カード 国労札幌地本事件最高裁判決の意義(3) 企業秩序定立権について-その1-
第一回http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/post-359d.html
第二回http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-5017.html
国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号では「企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のもとにその活動を行うものであって、企業は、その構成員に対してこれに服することを求めうべく、その一環として、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもつて定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるもの、と解するのが相当である。」と判示した。
この判例法理はさらに進展し、関西電力事件・最一小法廷判決昭58・9・8『労働判例』415号、『判例時報』1094号は「労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為等を理由として、当該労働者に対し、一種制裁罰である懲戒を課することができる」と判示した。
三井正信によれば「最高裁は企業秩序論を展開して、一見したところ、企業秩序の定立・維持に関して広範な権限(企業秩序定立・維持権)を使用者に認め‥‥企業秩序に関連して、①規則制定、②指示命令、③回復指示命令、④調査、⑤懲戒処分などを使用者がなしうることになる。」【註1】
1 懲戒処分は就業規則に基づいて行う必要性
第一の問題は就業規則に規定がなくとも懲戒処分ができるかということだが、学説、判例とも、純粋な固有権説とあくまで就業規則の記載が必要という見解に分かれている。
菅野和夫は「企業秩序とその遵守義務とは企業および労働契約(当然の性質・内容)に根ざす当然の権利義務とされている」換言すれば「最高裁は服務規律を含めた企業秩序の全体を端的に企業と労働契約の本質の中に位置づけた」【註2】と述べ、このような立場は使用者は規律と秩序を必要とする企業との運営者として当然の固有の懲戒権を有するという「固有権説に属するものとみることもできる」【註3】とする。
判例では、 関西電力事件・最一小判昭58・9・8が使用者は、労働者の企業秩序違反行為に基づいて懲戒権を行使することができるとして、とくに個別契約や就業規則に定めがなくても使用者の懲戒権が根拠づけられることを示唆した。これは懲戒権は労働契約に内在するものであって、特別な法的な根拠は必要とされない【註4】とするものである。 しかし国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30は、使用者は規則や指示・命令に違反する労働者に対しては「規則に定めるところに従い」懲戒処分をなしうるとしなしうるとし、フジ興産事件・最二小判平15・10・10『労働判例』861号、『判例時報』1840号は、懲戒権を企業運営者が本来有する企業秩序定立・維持権の一環であるが、規則に明定して初めて行使できるものと把握している。【註5】。
つまり「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別、事由を定めておくことを要する。そして、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容の適用を受ける事業場の労働者に周知されている手続きが採られていることを要する」と判示している。
もっとも、国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30は、日本国有鉄道の「就業規則六六条は、懲戒事由として「上司の命令に服従しないとき」(三号)、「その他著しく不都合な行いのあったとき」(一七号)と定めているところ、前記の事実によれば、被上告人らは上司から再三にわたりビラ貼りの中止等を命じられたにもかかわらずこれを公然と無視してビラ貼りに及んだものであって‥‥懲戒事由に該当するものというべきである。」とし国鉄法31条にもとづいて戒告処分を是認しているのであるが、「その他著しく不都合な行い」という抽象的な規程を根拠として戒告処分を是認しているのである。
であるから、無許可ビラ貼りを禁止するという具体的な規程がなくとも、命令不服従等は懲戒事由となるという就業規則の規程でも十分ともいえるだろう。
なお、厚生労働省はモデル就業規則http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/model/で「懲戒処分については、最高裁判決(国鉄札幌運転区事件 最高裁第3小法廷判決昭和54年10月30日)において、使用者は規則や指示・命令に違反する労働者に対しては、「規則の定めるところ」により懲戒処分をなし得ると述べられています。したがって、就業規則に定めのない事由による懲戒処分は懲戒権の濫用と判断されることになります。」と述べ、固有権説を否定しているが、そう言い切れるのだろうか。
いずれにせよ、使用者側が就業規則を整備せず、固有権説に依拠して懲戒処分対象とするのは安全運転とはいいにくい。処分対象者に反論の余地を与えることになるからである。フジ興産事件・最二小判平15・10・10を無視できないので、管理者に対する不服従のみならず、具体的に演説・集会等の事例を列挙し無許可の場合は就業規則違反で、懲戒事由に当たることを明定しておくことが、よりリスクを回避する労務管理として望ましい。
なお、地方公務員については地方公務員法第29条でこの法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合は、懲戒処分できるとしているから、条例、規則、規程違反ということで懲戒権者の裁量で処分が可能である。
【註1】三井正信「労働契約法と企業秩序・職場環境」『廣島法學 』l Vol.33 no.2 .2009〔※ネット公開〕http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00027808
【註2】菅野和雄『労働法』弘文堂 411~412頁
【註3】菅野前掲書419頁
【註4】石田信平「フジ興産事件最二小判平15・10・10」山川隆一・森戸英幸編著『判例サムアップ労働法』弘文堂2011 265~266頁
【註5】菅野前掲書419頁
そこで、どのような就業規則等をモデルとして検討すべきか。判例にあらわれた5例と、ネット上の2例を引用する。結論を先に言えばいずれも施設管理権の発動が可能という観点で合格点を与えられる規則である。
判例等で引用された各企業の就業規則等及びネットで公開されている就業規則の例
● 郵便局
○東京城東郵便局事件(東京地裁判決昭59・9・6『労働判例』442号
「‥‥郵政省庁舎管理規程七条は、「庁舎管理者は、庁舎等において、演説、ビラ等の配布、その他これに類する行為をさせてはならない。ただし、庁舎等における秩序維持等に支障がないと認める場合に限り、これを許可することができる。」と定め、また同第三条は、職員は、庁舎管理者が、庁舎管理上必要な事項を指示したときは、その指示に従わなければならない」と定められている
○ 全逓新宿郵便局事件 東京高裁判決昭55・4・30『労働判例』340号
http://hanrei.biz/h71540
郵政省就業規則及びその運用通達は、国有財産の使用に関する取扱いにつき、「組合から組合事務室以外の庁舎の一時的な使用を申し出たときは、庁舎使用許可願を提出させ、業務に支障のない限り、必要最小限度において認めてさしつかえないこと。」と規定しており、そもそも管理者はむやみに組合に許可をだしてはいけないことになっているわけである。
○ 郵政事業庁就業規則 http://www.d4.dion.ne.jp/~hhirokaz/shu.htm
第13条 (職場の秩序維持)
1 職員は、上司の許可を受けないで、ほしいままに勤務を離れてはならない。
2 職員は、休憩時間中であっても、職場を離れる場合には上司に届け出なければならない。
3 職員は、みだりに勤務を欠いてはならない。
4 職員は、みだりに他人を職場に立ち入らせてはならない。
5 職員は、職場において、みだりに飲酒し、又はめいていしてはならない。
6 職員は、職場において、他の職員の執務を妨げ、その他秩序を乱す言動をしてはならない。
7 職員は、庁舎その他国の施設において、演説若しくは集会を行い、又はビラ等のちょう付、配布その他これに類する行為をしてはならない。ただし、これらを管理する者の事前の許可を受けた場合は、その限りではない。
8 職員は、庁舎その他の国の施設において、みだりに危険な火器その他の危険物を所持してはならない。
9 職員は、庁舎その他国の施設における秩序維持等について郵政省庁舎管理規程に基づく庁舎管理者の指示に従わなければならない。
第20条 (争議行為の禁止)
職員は、同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をしてはならない。また、職員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし若しくはあおってはならない。
第27条 (勤務時間中の組合活動)
職員は、勤務時間中に組合活動を行ってはならない。ただし、次の各号の一に該当する場合において、あらかじめ所属長の承認を得た範囲内においては、この限りではない。
一 交渉委員又は説明員として、団体交渉又はその手続きを行なう場合
二 苦情処理機関の委員又は当事者として、苦情処理又はその手続きを行なう場合
第28条 (組合休暇による組合活動)
職員は、前条ただし書に規定する場合のほか、次の各号に一に該当する場合において、あらかじめ組合休暇付与願を提出して所属長の許可を受けたときは、勤務時間中であっても、組合活動を行なうことができる。
一 組合の大会、会議等に出席する場合
二 その他組合の業務を行なう場合
2 前項の規定により許可される時間又は日は、組合休暇とする。
第30条 (組合休暇中の勤務及び給与)
職員は、組合休暇を許可された期間中は、いかなる職務にも従事することができない。2 職員は、組合休暇の期間に係る俸給及び調整手当を支給されない
第114条(懲戒)
職員は、次の各号の一に該当する場合は、郵政省職員懲戒処分規程(昭和26年3月公達第33号)の定めるところにより、懲戒されることがあるものとする。
一 国公法及び同法に基づく命令又は国労法第17条の規程に違反した場合。
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
第115条(懲戒の種類)
懲戒処分は、次の四種類とする。
一 免職
二 停職
三 減給
四 戒告
第116条(訓告)
職員は、過失があった場合には、郵政部内職員訓告規則(昭和25年7月公達第83号)
の定めるところにより、訓告されることがあるものとする。
●JR東海
○JR東海就業規則(JR東海事件 大阪地裁平成12年3月29日判決『労働判例』790号)
二二条一項 社員は、会社が許可した場合のほか、会社施設内で、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配布その他これに類する行為をしてはならない。
二三条 社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で組合活動を行ってはならない。
社員が会社の諸規程に違反した場合には懲戒する旨定めている。(一四〇条)
基本協約二六一条
「争議行為中、当該争議行為に関係する組合員は、会社の施設、構内、車両への立入及び物品の使用をすることができない」
○JR東海就業規則(JR東海新幹線組合バッチ事件 東京地労委平 1・ 2・ 7命令)http://web.churoi.go.jp/mei/m02299.html#PAGETOP
第3 条 (服務の根本基準)
1 社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令・規定等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。
第20 条 (服装の整正)
1 制服等の定めのある社員は、勤務時間中、所定の制服等を着用しなければならない。
3 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。
第23 条 (勤務時間中等の組合活動)
社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。
●国立大学法人東北大学職員就業規則
http://www.bureau.tohoku.ac.jp/kitei/reiki_honbun/u1010423001.html
(文書の配布、集会等)
第37条 職員は、本学の施設内で、次のいずれかに該当する文書又は図画を配布又は掲示してはならない。
一 教育、研究その他本学の業務の正常な運営を妨げるおそれのあるもの
二 第34条に規定する信用失墜行為等に該当するおそれのあるもの
三 前条に規定する政治的活動等に該当するおそれのあるもの
四 他人の名誉の毀損又は誹謗ひぼう中傷等に該当するおそれのあるもの
五 公の秩序に反するおそれのあるもの
六 その他本学の業務に支障をきたすおそれのあるもの
2 職員は、本学の施設内で、文書若しくは図画を配布若しくは掲示する場合、又は業務外の集会若しくは演説を行う場合は、業務の正常な遂行を妨げる方法又は態様で行ってはならない。
3 職員は、本学の施設内で文書又は図画を掲示する場合には、あらかじめ指定された場所に掲示しなければならない。
4 職員は、許可なく、本学の施設内で、業務外の集会、演説、放送又はこれらに類する行為を行ってはならない。
(懲戒)
第48条 懲戒は、情状に応じて、次の区分により行う。
一 戒告 将来を戒める。
二 減給 1回の額が労基法第12条に規定する平均賃金の1日分の半額を超えず、総額が1給与支払期間の給与総額の10分の1を超えない範囲内で、給与を減額する。
三 停職 6月以内を限度として勤務を停止し、職務に従事させず、その間の給与を支給しない。
四 諭旨解雇 退職願の提出を勧告し、これに応じない場合には、30日前に予告して、若しくは30日の平均賃金を支払って解雇し、又は予告期間を設けないで即時に解雇する。五 懲戒解雇 予告期間を設けないで即時に解雇する。
(懲戒の事由)
第49条 職員が、次の各号の一に該当する場合には、懲戒を行うことがある。
一 正当な理由なく無断欠勤した場合
二 正当な理由なくしばしば遅刻、早退するなど勤務を怠った場合
三 故意又は重大な過失により本学に損害を与えた場合
四 窃盗、横領、傷害等の刑法犯に該当する行為があった場合
五 本学の名誉又は信用を著しく傷つけた場合
六 素行不良で本学の秩序又は風紀を乱した場合
七 重大な経歴詐称をした場合
八 その他この規則によって遵守すべき事項に違反し、又は前各号に準ずる不都合な行為があった場合
2 懲戒の手続きは、国立大学法人東北大学職員の懲戒に関する規程(平成16年規第66号)の定めるところによる。
(訓告等)
第50条 前条に規定する場合のほか、服務を厳正にし、規律を保持するために必要があるときは、訓告、厳重注意又は注意を行うことがある。
●厚生労働省モデル就業規則
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/model/
(遵守事項)
第11条 従業員は、以下の事項を守らなければならない。
① 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。
② 職務に関連して自己の利益を図り、又は他より不当に金品を借用し、若しくは贈
与を受ける等不正な行為を行わないこと。
③ 勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと。
④ 会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと。
⑤ 在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先等の機密を漏洩しな
いこと。
⑥ 許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。
⑦ 酒気を帯びて就業しないこと。
⑧ その他従業員としてふさわしくない行為をしないこと。
(懲戒の種類)
第58条 会社は、従業員が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の
区分により懲戒を行う。
①けん責
始末書を提出させて将来を戒める。
②減給
始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。
③出勤停止
始末書を提出させるほか、 日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
④懲戒解雇
予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準
監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。
(懲戒の事由)
第59条 従業員が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出
勤停止とする。
① 正当な理由なく無断欠勤が 日以上に及ぶとき。
① 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。
② 過失により会社に損害を与えたとき。
③ 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。
④ 性的な言動により、他の従業員に不快な思いをさせ、又は職場の環境を悪くしたと
き。
⑤ 性的な関心を示し、又は性的な行為をしかけることにより、他の従業員の業務に支
障を与えたとき。
⑥ 第11条、第13条に違反したとき。
⑦ その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。
2 従業員が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第47条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。
重要な経歴を詐称して雇用されたとき。
以上、郵便局(民営化以前)、JR東海、国立大学法人東北大学等の就業規則等を引用したが、郵便局は就業規則で無許可の演説、集会を明文で禁止し、庁舎管理規程には「職員は、庁舎管理者が、庁舎管理上必要な事項を指示したときは、その指示に従わなければならない」とも規定があるうえ、国家公務員法及び同法に基づく命令又は国営企業労働関係法第17条の規定に違反した場合懲戒対象とすることも盛り込まれており、よく整備されたものといえる。
JR東海は、無許可の演説、集会、禁止する明文があるだけでなく、勤務時間中だけでなく会社構内の無許可組合活動を禁止しており、規則違反は懲戒対象となることも明らかにしている。
国立大学法人東北大学も、無許可集会・演説を禁止する明文があり「この規則によって遵守すべき事項に違反し、又は前各号に準ずる不都合な行為があった場合」という包括的規定で懲戒対象となることを明らかにしている。
厚生労働省モデル就業規則は、集会、演説を列挙しないが、「 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。」という無許可施設利用に関する包括的禁止規定があり、「この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。」が懲戒対象となることを明らかにしている。
よって上記の企業等においては施設管理権の発動によって、無許可演説・集会に対し警告し、中止命令を発し、従わない場合の懲戒処分が可能である。
多くの施設管理権判例をみるかぎり裁判所の基本的なスタンスは、企業秩序定立権による就業規則が合法的なものであるかぎり、「権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合」(国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30)「形式的にこれに違反するようにみえる場合でも‥‥秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められる場合」(目黒電報電話局事件・最三小法判昭52・12・13日民集31巻974頁 『判例時報』871号『判例タイムズ』357号6頁『労働判例』287号の趣旨)を除いて、施設管理権の発動による、警告、中止・解散命令・懲戒処分は支持されているからである。
具体的事案の検討
では、東京都水道局の施設構内における組合活動の具体的事案について判例法理である企業秩序定立権にもとづく施設管理権の発動ができるか、以下検討してみたいと思う。
都水道局時間外労働拒否事件東京地裁昭40・12・27判決によれば、地方公営企業の事業場の労働関係は、私法的規律に服する契約関係とみるのが相当と判示されているから、国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号の判例法理が適用されることは間違いない。
もちろん、庁舎管理権の観点からも検討する必要がある。国有財産法第18条第3項および地方自治法第238条の4により、国有財産、公有財産は本来的な使用、当該建物に関する特定の行政目的のために供されるのであり、管理者はその目的に合致するような管理をなす義務を負う。また、そこに立ち入る者は、管理者の管理権限に服することになり、行政財産の目的外使用は許可を要するのである。したがって組合活動も、行政財産の目的外使用の問題としてとらえることもできるが、ここでは国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号の判例法理を軸として、私企業一般に適用される施設管理権を中心に検討することとすめる。
問題は山積しているが秩序を乱し、正当な行為と評価されない組合活動として、ここでは1例のみを取り上げることとする。
事務室内の昼休み組合集会と示威行為
私の職場(営業所における平成23年12月9日の事務室中央で昼休憩時間に行われた組合集会(2名のみ昼当番として勤務、窓口のレジと電話当番-昼休憩であっても営業時間である、休憩時間を午後1時以後にずらす勤務形態は労働協約で組合と合意していること)12時30分頃より約20分間であるが、12月14日2時間スト、21日1時間ストを構えた状況で、闘争課題を確認し意思統一を図るための集会という分会長の挨拶があり、闘争目的を演説(約6分-よく通る声)、次いで分会書記長の基調報告があり事前に配られた内容を読み上げ(約6分)、分会長が拍手により確認を要求し、拍手され、次いで組合員代表の決意表明(約3分)があり、最後に大声で分会長が「14日、21日ストライキに向け闘争課題を確認し、決意表明を受けました、最後に頑張ろう三唱で締めたいと思います」といったことを述べ、「団結用意」とかけ声があり、がんばろう三唱(示威行動)が行われた。(約3分)。
この集会は開始直前に管理職に口頭で通告(事実上許諾)してなされたものである。書面で施設利用の許可の願出があったものではない、通常そういう手続きもない。
判例からみてこの集会が正当な組合活動となされることはない余地はない。
この集会は明らかに場所・時間・態様において正常な業務運営を阻害し、秩序を乱すもので、目的と内容において地公行法第11条第1項に違反する違法行為を慫慂するものあるから、まともな企業ならば中止命令、警告、繰り返し行った場合の懲戒処分を行う事例と考える。
しかし管理職は、休憩時間だから中止命令はできないと断言。事実上、業務の正常運営阻害を黙認し、違法行為の助長に加担しているのである。管理者としての基本的任務は、業務の正常運営、職場規律の維持に最大最善の関心と努力を払うことではないだろうか、管理者としての基本姿勢から問題があり、問い糺されてしかるべきである。
演説者と料金支払い等来客に対応する昼当番勤務者との間に移動式のパーテーションがあるため、目隠しされてはいるが、10mも離れていないのであって、声を張り上げての演説、拍手、頑張ろう三唱の鯨波は騒音となるため、窓口であれ電話であれ、お客様の声が聞き取りにくくなり、業務に支障がある。また、勤務中の職員が演説等に気を取られることにより、職務に専念できない有害な職場環境といえる。
そもそも、勤務中の職員は相当の注意力の技能を用いて職務に専念しなければならない義務がある。誠実に労務を提供する義務の遂行の侵害である。事務室の目的外使用である組合集会のために職務への集中を妨げられる理由は全くない。
又、地方自治法238条は「行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる」としているが、この組合集会は水道事業という用途、目的から外れ、集会の目的がストライキの慫慂であるから、本来の用途、目的を妨げるものであり、その観点でも違法性がある。
また、事務室内の自席で食事をとり、休憩する職員はすくなくなく、私を含め集会に加わりたくない職員の休憩時間の静穏を害し、囚われの聴衆がいやなら外出するなど移動する必要があるから、他者の休憩時間の自由利用を妨げているともいえるのである。他者の権利侵害という側面もある。
判例法理から検討
無許可集会を正当な組合活動と評価しない主要判例としては、池上通信機事件・最三小判昭63・7・19『労働判例』527号http://web.churoi.go.jp/han/h00515.html済生会中央病院事件・最二小判平1・12・11民集43巻12号 1786頁『労働判例』552号http://web.churoi.go.jp/han/h00554.html オリエンタルモーター事件・最二小判平7・9・8『労働判例』679号 http://web.churoi.go.jp/han/h00640.htmlがあるが、ここでは、休憩時間の組合活動もしくは類似事例の判例を中心に検討する。
労働基準法34条3項の休憩時間の自由利用の原則について、目黒電報電話局事件・最三小法判昭52・12・13日民集31巻974頁 『判例時報』871号『判例タイムズ』357号6頁『労働判例』287号は「従業員は労働契約上企業秩序を維持するための規律に従うべき義務があり、休憩中は労務提供とそれに直接附随する職場規律による制約は受けないが、右以外の企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れない」と判示し、休憩時間であれ、秩序を乱す庁舎構内の組合活動は当然規制対象となりうるのである。
実際、国労札幌地本最高裁判決を引用した全逓新宿郵便局事件 最高裁第三小法廷昭和58年12月20日『労働判例』421号 『労働法律旬報』1087・88号
http://hdl.handle.net/2298/14070は、集配課休憩室、年賀区分室(予備室)における休憩時間中の組合員の集会の、解散命令、監視は不当労働行為に当たらないと判示した。
最高裁が支持した控訴審東京高裁昭和55年4月30日判決『労働判例』340号 は以下のように述べている。
「休憩室が職員の自由使用にゆだねられているといっても、それは、休憩時間における休養等その設置の趣旨に添う通常の休憩の態様において使用する場合に限られるものである。本件五月一〇日職場集会のように、明らかに他の目的をもつて集配課休憩室を使用することは、休養のための休憩室の自由使用とは著しくその態様を異にし、集会を行うこと自体休憩室設置の趣旨には到底添い難く、したがつて、一般の庁舎の目的外使用の場合と全く同様に、許可願を提出して承認を受けた上でなければ、該集会のために休憩室を使用することはできないものというほかはない」
この事件では集配課「休憩室」のほか普段使われていない予備室としての「年賀区分室」が集会場所であったが、私の職場の場合は、執務室内、しかも昼休みも料金支払い等窓口業務を営業しており「昼当番」として休憩時間をずらして勤務している職員が配置されている場所と隣接している場所であるから、郵便局より悪質なのである
同じく昼休みの会議室等の無許可集会強行を理由とする懲戒処分を支持した例として東京城東郵便局事件・東京地裁判決昭59・9・6判決『労働判例』442号がある。この判例は闘争指令下の集会であることを理由に会議室の使用を認めないことは、権利の濫用とは認められず、解散命令に従わず、無許可集会強行に積極的な役割を果した組合員の懲戒処分を有効としたもののである。この事件では闘争指令前に行われた郵便課、保険課等の集会は是認されていた。闘争指令後の集配課の集会は不許可とされた。この方針は東京郵政局の指示によるものである。
「全逓が同年五月一〇日、ストライキを決行する体制を確立すること及び業務規制闘争に突入することの指令を城東支部に対して発したため、右指令が公共企業体法等労働関係法一七条一項に違反するためとしたことは前記‥‥認定したとおりである。そしてこのような指令が発せられた場合において、吉田局長が城東支部に対し施設の利用を許諾することは違法行為を助長する結果となるおそれが大きいと判断したことについては相当な理由があるというべきであるから、同局長が会議室の使用を許可しなかったことにつき権利の濫用であると認められる特段の事情はないというべきである」とする。
郵便局の労務管理は妥当なものである。違法行為であるストライキを構えた闘争指令がなされているのに、それを慫慂する庁舎内の集会を許諾することは違法行為の助長であるから、コンプライアンスとしても、管理者としては、不許可、解散命令を発することは当然にことであり、裁判所もこの判断を是認したということである。
ところが東京都水道局は同様の闘争指令下においても集会を許容しているということはコンプライアンス・ガバナンスが全くなってないことを意味する。
このほか休憩時間の集会を正当な組合活動として許容されない例として三菱重工業事件 東京地裁昭和58年4月28日判決『労働判例』410号、軍事基地という特殊な職場であるが休憩時間の集会を禁止する基地司令官の命令に反し、組合集会を開催した組合員の出勤停止処分を是認した例として米空軍立川基地出勤停止事件 東京高裁昭和40・4・27判決『労働関係民事裁判例集』16巻2号317頁がある。
休憩時間の集会ではないが、類似した事例として日本チバガイギー事件最高裁第一小法廷平成元年1月19日判決『労働判例』533号がある。
午後五時からの食堂使用および屋外集会(終業時刻が工場は午後五時、本部部門は午後五時四五分の開催の不許可は施設管理権行使の範囲内にあり、不当労働行為にあたらないとした原判決東京地裁昭和60年4月25日判決民集36巻『労働判例』452号を是認したものである
類似しているというのはつぎのような意味である。
もう少し具体的にいうと昭和49年4月、宝塚工場支部の役員は、会社に対し集会場所として本部社屋一階の食堂を午後五時から使わせてほしいと申入れた。 しかし、会社は、工場部門の終業時刻は午後五時であるものの、本部の終業時刻は午後五時四五分であるから、それまでは本部への来客もあり、また、本部の会議室として食堂を使用することもあるので、午後六時以降の使用しか認められないと回答した。これに対して宝塚工場支部の役員らは、これまで従業員会が会社との賃上げ交渉等の経過を報告する際には就業時間中であつても食堂の使用が認められた例があると主張し、もし、食堂の使用が業務上どうしても都合が悪いのであれば、やむを得ないから屋外での報告集会の開催を認めてほしいと申入れた。これに対して会社集会においてマイク等が使用されて喧噪状態となつた場合には就業中の従業員の執務に影響を与えて業務上の支障が生ずるおそれがあるため、施設管理上の理由から屋外集会の開催を拒否した。宝塚工場支部の組合員約七〇名は、同日午後五時過ぎ頃から食堂に集合した。一方、午後五時すぎ頃本部写真機械部のAが本件食堂で業者との商談をしようと本件食堂へ行つたところ、右のとおり参加人の集会のため使用できる状態にないため、労働組合関係を担当する教育労政室に抗議した。そこで原告ははじめて無許可で集会を開催したことを知り、右教育労政室のBが同日午後五時二〇分頃本件食堂に赴き、委員長に対し、食堂の使用許可は午後六時からであるのでそれまでは食堂から退出するよう求めたが、委員長はこれに応じなかつた。このため、両者間で押問答となって時間が経過して午後六時頃に至つたので、係長は食堂から退出し、支部組合員らは食堂で集会を開いた。 なお、本館一階の食堂は、同年四月から使用を開始した新館にあり、会社は新館の二階以上を本部の業務のために使用していたというものであるが、日本チバガイギー事件の工場労働者は就業時間外であっても、本部棟は勤務時間中であるという状況は、水道局における集会参加者が休憩時間であっても、2名は休憩時間をずらした昼休み当番として勤務しており、営業時間であるという状況に類似しているということである。
現実に来客はあった。写真機械部の従業員が商談のため食堂を利用としたが、無許可集会のため使えなかった。
水道局の場合も組合集会で声を張り上げて演説している最中に、窓口に料金支払いの来客があり、電話による問い合わせがあった。状況的には勤務中の職員の至近距離で、声をはりあげ演説し、拍手を要求し、「がんばろう三唱」の鯨波を行った、私の職場のケースが日本チバガイギー事件よりずっと悪質な態様といいえるだろう。
最高裁が是認した原判決(東京地裁)は、いわゆる抽象的危険説、具体的な業務阻害でなく、抽象的なおそれを理由といる集会不許可を不当労働行為としている点で、国労札幌事地本事件最高裁判決の趣旨に沿ったものと評価できる。
「これら施設は本来企業主体たる原告の職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように物的施設を管理・利用しうる権限に基づいてその利用を原告の許可にかからしめる等して管理運営されているものである。」と国労札幌地本事件最高裁判決の要約を述べたうえ、「集会の目的が第一回の団体交渉の報告であって必ずしも喧噪にわたることが当然に予想される集会ではなかったこと、更に従業員会には本件食堂の使用も許可したことがあること、また屋外の集会については必ずしも業務上の支障があったともいえないことからすれば、本件食堂の使用や屋外集会を参加人の希望どおり許可したことによる現実の業務上の支障は必ずしも大きくなかったものと推認されなくもないが、他方工場部門とは別に本部の従業員の就業時間は午後五時四五分までであってその間に集会が行われるとすれば就業中の従業員が集会に気をとられ、職務に専念することができないなどの事態も予想しえないだけでなく‥‥原告において本部就業時間中の本件食堂の使用を許可しないと考えたことにも合理性があること‥」と判示している。【詳細註6】
集会参加者の工場労働者は就業時間外であっても、本部棟が勤務時間中であることから来客が食堂を利用することもありうる、就業中の従業員が気をとられる事態という懸念から「午後五時からの本件食堂の使用申出あるいは屋外集会を許可しなかったことについて、原告の権利濫用と認められるような特段の事情があったとはいえ‥‥ない」とする。
比較すると、水道局の昼休み集会は、秩序を乱す抽象的なおそれを理由に集会開催を不許可とする日本チバガイギーの事案よりも、より業務運営の阻害が現実的なものであり、先例との比較で到底、正当な組合活動として容認されることはないだろう。
このほか国鉄清算事業団(東京北等鉄道管理局)事件・東京地裁判決平3・7・3『労働判例』594号がある。 昭和58年当時の東京駅構内遺失物取扱所裏の敷地(丸の内南口通路・中央線ホームに近いが外部から見えない場所)で行われていた国労の非番者組合集会に対する警告、メモ、写真撮影が不当労働行為にあたるがが争われたものであるが、長年、警告が行われなかったといっても、職務規律是正のため警告等を行うことは不当労働行為にあたらないとしている。
非番者が集会参加者であるから労務提供義務のない時間帯という点で休憩時間の集会と類似lと類似した事案といえるのである。
集会事案以外にも、国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号の判例法理を引用し、休憩時間の組合活動を正当な行為と評価しなかった判例もついでに挙げておくと、国労兵庫支部鷹取分会事件・神戸地裁判決昭63・3・22は、国労近畿地方本部兵庫支部鷹取分会がJR西日本による休憩時間におけるビラ配布妨害排除の仮処分申請を却下したものであるが、決定は「労働者が企業施設を演説、集会、ビラ配布等に利用する場合には、休憩時間であっても、利用の態様如何によっては使用者の施設を管理を妨げる虞れがあり、他の社員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいては企業の運営に支障を及ぼし、企業秩序が乱される虞れがあるから、使用者がその就業規則で労働者において企業施設をビラ配布等に利用するときは事前に使用者の許可を得なければならない旨の規定を置くことは、休憩時間の自由利用に対する合理的な制約であると解すべきであり(最高裁判所昭和五二年一二月一三日判決、同五四年一〇月三〇日判決参照)、従って、前記就業規則の規定が有効でことはいうまでもない。このことは、ビラ配布等が債権者の組合活動として行われるものであること。債権者が企業内組合であることを考慮に入れても同様である。本件仮処分申請は、休憩時間中、前記詰所における組合活動としてのビラ配布の妨害禁止及びこれを理由とする懲戒や不利益取扱いの禁止を求めるものであって、限られた局面においてであっても、右のような就業規則の適用を一般的、抽象的に排除することに帰するから、このような結果を仮処分によって実現することは許されないというべきである。」としている。
(なおJR西日本の就業規則二二条一項、二三条で会社の許可を得ることなく、社員が会社施設内での演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等をなすこと及び勤務時間中又は会社施設内で組合活動を禁止している。)
大日本エリオ事件 大阪地裁判決平1・4・13『労働判例』538号は組合委員長が、休憩時間中、労基法改悪反対の署名活動をしたことにつき会社構内での政治活動を禁止する就業規則に反するとして譴責処分を受けたことに対し右懲戒処分無効確認等を求めた事例であるが、 判決は「これらの行為が会社施設を利用して或いは会社構内で行われたならば、労働者の労働義務の履行を妨げ、従業員間に不必要な緊張や反目を生じさせ、ときには従業員間の融和の崩壊や勤労意欲の減退を招き、ひいては会社の秩序維持や生産性の向上にまで支障をきたすおそれがあることに鑑みれば、会社が自己の有する施設管理権及び秩序維持権に基づきこれらの行為を禁止することは合理的理由による制約と解することができる‥‥会社の施設内においては会社の施設管理権、秩序維持権に服することが是認されねばならず、さらに右認定事実によれば、本件署名活動はその趣旨説明、説得を伴っていたことが認められる。そして、休憩時間中においては他の労働者が休憩時間を自由に利用する権利を有していることが尊重されなければならないから、これを妨げる行為を当然にはなしえないと解すべきである。そうすると、本件署名活動が上部団体の指令に基づきなされた組合活動であったとしても、右署名活動は、被告の施設内において、しかもその趣旨説明、説得を伴っていたことから、被告の施設管理権、秩序維持権を侵害したうえ、休憩中の他の従業員の自由に休憩する権利をも相当程度妨げたと推認され、これをもって正当な組合活動であったということは到底できない」としている。
こうした判例からみて、先に述べた私の職場における昼休み集会が正当な組合活動と認められる余地はない。 にもかかわらず管理者は、休憩時間の組合活動を中止命令できないだ、できないんだと言いつのるならば、業務の正常運営を確保するという管理者としての重要な職務を放棄したものとしてその資格を疑問視せざるを得ないだろう。
判例からみて結論は、事務室内昼休み職場集会は、その目的、態様からみて警告、中止命令を発出しても不当労働行為とみなされるおそれはないと考える。
就業規則の検討
しかし、ネックになる問題がある。
東京都水道局の就業規則にも、庁内管理規程にも無許可演説・集会の禁止規定がない。庁舎施設の目的外使用について許可を要するという規定もない問題である。
結論を先に言うと、現行庁内管理規程は、問題点が多すぎるが、それでも、一応「庁内の秩序を乱し、公務の円滑な遂行を妨げる」ことは禁止できることになっており、この規定に違反するものとして、もしくは、直接、地公労法11条1項「 同盟罷業、怠業その他の業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない」の違反行為として、警告・中止命令を発出し、従わずに繰り返す場合は地方公務員法の32条の「上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」に基づいて、懲戒処分の対象とすべき事案と考える。
しかし、 無許可演説・集会の禁止規定や、目的外使用が許可事項であることの明文規定がないことは、まさに国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号の言うところの「職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもつて定め」ることを当局が怠り「企業秩序が定立」されていない異常な状況であり、施設管理権ないし庁舎管理権の発動を容易にさせないためのなんらかの意図さえ看取することができる。
これは、警告や中止命令を発出した場合、就業規則の不備は組合側に反論の余地を与えるものになっているから、早い時期に就業規則、庁内管理規程等の抜本的改正を行う必要がある。
ここでは東京都水道局の就業規則と庁内管理規程の欠陥性を指摘しておきたいと思う。
就業規則の重大な欠陥
東京都水道局処務規程の服務に関する部分(宿直を省略)を抜粋する以下のとおりである。
第一章 総則
(この規程の目的)
第一条 この規程は、東京都水道局分課規程(昭和二十七年十一月東京都水道局管理規程第五号)の定める分課により、明確な責任の下に、局長の権限に属する事務の民主的かつ能率的運営を図ることを目的とする。
第二章 職員
(服務の原則)
第二条 職員は、都民全体の奉仕者として、水道事業及び工業用水道事業を民主的かつ能率的に運営すべき責務を深く自覚し、誠実かつ公正に職務を執行しなければならない。
2 職員は、自らの行動が公務の信用に影響を与えることを認識するとともに、日常の行動について常に公私の別を明らかにし、職務や地位を私的な利益のために用いてはならない。
(その他職員の職責)
第五条 第二条の二から前条までに定める職員以外の職員は、上司の指揮監督を受け、その職務上の命令に従い、職務に専念しなければならない。
第七章 服務心得
(セクシュアル・ハラスメントの禁止)
第五十一条の二 職員は、他の職員又はその職務に従事する際に接する職員以外の者を不快にさせる性的な言動を行つてはならない。
(利害関係があるものとの接触規制)
第五十一条の三 職員は、別に定める指針に基づき上司が承認した場合を除き、いかなる理由においても、自らの職務に利害関係があるもの又は自らの地位等の客観的な事情から事実上影響力を及ぼし得ると考えられる他の職員の職務に利害関係があるものから金品を受領し、又は利益若しくは便宜の供与を受ける行為その他職務遂行の公正さに対する都民の信頼を損なうおそれのある行為をしてはならない。
(出勤の記録)
第五十二条 職員は、出勤したときは、あらかじめ出勤時限までに出勤しない理由を東京都水道局職員の勤務時間、休日、休暇等に関する規程(平成七年東京都水道局管理規程第四号。以下「勤務時間等規程」という。)別記第二号様式に定める休暇・職免等処理簿等により届け出た場合を除き、職員カード等により、自ら出勤の記録に必要な所定の操作を行わなければならない。
(事故欠勤の届)
第五十五条 職員は、交通機関の事故等の不可抗力の原因により勤務できないときは、その旨を速やかに連絡し、出勤後直ちに別記第十二号様式の二による事故簿により届け出なければならない。
(私事欠勤等の届)
第五十六条 職員は、前条の規定に該当する場合を除き、勤務できないときは、事前に別記第十三号様式による遅参・早退等処理簿により届け出なければならない。ただし、やむを得ない事由により事前に届け出ることができないときは、出勤時限後三十分以内に上司に連絡し、出勤後直ちに届け出なければならない。
2 職員は、遅参したとき、又は早退しようとするときは、遅参・早退等処理簿により届け出なければならない。ただし、上司から別に指示があった場合には、その指示に従い、届け出なければならない。
(旅行の手続)
第五十七条 職員は、私事旅行等により、その住所を離れるときは、その間の連絡先等をあらかじめ上司に届け出なければならない。
(執務時間中の外出)
第五十八条 職員は、執務時間中みだりに執務の場所を離れてはならない。
2 私事のため一時外出しようとするときは、上司の承認を受けなければならない。
(休暇の申請)
第五十九条 職員は、休暇を請求するときは、勤務時間等規程に定めるところにより、事前に上司に届け出なければならない。
(履歴書及び住所、氏名等の変更届)
第六十一条 新たに採用された者は、採用の日から三日以内に所定の用紙による履歴書を提出しなければならない。
2 住所、氏名等に変更を生じたときは、別記第十七号様式及び第十八号様式による届書を速やかに提出しなければならない。
(旧姓の使用)
第六十一条の二 職員は、婚姻、養子縁組その他の事由(以下「婚姻等」という。)により戸籍上の氏を改めた後も、引き続き婚姻等により改める以前の戸籍上の氏を文書、職場での呼称等に使用すること(以下「旧姓使用」という。)を希望する場合又は旧姓使用を中止することを希望する場合は、別記第十八号様式の二により、速やかに申し出なければならない。
2 職員は、旧姓使用を行うに当たつて、都民及び他の職員に誤解や混乱が生じないように努めなければならない。
(職員カード)
第六十二条 職員は、職務の執行に当つては、常に第十九号様式による職員カードを所持しなければならない。
(事務引継ぎ)
第六十三条 職員は、休職、退職、転任等の場合は、速やかにその担任事務の処理の経過を記載した第二十号様式による事務引継書を作成し、後任者又は上司の指定する職員に引き継ぎ、その結果を上司に報告しなければならない。ただし、上司の承認を得たときは、口頭又は簡易な引継書により事務引継ぎを行うことができる。
(届書の処理)
第六十四条 第六十一条第二項及び第六十一条の二第一項に規定する届書を提出するに当たっては、主務課長の検印を受けるものとする。
(出張等の場合の事務処理)
第六十五条 出張、病気その他事故による欠勤等の場合においては、担任事務の処理に関し必要な事項をあらかじめ上司に申し出て事務処理に遅滞を生じないようにしなければならない。
(文書の公開)
第六十六条 職員は、上司の許可を得ないで文書を他人に示し又は謄写させてはならない。
(退庁時の文書等の保管)
第六十七条 職員は、退庁しようとするときは、その管掌する文書その他の物品を整理し所定の場所に収置し散逸させてはならない。
2 欠勤、出張その他不在の場合は、自己の管掌する文書その他の物品は、誰にでも分かるようにしておかなければならない。
3 職員の退庁後宿直員の看守を要する物品は、退庁の際宿直員に回付しなければならない。
(出張命令)
第六十九条 職員の出張命令は、次の上欄に掲げるものについては、当該下欄に掲げる旅行命令簿等により行うものとする。
一 次号に掲げる出張以外の出張 旅行命令簿(第二十一号様式又は第二十一号様式の二)
二 宿泊料を伴う非即日帰庁の出張 旅行命令書(第二十一号様式の三)
第七十条 宿泊料を伴う非即日帰庁の出張命令を行おうとするときは、部長又は課長並びにこれらに準ずる職にある者の場合は総務部長に、その他の職員の場合は職員部長が別に定めるものを除き職員部人事課長に協議しなければならない。
(出張先の予定変更の場合の手続)
第七十一条 職員の出張先で職務の都合上予定を変更しようとするときは、電報、電話等で直ちに上司の承認を受け帰庁後速やかに所要の手続をしなければならない。
(出張復命)
第七十二条 出張した者が帰庁したときは、直ちに口頭又は文書でその要旨を上司に復命しなければならない。
(非常災害の場合の服務)
第七十三条 庁舎及びその附近に火災その他非常事態が発生したときは、職員は、速やかに登庁して臨機の処置をしなければならない。
すでに見てきたように、郵便局(民営化前)、JR東海、JR西日本、国立大学法人東北大学の事例では、就業規則により無許可集会・演説を明文で禁止しているが、それがない。仮になくても国鉄の就業規則のように 懲戒事由として「上司の命令に服従しないとき」(三号)、「その他著しく不都合な行いのあったとき」(一七号)と定めていれば、就業規則に基づいた措置ができるがそれもない。もっとも地方公務員法32条は上司の職務上の命令に忠実に従わなければならないとしているが、郵便局のように管理者の任務として郵政省庁舎管理規程七条により、「庁舎管理者は、庁舎等において、演説、ビラ等の配布、その他これに類する行為をさせてはならない。ただし、庁舎等における秩序維持等に支障がないと認める場合に限り、これを許可することができる。」と定めているわけではないので、それが上司の職務かのかも不確定と反論される可能性がある。
経営上のリスクを回避すると言う意味で、この水道局処務規程(就業規則)の欠陥は明らかといえるだろう。
なお、東京都水道局のホームページでは職員の服務というサイトで「懲戒処分の指針について」平成15年4月16日施行を載せているが、これは知事部局と共通のもので、非行についてそれまで、何をすれば停職、減給、戒告かというなんの基準も示されてなかったので、非行防止のため職員に指針として示したものである。セクハラ、強制わいせつ、痴漢、ストーカー、交通事故、交通法規違反まで細かく示されているものの、業務指揮権、庁舎管理権の侵害について言及されてない。たとえば無許可の演説、集会、示威運動、貼紙、掲示、ビラの配布を行った場合、正常な通行を妨害した場合とか、庁舎管理者が、庁舎管理上必要な事項を指示した従わなかった場合正当な業務命令、中止命令に従わなかった場合などの指針はない。はじめから取り締まる気もないし、実際にそうであるから、この指針も重大な欠陥のある規程といえるだろう。
庁内管理規程の欠陥
東京都水道局庁内管理規程昭和五〇年六月二三日水道局管理規程第一三号は下記のとおりである
第五条 何人も庁内において、次の各号の一に該当する行為をしてはならない。
一 拡声器の使用等によりけん騒な状態をつくり出すこと。
二 集団により正常な通行を妨げるような状態で練り歩くこと。
三 前号に定めるもののほか、正常な通行を妨げること。
四 テント等を設置し、又は集団で座り込むこと。
五 清潔保持を妨げ、又は美観を損なうこと。
六 凶器、爆発物その他の危険物を持ち込むこと。
七 庁舎その他の物件を損壊すること。
八 寄附金の募集、物品の販売、保険の勧誘その他これらに類する行為をすること。
九 印刷物その他の文書を配布し、又は散布すること。
十 はり紙若しくは印刷物を掲示し、又は立札、立看板、懸垂幕等を掲出すること。
十一 面会を強要し、又は乱暴な言動をすること。
十二 前各号に定めるもののほか、庁内の秩序を乱し、公務の円滑な遂行を妨げること。
前項の規定にかかわらず、前項各号(第十一号及び第十二号を除く。)に掲げる行為について、庁内管理者が特別の事情があり、かつ、公務の円滑な遂行を妨げるおそれがないと認めて許可した場合は、当該許可に係る行為をすることができる。
3 前項の規定により許可を受けようとする者は、別記第一号様式により申請書を庁内管理者に提出しなければならない。
4 庁内管理者は、前項の規定による申請書が提出されたときは、許可の可否を決定し、別記第二号様式により申請者に通知する。
5 庁内管理者は、第二項の規定により許可するにあたつて、必要な条件を付すことができる。
欠陥規程である理由
(一)目的外使用禁止の原則についての規程がなく、事実上地方自治法を無視していること
まず国の官庁の規程のような行政財産の目的外使用を禁止する管理者の任務にふれていないことである。
国の行政財産については国有財産法第18条の6で「行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができる」とし地方自治法第238条の4第4項で同様の規定があるから、この規定がないのは欠陥といえるのである。
国の官庁の場合、組合集会・示威運動などは「目的外使用は許可事項」という包括的規定にひっかかるようになっているのである。
参考までにインターネットで公開されている霞ヶ関の中央合同庁舎第5号館(厚生労働省などが入居する)の管理に関する規則昭和58年9月30日(厚生省訓第45号http://wwwhourei.mhlw.go.jp/cgi-bin/t_document.cgi?MODE=tsuchi&DMODE=CONTENTS&SMODE=NORMAL&KEYWORD=&EFSNO=6では次のようになっている。
(合同庁舎の目的外使用)
第12条 管理官庁等は、原則として合同庁舎を所掌業務以外に使用させてはならない。
2 管理官庁等は、やむを得ない事由によりその管理する合同庁舎の一部を目的外に使用させようとする場合は、あらかじめ「使用許可申請書」(別紙第4号様式)を提出させ、当該申請書を審査し、当該行為が所掌業務の遂行を妨げず、かつ、庁舎内の秩序維持及び安全保持に支障のないものに限り「使用許可書」(別紙第5号様式)を申請者に交付し、許可するものとする。この場合において、管理官庁等は、必要な条件を付し、又は指示することができる。
3 管理官庁等は、前項の使用許可を受けた者が、その許可内容に相違した行為をし、又は条件若しくは指示に違反したときはその許可を取り消すことができる。
インターネットで公開されている九段第3合同庁舎・千代田区役所庁舎管理規程(案)では 次のとおり。
第29条(庁舎の目的外使用の許可申請)
1 「管理者等」は、「合同庁舎」を「入居官署」の所掌業務の目的以外のために使用させてはならない。ただし、次の各号のすべてに該当する場合に限り許可することができる。 一 その使用が一時的なものであり、やむを得ない理由があると認められること。
二 主として「職員」が使用するものであり、公務員の行事としてふさわしいと認められていること。
三 「合同庁舎」における日常の業務を妨げないと認められること。
四 「合同庁舎」における秩序の維持及び災害の防止に支障がないと認められること。
(二)無許可集会及び演説禁止の明文の禁止規定がない
他の官公庁の規程との比較でこの欠陥は明らかである。中央合同庁舎第5号館の管理に関する規則をはじめとして、国の官庁の規則の場合、目的外使用は許可を要する行為なので組合集会もこの範疇と考えられるが、そのうえに第21条で「(6)合同庁舎において、多数集合し、又は集合しようとする者」はその行為を制限し、若しくは禁止し、又は合同庁舎からの退去、搬入物の撤去を命ずる等所要の措置を講ずるものとする。と規定しており、(5) 旗、のぼり、プラカード、拡声器、宣伝カー等を合同庁舎において所持し、若しくは使用し、又は合同庁舎に持ち込もうとする者」も同様であるから、許可を得ていない集会は実質禁止されている。
地方自治体の庁舎管理規則をみてみると、東京都のように集会に言及していないものもあるが、下記のようにかなりの数の自治体が、集会は許可を要するということを明文で規定している。
大阪府庁舎管理規則 昭和61年09月24日規則第57号の第八条四は「府の機関以外のものが主催して集会を行う行為」を許可を要する行為としている。
横浜市庁舎管理規則昭和36年2月15日規則第4号第11条(5)は「市の機関以外の者が主催して集会を開催し、または集団で庁舎に入ること。」を許可を要する行為としている。
奈良県庁舎管理規則昭和四十四年六月十九日奈良県規則第二十号は第11条六は「集会その他行事を催すこと。」を許可を要する行為としている。
岐阜市役所庁舎管理規則昭和57年4月1日規則第30号は第5条1(3)は、「市の機関以外の者が主催して集会を開くことで庁舎内に入ること」を許可を要する行為としている。
岐阜市上下水道事業部庁舎管理規程昭和57年6月24日水道部管理規程第6号第5条1(3)は、「上下水道事業部の機関以外の者が主催して集会を開くことで庁舎内に入ること。」は許可を要する行為としている。
茨城県庁舎等管理規則昭和36年7月7日茨城県規則第74号は第5条の(3)で「多数集合して構内を使用すること。」を許可を要する行為としている。
佐賀県庁舎管理規則平成十八年三月三十一日佐賀県規則第五十五号は、禁止行為として第六条の四で「集会を開催すること(次条第一項第三号及び第四号の場合を除く。)。」と規定し、第七条において「庁舎内において次に掲げる行為をしようとする者は、あらかじめ庁舎管理者の許可を受けなければならない‥‥」許可を要する行為として、三 県以外の者が県の後援を得て行う集会の開催 四 県職員が組織する労働組合が組合活動として行う集会の開催」と挙げている。
札幌市庁舎管理規則昭和51年2月23日規則第6号及び札幌市教育委員会庁舎管理規則 昭和58年3月28日教育委員会規則第11号第10条(3)は「集会等の行事を行い、特殊物品を搬入し、又は諸施設を設置すること。」を許可を要する行為としている。
熊本市庁舎管理規則〔管財課〕昭和56年12月1日規則第63号第12条(1)は「市の機関以外のものが主催する集会又はこれに類する行為をすること。」を許可を要する行為としている。
富山県庁舎等管理規則昭和41年9月10日富山県規則第46号第13条は(4)「県の機関以外の者が主催して集会を開催し、又は集団で庁内に入ること。」を許可を要する事項としている。
山口市庁舎管理規則平成17年10月1日規則第17号第6条(1)は「 市の機関以外の者が主催する集会又はこれに類すること。」を許可を要する行為としている。
船橋市庁舎管理規則昭和57年11月29日規則第64号第7条(3)「集会、催しものその他これらに類する行為をすること。」を許可を要する行為としている。
仙台市庁舎管理規則昭和四三年一二月九日仙台市規則第三九第10条四は「公務以外の目的をもって庁舎を使用すること」を許可を要する行為としている。)
阿久根市庁舎管理規則平成23年3月25日規則第2号は第9条(1)は「集会を開催し,又はこれに類する行為」を許可を要する行為としている。
栃木県庁舎管理規則平成八年三月二十九日栃木県規則第十六号第6条四は「庁舎におい、県以外のものが主催して集会又は催しを開催すること。」及び「五 前号に掲げるもののほか、集団で庁舎に立ち入り、又は庁舎内において多数集合すること」も許可を要する行為としている。
青森県庁舎管理規則昭和四十二年四月一日青森県規則第十一号第4条六は「集会等のため庁舎を一時的に使用する行為」を許可を要する行為としている。
青森市庁舎管理規則平成十七年四月一日規則第二十六号第13条七は「市の機関以外の者が主催する演説、集会その他これらに類する行為」を許可を要する行為としている。
川崎市庁舎管理規則昭和43年8月13日規則第76号第11条(4) は「庁舎において、市の機関以外の者が主催して集会を開催し、又は集団で庁舎に入ること。」を許可を要する行為としている。
大津市庁舎管理規則昭和42年規則第4号第3条(一)は「会合等の開催」を許可を要する行為としている。
群馬県県庁舎等管理規則平成十二年十二月二十二日規則第百四十二号第9条四は「仮設工作物の設置その他県庁舎等を一時的に使用する行為を行うこと。」を許可を要する行為としている。
秋田県公営企業庁舎管理規程昭和四十二年四月一日秋田県公営企業管理規程第十五号第3条五は「宣伝又は集会等をしようとするとき。」を許可を要する行為している。
堺市庁舎管理規則平成22年3月30日規則第23号第6条は(4)は「 集会を開き、又は集団で庁舎に入る行為」を許可を要する行為としている。
上記に揚げた地方自治体では、集会は許可を要すると明文規程があるため、規則に基づいて、無許可集会の中止命令を発する根拠が明らかなのだが、東京都の場合はないので重大な欠陥と指摘できるのである。
又、労働協約でも無許可集会は違反ということは明確にしたほうがより望ましい。
東京都水道局と東京都(知事部局)の庁内管理規程で若干異なる点があるが先に引用した部分は同じである。これは他の官公庁と比較して、いいかげんなものであることは上記引用の他の官公庁との比較で明らかであり、庁舎構内の組合活動を容認しやすい点で重大な欠陥がある。「庁内の秩序を乱し、公務の円滑な遂行を妨げること。」という包括的規定でかろうじて使えると言う程度の大甘な規則で、「無許可の集会、演説、示威運動、旗・幟・横断幕・拡声器・宣伝カーの持ち込み、腕章・鉢巻・ゼッケンの着用、集団で庁舎内になだれこむ行為」を禁止する明文規程はないのである。
実際に旗や横断幕が庁舎内に持ち込まれて集団で隊列をなしなだれこみ示威運動をやったり、拡声器で事務室内で頭上報告をしたり悪質な例を私は多く知っている。それに対して監視もしなければ中止・解散命令もやらない。そもそも規則で具体的に禁止事項としてないのである。
総じていうなら、これは企業秩序が定立されていない状況と言ってよい。私はこれまで多数の管理職と意見交換してきたが、30年以上前から組合活動等で中止命令、業務命令は出さない方針だとか、懲戒処分をやると処分撤回闘争で荒れるから好ましくないがやらない方針とか、最高裁判決が否定しているプロレイバー受忍義務説を強調する人もいてまったく腑抜けた状態にあると思う。それとも東京都の管理職は労働基本権は、業務指揮権と施設管理権を制約するという階級闘争のためのプロレイバー労働法学に洗脳されているのだろうか。こんな庁内管理規程では労務管理ができないという不満すら聞いたことないのは、東京都職員というのはよっぽど根性が赤く染まっているとしか思えない。とくに水道局の場合は、国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号から30年以上経過し判例が定着しているにもかかわらず、その判例法理を活用しないというのは馬鹿げている。
仮に、滅多に命令を出さないとしても、いちおう規則で明定し、いざとなったら刀が抜けるということでなければ、危機管理にならないではないか。
なお、地方公務員についても自律的労使関係などとして協約締結権付与が政治日程にのぼっている。その方向で法改正がなされると、協約改定期に大きなストライキをやる可能性も出てくる。名監督は考えられる最悪の事態を想定して作戦をたてるという。東京都は他の自治体より財政状況が良いとしても、経済情勢がどうなるかは不透明だし、重大な災害が起きた場合はどうか、そうした場合に、身を切る改革が必要になる事態も想定しなければならず、アテネやマディソンのようにはならないよとたかをくくっているかもしれないが、労働組合が戦闘的になれば最悪、長期のシットダウンストライキ(職場占拠)とか、いろんな事態を想定しなければならず、今の庁内管理規程では労務管理が難しい。危機管理とは何も震災や原発だけではないのである。このまま無策のままでいると、とんでもないことになりかねない。
【註6】日本チバガイギー事件(東京地裁昭和60年4月25日判決民集36巻『労働判例』452号)抜粋
http://thoz.org/hanrei/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%9C%B0%E6%96%B9%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%89%80/%E6%98%AD%E5%92%8C53%28%E8%A1%8C%E3%82%A6%29118
「昭和四九年四月当時宝塚市<以下略>には原告の医薬生産部である工場部門とそれ以外の本部部門があつた。そして主たる建物は五三号館とこれに隣接する六三号館であり、六三号館の一階には本件食堂があつて、二階には本部関係の生産管理の事務部門、三階には医薬事業部、マーケツテイング部、四階には研修室、人事労政部がそれぞれ入つており、就業時間は工場部門では午前八時から午後五時まで、その他は午前九時から午後五時四五分までであつた。また当時、従来五三号館に入つていた部署が六三号館へ移転中であつたことから両館の会議室や応接室の使用が困難な状況にあり、他方本件食堂は昼食を出すだけであつたことから、その他の時間にはプライバシーを保つ必要のない商談や会議等に使用されていた。(二) 参加人は同年四月九日原告との間で第一回の団体交渉を行つたが、その団体交渉の経過報告を組合員に行う必要があつたことから、右交渉の終了頃、原告に対し翌一〇日午後五時から報告集会を行うので本件食堂を貸与して欲しい旨申し入れた。原告は右申入れに対し翌一〇日に回答を行うと回答した。ところで参加人は、工場部門の工場支部については就業時間が終了する午後五時から、また本部部門の本部支部については就業時間終了後の午後五時四五分から報告集会を開催することに決定した。参加人が工場支部と本部支部とを分けて工場部門の組合員に対し先に報告を行うこととしたのは、公然化して間がなく午後五時四五分まで組合員の帰宅を引き留め待機させることに不安があつたこと、遠方から通勤している組合員が当時数十名おり、その者達のためにも早い時間に終了させたいと考えたためであつた。 ところで右申出に対し原告は工場部門の終業時刻は午後五時であるが、本部部門の終業時刻は午後五時四五分であるから、それまでは本部への来客があり本件食堂を使用することもあり得、また集会においてマイク等が使用されて喧噪状態となつた場合には就業中の従業員の執務に影響を与えて業務上の支障が生ずるおそれもあると判断し、工場及び本部の終業後である午後六時からの使用を認める旨の回答をした。これに対し参加人は再度本件食堂の使用許可を求めるとともに、もし本件食堂の使用ができないのであれば、屋外での報告集会の開催を認めて欲しい旨原告に申し入れた。しかし原告はこれに対しても、屋外での集会も本部で就業中の従業員の執務に影響するとの理由から屋外集会の開催も許可しなかつた。(三) 工場支部の組合員約七〇名は、同日午後五時から予定どおり本件食堂を使用して報告集会を開始した。ところで同日午後五時すぎ頃本部写真機械部のBが本件食堂で業者との商談をしようと本件食堂へ行つたところ、右のとおり参加人の集会のため使用できる状態にないため、労働組合関係を担当する教育労政室に抗議した。そこで原告ははじめて参加人が無許可で集会を開催したことを知り、右教育労政室のDが同日午後五時二〇分頃本件食堂へ行き、午後六時からの集会許可であるとして集会を中止するようCへ申し入れて同人と押問答となつたが、その間に午後六時となつたのでDはその場を引き上げ、その後集会は午後七時頃まで行われた。 なお参加人が工場支部の報告集会を一〇日の午後五時から行う旨の通知は原告からの回答がなされる前になされ参加人が午後六時に開始時間を遅らせる旨の連絡は可能な状況であつた。 また、従来原告は従業員が就業時間中に職場集会を開くことを許可したことも、また本件食堂の使用を許可したこともあつた。 以上の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。2 ところで参加人が許可を求めた本件食堂の使用にしろ屋外集会にせよいずれも原告の物的施設の利用を伴うものであつて、これら施設は本来企業主体たる原告の職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように物的施設を管理・利用しうる権限(以下「施設管理権」という。)に基づいてその利用を原告の許可にかからしめる等して管理運営されているものである。したがつて、参加人において右施設を利用する必要性が大きいからといつて原告の許可なく参加人が当然に右施設を利用しうるものではないというべきである。そうであれば、原告が参加人の本件食堂の使用の申出に対し許可しないことが権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、これを許可しないことをもつて不当な使用制限とはいえないものというべきである。 そこで右に認定した事実を基礎に検討するに、本件食堂は会議、商談等に利用されてはいたが、秘密を要求されるものについては利用されていない臨時のものであつたこと、参加人が集会を開始して後Bの苦情から原告がはじめて参加人の集会開催を知るなど集会が喧噪にわたるものではなかつたこと、このことは集会の目的が第一回の団体交渉の報告であつて必ずしも喧噪にわたることが当然に予想される集会ではなかつたこと、更に従業員会には本件食堂の使用も許可したことがあること、また屋外の集会については必ずしも具体的な業務上の支障があつたともいえないことなどからすれば、本件食堂の使用や屋外集会を参加人の希望どおり許可したことによる現実の業務上の支障は必ずしも大きくなかつたものと推認されなくもないが、他方、工場部門とは別に本部の従業員の就業時間は午後五時四五分までであつてその間に集会が行われるとすれば就業中の従業員が集会に気をとられ、職務に専念することができないなどの事態も予想し得ないわけではなく、また当時本来の会議室等の使用が困難であつたことから、本部従業員の就業時間中は本件食堂を当座の会議室等として使用していたのであるから、原告において本部就業時間中の本件食堂の使用を許可しないと考えたことにも合理性があること、現に使用できなかつた従業員もでていること、しかも原告は全く許可しないというわけではなく午後六時からの使用は許可していること、そして参加人が集会の開催を午後五時に固執した理由は専ら組合員の帰宅時間の遅れを妨ぐといつた自らの結束力の弱さからくる事由であり、これに固執する合理性に乏しいこと、また、従業員会は親睦団体で、原告の組織に近いものであつて、参加人と同一に扱うこともできないことなどの事情もあり、これらの事情を比較考量すると、原告が参加人からの午後五時からの本件食堂の使用申出あるいは屋外集会を許可しなかつたことについて、原告の権利の濫用であると認められるような特段の事情があつたものとはいえず、右の事情に原告が一般的に参加人に対し好意的でなかつたことも併せ検討しても、これをもつて未だ右にいう特段の事情があるものと認めるに足りず、他に右の権利の濫用があるものと認めるに足りる証拠はなく、結局、原告の右許可しなかつた行為は不当ということはできず、参加人に対する支配介入行為とはいえないものというべきである」
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