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2012/10/21

カード 組合旗設置行為(旗上げ行為)と施設管理権

ここでは、組合旗(赤旗)設置行為と施設管理権が争われた、全国一般労組長崎地本長崎合同支部(医療法人光仁会)事件を中心にその意義について評価する。このほか、組合旗掲揚(旗上げ行為)に関する7つの判例についても取り上げる。

1 光仁会(組合旗)事件の概要とその評価

 全国一般労組長崎地本長崎合同支部(医療法人光仁会)事件とは平成16年、長崎市にある精神科専門の医療法人光仁会病院(精神病床561床、従業員271名=当時)と全国一般労組長崎地本長崎合同支部(長崎地区の中小企業・商店など労働者が職種・企業を越えて組織された組合、組合員数221人、光仁会病院の組合の分会は61名)との間で夏期賞与支給をめぐって4回の団体交渉が行われたが妥結に至らなかったことから、分会長及び組合員らは、抗議行動として、赤地に白抜き文字で「団結」「全国一般」「長崎地本」などと記された組合旗を病院正門の左右両側に及び公道に面した位置に計5本を設置した。これに対して病院は再三にわたり撤去を求めたが組合は正当な組合活動であるとして応じず、約3ヶ月半にわたり設置しつづけたために、病院は、組合旗設置行為が施設管理権及び所有権を侵害する違法行為として分会長に対して停職3ヶ月の懲戒処分を科し、上部団体である組合本部・支部・分会長に対して連帯して不法行為に基づく損害賠償(602万円余り)を支払うよう求めた事件である。本件は救済命令取消請求訴訟と、損害賠償請求等の訴訟で異なる結論となった複雑さと、損害賠償訴訟の控訴審判決が雑誌に掲載されてない(されてるかもしれないが見てない)ため、どう評価してよいものか迷うところがあるが、過去十年間の施設管理権判例としては重要なものであるので詳しく取り上げることとする。

 組合は懲戒処分等につき長崎県労委に救済を申立たが、初審長崎県労委平成18年6月5日命令http://web.churoi.go.jp/mei/m10146.html)は不当労働行為に当たらないとして棄却した。しかし再審査の中労委平成19年9月19日命令http://web.churoi.go.jp/mei/m10613.html)は本件組合旗設置行為は正当な組合活動の範囲を越えているとしながら、本件懲戒処分は、医療法人が組合旗設置等の行動を奇貨として、中心となって活動していた分会長に対し、著しく過重で相当でない処分により打撃を与えその活動を封じ込めることによって、組合の運営に支配介入したものと評価するのが相当であるとして不当労働行為に該当するとした。
 医療法人(病院)がこれを不服として救済命令取消訴訟を起こしたが、東京地裁平21・2.18判決『労働判例』981号http://web.churoi.go.jp/han/h10219.htmlは、本件組合旗設置行為が使用者の権利を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動には当たらないとし、懲戒処分も不相当とはいえないとしながら、本件停職3ヶ月は、懲戒事由である本件組合旗設置に比して、著しく過重なものということができ、本件懲戒処分は、組合及び組合による組合活動に対する嫌悪を主たる動機として、その下部組織の分会長に対し、懲戒事由に比して過重な処分を科したものと認めるのが相当であるとして中労委命令を是認した。控訴審東京高裁平21・8・19判決『労働判例』1001号http://web.churoi.go.jp/han/h10253.htmlも本件組合旗設置を正当な組合活動ということはできず、懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえないが、本件懲戒処分(停職3ヶ月等)は、懲戒事由(本件組合旗設置)比して著しく過重であって、相当性を欠くものであり、組合に対する嫌悪を主たる動機として、分会長に対して著しく過重なものとして科されたものと認めるのが相当であり不当労働行為に該当するとして控訴を棄却した。最高裁第一小法廷平成22年9月2日決定http://web.churoi.go.jp/han/h10310.html  は上告棄却、民訴法第318条1項により上告不受理とされたので、中労委の救済命令を是認している。
 以上は不当労働行為救済命令取消請求訴訟であるが、私は基本的にこのような利益衡量的判断に疑問をもつものである。というのは、これと別の損害賠償請求等の訴訟では長崎地裁平18.11.16判決『労働判例』932号が、国労札幌地本事件最高裁判決の判例法理に沿ったまともな判決を下しているからである。
 長崎地裁は権利の濫用であると認められるような特段の事情を除いて本件組合旗設置行為は施設管理権を侵し、企業秩序を乱すもので正当な組合活動として許容されないとし、「特段の事情」に該当する事情がある否かを争点として検討し、本件組合旗がいずれも、一般通行者や病院に出入りする患者や家族に容易に目に入る状態であったほか、組合旗の大きさ、色彩、文字等に照らし、軽視することのできない信用毀損の損害を被ったこと、組合はあえて目立つ場所に掲揚して病院にダメージを与えたとして正当な組合活動とはいえないとされ、組合本部・支部・分会長に272万5千円の損害賠償求を命じている。控訴審福岡高裁平20・6・25判決は一部認容(原判決一部変更)一部棄却、最高裁第一小法廷平21・12・10決定 は上告棄却、不受理である。筆者は福岡高裁判決を読んでいない(『労働判例』に掲載予定とされているがそれを掲載されたのか不明)ので、全体像をつかんでないが、長崎地裁の判断は、最判昭和50年4月25日民集29巻4号456頁[日本食塩製造事件]、最判昭和58年9月16日労判415号[ダイハツ工業事件]は引用し、本件組合旗設置行為の違法性は疑いなく、医療法人としては軽視できない損害を与えたものであるから、3ヶ月の停職処分が重すぎるということはできないという判断をとっているのである。
 つまり、損害賠償請求等の訴訟である長崎地裁と、救済命令取消訴訟の東京地裁とでは、組合旗設置行為が施設管理権の侵害であり、正当な組合活動ではないとし、懲戒処分を行うこと自体不相当ではないと判断していることは同じであるが、停職3ヶ月という処分の重さについて判断が分かれた。長崎地裁は重すぎるものとはいえないとしたのに対し、東京地裁は、組合及び組合による組合活動に対する嫌悪を主たる動機として、その下部組織の分会長に対し、懲戒事由に比して過重な処分を科したものという判断をとり、高裁も大筋で同様の判断をとった。
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 長崎地裁と東京地裁・高裁の判断の違いをどう評価すべきか検討してみる。本件は団体交渉の経過における抗議としての組合旗(赤旗)掲揚であり、ストライキの事案ではないが、私は、これまで自分の職場(東京都水道局)においてピケッティングで5~6人組合員に包囲され、悪罵・罵声を浴びせられたり、労働組合から攻撃されてきたので、組合旗(赤旗)というものから連想するのは、争議行為・ピケッティング・恐喝・脅迫・威嚇・包囲・拉致・監禁・罵声・人身攻撃である。従って最も嫌悪するものである。団結=個人の労働力処分の自由の侵害であるから敵対者に等しく、最も悪いシンボリズムの一つとであると考える。もっとも、赤旗を見て労働組合主義者や社会主義者は好感をもつのであり、それを見てどういうメッセージを受け取るかは人さまざまであるし、特別な感想を持たない人も少なくないかもしれない。しかし一般的にいって、それが正門前等に4~5本、長期にわたって掲揚されていたことは、病院で労使紛争があることをたんに知らせているだけでなく、組合の示威として受け取ることになるだろう。労働運動に好意的である人を別として、一般論として患者やその家族に対し不快感ないし不安を抱かせるものであることは客観的にいえることではないか。
 本件においては、長崎地裁判決が認定しているように、就職先としての説明を受けるため病院を訪れた熊本県所在の医療技術者養成学校の関係者が、組合旗を見て、院内見学をせず帰ってしまったこと。医師6名が、光仁会代表者に対し、異常感と不快感を生じさせる組合旗の撤去を求める請願書を連名で提出していること。他院から紹介を受けてきた患者や家族が、院内の事前見学のために病院を訪れた際、掲揚された組合旗を見て驚き、即座に入院を断ったことが認められること。284名の入院患者が組合旗設置行為の3ヶ月を経過して20名減ったことなどの事実から、組合旗設置行為が病院の信用を害する行為であったことは疑いない。しかも精神科専門病院であるから静謐な環境が求められるのであって、同じような労使紛争であってもタクシー会社に赤旗が掲揚されるより、ダメージは大きいと客観的に判定できる。したがって病院に対して軽視できない信用毀損にあたる行為をやったのだから、分会長の停職3ヶ月の懲戒処分を適法とした長崎県労委の初審判断や長崎地裁判決がまず妥当であると思えるのである。
 しかし、 施設管理権関係の判例では、組合活動への嫌悪を主たる動機とした懲戒処分を無効とした総合花巻病院事件最高裁第一小法廷昭和60年 5月23日『労働委員会関係裁判例集』20集164頁http://web.churoi.go.jp/han/h00312.htmlという先例がある。六年余の間、病院は、労働組合に執行委員会や総会のため従来施設を無償で利用させていたが、上部団体加盟を機に、施設利用を拒否するようになったことが不当労働行為に当たるとされた。この事件では病院長が院長室に組合委員長、書記長、副委員長などを呼び、上部団体の岩手県医療労働組合協議会に加盟しないよう説得、依頼した。書記長には出産祝を名目に一万円、副委員長に新築祝を名目に二万円を供与するといった組合の運営に干渉する事実があったことなどから、支配介入にあたるとされたのである。
 本件救済命令取消訴訟での東京高裁判決は、この事件の前に、団体交渉申入れに応じないまま、一方的に組合員の降格処分を公表したことや、一方的に労働協約を解約したこと。本件組合旗設置行為の懲戒処分に関する処分前の団体交渉に応じなかったことが不当労働行為とされていることから、そうした経緯と、懲戒処分の重さから、組合への嫌悪を主たる動機と判定されたものである。
 施設管理権判例ではないが、類似した論理構成をとっている判例として、JR東日本(神奈川・国労バッジ)事件東京高裁平11・2・24判決『労働判例』763号がある。
 高裁は「形式的にこれ(就業規則)に違反するようにみえる場合でも、職場内の秩序を乱さない特別の事情が認められる」か検討し、バッジに具体的な主義主張がなくても「国労組合員であっても自らの意思で本件組合バッジを着用していない他の社員に心理的影響を与え、さらに、国労組合員以外の者に対して国労の団結を示そうとして、本件組合バッジを着用したものと認められるのであって、このような事情を考慮すると、本件組合バッジの着用につき、職場内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるとは到底いえない」とし、実質的に服装の整正に関する就業規則違反であり、勤務時間中又は会社施設内での無許可組合活動を禁止する就業規則にも実質的に違反するとし、さらに職務専念義務(服務根本基準として規則で定められている)に反し、企業の秩序を乱すものとされ、したがって、就業規則等にのっとり懲戒その他の不利益処分を行う権利が会社に有することを認めた。ここまで賛同できる内容である。
 ところが、「使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので、一見合理的かつ正当といい得るような面があるとしても、それが労働組合に対する団結権の否認ないし労働組合に対する嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものと認められるときには、その使用者の行為は、これを全体的にみて、当該労働組合に対する支配介入に当たるものというべきである」という利益衡量論的判断枠組が提示されて、労使紛争の経緯が検討され、国労を嫌悪する国鉄ないしJR東日本幹部の露骨な発言があったこと。動労には損害賠償請求訴訟を取り下げるなど国労を孤立化させる施策をすすめ、分割民営化に伴う不採用者の多くが国労組合員だったこと、現場における本件組合バッジ取り外し指導の状況が平和的説得の域を越た執拗熾烈なもので、 とくにバッジ取外しを拒否した国労組合員に命じた就業規則の書写し作業は嫌がらせ以外の何者でもないといわざるを得ないとされ、また国労からの脱退勧奨も組織的に行われたと窺わせるといったことが指摘され、「これらの事実を合わせ考えるならば、控訴人が本件組合員らに対して本件組合バッジの取り外しを指示・指導等した行為及び本件組合バッジを着用していたことを理由に本件組合員らに対してした本件措置は、控訴人が、国鉄の分割民営化という国の方針に一貫して反対するとともに、国の右方針に従って国鉄の事業を分割承継した控訴人に対しても厳しい対決姿勢で臨んでいた国労を嫌悪し、国労から組合員を脱退させて、国労を弱体化し、ひいてはこれを控訴人内から排除しようとの意図の下に、これを決定的な動機として行われたものと認めざるを得ず、したがって、控訴人の右一連の行為は、国労(参加人ら)に対する労働組合法七条三号にいう不当労働行為(支配介入)に該当するものといわなければならない。」とした。
 就業規則に反し企業秩序を乱すものであるから、懲戒処分や不利益処分を行う権利が使用者にあることは認める。にもかかわらず、懲戒処分等が組合を弱体化させ会社内から排除することを決定的な動機としてなされたと判断され不当労働行為とされたものであり、この利益衡量的判断については疑問に思うが、JR東日本(神奈川・国労バッジ)事件・最高裁第一小平11・11・11決定『労働判例』770号は上告審として受理しないとしている。
 したがって、類似した論理構成をとっている先例があるから、本件救済命令取消訴訟は先例から逸脱はしてないとみることもできる。とくに本件東京地裁・高裁の判断は、懲戒処分前の団体交渉に応じなかったことを不当労働行為とする中労委の判断が尊重されており、逆にいえば、事前団体交渉にも応じ、軽い懲戒処分であるならば適法と判断された可能性が多分にあるといえる。
 したがって本件救済命令取消訴訟は組合側勝訴でもそれほど悪くない判例と評価してもよいのではないか。
 
 組合旗に関する従来の判例では、平和第一交通事件・福岡地判平3・1・16『労働経済判例速報』1423号が、組合旗の撤去、処分警告書の交付等を不当労働行為とした労委命令を取消し、施設管理権の行使として是認する判決である。また社団法人全国社会保険協会連合会(鳴和病院)事件 東京地裁平8・3・6『労働判例』693号 使用者による組合旗の撤去は不当労働行為にあたらないと判示した。いずれも施設管理権の指導判例である国労札幌地本ビラ貼り事件・最高裁昭和54年10・30第三小法廷判決民集33巻6号647頁『労働判例』329号の判例法理に沿った妥当な判決であり、基本的には組合側が勝訴した光仁会事件も施設管理権の行使を認めているし、組合旗掲揚そのものが正当な組合活動とは認めていないから、国労札幌地本判決から逸脱はしてない同類の判例と評価してもよいだろう。ただ、平和第一交通事件と鳴尾病院事件は懲戒処分事案ではなく、使用者による撤去や警告が不当労働行為になるか否かが争われただけで、組合旗掲揚だけで停職3ヶ月が是認された判例は、私が知る限り国労札幌地本判決以来なかったわけである。
 ミツミ電機事件・東京地八王子支判平6・10・24『労働判例』674号は赤旗掲揚等を理由とする組合委員長の懲戒解雇を有効としたものだが、この事件は赤旗掲揚だけでなく、違法なピケッティング・座り込み・デモ・ビラ貼付・立看板等の活動も懲戒事由とされており、赤旗掲揚だけで解雇とされてものではないので、これとの比較で停職3ヶ月が重いか否かは判定できない。
 一方、組合旗判例で組合側が勝訴したものもある。桜井鉄工所事件・大阪地判昭57・3・25『労働判例』が「‥‥春闘要求に対する回答を求め、被告会社がこれを拒否するや、旗上げ、はちまき就労等の争議行為を行い、全金西成ブロックの各支部から借り受けた旗を、被告会社の門前等に立てた行為は‥‥団体交渉の経緯等に照らし、正当な組合活動ないし争議行為の範囲に属する行動と認められるのが相当」とし旗上げ行為やビラ貼りを理由する懲戒解雇を無効としている。また国鉄松山電車区事件・高松高裁判平元・5・17『労働判例』540号は 建物通路に掲出された組合旗を撤去した支区長に対して、暴言・暴行を行った国労書記長の懲戒解雇を無効する原判決を是認したうえ、「組合旗は組合の団結の象徴としての性格があり、勤労者の団結権が憲法上保障されていることに照らすとき、組合旗の掲出は使用者からもそれ相応の丁重な取扱いを受けるべき性質のものである」とすら述べており、プロレイバー的司法判断に思えるが、ただ桜井鉄工所事件や国鉄松山電車区事件はもっとも重い懲戒処分である解雇事件であるから裁判所も旗上げや鉢巻就労程度のことや、旗を撤去されて怒る気持ちもわかるということで、解雇を適法という判決を出しにくかったともいえる。そうした組合旗許容の判例はむしろ例外といえるのであって、施設管理権の侵害として無許可組合旗掲揚を是認しない平和第一交通事件や鳴和病院事件の判断が主流であったことが、光仁会事件が組合旗掲揚自体の違法性を否定することはなかったことで明らかになったということもできるだろう。
  
 本件救済命令取消訴訟では中労委の判断が支持されて軽視できない信用毀損があったにもかかわらず懲戒処分を無効とされてしまったのは,割り切れないものを感じ遺憾であるが、教訓を引き出すならば、施設管理権を侵害した事案でも、裁判所が懲戒事由に比して過重な処分と判断したり、組合活動への嫌悪を主たる動機として重い処分を科したと判定した場合は,組合側の主張が認められることがあるということである。したがって懲戒処分は懲戒事由に比して過当なものにならないよう審議することが無難だということはいえる。
 
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 ところで、この事件は、病院側が組合が病院側一部敗訴の判決を当事者名・個人名を伏せないでインターネットに掲載したことから名誉毀損として訴訟を起こしたことでも知られている。平成21年12月11日の長崎地裁判決はネット掲載に公益性があるとして、医療法人の請求を棄却する判決を下した。
 そんな訴訟があったことで、この事件を取り上げることに躊躇もしたが、ネットで公開されている個人名を伏せた中労委のデータベースと、やはり個人名が伏せられるようにかなった『労働判例』から引用なので問題はないと判断し掲載することとした。
 というより、施設管理権を争点とした判例として光仁会事件は過去十年のなかではとくに重要なものだと認識している。判例の評価は一般論としてとくにミリバントな労働組合をかかえる企業にとっては労務管理上必要な知識である。
 私が施設管理権判例を研究しているのは、私の職場(東京都水道局)において、勤務時間中の演説行為、昼当番を管理職にやらせる労務指揮権の侵害、事務室内での示威行為・集会、敷地内・庁舎内での旗・幟・拡声器・横断幕の持ち込み、示威行為など、多くの正当な行為と評価されることのない組合活動があり、それらに対して、警告・中止命令・懲戒処分がなされず黙認されている組合との馴れ合い状態について、なんとか是正したいとの考えるもので、耐えがたい状況にあるので研究成果をまとめて包括的な請願書を出すためである。
 それだけではなく、この事件でも引用されている指導判例である国労札幌地本事件最高裁判決それ自体が施設管理権にとって重要なものであって、この判例法理の意義を追究するという関心もあるし、労働基本権が所有権・施設管理権を制約する権利であるなどとばかげたことを言う人々に対抗するためにも労務担当者はもちろんのこと、職員個人が労働組合による示威行為等、業務遂行の制限・妨害・恐喝から身を守るたるにも基本的な知識になるので判例研究のシリーズはブログで掲載している。
 水道局では、組合旗はストライキ中だけでなく、闘争期間の決起集会で掲出されるほか、壁や掲示板、闘争時に団結寄せ書きとして、赤旗が事務室内に掲出されたり、飾られたりすることがあるだけでなく、この事件と同じ平成16年の業務手当闘争では新宿の都庁第2庁舎前での決起集会ののち、組合旗が庁舎内に持ち込まれ行進しているのを目撃している。そうしたことを規制したいためこの判例を研究しているのである。梅田望夫は著書『ウェブ時代をゆく』ちくま新書2007で、ネットは「巨大な強者」(国家・大資本・大組織)より「小さな弱者」(個人・小資本・小組織)と親和性の高い技術であり、ネットが人々の「善」なるもの人々の小さな努力を集積する可能性を秘めた技術と言っているが、同感であってそのような意味で、私はブログを掲載しているわけであるから、なるほど当事者にとって過去の労使紛争について書かれるのは迷惑があるかもしれないが、私は訴訟当事者に悪意はなく、むしろ施設管理権の行使をきちんとやっている医療法人を尊敬していることも表明する。検索で上位にでないようエントリーの表題から固有名詞を除き(経験上、判例研究ブログが少ないために、本文でなく表題の固有名詞や事件名は上位に出ることがしばしばあるから)、目立たないようにするだけでなく、団体交渉の経過についての記述を一部省略するなど配慮もしているので、ご寛容のほど願いたい。

 
 
2 国労札幌地本判決以降の組合旗をめぐる判例

①桜井鉄工所事件・大阪地判昭57・3・25『労働判例』

「‥‥春闘要求に対する回答を求め、被告会社がこれを拒否するや、旗上げ、はちまき就労等の争議行為を行い、全金西成ブロックの各支部から借り受けた旗を、被告会社の門前等に立てた行為は、前期認定の組合と被告会社の団体交渉の経緯等に照らし、正当な組合活動ないし争議行為の範囲に属する行動と認められるのが相当」とし旗上げ行為やビラ貼りを理由する懲戒解雇を無効とした。

②国鉄松山電車区事件・松山地判昭61・12・17『労働判例』488号


 建物通路に掲出された組合旗を撤去した支区長に対して暴言暴行に及んだ国労書記長の懲戒処分を無効とした。「‥‥少なくとも昭和五八年二月ころまでは組合旗の掲出を黙認または放置していたものと評価することもあながち的外れであるとはいえないし‥‥極めて異例の措置であった‥‥組合旗を撤去した理由を問いただしたこと評することができる。‥‥国労愛媛支部の書記長であった原告がSに対し組合旗を撤去した理由を問いただしたことには、組合役員として無理からぬものがあったと考えられる。かような質問に対し、Sが『総局、区の指示です。』との答えに終始し、何ら実質的理由を示さなかったことは‥‥やや配慮を欠いた態度であったといわざるを得ない。原告は、Sの右態度に憤慨し、本件暴行に及んでしまったものと認められ、その動機については原告に有利に斟酌して然るべきである」との理由であった。

③ミツミ電機事件・東京高判昭63・3・31『労働判例』516号

 争議中の集会、デモ、泊込み、ビラ貼付、赤旗掲揚を理由として組合役員になされた懲戒解雇についての地位保全仮処分命令の取消を求められうるかが争われ、
「一般に労働組合が赤旗を掲げたり、立看板、プラカードを立てるのは、争議中でこれがなされるのを禁ずるにあたってはあることを誇示するためであると考えられ、企業の施設を利用してこれがなされるのを禁ずるについては、表現の自由との兼合いを考えるべきであるが、本件の右各事件においては、立看板、プラカードはともかく、門や外柵に結びつけた赤旗の数は‥‥決して少ないとはいえず、また、建物の塔屋や屋上に掲げたのは、工場全体を組合が支配したかのごとく印象づけるものであって、これらを許容すべきものということは到底できない。」これらの行為は「いずれも会社の禁止に反し会社の物的施設を利用してなされた行為であり、会社がこれを許容しなかったからといってその有する権利の濫用であるということはできず、各懲戒事由に該当するというべきである」とした。

④国鉄松山電車区事件・高松高裁判平元・5・17『労働判例』540号

 建物通路に掲出された組合旗を撤去した支区長に対して、暴言・暴行を行った国労書記長の懲戒解雇を無効する原判決を是認したうえ、組合旗は丁重に取り扱われるべきという観点を述べた。
「一般に、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動には当たらないということができるから、組合旗の掲出は一般的に禁止されており、右禁止を侵す者について控訴人において自らこれを撤去できるものと解する余地がある。しかし、組合旗は組合の団結の象徴としての性格があり、勤労者の団結権が憲法上保障されていることに照らすとき、組合旗の掲出は使用者からもそれ相応の丁重な取扱いを受けるべき性質のものであるから、組合旗掲出の態様及びこれに関する従来の労働慣行等にも考慮のうえ、右組合旗の掲出を、控訴人において禁止し、更にこれに違反するものにつき自らその撤去ができるか否かについては慎重な検討を要するものとしなければならない」。「組合旗の掲出が正当な組合活動の一つとして労働慣行により控訴人において承認されていたと言えるか否かはともかくとして、四国総局管内において少なくとも昭和五八年二月ころまでは組合旗の掲出が黙認ないし放任されてことは紛れもない事実であるから、控訴人がなんらの制約なくして自由に右組合旗の撤去させたことは極めて異例の措置であったということができるのであるから、たとえ組合が組合旗の掲出につき、承認の手段を経ていなかったとしても、この一事により控訴人が施設管理権に基づき組合旗の撤去を強行したことは少なくとも穏当を欠く措置であったと解せざるをえない」

⑤平和第一交通事件・福岡地判平3・1・16『労働経済判例速報』1423

 組合旗の撤去、処分警告書の交付等を不当労働行為とした労委命令を取消し、施設管理権の行使として是認された例であるが、国労札幌地本事件最高裁判決を引用しその判例法理に基づいている。
「企業に雇用されている労働者は、企業の所有し、管理する物的施設の利用をあらかじめ許容されている場合が少なくない。しかしながら、この許容は、特段の合意がない限り、雇用契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において、かつ定められた企業秩序に服する態度において利用するという限度にとどまるものであることは、事理に照らして当然であり、したがって、当該労働者に対し、右の範囲を超え、又は右と異なる態様ににおいてこれを利用する権限を付与するものということはできず、労働組合が当然に当該物的施設を利用すると権利を保障されていると解すべき理由はなんら存在しない」「労働組合による企業の物的施設の利用は、本来使用者との団体交渉等に基づいて行われるべきもので」あり、「利用の必要の大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員の組織活動のためにする企業の物的施設の利用を企業が受忍しなければならない義務を負うべき理由はないというべきである。したがって、労働組合又はその組合員は、使用者の所有し、管理する物的施設であって、定立された企業秩序のもとに本来の運営に供されているものを使用者の許諾を得ることをなく組合活動に利用することは許されないというべきである。」
「労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許諾しないことが、当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められる特段の事情がある場合を除いては、職場環境を適正良好に保持し、規律ある業務の運営体制を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限(施設管理権)を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動として許されるものということはできないと解すべきである。
 そこで、本件について検討するに‥‥組合が掲揚した組合旗は、昭和六一年六月一〇日ころにはその数が二〇本に及び、原告事務所の美観を著しく損ない、通行人や乗客に奇異な印象を与えるものであることが認められ、また、掲揚されている旗は、原告の従業員又は通行人、乗客の目に直ちに触れる状況であり、ひとたび掲揚されると組合による撤去は期待できず、視覚を通して常時組合活動に関する訴えを行う効果がもたらされ、原告は‥‥タクシー業者であり、経営状態が‥‥赤字に終始していた会社で、経営改善が急務とされていたのであるから‥‥組合旗が右のような状態で掲揚されていたことは、営業上も軽視することができない問題であったというべきであり‥‥このような状況において原告が、原告事務所内の秩序を保持するため組合に対し組合旗等を掲揚することを禁止し、その旨の通告を行うことは、原告の施設管理権の範囲でやむをえない処置である‥‥‥組合に対し、幾度か組合の旗掲揚を注意または禁止する旨の注意または警告をしていたにもかかわらず、組合が依然として組合旗等の掲揚を中止しないために、やむをえず掲揚されていた組合旗等を自力で撤去し、無断で組合旗を掲揚していた組合員に対し、再発防止のための責任追及及び処分の警告を発したものであって‥‥これらの措置は、職場の秩序を維持し企業イメージの低下を防止するために必要な施設管理権の行使であって、組合が企業内組合として団結を示すために掲揚することが必要であることを十分考慮に入れても、それゆえに組合が原告の施設を使用できる当然の権利を有するものではなく、原告が組合の組合旗掲揚を受忍する義務もないというべきである。」

⑥ミツミ電機事件・東京地八王子支判平6・10・24『労働判例』674号

 

 座り込み・デモ・ビラ貼付・立看板・赤旗掲揚等を理由とする組合委員長らの懲戒解雇の効力が争われ、「掲揚した赤旗、立看板等の数は決して少なくなく、また、社屋の塔屋や、屋上に掲揚したのは、工場全体を組合が支配しているように印象づけるものであって、会社がこれらを許容すべきものということはできず、これらを許さなかったことが会社の権利濫用と認められるような特段の事由も認められない」したがって右行為は就業規則五九条条四号、一三号にいう懲戒理由に当たるものと認められる。」とした。

⑦社団法人全国社会保険協会連合会(鳴和病院)事件 東京地裁平8・3・6『労働判例』693号


 使用者による組合旗の撤去は不当労働行為にあたらないと判示した。
「‥‥本件組合旗は、縦数十センチメートル、横約一メートルで、掲揚場所も正面玄関のほぼ真上に当たる屋上であり、歩道からの鳴和病院構内に入る地点からも、また、道路を隔てた向かい側からも見通せる非常に目につきやすい位置に掲揚されたことを認めることができる。
 ところで、使用者は、施設管理権を有しているのであるから、施設の使用を制限することは、これが施設管理権の濫用と認められる特段の事情がない限り適法であって、施設の使用を制限するに必要な使用者の措置は原則として支配介入とはならないと解すべきである。
 ‥‥補助参加人は、鳴和病院との間で賃金引上げ等に係る団体交渉が行われていた昭和五七年四月一四日、四階建の鳴和病院本艦屋上に無断で組合旗一本を掲揚したため、翌一五日、鳴和病院が補助参加人に対し掲揚されている組合旗を撤去するよう文書をもって申し入れたが、補助参加人はこれに応ぜず、同月二七日、重ねて組合旗を撤去するよう申し入れるとともに撤去されない場合には鳴和病院において撤去する旨通告したうえで、翌二八日、これが撤去されていなかったため、これを撤去したというのである。このことに右認定事実を総合考慮すると、組合旗の掲揚されたのが来院者も目につきやすい場所であり、鳴和病院は、本件以前において自ら撤去に及んだことはなかったというものの、掲揚される都度補助参加人に対して撤去を申し入れており、掲揚することを容認する態度を示したことはなく、本件撤去に際しても三度にわたって撤去するように求め、三度目の申し入れには撤去されない場合には鳴和病院において撤去する旨警告しており、当時の労使の状況を見ても団体交渉が継続中であったというのであり、補助参加人において殊更組合旗を掲揚する必要性は乏しかったと認められるのに対し、鳴和病院においては組合旗を撤去させる必要性が大きかったと認めることができるのであって、施設使用を許可しないことが施設管理権の濫用と認められる特段の事情があると到底認めることができない。」

コメント

 ①桜井鉄工所事件大阪地裁判決は「施設管理権」の指導判例である国労札幌地本事件最高裁昭和54年10・30第三小法廷判決民集33巻6号647頁『労働判例』329号の判例法理を無視した判断といえる。
 ②国鉄松山電車区事件松山地裁判決は通路に掲出された組合旗を撤去した管理職に対する組合役員の暴言・暴行による懲戒解雇について、動機を組合側に有利に斟酌し、無効としたものである。その控訴審である④国鉄松山電車区事件・高松高裁判決は、国労札幌地本判決の判例法理に言及しつつも、団結権保障の観点から組合旗は団結の象徴として丁重に扱われるべき云々という労働組合寄りの見解を付け加え、原判決を是認したものだが、これは国労札幌地本最高裁判決が「利用の必要性が大きいことのゆえに‥‥‥労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない」という法益権衡論を排除していることからすれば、判例からの逸脱と問題視してよい。
 上記の三判例が労働組合側勝訴、いずれも懲戒解雇を無効とするものだが、解雇の場合は裁判所も労働組合側に有利な判断をとることが少なくないといえるかもしれない。

 ③ミツミ電機事件・東京高裁判決と⑥ミツミ電機事件・東京地裁八王子支部判決は、組合旗(赤旗)掲出等を理由とする懲戒処分を是認したものだが、それ以外の組合活動(集会、デモ、泊込み、ビラ貼付等)も含めての懲戒処分事案であり、組合旗単独の問題ではない。⑤平和第一交通事件・福岡地裁判決は、組合旗撤去と処分警告は不当労働行為に当たらず、施設管理権の行使として是認されたもの。⑦社団法人全国社会保険協会連合会(鳴和病院)事件 東京地裁は組合旗撤去は不当労働行為に当たらないとしたものだが、⑤と⑦が国労札幌地本判決を引用したうえでの妥当で常識的な判旨といえるだろう。

 ここまでの判例では、懲戒解雇事案とはいえ、赤旗掲出に好意的な判例もあったこと。⑤と⑦は組合旗だけの問題で施設管理権の行使として組合旗の撤去命令を認めているものだが、⑤は処分警告も認められているが、懲戒処分事案ではない。

 

3 光仁会・組合旗(懲戒処分)事件・長崎県労委命令平成18年6月18日http://web.churoi.go.jp/mei/m10146.html

(要旨)夏季一時金交渉中に組合が病院敷地内に組合旗を掲揚したところ、病院が、(1)組合旗の撤去を要請したり、日の丸の掲揚や横断幕の掲示、ビラ配布等を行ったこと、(2)組合旗の掲揚等を理由として、組合分会長を停職3ヶ月の懲戒処分に付したこと、(3)同懲戒処分に関して、事前に組合から申入れのあった団体交渉を拒否し、事後に開催された団体交渉において誠実に対応しなかったことが不当労働行為であるとして、争われたが、長崎県労委は、いずれも不当労働行為に当たらないとして本件申立てを棄却した。

認定した事実(抜粋)

 
 
2 本件労使紛争の経過

  平成16 年6 月4 日、組合は、2004 年度夏季一時金について本俸の3 か月分を支給すること等の要求書を提出し、団体交渉の開催を求めた。
 7 月12 日、第2 回団体交渉開催。総務部長は、夏季一時金については1.2 か月と回答した。組合は昨年並みの1.45 か月を要求したが、総務部長は、「1.2 か月以上は不可能、これ以上の回答の指示は受けていない」‥‥、答えた。組合は、昨年の支給額との差額について、分割でもいいので支給して欲しいと要請した。
 7 月20 日、第3 回団体交渉開催。組合は総務部長に対し、銀行と交渉して昨年並みの支給をするよう求めた。
 7 月22 日、第4 回団体交渉開催。病院は、昨年並みの支給要求について、銀行と交渉の結果、応じられない旨回答した。組合の書記長記長」という。)は、旗を揚げる旨発言した。
 なお、組合は同年7 月20 日開催の執行委員会で、やむを得ない場合には、組合旗掲揚などの抗議行動をとることを決定していた。
 7 月24 日、組合は、一時金回答の上乗せを求め、病院の許可を得ることなく、組合旗(旗竿の長さ3~4 メートル、旗の大きさ縦85~145 センチメートル、横135~200 センチメートル、赤字に白抜きで「団結」、「合同労組」など記載)を病院の正門の左右両側に2 本ずつ、計4 本掲揚した。
 7 月27 日、病院は組合に対して、組合旗掲揚にかかる警告をファクシミリで送信し、組合旗の撤去を、また、撤去できない場合には理由を文書で回答するよう求めた。
  同日、組合は病院の警告に対してファクシミリで回答文書を送信し、今回の病院施設への組合旗掲揚は、正当な組合活動の範囲内のもので、病院本来の業務を阻害するものではなく、当方は節度をもって夏季一時金回答への抗議を表しているとの見解を示した。
  同日、病院は、理事長名でビラ(従業員の皆様へ「夏季賞与(ボーナス)について」)を作成し、従業員に配布した。‥‥組合側は主張が通らないとみると、…赤旗さまのご登場です。」など、組合旗に関する記述もあった。
 7 月28 日、病院は、組合旗に対抗して、6 本の日の丸を組合旗付近に掲揚した。
 7 月29 日、病院は、公道に面した病棟に、横断幕(縦70 センチメートル、長さ10 メートル)一本を取り付けた。横断幕には、「夏季賞与1.20 ヵ月は不満1.45 ヵ月を支給せよ」と記載されていた。
 病院はこの横断幕を3 ないし4 日のうちに撤去し、同場所付近に、新たに横断幕を3 本と立て看板を設置した。新たに掲げられた横断幕には「夏季賞与組合側は1.45 ヵ月分を要求。病院側は1.20 ヵ月分が限界です。光仁会病院」と記載されていた。なお、日の丸と立て看板は、本件救済申立てがなされた平成16 年10 月18日までには撤去された。
 8 月5 日、病院は、組合との合意のないまま、全従業員に対して1.20か月分の夏季一時金を支給した。 これを受けて組合は、病院に対して、夏季一時金の一方的支給に抗議する文書をファクシミリで送信した。なお、この日、総務部長は、取引銀行の本店担当者から、病院の前に赤旗が立っているのを見たが、組合に経営を左右されるようであれば、支援を考えなければならない旨言い渡された。
 8 月6 日、組合は、組合旗1 本を新たに掲揚し、組合旗は合計5 本となった。同日、卒業生の就職先としての説明を受けるため病院を訪れた熊本の医療技術者養成学校の関係者は、赤旗を見て、院内見学をしないで帰っていった。
 8 月7 日、病院は、組合の8 月5 日付けの抗議文に対し、文書で回答を行った。この文書で病院は、夏季一時金を支給したことについて、多くの従業員が支払いができずに困り早急な支給を希望していたことを示すとともに、組合旗の掲揚を止めるよう組合へ強く警告した。病院では、例年7 月下旬には、夏季一時金が支給されていた。
 8 月19 日、病院が解約予告していた労働協約解約についての第1 回団体交渉が開催され、組合旗掲揚及び夏季一時金問題についても協議が行われた。席上、病院は組合へ、組合旗の撤去を要求した。その後行われた2 回の団体交渉でも、病院は組合旗の撤去を求めた。
交渉には、病院の顧問弁護士と、病院から依頼を受けた相談役3 名も参加し、労使間の正常化に向けた交渉を続けることが確認された。
なお、病院は、従来の協定事項を整理するためとして、同年6 月9 日付けで「労働協約解約予告書」を組合へ送付していた。
 9 月8 日、第2 回団体交渉開催。組合は、組合旗を一たん降ろしてもいいので、冬の一時金において考慮してもらいたい旨の要望を行った。
 9 月18 日、病院は横断幕を撤去した。
 9 月24 日、第3 回団体交渉開催。病院の顧問弁護士は「組合旗の問題も含め、今後は法的手続きの中で解決したい」との意向を示した。
 9 月28 日、病院は組合に対し、組合旗撤去の最終要求と題する文書をファクシミリで送信し、「組合旗掲揚は、病院の施設管理権を侵害するものとして違法なものであり、9 月29 日午後2 時までに組合旗を撤去しない場合は、法的手段を行使する」旨通告した。
 9 月30 日、病院の顧問弁護士は、 執行委員長に電話し、「理事長の翻意の可能性はない。今後は、法的手続きに則って解決を図る」旨伝えた。また、この日、病院のY2 事務局長は、長崎市保健所からの要請にもとづき出頭し、旗が立ち労使紛争が続いていることについて説明を求められた。
 10 月7 日、病院は分会長に対し、組合旗を許可無く掲揚したこと、撤去要求にも応じなかったことなどに関し、就業規則第95 条(3)、(7)、(10)、(12)、(14)号により処分するに先立ち、弁明の機会を与える旨の求弁明書をなお、病院の就業規則第95 条の規定は、つぎのとおりである(該当部分抜粋)。
就業規則第95 条
職員が次の各号の一に該当するときは譴責・減給・出勤停止・降格または停職処分をする。ただし、2 種類を併せ行うことができる。
(3) 職場の秩序・規律または風紀を乱す行為があったとき
(7) 病院の許可なく病院の施設を業務以外の目的に使用したとき
(10) 業務上の指示または命令に対し、正当な理由なく従わなかったとき
(12) 病院の名誉または信用を傷つける行為があったとき
(14) 病院または所属長の許可を受けなければならない事項について、これを受けないで行ったとき
 10 月8 日、病院は、長崎地方裁判所に組合旗の撤去を求めて仮処分の申立てを行った。
 10 月12 日、組合は、病院の求弁明書に対し、文書により、「弁明の必要性を認めない。今回の組合旗掲揚は、合同労組として夏季一時金交渉を巡る労使攻防の中で決断し、掲揚したものであり、まさに労使間の問題であって、X1 個人の問題ではない」旨回答し、団体交渉の開催を求めた。
 10 月16 日、病院は、組合の求弁明書に対する回答に対し、文書により、「懲戒処分は個別的労働関係の問題であり、貴組合と当法人との間の団体的労働関係とは全く別の問題である。X1 に対する懲戒処分を検討・実行する」旨回答するとともに、団体交渉開催については、懲戒処分を行った後、組合からの申入れがあれば応じる旨回答した。
 10 月18 日、組合は当委員会へ本件救済申立てを行った。
 10 月22 日、病院は、X1 に対し、懲戒処分通知書を内容証明郵便により送付した。処分内容は、就業規則第94 条、第95 条に基づく3 か月の停職処分(その間の賃金を支給しない)で、出勤停止期間中は病院敷地内への立ち入りを禁止するというものであった。
就業規則第94 条の規定は、つぎのとおりである(抜粋)。
就業規則第94 条
懲戒の種類は次の通りとする。
(5) 停職 始末書をとり、6 ヶ月以内の期間を定めて停職を命じ、その期間中の賃金の一部または全部を支給しない。
 10 月24 日、X1 分会長は、書記長とともに、組合員への説明のための病院敷地内への立ち入りを求めたが、病院はこれを認めなかった。
 10 月25 日、病院に勤務する医師6 名が理事長に対し、組合旗の撤去を求める請願書を連名で提出した。
 10 月27 日、病院は、組合からの文書に対し、病院の土地・建物については、病院が所有権及び施設管理権を有しており、X1 については、いかなる資格・立場にいても、病院敷地内への一切の立ち入りを認めない旨の回答を、ファクシミリにより送信した。なお、この回答において、組合が申し入れていた懲戒処分にかかる団体交渉の日時について、11 月2 日とする提案がなされた。
 10 月28 日、組合は、11 月2 日の団交開催で了承する旨回答したが、後日、病院との協議で、11 月11 日に変更された。
 11 月9 日、組合は組合旗を撤去した。組合旗が撤去されたことを受けて、その後病院は、仮処分の申立てを取り下げた。
 11 月11 日、懲戒処分問題にかかる団体交渉開催。交渉には理事長も出席し、病院の経営状況や組合旗掲揚によるダメージ、分会長の処分理由などについて説明を行った。
組合は、組合旗を撤去したので、懲戒処分を撤回するよう求めたが、病院は撤回しない旨答えた。
平成17 年1 月22 日、X1 分会長就労開始。

当事者の主張及び当委員会の判断(一部略)

1 懲戒処分と不利益取扱いについて

(1) 組合は、病院が、組合が組合旗を掲揚したことを理由にX1 分会長に対して懲戒処分を行ったことが労働組合法第7 条第1 号の不利益取扱いであると主張する。この不利益取扱いの不当労働行為は、労働組合の正当な行為をしたことの故をもって、組合員に不利益な取扱いがなされた場合に成立するので、当委員会は、まず、組合が一時金交渉中に病院敷地内に組合旗を掲揚したことが、正当な組合活動として認められるか否かについて、判断する。
(2) 本件組合旗は、病院の許可を得ることなく掲揚されたことが認められる。そこで、病院の施設管理権との関係が問題となる。原則として、労働組合による企業施設の利用は、使用者の許諾を得るか、あるいは使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものであり、これらの合意や許諾がない場合は、組合活動としてやむをえない必要性があり、かつ使用者の業務遂行に実質的支障を及ぼさないと認められるときに限り、正当な活動と認められるべきものと考える。そこで、まず、本件組合旗掲揚が、組合活動としてやむをえない必要性があったかについて、以下に検討する。
(3) 本件組合旗は、一時金の交渉中に掲揚されたものである。
一時金交渉において、病院は、組合に対し‥‥‥病院の経営状況や資金繰りの状況について説明し、夏季一時金は1.2 か月分が限度であることを伝えている。これに対し組合が、昨年並みの1.45 か月分を主張して平行線をたどる中、組合は、回答の上乗せを要求するために、病院の正門左右に組合旗を掲揚した。組合が組合旗を掲揚したのは、単に組合員の意識高揚を図るというにとどまらず、病院に打撃を与えることで自らの要求を実現させるための手段としたことが窺える。
審問において分会長は、「組合としては、赤旗を立てるのは、病院にとってかなりダメージになるからやろうという認識があったんじゃないですか」と問われ、「それもあります。」と答え、また、9 月8 日の団体交渉に関して、分会長は「組合旗を一旦おろしてもいいから、冬の一時金に考慮してくれということを、こっちは頼みました。」と証言しているのである。
(4) いうまでもなく団体交渉は、双方が協議を尽くして合意点を探るものであり、その結果合意が達成できなかったとしても、組合がとり得る手段は、交渉を打ち切り争議行為によって使用者の譲歩を引き出すことに限られるものと考える。
本件において組合は、病院が、経営状況が厳しい中、病院の存続を図るため前理事長の破産管財人から土地・建物を買い取ろうとしていたことを知りながら、団体交渉のさなかに、自らの要求を貫徹する手段として、組合旗を掲揚したのであり、仮に交渉が平行線を辿り行き詰まりつつあったとしても、本件組合旗の掲揚に、組合活動としてやむを得ない必要性を認めることはできない。
したがって、使用者の業務遂行上の支障について判断するまでもなく、これをもって正当な組合活動と認めることはできない。
(5) 労働組合法第7 条第1 号の不当労働行為は、労働組合の正当な行為をしたことの故をもって、不利益な取扱いがなされた場合に成立すること前述のとおりであり、上記のとおり、本件組合旗の掲揚は正当な組合活動とは認められないのであるから、病院のX1 に対する懲戒処分は、不利益取扱いの問題とはなり得ず、したがって不当労働行為と認めることはできない。

2 懲戒処分と団体交渉について

(1) 組合は、本件懲戒処分を行うに当たって、病院が、事前に団体交渉に応じなかったこと、及び懲戒処分後の団体交渉が誠実に行われなかったとして、労働組合法第7 条第2 号の団体交渉拒否の不当労働行為であると主張するので、当委員会は次のとおり判断する。
(2) まず、懲戒処分前に病院が団体交渉に応じなかったことについてであるが、一般に、組合員の懲戒に関しては、懲戒の理由、要件などの基準や、処分に当たって組合との協議あるいは組合の同意を要するか否かなどの手続については、労働条件等に関する事項として、組合が団体交渉を申し入れれば、使用者はこれに応ずべきものと考える。一方、特定の組合員に対する個別、具体的な懲戒処分については、事前協議を行うとの労使協定などがある場合をのぞき、使用者は事前に団体交渉を行わなければならないものではないと考える。本件においては、組合と病院の間に、懲戒処分にかかる事前協議を定める労使協定の存在は認められないから、病院が処分前に団体交渉に応じなければならないものではない。
(3) 次に、処分後に開催された団体交渉についてであるが、組合は、理事長は、労使間の交渉による自主的な解決を図ろうとしなかった旨主張する。懲戒処分を議題とする処分後の団体交渉においては、違反事実や処分の必要性などについて説明等を行うことが使用者に求められるところ、本件団体交渉において、病院は、経営状況や組合旗掲揚によるダメージ、分会長の処分理由などについて説明を行っていることが認められる。また、病院は、組合からの処分撤回の要求に応じていないが、交渉において、処分の撤回や軽減についての合意が必須となるものではない。したがって、処分後の団体交渉が不誠実であるとまでは言えない。
(4) 以上であるから、団体交渉についての病院の対応は、労働組合法第7 条第2号に規定する不当労働行為には該当しないものと判断する。

3 使用者の言動と支配介入について

(1) 組合は、組合による組合旗掲揚期間中に病院が行った行為が、組合弾圧、組合への介入に当たると主張するので、当委員会として、次のとおり判断する。
(2) 病院が、組合による組合旗掲揚後、組合へ組合旗の撤去を要求したこと、また病院ビラの配布、日の丸の掲揚、横断幕の掲示及び立看板の設置を行ったこと、さらに分会長を懲戒処分したことは、認定のとおりである。
(3) 病院は、病院ビラの配布、横断幕の掲示などは、本件労使紛争の経緯や、病院としての主張を、従業員などに対し、経営者として説明し、周知させるために行ったものである旨主張する。横断幕の掲示、日の丸の掲揚、立看板の設置等の行為は、紛争の原因がどう
であれ、良好な医療・療養環境にふさわしくないことを病院自らが行うことにほかならない。病院は、一方では組合に組合旗の撤去を求めておきながら、自らは同様の結果をもたらしかねないことをするものであり、これらの行為に疑問がないわけではない。しかしながら、厳しい環境にあった病院の経営状況を知りながら、組合は、組合旗の掲揚という挙にでたわけであるから、そこに至る経緯や事情などについて、病院として周知を図ろうとしたことは、その想いの点について言えば、必ずしも非難されるものでもないであろう。
(4) また、前記‥‥で判断したとおり、本件組合旗の掲揚は正当な組合活動とは認められず、X1 に対する懲戒処分については相当の理由があるのであるから、病院がなした組合旗の撤去要求及び分会長の懲戒処分について、支配介入の不当労働行為を認めることはできない。
(5) さらに、組合は、審査の過程では、「組合旗の掲揚は労働組合の正当な組合活動であって、その間になした被申立人の対応が、組合活動に対する不当な弾圧・介入・団交拒否であり不当労働行為そのものである」と主張しただけで、そのほか労働組合法第7 条第3 号に規定する支配介入の不当労働行為であるとのより具体的な主張及び疎明を行わなかった。よってこれらを総合的に勘案したとき、本件における病院の行為は労働組合法第7 条第3 号に規定する不当労働行為であるとは認め難い。

4 全国一般労組長崎地本・支部(医療法人光仁会・組合旗)(損害賠償確認請求等)事件・長崎地裁平18.11.16判決『労働判例』932号

(要旨)平成16年、長崎市にある精神科専門の医療法人光仁会病院との間で夏期賞与支給をめぐって4回の団体交渉が行われたが妥結に至らなかったことから、分会長及組合員らは、抗議行動として、赤地に白抜き文字で「団結」「全国一般」「長崎地本」などと記された組合旗を病院正門の左右両側に各2本、公道に面した位置に1本、計5本を設置した。これに対して病院は再三にわたり撤去を求めたが組合は正当な組合活動であるして応じず、約3ヶ月半にわたり設置しつづけたために、病院は、組合旗設置行為が施設管理権及び所有権を侵害する違法行為として分会長に対して停職3ヶ月の懲戒処分を科し、上部団体である組合本部・支部・分会長に対して連帯して不法行為に基づく損害賠償(602万余り)を支払うよう求めた。
 本件は3つの事件からなる。甲事件は、原告病院が全国一般労働組合長崎地本に対してなした損害賠償請求、乙事件は分会長の懲戒処分が無効であることを前提として、原告に対してなした賃金請求等、組合支部・分会長が原告に対し懲戒処分の慰謝および団結権侵害に対する慰謝としての損害賠償請求、丙事件は原告が組合支部・分会長に対する損害賠償請求で、丙事件を本体として甲・乙事件が併合審理されたものである。
 判決は、組合旗設置行為の違法性の判断の有無の判断については冒頭で国労札幌地本ビラ貼り事件・最高裁昭和54年10・30第三小法廷判決民集33巻6号647頁『労働判例』329を引用し使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらのものに対しその利用を許さないことが、当該物的施設につき使用者の有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、使用者の施設管理権を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動として許容されない、と述べ、本件組合旗が「特段の事情」に該当する事情がある否かを争点として検討し、本件組合旗がいずれも、一般通行者や病院に出入りする患者や家族に容易に目に入る状態であったほか、組合旗の大きさ、色彩、文字等に照らし、軽視することのできない信用毀損の損害を被ったこと、組合はあえて目立つ場所に掲揚して病院にダメージを与えたとして正当な組合活動とはいえないと判断され、組合本部・支部・分会長に272万5千円のの損害賠償請求を命じている。

 判決(抜粋)

2 本件組合旗設置行為の違法性の有無について

 (1)一般に、企業は、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保し得るようにその物的施設を管理利用する権限として、いわゆる施設管理権を有するので、その構成員に対してこれに服することを求めるべく、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則ををもって定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等を必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができる。そして労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、使用者の施設管理権を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動として許容されないと解される(以上につき、最判昭和54年10月30日民集33巻6号647頁)。
(2)原告光仁会は、‥‥前記(1)の意味での施設管理権を有していたものと認められるから、本件組合旗設置行為の違法性の有無を判断するに当たっても‥‥前記(1)の「特段の事情」に該当する事情が認められるか否かが問題になる。‥‥
ア ‥‥本件組合旗設置行為は、約3ヶ月半も継続したものであり、しかも‥‥4本の組合旗は公道に面した場所に掲揚され、残り1本の組合旗も正門を入ってすぐの場所に掲揚されていて、いずれの組合旗も一般の通行者や病院に出入りする患者・家族等の目に容易に入る状態であったほか、組合旗の大きさ、色彩、記載された文字等に照らすと、これらを見る者の視覚を通じて、原告光仁会に対し組合活動を展開している旨の訴えかけを行う効果を十分に有していたものと認められる。そのため‥‥原告光仁会は、本件組合旗設置行為により軽視することのできない信用毀損の損害を被ったのであって、そのような事態に陥ることを予想し又は現に陥っていたからこそ、再三にわたり被告組合支部に対し組合旗の撤去を求めたものとみられる。
イ そうすると、被告組合支部は、病院敷地内で本件組合旗設置行為に及ぶ権限を原告光仁会からあらかじめ付与されていたものとはいえず(なお訴外Gは過去においても原告光仁会が組合旗掲揚を容認したことはないと供述している(〈人証略〉)、しかも前記アのような事情を考慮すれば,原告光仁会が組合旗設置行為を許さないこととしても、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保する、という原告光仁会の企業秩序維持の観点からみてやむを得ないところであめと考えられ、本件組合旗設置行為を許容しないことをもって‥‥権利の濫用であるとすることはできない。
ウ しかも、被告組合支部は,組合旗がかなり目立ち、患者等の目に触れかねないこと。組合旗掲揚により原告光仁会が困っていること等を認識しながら、目立たない場所に組合旗を掲揚することをまったく考えておらず、むしろ、あえて目立つ場所に組合旗を掲揚して原告光仁会にダメージを与え、平成16年度夏季賞与に係る原告光仁会の回答に強く抗議することしか考えていなかったのであり(〈証拠・人証略〉)、本件組合旗設置行為が対外的に及ぼす影響につき配慮に欠いていたというほかない。
エ また、原告光仁会は病院施設内に組合掲示板を提供しており(〈人証略〉)、その施設管理権に基づき病院施設内での組合活動を一切許諾しないという姿勢を採っていない。
オ 以上のアないしエを総合すれば、本件で前記(1)の「特段の事情」に該当する事情を認めることはできず、本件組合旗設置行為は、原告光仁会の施設管理権を侵害する違法なものであり、正当な組合活動であるということはできない。
 そして、被告組合支部は‥‥執行委員会の決定に基づき、違法な本件組合旗設置行為に及んだのであるから、民法709条による不法行為責任を負うものである。また、被告丁原は、違法南無本件区を実際に実行した主体の1人であり、被告組合支部の決定に従ったという側面があったにせよ、その個人責任が否定されることにはならず、被告組合支部と同様に、民法709条による不法行為責任を負うものである。
 これに対し、被告組合支部及び被告丁原は、①従前の経緯に照らし、原告光仁会が平成16年夏季賞与につき「1.45ヶ月分」を下回る回答を行うとは思っていなかった。②平成16年度夏季賞与を巡る問題が生じる前に、原告光仁会が師長降格問題で被告組合員に対し敵対的な態度を採っていた。③被告組合支部は、平成16年度夏季賞与につき柔軟な対応で交渉に臨んでいたのであり、紛争の長期化は、原告光仁会代表者の早期自主解決の放棄にあるなどと主張しているが、これらは、前記(2)オの判断を左右するものとはいえない。
 確かに‥‥原告光仁会は、平成16年度夏季賞与につき厳しい姿勢で臨んでおり、被告組合支部としては、1.45ヶ月分の支給という自らの要求を通すために、本件組合旗設置行為のような強硬手段に出る必要性を感じていたのであろうが、他方で、必要性があるから病院施設の利用権が生じるという理論はなく前記(1)の施設管理権の性質・内容に照らすと、原告光仁会の許諾の範囲を超えて病院・施設を利用した本件組合旗設置行為の違法性を否定ことはできない。‥‥(中略)‥‥果たして本件組合旗設置行為に及ぶべき必要性があったかについても疑問を禁じ得ない。‥‥(後略)

 
3 被告組合本部の責任について

 被告組合本部は本件組合旗設置行為に全く関与してないと主張しないと主張して、原告光仁会の請求を争っている。
 しかしながら、本件組合旗設置行為の端緒となっていた夏季賞与をめぐる団体交渉の申入れは‥‥平成16年6月4日になされているが、その申入れ文書については、被告組合支部の執行委員長だけでなく、「全国一般長崎地方本部執行委員長乙山次郎」も作成名義人となっており(〈証拠略〉)‥‥作成名義人となることを承知していた(〈人証略〉)。また、被告丁腹らが掲揚した組合旗の一部には、‥‥被告組合本部の名称が明確に記載されたものがある。‥‥被告組合支部から被告組合本部の名称の入った組合旗が使用していたことの報告を受けていた(〈人証略〉)。‥‥被告組合本部は、その活動の一翼を担う被告組合支部を指導できる立場にあったと認められるが‥‥本件組合旗設置の中止を働きかけることはなく、再三にわたり組合旗の撤去を求めた原告光仁会の要請を放置しつづけていたものである。
 以上によれば、本件組合旗設置行為を主体的に立案し実行したのは被告組合支部であったとしていも、上部団体である被告組合支部もこれに加担したものと評価することができ、民法709条、719条による損害賠償責任を免れないというべきである。

 4 本件組合旗設置行為における原告光仁会の損害について

(1)仮処分弁護士費用について
‥‥認定した本件事実関係によれば、原告光仁会の再三にわたる組合旗撤去の要求にもかかわらず、被告らが任意の撤去を拒否し、本件組合旗設置行為を継続しているが、そのような状況下では、原告光仁会は、本件組合旗設置行為による損害防止を防止するためにも、速やかに法的手段を採らざるを得なかったものと認められる。そして、速やかに組合旗撤去を実現する有力な法的手段としては民事仮処分が考えられるが、簡易・迅速を旨とする民事仮処分の性質上、その手続を進めるに当たっては法律専門家である弁護士の助力を得る必要性が非常に高い。そうすると、違法な設置物である組合旗を除去するのに要する原状回復費用として‥‥仮処分申立に要した弁護士費用52万5000円(〈証拠略〉)の損害が認められ、それにつき被告ら賠償責任を認めるのが相当である。
(2)信用毀損による損害
 ア‥‥認定した本件事実関係‥‥によれば、①組合旗掲揚の状況を見た取引銀行の担当者が、原告光仁会の内部状況が安定していないことを懸念し、今後の融資等の支援に消極的になることを示唆した。②卒業生の就職先としての説明を受けるため光仁会病院を訪れた熊本県所在の医療技術者養成学校の関係者が、組合旗を見て、院内見学をせず帰ってしまったこと。③長崎保健所が、原告光仁会に対し、組合旗が立ち労使紛争が続いていることにつき説明を求め‥‥行政指導もあり得る旨告げたこと、④原告光仁会に勤務する医師6名が、原告光仁会代表者に対し、異常感と不快感を生じさせる組合旗の撤去を求める請願書を連名で提出したことが認められ‥‥対外的に与えた悪影響の大きさがうかがうことができる。
 そのほかにも、近隣住民らが、内部的に混乱している原告光仁会では良質の医療を提供できないとして、原告光仁会に対し、その現状を批判する投書を複数行ったことや、他院から紹介を受けてきた患者や家族が、院内の事前見学のために光仁会病院を訪れた際、掲揚された組合旗を見て驚き、即座に入院を断ったことが認められること(〈証拠・人証略〉)も併せ考慮すると、原告光仁会が、病院施設に掲揚された組合旗を目にした医療関係者、患者及びその家族、近隣住民、金融機関、行政機関等から、その信用を害されたのは明らかである。原告光仁会は精神に障害を負った患者の治療を行うための精神科の病院を経営しているため、その静謐な環境と相反する本件組合旗設置行為に対する一般の評価も厳しくなったものと考えられる。
 そして、以上のような信用毀損が一因となって、平成16年7月から10月ころまでは約487名いた原告光仁会の入院患者が、その後は減少を続け、平成16年12月末までは20名減少して約467名となった可能性も否定できない(〈証拠略〉)。また原告光仁会の勤務医らは、労使対立で荒れた職場であるため、治療に専念できず、不愉快な思いをしていることから、原告光仁会は、高収入でもって医師を採用せざるを得ず、不必要な出費を強いられる状況も生じている(〈証拠・人証略〉)。
 イ 他方で、平成16年10月以降の原告光仁会の入院患者が減少していることや‥‥高収入でもってしか医師を採用せざるを得ないことについては、全て本件組合旗設置行為に帰因するものとまでは認められない(〈証拠・人証略〉)‥‥‥‥。
 ウ そうすると、本件組合設置行為による信用毀損の損害は、信用が毀損されたという抽象的レベルで算定するほかなく‥‥‥‥200万程度の限度で認めるのが相当である。
(3)本件弁護士費用
 ‥‥諸般の事情を考慮すると、20万円を認めるのが相当である。
(4)以上により、本件組合旗設置行為による原告光仁会の損害額は272万5000円となる。

5 本件懲戒処分の違法性

(1)使用者の懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるところ、就業規則所定の懲戒事由に該当する場合であっても、当該具体的事情の下において、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、権利の濫用として無効になると解するのが相当である(最判昭和50年4月25日民集29巻4号456頁[引用者註-日本食塩製造事件]、最判昭和58年9月16日労判415号[引用者註-ダイハツ工業事件](2)そこで検討するに、本件組合旗設置行為は、前記2のとおり、正当な組合活動とはいえず、違法性を有するものであるところめ、被告丁原が原告光仁会の許可を受けずに本件組合旗設置行為に及んだことは、‥‥光仁会の就業規則95条3号、7号、10号、12号に該当するものと認められる。
 そして、被告丁原による本件組合旗設置行為は、前記2のとおり、その違法性について疑いがなく、また前記4のとおり、原告光仁会としては軽視できない損害を与えたものであることのほか、原告光仁会としては、懲戒解雇・諭旨解雇‥‥や本件懲戒処分より長い停職期間という重い処分も考えられたのに、理事会における慎重審議の結果、被告丁原に対し十分な配慮をなし、今回に限って処分を減じて、停職期間も3ヶ月にとどめたという経緯があったこと(〈証拠・人証略〉)に照らすと、懲戒処分の内容として、3ヶ月の停職処分が重すぎるということはできない。
 また‥‥組合旗が掲揚された段階でいきなり懲戒処分を行ったものではなく、再三にわたり本件組合旗設置行為が違法である旨警告して、組合旗を撤去するよう求めたばかりか‥‥弁明の機会を与えるため「求弁明書」を被告丁原に対し交付したが、被告丁原がその弁明の機会を自放棄したことが認められるから、懲戒処分の適正さにも欠いていない。
 そうすると、前記(1)の見地に立っても、本件懲戒処分は、無効であると解されず、その適法性を認めるのが相当である。

 
 5 光仁会・組合旗(懲戒処分)事件・中労委命令平成19年9月19日http://web.churoi.go.jp/mei/m10613.html

(要旨)夏季一時金交渉中に法人の許可なく病院施設に組合旗を設置し、法人からの撤去要求に応じることなく組合旗の設置を続け、法人に損害を与えたことを理由に、就業規則に基づき懲戒処分に付したこと(2)懲戒処分に関して10月12日付けで組合から申入れのあった団体交渉に応じなかったこと。11月11日、法人と組合との間で、上記懲戒処分に関する団体交渉が行われたが、組合は、本件事後団交における対応が不誠実たあでったこと(3)組合旗設置に対し、撤去するよう組合に要求し、理事長名のビラを配布し、日の丸、横断幕及び立看板を設置したことがそれぞれ不当労働行為に当たるとして、組合が、長崎県労委に救済を申し立てた事件である。長崎県労委は、組合の申立てに係る法人の行為はいずれも不当労働行為に当たらないとして、救済申立てを棄却することを決定した。これを不服として、組合は、再審査を申し立てた。
 中労委は、下記の理由で初審命令令主文を次のとおり改めた。
(1)本件懲戒処分がなかったものとしての取扱い及びバック・ペイ
(2)文書手交(本件事前団交不応諾に関して)
(3)その余の本件救済申立ての棄却

(判断の要旨)
 
1 本件懲戒処分について
 組合が、前件団交拒否事件に続く法人の不誠実な交渉態度に抗議し、事態の打開を図らなければならないような状況にあったとはいえ、16年度夏季一時金に関する法人の増額回答を求めるため、法人の許可なく本件組合旗を病院施設に設置し、法人の撤去要求に応じず3か月に及ぶ長期間にわたって本件組合旗の設置を続け、法人の対外的な信用低下の一因をなしたことからすると、本件組合旗の設置は、組合活動として行き過ぎており、その正当性の範囲を越えているといわざるを得ない。
 しかしながら、
(1) 法人は、本件組合旗の設置に対し、理事長名のビラを作成し、従業員に配布するとともに、53日間にわたり、本件組合旗付近に日の丸6本を掲揚し、公道に面した病棟に横断幕(縦70センチメートル・横10メートル)3枚を設置するなどした。上記ビラ等に、「赤旗さまをもう少し高く掲げ、へんぽんと翻させた方が、道往く人々に感銘を与えたでしょうに」などと組合をやゆし、挑発する内容の記載が含まれていることや、横断幕の大きさ・設置期間等を考え合わせると、法人の上記措置は、労使関係上著しく不適切な面があり、かえって混乱状態に拍車をかけ、本件紛争をいたずらに長期化させたものと評価せざるを得ない。
(2) 下記2のとおり、法人が本件懲戒処分を実施するに当たり、組合から申入れのあった本件事前団交に応じなかったことに正当な理由は認めらないことからすると、本件事前団交に応じることなく本件懲戒処分を実施したのは、組合を軽視したものといわざるを得ない。
(3) 本件懲戒処分は、停職3か月(その間、賃金不支給。また、病院敷地内へのA分会長の組合活動としての立入りも許さない。)というものであったが、理事長が、「理事会で、108日の旗揚げだから3か月の勤務停止でいいんじゃないかということになった。」などと供述しているとおり、処分内容の決定基準があいまいである。また、法人の上記(1)の措置にも業務運営上の支障発生の一因があるにもかかわらず、本件懲戒処分は、経済面・職業生活面及び組合活動面において、不利益性が相当程度に強いものである。
さらに、法人は、過去の労使紛争において、組合が本件組合旗の設置と同じ程度長期(73日間等)にわたり組合旗等を設置したことに対し、何ら処分をしなかったこと等の事情を考慮すると、本件懲戒処分の内容は、著しく過重、不合理であり、かつ相当でない。
(4) 労働協約の一斉解約通告、前件団交拒否事件、本件における6名ものガードマンの配置(病院施設への分会長の立入りの看視)等の事実関係からすると、組合に対する法人の嫌悪を十分推認することができる。
 以上総合勘案すると、本件懲戒処分は、法人が、組合活動の正当性の範囲を越えた本件組合旗設置等の行動を奇貨として、中心となって活動していた分会長に対し、著しく過重で相当でない処分により打撃を与えその活動を封じ込めることによって、組合の運営に支配介入したものと評価するのが相当であり、かかる行為は、労働組合法第7条第3号に該当する。

2 本件事前団交不応諾について
 法人における懲戒処分には懲戒解雇等を含み、基本的労働条件に強くかかわるものであるところ、処分の基準も不明確で、本件のような処分の先例もなかったのであるから、懲戒処分に関して事前協議を行う旨の労使協定が存在しなくても、組合からの本件事前団交申入れに、法人は応じなければならず、他に、本件事前団交不応諾を正当化する理由も認められないから、本件事前団交不応諾は労働組合法第7条第2号に該当する(本件事後団交における法人の対応が不誠実であるとは認め難い)。

3 本件組合旗撤去要求、ビラ配布及び日の丸・横断幕・立看板設置について
 ビラ配布及び日の丸・横断幕・立看板設置は、法人が本件組合旗の設置に対抗する措置として行ったものであり、これらは良好な医療・療養環境を阻害しかねないものであって、その記載内容にも労使関係上適切さに欠けていた面もあるが、本件組合旗の設置は組合活動としての正当性の範囲を越えていたこと等を考慮すると、ビラ配布等をもって組合の運営に支配介入したとまでいうことはできない。

 6 全国一般労組長崎地本・支部(医療法人光仁会・組合旗)(損害賠償確認請求等)事件・福岡高裁平20・6・25判決
 
 一部認容(原判決一部変更)一部棄却
 
 
 (2010年6月15日号の『労働判例』で掲載予定とされるが、その後掲載されたか確認していない。)

 
 
 7 国・中労委(医療法人光仁会)事件(救済命令取消請求)・東京地裁平21・2.18判決『労働判例』981http://web.churoi.go.jp/han/h10219.html

  
(要旨
)本件は、医療法人光仁会が、①全国一般労組長崎地本・全国一般労組長崎地本長崎地区合同支部の下部組織である光仁会病院分会長に対し、同人が平成16年度夏期一時金交渉中に、医療法人光仁会の許可なく病院施設に組合旗を設置したことを理由として、停職3か月の懲戒処分に付したこと、②同懲戒処分に関する団体交渉に応じなかったこと等が不当労働行為であるとして、申立てがあった事件である。 初審長崎県労委は、本件申立てを棄却し、中労委は、初審命令を変更して、懲戒処分がなかったものとして取扱い、バックペイ及び文書手交(上記②に関して)を命じ、組合のその余の再審査申立てを棄却した。
 医療法人光仁会は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、法人の請求を棄却した。
 不当労働行為救済命令取消請求訴訟であるが、これとは別の損害賠償請求訴訟である全国一般労組長崎地本・支部(医療法人光仁会・組合旗)(損害賠償確認請求等)事件・長崎地裁 平18.11.16判決『労働判例』932号においては本件懲戒処分を有効とし、病院なが軽視することのできない信用毀損の損害を被ったこと、組合はあえて目立つ場所に組合旗を掲揚して病院にダメージを与えたとして正当な組合活動とはいえないと判断され、組合本部・支部・分会長に272万5千円の損害賠償請求を命じているが、本件東京地裁判決は異なる判断をとっており、本件懲戒処分は、法人が、組合旗設置等の行動を奇貨として、中心となって活動していた分会長に対し、著しく過重で相当でない処分により打撃を与えその活動を封じ込めることによって、組合の運営に支配介入したものと評価するのが相当であるとして不当労働行為に当たるとする中労委の救済命令を支持したのである。

 
 
 判決(抜粋)

(1)争点1(本件懲戒処分が労組法7条3号の不当労働行為に当たるか)

 
ア 本件組合旗設置の組合活動としての正当性について
 
 使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、施設の利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権利を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動には当たらないというべきである。したがって、本件組合旗設置につき、懲戒処分を行うことの当否は、原告がその設置を許さないことが権利の濫用と認められるような特段の事情があるか否かにかかることになる。しかして、後記イ(イ)のような本件組合旗設置による原告の業務への影響に照らせば、原告が組合旗設置を許さないことは、原告の有する施設管理権の行使として正当なものであって、権利の濫用と認められるような特段の事情もなく、そのため本件組合旗設置を正当な組合活動ということはできず、原告がこれにつき懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえない。
この点、補助参加人は、組合旗設置に至る経緯に鑑みれば、本件組合旗設置は正当な組合活動であると主張する。しかしながら、本件組合旗設置に補助参加人の原告に対する抗議の趣旨が含まれていたとしても、後記イ(イ)のような本件組合旗設置による原告の業務への影響や、補助参加人において他の相当な手段方法による抗議が十分に可能であると考えられることにかんがみると、前記認定の本件組合旗設置の経緯を考慮しても、上記結論は左右されないというべきである。

イ 不当労働行為の成否について
(ア)しかしながら、使用者の懲戒権の行使といえども、これが懲戒事由との関係で均衡を失し、社会通念に照らして合理性を欠くなど裁量の範囲を超えてなされた場合には、権利の濫用となるところ、原告は、本件組合旗設置は、補助参加人が不当な動機で原告の施設管理権を侵害し、原告の業務運営に多大な悪影響を与えた局度の違法性を有する行為であり、丁原は、その実行者として責任は重く、情状も悪かったのであるから、本件懲戒処分は相当であって、懲戒権の濫用はなく、当然不当労働行為にも当たらない旨主張する。
(イ)そこで、本件懲戒処分の相当性を検討するに、本件組合旗設置は‥‥平成16 年7 月24 日に本件病院の正門左右両側に4 本、同年8 月6 日以降は、同病院の公道に面する場所に更に1 本が追加されて設置され、同年11 月8 日ころまでの約108 日間という長期間にわたり、それらが設置され続けたというものである。そして、組合旗の形態も、縦横それぞれ一、二メートル前後の大きさで、赤地に白抜きで「団結」等と記載されたものであって、一見して労働組合の旗であることが明らかであり、上記のとおり、これが本件病院前の通行人等、労使紛争とは無関係の不特定多数の人目に付く場所に公然と掲げられ、本件病院内での労使対立の存在を殊更に喧伝するような態様のものであり、実際に、前記1(4)のとおり、本件組合旗設置が原告の業務に影響を及ぼした面も否定できないのであるから、本件組合旗設置は、正当な組合活動の範囲を超えた不穩当なものといわざるを得ない。しかしながら、原告は、少なくとも補助参加人の認識し得る限りでは、補助参加人との団体交渉において、賃金ないし一時金の支払に関する態度を変遷させた上、補助参加人からの団体交渉申入れに応じないまま、一方的に組合員の降格処分を公表したばかりか、補助参加人が長崎県労委に対して降格人事に関する救済申立てを行うなど、客観的に労使対立が鮮明になっている状況において、一方的に労働協約を解約し、さらに、本件組合旗設置が始まるや、補助参加人を揶揄するようなビラを作成して配布し、組合旗に対抗する形で横断幕及び立看板を設置しており、これに対して補助参加人が反発することは、事の成り行き上いわば自然といえる面がある。補助参加人が本件組合旗設置に及び、これが長期化した一因として、上記のような原告の補助参加人に対する対応に問題があったことは否定できない。また、本件組合旗設置により、原告の業務に悪影響が生じたであろうことは否定できないものの、本件組合旗設置による弊害として前記1(4)認定の取引銀行や職員の採用先である医療技術者養成学校関係者の不審を招いた点などは、本件組合旗設置だけでなく、原告自身が設置した横断幕や立看板が相当程度寄与していることは明らかである。加えて、本件懲戒処分は、3 か月間にわたる停職を命じ、その間、賃金支払がないという相当に重い処分である。しかも、停職期間中は、組合活動等のため本件病院の敷地内に立ち入ることも許されないというものであり、組合活動に与える影響も大きいと考えられる。他方、原告においては、‥ 理事長の就任前とはいえ、過去にも補助参加人による組合旗設置が行われていたところ、それに対して懲戒処分がされた例はなく、本件懲戒処分に先立ち、原告の理事会がその事実を検討したことは窺われない。そして、原告の理事会は、本件組合旗設置期間が約3 か月(本件懲戒処分時まで91 日間)であったことから停職期間を3 か月間としたというにすぎないことは前記認定のとおりであって、停職期間の決定につき客観的に合理性を有する内容の十分な審議がなされた形跡も窺われない(原告は、理事会において、解雇を含む厳しい処分が議論されたところ、温情的処分として停職3か月の結論に至った旨主張し、原告代表者もこれに沿う供述をするが、そもそも本件組合旗設置に対する処分として解雇が議論されたことが、原告の理事会の審議内容が不合理なものであったことを示しており、これを上記のように組合旗設置期間に相当する期間の停職処分に減じたからといって相当な審議が行われたとは到底いえない)。
以上によれば、本件懲戒処分は、懲戒事由である本件組合旗設置に比して、著しく過重なものであるということができ、本件懲戒処分は、補助参加人及び補助参加人による組合活動に対する嫌悪を主たる動機として、その下部組織の分会長である丁原に対し、懲戒事由に比して過重な処分を科したものと認めるのが相当である。したがって、本件懲戒処分は労組法7 条3 号の不当労働行為に当たるものである。

(2)争点2(本件事前団体交渉拒否が労組法7 条2 号の不当労働行為に当たるか。)について

 原告は、丁原に対する懲戒処分の決定後に団体交渉に応じるとしていたのであるから、本件事前団体交渉の申入れに対する原告の対応は不当労働行為に当たらない旨主張する。しかしながら、特定の組合員に対する懲戒処分に関する事項も、労働者の労働条件その他の労働者の待遇に関する基準についての事項として義務的団交事項に該当すると解されるところ、本件においては、原告における懲戒処分の基準が必ずしも明確でなかったのであって、団体交渉の必要性が高かったことに加え、懲戒処分を行う時期について特段の期限があったというものでもないのであるから、原告において、団体交渉を経た後に懲戒処分を行うことに、何らかの不都合があったことは窺われない。したがって、懲戒処分後に団体交渉を行う旨の原告の対応は、補助参加人の本件事前団体交渉申入れに対して誠実に対応したものとはいい難く、本件事前団体交渉拒否は、労組法7 条2 号の不当労働行為に当たるものである。

(3)以上のとおり、本件懲戒処分及び団体交渉拒否はそれぞれ労組法7 条3 号及び2 号に該当する不当労働行為であり、これを認めた本件救済命令が違法であるとはいえない。

3 結論


以上の次第であり、本件救済命令が違法であるということはできず、その取消しを求める原告の本件請求はいずれも理由がない。よって、本件請求を棄却する‥‥。

7 国・中労委(医療法人光仁会)事件(救済命令取消請求)・東京高裁平21・8・19判決『労働判例』1001号http://web.churoi.go.jp/han/h10253.html


 (要旨)
 本件は、医療法人光仁会が、①全国一般労組長崎地本・全国一般労組長崎地本長崎地区合同支部の下部組織である光仁会病院分会長に対し、同人が平成16年度夏期一時金交渉中に、医療法人光仁会の許可なく病院施設に組合旗を設置したことを理由として、停職3か月の懲戒処分に付したこと、②同懲戒処分に関する団体交渉に応じなかったこと等が不当労働行為であるとして、申立てがあった事件である。 初審長崎県労委は、本件申立てを棄却し、中労委は、初審命令を変更して、懲戒処分がなかったものとして取扱い、バックペイ及び文書手交(上記②に関して)を命じ、組合のその余の再審査申立てを棄却した。
 医療法人光仁会は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、法人の請求を棄却した。このため医療法人光仁会は、同地裁判決を不服として、東京高裁に控訴したが、同高裁は、法人の控訴を棄却した。

 
 (判決)抜粋


 2 争点に対する判断

(1)本件懲戒処分が労組法7 条3 号の不当労働行為に当たるか


当裁判所も、本件組合旗設置を正当な組合活動ということはできず、控訴人がこれについて懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえないが、本件懲戒処分(停職3 か月、その間、賃金不支給、本件病院敷地内立入禁止)は、懲戒事由(本件組合旗設置)に比して著しく過重であって相当性を欠くものであり、また、前記認定の事実関係からすると、‥ 理事長に交替した後の労使関係においては控訴人の補助参加人(組合)に対する嫌悪を十分に推認できるのであるから、本件懲戒処分は、補助参加人及び補助参加人による組合活動に対する嫌悪を主たる動機として、補助参加人の下部組織の分会長である丁原に対して著しく過重なものとして科されたものと認めるのが相当であり、本件懲戒処分は労組法7 条3号の不当労働行為に当たるものと判断する。
その理由の詳細は、以下のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の「第3当裁判所の判断」の2(1)に記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決26 頁8 行目の「本件懲戒処分は、」の前に「前記認定事実によれば、控訴人は平成16 年2 月以降前件団体交渉拒否事件に係る不当労働行為を行っており、補助参加人に対し同年6 月9 日付けで‥ 前理事長時代に締結された事前協議についての労使協定等を同年9 月15 日をもって解約する旨通告し、同年7 月27 日に従業員に配布した「従業員の皆様へ夏季賞与(ボーナス)について」と題するビラに組合旗に関して組合活動を揶揄し蔑視する記載をし、同年10 月22 日に本件懲戒処分をした直後からX1 の立入りを監視し阻止するために6 名ものガードマンを雇って配置したというのであり、これらの事実関係からすると、‥ 理事長に交替した後の労使関係において、控訴人が補助参加人(組合)及び補助参加人による組合活動を嫌悪していたことが十分に推認され、」を加える。

(2)本件事前団体交渉拒否が労組法7条2号の不当労働行為に当たるか

 組合員に対する懲戒処分の基準及び手続は、労働条件その他の待遇に関する事項であり、義務的団体交渉事項に該当するところ、前記認定の事実関係からすると、本件病院敷地内に組合旗を設置したことを理由とする懲戒処分についでは、処分の基準が不明確であり、同様の処分の先例もなかったのであるから、懲戒処分に関して事前協議を行う旨の労使協定が存在しなくても、控訴人は補助参加入(組合)からの本件事前団体交渉の申入れに応じなければならない義務があり、いかなる懲戒処分をするかがまだ決定していないことや懲戒処分後に団体交渉に応じることをもって団体交渉拒否を正当化することはできないというべきである。したがって、本件事前団体交渉拒否は労組法7 条2 号に当たるものである。

 
3  結論

 以上によれば、本件懲戒処分が労組法7 条3 号の不当労働行為に、本件事前団体交渉拒否が同条2 号の不当労働行為にそれぞれ当たるとした本件救済命令が違法であるということはできず、控訴人の本件請求は理由がない。よって、控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。

 
 
 8 全国一般労組長崎地本・支部(医療法人光仁会・組合旗)事件・最高裁一小平21・12・10決定
 
  棄却・不受理

  
 9 国・中労委(医療法人光仁会)事件・最高裁一小平成22年9月2日決定http://web.churoi.go.jp/han/h10310.html
 
 (要旨)本件は、医療法人光仁会が、①全国一般労組長崎地本・全国一般労組長崎地本長崎地区合同支部の下部組織である光仁会病院分会長に対し、同人が平成16年度夏期一時金交渉中に、医療法人光仁会の許可なく病院施設に組合旗を設置したことを理由として、停職3か月の懲戒処分に付したこと、②同懲戒処分に関する団体交渉に応じなかったこと等が不当労働行為であるとして、申立てがあった事件である。 初審長崎県労委は、本件申立てを棄却し、中労委は、初審命令を変更して、懲戒処分がなかったものとして取扱い、バックペイ及び文書手交(上記②に関して)を命じ、組合のその余の再審査申立てを棄却した。
 医療法人光仁会は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、法人の請求を棄却した。これに対し、医療法人光仁会はこれを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、医療法人の請求を棄却した。 同地裁判決を不服として、医療法人光仁会が東京高裁に控訴したところ、同高裁は控訴を棄却した。本件は、同高裁判決を不服として、医療法人光仁会が最高裁に上告及び上告受理申立てを行った事件である。
 最高裁の決定は 上告について、最高裁判所に上告をすることが許されるのは、民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ、本件上告理由は、理由の不備をいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに上記各項に規定する事由に該当しないとして、中労委の救済命令を支持した。上告受理申立てについて、本件申立ての理由によれば、本件は、民訴法第318条1項により受理すべきものとは認められないとした。

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