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2013年8月の3件の記事

2013/08/18

入手資料整理122

争議行為及びピケッティング等の基本的な刑事判例その8

10032光文社事件 最三小判小昭50・11・25 刑集29巻10号928頁 判時796号 判タ330号 
(LEX/DEプリント)


(要旨)
 本件は労働刑事事件において前掲の日本鉄工所事件に続いて、「久留米駅事件方式」により可罰的違法性を否定し無罪とした原判決を破棄した判例である。
 事案は、図書・雑誌・週刊誌を出版する東京都文京区に所在する出版社の労働争議に絡み、昭和46年2月4日第一組合員である被告人ら6人がピケッティングを実施中、出勤途上、歩道を歩いていた第二組合員の総務部副部長Kを取り囲み、会社警備員による妨害の及びないところで説得等のため、同人の意思に反して約30メートル引きずり、更に両脇下に手をさし入れたまま引っ張ったり、押すなどして200メートル余を強制連行したというもの。
 検察官は、本件につき前記行為に引き続いて行われた被告人らによる約1700メートルにわたる道路上の強制連行も逮捕罪にあたるとして、前記行為を包括して公訴を提起したものである。
 第一審判決(東京地裁判昭47・4・3 刑裁月報4-4-669)は、約1700メートルの部分については物理的な力または心理的な制圧を加えてその行動を現実に奪ったとは認められないとして、逮捕罪は成立しないとしたが、前記前半の強制連行の部分については、被告人らの行為の目的(話し合いと説得)を正当とするも、手段において争議行為として相当なものとして許容される限度を超えた暴力の行使であるとして、逮捕罪の成立を認め有罪(懲役三月執行猶予一年)判決を下した。
 控訴審判決(東京高裁判昭48・4・26 判時708号)は、「逮捕罪とは、人の身体を直接に拘束する手段を講じ、その行動の自由を現実に奪うことで、通常その手段は、社会的に常軌を逸した暴行または脅迫によると解される」としたうえで、「被告人の有形力の行使は説得を有効に実施するための場所の選定にともなうきわめて短時間のものにすぎず、しかも身体に殴打、足げり等の暴行を加えてないのはもちろん、その着衣その他に対しても何ら損傷を与えていない程度のものである」などとして本件は「なお外形的には、逮捕罪にあたる」ことを認めながら「被告人らの守ろうとした利益とその侵害した法益との権衡、労働組合法、刑法を含む法全体の精神からみて‥‥常軌を逸したものといえるかどうか頗る疑わしく」結局本件は「犯罪として処罰するに足りる実質的違法性をいまだ備えていない」として無罪判決を下した。
 上告審判決(最三小判小昭50・11・25 刑集29巻10号928頁)は、控訴審(原判決)の判断を「不法にも実力をもつて人の身体及び行動の自由を奪い、正当な就労の権利を侵害したものであることの実質を洞察しないで、外形的な手順の現象観察にとらわれたことを示すものであつて、本件所為に対する可罰性の有無を決するに足る契機とすることはできない」と批判したうえで、「久留米駅事件」の判断方式を引用し、本件逮捕行為は、法秩序全体の見地(昭和四三年(あ)第八三七号同四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻三号四一八頁)からこれを見るとき、原判決の判示する動機目的、所為の具体的態様、周囲の客観的状況、その他諸般の事情に照しても、容認されるべきピケツテイングの合理的限界を超えた攻撃的、威圧的行動として評価するほかなく、刑法上の違法性に欠けるところはない」旨断じた。但し2判事の反対意見がある。

●コメント
 私の考えはこうである。本件労働争議では、第一組合は組合員が減っただけでなく幹部9名が解雇され、入構も拒否されていた。追い詰められた状況にあったとみられることから、第一審、控訴審とも被告人に同情的な見解が述べられている。また弁護人によればKはかつて第一組合に属し争議に参加していたのに、不明朗な経緯で結成された第二組合に走った者で、内部統制違反者、脱落者と類似した性格をもつばかりでなく、会社の労務政策を率先して実行したいわば末端労務職制的な性格を兼ね備える最も敵対的な第二組合員であるから弁明の義務があるなどと言うが、それは労働組合主義の論理であって、だからといって、身体拘束、強制連行、就労の権利侵害が許されるべきとものではない。ストライキをしていない別の組合員に対する就労妨害を威力業務妨害罪とした先例として嘉穂砿業事件・最一小判昭35.5.26判所刑事判例集14巻7号868頁があり、ストライキをしていない別の組合員の就労の権利を尊重する見方のない法益権衡論をとる控訴審の判断は偏向している。
 また控訴審判決のように本件逮捕行為を可罰的違法性を欠くとする理屈を是認するならば、「社会的に常軌を逸した暴行・脅迫 」(殴打や足蹴り等をさすものとみられる-本件では足蹴りや殴打はなされず、着衣等の損傷もない)さえなければ労働組合の有形力行使は争議行為において許容されうることになる。これは検察官の上告趣旨において引用する先例にも反するように思える。
 原判決は結局5~6人の包囲による有形力の行使を認め、足蹴り、殴打等常軌を逸した暴力さえなければ、抵抗する者もかまわず拘束してもかまわないという結論になっているが到底受け入れられない。逮捕、強制連行、拉致のある程度のことは許容されてよいとは思えないからである。それは市民法秩序、個人の就労の権利、行動の自由の観点から到底容認できるものではなく、原判決を破棄した最高裁の判断は妥当であり、特に「正当な就労の権利の侵害」に言及したことを高く評価したい。
 ところで本件のような包囲するようなタイプのピケはヨーロッパ型である。わが国の刑事免責のモデルとされるイギリスの1875年共謀罪財産保護法は非暴力争議行為に刑事免責を与え「妨害(molestation or obstruction))といった抽象的な諸規定をあらためたが「監視」「包囲」は違法とされている。
 客引きが四方八方から寄ってくる以上に、不快な包囲である。本来はイギリスでは違法とされていたのである。
 なお、本件は被告人以外、被害者を取り囲んだ5人は第一組合を支援するよその労働組合員である。イギリスでは1980年雇用法で、ピケッティングはその事業所に働いている労働者、または解雇された労働者に原則として限定しており、マスピケも違法である。フライングピケッツ、他の事業所で働いている者のピケ参加は違法であるから、イギリスでは本件のようなピケは違法で差し止め命令が可能である。よその労働者がピケに加わることは許さない。これが先進国の水準だから、この判例で満足できるものでは全くない。
 小島弘信「海外労働事情 イギリス 雇用法の成立とその周辺-二つの行為準則と労働界の反応を中心として」『日本労働協会雑誌』22巻11号 1980.11 によれば1980年法行為準則は「平和的に情報を得または伝播し人を説得することは、合法的ピケッティングの唯一の目的である。例えば、暴力的、脅迫的、妨害的行為を伴うピケッティングは違法である。ピケッティング参加者はできるだけ説得的に自己の行為について説明しなければなせない。他の者を説明を聞くようににおしとどめ、強制し、自分達が求めている通り行動するよう要求してはなない。人がどうしてもピケットラインを越えようとする場合には、それを認めなければならない。」としている。

●光文社事件第一審東京地裁昭和47年4月3日判決 刑裁月報4-4-669
  一部無罪、一部有罪(逮捕罪)。懲役三月執行猶予一年

 判決(抜粋)
(事件の背景)
‥‥光文社には、かねてから、同社従業員をもって組織する光文社労働組合(組合約一五〇名、以下光労組という)および光文社記者労働組合(組合員三七、八名、以下記者労組という)の両組合が結成されていた‥昭和四五年‥両組合は、K社長が‥‥会社が購入した静岡県伊東市所在の邸宅の存在を社員に隠して自己の別荘として独占使用していることを探知するにおよび、同社長の会社経営に対する不満を爆発させ‥‥及び昭和四五年‥四月一四日の組合大会において、同社長の引責退陣ならびに室次長廃止にともなう賃金格差の解消‥‥六万円のベースアップ要求などを決議してスト権を確立し一七日以降無期限ストライキに突入した。K社長は健康を理由として辞任‥‥‥(経過略)‥‥六月九日に至り、組合に対して「‥‥各種確認事項は、二百数十人に囲まれた述べ、四十数時間にわたる監禁状態のもとで暴力的吊し上げ、罵詈雑言のもとでなされたものであるから一切破棄する」旨を通告するとともに、‥‥出席人数を制限した団体交渉を呼びかけたうえ、同月一一日、突如組合に対してロックアウトを通告するとともに、社外から労務管理コンサルタントを職業とするTを労務担当取締役に迎え‥‥同時に土木会社の鳶職、大工など約四五名を警備員として会社内に導入して、そのころ会社内に泊まり込んでいた組合員を実力で排除し‥‥争議が長引くうち、光労組の闘争方針に批判的な一部組合員は、同年六月二七日、全光文社労働組合(以下第二組合という)を結成し‥‥就労につき合意に達して業務が再開された。‥‥七月初めころまでに第二組合の組合員は一二二名に達し、光労組のそれは三七名に減少するに至った。(記者労組から第二組合に加入した者はいなかった。)そこで光労組、記者労組ならびに事実上両組合を行動を共ににしていた主として学生アルバイトからなる臨時従業員約二五名(‥‥七月一〇日に至って光文社臨時労働者労働組合を結成した。以下臨労組といい、右三組合を第一組合と総称する)は、同年六月二九日就労宣言を発してストライキを解除し‥数回団体交渉を行ったが、会社側はT取締役が強硬な発言をしK前社長の責任問題については、団体交渉の議題とする旨の和解条項に反して話し合いを拒否し、六万円ベースアップ要求についても争議による会社の被害が大きいことを理由に拒否し‥‥第一組合は次第に苦しい立場に追い込まれた。‥‥(経過略)‥‥他社の労組員が結成した光文社闘争支援共闘労働者会議(以下光共闘という)の応援を受けて、毎週三、四回光文社社屋路上において、第二組合員に対し協力を求めるピケッティングを開始し、会社に対しては‥‥シュプレヒコールを繰り返すなど抗議行動を行ない、これを実力で排除しようとする前記の警備員と激しく衝突事態が繰り返された。その間‥‥会社と第一組合は数回団体交渉を行ったが、組合側は、社長が出席すべき旨主張し、これを拒否する会社側と実質的討議のなされぬまま終わった。会社は臨労組合員全員に対して六ヶ月の雇用計画の期間満了に伴う契約延長を拒否し、さらに同年一〇月三一日、第一組合の幹部九名を就業規則違反を理由として懲戒解雇し、以後第一組合員の会社内入構するに至った。そのため、第一組合は‥‥ピケッティングおよび会社に対するシュプレヒコール、ジグザグデモなどの抗議行動を一段と強めたが、これを実力で排除しようとする警備員の殴る、蹴るなどの暴行により、第一組合に多数の負傷者が出るにおよび、第一組合員も警備員を旗竿で突いたり、これに投石するなどして対抗したため、しばしば警視庁大塚警察署員が出勤してこれを規制し、第一組合員が公務執行妨害、不退去財などで逮捕される事態を招き、労使間の紛争は深刻化していった。‥‥第一組合員は警備員との衝突を避けるため、付近のバス停留所などで出勤途上の第二組合員を待ち受けて説得するピケッティング活動を行っていたが、第二組合員のうちにはピケッティングを避けて午前九時三〇分の就業開始より相当早い時間に出勤する者もいたことから、昭和四六年二月三日の第一組合と前記光共闘との会議において、翌二月四日には、これらの者もピケッティングの対象とするため午前六時三〇分ころ光文社前に集合することが決定され、合計十数名の第一組合員および光共闘に属する労組員がこれに参加することになった。
 被告人は‥‥光文社の記者で、記者組合に属する組合員であるが、右決定に従って、昭和四六年二月四日午前六時三〇分ころ十数名の労組員とともに光文社正面玄関付近に集合した。‥‥その場で二手に分かれ、被告人ほか光共闘に属する労組員五名は、音羽通り南方から出勤してくる第二組合員の説得に当たることとなった。そのころ同社警備員五名が乗用車で出勤し、同社内に入った‥‥同日午前七時四〇分ころ、同社総務部副部長で第二組合に所属するKが、右音羽通りを南方から徒歩で出勤してくるのを認めた。

(罪となるべき事実)
被告人は、昭和四六年二月四日午前七時四〇分ころ、東京都文京区音羽二丁目‥‥光文社前付近路上において‥‥出勤してきたKを認めたので、同人が第二組合に加入した理由を問いただし、また会社が警備員として暴力団員を雇っていることおよび第一組合員に解雇者が出ていることに関して話し合い、同人から意見を徴するとともにこれらに反対の意思を表明を表明することを求めて同人を説得しようと考えたが、前記警備員による妨害を免れるため、ほか五名の労働組合員と共謀のうえ、右Kをその場から他所に連行しようと企て、歩道上を歩いていた同人に近寄り、いきなり同人を取り囲み、うち二名において両側から同人の腕をつかまえ、被告人において、「実力ピケだぞ、あんたは会社に入れないないんだ。どうしてたこんなに早く来るのだ」と申し向け、同人が「入れないんだったら帰ればいいんでしょう」といって引き返そうとするや、前記の二名においてそれぞれ同人の脇下に手をさし入れて同人を抱えながら前方に引っ張り、ほか一名において同人を後方から押し、同人が両足を前につき出し、腰を低く落として連行されまいとするのも構わず、同所から音羽通りを横切り同区二丁目11番先金崎マンション工事現場付近歩道上まで約三〇メートルひきずったあと、さらに同人の両脇下に手をさし入れたまま引っ張り、後方から押すなどして同所から小路に入り、お茶の水女子大学裏門前を経て二〇〇メートル余の距離にある同区大塚二町目八番三号山科建設株式会社前歩道上まで強いて同人を連行し、もってその間同人の身体を拘束して不法に逮捕したものである。

(本件公訴事実中犯罪の成立を認めない部分の判断)
 本件公訴事実は、被告人が、ほか数名と共謀のうえ、昭和四六年二月四日午前七時四〇分ころ、東京都文京区音羽二丁目一二番一三号株式会社光文社付近路上において、Kの身体を拘束し、同書から豊島岡墓地前、大塚三丁目交差点、お茶の水女子大学前、大塚窪町公園前等を経て、午前八時一五分ころ、同区大塚三丁目五番一号前大塚一丁目交差点まで強いて連行し、もってその間同人の身体の自由を拘束して不法に逮捕した旨を訴因として掲げているところ‥‥右訴因は裁判所においてすでに認定した光文社前路上から山品建設前路上に至るまでの逮捕行為にとどまらず、同所からさらに前記各地点を経て大塚一丁目交差点に至る約一七〇〇メートルに及ぶ間にわたって、逮捕行為が継続したものと構成されているのである。そこで、右山品建設前路上から大塚一丁目交差点に至るまでの被告人らの行動を明らかにし、これがKに対する逮捕罪には該当しないものりと判断した理由を説明する。
 ‥‥(略)‥‥不法逮捕罪が成立するためには、人の身体を直接に拘束する手段を講じ、行動の自由を現実に奪うことを要すると解すべきところ‥‥Kが「仲町へ行こう」といったのちは、同人が話し合いに応ずる気になったものと考えて、同人の腕を離し、その後‥‥大塚窪町公園付近で同人を同公園内に連れ込もうとした以外は、何ら同人の身体に触れることなく、一団となって歩いて喫茶店を探したりむ、解雇問題について同人の考えをただしたりしていたのであり、Kにおいても話合いに事実上応じながら歩き‥‥被告人らがKに対し物理的な力または心理的な制圧を加えてその行動を現実に奪ったとは全く認められないので、逮捕罪には該当しないことは明らかである。‥‥

 (弁護人の主張に対する判断)
一 公訴権の濫用の主張について
‥‥本件起訴を公訴権の濫用と目すべきほど本件の犯情が軽微であるとか、起訴が公正を欠くとかの事実は認められない。‥‥

二 正当行為の主張について

 ‥‥‥無被告人の判示所為につき違法性を阻却する事由が存在するか否かについて判断するに、この判断は法秩序全体の立場から実質的、具体的になすべきものであるが、特に本件のような労働者の争議行為の正当性については、労働者の団結権および団体交渉および団体行動をする権利を保障し、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進してその地位を向上させようとする憲法および法律の趣旨を十分に尊重しつつ、諸般の事情を総合勘案しながら判断しなければならない。‥‥‥右ピケッティングは、争議の過程で第一組合から離脱していった第二組合に対して、第二組合を結成し又はこれに加入した理由を問い正すとともに、解雇問題、警備員排除問題等について話し合い、説得のうえ第一組合に同調を求め、第二組合内において同様の意思表示をすることを目的としたものであって、第二組合内において入構を窮極的に阻止することを目的とするものではないことが認められる。被告人らの本件行為も右ピケッティングの一環として実行された争議行為を認められるのであって、あくまでもKに対する前記のような話合いと説得のためになされたことが明らかである。
 しかも‥‥会社は第一組合員に対し、社屋への入構を拒否し、会社施設の利用も許さず、ことごとに第二組合員と待遇を差別し、事実上団体交渉を拒否していたことが認められている。‥‥昭和三八年一一月八日の東京地方裁判所刑事第二〇部判決写をあわせてみると、会社が配置としていた警備員は、土木会社の鳶職、大工などであるが、右土木会社は博徒幸平一家貸元Sの幹部と認定された者が経営しており、警備員のうち二名は右判決において同一家の構成員と認定され、暴力行為等処罰に関する法律違反、傷害等の罪により懲役刑に処せられたものであることが認められ、前記Tは職業的な労務対策請負人であって、これまでも他の出版社等数社の依頼を受けて争議鎮圧にあたり、その際同じ警備員を使用したことがあること。本件争議においてもロックアウトの際同人が右警備員の派出を手配したことが認められ、さらに右警備員は、常時光文社玄関付近で警備に当たり、第一組合員が社前でピケッティングを行っていると、出てきてこれを実力で妨害することがしばしばあったこと。 ‥‥ロックアウトを実施した時期以降において会社のとった措置は‥‥誠意のあるものとは認められず、むしろ実力で争議を鎮圧し、第一組合を崩壊させることを意図していた疑いが濃いのである。このような状況のもとにおいては、第一組合が争議を遂行するめに残された対抗手段として、前記ピケッティングを強力に実施することは当然の成り行きであるともいえるのである。そして話合いと説得を行なうためには、第二組合員を一定時間停止させて、その機会を得る必要がある。そのため出勤途上の第二組合員をおしとどめ、取り囲む程度のことは、暴力を行使したり、不当に長時間にわたらない限り許容すべきである。さらに光文社前路上において説得を行うときは、警備員が出てきて実力でこれを妨害するおそれがあったと認められる本件においては、これを避けるため第二組合員に対し同行を求め、場合によってはこれを強く促し、喫茶店などにおいて平穏に話し合うことも許容されるべきである。‥‥‥中でもKは、会社における職責として、前記警備員らと連絡し、社内の警備関係の事務を担当していたことが認められるので、本件当日、会社の始業までにはまだ相当の時間的余裕があったことを考慮すれば‥‥本件ピケッティングに対して内心いかにこれを嫌忌していたとしても、徳義上、説得を頭から回避するような態度はとるべきでなく、話会いに応じ、自己の所信を述べるべきであったと思われるのである。しかし、それは徳義上の問題であって、本件の諸事情のもとにおいても、これを法的義務として強制すべき理由を見出し難い。しかも第二組合は争議離脱者が結成したといっても、前記のとおり組合員数において第一組合を凌ぎ、本件当時には一応自主的な組合としての実体を具えるに至っていたことがうかがわれ、またK自身は組合分裂に積極的な役割を果たした者とも認められない点を考慮すると、もはや同人に対して第一組合の統制権が及ぶものとして解しえないので、組合の統制権をもって弁明を強制する根拠とする余地はないものといわなければならない。
 被告人の判示所為をみるに‥‥Kが強く拒否の意思を表明していることが明らかであるにもかかわらず、三名において手をかけ、物理的な力を用いて二三〇メートル余り連行する間同人の身体を拘束し続けたものであり、被告人はみずから手を下さなかったものの、右のような手段に出ることにつき現場において他の者らと意思を共同して付き添ったものと認められ、その間Kはその身体および行動の自由を現実に奪われ、同人がこれによって受けた恐怖は、被告人の予想をこえていたと思われるが、多大であったことが認められる。労働者の団結権、争議権が現代社会における重要な権利であることはいうまでもないが、一方身体および行動の自由は、人間の最も基本的な自由であって、最大限に尊重さるべき法益である。法秩序は全一的なものであり、両者の衝突する場合には、具体的に調整を図らなければならない。被告人の行為は、前記諸事情を考慮に入れてもなおかつ、その手段において争議行為として相当なものとして許容される限度をこえたものであり、暴力の行使と断ぜざるを得ない。‥‥‥
 以上の考察によれば、被告人の判示行為は、労働組合法第一条第二項本文、刑法三五条またはその他の事由により正当な行為として違法性が阻却されるものではないというべきであり、またその違法性の程度において可罰性のないほど軽微な行為と解することはできない。

●光文社事件控訴審東京高裁昭48・4・26判決 判時708号
  原判決破棄 無罪

 
判決(抜粋)
 ‥‥‥原判決が有罪と認定した部分は、控訴事実中でも、被告人らが直接有形力を行使した部分(このうち、かなり強い有形力を行使したとみられるのは、最初の約三〇メートルと思われる。)だけであり、その間被告人らの言動には、-たとい被告人らがいかに追いつめられ焦慮していたにせよ、-穏当を欠く点があったことは否定しがたく、関係証拠を総合すれば、原判決が「罪となるべき事実」として判示しているところは外形的にはほぼ認められ、原判示に関する限り、事実誤認の疑いはないといえる。したがって本件の問題点は、かような外形的事実があるにもかかわらず、逮捕罪の成立を否定しうるかどうかにある。この点についてはかなり微妙な問題であり、逮捕罪の成立を認めた原判決の判断にも一理ないとはいえない。しかも当審における事実取調の結果を参照し、先に指摘した観点を基礎に検討すると、原判決を有罪と判定した部分についても種々の疑問を免れない。たとえばKは、被告人らが自分はどこに連れていくか、そして自分がどこに連れてゆくか、そして自分にどんなことするか分からなかったので非常に恐ろしかった旨供述し、被告人らがあたかも手段を選ばぬ暴力団員であるかのようにいっているが、
(1)Kは被告人とはかねてからの顔見知りで、被告人がかつて同じ組合に属していた雑誌記者であることを十分知っていたこと。また普通ならばKは被告人以外の五名が第一組合のピケに対する支援労組員で、しかもそのうち一人が女性であることに直ちにきずき(略)被告人らの意図が自分との話合いにあることを理解しえたと思われること、
(2)公訴事実で被告人らが逮捕罪に問われているのは、午前七時四〇分ごろから八時一五分ごろまでの公道上の行為で、その間通行人がとだえる状況にはなかったこと、
(3)被告人らがKを誘い、あるいは連れていこうとしたのは、いずれも人の自由で出入りできる喫茶店、公園などで、Kもそのことを知っていたこと、
(4)被告人らは、Kに対し、ことさら殴打するなどの暴行を加えたこともなければ、脅迫的言辞を弄したこともなく、なんらそのための道具も用意していなかった。むしろ会社の前から約二三〇メートルへだたった山品建設前を過ぎてからは、Kの腕をはなし、被告人とKとの間に臨労職員の解雇、契約更新拒否、光労組員の解雇、会社に暴力団がいることなどについて比較的穏やかな話合いが行われていること、
(5)このような状況であったのに、Kは、大塚一丁目交差点に至るや、突如交通整理中の巡査に背後から抱きついて救いをもとめたり、同巡査の助言により被告人と二人だけで交番で話し合うこととなったのに、またも交番の前から逃げ出していること
等の状況が認められるのであって‥‥‥Kの恐怖感ないしこれについての供述には、いささか異常なものがあるように思われる。この恐怖感がどのような性質の、どのような事情を背景とするものであるかはさておき被告人らが有罪部分を含め、終始Kとの話合い、同人に対する説得を目的としていたことは疑いない。‥‥‥被告人らは、Kの姿を認めたときには、すでに警備員が配備につき出動態勢にあったと思っていたこと。現にKが被告人らに連れて行かれて間もなく、警備員がそのことを知り、Kや被告人らの所在をつきとめようとして、会社付近一帯の道路を手分けして探索して回った事実があること等の事情も合わせて考えると、原判決が有罪と認めた被告人らの原判示行為は、被告人らが、Kを警備員の妨害の及ばない適当な場所に誘って、説得しようとしてされたものと認めるほかはない。ただ、民主社会においては人の身体・行動の自由が最大限尊重されなければならないこと、および目的がせ必ずしも手段を正当化するものでないことを思うと、被告人にの行為は、相手方の立場・心理に対する理解に欠け、短兵急すぎて不穏当のそしりを免れず、この点誤解を受けてもやむをえないといえるであろう。しかし、事の経過を見ると、被告人らが突然Kを取り囲み、被告人のうち二名が押すなどして、会社付近歩道上から音羽通りを横切り(その間Kが腰を落としたので、両脇でかかえるようににして多少急ぎめに車道を渡っている。)‥‥と原判示のような行動に出たのは、Kが会社の付近まできながら、被告人らの待機している状況を見て引き返しかけたところから、この機を逃すと、同人を説得する機会が当分失われることを危惧し、どこか警備員の妨害の及ばない場所で同人を説得しようとした結果と考えられる。このように、被告人の有形力の行使は、同人に対する説得を有効に実施するための場所の選定にともなうきわめて短時間のものにすぎず、しかもKの身体に殴打、足げり等の暴行を加えてないのはもちろん、その着衣その他に対しても何ら損傷を与えていない程度のものである。逮捕罪とは、人の身体を直接に拘束する手段を講じ、その行動の自由を現実に奪うことで、通常その手段は、社会的にな常軌を逸した暴行または脅迫によると解されるが、これまで説いたところから明らかなように、本件が午前七時四〇分ころの公道上のきわめて短時間の、しかも緊迫した特殊な事態のもとでの偶発的な出来事と思われること、被告人らには、右のような暴行脅迫を加える意思も、そのような行動に出る形跡もなかったとみられること等の状況に徴すれば、本件は、-なお外形的には、逮捕罪にあたるようにみえるが、-被告人らの守ろうとした利益とその侵害した法益との権衡、労働組合法、刑法を含む法全体の精神からみて、果たして危険な反社会的行為、特に刑法上の犯罪としなければならないほど常軌を逸したものといえるかどうか頗る疑わしく、‥‥‥結局本件は、同法二二〇条一項の「不法に人を逮捕」したという犯罪として処罰するに足りる実質的違法性をいまだ備えていないと解するのが相当である。

●光文社事件 最三小判小昭50・11・25 刑集29巻10号928頁 判時796号

破棄自判 

‥‥‥本件公訴事実の一部につき逮捕罪の成立を認めて被告人を有罪とした第一審判決に対し、その事実の認定に誤りはないとした上で、右の逮捕行為は実質的違法性を欠き罪とならないとする見解のもとに、第一審判決を破棄して被告人の無罪を自判した原判決は、以下に述べる理由により、結局破棄を免れない。
 一 原判決は、第一審判決判示の「罪となるべき事実」につき、外形的事実の判示に関する限り事実誤認の疑いはないとしてこれを是認したが、右判示部分は、同じく第一審判決判示の「事件の背景」を正しく認識することなしには的確に理解し評価することができない。よつて、この点につきその判示に即してこれを要約すれば、
 (1)図書、雑誌、週刊誌の出版を業とする株式会社A(東京都文京区ab丁目c番d号所在、以下「A」という。)には、かねてから同社従業員をもつて組織するA労働組合(組合員約一五〇名、以下「A労組」という。)及びA記者労働組合(組合員三七、八名、以下「記者労組」という。)の両組合が結成されていたが、昭和四五年二月ごろ右各組合とAとの間に労働争議が発生して、右各組合は同年四月一七日から無期限ストライキに突入し、Aは同年六月一一日ロツクアウトを通告するなどして紛争を重ねるうち、同月二七日、A労組の方針に批判的な一部組合員は、全A労働組合(以下「第二組合」という。)を結成し、即日Aと団体交渉の結果、就労につき合意に達して業務を再開した。第二組合の組合員数は同年七月初めごろまでに一二二名に達し、A労組のそれは三七名に激減した。被告人は、Aの記者であつて記者労組に属していた。
 (2)同年六月二九日、A労組、記者労組及び主として学生アルバイトから成るAの臨時従業員約二五名(のちにA臨時労働者労働組合を結成し、これを臨労組といい、右三組合を「第一組合」と総称する。)は、就労宣言を発してストライキを解除し、他方、Aは、同年八月一〇日にロツクアウトを解き、第一組合員に対し個別に出社を命ずるに至つたところ、第一組合は、組合の切りくずしをねらうA側の不当労働行為であるとして反発し、同組合員中三名を除く全員がいわゆる指名ストにより就労を拒否してAに対抗し、更にそのころから第一組合を支援する他社の労組員が結成したA闘争支援共闘労働者会議(以下「光共闘」という。)の応援をうけて、各週三、四回、A社屋前路上において第二組合員に対するピケツテイングを開始し、これを実力で排除しようとする警備員との間に多くの負傷者が出るに及び、第一組合員も警備員を旗竿で突いたり投石するなどして、しばしば警察官の規制をうけ逮捕される等の事態を招き、労使間の紛争が深刻化した。
 (3)この事態のもとで、第一組合員は、A社屋前でピケツテイングや集会、デモ行進などをつづける一方、出動途上の第二組合員を付近のハス停留所などで待ち受けて説得するピケツテイング活動を行つていたが、第二組合員のうちには、右のピケツテイングを避けて午前九時三〇分の就業開始より相当早い時刻に出勤する者もあるところがら、昭和四六年二月三日の第一組合と前記光共闘との会議においては、翌四日午前六時三〇分ごろ合計十数名の第一組合員及び光共闘に属する労組員がA前に集合して第二組合員の出勤に備える旨の方針を決定した。かくして被告人は、同日早朝所定の時刻ごろ、十数名の労組員らと共にA正面玄関付近路上に集合し、同社前を南北に通じる音羽通りを南北両方向から出勤してくる第二組合員に対しピケツテイングを実施するため、その場で二手に分かれ、被告人及び光共闘に属する労組員五名は、音羽通り南方から出勤してくる第二組合員の説得にあたることとした。当時、A警備員五名も乗用車で出勤しA内に入つたが、被告人らはそのままその場で待機するうち、同日午前七時四〇分ごろ同社総務部副部長で第二組合員に所属するB(当時五〇年)が音羽通りを南方から徒歩で出勤してくるのを認めた。他方、右Cにおいては、被告人らの姿を望見して就労することを断念し、直ちに引き返そうとしたというのであつて、このとき同人は被告人らに対していわゆるピケ破りその他なんらかの妨害的な言動に出たわけではない。
 (4)ここにおいて被告人は、Cに対し、同人が第二組合に加入した理由を問いただし、また会社が警備員として暴力団員を雇つていること及び第一組合に解雇者が出ていることに関して話し合い、同人から意見を徴するとともにこれらに反対の意思を表明することを求めて同人を説得しようと考えたが、前記警備員による妨害を免れるため、ほか五名の労働組合員と共謀の上、右Cをその場から他所に連行しようと企て、歩道上を歩いてきた同人に近寄り、いきなり同人を取り囲み、うち二名において両側からそれぞれ同人の腕をつかまえ、被告人において「実力ピケだぞ、あんたは会社に入れないんだ。どうしてこんなに早く来るのだ」と申し向け、同人が「入れないんだつたら帰ればいいんでしよう」といつて引き返そうとするや、前記の二名においてそれぞれ同人の脇下に手をさし入れて同人を抱え上げながら前方に引つ張り、ほか一名において同人を後方から押し、同人が両腕を前方につき出し、腰を低く落として連行されまいと抵抗するのも構わず、同所から音羽通りを横切り同区ab丁目b番fマンシヨン工場現場付近歩道上まで約三〇メートルをひきずつたあと、さらに同人の両脇下に手をさし入れたまま引つ張り、後方から押すなどして同所から小路に入り、お茶の水女子大学裏門前を経て二〇〇メートル余の距離にあるE建設株式会社前歩道上まで強いて同人を連行し、もつてその間同人の身体の自由を拘束して不法に逮捕した、というのである。
 二 ところで、本件公訴事実によれば、被告人の連行目的による逮捕の所為は、同所から更にF前、gh丁目交差点、D前、G前を経て、同区gh丁目i番j号前gj丁目交差点に至る約一七〇〇メートルにわたり継続して行われたというのであるが、第一審判決が最初の二三〇メートル余の距離における被告人らの行為についてのみ逮捕罪の成立を認めたゆえんは、それ以後の場面においては、被告人らが用いた連行手段の態様にかんがみ、はじめの場面ほどにCの行動の自由が奪われていなかつたものと解されるとし、その間に区別があることを認めたからにほかならない。これは、被告人らのためAから遠く離れた場所に拉致されることを極度に恐れたCが、右判決摘示のとおりの状況のもとで、ある程度相手の話に応じる態度を示したことから、その後は被告人らにつきまとわれつつも腕を押さえられることもく歩いているうち、gj丁目交差点において交通整理中の交通巡査を認めるや、にわかに走り抜けてその背後に抱きつき救いを求めるに及んで、被告人らの連行形態がここに断たれるに至つた経緯があることに基づくのであつて、この場合に、Cが終始はげしい恐怖心におそわれていたことは、事実に即して容易に肯認することができ、これを異常視すべき合理的理由はない。例えば、同人が更に被告人とともにその巡査に伴われ、gh丁目の派出所で話し合うこととして同派出所付近まで来たところ、現に交通整理の用務をもつ同巡査が再び前記gj丁目交差点に折り返すため右派出所に両人だけを置いて離れることになるのを恐れる余り、突如、向い側の小石川消防署内に馳けこみ顔見知りの消防署職員に対して警察への連絡を依頼したなどの一連の行動についても、現実に本人が体験した精神状態に想到するとき、これをもつて意図的に非常識な挙動に出たもののように断定、非難しうるわけのものではないのである。
 三 そこで、第一審判決は、被告人の本件所為をもつて可罰的違法性を阻却するものであるとか、正当な争議行為にあたるとか主張する弁護人の所論に対し、本件争議における会社側の態度をも適切に批判するとともに、法秩序全体の見地から実質的、具体的に判断して、人の身体及び行動の自由が最大限に尊重されるべき法益であることを説き、本件のような逮捕行為までがやむをえない手段として正当化されるものではないゆえんを明示しているのである。これに対して原判決は、一方において身体及び行動の自由の最大限の尊重をいい、また、目的が必ずしも手段を正当化するものでないことに言及し、第一審判決が本件につき逮捕罪の成立を認めた判断に一理なしとはいえないとして、被告人らの行為の不穏当を指摘しつも、(イ)Cが会社の付近まで来ながら被告人らの待機している状況を見て引き返しかけたことから警備員の妨害の及ばない場所で同人を説得しようと考えた結果の連行行為であること、(ロ)同人に対する有形力の行使はその場所の選定に伴うきわめて短時間のことであり、身体に対する殴打、足げりなどの暴行砥なく、その着衣その他に対してもなんら損傷を与えていない程度のものであること、などの点に着目した上、本件公道上の偶発的な出来事と思われるとして、これが果して危険な反社会的行為、特に刑法上の犯罪としなければならないほど常軌を逸したものといえるかどうか、すこぶる疑わしいと説くのである。しかしながら、これらの指摘は、本件が、労働争議に際し、不法にも実力をもつて人の身体及び行動の自由を奪い、正当な就労の権利を侵害したものであることの実質を洞察しないで、外形的な手順の現象観察にとらわれたことを示すものであつて、本件所為に対する可罰性の有無を決するに足る契機とすることはできない。原判決は、すでに第一審判決がこれらの点を考慮の上特に周到に当初の逮捕行為とこれに続く連行行為における態様とを区別したのに反して、本件所為の全過程を貫きうる違法性阻却の事由が存するかのように解するのであるが、これは本件における被害法益の評価及び行為の緊急性その他相当性の有無等に対する認識の相違に基づく異見といわざるをえないのである。
 四 結局、本件逮捕行為は、法秩序全体の見地(昭和四三年(あ)第八三七号同四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻三号四一八頁)からこれを見るとき、原判決の判示する動機目的、所為の具体的態様、周囲の客観的状況、その他諸般の事情に照しても、容認されるべきピケツテイングの合理的限界を超えた攻撃的、威圧的行動として評価するほかなく、刑法上の違法性に欠けるところはない。したがつて、原判決の判断には法令の違反があり、それが判決に影響を及ぼし、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものであることが明らかである。
 よつて、刑訴法四一一条一号により原判決を全部破棄し、なお第一審判決は判断と結論においてわれわれの見解と一致しこれを維持するのが相当であるから、同法四一三条但書、三九六条、一八一条一項本文により被告事件について主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官関根小郷、同坂本吉勝の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官関根小郷、同坂本吉勝の反対意見は、次のとおりである。
 検察官の上告趣意が刑訴法四〇五条の上告理由にあつらないことは多数意見のいうとおりであり、かつ、記録を調べても本件は実質的違法性をいまだ備えていないとして無罪を言い渡した原判断が誤りであるとは認められないから、同法四一一条を適用すべき限りではなく、同法四一四条、三九六条に従い本件上告はこれを棄却すべきものである。

2013/08/13

そんなばかな 優良企業なのに

 「ブラック企業大賞」http://otakei.otakuma.net/archives/2013081203.htmlが12日発売の夕刊紙の一面だが、ふざけているし、非常に偏向した企業の評価である。
 こんな企画を宣伝するメディアも偏向しているといわなければならない。
 賞を受けた企業のなかに「ベネッセコーポレーション」があるが人事制度や福利厚生で先進企業として知られる優良企業というのが一般の評価のはずだ。
 奥林康司・平野光俊『フラット型組織の人事制度』中央経済社2004年という本を持ってますが、「ベネッセコーポレーション」もとりあげられてます。
 管理職の年俸制導入、定期昇給・ベースアップの廃止、ポイント制度退職金は先進的な制度で「企業への貢献度と報酬を連動させる、およびチームへの貢献を考え努力する人を大切にする」施策として評価されている。個人の主体的行動を引き出す能力開発も重視され、希望する仕事わ申告すると40~50%実現し、ポイント制能力開発、経営ユニバーシティ、キャリアピジョン申告もあるということである。福利厚生ではカフェテリアプランを導入した先進企業としても有名でしょ。
 「東北大学」が特別賞ということだが、一流大学でしょ。OBのノーベル賞受賞者田中耕一フェローはおとなしい人だが、いくらなんでもこれは怒ると思います。 

2013/08/11

入手資料整理121

争議行為及びピケッティング等の基本的な刑事判例その7

10031 日本鉄工所事件 最二小判昭50・8・27 刑集29巻7号442頁 判時729号

  本件は大阪府八尾市に所在する日本鉄工所の日本鉄工所労働組合(以下本社組合という)とこれから脱退した者を中心とする日本鉄工所千葉工場労働組合(以下千葉組合)
  との紛争の過程で労働組合役員による他組合員への以下のような断続的暴行、不法逮捕行為がなされたが、これを可罰的違法性に欠いているとして無罪とした原判決を破棄し、法秩序全体の見地からみて許されないと断じたものである。
 
    1.昭和40年3月1日午前7時頃被告人社本社組合副委員長Tは、本社東門保安室前で「皆さん、千葉工場の私達の本当の気持をわかって下さい」と題するビラを配布する千葉労組書記長Sに対し、右手で同人の左肩掴んでこれを後方に引きのかせ、ひじで同人の胸部付近を一回突き、同七時二〇分ころ、右手で同人の胸部辺を二回突き、ビラ配付を断念してタクシーに乗車しようとする同人の手首を掴み、腕を組むようにして引っ張り、近くの組合事務所に連れ込み、同七時三〇分ころ、口実を設けて逃げ出てタクシーに乗り扉を閉めた同人に対し、扉を開け、右手で同人の左手首を握り左手でその胸の辺の着衣を掴んで車外に引っ張り出し、右腕で同人の左腕を抱えるようにして、再び同人を組合事務所に同行し、
   2. 被告人本社組合副委員長T及び同組合書記長Оは、Sの配布しようとしたビラの内容について取消文を書かせるため、一旦組合事務所に正門まで出て行ったSを再び同事務所に連れ戻そうと考え、意思を相通じて、同日午後一時三〇分ころ、本社正門付近において、被告人らを振りり切って退去しようとする同人の前に立ちふさがり同人を中にはさんでそれぞれの両腕を抱え、正門付近から職員更衣室北側に至る約六〇メートルの構内通路を約一五分にわたり無理に連行した。
 
   一審(大阪地裁昭42・4・27)は有罪( 被告人T懲役三月、被告人О懲役二月)であったが、原判決控訴審判決(大阪高裁昭46・4・21)は、被告人Tの行為が一応暴行罪の要件にあたるとし、被告人T・О両名による行為もきわめて短い距離であるが、同人の行動の自由を制して同行をしいた部分が、外形的に逮捕罪としての要件を備えているとしながら、「相手方に対し、きわめて軽少な有形力の行使を生ずる事態は、すでに多くの組合活動に絡む紛争において慣行化され、法秩序により許容された限界を著しく逸脱しない限り刑罰法上の問題を生ずるものではないという点はいまや一般の理解に達している」としたうえで「違法性の程度において過罰性を帯有する犯罪行為とみなしがた」いとして無罪判決が下された。
   しかし上告審、最高裁第二小法廷判決は、検察官の上告を認容し「久留米駅事件方式」により、本件暴行行為、逮捕行為は法秩序全体の見地から到底許されないとして原判決を破棄した。

 
 
●原判決-日本鉄工所事件大阪高裁判決(昭46・4・21)抜粋

 無罪

‥‥株式会社日本鉄工所の従業員中、その千葉工場に派遣された十数名の者が、曲折を経て結局本社従業員で構成されている労働組合から脱退し、千葉工場の従業員のみで新たに労働組合を作り、本件被害者とされているSがその書記長の地位についたこと、そして、昭和四〇年二月二七日右千葉組合の結成に関する調印などの用務を帯びて大阪の本社におもむいたSが、来阪の機会を利用して、さきに本社の組合が配布した原判示ビラAに反駁する趣旨の同判示ビラBを配布しようと考え、同年三月一日午前六時ころ、封筒に入れ、宛名を書いて準備した同ビラ四〇〇枚を持参して東門にいたり、保安係の制止にもかまわず、従業員のカードラックに右ビラを差し入れたはじめたこと、これを知った本社組合員の通報により、当時本社組合の副委員長をしていた被告人Tは、午前七時ころ急きょ自転車で右本社東門にかけつけ、Sの背後から原判示のようなひぼうの言葉を浴びせながら、右手で同人の左肩を掴んで、これを後方に引きのかせ、すでに差し入れてある約二五〇通のビラを次次にカードラックから引き抜いて捨て去り、Sが自分らの言分もきいてくれとの趣旨を述べて近づくと、これを排除するように肘で同人の胸部辺を一回突いたこと、その後、Sが、被告人Tの体格などからみて力づくではおぼつかないと判断し、同被告人のそばを離れて抜き取られたビラの一部を整理しているうち、かねて迎えに来るように手配しておいた営業用タクシーが到着したので、同七時三〇分ころ、せめて宛名の書いていないビラだけでも出勤する社員に配ろうとして出社の社員にビラを渡していると、被告人Tは、その場に来て、これを阻止するため、右手でSの胸部辺を二回突き、さらに、同人がビラの配布を断念して駐車中のタクシーに乗車しようとするや、同判示のように逃しはしないぞなどと言いながら、同人の手首を掴み、腕を組むように引っ張り、同人を近くの、組合事務所の中に連れこんだこと、そして、組合事務所で詰問や非難を受けたSが、同七時三〇分ころ、用便にかこつけて同所から退出し、便所の中でTの様子をうかがいながら、隙を見て前記タクシーの駐車地点にいたり、後部座席に入って扉をしめた直後、被告人Tは、Sのあとを追いかけ、同所におもむいてタクシーの扉をあけ、逃げようとも逃がさないぞなどと言って右手で同人の左手首を握り、左手でその胸の辺の着衣を掴んで同人を車外に引張り出し、右腕で同人の左腕を抱えるようにして、再度同人を組合事務所に同行させたこと、Sは、そこからしばらくの間同事務所で組合本部の執行委員から追及を受けたのち、一旦開放されて近鉄八尾駅までいたったが、また組合事務所に連れ戻されることとなり、謝罪文などを書かされたうえ、ビラBの内容について取消文を書くように要求されているさい、千葉から会社の第二事務所に電話がかかってきているとのしらせがあったので、組合事務所を出て会社の第二事務所にいたり、電話の用務を終わって会社の構外に退去すべく右会社の第二事務所から正門の方向に向かっていくと、これを見たTおよび本社組合の書記長をしていた被告人Oの両名が、原判示のように相互に意思を通じ合ったうえ、Sをさらに組合事務所に戻らせようとし、荒荒しい言葉を使ってSの前に立ちふさがり、同人を中にはさんでされざれさり両腕を抱え、同社正門付近から職員更衣室の北側にいたるまで約六〇米の構内通路を無理に通行したこと等‥‥明らかに認めることができる。‥‥原判決が‥‥‥右被告人らのSに対する鈴木を対象とした有形力の行使にわたる各行為のうち、右前段における被告人Tの行為が一応暴行罪の要件にあたるものであり、また後段における被告人両名の行為についても、Sがもはや組合事務所へおもむこうとする意思を有していなかったものと認められる点からして、きわめて短い距離であるが、同人の行動の自由を制して同行をしいた部分が、外形的に逮捕罪としての要件を備えているものであるということは、いずれも原判決の判示しているとおりであって、かかる意味での原判決の各認定事実およびこれらに関する構成要件上の評価には、少しも所論のごとき誤りがあったものということはできない。
 ただ右有形力の行使について、終局的な刑罰的評価を決定するにあたっては、これら各行為の形象が一応外形的に違法類型としての要件に該当する場合であっても、所論指摘のとおり、その行為にいたる動機及び目的の正当性、手段および方法の正当性、被害の程度および当該行為によって侵害された法益とこれによって保護されるべき法益との権衡等の諸点からみて、当該行為が法秩序維持の上で許容されるべき限度を越え、その違法の程度において可罰性を帯有するにいたっていないかどうかの点にまで、さらに実質的な考察を進めなければならないものと考えられる。右の観点から、本件の背景をなしている諸事情を考えてみると‥‥労働協約の失効にはじまって千葉工場従業員らによる組合からの脱退とその撤回およびこれに続く第二次脱退と新たな組合結成まで‥‥三者相互の関係は、数箇月のあいだにめまぐるしく変遷を重ね、結局、千葉工場における新たな労働組合の結成を会社側が承認するに及んで、本件当時、本社組合と千葉組合との間の反目対立の感情はかなりの程度に激化していた状況をうかがうことができる‥‥‥‥結局するところ、本件の事態は、本社組合、千葉工場従業員および会社側の三者間における互い自己の立場を有利に導こうという意図と虚実を交えた折衝のもつれから生じた内部紛争とみるべきものであって 、その過程のうちに誤解や偏見が介在したとしても、少なくとも本件被告人両名の行為がいずれも本社組合の幹部として、組合の内部分裂を防ぎ、その団結を固めようととする気持ちから発したもので、S個人に対する私憤や怨恨から出たものではないことは明らかな事実とみなければならない。そして、かかる対立意識をはらんだ労使間又は組合内部における折衝の場面に臨んで、自己の主張を貫こうとする意図のままに、相手方に対し、きわめて軽少な有形力の行使を生ずる事態は、すでに多くの組合活動に絡む紛争において慣行化され、法秩序により許容された限界を著しく逸脱しない限り刑罰法上の問題を生ずるものではないという点はいまや一般の理解に達しているものと考えてさしつかえない。これを本件被告人らの行為についてみるのに、前記のように、外形的行為の形象において、暴行又は逮捕の各罪に定める構成要件に該当することは覆えないにしても、いずれも右のごとき動機と目的に基づき、相手方Sの動きに連れ、それに呼応して、その行動を阻止しようとする態様をもって行われたものであって、同人の身体や行動の自由を直接の侵害目標に定め、積極的に打撃を加え又は拘束を与えたといしう性質のものではなく、かつ、Sにおいても‥‥全般的にその身体行動の自由に決定的な影響を受けたものと認められず、機会があれば従前の行動を継続しようとする企図と態度を終始維持してきた状況をうかがうことができるのである。以上の諸点を総合するならば、所論憲法に保障された問題や、これにら関する危険の切迫と説得行為の有無等に深く論究するまでもなく、被告人両名における各行為は、その目的、態様、被害の程度、これと被告人らが保護しようとした組合の利益との比較権衡及び本件の背景をなしている各事情から実質的に考察する場合には、その違法の程度において過罰性を帯有する犯罪行為とはみなしがたく、したがって、公訴にかかる暴行又は逮捕の各罪につきいずれも罪とならない行為と認めるへべきであって、この点において論旨には理由があり、右罪責を認めた原判決の判断は、判決に影響を及ぼすべき法令の解釈に関する限り誤りをおかしているものとして破棄を免れない。

●日本鉄工所事件最高裁第二小法廷判決(昭50・8・27 刑集29巻7号442頁 判時729号)
   

破棄自判
      
   ‥‥本件公訴事実につき、第一審判決は、暴行、逮捕の事実を認定し、各行為はいずれも全法律秩序の精神から是認し得ず違法であり、弁護人の主張はすべて採用するに由なきものであるとして、各被告人を有罪としたのであるが、原判決は、第一審判決のなした各行為の存在を認めた事実認定及び構成要件上の評価には誤りはないけれども、各行為は、実質的に考察する場合その違法性の程度において可罰性を帯有するにいたるまでの犯罪行為とはみなしがたく、罪とならない行為と認めるべきであるとして、第一審判決を破棄し、各被告人を無罪としたのである。
 ところで、原判決が第一審の認定を維持した本件暴行、逮捕の事実関係の大要は、次のとおりである。
 大阪府八尾市に所在する株式会社FのG労働組合(以下本社組合という。)とこれから脱退した者を中心とするG千葉工場労働組合(以下千葉組合という。)との間の紛争の過程で、昭和四〇年三月一日早朝千葉組合の書記長Hが、先に本社組合が配付した「賃上要求貫徹のため全組合員の団結で分裂攻撃を打破ろう」と題する千葉組合非難のビラに対して千葉組合の言い分を記載した「皆さん千葉工場の私達の本当の気持をわかつて下さい」と題するビラを本社で従業員に配付しようとしたところ、一、当時本社組合の副組合長をしていた被告人Cは、同日午前七時ころ、本社東門保安室前付近で、ビラを配付するHに対し、右手で同人の左肩を掴んでこれを後方に引きのかせ、ひじで同人の胸部付近を一回突き、同七時二〇分ころ、右手で同人の胸部辺を二回突き、ビラ配付を断念してタクシーに乗車しようとする同人の手首を掴み、腕を組むようにして引つ張り、近くの組合事務所に連れ込み、同七時三〇分ころ、口実を設けて逃れ出てタクシーに乗り扉を閉めた同人に対し、扉を開け、右手で同人の左手首を握り左手でその胸の辺の着衣を掴んで車外に引つ張り出し、右腕で同人の左腕を抱えるようにして、再び同人を組合事務所に同行し、二、被告人C及び本社組合の書記長をしていた被告人Iは、Hの配付しようとしたビラの内容について取消文を書かせるため、一旦組合事務所から正門まで出て行つたHを再び同事務所に連れ戻そうと考え、意思を相通じて、同日午後一時三〇分ころ、本社正門付近において、被告人らを振り切つて退去しようとする同人の前に立ちふさがり同人を中にはさんでそれぞれその両腕を抱え、正門付近から職員更衣室北側に至る約六〇メートルの構内通路を約一五分にわたり無理に連行したものである。
 右の本件各行為は、法秩序全体の見地からこれをみるとき(昭和四三年(あ)第八三七号同四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻三号四一八頁参照)、原判決の判示するその動機目的、具体的状況、その他諸般の事情を考慮に入れても、到底許容されるものとはいい難く、本件各行為が可罰的違法性を欠くとして各被告人に対し無罪を言い渡した原判断には法令の違反があり、これが判決に影響を及ぼし、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものであることは明らかである。
 よつて、刑訴法四一一条一号により原判決を全部破棄し、なお、第一審判決は当裁判所の判断と結論において一致しこれを維持すべきものである‥‥。

● コメント(可罰的違法性論による無罪判決を破棄した日本鉄工所事件最高裁判決の意義について)
 
    日本鉄工所事件は刑法プロパーの事件としては最高裁が可罰的違法性を否定した原判決を破棄した最初の判例であり、ターニングポイントになる判例なのでコメントしたい。
   可罰的違法性論とは平野龍一(東大教授)によれば「犯罪が成立するためには、なんらかの意味で違法だというだけでは足りず、その犯罪として刑罰を加えるに足りる程度に違法でなければならない、という考え方である。これは違法性とは程度を付しうる観念であることを前提とし‥‥違法性が単に形式的なものでなく、実質的なものであることを前提としている」(『ジュリスト』313号1965年)。 
   藤木英雄(東大教授)によれば、ある行為が刑罰法規の構成要件に該当するかのごとき外観を呈する場合であっても、実質的な違法性が可罰的な程度に至らないほど微弱であるときは、社会的相当性のある行為として、当該行為の構成要件該当性それ自体が否定されるとするものである(『可罰的違法性』学陽書房1975年の要約)。というものだが、一見リベラルな刑法理論に思えるが、労働刑事事件に積極的に適用していこうとすることが問題なのである。
   可罰的違法性論の提唱者の一人である藤木英雄はさらに「社会的相当行為の理論を援用して、正当な労働争議行為は、犯罪構成要件に該当するけれども刑法三五条により違法性を阻却される場合だけでなく、当初から刑法の威力業務妨害罪、暴行罪、脅迫罪等の構成要件該当性が欠く場合が認められ得る」「労働争議を背景とした行為については刑法のいう暴行の概念の解釈上その特殊性が考慮され、労働争議の常態においては不法な実力行使と認められない有形力の行使は暴行に属さない」とも言う(藤木英雄『可罰的違法性の理論』有信堂1967年 93頁以下)
   問題はこうした学説が、下級審の裁判実務で大きな影響を及ぼし、学説の説くところをはるかにこえて安易に適用される傾向が顕著になったこと。昭和30年代後半以降労働刑事事件を中心に著しい拡大と定着をみ、特に全逓東京中郵事件判決(昭和41・10・26 )、都教組事件・全司法仙台事件( 昭和44・4・2)いずれも大法廷判決が可罰的違法性論を適用して公務員の組合の争議行為につき事実上刑事罰から解放する無罪判決を下したことにより、労働組合主義者を増長させたことである。
   可罰的違法性論について難点として指摘されていたのは、構成要件阻却説に対して、実質的違法性の先行を許す点、違法行為と違法性の区別が不明確、可罰的違法性の欠如により構成要件そのものが欠如するのか、構成要件に該当する事実はあるが該当性が否定されるのかあいまいであること、適用基準が不明確、拡大適用、濫用の危険、刑罰の一般的予防機能を失わせ、事実の縮小認定をもたらす等であった(臼井滋夫「可罰的違法性論に対する批判的検討」『警察学論集』30巻9号 1977年)。
   都教組判決・全司法仙台事件判決は、政府与党の内部より「偏向判決」の声が上がり、昭和44年自民党総務会に「裁判制度に関する調査特別委員会」が設置されただけでなく、昭和46年平賀書簡事件を契機として「左傾団体」青法協批判キャンペーンが巻き起こり、佐藤首相より「偏向判決」是正の使命を担って指名されたタカ派石田和外最高裁長官のリーダーシップで青法協会員裁判官の脱会勧告、任官拒否などが行われることにより、司法の左傾化に歯止めがかかることとなった。その成果の一つが、昭和48・4.・25国労久留米駅事件最高裁大法廷判決で違法性阻却事由の判断について「久留米駅事件方式」という判断方式を案出し、安易な可罰的違法性論の適用を否定する最高裁の態度を明確にしたことである。その流れで日本鉄工所事件判決がある。
   「久留米駅事件方式」とはすなわち「勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行われた犯罪構成要件該当行為について刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたっては、その行為が争議行為に際して行われたものであるという事実を含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、法秩序全体の見地から許容されるべきものか否かを判定しなければならない」というもので、その意味するところについて最高検察庁検事の臼井滋夫は次のように解説する。
  「第一点は、労働者の組織的集団行動としての争議行為自体の正当性に対する労働法上の評価と、その争議行為の際にその目的達成のためになされた労働者の個々の犯罪構成要件該当行為に対する刑法上の違法性判断とを区別する考察態度である。その第二点は、労組法一条二項の適用の有無にかかわらず、刑法上の違法性阻却事由の有無は刑法上の観点から論じられるべきであるという立場を打ち出した点である。その第三点は労働争議の際の行為についても一般原則のとおり、犯罪構成要件該当性に刑法上の違法性の推定することを一般に認めたものと解される点」(臼井滋夫「可罰的違法性論による消極判決を破棄した二つの最高裁労働事件判決」『法律のひろば』29巻3号 1976年)。
   これは実質的違法性論であるけれども、要するに市民刑法の秩序と労組法1条2項の刑事免責とは本質的に相矛盾し衝突する性格のものであるが、これを法益権衡的に調和させるという発想ではなく、原則的に市民刑法秩序を重視したいとのニュアンスのある判断方式とみてよいだろう。市民法秩序を批判し超克しようとするプロレイバーの労働基本権学説を牽制している。可罰的違法性理論については、肯定されるか否に触れていないが、昭和30年代後半から下級審の判断で定着した安易な可罰的違法性理論を適用すべきではないとする最高裁の姿勢を明確にしたものと理解されている。 
   ところで最高裁は、労組法1条2項の刑事免責について板橋事件大法廷判決(昭和24年5月18日刑集三巻六号775頁)で「勤労者の団体交渉においても、刑法所定の暴行罪又は脅迫罪に該当する行為が行われた場合、常に必ず同法三五条の適用があり、かかる行為のすべてが正当化するものとは解することはできない」と判示し、暴行罪又は脅迫罪に該当する行為の刑法三五条適用の余地を否定していない言い方をしていた。しかし判例は最高裁第一小法廷昭25年7月6日刑集四巻七号117頁において「旧労働組合法一条二項の規定は勤労者の団体交渉においても刑法所定の暴行罪又は脅迫罪にあたる行為が行われた場合にまでその適用があることを定めたものでないことは既に当裁判所大法廷の判例とするところであるから(昭和二二年(れ)三一九号同二四年五月一八日大法廷判決判例集三巻七七二頁以下参照)原判決が被告人等の判示所為を暴力行為等処罰に関する法律一条一項‥‥に当るものと‥‥したのは正当といわなければならない。」として前掲大法廷判決を厳格に解釈し、暴行罪・脅迫罪にあたる所為は刑法三五条による刑事免責をうける余地がないという見解がとられている(藤木英雄『可罰的違法性の理論』有信堂 1967年 150~151頁)。
   つまり判例は学説の多数説とは異なり、労組法1条2項の但書「但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。」の「暴力」と刑法上の暴行罪、脅迫罪とはイコールとするものであり、例えば、スクラムを強引に突破しようとする瞬間に相手方の着衣を一回だけ掴んだ行為について、この程度の所作は「暴力の行使」に当たらないとした東北電力大谷発電所電源スト事件東京高裁判決昭和31年7月19日刑集九巻七号776頁)を破棄した、最一小昭33.12.15刑集12巻16号3555頁もそうした趣旨と理解することもできる。
   にもかかわらず、下級審裁判所は可罰的違法性論という抜け道を利用して、労使紛争、労労紛争において、ある程度の暴力が容認されなければせ争議権とはいえないという思想を背景として、事実上ある程度の暴力を肯定する、ミリバントな労働組合に有利な判決を下してきた。
   本件の原判決(大阪高裁)に類似した不法逮捕無罪の先例もある。
   長崎相互銀行事件福岡高裁判決昭37・4.・11(判例集不登載)は組合の内部紛争で分派活動を行う組合員に対する次のような逮捕行為の事件である。
  「‥‥被告人等の所為は、Aの左右からスクラムを組んだようにしてその両腕を組み、又前から肩を一時押さえて数分間その束縛を続けて自由を拘束したにどまり、その間束縛から逃れようとしてもがき騒ぐ同人に対しこれを制止すると共に静かに話し合うのだと申し向けて結局同人の承諾を得、旅館牡丹荘に同行したのであって、他の何等の暴行ないし脅迫行為も行われていないのであるから、かかる情況の下に行われた被告人等の本件所為は、いまだもって違法に人を逮捕したというに足りず‥‥無罪を言渡をした原判決は相当である」(藤木英雄『可罰的違法性』学陽書房 1975年 27頁)とした。
   最高裁第三小法廷判決昭39・3・10(刑集不登載)は、あえて刑訴法411条により職権を発動するまでことはないとして、原判決の結論を是認している。
   上述の日本鉄工所事件控訴審判決においても、本件の暴行、逮捕行為について「きわめて軽少な有形力の行使を生ずる事態は、すでに多くの組合活動に絡む紛争において慣行化され、法秩序により許容された限界を著しく逸脱しない限り刑罰法上の問題を生ずるものではない」とし違法の程度において過罰性を帯有する行為でないとして無罪とした、典型的な可罰的違法性論を適用した判決である。
   なるほど、この程度の軽少な有形力の行使は、1950年代ではこの種の紛争ではあたりまえのようにあったといえるかもしれない。本件はフルボッコにしたわけでも、傷害を負わせたわけでもない、暴行の程度としては軽少でたいしたものではないとはいえる。しかし被害者は両腕を組合役員に抱えられ60メートル連行されたのである。60メートルは、後に掲載する光文社事件と比較しても距離はずっと短い。人身拘束といってもたいした行為ではないといえるかもしれないが、しかし、もし最高裁が原判決を是認してしまえば、労働組合役員が団結防衛という目的で、他組合員等を査問するため、勝手につかまえて連行しても罪に問われない先例をつくることとなり、法秩序全体の見地から許されない行為として原判決を破棄したのは、妥当な判断と考える。
  人身の自由、行動の自由は市民法秩序においてはとても重要な価値と考えられるからである。裁判所による可罰的違法性論の濫用は、労働組合は団結に逆らう者に対してあるていどの有形力行使をやってもよい、人身を拘束してもよいという、市民法秩序に明らかに反するメッセージを発していたといえる。これに歯止めをかけたことが本判決の意義といえる。
 
 
   私は、労組法1条2項の但書にある暴力は免責されないというのは建前程度のものにすぎず、事実上とくにひどいものでなければ暴力を免責しようという法思想が少なくとも昭和48年ぐらいまで広く受け入れられていたということは、労働組合の威圧力を増した。逆らわないことが処世術のような人心を荒廃させる要因にもなったと考える。
 そもそも我が国の労働法は、争議行為の法的保護として、労組法1条2項で正当な争議行為の刑事免責を定め、同8条の正当な争議行為を受けた使用者はこれによって受けた損害を労働組合に賠償請求することはできないという民事免責があり、同7条1項では労働組合の組合員であることと並んで、労働組合の正当な行為をしたことを理由として組合員に対し不利益な扱いをすることを不当労働行為に該当するとしている。さらに憲法28条でいわゆる労働基本権を保障しているのであるが、それは諸外国の法制と比較しても分厚い争議行為の保護であり、私はその全てに懐疑的なのであって、各論はこれから明示していきたいと思うが、そもそも市民法秩序に反する法的保護に値しないものを過剰に保護している感が強い。
 一般に刑事免責は共謀罪から解放したイギリス1875年共謀罪財産保護法、民事免責はイギリスの1906年労働争議法を継受したものといわれている。。しかし、刑事免責を確立した共謀罪財産保護法は、実行されずとも犯罪となる共謀罪からの解放を主眼し、暴力犯罪を免責しておらず、他人を強制することも違法としており、なによりも当時においてはピースフルピケッティングさえ違法である。従って労組法1条2項は、イギリスの刑事免責を継受したものとされるが、実質的に過大に争議行為を保護する趣旨のものとなっているのではないか。
 もっとも共謀罪財産保護法は、脅しthreats,嫌がらせmolestation , 妨害obstructionをも犯罪の範疇とする1971年刑事修正法を廃止していることも事実である。たが、暴力・脅迫(intimidation)・しつように不穏な尾行・器具・衣類の隠匿・監視包囲を禁止する規定をおいており、説得を伴うピケッティングを違法としているのである。そうすると暴力犯罪であっても刑事免責の対象となるとか、あるいは強制力は暴力ではないから免責されると主張する我が国のプロレイバー法学はやはり癌のような異常なものといえるのである。
 従って「久留米駅事件方式」は我が国の争議行為を過剰に保護する労働法やプロレイバー労働法学の歪みを矯正するためには、最低限必要な判断方式と考え、その意義を認めるものであるが、それが根本的な解決策であるわけではない。大正時代以来の労働法体系のオーバーホールこそ必要なことである。

参考文献 
 可罰的違法性論批判の論者
10031-1河上和雄「いわゆる可罰的違法性について-その七つの罪」『警察学論集』27巻6号 1974年
10031-2臼井滋夫「可罰的違法性論による消極判決を破棄した二つの最高裁労働事件判決」『法律のひろば』29巻3号 1976年
10031-3臼井滋夫「『可罰的違法性論』の批判」『警察学論集』30巻9号 1977年
 可罰的違法性論支持の論者
10031-4米田泰邦「可罰的違法性をめぐる実体的、手続法的問題」『判例タイムズ』26巻13号 1975年
10031-5米田泰邦「可罰的違法性と最近の最高裁判例」『判例タイムズ』27巻111号 1976年
10032-6中山研一「最近の可罰的違法性論批判-臼井論文の批判的検討」『同志社法学』30巻2・3号 1978年(*ネット公開論文)
10032-7(実際のファイル9594)角田邦重「最近の最高裁におけるピケット論の動向(上)-日本鉄工労組、光文社、動労鳥栖駅事件を契機として-」『労働判例』245角田邦重「最近の最高裁におけるピケット論の動向(下)-日本鉄工労組、光文社、動労鳥栖駅事件を契機として-」『労働判例』246

10032-8 井上祐司「最高裁四・二判決と可罰的違法性論」『法律時報』四四巻一三号1972年

  1-144藤木英雄『可罰的違法性』学陽書房1980(古書)
  1-145藤木英雄『可罰的違法性の理論』有信堂1967(古書)

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