カード 国労札幌地本事件最高裁判決の意義(6)法益権衡論の排除その2
(承前)
2 組合側が勝訴するのはどのようなケースか
とはいえ施設管理権が争点になった事件で、不当労働行為とされ組合が勝訴したケースも少なからず存在するので類型化して検討してみる。
(1)組合運営の支配・介入に当たるとされたケース-総合花巻病院事件最高裁第一小法廷昭和60年 5月23日『労働委員会関係裁判例集』20集164頁http://web.churoi.go.jp/han/h00312.html
六年余の間、病院は、労働組合に執行委員会や総会のため従来施設を無償で利用させていたが、上部団体加盟を機に、施設利用を拒否するようになったことが不当労働行為に当たるかが争点になった事件だが、最高裁判決は病院施設利用を拒否するに至った真の理由は、組合の上部団体加入を嫌悪し、これを牽制、阻止することに他ならなかったことは明らかであり、組合運営に対する支配介入であるとする仙台高裁昭和57年1月20日判決『労働委員会関係裁判例』集17集http://web.churoi.go.jp/han/h00200.htmlを是認し、病院側の上告を棄却したものである。
施設管理権が争点とされているにもかかわらず、国労札幌地本判決は引用されていない。端的に労組法7条に反するという判断をとっている。病院側の主張は、病院側が、個々の利用の許否につき、一々説明を付加すべき義務を負うものでないというものであって、施設利用拒否が企業秩序の乱すためという理由づけはなされていない。
このケースでは過去に職員146名により、病院外に花巻地区医療労働組合を結成され、岩手県医療労働組合協議会(以下「医労協」)を上部団体としていたが、病院側の働きかけで脱退者が相次ぎ、これに対抗して病院内組合が結成されためその組合は壊滅した。病院内組合は争議行為もなく病院も好意的だったが、栄養士の配転問題で組合が反対闘争を行うようになり、その際、医労協の指導を受けた。医労協への加盟を嫌う病院長は病院長は院長室に組合委員長、書記長、副委員長などを呼び、医労協に加盟しないよう説得、依頼した。書記長には出産祝を名目に一万円、副委員長に新築祝を名目に二万円を供与した。そうした経緯があるために、組合の運営への支配介入に当たるとされたものである。
高裁判決は、個々の利用の許否については病院側の自由裁量であり、一々説明を付加すべき義務を負うものでないことを認めつつも「長年にわたり執行委員会や組合総会等の会合の開催につき、病院側の業務に支障のない限度で便宜を与え続けてきたものであるから、第一審参加人組合側においては、このような従来からの経緯にかんがみて、将来もまた特段の理由のない限り、便宜を得られるであろうとの期待を持つに至ったことは、容易に窺うことができる。そして、このような期待は、継続的な労使関係の中では、無視しえない利益であって、それが不当労働行為によって奪われた場合には、法律上これが回復を求めることができるものと解すべきである」とする、つまり、組合への便宜供与が慣行となっている場合、その拒否が本件のように不当労働行為とみなされる場合は、施設管理権の発動ができないという判決である。
便宜供与拒否によって労働組合の上部団体加盟をさせないようコントロールしようとするする使用者側の意思がよく出ているケースだからこそこのような判決となったのだろう。
施設管理権に関する論文でこの判例を引用するものは少ない。池上通信機事件、日本チバガイギー事件、済生会中央病院事件、オリエンタルモーター事件は、いずれも無許諾の組合集会事案だが最高裁は国労札幌地本判決の判例法理に沿った判断をとっておりそちらが主流であって、総合花巻病院事件は例外的な判例と評価してよいと思う。、
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