公務員に労働基本権付与絶対反対-政府は巨悪と手を結ぶな

無料ブログはココログ

ニュース(豪州・韓国等)

« 入手資料整理120 | トップページ | そんなばかな 優良企業なのに »

2013/08/11

入手資料整理121

争議行為及びピケッティング等の基本的な刑事判例その7

10031 日本鉄工所事件 最二小判昭50・8・27 刑集29巻7号442頁 判時729号

  本件は大阪府八尾市に所在する日本鉄工所の日本鉄工所労働組合(以下本社組合という)とこれから脱退した者を中心とする日本鉄工所千葉工場労働組合(以下千葉組合)
  との紛争の過程で労働組合役員による他組合員への以下のような断続的暴行、不法逮捕行為がなされたが、これを可罰的違法性に欠いているとして無罪とした原判決を破棄し、法秩序全体の見地からみて許されないと断じたものである。
 
    1.昭和40年3月1日午前7時頃被告人社本社組合副委員長Tは、本社東門保安室前で「皆さん、千葉工場の私達の本当の気持をわかって下さい」と題するビラを配布する千葉労組書記長Sに対し、右手で同人の左肩掴んでこれを後方に引きのかせ、ひじで同人の胸部付近を一回突き、同七時二〇分ころ、右手で同人の胸部辺を二回突き、ビラ配付を断念してタクシーに乗車しようとする同人の手首を掴み、腕を組むようにして引っ張り、近くの組合事務所に連れ込み、同七時三〇分ころ、口実を設けて逃げ出てタクシーに乗り扉を閉めた同人に対し、扉を開け、右手で同人の左手首を握り左手でその胸の辺の着衣を掴んで車外に引っ張り出し、右腕で同人の左腕を抱えるようにして、再び同人を組合事務所に同行し、
   2. 被告人本社組合副委員長T及び同組合書記長Оは、Sの配布しようとしたビラの内容について取消文を書かせるため、一旦組合事務所に正門まで出て行ったSを再び同事務所に連れ戻そうと考え、意思を相通じて、同日午後一時三〇分ころ、本社正門付近において、被告人らを振りり切って退去しようとする同人の前に立ちふさがり同人を中にはさんでそれぞれの両腕を抱え、正門付近から職員更衣室北側に至る約六〇メートルの構内通路を約一五分にわたり無理に連行した。
 
   一審(大阪地裁昭42・4・27)は有罪( 被告人T懲役三月、被告人О懲役二月)であったが、原判決控訴審判決(大阪高裁昭46・4・21)は、被告人Tの行為が一応暴行罪の要件にあたるとし、被告人T・О両名による行為もきわめて短い距離であるが、同人の行動の自由を制して同行をしいた部分が、外形的に逮捕罪としての要件を備えているとしながら、「相手方に対し、きわめて軽少な有形力の行使を生ずる事態は、すでに多くの組合活動に絡む紛争において慣行化され、法秩序により許容された限界を著しく逸脱しない限り刑罰法上の問題を生ずるものではないという点はいまや一般の理解に達している」としたうえで「違法性の程度において過罰性を帯有する犯罪行為とみなしがた」いとして無罪判決が下された。
   しかし上告審、最高裁第二小法廷判決は、検察官の上告を認容し「久留米駅事件方式」により、本件暴行行為、逮捕行為は法秩序全体の見地から到底許されないとして原判決を破棄した。

 
 
●原判決-日本鉄工所事件大阪高裁判決(昭46・4・21)抜粋

 無罪

‥‥株式会社日本鉄工所の従業員中、その千葉工場に派遣された十数名の者が、曲折を経て結局本社従業員で構成されている労働組合から脱退し、千葉工場の従業員のみで新たに労働組合を作り、本件被害者とされているSがその書記長の地位についたこと、そして、昭和四〇年二月二七日右千葉組合の結成に関する調印などの用務を帯びて大阪の本社におもむいたSが、来阪の機会を利用して、さきに本社の組合が配布した原判示ビラAに反駁する趣旨の同判示ビラBを配布しようと考え、同年三月一日午前六時ころ、封筒に入れ、宛名を書いて準備した同ビラ四〇〇枚を持参して東門にいたり、保安係の制止にもかまわず、従業員のカードラックに右ビラを差し入れたはじめたこと、これを知った本社組合員の通報により、当時本社組合の副委員長をしていた被告人Tは、午前七時ころ急きょ自転車で右本社東門にかけつけ、Sの背後から原判示のようなひぼうの言葉を浴びせながら、右手で同人の左肩を掴んで、これを後方に引きのかせ、すでに差し入れてある約二五〇通のビラを次次にカードラックから引き抜いて捨て去り、Sが自分らの言分もきいてくれとの趣旨を述べて近づくと、これを排除するように肘で同人の胸部辺を一回突いたこと、その後、Sが、被告人Tの体格などからみて力づくではおぼつかないと判断し、同被告人のそばを離れて抜き取られたビラの一部を整理しているうち、かねて迎えに来るように手配しておいた営業用タクシーが到着したので、同七時三〇分ころ、せめて宛名の書いていないビラだけでも出勤する社員に配ろうとして出社の社員にビラを渡していると、被告人Tは、その場に来て、これを阻止するため、右手でSの胸部辺を二回突き、さらに、同人がビラの配布を断念して駐車中のタクシーに乗車しようとするや、同判示のように逃しはしないぞなどと言いながら、同人の手首を掴み、腕を組むように引っ張り、同人を近くの、組合事務所の中に連れこんだこと、そして、組合事務所で詰問や非難を受けたSが、同七時三〇分ころ、用便にかこつけて同所から退出し、便所の中でTの様子をうかがいながら、隙を見て前記タクシーの駐車地点にいたり、後部座席に入って扉をしめた直後、被告人Tは、Sのあとを追いかけ、同所におもむいてタクシーの扉をあけ、逃げようとも逃がさないぞなどと言って右手で同人の左手首を握り、左手でその胸の辺の着衣を掴んで同人を車外に引張り出し、右腕で同人の左腕を抱えるようにして、再度同人を組合事務所に同行させたこと、Sは、そこからしばらくの間同事務所で組合本部の執行委員から追及を受けたのち、一旦開放されて近鉄八尾駅までいたったが、また組合事務所に連れ戻されることとなり、謝罪文などを書かされたうえ、ビラBの内容について取消文を書くように要求されているさい、千葉から会社の第二事務所に電話がかかってきているとのしらせがあったので、組合事務所を出て会社の第二事務所にいたり、電話の用務を終わって会社の構外に退去すべく右会社の第二事務所から正門の方向に向かっていくと、これを見たTおよび本社組合の書記長をしていた被告人Oの両名が、原判示のように相互に意思を通じ合ったうえ、Sをさらに組合事務所に戻らせようとし、荒荒しい言葉を使ってSの前に立ちふさがり、同人を中にはさんでされざれさり両腕を抱え、同社正門付近から職員更衣室の北側にいたるまで約六〇米の構内通路を無理に通行したこと等‥‥明らかに認めることができる。‥‥原判決が‥‥‥右被告人らのSに対する鈴木を対象とした有形力の行使にわたる各行為のうち、右前段における被告人Tの行為が一応暴行罪の要件にあたるものであり、また後段における被告人両名の行為についても、Sがもはや組合事務所へおもむこうとする意思を有していなかったものと認められる点からして、きわめて短い距離であるが、同人の行動の自由を制して同行をしいた部分が、外形的に逮捕罪としての要件を備えているものであるということは、いずれも原判決の判示しているとおりであって、かかる意味での原判決の各認定事実およびこれらに関する構成要件上の評価には、少しも所論のごとき誤りがあったものということはできない。
 ただ右有形力の行使について、終局的な刑罰的評価を決定するにあたっては、これら各行為の形象が一応外形的に違法類型としての要件に該当する場合であっても、所論指摘のとおり、その行為にいたる動機及び目的の正当性、手段および方法の正当性、被害の程度および当該行為によって侵害された法益とこれによって保護されるべき法益との権衡等の諸点からみて、当該行為が法秩序維持の上で許容されるべき限度を越え、その違法の程度において可罰性を帯有するにいたっていないかどうかの点にまで、さらに実質的な考察を進めなければならないものと考えられる。右の観点から、本件の背景をなしている諸事情を考えてみると‥‥労働協約の失効にはじまって千葉工場従業員らによる組合からの脱退とその撤回およびこれに続く第二次脱退と新たな組合結成まで‥‥三者相互の関係は、数箇月のあいだにめまぐるしく変遷を重ね、結局、千葉工場における新たな労働組合の結成を会社側が承認するに及んで、本件当時、本社組合と千葉組合との間の反目対立の感情はかなりの程度に激化していた状況をうかがうことができる‥‥‥‥結局するところ、本件の事態は、本社組合、千葉工場従業員および会社側の三者間における互い自己の立場を有利に導こうという意図と虚実を交えた折衝のもつれから生じた内部紛争とみるべきものであって 、その過程のうちに誤解や偏見が介在したとしても、少なくとも本件被告人両名の行為がいずれも本社組合の幹部として、組合の内部分裂を防ぎ、その団結を固めようととする気持ちから発したもので、S個人に対する私憤や怨恨から出たものではないことは明らかな事実とみなければならない。そして、かかる対立意識をはらんだ労使間又は組合内部における折衝の場面に臨んで、自己の主張を貫こうとする意図のままに、相手方に対し、きわめて軽少な有形力の行使を生ずる事態は、すでに多くの組合活動に絡む紛争において慣行化され、法秩序により許容された限界を著しく逸脱しない限り刑罰法上の問題を生ずるものではないという点はいまや一般の理解に達しているものと考えてさしつかえない。これを本件被告人らの行為についてみるのに、前記のように、外形的行為の形象において、暴行又は逮捕の各罪に定める構成要件に該当することは覆えないにしても、いずれも右のごとき動機と目的に基づき、相手方Sの動きに連れ、それに呼応して、その行動を阻止しようとする態様をもって行われたものであって、同人の身体や行動の自由を直接の侵害目標に定め、積極的に打撃を加え又は拘束を与えたといしう性質のものではなく、かつ、Sにおいても‥‥全般的にその身体行動の自由に決定的な影響を受けたものと認められず、機会があれば従前の行動を継続しようとする企図と態度を終始維持してきた状況をうかがうことができるのである。以上の諸点を総合するならば、所論憲法に保障された問題や、これにら関する危険の切迫と説得行為の有無等に深く論究するまでもなく、被告人両名における各行為は、その目的、態様、被害の程度、これと被告人らが保護しようとした組合の利益との比較権衡及び本件の背景をなしている各事情から実質的に考察する場合には、その違法の程度において過罰性を帯有する犯罪行為とはみなしがたく、したがって、公訴にかかる暴行又は逮捕の各罪につきいずれも罪とならない行為と認めるへべきであって、この点において論旨には理由があり、右罪責を認めた原判決の判断は、判決に影響を及ぼすべき法令の解釈に関する限り誤りをおかしているものとして破棄を免れない。

●日本鉄工所事件最高裁第二小法廷判決(昭50・8・27 刑集29巻7号442頁 判時729号)
   

破棄自判
      
   ‥‥本件公訴事実につき、第一審判決は、暴行、逮捕の事実を認定し、各行為はいずれも全法律秩序の精神から是認し得ず違法であり、弁護人の主張はすべて採用するに由なきものであるとして、各被告人を有罪としたのであるが、原判決は、第一審判決のなした各行為の存在を認めた事実認定及び構成要件上の評価には誤りはないけれども、各行為は、実質的に考察する場合その違法性の程度において可罰性を帯有するにいたるまでの犯罪行為とはみなしがたく、罪とならない行為と認めるべきであるとして、第一審判決を破棄し、各被告人を無罪としたのである。
 ところで、原判決が第一審の認定を維持した本件暴行、逮捕の事実関係の大要は、次のとおりである。
 大阪府八尾市に所在する株式会社FのG労働組合(以下本社組合という。)とこれから脱退した者を中心とするG千葉工場労働組合(以下千葉組合という。)との間の紛争の過程で、昭和四〇年三月一日早朝千葉組合の書記長Hが、先に本社組合が配付した「賃上要求貫徹のため全組合員の団結で分裂攻撃を打破ろう」と題する千葉組合非難のビラに対して千葉組合の言い分を記載した「皆さん千葉工場の私達の本当の気持をわかつて下さい」と題するビラを本社で従業員に配付しようとしたところ、一、当時本社組合の副組合長をしていた被告人Cは、同日午前七時ころ、本社東門保安室前付近で、ビラを配付するHに対し、右手で同人の左肩を掴んでこれを後方に引きのかせ、ひじで同人の胸部付近を一回突き、同七時二〇分ころ、右手で同人の胸部辺を二回突き、ビラ配付を断念してタクシーに乗車しようとする同人の手首を掴み、腕を組むようにして引つ張り、近くの組合事務所に連れ込み、同七時三〇分ころ、口実を設けて逃れ出てタクシーに乗り扉を閉めた同人に対し、扉を開け、右手で同人の左手首を握り左手でその胸の辺の着衣を掴んで車外に引つ張り出し、右腕で同人の左腕を抱えるようにして、再び同人を組合事務所に同行し、二、被告人C及び本社組合の書記長をしていた被告人Iは、Hの配付しようとしたビラの内容について取消文を書かせるため、一旦組合事務所から正門まで出て行つたHを再び同事務所に連れ戻そうと考え、意思を相通じて、同日午後一時三〇分ころ、本社正門付近において、被告人らを振り切つて退去しようとする同人の前に立ちふさがり同人を中にはさんでそれぞれその両腕を抱え、正門付近から職員更衣室北側に至る約六〇メートルの構内通路を約一五分にわたり無理に連行したものである。
 右の本件各行為は、法秩序全体の見地からこれをみるとき(昭和四三年(あ)第八三七号同四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻三号四一八頁参照)、原判決の判示するその動機目的、具体的状況、その他諸般の事情を考慮に入れても、到底許容されるものとはいい難く、本件各行為が可罰的違法性を欠くとして各被告人に対し無罪を言い渡した原判断には法令の違反があり、これが判決に影響を及ぼし、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものであることは明らかである。
 よつて、刑訴法四一一条一号により原判決を全部破棄し、なお、第一審判決は当裁判所の判断と結論において一致しこれを維持すべきものである‥‥。

● コメント(可罰的違法性論による無罪判決を破棄した日本鉄工所事件最高裁判決の意義について)
 
    日本鉄工所事件は刑法プロパーの事件としては最高裁が可罰的違法性を否定した原判決を破棄した最初の判例であり、ターニングポイントになる判例なのでコメントしたい。
   可罰的違法性論とは平野龍一(東大教授)によれば「犯罪が成立するためには、なんらかの意味で違法だというだけでは足りず、その犯罪として刑罰を加えるに足りる程度に違法でなければならない、という考え方である。これは違法性とは程度を付しうる観念であることを前提とし‥‥違法性が単に形式的なものでなく、実質的なものであることを前提としている」(『ジュリスト』313号1965年)。 
   藤木英雄(東大教授)によれば、ある行為が刑罰法規の構成要件に該当するかのごとき外観を呈する場合であっても、実質的な違法性が可罰的な程度に至らないほど微弱であるときは、社会的相当性のある行為として、当該行為の構成要件該当性それ自体が否定されるとするものである(『可罰的違法性』学陽書房1975年の要約)。というものだが、一見リベラルな刑法理論に思えるが、労働刑事事件に積極的に適用していこうとすることが問題なのである。
   可罰的違法性論の提唱者の一人である藤木英雄はさらに「社会的相当行為の理論を援用して、正当な労働争議行為は、犯罪構成要件に該当するけれども刑法三五条により違法性を阻却される場合だけでなく、当初から刑法の威力業務妨害罪、暴行罪、脅迫罪等の構成要件該当性が欠く場合が認められ得る」「労働争議を背景とした行為については刑法のいう暴行の概念の解釈上その特殊性が考慮され、労働争議の常態においては不法な実力行使と認められない有形力の行使は暴行に属さない」とも言う(藤木英雄『可罰的違法性の理論』有信堂1967年 93頁以下)
   問題はこうした学説が、下級審の裁判実務で大きな影響を及ぼし、学説の説くところをはるかにこえて安易に適用される傾向が顕著になったこと。昭和30年代後半以降労働刑事事件を中心に著しい拡大と定着をみ、特に全逓東京中郵事件判決(昭和41・10・26 )、都教組事件・全司法仙台事件( 昭和44・4・2)いずれも大法廷判決が可罰的違法性論を適用して公務員の組合の争議行為につき事実上刑事罰から解放する無罪判決を下したことにより、労働組合主義者を増長させたことである。
   可罰的違法性論について難点として指摘されていたのは、構成要件阻却説に対して、実質的違法性の先行を許す点、違法行為と違法性の区別が不明確、可罰的違法性の欠如により構成要件そのものが欠如するのか、構成要件に該当する事実はあるが該当性が否定されるのかあいまいであること、適用基準が不明確、拡大適用、濫用の危険、刑罰の一般的予防機能を失わせ、事実の縮小認定をもたらす等であった(臼井滋夫「可罰的違法性論に対する批判的検討」『警察学論集』30巻9号 1977年)。
   都教組判決・全司法仙台事件判決は、政府与党の内部より「偏向判決」の声が上がり、昭和44年自民党総務会に「裁判制度に関する調査特別委員会」が設置されただけでなく、昭和46年平賀書簡事件を契機として「左傾団体」青法協批判キャンペーンが巻き起こり、佐藤首相より「偏向判決」是正の使命を担って指名されたタカ派石田和外最高裁長官のリーダーシップで青法協会員裁判官の脱会勧告、任官拒否などが行われることにより、司法の左傾化に歯止めがかかることとなった。その成果の一つが、昭和48・4.・25国労久留米駅事件最高裁大法廷判決で違法性阻却事由の判断について「久留米駅事件方式」という判断方式を案出し、安易な可罰的違法性論の適用を否定する最高裁の態度を明確にしたことである。その流れで日本鉄工所事件判決がある。
   「久留米駅事件方式」とはすなわち「勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行われた犯罪構成要件該当行為について刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたっては、その行為が争議行為に際して行われたものであるという事実を含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、法秩序全体の見地から許容されるべきものか否かを判定しなければならない」というもので、その意味するところについて最高検察庁検事の臼井滋夫は次のように解説する。
  「第一点は、労働者の組織的集団行動としての争議行為自体の正当性に対する労働法上の評価と、その争議行為の際にその目的達成のためになされた労働者の個々の犯罪構成要件該当行為に対する刑法上の違法性判断とを区別する考察態度である。その第二点は、労組法一条二項の適用の有無にかかわらず、刑法上の違法性阻却事由の有無は刑法上の観点から論じられるべきであるという立場を打ち出した点である。その第三点は労働争議の際の行為についても一般原則のとおり、犯罪構成要件該当性に刑法上の違法性の推定することを一般に認めたものと解される点」(臼井滋夫「可罰的違法性論による消極判決を破棄した二つの最高裁労働事件判決」『法律のひろば』29巻3号 1976年)。
   これは実質的違法性論であるけれども、要するに市民刑法の秩序と労組法1条2項の刑事免責とは本質的に相矛盾し衝突する性格のものであるが、これを法益権衡的に調和させるという発想ではなく、原則的に市民刑法秩序を重視したいとのニュアンスのある判断方式とみてよいだろう。市民法秩序を批判し超克しようとするプロレイバーの労働基本権学説を牽制している。可罰的違法性理論については、肯定されるか否に触れていないが、昭和30年代後半から下級審の判断で定着した安易な可罰的違法性理論を適用すべきではないとする最高裁の姿勢を明確にしたものと理解されている。 
   ところで最高裁は、労組法1条2項の刑事免責について板橋事件大法廷判決(昭和24年5月18日刑集三巻六号775頁)で「勤労者の団体交渉においても、刑法所定の暴行罪又は脅迫罪に該当する行為が行われた場合、常に必ず同法三五条の適用があり、かかる行為のすべてが正当化するものとは解することはできない」と判示し、暴行罪又は脅迫罪に該当する行為の刑法三五条適用の余地を否定していない言い方をしていた。しかし判例は最高裁第一小法廷昭25年7月6日刑集四巻七号117頁において「旧労働組合法一条二項の規定は勤労者の団体交渉においても刑法所定の暴行罪又は脅迫罪にあたる行為が行われた場合にまでその適用があることを定めたものでないことは既に当裁判所大法廷の判例とするところであるから(昭和二二年(れ)三一九号同二四年五月一八日大法廷判決判例集三巻七七二頁以下参照)原判決が被告人等の判示所為を暴力行為等処罰に関する法律一条一項‥‥に当るものと‥‥したのは正当といわなければならない。」として前掲大法廷判決を厳格に解釈し、暴行罪・脅迫罪にあたる所為は刑法三五条による刑事免責をうける余地がないという見解がとられている(藤木英雄『可罰的違法性の理論』有信堂 1967年 150~151頁)。
   つまり判例は学説の多数説とは異なり、労組法1条2項の但書「但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。」の「暴力」と刑法上の暴行罪、脅迫罪とはイコールとするものであり、例えば、スクラムを強引に突破しようとする瞬間に相手方の着衣を一回だけ掴んだ行為について、この程度の所作は「暴力の行使」に当たらないとした東北電力大谷発電所電源スト事件東京高裁判決昭和31年7月19日刑集九巻七号776頁)を破棄した、最一小昭33.12.15刑集12巻16号3555頁もそうした趣旨と理解することもできる。
   にもかかわらず、下級審裁判所は可罰的違法性論という抜け道を利用して、労使紛争、労労紛争において、ある程度の暴力が容認されなければせ争議権とはいえないという思想を背景として、事実上ある程度の暴力を肯定する、ミリバントな労働組合に有利な判決を下してきた。
   本件の原判決(大阪高裁)に類似した不法逮捕無罪の先例もある。
   長崎相互銀行事件福岡高裁判決昭37・4.・11(判例集不登載)は組合の内部紛争で分派活動を行う組合員に対する次のような逮捕行為の事件である。
  「‥‥被告人等の所為は、Aの左右からスクラムを組んだようにしてその両腕を組み、又前から肩を一時押さえて数分間その束縛を続けて自由を拘束したにどまり、その間束縛から逃れようとしてもがき騒ぐ同人に対しこれを制止すると共に静かに話し合うのだと申し向けて結局同人の承諾を得、旅館牡丹荘に同行したのであって、他の何等の暴行ないし脅迫行為も行われていないのであるから、かかる情況の下に行われた被告人等の本件所為は、いまだもって違法に人を逮捕したというに足りず‥‥無罪を言渡をした原判決は相当である」(藤木英雄『可罰的違法性』学陽書房 1975年 27頁)とした。
   最高裁第三小法廷判決昭39・3・10(刑集不登載)は、あえて刑訴法411条により職権を発動するまでことはないとして、原判決の結論を是認している。
   上述の日本鉄工所事件控訴審判決においても、本件の暴行、逮捕行為について「きわめて軽少な有形力の行使を生ずる事態は、すでに多くの組合活動に絡む紛争において慣行化され、法秩序により許容された限界を著しく逸脱しない限り刑罰法上の問題を生ずるものではない」とし違法の程度において過罰性を帯有する行為でないとして無罪とした、典型的な可罰的違法性論を適用した判決である。
   なるほど、この程度の軽少な有形力の行使は、1950年代ではこの種の紛争ではあたりまえのようにあったといえるかもしれない。本件はフルボッコにしたわけでも、傷害を負わせたわけでもない、暴行の程度としては軽少でたいしたものではないとはいえる。しかし被害者は両腕を組合役員に抱えられ60メートル連行されたのである。60メートルは、後に掲載する光文社事件と比較しても距離はずっと短い。人身拘束といってもたいした行為ではないといえるかもしれないが、しかし、もし最高裁が原判決を是認してしまえば、労働組合役員が団結防衛という目的で、他組合員等を査問するため、勝手につかまえて連行しても罪に問われない先例をつくることとなり、法秩序全体の見地から許されない行為として原判決を破棄したのは、妥当な判断と考える。
  人身の自由、行動の自由は市民法秩序においてはとても重要な価値と考えられるからである。裁判所による可罰的違法性論の濫用は、労働組合は団結に逆らう者に対してあるていどの有形力行使をやってもよい、人身を拘束してもよいという、市民法秩序に明らかに反するメッセージを発していたといえる。これに歯止めをかけたことが本判決の意義といえる。
 
 
   私は、労組法1条2項の但書にある暴力は免責されないというのは建前程度のものにすぎず、事実上とくにひどいものでなければ暴力を免責しようという法思想が少なくとも昭和48年ぐらいまで広く受け入れられていたということは、労働組合の威圧力を増した。逆らわないことが処世術のような人心を荒廃させる要因にもなったと考える。
 そもそも我が国の労働法は、争議行為の法的保護として、労組法1条2項で正当な争議行為の刑事免責を定め、同8条の正当な争議行為を受けた使用者はこれによって受けた損害を労働組合に賠償請求することはできないという民事免責があり、同7条1項では労働組合の組合員であることと並んで、労働組合の正当な行為をしたことを理由として組合員に対し不利益な扱いをすることを不当労働行為に該当するとしている。さらに憲法28条でいわゆる労働基本権を保障しているのであるが、それは諸外国の法制と比較しても分厚い争議行為の保護であり、私はその全てに懐疑的なのであって、各論はこれから明示していきたいと思うが、そもそも市民法秩序に反する法的保護に値しないものを過剰に保護している感が強い。
 一般に刑事免責は共謀罪から解放したイギリス1875年共謀罪財産保護法、民事免責はイギリスの1906年労働争議法を継受したものといわれている。。しかし、刑事免責を確立した共謀罪財産保護法は、実行されずとも犯罪となる共謀罪からの解放を主眼し、暴力犯罪を免責しておらず、他人を強制することも違法としており、なによりも当時においてはピースフルピケッティングさえ違法である。従って労組法1条2項は、イギリスの刑事免責を継受したものとされるが、実質的に過大に争議行為を保護する趣旨のものとなっているのではないか。
 もっとも共謀罪財産保護法は、脅しthreats,嫌がらせmolestation , 妨害obstructionをも犯罪の範疇とする1971年刑事修正法を廃止していることも事実である。たが、暴力・脅迫(intimidation)・しつように不穏な尾行・器具・衣類の隠匿・監視包囲を禁止する規定をおいており、説得を伴うピケッティングを違法としているのである。そうすると暴力犯罪であっても刑事免責の対象となるとか、あるいは強制力は暴力ではないから免責されると主張する我が国のプロレイバー法学はやはり癌のような異常なものといえるのである。
 従って「久留米駅事件方式」は我が国の争議行為を過剰に保護する労働法やプロレイバー労働法学の歪みを矯正するためには、最低限必要な判断方式と考え、その意義を認めるものであるが、それが根本的な解決策であるわけではない。大正時代以来の労働法体系のオーバーホールこそ必要なことである。

参考文献 
 可罰的違法性論批判の論者
10031-1河上和雄「いわゆる可罰的違法性について-その七つの罪」『警察学論集』27巻6号 1974年
10031-2臼井滋夫「可罰的違法性論による消極判決を破棄した二つの最高裁労働事件判決」『法律のひろば』29巻3号 1976年
10031-3臼井滋夫「『可罰的違法性論』の批判」『警察学論集』30巻9号 1977年
 可罰的違法性論支持の論者
10031-4米田泰邦「可罰的違法性をめぐる実体的、手続法的問題」『判例タイムズ』26巻13号 1975年
10031-5米田泰邦「可罰的違法性と最近の最高裁判例」『判例タイムズ』27巻111号 1976年
10032-6中山研一「最近の可罰的違法性論批判-臼井論文の批判的検討」『同志社法学』30巻2・3号 1978年(*ネット公開論文)
10032-7(実際のファイル9594)角田邦重「最近の最高裁におけるピケット論の動向(上)-日本鉄工労組、光文社、動労鳥栖駅事件を契機として-」『労働判例』245角田邦重「最近の最高裁におけるピケット論の動向(下)-日本鉄工労組、光文社、動労鳥栖駅事件を契機として-」『労働判例』246

10032-8 井上祐司「最高裁四・二判決と可罰的違法性論」『法律時報』四四巻一三号1972年

  1-144藤木英雄『可罰的違法性』学陽書房1980(古書)
  1-145藤木英雄『可罰的違法性の理論』有信堂1967(古書)

« 入手資料整理120 | トップページ | そんなばかな 優良企業なのに »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

DS, did you see Alafair Burke’s piece in HuffPo on Monday regarding the jury instructions?

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 入手資料整理121:

« 入手資料整理120 | トップページ | そんなばかな 優良企業なのに »

最近のトラックバック

2019年11月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

世界旅行・建築