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2012/09/05

岡田与好による「営業の自由」論争と関連して団結禁止体制・その変質について(3)

3 イギリスにおける団結禁止

 (1)団結禁止及び労働組合非合法の法理の概略

 ア 制定法を基準とした時代区分

 大雑把に制定法による団結問題の時代区分は5区分して検討する。労働法制史が複雑だが、かいつまんでいえば以下のとおりである。

第1期 団結、集団取引自体が違法 1823年まで
 18世紀の主従法や産業別団結禁止法、1799-1800年団結禁止法

第2期 目的・態様を限定した団結放任(刑事免責)だが労働組合は非合法1825~1870年

 1825年法-賃金・労働時間に関する「集会」「談合」「協定」は例外として違法性が除去されるが、労働者個人を規約によって拘束し統制する労働組合は非合法であり、ストライキ、クローズドショップ、徒弟規制等の目的を有する団結はコモンローの非難にゆだねられる。

第3期 労働組合を合法化するがピケッティングは実質違法であり、ストライキは個別的自発的行為の総和であって、他者を強制できないだけでなく争議行為に共謀罪適用の余地を残す-1871~1874年

 
 1871年労働組合法と刑事修正法-この世界史上初の労働組合合法化は直接的にはストライキの目的を持つ組合規約が「営業制限」にあたり違法とされ組合基金の法的保障を失わせた、1867年のホーンビィ対クローズ事件判決を覆すものであった。刑事修正法は「その行為が取引の自由を害しまたは害する傾向を有するとの理由により処罰を受けない」とし営業制限の法理から免責することによって労働組合を「合法化」したのである。しかし、裁判所は主従法を適用したり、「営業制限」以外の理由「不当な妨害improper molestation」を根拠にコンスピラシーを構成するとして刑事修正法の但書における免責を否定した(1872年R v.Bunn事件)。

第4期 争議行為を刑事免責とするが、ピースフルピケッティングは違法であり、裁判所は民事共謀法理を案出し対抗-1875~1905年

 1875年共謀罪・財産保護法が制定され、主従法は廃止された。共謀罪・財産保護法は、労働争議を共謀罪から解放し刑事免責という画期的制定法であり平和的ピケッティングの合法化を企図したが、実際には合法化されてない。第7条但し書きが合法的なピケッティングを「単に情報を授受する目的」と規定したことが致命的だった。裁判所は情報を授受する目的で通路に待機することは合法と規定していても、説得すること、契約違反誘致は違法とした。1876年R.V.Bauld事件、1896年Lyons v.Wilkins事件は明確にピースフルピケッティングを違法としている。
 さらに裁判所は刑事免責の制定法に対抗するため民事共謀法理を案出、1901年のタフ・ヴェイル事件判決Taff Vale Caseは違法なピケッティングによる業務妨害、会社とスト破り労働者との雇用契約違反の誘引、および違法な共謀を理由に組合役員2名と、合同鉄道従業員組合(1871・76年労働組合法上の登録組合)を被告として差止命令とその他の請求(損害賠償請求)の訴訟を提起したものであるが、それまでの判例は不法行為責任の主体が労働組合員・役員個人であったのに対し、同判決が初めて労働組合を不法行為責任の主体と位置づけ、その賠償を組合自体に求めた。労働組合は法人ではないと認定されながらも、組合役員の行動によって生じたとされる非合法なピケッティング等による損害に対して法人能力があるものとして起訴されるとした。また判決は、労働組合に対し「差止命令」だけでなく「職務執行令状」も出せるとし、これに従わない場合は法廷侮辱罪で即決収監するとされた。1871年労働組合法に基づき登録された組合は法人と同様その登録名で訴えられ、その結果労働組合は鉄道会社のストライキの賠償として2万3千ポンドを支払うこととなったのである。

第5期 争議行為の不法行為免責-1906年労働争議法以降現代まで

 1906年労働争議法はダイシー、ポロック卿、ホウルズワースという名だたる法制史家が非難したように最大級の悪法と思う。
 他人の業務その他の妨害に対する責任の免除を次のように定める。   
第三条
「労働争議を企画しまたは促進するための行為は、当該雇用契約を破棄するよう他人を勧誘する、または、他の人の営業や雇用に抵触する、または、資本や労働を自由に処置する他人の権利に抵触する、ということのみを理由に起訴されることはない」コモンローでは、正当な理由なくして「不法かつ悪意に」他人をして第三者に対し不法行為をなさしめ、それによって第三者に損害を与える場合は不法行為となり、従って悪意に契約を違反せしめた場合も不法行為となるが、本条は契約違反の誘導に対する争議行為の免責を規定したものである。ただし本条の趣旨は、契約違反の誘導が名誉毀損・脅迫・強制等それ自体不法な手段によって行われる場合は免責されないとする。
 労働組合の基金の不法行為に対する免除について次のように定める
第四条第1項 「組合によりまたはそれに代わって行われたと主張される不法行為につき‥‥労働組合たるを問わず雇用組合たるを問わず、組合に対して提起された訴訟は、‥‥どの裁判所も受理してはならない」と規定し、タフヴェイル判決は完全に覆った。
 なお、1927年労働争議法-再びピケッティングの違法化、同条ストの違法化がなされたが、1942年労働争議労働組合法で廃止され、ピースフルピケッティングは容認された。近年の改革では1980年以降サッチャー政権によって、不法行為免責となる範囲を狭めた。マスピケッテイング、フライングピケット、二次的争議行為などは免責されず、第三者の監査によるスト投票により承認された公認ストライキ以外は免責されない。しかし1906年労働争議法はなお生きているのである。

なお、引用の出所については、各論編で掲載する。

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