入手資料整理86
9825 国労広島地本事件最高裁三小昭50・11・28判決『労働判例』NO.420
本件は、昭和35年初頭より36年6月に国労を脱退した組合員に対する組合費支払請求にかかわるもので、一審・二審とも一般組合費、臨時組合費のうち闘争資金、管理所闘争資金、志免カンパ、春闘資金のうち炭労カンパを除いて支払請求を認容したが、炭労資金、安保資金、政治意識昂揚資金、無給職員カンパの請求を棄却した。
組合・脱退組合員双方が上告したが、最高裁は、政治意識昂揚資金以外の組合の請求を認容し、脱退組合員らの上告を棄却したので、下級審より労働組合に有利な判決を下したといえる。
しかしながら、脱退者の附帯上告事件の判決で最高裁は、臨時組合費のうち闘争のための徴収決議は、違法な争議行為のためのものであるので違法であるという上告人の論旨を認めず、棄却したものの、公労法「違反の争議行為に対する直接の効力(争議行為の参加)については、これを組合員に強制することはできない」とし、「組合員が一市民として法律の尊重遵守の立場をとることは是認されるべきであり、多数決によって違法行為の実行を強制されるいわれはない」と判示して、公労法適用の職場三公社五現業において組合員の「争議行為に加わらない権利」を最高裁が示したことの意義がある。
地公労法11条も公労法17条と同じ条文であることから、地方公営企業についても同様のことがいえると考える。
つまり、最高裁は本件臨時組合費の闘争資金の支払請求を認容し、組合員には協力義務があるとしたが、争議行為の参加については組合は組合員に強制できないということを判示した。
組合は組合員にどの範囲で組合費の支払を請求できるかは、それ自体重要な問題であるが、私のさしあたりの関心は、公労法適用職場の争議行為実行に関する統制権否定の法理、つまり消極的団結権にあり、団体行動に参加しない被用者の権利である。英米をはじめ外国では、そのような制定法があり被用者の権利とされているが、我が国では私企業に関して消極的団結権について否定的な学説が多い。しかし、すくなくとも争議行為が禁止されている国営企業(地方公営企業についてね同様と考えて良い)は、最高裁判例において争議行為に加わらない権利を判示しているということである。
●附帯上告事件判決(抜粋)
(上告人の)論旨は要するにたとえ闘争の一部であるにせよ違法な争議行為が含まれている以上、その闘争全体を違法でないとすることはできず、そのための資金の徴収決議は公序良俗に違反するものというべきであって、その効力を認めた原判決には‥‥違法がある、と主張する。
ところで、公労法17条1項は、公共企業体の行う事業の公益性にかんがみ、公共の福祉のために、その職員及び組合の争議権の行使に対して特に制限を加えた政策的規定であって、これに違反した職員が同法一八条により解雇されることなどがあるのはともかく、禁止違反の争議行為というだけで、直ちにそれを著しく反社会性、反道徳性を帯びるものであるとすることはできない。‥‥本件闘争の態様が公序良俗に違反するものほどのものであったとは認めがたい。
それゆえ右闘争のための資金の徴収決議をもって公序良俗違反を目的とするものであるとの所論は採用できない。‥‥‥‥しかしながら労働組合において、組合のする決議がいかなる範囲で、組合員を拘束し、それに対する組合員の協力を強制できるかについては、更に検討しなければならない。思うに、労働組合の組合員は、組合がその目的を達成するために行う団体活動に参加することを予定して加入するものであり、また、これから脱退する自由も認められているのであるから、右目的に即した合理的な範囲において組合の統制に服すべきことは、当然である。したがって、労働組合の決定した活動がその目的と関連性をもつものである限り、たとえ個人的にはそれに反対の組合員であっても、原則としてはその決定に拘束され、そこで定められた活動に参加し、またその活動を妨害するような行為を避止する義務を負うとともに、右活動の経済的基礎をなす組合費を納付する義務(以下これらの義務を「協力義務」という。)を免れないというべきであるが、他方、労働組合の活動が多様化するにつれて、組合による統制の範囲も拡大し、組合員が一個の市民又は人間として有する自由や権利と矛盾衝突する場合が増大し‥‥‥‥労働組合の決定した活動が組合の目的と関連性を有するというだけで、そのことから直ちにこれに対する組合員の協力義務を無条件で肯定することは相当でなく、問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較衡量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要である。
そこで、右の見地から、公労法に違反して行われる争議行為とこれに対する組合員の協力義務関係について考察する。
まず、同法違反の争議行為に対する直接の効力(争議行為の参加)については、これを組合員に強制することはできないと解すべきである。禁止違反の争議行為の実行に対して刑罰や解雇等の不利益な法的効果が結びつけられている場合に、その不利益を受忍すべきことを強いるのが不当であることはいうまでもなく、また、右のような不利益を受ける可能性がない場合でも、法律は公共の利益のために争議行為を禁止しているのであるから、組合員が一市民として法律の尊重遵守の立場をとることは是認されるべきであり、多数決によって違法行為の実行を強制されるいわれはない。
次に、同法違反の争議行為の費用の負担については、右費用を拠出することが当然には法の禁止にふれるものではないから、その限度で協力義務を認めても、違法行為の実行そのものを強いることになるわけではないが、違法行為を目的とする費用の拠出は違法行為の実行に対する積極的な協力にほかならず、このような協力を強制することも、原則としてはやはり許されないとするべきである。もっとも、労働組合がいわゆる闘争資金を徴収するにあたり、違法な争議行為の実施をその闘争手段として掲げていても、具体的な闘争の遂行過程で実際に右争議行為をするかどうか。また、それをどの程度においてするは、労使交渉の推移等に応じて流動変転するものであるから、資金徴収決議の時点で既に違法な争議行為を実施することが確定不動のものとして企図され、これと直接結びつけられてその資金が徴収されるような場合は格別、単に将来の状況いかんによっては違法な争議行為の費用に充てられるかもしれないという程度の未必的可能性があるにとどまる場合には、その資金と違法行為の実行に積極的に協力するものであるということはできない。したがってこのような場合には、その資金の徴収決議に対する組合員の協力義務を否定すべき理由はない。
また、違法な争議行為の実施が確実に予定されている場合であっても、労働組合の闘争活動は、そのような争議行為だけに限らず多岐にわたるものであり、その闘争費用は一体として徴収されるのが通常であるから、そのうち違法な争議行為に充てられる費用を徴収の段階で具体的に確定することは、実際上ほとんど不可能である。この場合に、闘争活動のなかにいささかでも違法な争議行為が含まれていれば、常に闘争の全部につき組合員が協力義務を免れうるとすれば、違法行為に助力することを欲しない組合員の利益のみを絶対視するものであって、先に述べた比較衡量の見地からは当を得た解決とはいいがたい。組合員は基本的には多数決に服することを予定して加入するものであり‥‥闘争の一部において違法な争議行為が含まれているとしても‥‥費用負担の限度においては、その全部につき組合員の協力義務を優先させても、必ずしも著しく不当の受忍を強いるものではなく、組合員はこれを納付する義務を免れないと解するのが、相当でむある。
違法な争議行為により処分を受けた組合員に対する救援費用については‥‥一般に、かかる救援の主眼とするところはる労働組合がその組織の維持強化を図るために組合員に対して行う共済作用の一つとして、被処分者の受けている生活その他の面での不利益の回復を経済的に援助してやることにあり‥‥これを拠出することが直ちに違法な争議行為に積極的に協力するものではないというべきである。したがって、このような救済費用については、法律違反との関連性が薄いものとして‥‥その徴収決議に対する組合員の協力義務を肯定しても、特に不当とはいえない。
以上によってみるのに‥‥昭和三十六年の春闘においては、闘争指令に掲げられている半日ストが全く実施されることなく闘争が収拾されたというのである。してみると、各臨時組合費のなかに違法な争議行為実施のための費用が含まれていたとしても、上告人がこれを納付する義務を免れないことは、以上の説示で明らかであり、これと結論を同じくする原判決は、結局正当として是認することができる。‥‥
9826 動労鳥栖駅事件控訴審福岡高裁昭49・5・14第二刑事部判列『判例タイムズ』NO.311
● 動労鳥栖駅事件福岡高裁判決の意義について
スクラムを組んで急行列車の発車を阻止した国鉄職員の争議行為が、労組法一条二項により正当性ありとした原判決を破棄し、久留米事件昭和48年4月25日最高歳判決に則り、法秩序全体の見地からこの争議行為につき違法性ありと判断され、争議行為を指揮した動労中央執行委員と、動労西部地方評議会議長を威力業務妨害で懲役8月(執行猶予2年)、発車妨害の組合員を排除した鉄道公安員に暴行を加えた組合員を懲役4月(執行猶予2年)と判決した。
要所は「労法17条1項によって争議行為が禁止されている職場において
「組合としては、組合員に対して、公労法上違法とされ、しかも解雇等という民事責任を負わされるような同盟罷業に参加を強制することはできない筋合であって、組合がたとえ同盟罷業を決議しても、それは公労法上違反であり、民間企業の組合の場合のように法的拘束力をもつものではなく、組合員としては、組合の決議、指令にかかわらず同盟罷業に参加することなく就業する自由を有するのであって、これに参加を促す勧誘説得を受忍すべき義務はないのである。従って、組合の決議や本部指令に従わないで就業しようとする組合員に対し、同盟罷業に参加するよう平和的に勧誘しまたは説得することは、公労法上の評価はとも角刑法上の観点からは、ピケッティングとして相当な範囲内のものということができるが、その程度を越え実力又はこれに準ずる方法で説得拒否の自由を与えず組合委員の就業を阻止することは、他にこれを相当ならしめる特段の事由がない限り、相当な限度を越えるものとして許されないといわなければならない。そしてピケッティングが右の相当な程度を越えた場合においては、既に労働組合法一条二項にいわゆる「正当なもの」ということはできず、その行為が刑法二三四条の構成要件に該当する限り、違法性を阻却する可罰的違法性を有するといわなければならない。」と判示した部分である。
公労法適用の職場においては「組合員としては、組合の決議、指令にかかわらず同盟罷業に参加することなく就業する自由を有するのであって、これに参加を促す勧誘説得を受忍すべき義務はない」という争議行為に加わらない権利を示したてるが、このような統制権否定は、これに先立つ全逓横浜中郵事件差戻控訴審判決東京高判昭47・10・20『労働法律旬報』822号が、「争議行為に加わらない権利」を明言していた。この判決は、全逓中郵事件判決に従い、公労法17条に違反する争議行為は当然に可罰的違法ではないとし、ピケッティングにも労組法1条2項の適用があるとした点で組合に有利な判断といえるが、しかしながら、公労法17条により組合も組合員も争議行為を行ってはならない義務を負っているとし、組合員は就労の義務を負い権利を有する。したがって組合の争議決議は「民間企業の組合のように組合員に対し法的拘束力をもつものではなく、組合員はその決議に従わず就業しても、特段の事由がない限り組合の統制に対する違反ないし裏切りの問題は生じない」とし、平和的勧誘または説得を越える「実力またはこれに準ずる方法は許されない」と判示していたし、国労広島地本組合費請求事件最三小判昭和50・11・28『労働判例』240においても、公労法違反の争議行為に対する直接の効力(争議行為の参加)については、これを組合員に強制することはできないとし、「組合員が一市民として法律の尊重遵守の立場をとることは是認されるべきであり、多数決によって違法行為の実行を強制されるいわれはない」と判示していることであったから順当なものである。
上告審の動労鳥栖駅事件最三小決昭50・11・21『労働判例』カード239は、「原判決は、本件ピケッティングの違法性の判断は、基本となる争議行為の違法性の判断とは別個の問題であり、本件ピケッテイングの具体的状況その他の諸般の事情を考察して、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かが検討されなければならないとしている」ものと理解し、福岡高裁判決を支持している。
なお、この判決は、官公労働者の争議行為を原則的に刑事罰から解放しようとした全逓東京中郵事件最高裁大法廷昭41・10・26判決・刑集20巻8号と三公社五現業の争議行為の全面禁止規定を合憲とし公労法17条1項違反の争議行為について労組法1条2項は適用されないとした全逓名古屋中郵事件最高裁大法廷昭52・5・4判決刑集31巻3号の中間の時期の判例であるため、公労法禁止された争議行為について労組法1条2項は適用されるかいなかを明示していない。国労久留米駅事件最高裁大法廷判決昭48・4・25の考えかたをふえんして判決を下したものである。
●事件の概要(判決文を要約し一部言い換えている)
1 留置線での急行「玄海」号電気機関車発車阻止
鳥栖駅は鹿児島本線と長崎本線の分岐点にあり、佐世保線直通列車のほか九大本線(日田方面)の列車も乗入れており、全ての旅客列車が停車する交通の要衝である。
昭和38年当時、長崎本線から入線する上り急行列車「玄海」号(長崎発京都行-註)や急行列車「平戸」号(佐世保発大阪行)は長崎本線では蒸気機関車(以下「着機」という)を牽引車として運行していたが、鳥栖駅にて客車から切り離し、電気機関車(以下「発機」という)との連結作業が行われていた。(筆者が調べたところでは急行列車の鳥栖駅停車時間は6~9分で、したがって機関車の取り替え作業は6分以内に行われ、博多・大阪方面に発車していた。)
国鉄門司鉄道管理局は昭和38年12月10日、動労が鳥栖駅において検修合理化反対等を目的として12月13日午後7時から2時間の勤務時間内職場大会(時限ストライキ)を実施する(鳥栖駅のほか全国7箇所の拠点でも一斉に実施)情報に接しその対策を検討した結果、管理局長名をもって、門司地方本部執行委員長に対し、右集会は違法であるから中止するよう申し入れると共に、管内から26人の指導機関士を集めこれを業務命令で代替乗務員として鳥栖駅に出頭させること。鳥栖駅に現地対策本部を設置し、本部長に門司鉄道管理局運輸部長をあてること。動労組合のピケによる列車の運行妨害その他正常な運行が阻害される不測の事態に対処するため、鉄道公安職員約200名を動員することを決定した。
13日当日、鳥栖駅構内機関区事務所前広場で、門司地本をはじめ、熊本、大分、広島地本から集まった約700名の動労組合員による決起集会が開かれ、被告人動労中央執行委員で鳥栖駅の斗争責任者として派遣されたNが交渉経過を演説し、被告人動労西部地方評議会議長Bが今後の行動を指示した。
現地対策本部長は約200名の公安職員では対処しきれないことから、佐賀県警に警察官の出動を要請した。
午後6時20分組合員らは5つの行動隊に編成されそれぞれ配置についた。
第1行動隊 約120名 東出区線(車両基地などから出区するための線路)
第2行動隊 約200名 機留線(一時的に機関車を停める留置線)
第3行動隊 約100名 第1ホーム
第4行動隊 約100名 第2ホーム
第5行動隊 約100名 第3ホーム
ピケ隊員の服装は大部分がアノラックを着て、マスクやタオルで覆面をしていた。
動労門司支部執行委員長Aが指揮する第2行動隊約200名は、午後7時22分着、30分発上り急行「玄海」(長崎発京都行)の発機(電気機関車)が留置されている機留線に数列になり、発機の進路前方軌条の枕木付近(車両接触限界内)にスクラムを組んで向かい合って立ち並び、全員が労働歌を唱歌したり気勢をあげた。
現地対策本部長は、動労組合員が駅構内に立ち入ったこと。午後7時~午後9時に勤務すべき機関車乗務員が、市内某所の旅館に軟禁されていること。および「玄海」号を運転すべき機関車乗務員が当日出勤していない旨を報告を受けるや、前述26名の代替乗務員の一人であるS機関士(門司機関区所属の指導機関士だが動労組合員である)に対し、右発機を運転するよう命令し、本部長が先頭に立って、同機関士が動労組合員によって連れ去られないように、数十名の鉄道公安員に擁護させながら同機関士を誘導し「玄海」号発機に乗車させ、鉄道公安員はそのまま周辺の警備にあたった。
第1ホームからかけつけた第3行動隊約100名も第2行動隊に加わり、約300名が「玄海」号発機の進路前方軌条の枕木付近(車両接触限界内)にスクラムを組み気勢を上げた。
これに対し、当局側は現地対策本部長と鳥栖駅主席助役らが再三にわたって退去要求を行い、もし応じなければ実力で排除する旨通告し、午後6時50分頃主席助役が被告人Nに対し、口頭で、午後7時には文書で申し入れたが受け取らなかった。組合員らも全く応じなかった。
2 大阪行急行「平戸」号発車阻止のピケ隊実力排除と、鉄道公安員への暴行
午後7時20分頃定刻より10分遅れで、急行「平戸」号(佐世保発大阪行)が第1ホームの上り1番線に到着した。すると二番ホームにいた被告人Bを指揮者とする第4行動隊約100名は、線路に降り、線路を横切って「平戸号」着機(蒸気機関車)の進路前方や第1ホーム側の着機東側面及び反対側の西側面に移動し、玄海号発機の機留線にいた労組員の一部が、「平戸」号着機前方に移動した。側面にいた組合員は、ワッショイ、ワッショイとかけ声をあげたり、労働歌唱和し、右着機進路前方にいた組合員約200名は二重、三重になり、最前列が軌条枕木付近で向かい合ってスクラムを組み全員で気勢を上げた。
機留線の急行「玄海」発機付近でこの様子を見ていたこの現地対策本部長は、鳥栖鉄道公安室長に対し、右組合員らを実力で排除することを命じ、公安室長は約40名の鉄道公安職員を引率して、ピケ隊員の4.5メートル手前付近に位置し、このままではピケ隊が車両の接触限界内にいるので発進は危険で不可能であったから、携帯拡声器で、鉄道地外に退去するよう勧告し、これに応じないときは実力で排除する旨警告し、これを3回位繰り返した。副公安室庁も携帯拡声器で同様に警告を行ったが、ピケの組合員らはこれに応じなかったので、後から加わった者も含め約百数十名の鉄道公安職員に対し午後7時28分ころ実力による排除を命じた。
実力排除は、着機後方炭水車付近から進路方向に行われ、ピケ隊を着機より離し、進路前方のスクラムのピケ隊員に対しては、線路の内側から、車両接触限界外から約1メートル両手などで押し下げ、さらに限界内に近づかないように線路に沿って並んだ(いわゆる「逆ピケ」)、これには警察官も後に加わった。なお、この実力排除のさい、組合員の一人が鉄道公安隊に暴行を働いている。
「平戸」号を運転してきたM機関士(動労組合員)は、鳥栖駅到着直後、運転室に乗り込んできた被告人Bから「斗争に協力して降りてほしい、もし下車できないのならしばらく着機を動かさないでほしい」と要請され、一時はこれに従う気持ちになって、長時間停止するための操作を行ったりしたが、その後運転室に乗り込んできた助役から発車を何回も指示されたので、考えをあらため、ピケ隊員が鉄道公安職員によって排除されるや、客車から切り離されてた着機を発進させて機関区に入区し、これに代わって、代替乗務員の運転する「平戸」号の発機が客車に連結され、「平戸」号は午後7時33分、13分増延し定刻より23分遅れて発車した。
3 留置線の急行「玄海」号電気機関車のピケ隊実力排除
鉄道公安員により排除されたピケ隊は、機留線の「玄海」発機のピケに合流、約300名となったが、「玄海」到着時刻が切迫していたので、午後7時40分に本部長が鉄道公安員に実力排除を命令し、警察官も加わって排除したためS機関士は発機を運転し機留線から引き上げた。
4 急行「玄海」着機機関士らの下車と、鉄道公安員による機関士らの身柄奪還
午後7時52分、定刻より30分遅れで上り急行「玄海」号(長崎発京都行)が第1ホーム上り1番線に到着した。すると被告人Nらは運転室に乗り込み、機関士ほか2名の機関助士がいずれも動労組合員であることを確かめたうえ、ただちに下車して職場集会に参加するよう説得し、機関士ら3名はこれに応じ下車し、第1ホームにいた第3行動隊員の群れのなかににしゃがみこみ、ピケ隊はこれを楕円状に取り囲んで気勢をあげたところ、本部長は、急を聞いて第1ホームにかけつけ、公安室長にピケ隊を排除し機関士らを取り戻すよう指示、警告のうえ公安職員60名と警察官も加わって、ピケ隊を分散させた公安職員は、機関士と機関助士1名を発見し、両名の両脇をかかえるようにして着機に乗せ、警備に当たった。着機(蒸気機関車)は間もなく客車から切り離され機関区に入り、8時17、8分頃代替機関士のSが運転する発機(電気機関車)が連結された。
5 京都行急行列車「玄海」号発車阻止のピケ隊を実力排除
すると、第3行動隊約200名は、責任者の指示により急行「玄海」の進路にあたる博多駅方面へ移動し、機留線から移動してきた第2行動隊約200名と合流し午後8時23分頃、軌条の外側枕木の付近にスクラムを組んで向かい合って立ち並んだ。被告人Bが「玄海の発車を止めろ」と叫んで指示したため第4行動隊約100名が第2ホームからかけつけ合流し、これらのピケ隊はワッショイ、ワッショイとかけ声をあげたり、労働歌を唱和し、時には大波を打った様に身体を前方に傾けた。
当局側は再三のピケ撤去要求と警告を行い、これに応じなかったため、午後8時25分より鉄道公安員により実力排除を開始し、警察官も加わった。
これに対し被告人Nは「突っ込め、押しつぶせ、お前たち田舎の警官は早く帰れ。俺は東京の警視庁の機動隊を相手にしたNだ」と叫んでピケ隊を指示激励したため、排除にあたった公安職員や警察官を押し返すなどして抵抗したが、逐次排除されので、午後8時28分頃、発車合図に従い警笛を二三回鳴らし、公安職員の逆ピケの中を最徐行で発車したが、さらに博多寄りの逆ピケのない地点でスクラムを組んだため、再び公安職員が排除し、「玄海」号は約三、四分停車した後、再び最徐行で発車し、次第に速度をあげて鳥栖駅構内を出ていった。結果、「玄海」号は鳥栖駅で32分増延し定刻より約62分発車が遅れた。
(つづく)
註- 急行「玄海」号はこの当時京都-長崎間の夜行列車だった。昭和43年以降名古屋-博多間の日中運転の電車急行となり、昭和50年の山陽新幹線博多延伸により廃止されたが、15年後の平成2年に東京-博多の寝台急行として復活した。http://blog.livedoor.jp/railart/archives/4247070.html 昭和40年当時の長崎本線の時刻表を乗せているプログhttp://blog.livedoor.jp/railart/archives/3443270.html
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