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2012/07/29

カード 国労札幌地本事件最高裁判決の意義(4)企業秩序定立権・その2抽象的危険説の確立

第一回http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/post-359d.html
第二回http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-5017.html
第三回http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-7e7a.html
(承前)

日テレ報道番組コメンテーターで著名な河上和雄元最高検公判部長による国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号の評釈【註1】があるが、「本判決が、具体的企業の能率阻害を判示せず、抽象的な企業秩序の侵害のおそれのみをもって、施設管理権の発動を認めている点は‥‥目黒電報電話局事件に関する最高裁判決(昭和五二・一二・一三)の延長線上にある判示として、あらためていわゆる抽象的危険説を確立したもの」と評されている。さりげなく書かれているが、これも重要な論点のように思う。
 つまり国労札幌地本ビラ貼り事件・控訴審判決札幌高裁昭49・8・28は「控訴人らが右ロッカーに本件ビラを貼付したことにより被控訴人の業務が直接阻害されあるいは施設の維持管理上特別に差し支えが生じたとは認めがたい等の諸般の事情を考え合わすと‥‥本件ビラ貼付行為は、正当な組合活動として許容されるべき」と判示したが、この判断は上告審判決で覆された。
 最高裁判決(最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号)は「貼付されたビラは当該部屋を使用する職員等の目に直ちに触れる状態にあり、かつ、これらのビラは貼付されている限り視覚を通じ常時右職員等に対しいわゆる春闘に際しての組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼすものとみられるのであつて‥‥‥本件ロツカーに本件ビラの貼付を許さないこととしても‥‥‥上告人の企業秩序維持の観点からみてやむを得ないところであると考えられ‥‥‥剥離後に痕跡が残らないように紙粘着テープを使用して貼付され、貼付されたロツカーの所在する部屋は旅客その他の一般の公衆が出入りしない場所であり、被上告人らの本件ビラ貼付により上告人の本来の業務自体が直接かつ具象的に阻害されるものでなかつた等の事情のあることは‥‥‥うかがい得ないわけではないがこれらの事情は、いまだもつて上記の判断を左右するものとは解されないところである。従って被告人のらのビラ貼付行為は‥‥‥上告人の企業秩序を乱すものとして、正当な組合活動であるとすることはできず」上司が「中止等を命じたことを不法不当なものとすることはできない」と判示した。
 要するに、最高裁の判断は、控訴審判決のいう「業務が直接阻害されあるいは施設の維持管理上特別に差し支えが生じ」ていなくとも、ロッカーのビラ貼付が「組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼす」ことは本来の鉄道事業を能率的に運営する企業秩序維持の観点から「企業秩序を乱す」ものであるから、正当な組合活動であるとすることはできない。「本来の業務自体が直接かつ具象的に阻害されるものでなかつた等」の事情は「判断を左右するものとは解されない」と判示したのであるからこれは抽象的危険説をとったものとされるのである。

 

具体的危険説と抽象的危険説

 政治活動等をめぐる判例では、目黒電報電話局事件・最三小法判昭52・12・13日民集31巻974頁 労働判例』287号で一応の決着をみるまで、具体的危険説をとるものと抽象的危険説をとるものに下級審判例が分かれていた。

● 具体的危険説

 具体的危険説とは「現実かつ具体的に経営秩序が紊され経営活動に支障を生じる行為」でなければ施設管理権の発動ができないというものである。高木紘一【註2】によるとナショナル金銭登録機事件東京高判昭44・3・3労民集18巻5号、東洋ガラス事件横浜地川崎支決昭43・2・27労民集19巻1号、日本パルプ工業事件鳥取地米子支判昭50・4・22『労働判例』229号明治乳業事件福岡地判昭51・12・7『労働判例』256号がそうした判例である。

 ここでは二つの判例を引用する。

○日本パルプ工業事件鳥取地裁米子支部判決昭50・4・22『労働判例』229【註3】

事件の概要-原告は電気作業班の勤務時間を終了午後四時すぎに、休憩室において、同じく勤務を終えたMに対し、日米安全保障条約終了運動のビラを配布し署名を求めたが、Mはビラの受取りと署名を拒否し押し問答となり、さらに原告はDに対してもビラを配布したが、Dは構内の政治活動は禁止されているとして、受取を拒否したところ、原告はDに対し安保条約を廃棄すべきという事情を訴えはじめ、Mは原告とDを残して当日予定された業務研修の会場に赴いたが、5分遅刻し研修は開始されていた。
 会社は労働協約に付随する「政治活動に関する了解事項」および懲戒自由に定めた就業規則に該当するとして原告を譴責処分とした。原告は処分の無効確認と謝罪文の掲示、慰藉領の支払いを求めて争ったところ、鳥取地裁米子支部は譴責処分は有効であるとして原告の請求を棄却する判決を下した。

判旨-譴責処分は有効
「政治活動がその性質上対立的契機を内包し、場合によって政治的抗争が企業内に持ち込まれ、企業活動に支障をきたす場合があるものというものの、ただ抽象的にそのような危険性があることのみを理由として企業内における政治活動の自由(表現の自由)を無条件、一般的に禁止することは、私的自治の許容限界を超越するものであり、民法九〇条の公序良俗に違反して無効であると解さざるをえず、私的自治の名のもとに右政治活動が禁止される範囲は、現実かつ具体的に会社業務が阻害される場合に限られるといわなければならない。‥‥‥‥そこで本件ビラ配布行為について検討を加えるに‥‥‥‥本件ビラ配布が、その場において被告会社の秩序を乱し、作業能率を低下させるものではなかったことはき明らかである。‥‥‥‥ところで被告は、Mの出席した業務研修は、施設部長の承認を得かつ時間外勤務手当を伴うところの研修であり、会社の業務にほかならないから、原告のビラ配布行為が現に会社業務を阻害したことは明らかである旨主張するので、この点検討する。‥‥‥‥Mは、原告の本件ビラ配布行為当日、業務研修に赴く予定であったところ、研修に出席したものの遅刻したうえ、あまり熱中できず、受講途中で退席したものであり、原告の行為が単にビラを配布したにとどまらず、いささか執拗であったことを考えると、Mの業務研修への参加が一部妨げられたのは原告の行為に起因するものというほかはない‥‥‥‥Mが右研修受講に関し悪影響を蒙った以上、それはすなわち会社の業務を阻害したものといわなければならない‥‥‥‥」
 この判例は抽象的な危険性では理由にならないとし、具体的危険説をとりながら、にもかかわらず会社業務が阻害されたとして譴責処分を有効としたものである。

○明治乳業事件第一審判決福岡地裁判決昭51・12・7『労働判例』256号

事件の概要-被上告人は、上告人の福岡工場に勤務する組合支部長の地位にある従業員であるが、昭和四九年六月二四日昼の休憩時間に、休憩室を兼ねている同工場食堂において、同日十四日の昼の休憩時間に、同月一四日に公示された参議院議員選挙の候補者T、W両候補の応援演説のためH日本共産党書記局長が来援するという内容の同党中央委員会発行同月二三日付赤旗号外約二〇枚を同工場従業員に配布し、次いで同年七月六日の昼の休憩時間に、同食堂において、同党への投票の呼び掛けを内容とする同党参議院議員選挙法定ビラ約四六枚を同工場従業員に配布した。右の赤旗号外及び日本共産党参議院議員選挙法定ビラの配布は食事中の従業員数人に一枚ずつ平穏に手渡し、他は食卓上に静かに置くという方法で行われたものであって、従業員が本件ビラほ受け取るかどうかは全く各人の自由に任されていた。また、右の配布に要した時間も数分であった。

判旨-戒告処分を無効とする
「使用者が会社構内に於て企業施設を利用して行う従業員の政治活動を就業規則でもって制限ないし禁止することが認められるのはそれが会社の有する施設管理権を一時的にせよ侵害するからに他ならない。つまり使用者は企業施設を経営目的に従って管理し、従業員の行為を必要な限度で規律しうることは当然である。‥‥前記制限規定を合理的に解釈すると、その制度は、休憩時間中に於ける会社施設内の政治活動により、現実かつ具体的に経営秩序が紊され経営活動に支障を生じる行為、たとえば喧噪、強制にわたるなどして他の従業員の自由利用を妨げ、ひいては就労に悪影響を及ぼすものに限定されるべきであって、かく解してこそはじめて休憩時間中に於ける従業員の政治活動を制限する規定の有効性が根拠づけられるものと解する。‥‥前記各ビラ〔を〕‥‥、従業員が ‥‥かりに閲読したことによって職場規律を乱し、作業能率を低下させるとか、他の従業員の休憩時間中の自由利用を現実的かつ具体的に妨害したとか到底考えられないし、その証拠はない。」
なお、この事件は控訴審福岡高裁昭和55年3月28日判決『労働判例』343号においても原判決を維持しているが判決理由は異なり、目黒電報電話局事件・最三小法判昭52・12・13の判例法理によるところの「特別の事情」説である。「形式的には就業規則第一四条に違反することは明らかである。しかし、もともと就業規則は使用者が企業経営の必要上従業員の労働条件を明らかにし職場の規律を確立することを目的として制定するものであって、とくに右第一四条は、その体裁、目的からして会社内の秩序風紀の維持を目的としたものであるから、形式的にこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの配布が会社内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないと解するのを相当とする。」と述べ、 上告審最三小判昭58・11・1『労働判例』417号も同じ理由で上告を棄却している(横井大三裁判官の反対意見がある)
 本件が労働者勝訴となった背景としては、この会社には政治活動を禁止する就業規則も労働協約もなかった。もっぱらビラ配布の許可制を定めた就業規則・労働協約違反であることが懲戒処分該当事由とされていることである。したがって、控訴審、上告審ではもっぱら無許可ビラ配布事案として検討され、政治活動であるかは問われていない。【註4】
 ここでは二つの政治活動に関する判例をみたが、先に述べたとおり施設管理権の指導判例であるところの国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30が、民集33巻6号647頁『労働判例』329号が「本来の業務自体が直接かつ具象的に阻害されるものでなかつた等」の事情は「判断を左右するものとは解されない」と判示した以上、具体的危険説に基づく主張は根拠を失ったものと解してよい。

●抽象的危険説

 これに対して、抽象的危険説とは施設管理権の侵害ないし作業能率の低下等の「おそれ」、すなわち、経営秩序の侵害に対する抽象的な危険が存すれば禁止しうるとするもので、この立場に立脚する判例として高木紘一【註5】が挙げているのは関谷製作所事件東京地決昭42・7・28労民集18巻4号、ナショナル金銭登録機事件東京地判昭42・10・25労民集18巻5号、横浜ゴム事件東京高判昭48・9・28『労働法律旬報』923号。目黒電報電話局事件・最三小法判昭52・12・13民集31巻974頁 『労働判例』287号である。

 ここでは二つの判例を引用する。

○横浜ゴム事件東京高裁判決昭48・9・28『労働法律旬報』851【註6】

事件の概要-横浜ゴム労組上尾支部執行委員2名が、企業施設内における三ないし四回の『アカハタ』の配布・勧誘行為が就業規則所定の企業内政治活動を禁止状況に違反すること。さらに勤務時間中に勤務につかなく、注意されたことに対して棒を振り上げ反抗した、あるいはあやまって器具を損壊したという三~四年前の就業規則違反を理由とする懲戒解雇処分に対して、地位保全の仮処分申請を提起したもので、一審浦和地裁は懲戒処分事由としてはささいな事実であって、実害もなかったとして懲戒権の濫用として無効とする判決であったが、控訴審では懲戒解雇を有効とした。

判旨-懲戒解雇は有効
「企業と雇傭契約を締結した者(従業員)は職場の規律を守り、誠実に労務を提供すべき契約上の義務を負うものであり、企業の施設又は構内において労務の提供と無関係な政治活動を自由に行い得るものとすれば、もともと高度の社会的利害の対立、イデオロギーの反目を内包する政治活動の性質上、従業員の間に軋轢を生じせしめ、職場の規律を乱し、作業能率を低下させ、労務の提供に支障をきたす結果を招くおそれが多分にあるから、使用者が企業の施設又は構内に限ってこれらの場所における従業員の政治活動を禁止することには合理的な理由があるというべきであり、これをもって従業員の思想や信条の自由を侵し、又は思想、信条を理由として差別的取扱いをいい得ないことは勿論、言論その他の表現の自由に対する不当な制限ということもできないと解される。‥‥」

○目黒電報電話局事件・最三小法判昭52・12・13民集31巻974頁 『判例時報』871号『判例タイムズ』357号6頁

事件の概要-日本電電公社目黒電報電話局施設部試験課勤務の職員Xが、昭和42年6月16日から22日まで「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と書かれたプレートを着用して勤務したところ、これを取り外すよう上司から再三注意を受けた。同月23日Xはこの命令に抗議し、ワッペン・プレートを胸につけることを呼びかける目的で、「職場の皆さんへの訴え」と題したビラ数十枚を、休憩時間中に職場内の休憩室と食堂で手渡しまたは机上におくというという方法で配布した。
 電電公社は上記プレート着用行為が就業規則の五条七項「職員は、局所内において、選挙活動その他の政治活動をしてはならない」に違反する。ビラ配布行為は五条六項「職員は、局所内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配布その他これに類する行為をしようとするとき、事前に別に定める管理責任者の許可を受けなければならない」に違反し懲戒事由に該当するとして、Xを戒告処分に付したが、その効力について争われた事件である。一、二審は原告の主張を認容し、戒告処分を無効としたが、最高裁は破棄自判して一、二審の判断を覆した。

判旨-戒告処分は有効「一般私企業においては、元来、職場は業務遂行のための場であつて政治活動その他従業員の私的活動のための場所ではないから、従業員は職場内において当然には政治活動をする権利を有するというわけのものでないばかりでなく、職場内における従業員の政治活動は、従業員相互間の政治的対立ないし抗争を生じさせるおそれがあり、また、それが使用者の管理する企業施設を利用して行われるものである以上その管理を妨げるおそれがあり、しかも、それを就業時間中に行う従業員がある場合にはその労務提供業務に違反するにとどまらず他の従業員の業務遂行をも妨げるおそれがあり、また、就業時間外であつても休憩時間中に行われる場合には他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後における作業能率を低下させるおそれのあることがあるなど、企業秩序の維持に支障をきたすおそれが強いものといわなければならない。したがつて、一般私企業の使用者が、企業秩序維持の見地から、就業規則により職場内における政治活動を禁止することは、合理的な定めとして許されるべきであり‥‥‥‥局所内において演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等を行うことは、休憩時間中であつても、局所内の施設の管理を妨げるおそれがあり、更に、他の職員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後の作業能率を低下させるおそれがあつて、その内容いかんによつては企業の運営に支障をきたし企業秩序を乱すおそれがあるのであるから、これを局所管理者の許可にかからせることは、前記のような観点に照らし、合理的な制約ということができる。」と判示し抽象的危険説をとったものと評価されている。

 最高裁は目黒電報電話局事件では「ベトナム反戦、米軍立川基地拡張阻止」という政治活動を行った職員の戒告処分を是認する一方、明治乳業福岡工場事件では赤旗号外や共産党参院挙法定ビラ等の配布行った従業員の戒告処分を無効にしたのはわかりにくいかもしれないが、前者はワッペン・プレートを胸につけることを呼びかける目的でビラを配布しており、その行為は単に自己の職務専念義務に反するにとどまらず、他の労働者の職務への専念を妨げるものとして企業秩序を乱すと判断されたのに対し、後者は工場内の秩序を乱さないと判断された点が異なる。また後者は就業規則に企業内政治活動禁止規定がなく、政治活動であるかは問われず、たんに無許可ビラ配布事案としての判断なのである。

 重要なことは抽象的危険説は無許可集会が正当な組合活動に当たるかが争点となった事案においても国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30を引用した判例で踏襲されている。

例えば日本チバガイギー事件 最一小判平1・1・19『労働判例』533号が是認した原判決である東京地裁昭和60年4月25日判決『労働判例』452号http://web.churoi.go.jp/han/h00308.htmlは次のように述べている。

「‥‥集会の目的が第一回の団体交渉の報告であって必ずしも喧噪にわたることが当然に予想される集会ではなかったこと、更に従業員会には本件食堂の使用も許可したことがあること、また屋外の集会については必ずしも業務上の支障があったともいえないことからすれば、本件食堂の使用や屋外集会を参加人の希望どおり許可したことによる現実の業務上の支障は必ずしも大きくなかったものと推認されなくもないが、他方工場部門とは別に本部の従業員の就業時間は午後五時四五分までであってその間に集会が行われるとすれば就業中の従業員が集会に気をとられ、職務に専念することができないなどの事態も予想しえないだけでなく‥‥原告において本部就業時間中の本件食堂の使用を許可しないと考えたことにも合理性があること‥‥しかも原告はまったく許可しないというわけではなく午後六時からの使用は許可していること、そして参加人が集会の開催を午後五時に固執した理由は専ら組合員の帰宅時間の遅れを防ぐといった自らの結束力の弱さからくる事由であり、これに固執する合理性に乏しいこと‥‥これらの事情を比較考量すると、原告が参加人からの午後五時からの本件食堂の使用申出あるいは屋外集会を許可しなかったことについて、原告の権利濫用と認められるような特段の事情があったとはいえ‥‥ない」と判示。
 要所は「屋外の集会については必ずしも業務上の支障があったともいえない」としながら「就業中の従業員が集会に気をとられ、職務に専念することができないなどの事態も予想しえないだけでなく‥‥」という理由で不許可が正当化されており抽象的危険説をとっていることである。必ずしも業務上の支障があったとはいえないということは無許可組合活動を正当化することにはならないのである。

 オリエンタルモーター事件 最二小判平7・9・8日『労働判例』679号
http://web.churoi.go.jp/han/h00640.htmlは食堂利用拒否が不当労働行為に当たらないとしたものだが、「本件で問題となっている施設が食堂であって、組合がそれを使用することによる上告人の業務上の支障が一般的には大きいといえないこと。組合事務所を認められていないことから食堂の使用を認められないと企業内での組合活動が困難となること。上告人が労働委員会の勧告を拒否したことの事情を考慮してもなお、条件が折り合わないまま、上告人が組合又はその組合員に食堂の使用を許諾しない状況が続いていることをもって、上告人の権利の濫用であると認められるべき特段の事情があるとはいえず、組合の食堂利用拒否が上告人の食堂使用拒否が不当労働行為に当たるということはできない。」と判示し、やはり業務上の支障が一般的には大きいといえないことが組合活動を正当化する理由にはならないことを明らかにしている。

 このように、目黒電報電話局事件・最三小法判昭52・12・13民集31巻974頁 『労働判例』287号国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号という二つの指導的判例が抽象的危険説をとった意義は大変大きいのである。

 具体的な問題、前回取り上げた次の事案に即して若干検討してみたい。

事務室内の昼休み組合集会と示威行為

 私の職場(東京都水道局の営業所)における平成23年12月9日の事務室中央で昼休憩時間に行われた組合分会の集会(昼休みであっても2名のみ昼当番として上司の命令により勤務する、窓口のレジと電話当番である。昼休みであっても営業時間なのである、昼当番の休憩時間を午後1時以後にずらす勤務形態は労働協約で組合も認めている、演説者と勤務中の職員とは移動式パーテーションにより目隠しがされているとはいえ、同じ室内で約十mほどしか離れていない)集会は12時30分頃より約20分間であるが、12月14日2時間スト、21日1時間ストを構えた状況で、闘争課題を確認し意思統一を図るための集会という分会長の挨拶があり、闘争目的を演説(約6分-よく通る声)、次いで分会書記長の基調報告があり事前に配られた内容を読み上げ(約6分)、分会長が拍手により確認を要求し、拍手され、次いで組合員代表の決意表明(約3分)があり、最後に大声で分会長が「14日、21日ストライキに向け闘争課題を確認し、決意表明を受けました、最後に頑張ろう三唱で締めたいと思います」といったことを述べ、「団結用意」とかけ声があり、がんばろう三唱(示威行動)が行われた。(約3分)。
 この集会は開始直前に管理職に口頭で通告(事実上許諾)してなされたものである。庁内管理規程所定の書面で施設利用の許可の願出があったものではない。

 この事案についていえば、具体的危険説をとったとしても秩序を乱す行為、実害がある、業務阻害があったといえそうである。つまり窓口のレジ(料金支払い)、電話応対業務を行っている勤務中の職員の至近距離で、声を張り上げての演説、拍手、頑張ろう三唱の鯨波という示威行為がなされていることは、騒音になり電話応対・窓口応対の職員に声が聞こえづらくなるどの業務に支障があるといえるからである。
 にもかかわらず、組合活動に好意的な当局は、実際にはレジ業務も、電話応対も実際におこなわれ昼当番は仕事をこなしていることをもって実害はなかったと「現実かつ具体的に経営秩序が紊され経営活動に支障を生じる行為」ではないと言い張るだろうが、施設管理権・企業秩序定立権の指導判例たる国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号は、上記の具体的危険説をとらず、ビラ貼りが「組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼす」ことは本来の事業を能率的に運営する企業秩序維持の観点から「企業秩序を乱す」ものであるから、正当な組合活動であるとすることはできない。「本来の業務自体が直接かつ具象的に阻害されるものでなかつた等」の事情は「判断を左右するものとは解されない」と判示し、抽象的危険説を確立した判例であるから、当局が中止命令や警告ができないと言う理由には全くならないのである。
 すなわち組合集会の演説者は休憩時間であり昼休みにそれを行うことは労務提供義務違反、職務専念義務違反にはならないが、演説行為、拍手の要求、頑張ろう三唱のシュプレヒコールは、休憩時間をずらして勤務している昼当番職員の職務への専念を妨げるものであり、勤務中の職員がとらわれの聴衆の状況にあり、闘争課題について訴えやストライキを構えて決意表明は、組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼすだけでなく、違法行為の慫慂というべきものであり、たんに他の職員の注意力を散漫にする行為としても企業秩序を乱すものである。「抽象的危険説」では演説行為が、とらわれの聴衆にある勤務中の職員が集会に気をとられ注意力を散漫にさせ、職務専念を妨げるおそれがあるという理由だけでも、企業秩序を乱すものとして、中止命令、警告が可能なのである。
 にもかかわらず管理職は放置してなにが問題があるんだという態度である(24年3月8日同様の昼休み集会のさい、管理職が集会の間、席をはずして監視しない態勢をとったため、組合から集会時に監視しないよう事務室から出るよういわれているのかという質問には関係ない、監視しなくてよいのかという私の質問に「何か問題があるのか」とつっぱねた)国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号という立派な指導判例があり、判例として定着して三十年以上もたつのになぜこれを利用しようとしないのか。
 私がさらに強調したいことは、囚われの聴衆の状況で職務専念を妨げる至近距離での演説行為を排除しないことにより、騒音状況、注意力を散漫にさせる状況で働かせていることは(なおかつ違法行為の慫慂にさらさせて、争議行為に巻き込もうとしていることは)誠実労働義務に対する使用者側の信義則にも反するのではないかということである。組合と共謀のいじめの構造といってもよい。
 つまり誠実労働義務ないし忠実労働義務というのは、我が国だけでく、コモンローであれ、社会主義のソ連であれ、どんな国でも共通していえるものであって、従業員は職務にあたっては相当の注意力と技術を用いて誠実に職務を遂行すること義務があるのである。常識的なことであるが、使用者は職務専念義務、つまり相当の注意力と技術をもって職務にあたることを従業員に義務づけているのであるから、職務専念、注意力の妨げになる行為は施設管理権の発動により排除できるのに、それをあえて発動せず放置するということは、誠実に職務を遂行している従業員に対する信義則に反すると考えるものである。
 そういうと使用者は従業員に対して安全配慮義務やセクハラ防止措置をとる義務はあるかもしれないが、至近距離での演説、拍手、シュプレヒコールの雑音・騒音は直接あなたの身体に危害がないから、配慮する義務はないし、集団的労働関係のもとでは、あなた個人に適正良好な職場環境を求める権利すらないと反論してくるだろう。しかしそこまで言うとなれば施設内組合活動・争議行為・違法行為の慫慂に許容的ということは、逆に管理者としての資質が問われるのである。

【註1】河上和雄「企業の施設管理権と組合活動--昭和54年10月30日最高裁第三小法廷判決について(最近の判例から)」『法律のひろば』33(1)1980 【註2】高木紘一「政治活動の禁止と反戦プレートの着用-目黒電報電話局事件」『ジュリスト』666
【註3】近藤昭雄「協約自治の限界と政治活動禁止条項の効力-日本パルプ工業事件を中心に-『労働判例』229
【註4】石橋洋「企業内政治活動・ビラ配布の自由と企業秩序 : 目黒電報電話局事件・明治乳業事件判決を素材として」『季刊労働法』142 1987〔※ネット公開〕
http://hdl.handle.net/2298/14089
【註5】高木紘一 前掲論文 
【註6】座談会竹下英男・水野勝・角田邦重「企業内における政治活動の自由-横浜ゴム事件・東京高裁判決をめぐって-」『労働法律旬報』850 1974

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