L・トライブ教授「政府の課税権は広範で、違反者を投獄せず、税金を課す法律なら個人に商品購入を義務づけることができるという判決だ」と強弁
本日16時BSNHK放映のPBSニュースアワーを録画で見た。リベラル派の憲法学者ハーバード法科大学院のL・トライブ教授(ロバーツ最高裁長官とオバマ大統領はかつての教え子である)とD・リブキン弁護士(26州を代表し医療保険改革法の違憲性を主張した)の闘論である。大筋は次の通りである。
ローレンス・トライブ教授
「‥‥私は早い時期からそう思ってましたが、保険加入は義務だと言われてましたけれども、その運用の方法は全く税金と同じであるというふうに最高裁長官が考えていたということがわかったんです。‥‥最高裁長官はこれは本来は支払い能力があるのに加入しない場合、そして他の人に負担を押しつけた場合は課税するという制度であって、義務の不履行に対する罰金ではないと言ってました。ですから私は長官が医療保険改革法を支持すると予想してました。ほかの局でも申しましたけれども、最高裁長官がこれは税金だと言った時には驚きませんでした‥‥」
司会者
「長官が立場をかえたのかどうかというですが、この点は重要なことですか」
デイビット・リブキン弁護士
「いいえ、それは問題にならないと思います。裁判官は審議中に、早い段階であるいは後になって考えを変えるということはあることです。ただ私が強調したいのは憲法が堅持されたということで、その点ではオバマ政権が敗北したという点です。‥‥2年半以上にわたってオバマ政権も医療保険改革法の支持者も州際通商条項を根拠に憲法の価値を貶めるかたちで、個人の保険加入義務を正当化してきました。しかし5人の判事がそれは間違いであると言ったんです。課税権だと言う主張は後でつけたようなものです。それにトライブ先生のいうように政府の課税権だという人もそれだけを根拠としているわけではありません。ですから政府が動かしてきた船そのものが沈んだようなものです。
さらに、ブライヤー、ケーガン両判事を含めた7人の判事が、医療保険改革法の別の目玉であった高齢者のメディケア制度、強制的なこの制度の改革は26の原告州に過大な負担を強いるもので違憲だとしたのです。これは絶大なる勝利です。‥‥」
司会者
「トライブ教授に判決の影響について伺います。ある分析によるとリブキンさんのような保守派の学者はこの件については敗北はしたけれども、将来連邦政府の権限を制限するというもっと大きな憲法上の闘いには勝ったと言われてます。そういう意見をどう思いますか」
トライブ教授
「最高裁は5対4で州際通商条項の権限を確認したのであって、何かをあらたに加えたわけのではありません。これは商品の購入を義務づけたものではないという判断を出したにすぎないのです。議会が頻繁にそうした規制を今後導入しようとするようなことはないと思います。政府の課税権というのは非常に幅広いものですから。そうした規制は必要ないんです。最高裁長官も言ったように、例えば省エネ機器の導入についても、これは義務化をして違反者は投獄するというものではないと。導入しない人はそれだけ高い税金を払ってもらうというようなやりかたであってそれと同じだと言ったわけです。‥‥
議会が唯一単独でもっている権限というのは課税権です。‥‥ ロバーツ長官もその意見のなかで ‥‥ 規制権限と異なり課税権は単独で行使しうると言ってます。ここでは課税権だけで十分だということは明らかなわけです」
司会者
「この判決はほかの分野を含めて連邦政府の権限にどのような影響を与えると思いますか。」
リブキン弁護士
「最高裁長官の意見は、二重主権制とその個人の自由との関係の重要さを見事に再確認したと思います。連邦政府は包括的な警察権をもたないということです。‥‥
この判決はロペス判決以来のインパクトでそれを明らかにしたと思います。課税権の問題についてもトライブ先生は見落としてらっしゃると思うんですが、罰則の規模などに限界があるとはっきり言っているわけです。数千ドルであったならぱ最高裁の判決は違ったものになっていたかもしれないと思います。しかし大切なのは現政権の重大なミスを正す判決を下したということです。‥‥ 今の政府は権力の分権、分立などというのはそもそも誇大妄想で大事なことではないと考えているようですが、そんなことはないということを知らしめたんです。‥‥強力な勝利であり今後何十年もの間いろんな判決に影響すると思います」
トライブ教授
「‥‥オバマ政権は州政府の警察権と連邦政府の有限なる権限との違いをきちんと認識してこの法律がその権限の範囲内にあると主張したんです。そしてそれは認められました。
憲法に、ひとつの裁判にはひとつの条項しか適用してはいけないというようなルールはありません。根拠は複数あるということもありうるんです。最初の国立銀行が設立されたときに最高裁は1819年の判決で複数の条項を根拠として合憲と判断したんです。‥‥」
L・トライブ教授は判決を予想していたし驚きもしなかった。ロバーツに課税権が広範なものだというのを教えたのも私だよなどと自慢、この判決はオバマ政権の主張を認めたもの。どちらが勝った負けたというものではないと言う。対してD・リブキン弁護士はオバマ政権の敗北だ、保守派にとって強力な勝利だと反論。
トライブ教授は規制と違って課税権は議会が単独で行使できる、課税権で何でも解決できるみたいな事を言っていたが、憲法革命以前の課税権条項が争点となった1936年のバトラー判決は、連邦政府には課税権条項により「一般的福祉」のために租税を賦課・徴収することが認められているが、農業調整法の加工税は「租税」ではなく農業生産を規制する一般的仕組みであり、その規制は憲法修正第十条の「州権限の留保条項」により州の権限として留保されているとして違憲判決もあるのだから、課税権万能思想で良いのか少し疑問に思った。
« 「実は保守派の大勝利」とABCジスウィークの討論(連邦最高裁判決) | トップページ | それでもケネディ判事はよくやったと思う »
「英米法」カテゴリの記事
- 連邦最高裁 ホワイトハウスがソーシャルメディア企業に「偽情報」を削除するよう圧力をかけることを容認 (2024.06.29)
- 旧統一教会の解散命令請求に反対します(2023.10.04)
- ジョン・ポール・スティーブンス元合衆国最高裁判事死去(2019.07.18)
- ケーキショップは宗教的信念により同性婚のウェディングケーキの注文を拒否できる(2019.06.18)
- 連邦最高裁開廷期末に反労働組合、リバタリアン陣営大勝利 Janus v. AFSCME判決 (2018.06.29)
« 「実は保守派の大勝利」とABCジスウィークの討論(連邦最高裁判決) | トップページ | それでもケネディ判事はよくやったと思う »
コメント