥ところで被告は、Mの出席した業務研修は、施設部長の承認を得かつ時間外勤務手当を伴うところの研修であり、会社の業務にほかならないから、原告のビラ配布行為が現に会社業務を阻害したことは明らかである旨主張するので、この点検討する。‥‥‥‥Mは、原告の本件ビラ配布行為当日、業務研修に赴く予定であったところ、研修に出席したものの遅刻したうえ、あまり熱中できず、受講途中で退席したものであり、原告の行為が単にビラを配布したにとどまらず、いささか執拗であったことを考えると、Mの業務研修への参加が一部妨げられたのは原告の行為に起因するものというほかはない‥‥‥‥Mが右研修受講に関し悪影響を蒙った以上、それはすなわち会社の業務を阻害したものといわなければならない‥‥‥‥」
 この判例は抽象的な危険性では理由にならないとし、具体的危険説をとりながら、にもかかわらず会社業務が阻害されたとして譴責処分を有効としたものである。

○明治乳業事件第一審判決福岡地裁判決昭51・12・7『労働判例』256号

事件の概要-被上告人は、上告人の福岡工場に勤務する組合支部長の地位にある従業員であるが、昭和四九年六月二四日昼の休憩時間に、休憩室を兼ねている同工場食堂において、同日十四日の昼の休憩時間に、同月一四日に公示された参議院議員選挙の候補者T、W両候補の応援演説のためH日本共産党書記局長が来援するという内容の同党中央委員会発行同月二三日付赤旗号外約二〇枚を同工場従業員に配布し、次いで同年七月六日の昼の休憩時間に、同食堂において、同党への投票の呼び掛けを内容とする同党参議院議員選挙法定ビラ約四六枚を同工場従業員に配布した。右の赤旗号外及び日本共産党参議院議員選挙法定ビラの配布は食事中の従業員数人に一枚ずつ平穏に手渡し、他は食卓上に静かに置くという方法で行われたものであって、従業員が本件ビラほ受け取るかどうかは全く各人の自由に任されていた。また、右の配布に要した時間も数分であった。

判旨-戒告処分を無効とする
「使用者が会社構内に於て企業施設を利用して行う従業員の政治活動を就業規則でもって制限ないし禁止することが認められるのはそれが会社の有する施設管理権を一時的にせよ侵害するからに他ならない。つまり使用者は企業施設を経営目的に従って管理し、従業員の行為を必要な限度で規律しうることは当然である。‥‥前記制限規定を合理的に解釈すると、その制度は、休憩時間中に於ける会社施設内の政治活動により、現実かつ具体的に経営秩序が紊され経営活動に支障を生じる行為、たとえば喧噪、強制にわたるなどして他の従業員の自由利用を妨げ、ひいては就労に悪影響を及ぼすものに限定されるべきであって、かく解してこそはじめて休憩時間中に於ける従業員の政治活動を制限する規定の有効性が根拠づけられるものと解する。‥‥前記各ビラ〔を〕‥‥、従業員が ‥‥かりに閲読したことによって職場規律を乱し、作業能率を低下させるとか、他の従業員の休憩時間中の自由利用を現実的かつ具体的に妨害したとか到底考えられないし、その証拠はない。」
なお、この事件は控訴審福岡高裁昭和55年3月28日判決『労働判例』343号においても原判決を維持しているが判決理由は異なり、目黒電報電話局事件・最三小法判昭52・12・13の判例法理によるところの「特別の事情」説である。「形式的には就業規則第一四条に違反することは明らかである。しかし、もともと就業規則は使用者が企業経営の必要上従業員の労働条件を明らかにし職場の規律を確立することを目的として制定するものであって、とくに右第一四条は、その体裁、目的からして会社内の秩序風紀の維持を目的としたものであるから、形式的にこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの配布が会社内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないと解するのを相当とする。」と述べ、 上告審最三小判昭58・11・1『労働判例』417号も同じ理由で上告を棄却している(横井大三裁判官の反対意見がある)
 本件が労働者勝訴となった背景としては、この会社には政治活動を禁止する就業規則も労働協約もなかった。もっぱらビラ配布の許可制を定めた就業規則・労働協約違反であることが懲戒処分該当事由とされていることである。したがって、控訴審、上告審ではもっぱら無許可ビラ配布事案として検討され、政治活動であるかは問われていない。【註4】
 ここでは二つの政治活動に関する判例をみたが、先に述べたとおり施設管理権の指導判例であるところの国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30が、民集33巻6号647頁『労働判例』329号が「本来の業務自体が直接かつ具象的に阻害されるものでなかつた等」の事情は「判断を左右するものとは解されない」と判示した以上、具体的危険説に基づく主張は根拠を失ったものと解してよい。

●抽象的危険説

 これに対して、抽象的危険説とは施設管理権の侵害ないし作業能率の低下等の「おそれ」、すなわち、経営秩序の侵害に対する抽象的な危険が存すれば禁止しうるとするもので、この立場に立脚する判例として高木紘一【註5】が挙げているのは関谷製作所事件東京地決昭42・7・28労民集18巻4号、ナショナル金銭登録機事件東京地判昭42・10・25労民集18巻5号、横浜ゴム事件東京高判昭48・9・28『労働法律旬報』923号。目黒電報電話局事件・最三小法判昭52・12・13民集31巻974頁 『労働判例』287号である。

 ここでは二つの判例を引用する。

○横浜ゴム事件東京高裁判決昭48・9・28『労働法律旬報』851【註6】

事件の概要-横浜ゴム労組上尾支部執行委員2名が、企業施設内における三ないし四回の『アカハタ』の配布・勧誘行為が就業規則所定の企業内政治活動を禁止状況に違反すること。さらに勤務時間中に勤務につかなく、注意されたことに対して棒を振り上げ反抗した、あるいはあやまって器具を損壊したという三~四年前の就業規則違反を理由とする懲戒解雇処分に対して、地位保全の仮処分申請を提起したもので、一審浦和地裁は懲戒処分事由としてはささいな事実であって、実害もなかったとして懲戒権の濫用として無効とする判決であったが、控訴審では懲戒解雇を有効とした。

判旨-懲戒解雇は有効
「企業と雇傭契約を締結した者(従業員)は職場の規律を守り、誠実に労務を提供すべき契約上の義務を負うものであり、企業の施設又は構内において労務の提供と無関係な政治活動を自由に行い得るものとすれば、もともと高度の社会的利害の対立、イデオロギーの反目を内包する政治活動の性質上、従業員の間に軋轢を生じせしめ、職場の規律を乱し、作業能率を低下させ、労務の提供に支障をきたす結果を招くおそれが多分にあるから、使用者が企業の施設又は構内に限ってこれらの場所における従業員の政治活動を禁止することには合理的な理由があるというべきであり、これをもって従業員の思想や信条の自由を侵し、又は思想、信条を理由として差別的取扱いをいい得ないことは勿論、言論その他の表現の自由に対する不当な制限ということもできないと解される。‥‥」

○目黒電報電話局事件・最三小法判昭52・12・13民集31巻974頁 『判例時報』871号『判例タイムズ』357号6頁

事件の概要-日本電電公社目黒電報電話局施設部試験課勤務の職員Xが、昭和42年6月16日から22日まで「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と書かれたプレートを着用して勤務したところ、これを取り外すよう上司から再三注意を受けた。同月23日Xはこの命令に抗議し、ワッペン・プレートを胸につけることを呼びかける目的で、「職場の皆さんへの訴え」と題したビラ数十枚を、休憩時間中に職場内の休憩室と食堂で手渡しまたは机上におくというという方法で配布した。
 電電公社は上記プレート着用行為が就業規則の五条七項「職員は、局所内において、選挙活動その他の政治活動をしてはならない」に違反する。ビラ配布行為は五条六項「職員は、局所内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配布その他これに類する行為をしようとするとき、事前に別に定める管理責任者の許可を受けなければならない」に違反し懲戒事由に該当するとして、Xを戒告処分に付したが、その効力について争われた事件である。一、二審は原告の主張を認容し、戒告処分を無効としたが、最高裁は破棄自判して一、二審の判断を覆した。

判旨-戒告処分は有効「一般私企業においては、元来、職場は業務遂行のための場であつて政治活動その他従業員の私的活動のための場所ではないから、従業員は職場内において当然には政治活動をする権利を有するというわけのものでないばかりでなく、職場内における従業員の政治活動は、従業員相互間の政治的対立ないし抗争を生じさせるおそれがあり、また、それが使用者の管理する企業施設を利用して行われるものである以上その管理を妨げるおそれがあり、しかも、それを就業時間中に行う従業員がある場合にはその労務提供業務に違反するにとどまらず他の従業員の業務遂行をも妨げるおそれがあり、また、就業時間外であつても休憩時間中に行われる場合には他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後における作業能率を低下させるおそれのあることがあるなど、企業秩序の維持に支障をきたすおそれが強いものといわなければならない。したがつて、一般私企業の使用者が、企業秩序維持の見地から、就業規則により職場内における政治活動を禁止することは、合理的な定めとして許されるべきであり‥‥‥‥局所内において演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等を行うことは、休憩時間中であつても、局所内の施設の管理を妨げるおそれがあり、更に、他の職員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後の作業能率を低下させるおそれがあつて、その内容いかんによつては企業の運営に支障をきたし企業秩序を乱すおそれがあるのであるから、これを局所管理者の許可にかからせることは、前記のような観点に照らし、合理的な制約ということができる。」と判示し抽象的危険説をとったものと評価されている。

 最高裁は目黒電報電話局事件では「ベトナム反戦、米軍立川基地拡張阻止」という政治活動を行った職員の戒告処分を是認する一方、明治乳業福岡工場事件では赤旗号外や共産党参院挙法定ビラ等の配布行った従業員の戒告処分を無効にしたのはわかりにくいかもしれないが、前者はワッペン・プレートを胸につけることを呼びかける目的でビラを配布しており、その行為は単に自己の職務専念義務に反するにとどまらず、他の労働者の職務への専念を妨げるものとして企業秩序を乱すと判断されたのに対し、後者は工場内の秩序を乱さないと判断された点が異なる。また後者は就業規則に企業内政治活動禁止規定がなく、政治活動であるかは問われず、たんに無許可ビラ配布事案としての判断なのである。

 重要なことは抽象的危険説は無許可集会が正当な組合活動に当たるかが争点となった事案においても国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30を引用した判例で踏襲されている。

例えば日本チバガイギー事件 最一小判平1・1・19『労働判例』533号が是認した原判決である東京地裁昭和60年4月25日判決『労働判例』452号http://web.churoi.go.jp/han/h00308.htmlは次のように述べている。

「‥‥集会の目的が第一回の団体交渉の報告であって必ずしも喧噪にわたることが当然に予想される集会ではなかったこと、更に従業員会には本件食堂の使用も許可したことがあること、また屋外の集会については必ずしも業務上の支障があったともいえないことからすれば、本件食堂の使用や屋外集会を参加人の希望どおり許可したことによる現実の業務上の支障は必ずしも大きくなかったものと推認されなくもないが、他方工場部門とは別に本部の従業員の就業時間は午後五時四五分までであってその間に集会が行われるとすれば就業中の従業員が集会に気をとられ、職務に専念することができないなどの事態も予想しえないだけでなく‥‥原告において本部就業時間中の本件食堂の使用を許可しないと考えたことにも合理性があること‥‥しかも原告はまったく許可しないというわけではなく午後六時からの使用は許可していること、そして参加人が集会の開催を午後五時に固執した理由は専ら組合員の帰宅時間の遅れを防ぐといった自らの結束力の弱さからくる事由であり、これに固執する合理性に乏しいこと‥‥これらの事情を比較考量すると、原告が参加人からの午後五時からの本件食堂の使用申出あるいは屋外集会を許可しなかったことについて、原告の権利濫用と認められるような特段の事情があったとはいえ‥‥ない」と判示。
 要所は「屋外の集会については必ずしも業務上の支障があったともいえない」としながら「就業中の従業員が集会に気をとられ、職務に専念することができないなどの事態も予想しえないだけでなく‥‥」という理由で不許可が正当化されており抽象的危険説をとっていることである。必ずしも業務上の支障があったとはいえないということは無許可組合活動を正当化することにはならないのである。

 オリエンタルモーター事件 最二小判平7・9・8日『労働判例』679号
http://web.churoi.go.jp/han/h00640.htmlは食堂利用拒否が不当労働行為に当たらないとしたものだが、「本件で問題となっている施設が食堂であって、組合がそれを使用することによる上告人の業務上の支障が一般的には大きいといえないこと。組合事務所を認められていないことから食堂の使用を認められないと企業内での組合活動が困難となること。上告人が労働委員会の勧告を拒否したことの事情を考慮してもなお、条件が折り合わないまま、上告人が組合又はその組合員に食堂の使用を許諾しない状況が続いていることをもって、上告人の権利の濫用であると認められるべき特段の事情があるとはいえず、組合の食堂利用拒否が上告人の食堂使用拒否が不当労働行為に当たるということはできない。」と判示し、やはり業務上の支障が一般的には大きいといえないことが組合活動を正当化する理由にはならないことを明らかにしている。

 このように、目黒電報電話局事件・最三小法判昭52・12・13民集31巻974頁 『労働判例』287号国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号という二つの指導的判例が抽象的危険説をとった意義は大変大きいのである。

 具体的な問題、前回取り上げた次の事案に即して若干検討してみたい。

事務室内の昼休み組合集会と示威行為

 私の職場(東京都水道局の営業所)における平成23年12月9日の事務室中央で昼休憩時間に行われた組合分会の集会(昼休みであっても2名のみ昼当番として上司の命令により勤務する、窓口のレジと電話当番である。昼休みであっても営業時間なのである、昼当番の休憩時間を午後1時以後にずらす勤務形態は労働協約で組合も認めている、演説者と勤務中の職員とは移動式パーテーションにより目隠しがされているとはいえ、同じ室内で約十mほどしか離れていない)集会は12時30分頃より約20分間であるが、12月14日2時間スト、21日1時間ストを構えた状況で、闘争課題を確認し意思統一を図るための集会という分会長の挨拶があり、闘争目的を演説(約6分-よく通る声)、次いで分会書記長の基調報告があり事前に配られた内容を読み上げ(約6分)、分会長が拍手により確認を要求し、拍手され、次いで組合員代表の決意表明(約3分)があり、最後に大声で分会長が「14日、21日ストライキに向け闘争課題を確認し、決意表明を受けました、最後に頑張ろう三唱で締めたいと思います」といったことを述べ、「団結用意」とかけ声があり、がんばろう三唱(示威行動)が行われた。(約3分)。
 この集会は開始直前に管理職に口頭で通告(事実上許諾)してなされたものである。庁内管理規程所定の書面で施設利用の許可の願出があったものではない。

 この事案についていえば、具体的危険説をとったとしても秩序を乱す行為、実害がある、業務阻害があったといえそうである。つまり窓口のレジ(料金支払い)、電話応対業務を行っている勤務中の職員の至近距離で、声を張り上げての演説、拍手、頑張ろう三唱の鯨波という示威行為がなされていることは、騒音になり電話応対・窓口応対の職員に声が聞こえづらくなるどの業務に支障があるといえるからである。
 にもかかわらず、組合活動に好意的な当局は、実際にはレジ業務も、電話応対も実際におこなわれ昼当番は仕事をこなしていることをもって実害はなかったと「現実かつ具体的に経営秩序が紊され経営活動に支障を生じる行為」ではないと言い張るだろうが、施設管理権・企業秩序定立権の指導判例たる国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号は、上記の具体的危険説をとらず、ビラ貼りが「組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼす」ことは本来の事業を能率的に運営する企業秩序維持の観点から「企業秩序を乱す」ものであるから、正当な組合活動であるとすることはできない。「本来の業務自体が直接かつ具象的に阻害されるものでなかつた等」の事情は「判断を左右するものとは解されない」と判示し、抽象的危険説を確立した判例であるから、当局が中止命令や警告ができないと言う理由には全くならないのである。
 すなわち組合集会の演説者は休憩時間であり昼休みにそれを行うことは労務提供義務違反、職務専念義務違反にはならないが、演説行為、拍手の要求、頑張ろう三唱のシュプレヒコールは、休憩時間をずらして勤務している昼当番職員の職務への専念を妨げるものであり、勤務中の職員がとらわれの聴衆の状況にあり、闘争課題について訴えやストライキを構えて決意表明は、組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼすだけでなく、違法行為の慫慂というべきものであり、たんに他の職員の注意力を散漫にする行為としても企業秩序を乱すものである。「抽象的危険説」では演説行為が、とらわれの聴衆にある勤務中の職員が集会に気をとられ注意力を散漫にさせ、職務専念を妨げるおそれがあるという理由だけでも、企業秩序を乱すものとして、中止命令、警告が可能なのである。
 にもかかわらず管理職は放置してなにが問題があるんだという態度である(24年3月8日同様の昼休み集会のさい、管理職が集会の間、席をはずして監視しない態勢をとったため、組合から集会時に監視しないよう事務室から出るよういわれているのかという質問には関係ない、監視しなくてよいのかという私の質問に「何か問題があるのか」とつっぱねた)国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号という立派な指導判例があり、判例として定着して三十年以上もたつのになぜこれを利用しようとしないのか。
 私がさらに強調したいことは、囚われの聴衆の状況で職務専念を妨げる至近距離での演説行為を排除しないことにより、騒音状況、注意力を散漫にさせる状況で働かせていることは(なおかつ違法行為の慫慂にさらさせて、争議行為に巻き込もうとしていることは)誠実労働義務に対する使用者側の信義則にも反するのではないかということである。組合と共謀のいじめの構造といってもよい。
 つまり誠実労働義務ないし忠実労働義務というのは、我が国だけでく、コモンローであれ、社会主義のソ連であれ、どんな国でも共通していえるものであって、従業員は職務にあたっては相当の注意力と技術を用いて誠実に職務を遂行すること義務があるのである。常識的なことであるが、使用者は職務専念義務、つまり相当の注意力と技術をもって職務にあたることを従業員に義務づけているのであるから、職務専念、注意力の妨げになる行為は施設管理権の発動により排除できるのに、それをあえて発動せず放置するということは、誠実に職務を遂行している従業員に対する信義則に反すると考えるものである。
 そういうと使用者は従業員に対して安全配慮義務やセクハラ防止措置をとる義務はあるかもしれないが、至近距離での演説、拍手、シュプレヒコールの雑音・騒音は直接あなたの身体に危害がないから、配慮する義務はないし、集団的労働関係のもとでは、あなた個人に適正良好な職場環境を求める権利すらないと反論してくるだろう。しかしそこまで言うとなれば施設内組合活動・争議行為・違法行為の慫慂に許容的ということは、逆に管理者としての資質が問われるのである。

【註1】河上和雄「企業の施設管理権と組合活動--昭和54年10月30日最高裁第三小法廷判決について(最近の判例から)」『法律のひろば』33(1)1980 【註2】高木紘一「政治活動の禁止と反戦プレートの着用-目黒電報電話局事件」『ジュリスト』666
【註3】近藤昭雄「協約自治の限界と政治活動禁止条項の効力-日本パルプ工業事件を中心に-『労働判例』229
【註4】石橋洋「企業内政治活動・ビラ配布の自由と企業秩序 : 目黒電報電話局事件・明治乳業事件判決を素材として」『季刊労働法』142 1987〔※ネット公開〕
http://hdl.handle.net/2298/14089
【註5】高木紘一 前掲論文 
【註6】座談会竹下英男・水野勝・角田邦重「企業内における政治活動の自由-横浜ゴム事件・東京高裁判決をめぐって-」『労働法律旬報』850 1974

2012/07/28

入手資料整理78

9723秋山泰雄「全逓の支部交渉権の経緯と最高裁六・三判決の投じたもの」討論「郵政労使関係と全逓の支部交渉権」青木・山本・秋山・建部『労働法律旬報』924 1977
9724樋口幸子「組合休暇の法的性格」全逓向日町郵便局事件大阪高裁判決(昭51・10・21)『労働法律旬報』923 1977
9725竹下英男「一九七四・職場の基本判例・命令/2政治活動の自由」野村晃「一九七四・職場の基本判例・命令/2ビラ貼り・ビラ配布、リボン着用行動の正当性」金子征史「一九七四・職場の基本判例・命令/2争議戦術の正当性」座談会竹下英男・水野勝・角田邦重「企業内における政治活動の自由-横浜ゴム事件・東京高裁判決をめぐって-」『労働法律旬報』850 1974
9726石井宣和「職場の労働判例・一九七二年の回顧と展望 争議戦術をめぐって」『労働法律旬報』823 1972
9727沼田稲次郎「スト権奪還闘争論-第二次ILO闘争の評価にふれて」中山和久「結社の自由委員会一三九次報告」片岡曻「『ILO闘争』の意義と到達点-ドライヤー報告から八年」『労働法律旬報』848 19749728関西電力事件最一小判昭58・9・8『労働判例』415
9729横井芳弘「企業秩序と労働者の表現の自由-関西電力事件最一小判昭58・9・8」『労働判例』417
9730労働判例評釈集6『争議行為・官公労』東京大学労働法研究会 有斐閣1983

定期購入分
松尾邦之『消防職員の団結権問題の動向-消防職員の団結権のあり方に関する検討会報告書を中心に『労働法律旬報』1765 2012・4月上旬

西谷敏「公務員組合攻撃の意味するもの-橋下大阪市長による組合攻撃の法的問題点と社会的背景」『労働法律旬報』1769 2012・6月上旬
以下同号記事 浦部法穂「民主主義が民主主義を滅ぼす」
大阪市職員強制アンケートに対する反撃=北本修二
橋下市長はアンケートの違法性を認めて謝罪せよ=増田尚
大阪市の電子メール調査事件について=喜多鉄春
捏造リスト問題=七堂眞紀
「大阪市政における違法行為等に関する調査報告」を批判する=城塚健之
組合事務所問題―市労連(自治労)=藤原航1
組合事務所明渡問題―大阪市労組(自治労連)・市労組連(自治労連ほか)=谷真介
大阪市によるチェック・オフ廃止問題=定岡由紀子
今、大阪で起きていること そして、これからの取組み=高橋篤
橋下・維新の会による市民のくらし破壊・労働組合つぶしと対決する職場、地域からのたたかい=中山直和
①労使関係に関する職員のアンケート調査(大阪市 2012.2.9)
②大阪市・思想調査アンケートに対する諸団体の声明・意見書等
③思想調査アンケートによる被害回復と労使関係の改善に関する申入書(民主法律協会 2012.5.23)3
④大阪市職員「アンケート」実態調査報告書(民主法律協会 2012.5.23)
以上『労働法律旬報』1769 2012・6月上旬
星野豊「大阪府『教育基本条例案』の特徴と問題点」『月刊高校教育』45巻6号 2012-5

山田徹「土岐頼康と応安の政変」『日本歴史』769 2012-6
 南北朝・室町期の公武関係史。崇光院流と後光厳院流の皇位継承争いについては『椿葉記』で知られていることだが、その背景を解説しているので興味をもった。
 斯波氏失脚(貞治の変)、将軍義詮薨後の将軍権力空白期に在京の宿老のなかでも有力な大名であった土岐頼康(美濃・尾張守護)は崇光上皇近臣の今出川公直(栄仁親王の乳父)と有縁で、貞治六年に崇光上皇に室町邸が進上され、上皇の政治的立場が急に浮上するのも、頼康をはじめとする武家の合意形成があったためとする。そして崇光皇子が親王宣下(貞治七年正月1368年)を受ける。伏見宮家の祖とされる栄仁親王である。この時点で皇太子は立てられておらず、後光厳天皇の皇子は親王宣下すら受けてない(後円融天皇となる緒仁親王の親王宣下は康暦元年四月1379年のことである)従って親王宣下=皇位継承者ではないけれども、この時点で栄仁親王が武家の合意形成もあり最有力候補となったという見方をとってよいと思う。要するに伏見宮家は皇位継承のそなえとしての宮家として始まったものではない。そもそも伏見殿と称される崇光上皇が持明院統の主要所領、長講堂領や法金剛院領、熱田社領などを相続し嫡流の立場にあった。後光厳天皇は母の広義門院領を相続しただけなのである。
 ところが、延暦寺の嗷訴の対応をめぐって土岐頼康と執事細川頼之が対立し、さらに細川頼之が皇位継承者に後光厳皇子を支持したことで決定的対立となり、土岐頼康は武力対立を避けるため応安三年に離京、分国へ下向し失脚するにいたったというのである。

尾藤正英「天皇機関説のトリック」『日本歴史』769 事件の意味は大日本帝国憲法第四条を実質無効にする狙いと説く。

渡辺あゆみ「『郢曲相承次第』成立の背景」770 2012-7 
綾小路敦有が伏見宮家の祖とされる栄仁親王の元服時に崇光上皇に注進した楽書についての研究だが、伏見宮家が文化事業の継承に果たした役割は大きいということはいうまでもない。

 開会式を見て思ったこと

スポーツの教育分野における男女平等という観点で合衆国の公民権法タイトル9がたぶんもっとも先進的だと思う。カレッジスポーツでは男子のアメフトやバスケットが花形であり、男子スポーツに財政的にも運動場利用でも優先されていた既得権に踏み込むものだからだ。我が国ではそういう発想はあまりない。あいかわらず男子のための高校野球がメディアの露出も多く、男子の部活動の既得権が優先され、女子の部活動は差別されている印象がある。
 しかし、私は教育分野での男女平等に反対である。今年から教育課程の改定で中学校の体育で武道とダンスが男女とも必修として男女平等としたが、これはばかげている、男子に必修でダンスをやらせるという発想は、男性を軟弱化させるし侮辱のように思える。
 ロンドンオリンピック開会式(選手行進から見た。それ以前の歴史絵巻ショーhttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120728-00000518-san-spoは見てない)で不快だったのは全競技で女子実施により男女平等を推進するというIOC会長のスピーチ。競技スポーツの門戸を開くことと教育と同列に論じられないが、良いものだと思わない。女子のアマレス、柔道、サッカー、ボクシングといった本来男性向きと思えるスポーツも我が国ではおなじみだが、見たいと思わないし、心の底では快く思ってない人も少なくないはず。
潮田玲子は見たいと思うが、川澄とか「港川原人」とか異性としても興味がもてないから。
 また、ふと思ったことだが、男子野球と女子ソフトボールの組み合わせが男子が硬式、女子がソフトで性差別的なので全競技男女実施の方針にあわずオリンピックでは斬られたのかもしれない。
 
 男子はビジネスクラス、女子はプレミアムエコノミークラスと分かれたことに澤穂希選手は「席が逆じゃない?」と不満をのぞかせたとの報道があるが、http://irorio.jp/yuukashimoda/20120720/19406/ら女性は一歩下がって、男性を立てるべきである。そうでなければ「なでしこ」とは言えないのではないか。

 開会式を見て以前と全然変わらないものがある。それはアメリカ女子選手団の膝下丈スカートである。アメリカはヨーロッパと違って保守的でミニスカートを快く思ってない人が多いので、ミニスカートは着ない主義のようだ。

2012/07/25

入手資料整理77

9718明治乳業事件福岡地裁小倉支部判決昭51・12・7『労働法律旬報』929
(具体的危険説)
9719明治乳業事件福岡高裁判決昭55・3・28『労働判例』343
(特別の事情論)
9720明治乳業事件最三小判決昭58・11・1『労働判例』417
9721横浜ゴム事件東京高裁判決昭48・9・28『労働法律旬報』851
(抽象的危険説)
9722近藤昭雄「協約自治の限界と政治活動禁止条項の効力-日本パルプ工業事件を中心に-『労働判例』229
日本パルプ工業事件鳥取地裁米子支部判決昭50・4・22『労働判例』229
(具体的危険説)

2012/07/22

入手資料整理76

9713全逓横浜中央郵便局事件・東京高裁〔差戻審〕判決昭47・10・20 『労働判例』822号
 公企体職員の争議を可罰的違法性なしとしながら、ピッティングは相当限度を越えた違法があるとして威力業務妨害罪の成立を認めた例
 
9714東洋ガラス解雇事件 横浜地裁川崎支部決定昭43・2・27 『労働関係民事裁判例集』19巻1号161頁
休憩時間中に従業員及び下請け従業員に署名を依頼したことが就業規則所定の解雇理由である「やむを得ない会社の都合によるとき」に当たるとした解雇が、権利濫用として無効とされた例(具体的危険説であるが署名活動禁止の明文の就業規則がなかったことが会社側に不利な判断となっている)

問題とされた行為とは(1)、自己の休憩時間中、同僚のYに対しに交通料金値上げ及び国鉄による米軍ジェット燃料輸送反対の署名を依頼し、署名用紙を同人のポケットに差し入れたが、その際Yは検品作業中だったなど。(2)と(3)は略。

「被申請会社は、危険防止上、ビラ配付、署名活動等の行為は、工場内では時と所を問わず、これを行わないことが不文の職場規律とされていた、旨主張するが、使用者は元来労働者に休憩時間を自由に利用させなければならない(労働基準法第三四条)ものであるから、職場規律保持上これに制限を加えるのはやむを得ないとしても必要の限度内にとどめるべきは当然であり‥‥‥‥仮りに休憩時間中におる従業員の行動に職場規律違反があったとしても、右休憩時間自由利用の原則を尊重し、実害の有無等諸般の事情を適正に評価して対処すべきものである‥‥‥‥前記のような性質の文書の署名活動を休憩時間中にもしてはならない旨の不文の規律が職場に確立されていたと認められる疎明はなく、文書の性質いかんを問わず署名活動を許さない職場規律があったとすれば、休憩時間自由利用の原則からみてもその当否は甚だ疑わしい‥‥‥‥してみると申請人が自己の休憩時間中に、休憩中の他の従業員に対して、署名を求めた‥‥行為はなんら咎むべきものではない‥‥‥‥(1)の行為については、申請人が作業中の吉田に対して行ったものであるから、職場規律違反といえようが、申請人は、単にYに声をかけ、署名用紙をポケットに差し入れたにすぎず、そのことによってYの業務が妨害され、実害が生じたとは認め難いから、比較的警備な違反行為というべきである。‥‥‥‥単にこの一時をもって解雇するのは‥‥‥‥苛酷な処置といわなければならず、到底これに被申請者主張の「やむを得ない会社の都合」があるとはみられない」

9715間谷製作所解雇事件 東京地裁決定昭42・7・28 『労働関係民事裁判例集』18巻4号 846頁 (政治活動を理由とする解雇を無効とした。抽象的危険説とされている)

「就業規則五九条、三九条九号に触れる債権者の政治行動を通観すると、債権者は参議院議員選挙の投票日(七月四日)をひかえた五月下旬から六月下旬にかけ、同僚等に対してベトナム戦争反対の署名活動及び日韓会談反対のデモへの参加勧誘をしたほか,日本共産党の政策を宣伝し、また同党候補者野坂参三への投票を依頼したに尽き‥‥‥‥いずれも単独に大げさな形でなく行ったものにすぎずぎないのみでなく、これによって従業員の休憩時間の自由利用を害し、作業能率を低下させ,会社の施設管理を妨げる結果をきたす等、著しい実害があったものではないから、会社職制の注意にかかわらず行ったものである点を考慮しても、なお懲戒処分として解雇をもって臨むのはあまりにも酷にすぎる」

9716三菱電機静岡製作所事件・静岡地裁判決昭51・10・28『労働法律旬報』921 1977(休憩時間中に人目につかない更衣室内で行われた健康保険改悪反対・国鉄運賃値上げ反対等の請願書への署名活動に対する譴責処分を無効とした例)

「一般に報道・宣伝・募金・署名運動等は、不特定多数の従業員を対象として行われることが予想され、就業時間中であると休憩時間中であるとを問わず、これらの行動が会社の管理する企業施設によって行われるときは、その管理を妨げる虞れがあり、就業時間中に行われるときはその労働者のみならず他の労働者の労働義務の履行を妨げ、ひいては作業能率を低下させる虞れがあり、更に、これらの行動が特定の主義・主張・信条・宗教等にもとづいて無制限に行われるとすれば、従業員間で不必要な緊張や反目を生じさせる虞れがあり、ときには、これが原因で、従業員間の融和の崩壊や勤労意欲の減退を招き、ひいては会社内における秩序維持や生産性の向上にまで支障をきたす虞れがある。従って、このような事態を避けるためにも、被告は、自己の有する施設管理権及び構内秩序維持権に基き、会社構内における署名活動等の規模・態様・場所・時間・期間等を事前にチェックする権利を留保する必要があるのであり‥‥‥‥許可制という形で会社の判断権を留保するに留めることは社会通念上も許容される」
 ここまでは良いと思うが、結論として譴責処分は懲戒権の濫用で無効とした。特徴的なことは、会社が休憩時間中に同じ資本系列の保険会社外交員による保険勧誘を許可し迷惑と思っている従業員もいる、また企業ぐるみ選挙運動もやっているのに、ことさら本件の署名活動を譴責処分というのは相当性を欠くという理由が付け加えられていることである。職場秩序維持という観点から、一方で署名・募金活動を許可制としながら保険勧誘などを容認したりしていると、無許可署名活動等を理由とする処分がやりにくくなるという点でも問題があることを示唆しているといえるだろう。
 「本件署名運動によって、他の労働者の休憩時間の自由利用を妨げたり、作業能率を低下させることはなかったことは勿論、企業内の秩序を乱したり、従業員間に不必要な対立抗争を生じさせたり、融和の崩壊や勤労意欲の減退を招いたりすることは全くなく、本件署名運動自体によって、署名を求められた従業員は勿論のこと、被告自身も、何ら具体的な実害を蒙らなかったことは明らかである。‥‥被告は、従前より、同じ三菱系の生命保険会社である明治生命の外交員が、休憩時間中に、被告会社の従業員に対して、生命保険の勧誘行為をなすことを許可しているのであるが、右外交員が、一度断れても執擁に何回にもわたって勧誘行為を続けることがあり、従業員のなかの一部に、右のような勧誘行為は迷惑だと感じている者もいる事実が認められる。‥‥休憩時間の尊重を説く被告自らが、同じ資本系列の外交員に、休憩時間中に被告会社の従業員に対して保険の勧誘をなすことを許可し‥‥迷惑だと感じている者もいることを考えれば‥‥本件譴責処分をなしている被告の態度には、何か割り切れないものを感じる‥‥本件署名運動が、被告が日頃共産党系の積極的な活動家としてマークしていたUらの影響のもとでなされたものであるため、会社にとって不都合な署名活動であるとして、本件譴責処分をなしたのではないかとの疑問も拭いきれない。‥‥被告は、昭和四九年六月に実施された参議院議員選挙において、選挙運動期間中、他の三菱系各社と協力のうえ、自由民主党の候補者Sを当選させる目的で企業ぐるみで支援し‥‥静岡製作所では、昭和五〇年四月に実施された静岡市議会議員選挙に際し、選挙運動期間中、同選挙に立候補した三菱電機労働組合静岡支部執行委員長Wを当選させる目的で、静岡製作所ぐるみで支援し、‥‥人事担当者は就業時間中に、会社に無許可でW後援会の入会のしおりが配布されているのを知っていたにも拘わらず、関係者になんの処分もしないで放任していたばかりでなく‥‥職制も、自己の部下に対して、右選挙事務所へ応援に行くよう要請した‥‥右のような諸事実を総合すれば、本件譴責処分は、社会通念上、処分の相当性を逸脱しているものというべく、懲戒権の濫用として無効と解すべきである」
 
 9717 竹下英男「休憩時間の署名活動の自由-三菱電機静岡製作所事件を中心に-」『労働法律旬報』921

2012/07/21

都交通局課長逮捕記事に思う

 足立区西綾瀬で「都交通局課長を逮捕=女性の下着盗もうとした疑い」(7/20時事)という記事http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2012072000836がありこれは本日発売の日刊ゲンダイで知った。この課長の担当部署も報道されている。しかし今年の2月28日午前1時5分ごろ、東武東上線東松山駅で、自分のクレジットカードが 券売機で使えずに憤慨、事情を説明した駅の男性助役の顔を殴って逃走した水道局課長補佐の事件については課長補佐がどこの部署かは報道されてない。MSN産経などで報道(現在はネットでは記事を消えているが引用記事は残っている)http://twitter-news.sakura.ne.jp/e/112855
 いずれも逮捕された職員は否認しているわけだが、同じ都の企業局なのに局によって報道内容が違うのは記者がつっこまないのか、発表基準が違うのか判然としない。その人の上司に累が及ばないようにしているのかもしれないが、その必要はないのではないか。

東スポに賛成-アマ+日本人メジャー混成でWBCに出る

 選手会のWBC拒否が議論を呼んでいるがhttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120721-00000002-jct-sociもちろん私はストライキが嫌いなのでよろしくないと思う。もっとも労働組合の選手会が一般企業と異なる事情にあることは承知している。プロ野球選手は保留条項により転職の自由が奪われていることである。1972年フラツド事件連邦最高裁判決で、保留条項がシャーマン法(反トラスト法)違反か否かが争われたが、ブラッククマン判事の法廷意見は、国民の娯楽である野球は例外とする1922年の判例を維持した。
 つまりプロ野球機構それ自体がお互いの取引を制限しあう団結体(広義のトレードユニオン)であるから、団結に対して団結で対抗せざるをえないという理屈はあると思う。
 しかし選手会のWBC出場拒否宣言は闘争宣言とほとんど同じように思え不愉快である。2004年に選手会がストライキしてから嫌気が野球はほとんどみてない。というより週休二日制になつた90年代以降、野球場にもいかなくなった。こんなことじゃ野球離れが加速するんじゃないか。
 本日発売の東スポ一面は「WBC出る!!アマ・日本人メジャー混成軍」とあるが、なかなかよい記事だと思った。アマにも逸材はいるしイチロー、ダル、ゴジラ、菅野、東浜が一丸になれば十分勝負なるという見立てだ。選手会に加入してなかつた落合あたりに監督をやらせて悪くないと思う。
 東スポは木曜日も「放送事故 みの番組「セクハラ」奇声女性の正体」一面で買ったし、その前も「落合ジャパン28人発表WBC監督への布石」も買った。その日(7/19)の16面「危ないウワサ」が面白かった。戸田恵梨香と綾野剛の交際報道があつたが、女性誌の取材に父親が意外な元カレを明かしてしまったというのだ。関ジャニの村上信五は知られていたが、なんと松山ケンイチと2年もつきあっていたというのである。戸田恵梨香とニ年も交際した上に、小雪と結婚というのは羨ましすぎる。もてる男はもてると言う典型例である

2012/07/15

入手資料整理75

1-91高柳信一, 藤田勇 編『資本主義法の形成と展開. 1 (資本主義と営業の自由) 』東京大学出版会1972「営業の自由」と近代法(渡辺洋三) 「営業の自由」と所有権観念(藤田勇) 資本主義と「営業の自由」(岡田与好) イギリス市民革命と法-所有と法をめぐる抗争を中心として(戒能通厚) フランス革命と「営業の自由」(稲本洋之助) 初期市民刑法における自由と人権の諸規定-1791年のフランス刑法典の構造と論理(桜木澄和) フランスにおけるConstitutionのありかたとdirigismeの観念-フランス現代憲法学の批判的検討のための予備的一考察(樋口陽一) 「営業の自由」Gewerbefreiheitの立法史的考察-「10月勅令」と改革立法をめぐって(田山輝明)

1-92高柳信一, 藤田勇 編『資本主義法の形成と展開. 2 (行政・労働と営業の自由)』東京大学出版会1972「営業の自由」と営業警察-ドイツの公権論争の諸前提(宮崎良夫) ドイツにおける「営業の自由」と団結権の形成(手塚和彰) フランスにおける「労働の自由」と団結(田端博邦) アメリカにおける「営業の自由」と団結権(坂本重雄) イギリスにおける「団結禁止法」および「主従法」の展開(松林和夫) 「営業の自由」とコンスピラシー(石井宣和) イギリスにおける「価格所得法」(下山瑛二)

以下の3つはプロレイバーの著作
1-93片岡曻『労働組合法の争点』総合労働研究所1971
1-94本多淳亮『業務命令施設管理権と組合活動』労働法学出版1964
1-95峯村光郎『経営秩序と団結活動』労働法実務体系1 総合労働研究所1969

1-96木下武男『日本人の賃金』平凡社新書1999
 アメリカの職務給について比較的詳しく解説している。
1-97山田久『賃金デフレ』ちくま新書2003

1-98マーサ・ヌスバウム著河野哲也訳『良心の自由 アメリカの宗教的平等の伝統』慶應義塾大学出版会2011 ネイティブ・アメリカンの宗教の自由が争点になった雇用部門対スミス判決のスカリア法廷意見を批判。少数派の宗教的自由に関する著作。

1-99 所功『皇室典範と女性宮家』勉誠出版2012

1-100G・バラクロウ著 藤崎衛訳『中世教皇史』八坂書房2012
 グラティアヌスの教皇の教皇の司法的権威の支持により、12世紀中葉に教皇庁の司法化が急速に進んだ。その立役者が教皇アレクサンデル3世(位1159~81)であり、この本によると枢機卿会議は平日の毎日おこなわれた。訴訟内容を聴取して裁定を下すためである。それが週3回に減らされたのは13世紀初期のインノケンティウス3世の時代だという。
 ノウルズの『キリスト教史』(3)(4) (平凡社ライブラリー) 1996が教皇アレクサンデル3世をが法律と行政の天才であり、政治家としての力量も高く評価しているのを記憶している。教皇首位権確立のため不屈の闘志で皇帝フリードリヒ・バルバロッサと長期に及ぶ抗争を行い、ヘンリー2世をノルマンディーに召還し、皇帝フリードリヒ・バルバロッサをベネチア・サンマルコ広場で跪かせた。実態はともかく、教会の霊的裁治権の独立を保持したことの業績である。
 しかしバラクロウのこの本はアレクサンデル3世に批判的である。皇帝との対立は、グレゴリウス7世の叙任権闘争とは性格を異にし、本質的にはイタリアの領域的権力をめぐる闘争であったとし、同教皇が長期にわたってフランスに逃れていたこともあり、教皇のものとなるべきだった収入の大半を手放さざるを得ず、教皇財政が惨憺たる状況となった。教皇庁の役人のほとんどが給与を受け取っておらず、謝礼で生計を立てたので、賄賂の横行の要因となったというのである。
 しかしバラクロウとてアレクサンデル3世が教皇君主権の基礎を据えた教皇であることは認めており、バランスをとった見方が肝要であると考える。
1-92大内伸哉『労働の正義を考えよう-労働法判例からみえるもの』有斐閣2012
1-93三井正信『基本労働法Ⅰ』成文堂2012
1-94若尾祐司・井上茂子『近代ドイツの歴史』ミネルヴァ書房2005
1-95E.コルプ柴田訳『ワイマール共和国史』乃水書房1987
1-96中野育男『スイスの労働協約』専修大学出版局2007
9702高木紘一男「政治活動の禁止と反戦プレートの着用-目黒電報電話局事件」『ジュリスト』666号
9703諏訪康男「労働者の調査協力義務-富士重工業事件」『ジュリスト』666号
9704日本エヌ・シー・アール株式会社出勤停止事件控訴審判決東京高裁52.7.14『判例時報』868号
9705東京新聞争議事件東京地裁昭44・10・18判決労民集20巻5号1346頁
9706全逓東北地本役員懲戒免職事件労民集26巻5号1017頁
9707国鉄ビラ貼り損害賠償事件(動労甲府支部事件)東京地判昭50・7・15労民集26巻4号567頁
9708中日放送懲戒解雇事件労民集26巻5号764頁

9709清水潤「ロックナー期憲法判例における「残余としての自由」」『一橋法学』10巻1号2011-3〔※ネット公開〕http://hdl.handle.net/10086/19264
 ロックナー修正主義の学説を紹介、批判的に検討し著者自身の見解をまとめたもの。ロックナー修正主義とは、従来の戯画化された通説的見解(ホームズ判事の反対意見を過大評価し、この判決は社会ダーウィニズムに基づく適者生存、レッセフェール政策という特定の経済理論を信奉する裁判官によって資本家の利益に味方した判決である)のような判例理解の誤りを是正し、ロックナー判決を積極的な意味で再評価するものである。著者のいう「残余としての自由」とはギルマンやフィスの学説である。
 ギルマン説-ロックナー法理論を政府権力に制限を課す「公共目的の法理」によって説明している。権力の行使を共同体の一般利益のためのものに限定し、共同体の一部の利益を目的とするクラス立法は違憲と判断されるというものである。1937年の判例変更はまさに革命であり、公共目的の法理を廃棄したものとするのである。
 「自由とは不法な立法による介入の不存在」として説明され、自由を積極的権利として擁護する司法積極主義とはニュアンスが違う。立法目的を絞る司法審査により、個人の広範な自由を保護するというものだ。それが「残余としての自由」という概念である。
 なるほど、ロックナー判決は立法目的の審査で違憲判断している。州の主権には公衆の安全、健康、道徳および一般的福祉に関するポリスパワーがあり、正当な立法目的であれはポリスパワーを行使できる。しかし当該ニューヨーク州労働法は「州議会による干渉を正当化する論拠を構成するにはあまりにも薄弱である。その人が1日10時間働くのは結構であるが、10時間半ないし11時間働くと彼の健康は危うくなり、彼がつくるパンも健康に悪いものになるだろう、それゆえ、彼がそうするのは許されるべきではない。われわれが考えるに、これは不合理であり、まったく恣意的である」(亀本洋『法哲学』成文堂2011 223頁)
 フィス説-社会契約論に基づき政府的権威を構成的権威であるとし、自発的結社と同じく列挙された特定の目的のために創造されたものであって、政府権力の行使は内在的制約があるとするものである。ニューディール以降の国家は構成的権威ではなく、親子関係、領主と農奴のような有機的権威に変質し、内在的制約が課されなくなったとする。
 バーンスタイン説-ギルマンのクラス立法敵視説を批判する。ロックナー判決は「残余としての自由」ではなく、契約の自由をはじめとする明文なき基本的権利の保障という観点から法令の合憲性を厳格に審査したものとする。
 著者の説は、戯画化された通説理解が通用しないのは当然として、修正主義者の研究成果をそれなりに認めつつも、アメリカの修正主義者よりも慎重な議論を展開し、ロックナー期の判例とは、ギルマンのクラス立法禁止が指導理念だったとする.説を否定した上に、自由の理念も決して尊重されていたわけではなくそれゆえ合憲判決も多かった。今日のリバタリアン的な法理論とはかなりちがう、少し逆説的なものであつた。
 つまり、著者によればロックナー期の法理論は公益が自由に優越することで譲ることはなく、自由の広範かつ過度の制約を許容していた。それはロックナー期の判例が、目的審査と手段審査の2段階審査はなく、目的審査だけだったというのである。立法目的は正当だが手段が自由を過剰に侵害するために違憲とするという思考はなかったとする。ロックナー判決は立法を公共目的のものとそうでないものに区別する作業を行い、手段審査は立法目的を振り分ける作業の一部にすぎず、1917年のバンディング対オレゴン判決が立法目的が健康の維持という正当なものと認定された後は、時間規制が健康の維持にとって関係ないという主張をほとんど検討していないのもそのためであるとする。
 論文は意外な展開であったが、いわれているよりもロックナー期には経済的自由を規制する立法の合憲判決が多い理由を明らかにしたことでは業績だと思う。
 結論として、ロックナー期の判決は、経済的自由にかかわる事案で、ニューディール以降より立法目的の審査で合憲となる範囲を絞っていたというだけだ、積極的自由擁護ではないということになっている。しかし私は、修正主義者が強調した「クラス立法」敵視説などにも関心をもっており、著者が指摘するほど軽視できないのではないかと思っている。それは、黄犬契約禁止州法違憲判決であるコッページ対カンザスはその底流のもとでの判決だと思うし、労働争議差止命令禁止州法違憲判決であるツルアックス対コーリガンではタフト長官がクラス立法に言及しているはずだ。もう少し積極的な意味でロックナー期の判決を再評価しなければ面白くない。

9710木南敦「ロックナー判決における自律と自立(一)」『民商法雑誌』146巻1号2012-4
 清水潤の論文ほど難しくない。ロックナー判決の背景としては、クラス立法敵視などの立憲思想については言及はなく、たんにフィールド判事がデュープロセス条項をてがかりに議論を展開した「自由労働」の理念に言及している。「自由労働」の理念についてはサンデルの著作の翻訳でも言及されていたが、本格的な紹介はたぶんこれが初めてではないか。これは、イギリスに「営業制限の法理=営業の自由」があり、フランスに「労働の自由」、第1次大戦前のドイツにも自由主義的思想はあったし、それらと並べて説明すれば世界的な自由労働理念を網羅することができるだろう。
 この論文では問題のニューヨーク州法の制定過程、内容、当時のパン製造労働の実態について比較的詳しく説明したうえで、ロックナーが起訴された経緯、州裁判所の一審、控訴審、最上級裁判所の判断までについて比較的詳しく説明しておりこれも初めての業績だと思う。
 1905年の連邦最高裁判決については次回以降になる。
9711西谷敏『ドイツ労働法思想史論  集団的労働法における個人・団体・国家』日本評論社
1987
9712田山輝明「ドイツ民法の形成と営業令 : BGB第六一八条論」『早稲田法学会誌』21巻1971〔※ネット公開〕http://hdl.handle.net/2065/6285

男子サッカーが上等な席は当然だ

 16日に男子がビジネス、女子はプレミアムエコノミーに分かれてロンドンに向かうという。これに「関塚ジャパンはなでしこにビジネス席譲るべきと女性作家指摘」http://news.nifty.com/cs/sports/athleticdetail/postseven-20120714-128731/1.htmとバカげたことを言ってる記事がニフティニュースで出ていたが。男子サッカーが圧倒的にメジャーなスポーツで、女子サッカーはマイナー。格の差は当然だろ。大相撲に対する女相撲とはいわないが、名人戦と女流名人戦ぐらいの差があるものと思ってる。

2012/07/14

コンスピラシーは悪だと教えない文化が問題だ

 基本的に関心はないけど、大津市立中学での「いじめ」事件http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120714-00000032-mai-sociで同級生3人が刑事告訴される報道されてるが(本日の産経記事)、少なくともこの事件というか「いじめ」といわれるものの大半は、1人対数人であり、ある人を害するか道徳的に反することを複数人がしめしあわせてたくらむものである。つまりコンスピラシーというのが本質であると思う。

 中学生の社会といっても、ある意味で大人の社会の縮図という側面があるとおもう。そもそも労働組合それ自体が使用者と労働者個人が自由な取引を行うことを制限するコンスピラシー、ピケッティング等の団体行動は他者の権利を侵害するコンスピラシーなのであり、コモンローでは共謀罪とされていた。
 ところ不法行為免責されたため、共謀が悪であるが是認される世界となったのが20世紀である。
 したがって複数人がしめしあせて他者の権利を侵害する目的で人をはめることが悪とはいいづらい社会になった。それが根本的な問題なのであって、人をはめて、財産権や労働の自由を侵害するのが団結権・団体行動権の行使だというのがプロレイバー労働法学である。そういう悪質な思想が一定の支持を得ている社会である以上、学校で「いじめ」があっても当然であり、他者の権利を侵害する目的の結合も結社の自由であるとされ、共謀罪というものが否定されている以上「いじめ」はなくならない。
 争いごとが一体一の場合は、いじめられたほうが弱いというだけで、同情することもないだろうが、敵対者が第三者と結託してしめしあわせた場合は、困難をはねのけることが難しい状況になりやすい。敵対者を攻撃する目的で第三者と共謀することを悪だと教えていないことが問題なのである。
 前近代社会の「村八分」や「打ち壊し」もコンスピラシーである。「村八分」されるほうが悪く、「打ち壊し」される商人の方が悪いとされるのである。この趣旨では大勢に逆らっているのでいじめられる方が悪いのである。近代社会である以上そういう文化は否定されなければならない。
 もっとも社会生活では当然争いごとがある。それを否定する必要はなく、中学生でも同じことだが、第三者からの害意から個人は自由であるのが本当の自由社会であり、そのために「共謀罪」が必要だ。

2012/07/12

7月8日コーク兄弟の資金集めパーティにロムニー出席

 本日発売の日刊ゲンダイに7月8日にニューヨーク州ロングアイランド東部の保養地Hamptons(ゲンダイはサザンプトンと表記)にあるデイビッド・コークの大邸宅で、ロムニーも出席して資金集めパーティー開かれことと、抗議者がデモ行進したことを報じた。
 パーテイー参加費は一人5万ドル(400万円相当)カップル7万5千ドル、この日だけで300万ドルを調達した。http://www.csmonitor.com/USA/Elections/From-the-Wires/2012/0709/Koch-Brothers-N.-Y.-fundraiser-for-Mitt-Romney-draws-protestors
 反対デモの方がうさん臭いじゃないか。ウォール街を占拠せよ運動、ハードストロングロングアイランドプログレッシブ連合、グリーンピースなどだ。http://www.cbsnews.com/8301-503544_162-57467798-503544/liberal-group-to-protest-romney-koch-fundraiser/沿岸警備隊や騎馬隊がデモ隊から守るために動員されたようだ。http://bostonherald.com/news/us_politics/view/20120709protesters_raise_cloud_of_sand_as_romney_raises_3_million_in_ny
 コーク兄弟について私は高く評価しているので昨年6月のブログを見てください。http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-5142.htmlデイビッド・コークがオバマを「史上最も急進的な大統領である。これまでのいかなる大統領よりも自由市場のシステムや長期的な繁栄に対し多くの損害をもたらしている」と語っているように、オバマに対する敵対心が明確であり、オバマ再選阻止のため相当頑張るものと思われる。
 

2012/07/10

なにが十万人集会だ

 本日午後、組合本部から七月一六日の原水禁や大江健三郎などの有識者が呼びかけている「さようなら原発1000万人 アクション」主催代々木公園における「さようなら原発10万人集会」の内容についてファックスが流されてきた。些末なことだが、組合活動でのファックス、グループウェア利用については、労働協約があるのか、いかなる根拠かが不明なので質問する予定である。
 池田信夫が官邸前の「大飯原発の再稼働阻止」デモを「愚者の行進」と言った。http://agora-web.jp/archives/1468860.htmlよくぞ言ってくれたものだと感心するが、私も同感である。「エネルギー供給を止めろ」と訴えるのは余計なお世話であって、関西の製造業は海外にシフトせよと言っているのも同じ。「家電も半導体も巨額の赤字を出し、もうサムスンやファーウェイの背中も見えない」というのに。このデモの実体については私はよく知らないが自発的に集まった人が多いと報道されている。
 これに対して、「さようなら原発10万人集会」の方は内橋克人 大江健三郎  落合恵子 鎌田慧 坂本龍一が呼びかけ人になっているが原水禁が事務局なので、組織動員がある、水道局の組合も全労協系(社民党系)なのでお呼びがかかっているということだろう。

2012/07/08

カード 国労札幌地本事件最高裁判決の意義(3) 企業秩序定立権について-その1-

カード 国労札幌地本事件最高裁判決の意義(3) 企業秩序定立権について-その1-

   第一回http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/post-359d.html
   第二回http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-5017.html

 国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号では「企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のもとにその活動を行うものであって、企業は、その構成員に対してこれに服することを求めうべく、その一環として、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもつて定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるもの、と解するのが相当である。」と判示した。
 この判例法理はさらに進展し、関西電力事件・最一小法廷判決昭58・9・8『労働判例』415号、『判例時報』1094号は「労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為等を理由として、当該労働者に対し、一種制裁罰である懲戒を課することができる」と判示した。
 三井正信によれば「最高裁は企業秩序論を展開して、一見したところ、企業秩序の定立・維持に関して広範な権限(企業秩序定立・維持権)を使用者に認め‥‥企業秩序に関連して、①規則制定、②指示命令、③回復指示命令、④調査、⑤懲戒処分などを使用者がなしうることになる。」【註1】

1 懲戒処分は就業規則に基づいて行う必要性

 
 第一の問題は就業規則に規定がなくとも懲戒処分ができるかということだが、学説、判例とも、純粋な固有権説とあくまで就業規則の記載が必要という見解に分かれている。
 菅野和夫は「企業秩序とその遵守義務とは企業および労働契約(当然の性質・内容)に根ざす当然の権利義務とされている」換言すれば「最高裁は服務規律を含めた企業秩序の全体を端的に企業と労働契約の本質の中に位置づけた」【註2】と述べ、このような立場は使用者は規律と秩序を必要とする企業との運営者として当然の固有の懲戒権を有するという「固有権説に属するものとみることもできる」【註3】とする。
 判例では、 関西電力事件・最一小判昭58・9・8が使用者は、労働者の企業秩序違反行為に基づいて懲戒権を行使することができるとして、とくに個別契約や就業規則に定めがなくても使用者の懲戒権が根拠づけられることを示唆した。これは懲戒権は労働契約に内在するものであって、特別な法的な根拠は必要とされない【註4】とするものである。 しかし国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30は、使用者は規則や指示・命令に違反する労働者に対しては「規則に定めるところに従い」懲戒処分をなしうるとしなしうるとし、フジ興産事件・最二小判平15・10・10『労働判例』861号、『判例時報』1840号は、懲戒権を企業運営者が本来有する企業秩序定立・維持権の一環であるが、規則に明定して初めて行使できるものと把握している。【註5】。
 つまり「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別、事由を定めておくことを要する。そして、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容の適用を受ける事業場の労働者に周知されている手続きが採られていることを要する」と判示している。
 もっとも、国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30は、日本国有鉄道の「就業規則六六条は、懲戒事由として「上司の命令に服従しないとき」(三号)、「その他著しく不都合な行いのあったとき」(一七号)と定めているところ、前記の事実によれば、被上告人らは上司から再三にわたりビラ貼りの中止等を命じられたにもかかわらずこれを公然と無視してビラ貼りに及んだものであって‥‥懲戒事由に該当するものというべきである。」とし国鉄法31条にもとづいて戒告処分を是認しているのであるが、「その他著しく不都合な行い」という抽象的な規程を根拠として戒告処分を是認しているのである。
 であるから、無許可ビラ貼りを禁止するという具体的な規程がなくとも、命令不服従等は懲戒事由となるという就業規則の規程でも十分ともいえるだろう。
 なお、厚生労働省はモデル就業規則http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/model/で「懲戒処分については、最高裁判決(国鉄札幌運転区事件 最高裁第3小法廷判決昭和54年10月30日)において、使用者は規則や指示・命令に違反する労働者に対しては、「規則の定めるところ」により懲戒処分をなし得ると述べられています。したがって、就業規則に定めのない事由による懲戒処分は懲戒権の濫用と判断されることになります。」と述べ、固有権説を否定しているが、そう言い切れるのだろうか。
 いずれにせよ、使用者側が就業規則を整備せず、固有権説に依拠して懲戒処分対象とするのは安全運転とはいいにくい。処分対象者に反論の余地を与えることになるからである。フジ興産事件・最二小判平15・10・10を無視できないので、管理者に対する不服従のみならず、具体的に演説・集会等の事例を列挙し無許可の場合は就業規則違反で、懲戒事由に当たることを明定しておくことが、よりリスクを回避する労務管理として望ましい。
 なお、地方公務員については地方公務員法第29条でこの法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合は、懲戒処分できるとしているから、条例、規則、規程違反ということで懲戒権者の裁量で処分が可能である。

  【註1】三井正信「労働契約法と企業秩序・職場環境」『廣島法學 』l Vol.33 no.2 .2009〔※ネット公開〕http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00027808
  【註2】菅野和雄『労働法』弘文堂 411~412頁
 【註3】菅野前掲書419頁
 【註4】石田信平「フジ興産事件最二小判平15・10・10」山川隆一・森戸英幸編著『判例サムアップ労働法』弘文堂2011 265~266頁
  【註5】菅野前掲書419頁

 そこで、どのような就業規則等をモデルとして検討すべきか。判例にあらわれた5例と、ネット上の2例を引用する。結論を先に言えばいずれも施設管理権の発動が可能という観点で合格点を与えられる規則である。

判例等で引用された各企業の就業規則等及びネットで公開されている就業規則の例

●  郵便局

○東京城東郵便局事件(東京地裁判決昭59・9・6『労働判例』442号
「‥‥郵政省庁舎管理規程七条は、「庁舎管理者は、庁舎等において、演説、ビラ等の配布、その他これに類する行為をさせてはならない。ただし、庁舎等における秩序維持等に支障がないと認める場合に限り、これを許可することができる。」と定め、また同第三条は、職員は、庁舎管理者が、庁舎管理上必要な事項を指示したときは、その指示に従わなければならない」と定められている

○ 全逓新宿郵便局事件 東京高裁判決昭55・4・30『労働判例』340号
http://hanrei.biz/h71540
郵政省就業規則及びその運用通達は、国有財産の使用に関する取扱いにつき、「組合から組合事務室以外の庁舎の一時的な使用を申し出たときは、庁舎使用許可願を提出させ、業務に支障のない限り、必要最小限度において認めてさしつかえないこと。」と規定しており、そもそも管理者はむやみに組合に許可をだしてはいけないことになっているわけである。

○ 郵政事業庁就業規則 http://www.d4.dion.ne.jp/~hhirokaz/shu.htm

第13条  (職場の秩序維持)
  1 職員は、上司の許可を受けないで、ほしいままに勤務を離れてはならない。
  2 職員は、休憩時間中であっても、職場を離れる場合には上司に届け出なければならない。
 3 職員は、みだりに勤務を欠いてはならない。
  4 職員は、みだりに他人を職場に立ち入らせてはならない。
  5 職員は、職場において、みだりに飲酒し、又はめいていしてはならない。
  6 職員は、職場において、他の職員の執務を妨げ、その他秩序を乱す言動をしてはならない。
 7 職員は、庁舎その他国の施設において、演説若しくは集会を行い、又はビラ等のちょう付、配布その他これに類する行為をしてはならない。ただし、これらを管理する者の事前の許可を受けた場合は、その限りではない。 
  8 職員は、庁舎その他の国の施設において、みだりに危険な火器その他の危険物を所持してはならない。
 9 職員は、庁舎その他国の施設における秩序維持等について郵政省庁舎管理規程に基づく庁舎管理者の指示に従わなければならない。

  第20条  (争議行為の禁止)
  職員は、同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をしてはならない。また、職員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし若しくはあおってはならない。

  第27条 (勤務時間中の組合活動)
  職員は、勤務時間中に組合活動を行ってはならない。ただし、次の各号の一に該当する場合において、あらかじめ所属長の承認を得た範囲内においては、この限りではない。
  一 交渉委員又は説明員として、団体交渉又はその手続きを行なう場合
  二  苦情処理機関の委員又は当事者として、苦情処理又はその手続きを行なう場合

第28条  (組合休暇による組合活動)
  職員は、前条ただし書に規定する場合のほか、次の各号に一に該当する場合において、あらかじめ組合休暇付与願を提出して所属長の許可を受けたときは、勤務時間中であっても、組合活動を行なうことができる。
  一  組合の大会、会議等に出席する場合
  二  その他組合の業務を行なう場合
2  前項の規定により許可される時間又は日は、組合休暇とする。

第30条   (組合休暇中の勤務及び給与)
  職員は、組合休暇を許可された期間中は、いかなる職務にも従事することができない。2  職員は、組合休暇の期間に係る俸給及び調整手当を支給されない

  第114条(懲戒)
 職員は、次の各号の一に該当する場合は、郵政省職員懲戒処分規程(昭和26年3月公達第33号)の定めるところにより、懲戒されることがあるものとする。

  一 国公法及び同法に基づく命令又は国労法第17条の規程に違反した場合。
  二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
  三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

第115条(懲戒の種類)
 懲戒処分は、次の四種類とする。
  一 免職
  二 停職
  三 減給
  四 戒告

  第116条(訓告)
 職員は、過失があった場合には、郵政部内職員訓告規則(昭和25年7月公達第83号)
の定めるところにより、訓告されることがあるものとする。

●JR東海

○JR東海就業規則(JR東海事件 大阪地裁平成12年3月29日判決『労働判例』790号)

二二条一項 社員は、会社が許可した場合のほか、会社施設内で、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配布その他これに類する行為をしてはならない。

二三条 社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で組合活動を行ってはならない。
社員が会社の諸規程に違反した場合には懲戒する旨定めている。(一四〇条)

基本協約二六一条
「争議行為中、当該争議行為に関係する組合員は、会社の施設、構内、車両への立入及び物品の使用をすることができない」

○JR東海就業規則(JR東海新幹線組合バッチ事件 東京地労委平 1・ 2・ 7命令)http://web.churoi.go.jp/mei/m02299.html#PAGETOP

第3 条 (服務の根本基準)
1 社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令・規定等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。
第20 条 (服装の整正)
1 制服等の定めのある社員は、勤務時間中、所定の制服等を着用しなければならない。
3 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。
第23 条 (勤務時間中等の組合活動)
社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。

国立大学法人東北大学職員就業規則
  http://www.bureau.tohoku.ac.jp/kitei/reiki_honbun/u1010423001.html

(文書の配布、集会等)
第37条 職員は、本学の施設内で、次のいずれかに該当する文書又は図画を配布又は掲示してはならない。
一 教育、研究その他本学の業務の正常な運営を妨げるおそれのあるもの
二 第34条に規定する信用失墜行為等に該当するおそれのあるもの
三 前条に規定する政治的活動等に該当するおそれのあるもの
四 他人の名誉の毀損又は誹謗ひぼう中傷等に該当するおそれのあるもの
五 公の秩序に反するおそれのあるもの
六 その他本学の業務に支障をきたすおそれのあるもの
2 職員は、本学の施設内で、文書若しくは図画を配布若しくは掲示する場合、又は業務外の集会若しくは演説を行う場合は、業務の正常な遂行を妨げる方法又は態様で行ってはならない。
3 職員は、本学の施設内で文書又は図画を掲示する場合には、あらかじめ指定された場所に掲示しなければならない。
4 職員は、許可なく、本学の施設内で、業務外の集会、演説、放送又はこれらに類する行為を行ってはならない。

   (懲戒)
第48条 懲戒は、情状に応じて、次の区分により行う。

一 戒告 将来を戒める。
二 減給 1回の額が労基法第12条に規定する平均賃金の1日分の半額を超えず、総額が1給与支払期間の給与総額の10分の1を超えない範囲内で、給与を減額する。
三 停職 6月以内を限度として勤務を停止し、職務に従事させず、その間の給与を支給しない。
四 諭旨解雇 退職願の提出を勧告し、これに応じない場合には、30日前に予告して、若しくは30日の平均賃金を支払って解雇し、又は予告期間を設けないで即時に解雇する。五 懲戒解雇 予告期間を設けないで即時に解雇する。

(懲戒の事由)

第49条 職員が、次の各号の一に該当する場合には、懲戒を行うことがある。

一 正当な理由なく無断欠勤した場合
二 正当な理由なくしばしば遅刻、早退するなど勤務を怠った場合
三 故意又は重大な過失により本学に損害を与えた場合
四 窃盗、横領、傷害等の刑法犯に該当する行為があった場合
五 本学の名誉又は信用を著しく傷つけた場合
六 素行不良で本学の秩序又は風紀を乱した場合
七 重大な経歴詐称をした場合
八 その他この規則によって遵守すべき事項に違反し、又は前各号に準ずる不都合な行為があった場合

2 懲戒の手続きは、国立大学法人東北大学職員の懲戒に関する規程(平成16年規第66号)の定めるところによる。

(訓告等)
第50条 前条に規定する場合のほか、服務を厳正にし、規律を保持するために必要があるときは、訓告、厳重注意又は注意を行うことがある。

●厚生労働省モデル就業規則
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/model/

  (遵守事項)
  第11条 従業員は、以下の事項を守らなければならない。
  ① 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。
  ② 職務に関連して自己の利益を図り、又は他より不当に金品を借用し、若しくは贈
      与を受ける等不正な行為を行わないこと。
  ③ 勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと。
  ④ 会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと。
  ⑤ 在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先等の機密を漏洩しな
      いこと。
  ⑥ 許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。
  ⑦ 酒気を帯びて就業しないこと。
  ⑧ その他従業員としてふさわしくない行為をしないこと。

(懲戒の種類)
第58条 会社は、従業員が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の
 区分により懲戒を行う。               
①けん責
   始末書を提出させて将来を戒める。
②減給
   始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。
③出勤停止
   始末書を提出させるほか、  日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
   ④懲戒解雇
       予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準
  監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。
(懲戒の事由)
第59条 従業員が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出
 勤停止とする。
 ① 正当な理由なく無断欠勤が   日以上に及ぶとき。
① 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。
② 過失により会社に損害を与えたとき。
③ 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。
④ 性的な言動により、他の従業員に不快な思いをさせ、又は職場の環境を悪くしたと
  き。
⑤ 性的な関心を示し、又は性的な行為をしかけることにより、他の従業員の業務に支
  障を与えたとき。
⑥ 第11条、第13条に違反したとき。
⑦ その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。
2 従業員が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第47条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。
重要な経歴を詐称して雇用されたとき。

   
 以上、郵便局(民営化以前)、JR東海、国立大学法人東北大学等の就業規則等を引用したが、郵便局は就業規則で無許可の演説、集会を明文で禁止し、庁舎管理規程には「職員は、庁舎管理者が、庁舎管理上必要な事項を指示したときは、その指示に従わなければならない」とも規定があるうえ、国家公務員法及び同法に基づく命令又は国営企業労働関係法第17条の規定に違反した場合懲戒対象とすることも盛り込まれており、よく整備されたものといえる。
 JR東海は、無許可の演説、集会、禁止する明文があるだけでなく、勤務時間中だけでなく会社構内の無許可組合活動を禁止しており、規則違反は懲戒対象となることも明らかにしている。
 国立大学法人東北大学も、無許可集会・演説を禁止する明文があり「この規則によって遵守すべき事項に違反し、又は前各号に準ずる不都合な行為があった場合」という包括的規定で懲戒対象となることを明らかにしている。
 厚生労働省モデル就業規則は、集会、演説を列挙しないが、「 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。」という無許可施設利用に関する包括的禁止規定があり、「この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。」が懲戒対象となることを明らかにしている。
 よって上記の企業等においては施設管理権の発動によって、無許可演説・集会に対し警告し、中止命令を発し、従わない場合の懲戒処分が可能である。
 多くの施設管理権判例をみるかぎり裁判所の基本的なスタンスは、企業秩序定立権による就業規則が合法的なものであるかぎり、「権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合」(国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30)「形式的にこれに違反するようにみえる場合でも‥‥秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められる場合」(目黒電報電話局事件・最三小法判昭52・12・13日民集31巻974頁 『判例時報』871号『判例タイムズ』357号6頁『労働判例』287号の趣旨)を除いて、施設管理権の発動による、警告、中止・解散命令・懲戒処分は支持されているからである。

具体的事案の検討

 では、東京都水道局の施設構内における組合活動の具体的事案について判例法理である企業秩序定立権にもとづく施設管理権の発動ができるか、以下検討してみたいと思う。
 都水道局時間外労働拒否事件東京地裁昭40・12・27判決によれば、地方公営企業の事業場の労働関係は、私法的規律に服する契約関係とみるのが相当と判示されているから、国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号の判例法理が適用されることは間違いない。
 もちろん、庁舎管理権の観点からも検討する必要がある。国有財産法第18条第3項および地方自治法第238条の4により、国有財産、公有財産は本来的な使用、当該建物に関する特定の行政目的のために供されるのであり、管理者はその目的に合致するような管理をなす義務を負う。また、そこに立ち入る者は、管理者の管理権限に服することになり、行政財産の目的外使用は許可を要するのである。したがって組合活動も、行政財産の目的外使用の問題としてとらえることもできるが、ここでは国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号の判例法理を軸として、私企業一般に適用される施設管理権を中心に検討することとすめる。
 問題は山積しているが秩序を乱し、正当な行為と評価されない組合活動として、ここでは1例のみを取り上げることとする。

 事務室内の昼休み組合集会と示威行為

 私の職場(営業所における平成23年12月9日の事務室中央で昼休憩時間に行われた組合集会(2名のみ昼当番として勤務、窓口のレジと電話当番-昼休憩であっても営業時間である、休憩時間を午後1時以後にずらす勤務形態は労働協約で組合と合意していること)12時30分頃より約20分間であるが、12月14日2時間スト、21日1時間ストを構えた状況で、闘争課題を確認し意思統一を図るための集会という分会長の挨拶があり、闘争目的を演説(約6分-よく通る声)、次いで分会書記長の基調報告があり事前に配られた内容を読み上げ(約6分)、分会長が拍手により確認を要求し、拍手され、次いで組合員代表の決意表明(約3分)があり、最後に大声で分会長が「14日、21日ストライキに向け闘争課題を確認し、決意表明を受けました、最後に頑張ろう三唱で締めたいと思います」といったことを述べ、「団結用意」とかけ声があり、がんばろう三唱(示威行動)が行われた。(約3分)。
 この集会は開始直前に管理職に口頭で通告(事実上許諾)してなされたものである。書面で施設利用の許可の願出があったものではない、通常そういう手続きもない。

判例からみてこの集会が正当な組合活動となされることはない余地はない

 この集会は明らかに場所・時間・態様において正常な業務運営を阻害し、秩序を乱すもので、目的と内容において地公行法第11条第1項に違反する違法行為を慫慂するものあるから、まともな企業ならば中止命令、警告、繰り返し行った場合の懲戒処分を行う事例と考える。
 しかし管理職は、休憩時間だから中止命令はできないと断言。事実上、業務の正常運営阻害を黙認し、違法行為の助長に加担しているのである。管理者としての基本的任務は、業務の正常運営、職場規律の維持に最大最善の関心と努力を払うことではないだろうか、管理者としての基本姿勢から問題があり、問い糺されてしかるべきである。

 演説者と料金支払い等来客に対応する昼当番勤務者との間に移動式のパーテーションがあるため、目隠しされてはいるが、10mも離れていないのであって、声を張り上げての演説、拍手、頑張ろう三唱の鯨波は騒音となるため、窓口であれ電話であれ、お客様の声が聞き取りにくくなり、業務に支障がある。また、勤務中の職員が演説等に気を取られることにより、職務に専念できない有害な職場環境といえる。
 そもそも、勤務中の職員は相当の注意力の技能を用いて職務に専念しなければならない義務がある。誠実に労務を提供する義務の遂行の侵害である。事務室の目的外使用である組合集会のために職務への集中を妨げられる理由は全くない。
 又、地方自治法238条は「行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる」としているが、この組合集会は水道事業という用途、目的から外れ、集会の目的がストライキの慫慂であるから、本来の用途、目的を妨げるものであり、その観点でも違法性がある。
 
 また、事務室内の自席で食事をとり、休憩する職員はすくなくなく、私を含め集会に加わりたくない職員の休憩時間の静穏を害し、囚われの聴衆がいやなら外出するなど移動する必要があるから、他者の休憩時間の自由利用を妨げているともいえるのである。他者の権利侵害という側面もある。

判例法理から検討

 無許可集会を正当な組合活動と評価しない主要判例としては、池上通信機事件・最三小判昭63・7・19『労働判例』527号http://web.churoi.go.jp/han/h00515.html済生会中央病院事件・最二小判平1・12・11民集43巻12号 1786頁『労働判例』552号http://web.churoi.go.jp/han/h00554.html オリエンタルモーター事件・最二小判平7・9・8『労働判例』679号  http://web.churoi.go.jp/han/h00640.htmlがあるが、ここでは、休憩時間の組合活動もしくは類似事例の判例を中心に検討する。

  労働基準法34条3項の休憩時間の自由利用の原則について、目黒電報電話局事件・最三小法判昭52・12・13日民集31巻974頁 『判例時報』871号『判例タイムズ』357号6頁『労働判例』287号は「従業員は労働契約上企業秩序を維持するための規律に従うべき義務があり、休憩中は労務提供とそれに直接附随する職場規律による制約は受けないが、右以外の企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れない」と判示し、休憩時間であれ、秩序を乱す庁舎構内の組合活動は当然規制対象となりうるのである。
 実際、国労札幌地本最高裁判決を引用した全逓新宿郵便局事件 最高裁第三小法廷昭和58年12月20日『労働判例』421号 『労働法律旬報』1087・88号
http://hdl.handle.net/2298/14070は、集配課休憩室、年賀区分室(予備室)における休憩時間中の組合員の集会の、解散命令、監視は不当労働行為に当たらないと判示した。

 最高裁が支持した控訴審東京高裁昭和55年4月30日判決『労働判例』340号 は以下のように述べている。

 「休憩室が職員の自由使用にゆだねられているといっても、それは、休憩時間における休養等その設置の趣旨に添う通常の休憩の態様において使用する場合に限られるものである。本件五月一〇日職場集会のように、明らかに他の目的をもつて集配課休憩室を使用することは、休養のための休憩室の自由使用とは著しくその態様を異にし、集会を行うこと自体休憩室設置の趣旨には到底添い難く、したがつて、一般の庁舎の目的外使用の場合と全く同様に、許可願を提出して承認を受けた上でなければ、該集会のために休憩室を使用することはできないものというほかはない」
 
 この事件では集配課「休憩室」のほか普段使われていない予備室としての「年賀区分室」が集会場所であったが、私の職場の場合は、執務室内、しかも昼休みも料金支払い等窓口業務を営業しており「昼当番」として休憩時間をずらして勤務している職員が配置されている場所と隣接している場所であるから、郵便局より悪質なのである

 同じく昼休みの会議室等の無許可集会強行を理由とする懲戒処分を支持した例として東京城東郵便局事件・東京地裁判決昭59・9・6判決『労働判例』442号がある。この判例は闘争指令下の集会であることを理由に会議室の使用を認めないことは、権利の濫用とは認められず、解散命令に従わず、無許可集会強行に積極的な役割を果した組合員の懲戒処分を有効としたもののである。この事件では闘争指令前に行われた郵便課、保険課等の集会は是認されていた。闘争指令後の集配課の集会は不許可とされた。この方針は東京郵政局の指示によるものである。

「全逓が同年五月一〇日、ストライキを決行する体制を確立すること及び業務規制闘争に突入することの指令を城東支部に対して発したため、右指令が公共企業体法等労働関係法一七条一項に違反するためとしたことは前記‥‥認定したとおりである。そしてこのような指令が発せられた場合において、吉田局長が城東支部に対し施設の利用を許諾することは違法行為を助長する結果となるおそれが大きいと判断したことについては相当な理由があるというべきであるから、同局長が会議室の使用を許可しなかったことにつき権利の濫用であると認められる特段の事情はないというべきである」とする。

 郵便局の労務管理は妥当なものである。違法行為であるストライキを構えた闘争指令がなされているのに、それを慫慂する庁舎内の集会を許諾することは違法行為の助長であるから、コンプライアンスとしても、管理者としては、不許可、解散命令を発することは当然にことであり、裁判所もこの判断を是認したということである。
 ところが東京都水道局は同様の闘争指令下においても集会を許容しているということはコンプライアンス・ガバナンスが全くなってないことを意味する。

 このほか休憩時間の集会を正当な組合活動として許容されない例として三菱重工業事件 東京地裁昭和58年4月28日判決『労働判例』410号、軍事基地という特殊な職場であるが休憩時間の集会を禁止する基地司令官の命令に反し、組合集会を開催した組合員の出勤停止処分を是認した例として米空軍立川基地出勤停止事件 東京高裁昭和40・4・27判決『労働関係民事裁判例集』16巻2号317頁がある。

 休憩時間の集会ではないが、類似した事例として日本チバガイギー事件最高裁第一小法廷平成元年1月19日判決『労働判例』533号がある。
 午後五時からの食堂使用および屋外集会(終業時刻が工場は午後五時、本部部門は午後五時四五分の開催の不許可は施設管理権行使の範囲内にあり、不当労働行為にあたらないとした原判決東京地裁昭和60年4月25日判決民集36巻『労働判例』452号を是認したものである
 
 類似しているというのはつぎのような意味である。

 もう少し具体的にいうと昭和49年4月、宝塚工場支部の役員は、会社に対し集会場所として本部社屋一階の食堂を午後五時から使わせてほしいと申入れた。 しかし、会社は、工場部門の終業時刻は午後五時であるものの、本部の終業時刻は午後五時四五分であるから、それまでは本部への来客もあり、また、本部の会議室として食堂を使用することもあるので、午後六時以降の使用しか認められないと回答した。これに対して宝塚工場支部の役員らは、これまで従業員会が会社との賃上げ交渉等の経過を報告する際には就業時間中であつても食堂の使用が認められた例があると主張し、もし、食堂の使用が業務上どうしても都合が悪いのであれば、やむを得ないから屋外での報告集会の開催を認めてほしいと申入れた。これに対して会社集会においてマイク等が使用されて喧噪状態となつた場合には就業中の従業員の執務に影響を与えて業務上の支障が生ずるおそれがあるため、施設管理上の理由から屋外集会の開催を拒否した。宝塚工場支部の組合員約七〇名は、同日午後五時過ぎ頃から食堂に集合した。一方、午後五時すぎ頃本部写真機械部のAが本件食堂で業者との商談をしようと本件食堂へ行つたところ、右のとおり参加人の集会のため使用できる状態にないため、労働組合関係を担当する教育労政室に抗議した。そこで原告ははじめて無許可で集会を開催したことを知り、右教育労政室のBが同日午後五時二〇分頃本件食堂に赴き、委員長に対し、食堂の使用許可は午後六時からであるのでそれまでは食堂から退出するよう求めたが、委員長はこれに応じなかつた。このため、両者間で押問答となって時間が経過して午後六時頃に至つたので、係長は食堂から退出し、支部組合員らは食堂で集会を開いた。 なお、本館一階の食堂は、同年四月から使用を開始した新館にあり、会社は新館の二階以上を本部の業務のために使用していたというものであるが、日本チバガイギー事件の工場労働者は就業時間外であっても、本部棟は勤務時間中であるという状況は、水道局における集会参加者が休憩時間であっても、2名は休憩時間をずらした昼休み当番として勤務しており、営業時間であるという状況に類似しているということである。
 
 現実に来客はあった。写真機械部の従業員が商談のため食堂を利用としたが、無許可集会のため使えなかった。
 水道局の場合も組合集会で声を張り上げて演説している最中に、窓口に料金支払いの来客があり、電話による問い合わせがあった。状況的には勤務中の職員の至近距離で、声をはりあげ演説し、拍手を要求し、「がんばろう三唱」の鯨波を行った、私の職場のケースが日本チバガイギー事件よりずっと悪質な態様といいえるだろう。
 
 最高裁が是認した原判決(東京地裁)は、いわゆる抽象的危険説、具体的な業務阻害でなく、抽象的なおそれを理由といる集会不許可を不当労働行為としている点で、国労札幌事地本事件最高裁判決の趣旨に沿ったものと評価できる。 
 「これら施設は本来企業主体たる原告の職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように物的施設を管理・利用しうる権限に基づいてその利用を原告の許可にかからしめる等して管理運営されているものである。」と国労札幌地本事件最高裁判決の要約を述べたうえ、「集会の目的が第一回の団体交渉の報告であって必ずしも喧噪にわたることが当然に予想される集会ではなかったこと、更に従業員会には本件食堂の使用も許可したことがあること、また屋外の集会については必ずしも業務上の支障があったともいえないことからすれば、本件食堂の使用や屋外集会を参加人の希望どおり許可したことによる現実の業務上の支障は必ずしも大きくなかったものと推認されなくもないが、他方工場部門とは別に本部の従業員の就業時間は午後五時四五分までであってその間に集会が行われるとすれば就業中の従業員が集会に気をとられ、職務に専念することができないなどの事態も予想しえないだけでなく‥‥原告において本部就業時間中の本件食堂の使用を許可しないと考えたことにも合理性があること‥」と判示している。【詳細註6】
 集会参加者の工場労働者は就業時間外であっても、本部棟が勤務時間中であることから来客が食堂を利用することもありうる、就業中の従業員が気をとられる事態という懸念から「午後五時からの本件食堂の使用申出あるいは屋外集会を許可しなかったことについて、原告の権利濫用と認められるような特段の事情があったとはいえ‥‥ない」とする。
 
 比較すると、水道局の昼休み集会は、秩序を乱す抽象的なおそれを理由に集会開催を不許可とする日本チバガイギーの事案よりも、より業務運営の阻害が現実的なものであり、先例との比較で到底、正当な組合活動として容認されることはないだろう。

 このほか国鉄清算事業団(東京北等鉄道管理局)事件・東京地裁判決平3・7・3『労働判例』594号がある。 昭和58年当時の東京駅構内遺失物取扱所裏の敷地(丸の内南口通路・中央線ホームに近いが外部から見えない場所)で行われていた国労の非番者組合集会に対する警告、メモ、写真撮影が不当労働行為にあたるがが争われたものであるが、長年、警告が行われなかったといっても、職務規律是正のため警告等を行うことは不当労働行為にあたらないとしている。
 非番者が集会参加者であるから労務提供義務のない時間帯という点で休憩時間の集会と類似lと類似した事案といえるのである。
 
 集会事案以外にも、国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号の判例法理を引用し、休憩時間の組合活動を正当な行為と評価しなかった判例もついでに挙げておくと、国労兵庫支部鷹取分会事件・神戸地裁判決昭63・3・22は、国労近畿地方本部兵庫支部鷹取分会がJR西日本による休憩時間におけるビラ配布妨害排除の仮処分申請を却下したものであるが、決定は「労働者が企業施設を演説、集会、ビラ配布等に利用する場合には、休憩時間であっても、利用の態様如何によっては使用者の施設を管理を妨げる虞れがあり、他の社員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいては企業の運営に支障を及ぼし、企業秩序が乱される虞れがあるから、使用者がその就業規則で労働者において企業施設をビラ配布等に利用するときは事前に使用者の許可を得なければならない旨の規定を置くことは、休憩時間の自由利用に対する合理的な制約であると解すべきであり(最高裁判所昭和五二年一二月一三日判決、同五四年一〇月三〇日判決参照)、従って、前記就業規則の規定が有効でことはいうまでもない。このことは、ビラ配布等が債権者の組合活動として行われるものであること。債権者が企業内組合であることを考慮に入れても同様である。本件仮処分申請は、休憩時間中、前記詰所における組合活動としてのビラ配布の妨害禁止及びこれを理由とする懲戒や不利益取扱いの禁止を求めるものであって、限られた局面においてであっても、右のような就業規則の適用を一般的、抽象的に排除することに帰するから、このような結果を仮処分によって実現することは許されないというべきである。」としている。
 (なおJR西日本の就業規則二二条一項、二三条で会社の許可を得ることなく、社員が会社施設内での演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等をなすこと及び勤務時間中又は会社施設内で組合活動を禁止している。)
 
 大日本エリオ事件 大阪地裁判決平1・4・13『労働判例』538号は組合委員長が、休憩時間中、労基法改悪反対の署名活動をしたことにつき会社構内での政治活動を禁止する就業規則に反するとして譴責処分を受けたことに対し右懲戒処分無効確認等を求めた事例であるが、 判決は「これらの行為が会社施設を利用して或いは会社構内で行われたならば、労働者の労働義務の履行を妨げ、従業員間に不必要な緊張や反目を生じさせ、ときには従業員間の融和の崩壊や勤労意欲の減退を招き、ひいては会社の秩序維持や生産性の向上にまで支障をきたすおそれがあることに鑑みれば、会社が自己の有する施設管理権及び秩序維持権に基づきこれらの行為を禁止することは合理的理由による制約と解することができる‥‥会社の施設内においては会社の施設管理権、秩序維持権に服することが是認されねばならず、さらに右認定事実によれば、本件署名活動はその趣旨説明、説得を伴っていたことが認められる。そして、休憩時間中においては他の労働者が休憩時間を自由に利用する権利を有していることが尊重されなければならないから、これを妨げる行為を当然にはなしえないと解すべきである。そうすると、本件署名活動が上部団体の指令に基づきなされた組合活動であったとしても、右署名活動は、被告の施設内において、しかもその趣旨説明、説得を伴っていたことから、被告の施設管理権、秩序維持権を侵害したうえ、休憩中の他の従業員の自由に休憩する権利をも相当程度妨げたと推認され、これをもって正当な組合活動であったということは到底できない」としている。
 
 こうした判例からみて、先に述べた私の職場における昼休み集会が正当な組合活動と認められる余地はない。 にもかかわらず管理者は、休憩時間の組合活動を中止命令できないだ、できないんだと言いつのるならば、業務の正常運営を確保するという管理者としての重要な職務を放棄したものとしてその資格を疑問視せざるを得ないだろう。

  判例からみて結論は、事務室内昼休み職場集会は、その目的、態様からみて警告、中止命令を発出しても不当労働行為とみなされるおそれはないと考える。

就業規則の検討

 しかし、ネックになる問題がある。
 
 東京都水道局の就業規則にも、庁内管理規程にも無許可演説・集会の禁止規定がない。庁舎施設の目的外使用について許可を要するという規定もない問題である。

 結論を先に言うと、現行庁内管理規程は、問題点が多すぎるが、それでも、一応「庁内の秩序を乱し、公務の円滑な遂行を妨げる」ことは禁止できることになっており、この規定に違反するものとして、もしくは、直接、地公労法11条1項「 同盟罷業、怠業その他の業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない」の違反行為として、警告・中止命令を発出し、従わずに繰り返す場合は地方公務員法の32条の「上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」に基づいて、懲戒処分の対象とすべき事案と考える。
 しかし、 無許可演説・集会の禁止規定や、目的外使用が許可事項であることの明文規定がないことは、まさに国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号の言うところの「職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもつて定め」ることを当局が怠り「企業秩序が定立」されていない異常な状況であり、施設管理権ないし庁舎管理権の発動を容易にさせないためのなんらかの意図さえ看取することができる。
 これは、警告や中止命令を発出した場合、就業規則の不備は組合側に反論の余地を与えるものになっているから、早い時期に就業規則、庁内管理規程等の抜本的改正を行う必要がある。

ここでは東京都水道局の就業規則と庁内管理規程の欠陥性を指摘しておきたいと思う。

就業規則の重大な欠陥

  東京都水道局処務規程の服務に関する部分(宿直を省略)を抜粋する以下のとおりである。

第一章 総則

(この規程の目的)
第一条 この規程は、東京都水道局分課規程(昭和二十七年十一月東京都水道局管理規程第五号)の定める分課により、明確な責任の下に、局長の権限に属する事務の民主的かつ能率的運営を図ることを目的とする。

第二章 職員
(服務の原則)
第二条 職員は、都民全体の奉仕者として、水道事業及び工業用水道事業を民主的かつ能率的に運営すべき責務を深く自覚し、誠実かつ公正に職務を執行しなければならない。

2 職員は、自らの行動が公務の信用に影響を与えることを認識するとともに、日常の行動について常に公私の別を明らかにし、職務や地位を私的な利益のために用いてはならない。

(その他職員の職責)
第五条 第二条の二から前条までに定める職員以外の職員は、上司の指揮監督を受け、その職務上の命令に従い、職務に専念しなければならない。

第七章 服務心得
(セクシュアル・ハラスメントの禁止)
第五十一条の二 職員は、他の職員又はその職務に従事する際に接する職員以外の者を不快にさせる性的な言動を行つてはならない。

(利害関係があるものとの接触規制)
第五十一条の三 職員は、別に定める指針に基づき上司が承認した場合を除き、いかなる理由においても、自らの職務に利害関係があるもの又は自らの地位等の客観的な事情から事実上影響力を及ぼし得ると考えられる他の職員の職務に利害関係があるものから金品を受領し、又は利益若しくは便宜の供与を受ける行為その他職務遂行の公正さに対する都民の信頼を損なうおそれのある行為をしてはならない。

(出勤の記録)
第五十二条 職員は、出勤したときは、あらかじめ出勤時限までに出勤しない理由を東京都水道局職員の勤務時間、休日、休暇等に関する規程(平成七年東京都水道局管理規程第四号。以下「勤務時間等規程」という。)別記第二号様式に定める休暇・職免等処理簿等により届け出た場合を除き、職員カード等により、自ら出勤の記録に必要な所定の操作を行わなければならない。

(事故欠勤の届)
第五十五条 職員は、交通機関の事故等の不可抗力の原因により勤務できないときは、その旨を速やかに連絡し、出勤後直ちに別記第十二号様式の二による事故簿により届け出なければならない。

(私事欠勤等の届)
第五十六条 職員は、前条の規定に該当する場合を除き、勤務できないときは、事前に別記第十三号様式による遅参・早退等処理簿により届け出なければならない。ただし、やむを得ない事由により事前に届け出ることができないときは、出勤時限後三十分以内に上司に連絡し、出勤後直ちに届け出なければならない。

2 職員は、遅参したとき、又は早退しようとするときは、遅参・早退等処理簿により届け出なければならない。ただし、上司から別に指示があった場合には、その指示に従い、届け出なければならない。

(旅行の手続)
第五十七条 職員は、私事旅行等により、その住所を離れるときは、その間の連絡先等をあらかじめ上司に届け出なければならない。

(執務時間中の外出)
第五十八条 職員は、執務時間中みだりに執務の場所を離れてはならない。
2 私事のため一時外出しようとするときは、上司の承認を受けなければならない。

(休暇の申請)
第五十九条 職員は、休暇を請求するときは、勤務時間等規程に定めるところにより、事前に上司に届け出なければならない。

(履歴書及び住所、氏名等の変更届)
第六十一条 新たに採用された者は、採用の日から三日以内に所定の用紙による履歴書を提出しなければならない。

2 住所、氏名等に変更を生じたときは、別記第十七号様式及び第十八号様式による届書を速やかに提出しなければならない。
 
(旧姓の使用)
第六十一条の二 職員は、婚姻、養子縁組その他の事由(以下「婚姻等」という。)により戸籍上の氏を改めた後も、引き続き婚姻等により改める以前の戸籍上の氏を文書、職場での呼称等に使用すること(以下「旧姓使用」という。)を希望する場合又は旧姓使用を中止することを希望する場合は、別記第十八号様式の二により、速やかに申し出なければならない。
2 職員は、旧姓使用を行うに当たつて、都民及び他の職員に誤解や混乱が生じないように努めなければならない。

(職員カード)
第六十二条 職員は、職務の執行に当つては、常に第十九号様式による職員カードを所持しなければならない。

(事務引継ぎ)
第六十三条 職員は、休職、退職、転任等の場合は、速やかにその担任事務の処理の経過を記載した第二十号様式による事務引継書を作成し、後任者又は上司の指定する職員に引き継ぎ、その結果を上司に報告しなければならない。ただし、上司の承認を得たときは、口頭又は簡易な引継書により事務引継ぎを行うことができる。

(届書の処理)
第六十四条 第六十一条第二項及び第六十一条の二第一項に規定する届書を提出するに当たっては、主務課長の検印を受けるものとする。

(出張等の場合の事務処理)
第六十五条 出張、病気その他事故による欠勤等の場合においては、担任事務の処理に関し必要な事項をあらかじめ上司に申し出て事務処理に遅滞を生じないようにしなければならない。

(文書の公開)
第六十六条 職員は、上司の許可を得ないで文書を他人に示し又は謄写させてはならない。

(退庁時の文書等の保管)
第六十七条 職員は、退庁しようとするときは、その管掌する文書その他の物品を整理し所定の場所に収置し散逸させてはならない。
2 欠勤、出張その他不在の場合は、自己の管掌する文書その他の物品は、誰にでも分かるようにしておかなければならない。
3 職員の退庁後宿直員の看守を要する物品は、退庁の際宿直員に回付しなければならない。

(出張命令)
第六十九条 職員の出張命令は、次の上欄に掲げるものについては、当該下欄に掲げる旅行命令簿等により行うものとする。

一 次号に掲げる出張以外の出張 旅行命令簿(第二十一号様式又は第二十一号様式の二)

二 宿泊料を伴う非即日帰庁の出張 旅行命令書(第二十一号様式の三)

第七十条 宿泊料を伴う非即日帰庁の出張命令を行おうとするときは、部長又は課長並びにこれらに準ずる職にある者の場合は総務部長に、その他の職員の場合は職員部長が別に定めるものを除き職員部人事課長に協議しなければならない。
(出張先の予定変更の場合の手続)

第七十一条 職員の出張先で職務の都合上予定を変更しようとするときは、電報、電話等で直ちに上司の承認を受け帰庁後速やかに所要の手続をしなければならない。

(出張復命)
第七十二条 出張した者が帰庁したときは、直ちに口頭又は文書でその要旨を上司に復命しなければならない。

(非常災害の場合の服務)
第七十三条 庁舎及びその附近に火災その他非常事態が発生したときは、職員は、速やかに登庁して臨機の処置をしなければならない。


 すでに見てきたように、郵便局(民営化前)、JR東海、JR西日本、国立大学法人東北大学の事例では、就業規則により無許可集会・演説を明文で禁止しているが、それがない。仮になくても国鉄の就業規則のように  懲戒事由として「上司の命令に服従しないとき」(三号)、「その他著しく不都合な行いのあったとき」(一七号)と定めていれば、就業規則に基づいた措置ができるがそれもない。もっとも地方公務員法32条は上司の職務上の命令に忠実に従わなければならないとしているが、郵便局のように管理者の任務として郵政省庁舎管理規程七条により、「庁舎管理者は、庁舎等において、演説、ビラ等の配布、その他これに類する行為をさせてはならない。ただし、庁舎等における秩序維持等に支障がないと認める場合に限り、これを許可することができる。」と定めているわけではないので、それが上司の職務かのかも不確定と反論される可能性がある。
 経営上のリスクを回避すると言う意味で、この水道局処務規程(就業規則)の欠陥は明らかといえるだろう。

  なお、東京都水道局のホームページでは職員の服務というサイトで「懲戒処分の指針について」平成15年4月16日施行を載せているが、これは知事部局と共通のもので、非行についてそれまで、何をすれば停職、減給、戒告かというなんの基準も示されてなかったので、非行防止のため職員に指針として示したものである。セクハラ、強制わいせつ、痴漢、ストーカー、交通事故、交通法規違反まで細かく示されているものの、業務指揮権、庁舎管理権の侵害について言及されてない。たとえば無許可の演説、集会、示威運動、貼紙、掲示、ビラの配布を行った場合、正常な通行を妨害した場合とか、庁舎管理者が、庁舎管理上必要な事項を指示した従わなかった場合正当な業務命令、中止命令に従わなかった場合などの指針はない。はじめから取り締まる気もないし、実際にそうであるから、この指針も重大な欠陥のある規程といえるだろう。

 

庁内管理規程の欠陥

 
 東京都水道局庁内管理規程昭和五〇年六月二三日水道局管理規程第一三号
は下記のとおりである
 

 第五条 何人も庁内において、次の各号の一に該当する行為をしてはならない。
一 拡声器の使用等によりけん騒な状態をつくり出すこと。
二 集団により正常な通行を妨げるような状態で練り歩くこと。
三 前号に定めるもののほか、正常な通行を妨げること。
四 テント等を設置し、又は集団で座り込むこと。
五 清潔保持を妨げ、又は美観を損なうこと。
六 凶器、爆発物その他の危険物を持ち込むこと。
七 庁舎その他の物件を損壊すること。
八 寄附金の募集、物品の販売、保険の勧誘その他これらに類する行為をすること。
九 印刷物その他の文書を配布し、又は散布すること。
十 はり紙若しくは印刷物を掲示し、又は立札、立看板、懸垂幕等を掲出すること。
十一 面会を強要し、又は乱暴な言動をすること。
十二 前各号に定めるもののほか、庁内の秩序を乱し、公務の円滑な遂行を妨げること。
 前項の規定にかかわらず、前項各号(第十一号及び第十二号を除く。)に掲げる行為について、庁内管理者が特別の事情があり、かつ、公務の円滑な遂行を妨げるおそれがないと認めて許可した場合は、当該許可に係る行為をすることができる。
3 前項の規定により許可を受けようとする者は、別記第一号様式により申請書を庁内管理者に提出しなければならない。
4 庁内管理者は、前項の規定による申請書が提出されたときは、許可の可否を決定し、別記第二号様式により申請者に通知する。
5 庁内管理者は、第二項の規定により許可するにあたつて、必要な条件を付すことができる。

  欠陥規程である理由

(一)目的外使用禁止の原則についての規程がなく、事実上地方自治法を無視していること


 
 まず国の官庁の規程のような行政財産の目的外使用を禁止する管理者の任務にふれていないことである。
 国の行政財産については国有財産法第18条の6で「行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができる」とし地方自治法第238条の4第4項で同様の規定があるから、この規定がないのは欠陥といえるのである。
 国の官庁の場合、組合集会・示威運動などは「目的外使用は許可事項」という包括的規定にひっかかるようになっているのである。
   
 参考までにインターネットで公開されている霞ヶ関の中央合同庁舎第5号館(厚生労働省などが入居する)の管理に関する規則昭和58年9月30日(厚生省訓第45号http://wwwhourei.mhlw.go.jp/cgi-bin/t_document.cgi?MODE=tsuchi&DMODE=CONTENTS&SMODE=NORMAL&KEYWORD=&EFSNO=6では次のようになっている。 
 (合同庁舎の目的外使用)
第12条 管理官庁等は、原則として合同庁舎を所掌業務以外に使用させてはならない。
2 管理官庁等は、やむを得ない事由によりその管理する合同庁舎の一部を目的外に使用させようとする場合は、あらかじめ「使用許可申請書」(別紙第4号様式)を提出させ、当該申請書を審査し、当該行為が所掌業務の遂行を妨げず、かつ、庁舎内の秩序維持及び安全保持に支障のないものに限り「使用許可書」(別紙第5号様式)を申請者に交付し、許可するものとする。この場合において、管理官庁等は、必要な条件を付し、又は指示することができる。
3 管理官庁等は、前項の使用許可を受けた者が、その許可内容に相違した行為をし、又は条件若しくは指示に違反したときはその許可を取り消すことができる。

  インターネットで公開されている九段第3合同庁舎・千代田区役所庁舎管理規程(案)では  次のとおり。 
 第29条(庁舎の目的外使用の許可申請)
 1 「管理者等」は、「合同庁舎」を「入居官署」の所掌業務の目的以外のために使用させてはならない。ただし、次の各号のすべてに該当する場合に限り許可することができる。 一 その使用が一時的なものであり、やむを得ない理由があると認められること。
 二 主として「職員」が使用するものであり、公務員の行事としてふさわしいと認められていること。
 三 「合同庁舎」における日常の業務を妨げないと認められること。
 四 「合同庁舎」における秩序の維持及び災害の防止に支障がないと認められること。

 
(二)無許可集会及び演説禁止の明文の禁止規定がない

  
 
 他の官公庁の規程との比較でこの欠陥は明らかである。中央合同庁舎第5号館の管理に関する規則をはじめとして、国の官庁の規則の場合、目的外使用は許可を要する行為なので組合集会もこの範疇と考えられるが、そのうえに第21条で「(6)合同庁舎において、多数集合し、又は集合しようとする者」はその行為を制限し、若しくは禁止し、又は合同庁舎からの退去、搬入物の撤去を命ずる等所要の措置を講ずるものとする。と規定しており、(5) 旗、のぼり、プラカード、拡声器、宣伝カー等を合同庁舎において所持し、若しくは使用し、又は合同庁舎に持ち込もうとする者」も同様であるから、許可を得ていない集会は実質禁止されている。

 地方自治体の庁舎管理規則をみてみると、東京都のように集会に言及していないものもあるが、下記のようにかなりの数の自治体が、集会は許可を要するということを明文で規定している。

 大阪府庁舎管理規則 昭和61年09月24日規則第57号の第八条四は「府の機関以外のものが主催して集会を行う行為」を許可を要する行為としている。
 横浜市庁舎管理規則昭和36年2月15日規則第4号第11条(5)は「市の機関以外の者が主催して集会を開催し、または集団で庁舎に入ること。」を許可を要する行為としている。
 奈良県庁舎管理規則昭和四十四年六月十九日奈良県規則第二十号は第11条六は「集会その他行事を催すこと。」を許可を要する行為としている。
 岐阜市役所庁舎管理規則昭和57年4月1日規則第30号は第5条1(3)は、「市の機関以外の者が主催して集会を開くことで庁舎内に入ること」を許可を要する行為としている。
 岐阜市上下水道事業部庁舎管理規程昭和57年6月24日水道部管理規程第6号第5条1(3)は、「上下水道事業部の機関以外の者が主催して集会を開くことで庁舎内に入ること。」は許可を要する行為としている。 
 茨城県庁舎等管理規則昭和36年7月7日茨城県規則第74号は第5条の(3)で「多数集合して構内を使用すること。」を許可を要する行為としている。
 佐賀県庁舎管理規則平成十八年三月三十一日佐賀県規則第五十五号は、禁止行為として第六条の四で「集会を開催すること(次条第一項第三号及び第四号の場合を除く。)。」と規定し、第七条において「庁舎内において次に掲げる行為をしようとする者は、あらかじめ庁舎管理者の許可を受けなければならない‥‥」許可を要する行為として、三 県以外の者が県の後援を得て行う集会の開催 四 県職員が組織する労働組合が組合活動として行う集会の開催」と挙げている。
 札幌市庁舎管理規則昭和51年2月23日規則第6号及び札幌市教育委員会庁舎管理規則 昭和58年3月28日教育委員会規則第11号第10条(3)は「集会等の行事を行い、特殊物品を搬入し、又は諸施設を設置すること。」を許可を要する行為としている。
 熊本市庁舎管理規則〔管財課〕昭和56年12月1日規則第63号第12条(1)は「市の機関以外のものが主催する集会又はこれに類する行為をすること。」を許可を要する行為としている。
 富山県庁舎等管理規則昭和41年9月10日富山県規則第46号第13条は(4)「県の機関以外の者が主催して集会を開催し、又は集団で庁内に入ること。」を許可を要する事項としている。
 山口市庁舎管理規則平成17年10月1日規則第17号第6条(1)は「 市の機関以外の者が主催する集会又はこれに類すること。」を許可を要する行為としている。
 船橋市庁舎管理規則昭和57年11月29日規則第64号第7条(3)「集会、催しものその他これらに類する行為をすること。」を許可を要する行為としている。
 仙台市庁舎管理規則昭和四三年一二月九日仙台市規則第三九第10条四は「公務以外の目的をもって庁舎を使用すること」を許可を要する行為としている。)
 阿久根市庁舎管理規則平成23年3月25日規則第2号は第9条(1)は「集会を開催し,又はこれに類する行為」を許可を要する行為としている。
 栃木県庁舎管理規則平成八年三月二十九日栃木県規則第十六号第6条四は「庁舎におい、県以外のものが主催して集会又は催しを開催すること。」及び「五 前号に掲げるもののほか、集団で庁舎に立ち入り、又は庁舎内において多数集合すること」も許可を要する行為としている。
 青森県庁舎管理規則昭和四十二年四月一日青森県規則第十一号第4条六は「集会等のため庁舎を一時的に使用する行為」を許可を要する行為としている。
 青森市庁舎管理規則平成十七年四月一日規則第二十六号第13条七は「市の機関以外の者が主催する演説、集会その他これらに類する行為」を許可を要する行為としている。
 川崎市庁舎管理規則昭和43年8月13日規則第76号第11条(4) は「庁舎において、市の機関以外の者が主催して集会を開催し、又は集団で庁舎に入ること。」を許可を要する行為としている。
 大津市庁舎管理規則昭和42年規則第4号第3条(一)は「会合等の開催」を許可を要する行為としている。
 群馬県県庁舎等管理規則平成十二年十二月二十二日規則第百四十二号第9条四は「仮設工作物の設置その他県庁舎等を一時的に使用する行為を行うこと。」を許可を要する行為としている。
 秋田県公営企業庁舎管理規程昭和四十二年四月一日秋田県公営企業管理規程第十五号第3条五は「宣伝又は集会等をしようとするとき。」を許可を要する行為している。
 堺市庁舎管理規則平成22年3月30日規則第23号第6条は(4)は「 集会を開き、又は集団で庁舎に入る行為」を許可を要する行為としている。

 上記に揚げた地方自治体では、集会は許可を要すると明文規程があるため、規則に基づいて、無許可集会の中止命令を発する根拠が明らかなのだが、東京都の場合はないので重大な欠陥と指摘できるのである。

 又、労働協約でも無許可集会は違反ということは明確にしたほうがより望ましい。

 東京都水道局と東京都(知事部局)の庁内管理規程で若干異なる点があるが先に引用した部分は同じである。これは他の官公庁と比較して、いいかげんなものであることは上記引用の他の官公庁との比較で明らかであり、庁舎構内の組合活動を容認しやすい点で重大な欠陥がある。「庁内の秩序を乱し、公務の円滑な遂行を妨げること。」という包括的規定でかろうじて使えると言う程度の大甘な規則で、「無許可の集会、演説、示威運動、旗・幟・横断幕・拡声器・宣伝カーの持ち込み、腕章・鉢巻・ゼッケンの着用、集団で庁舎内になだれこむ行為」を禁止する明文規程はないのである。
 実際に旗や横断幕が庁舎内に持ち込まれて集団で隊列をなしなだれこみ示威運動をやったり、拡声器で事務室内で頭上報告をしたり悪質な例を私は多く知っている。それに対して監視もしなければ中止・解散命令もやらない。そもそも規則で具体的に禁止事項としてないのである。
 総じていうなら、これは企業秩序が定立されていない状況と言ってよい。私はこれまで多数の管理職と意見交換してきたが、30年以上前から組合活動等で中止命令、業務命令は出さない方針だとか、懲戒処分をやると処分撤回闘争で荒れるから好ましくないがやらない方針とか、最高裁判決が否定しているプロレイバー受忍義務説を強調する人もいてまったく腑抜けた状態にあると思う。それとも東京都の管理職は労働基本権は、業務指揮権と施設管理権を制約するという階級闘争のためのプロレイバー労働法学に洗脳されているのだろうか。こんな庁内管理規程では労務管理ができないという不満すら聞いたことないのは、東京都職員というのはよっぽど根性が赤く染まっているとしか思えない。とくに水道局の場合は、国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号から30年以上経過し判例が定着しているにもかかわらず、その判例法理を活用しないというのは馬鹿げている。

 仮に、滅多に命令を出さないとしても、いちおう規則で明定し、いざとなったら刀が抜けるということでなければ、危機管理にならないではないか。
 
 なお、地方公務員についても自律的労使関係などとして協約締結権付与が政治日程にのぼっている。その方向で法改正がなされると、協約改定期に大きなストライキをやる可能性も出てくる。名監督は考えられる最悪の事態を想定して作戦をたてるという。東京都は他の自治体より財政状況が良いとしても、経済情勢がどうなるかは不透明だし、重大な災害が起きた場合はどうか、そうした場合に、身を切る改革が必要になる事態も想定しなければならず、アテネやマディソンのようにはならないよとたかをくくっているかもしれないが、労働組合が戦闘的になれば最悪、長期のシットダウンストライキ(職場占拠)とか、いろんな事態を想定しなければならず、今の庁内管理規程では労務管理が難しい。危機管理とは何も震災や原発だけではないのである。このまま無策のままでいると、とんでもないことになりかねない。

【註6】日本チバガイギー事件(東京地裁昭和60年4月25日判決民集36巻『労働判例』452号)抜粋
http://thoz.org/hanrei/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%9C%B0%E6%96%B9%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%89%80/%E6%98%AD%E5%92%8C53%28%E8%A1%8C%E3%82%A6%29118

「昭和四九年四月当時宝塚市<以下略>には原告の医薬生産部である工場部門とそれ以外の本部部門があつた。そして主たる建物は五三号館とこれに隣接する六三号館であり、六三号館の一階には本件食堂があつて、二階には本部関係の生産管理の事務部門、三階には医薬事業部、マーケツテイング部、四階には研修室、人事労政部がそれぞれ入つており、就業時間は工場部門では午前八時から午後五時まで、その他は午前九時から午後五時四五分までであつた。また当時、従来五三号館に入つていた部署が六三号館へ移転中であつたことから両館の会議室や応接室の使用が困難な状況にあり、他方本件食堂は昼食を出すだけであつたことから、その他の時間にはプライバシーを保つ必要のない商談や会議等に使用されていた。(二) 参加人は同年四月九日原告との間で第一回の団体交渉を行つたが、その団体交渉の経過報告を組合員に行う必要があつたことから、右交渉の終了頃、原告に対し翌一〇日午後五時から報告集会を行うので本件食堂を貸与して欲しい旨申し入れた。原告は右申入れに対し翌一〇日に回答を行うと回答した。ところで参加人は、工場部門の工場支部については就業時間が終了する午後五時から、また本部部門の本部支部については就業時間終了後の午後五時四五分から報告集会を開催することに決定した。参加人が工場支部と本部支部とを分けて工場部門の組合員に対し先に報告を行うこととしたのは、公然化して間がなく午後五時四五分まで組合員の帰宅を引き留め待機させることに不安があつたこと、遠方から通勤している組合員が当時数十名おり、その者達のためにも早い時間に終了させたいと考えたためであつた。 ところで右申出に対し原告は工場部門の終業時刻は午後五時であるが、本部部門の終業時刻は午後五時四五分であるから、それまでは本部への来客があり本件食堂を使用することもあり得、また集会においてマイク等が使用されて喧噪状態となつた場合には就業中の従業員の執務に影響を与えて業務上の支障が生ずるおそれもあると判断し、工場及び本部の終業後である午後六時からの使用を認める旨の回答をした。これに対し参加人は再度本件食堂の使用許可を求めるとともに、もし本件食堂の使用ができないのであれば、屋外での報告集会の開催を認めて欲しい旨原告に申し入れた。しかし原告はこれに対しても、屋外での集会も本部で就業中の従業員の執務に影響するとの理由から屋外集会の開催も許可しなかつた。(三) 工場支部の組合員約七〇名は、同日午後五時から予定どおり本件食堂を使用して報告集会を開始した。ところで同日午後五時すぎ頃本部写真機械部のBが本件食堂で業者との商談をしようと本件食堂へ行つたところ、右のとおり参加人の集会のため使用できる状態にないため、労働組合関係を担当する教育労政室に抗議した。そこで原告ははじめて参加人が無許可で集会を開催したことを知り、右教育労政室のDが同日午後五時二〇分頃本件食堂へ行き、午後六時からの集会許可であるとして集会を中止するようCへ申し入れて同人と押問答となつたが、その間に午後六時となつたのでDはその場を引き上げ、その後集会は午後七時頃まで行われた。 なお参加人が工場支部の報告集会を一〇日の午後五時から行う旨の通知は原告からの回答がなされる前になされ参加人が午後六時に開始時間を遅らせる旨の連絡は可能な状況であつた。 また、従来原告は従業員が就業時間中に職場集会を開くことを許可したことも、また本件食堂の使用を許可したこともあつた。 以上の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。2 ところで参加人が許可を求めた本件食堂の使用にしろ屋外集会にせよいずれも原告の物的施設の利用を伴うものであつて、これら施設は本来企業主体たる原告の職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように物的施設を管理・利用しうる権限(以下「施設管理権」という。)に基づいてその利用を原告の許可にかからしめる等して管理運営されているものである。したがつて、参加人において右施設を利用する必要性が大きいからといつて原告の許可なく参加人が当然に右施設を利用しうるものではないというべきである。そうであれば、原告が参加人の本件食堂の使用の申出に対し許可しないことが権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、これを許可しないことをもつて不当な使用制限とはいえないものというべきである。 そこで右に認定した事実を基礎に検討するに、本件食堂は会議、商談等に利用されてはいたが、秘密を要求されるものについては利用されていない臨時のものであつたこと、参加人が集会を開始して後Bの苦情から原告がはじめて参加人の集会開催を知るなど集会が喧噪にわたるものではなかつたこと、このことは集会の目的が第一回の団体交渉の報告であつて必ずしも喧噪にわたることが当然に予想される集会ではなかつたこと、更に従業員会には本件食堂の使用も許可したことがあること、また屋外の集会については必ずしも具体的な業務上の支障があつたともいえないことなどからすれば、本件食堂の使用や屋外集会を参加人の希望どおり許可したことによる現実の業務上の支障は必ずしも大きくなかつたものと推認されなくもないが、他方、工場部門とは別に本部の従業員の就業時間は午後五時四五分までであつてその間に集会が行われるとすれば就業中の従業員が集会に気をとられ、職務に専念することができないなどの事態も予想し得ないわけではなく、また当時本来の会議室等の使用が困難であつたことから、本部従業員の就業時間中は本件食堂を当座の会議室等として使用していたのであるから、原告において本部就業時間中の本件食堂の使用を許可しないと考えたことにも合理性があること、現に使用できなかつた従業員もでていること、しかも原告は全く許可しないというわけではなく午後六時からの使用は許可していること、そして参加人が集会の開催を午後五時に固執した理由は専ら組合員の帰宅時間の遅れを妨ぐといつた自らの結束力の弱さからくる事由であり、これに固執する合理性に乏しいこと、また、従業員会は親睦団体で、原告の組織に近いものであつて、参加人と同一に扱うこともできないことなどの事情もあり、これらの事情を比較考量すると、原告が参加人からの午後五時からの本件食堂の使用申出あるいは屋外集会を許可しなかつたことについて、原告の権利の濫用であると認められるような特段の事情があつたものとはいえず、右の事情に原告が一般的に参加人に対し好意的でなかつたことも併せ検討しても、これをもつて未だ右にいう特段の事情があるものと認めるに足りず、他に右の権利の濫用があるものと認めるに足りる証拠はなく、結局、原告の右許可しなかつた行為は不当ということはできず、参加人に対する支配介入行為とはいえないものというべきである」

2012/07/04

それでもケネディ判事はよくやったと思う

 昨日のBS-TBSの7時30分放映のCBSイブニングニュースを見ました。クロフォード記者のレポートで、ロバーツ主席判事ははじめ国民皆保険に反対で、違憲判断だったが、意見を書く段階になって気持ちが変わり、課税権についてもロバーツ主席判事とリベラル派の4判事が意見を同じくしたということです。ロバーツ主席判事は保守派とも意見交換し、ケネディ判事が翻意させるため説得したが、ロバーツは意見を変えなかったということです。フォーブスにもう少し詳しいことが載ってました。
 反対意見はケネディ、スカリア両判事によって書かれましたが、読み上げたのはケネディ判事です。反対意見というのは医療保険改革法の全てが違憲であり叩き潰すべきというものです。
 したがって、もっともオバマケアを嫌っていたのはケネディ判事だということがわかります。
 同判事は第3の男として最高裁入りしました。ボークが上院で承認されず、二人目の指名者はマリファナ吸引報道で辞退したため、代打の代打としてレーガンが指名したのです。就任時にはケースバイケースの判断をとる穏健な保守派という評判でした。
 連邦地裁判事になるのが夢だった。最高裁判事になれたのは望外の幸運と謙虚に語っていたので小物なのかと思いましたが、同判事の実績からすれば、重要判決で決定票を握るか議論をリードしており名裁判官といえると思います。
 つまり、ケネディ判事のかかわった重要判決として記憶に残るのは、公立高校卒業式の祈祷-違憲、星条旗焼却処罰-違憲、ヴァーチャルチャイルドポルノ規制-違憲、男色行為処罰州法-違憲、拳銃所持禁止立法-違憲、特定の候補を支援する目的での企業・団体献金に枠をはめる連邦法-違憲といったものがあります。 
 要するに、宗教の自由、表現の自由、私的空間で成人が合意によりアナルセックスをやる自由、銃所持の権利、企業団体が政治献金する自由を断固擁護しております。
 私が疑問に思ったのは男色行為だけで、あとはケネディ判事の判断が正しいと思います。この流れからすれば、ケネディが保険加入を強制されない個人の自由を擁護するのに相当頑張るだろうということは予想できました。最高裁長官を説得できなかったのは残念ですが。

2012/07/03

L・トライブ教授「政府の課税権は広範で、違反者を投獄せず、税金を課す法律なら個人に商品購入を義務づけることができるという判決だ」と強弁

 本日16時BSNHK放映のPBSニュースアワーを録画で見た。リベラル派の憲法学者ハーバード法科大学院のL・トライブ教授(ロバーツ最高裁長官とオバマ大統領はかつての教え子である)とD・リブキン弁護士(26州を代表し医療保険改革法の違憲性を主張した)の闘論である。大筋は次の通りである。

 
 
ローレンス・トライブ教授
「‥‥私は早い時期からそう思ってましたが、保険加入は義務だと言われてましたけれども、その運用の方法は全く税金と同じであるというふうに最高裁長官が考えていたということがわかったんです。‥‥最高裁長官はこれは本来は支払い能力があるのに加入しない場合、そして他の人に負担を押しつけた場合は課税するという制度であって、義務の不履行に対する罰金ではないと言ってました。ですから私は長官が医療保険改革法を支持すると予想してました。ほかの局でも申しましたけれども、最高裁長官がこれは税金だと言った時には驚きませんでした‥‥」

司会者
「長官が立場をかえたのかどうかというですが、この点は重要なことですか」

デイビット・リブキン弁護士
「いいえ、それは問題にならないと思います。裁判官は審議中に、早い段階であるいは後になって考えを変えるということはあることです。ただ私が強調したいのは憲法が堅持されたということで、その点ではオバマ政権が敗北したという点です。‥‥2年半以上にわたってオバマ政権も医療保険改革法の支持者も州際通商条項を根拠に憲法の価値を貶めるかたちで、個人の保険加入義務を正当化してきました。しかし5人の判事がそれは間違いであると言ったんです。課税権だと言う主張は後でつけたようなものです。それにトライブ先生のいうように政府の課税権だという人もそれだけを根拠としているわけではありません。ですから政府が動かしてきた船そのものが沈んだようなものです。
 さらに、ブライヤー、ケーガン両判事を含めた7人の判事が、医療保険改革法の別の目玉であった高齢者のメディケア制度、強制的なこの制度の改革は26の原告州に過大な負担を強いるもので違憲だとしたのです。これは絶大なる勝利です。‥‥」

 司会者
「トライブ教授に判決の影響について伺います。ある分析によるとリブキンさんのような保守派の学者はこの件については敗北はしたけれども、将来連邦政府の権限を制限するというもっと大きな憲法上の闘いには勝ったと言われてます。そういう意見をどう思いますか」

 トライブ教授
「最高裁は5対4で州際通商条項の権限を確認したのであって、何かをあらたに加えたわけのではありません。これは商品の購入を義務づけたものではないという判断を出したにすぎないのです。議会が頻繁にそうした規制を今後導入しようとするようなことはないと思います。政府の課税権というのは非常に幅広いものですから。そうした規制は必要ないんです。最高裁長官も言ったように、例えば省エネ機器の導入についても、これは義務化をして違反者は投獄するというものではないと。導入しない人はそれだけ高い税金を払ってもらうというようなやりかたであってそれと同じだと言ったわけです。‥‥
 議会が唯一単独でもっている権限というのは課税権です。‥‥ ロバーツ長官もその意見のなかで ‥‥ 規制権限と異なり課税権は単独で行使しうると言ってます。ここでは課税権だけで十分だということは明らかなわけです」

司会者
 「この判決はほかの分野を含めて連邦政府の権限にどのような影響を与えると思いますか。」

 リブキン弁護士
 「最高裁長官の意見は、二重主権制とその個人の自由との関係の重要さを見事に再確認したと思います。連邦政府は包括的な警察権をもたないということです。‥‥
 この判決はロペス判決以来のインパクトでそれを明らかにしたと思います。課税権の問題についてもトライブ先生は見落としてらっしゃると思うんですが、罰則の規模などに限界があるとはっきり言っているわけです。数千ドルであったならぱ最高裁の判決は違ったものになっていたかもしれないと思います。しかし大切なのは現政権の重大なミスを正す判決を下したということです。‥‥ 今の政府は権力の分権、分立などというのはそもそも誇大妄想で大事なことではないと考えているようですが、そんなことはないということを知らしめたんです。‥‥強力な勝利であり今後何十年もの間いろんな判決に影響すると思います」

トライブ教授
「‥‥オバマ政権は州政府の警察権と連邦政府の有限なる権限との違いをきちんと認識してこの法律がその権限の範囲内にあると主張したんです。そしてそれは認められました。
憲法に、ひとつの裁判にはひとつの条項しか適用してはいけないというようなルールはありません。根拠は複数あるということもありうるんです。最初の国立銀行が設立されたときに最高裁は1819年の判決で複数の条項を根拠として合憲と判断したんです。‥‥」

 L・トライブ教授は判決を予想していたし驚きもしなかった。ロバーツに課税権が広範なものだというのを教えたのも私だよなどと自慢、この判決はオバマ政権の主張を認めたもの。どちらが勝った負けたというものではないと言う。対してD・リブキン弁護士はオバマ政権の敗北だ、保守派にとって強力な勝利だと反論。
 トライブ教授は規制と違って課税権は議会が単独で行使できる、課税権で何でも解決できるみたいな事を言っていたが、憲法革命以前の課税権条項が争点となった1936年のバトラー判決は、連邦政府には課税権条項により「一般的福祉」のために租税を賦課・徴収することが認められているが、農業調整法の加工税は「租税」ではなく農業生産を規制する一般的仕組みであり、その規制は憲法修正第十条の「州権限の留保条項」により州の権限として留保されているとして違憲判決もあるのだから、課税権万能思想で良いのか少し疑問に思った。

2012/07/02

「実は保守派の大勝利」とABCジスウィークの討論(連邦最高裁判決)

BSNHK16時放映の「ABCジスウィーク」医療保険改革法連邦最高裁判決についての討論の録画を見た。要点だけ記録する。

司会者ステファノブロス
「ウィルさんは保守派にとっての勝利と言うんですね」

ABCニュース解説者ジョージ・ウィル
「‥‥ 実は我々が勝ったのです。州際通商条項の社会主義者の主張といいましょうか。この州際通商条項のもとで可決すれば、連邦政府に大きな政策権限を与えてしまい、個人の存在まで口を出されるぞと。しかし、法廷はそういう主張はしなかったし、州際通商条項の回りに壁を築きました。さらにメディケアの拡大では、史上初めて過半数の州が団結して違憲であると主張して勝ったのです。ニューディール以来75年にして連邦政府の法律による歳出権限を覆し中央政府と州政府の二重主権を守ったのです‥‥」

司会者
「ロバーツ最高裁長官の果たした役割ですけれどもその判断は多くの人を驚かせました。ほんの数週間前に意見を変えたという話が入ってます」

ABC最高裁担当テリー・モラン記者
「驚異的ですよねえジョージさん、まるで探偵小説です。最高裁長官が意見を変えたんです‥‥」

司会者
「最初は12頁の反対意見に票を投じたと」

モラン記者
「そう、でも全法律撤廃を求める保守派にもついていけない、最高裁長官の意見がこんがらがってよくわからないなら、反対派の意見表明もいい勝負だと思いますよ。‥‥全体像を見れば‥‥これは保守派の大勝利です。これからは連邦政府を革新的でクリエイティブに使おうと思っていたリベラル派は最高裁の攻防に引きづりこまれることになります」

 合憲判決はオバマの勝利じゃない。実は保守派の勝利というのがG・ウィルとT・モラン記者の意見でした。
 今回の連邦最高裁判決は、保守派が最も警戒していた州際通商条項の際限ない拡大を阻止しました。過半数の裁判官が連邦議会には国民に製品とサービスの購入を義務づける権限はないとしましたので先例になります。
 ロバーツ最高裁長官は休暇で地中海のマルタ島にいます。表向きロバーツにがっかりといいながら、実は保守派は今回の最高裁判決を密かに祝っているとのことです。
 これはABCの番組で、よそも見てみないとわかりませんが、今回の判決はロバーツを裏切り者よばわりするほど悪くはないということのようです。
 

2012/07/01

ロバーツ主席判事が合憲判断をとった理由とは

 早くもロバーツ主席判事を臆病者呼ばわりするTシャツがつくられたらしいが適切でないと考える。ロイター記事Why Roberts saved Obama’s health care law http://www.dailystar.com.lb/News/International/2012/Jun-30/178825-why-roberts-saved-obamas-health-care-law.ashx#axzz1zIWUVcskによると、ロバーツ主席判事は口頭弁論のなかでもし違憲判決を下すとなると反ニューディールの憲法革命以前の最高裁に戻ったとみられることに懸念を示していたという。1936年のカーター事件判決は炭鉱における労働者の雇用は連邦議会の州際通商規制権限の及ばない地方事項として、瀝青炭の価格を統制し一定の労働条件を保障する瀝青炭資源保全法を違憲としたが、そうした判断と同種とみられれば、憲法革命以後の75年の先例を無視しているみられることになりかねないという。合憲としたのはこのためでだろう。
 私が違憲判決を期待したのは、憲法革命への反革命の流れをつくる可能性を開くと考えたからであるが、ロバーツにはそういう考えはなく、司法自制主義者であったのである。
 ティーパーティー運動からすれば、連邦政府の権限は制限されるべきなのだが、それほどロバーツは経済保守的な思想ではなかったし、それが裁判官の役目だとは思っていない普通の裁判官だったということだろう。

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