ホビー・ロビーストアズ判決について(2)
今回の判決は、宗教的信念にもとづいて、家業を経営する権利を明らかにしたものとされ、単に宗教の自由というだけでなく、スモールビジネスにとっても良い判決である 自分の信念に従ってビジネスを生き、行うことが自由であるべきことそれはアメリカの価値観です。 http://www.becketfund.org/hobbylobby/
そもそも自由企業体制のもとでは、企業年金、医療保険、社宅、レクリエーション施設、ストックオプトション、労災補償、有給休暇制度(アメリカでは今日でも法定有給休暇制度はない)その他もろもろの従業員福祉制度とは、本来企業の労務対策として行われたものであり、日本的経営といわれる経営家族主義ももとは南部のカロライナなどの繊維産業などの温情主義的経営を模倣したものである。1920年代に洗練されたものとなり、ウェルフェアキャピタリズムといわれる。それは労働組合の組織化から企業を防衛し、忠誠心のある従業員を確保するための戦略だった。企業はそれが自らの利益になると考えやってきたことで、本来、企業の経営方針について政府がおしつける性質のものではないのである。 今日では自由企業体制に反し、例えば公民権タイトル7のように人種、皮膚の色、出身国、宗教、性別で雇用上の差別を禁止するなど、経営者の裁量に制約を課しているが、本来の契約の自由、自由企業体制という観点では、雇用主がどのような人を雇用し、昇進させ、解雇するかは自由であるべきであり、リチャード・A・エプスタインのように、公民権法についても批判的な見解がある。
そのような自由企業体制を信奉する立場では、オバマケアは違憲にしてたたきつぶすのが最善だったとおもうが、2012年に最高裁は5対4でロバーツ最高裁長官の政治的配慮とも思えるようなばかげた合憲判断(National Federation of Independent Business v. Sebelius)を下したのである。しかし今回は一部を違法としたことで、総じていえばバランスをとったというか、反オバマ派にとって一矢報いたと云うところである。
ホビー・ ロビーとは、フルタイムの従業員が13000人、全米41州で600近い店舗を展開する。売り場面積がとてつもなく広く、手芸店、服地店、ファンシーショップ、骨董品店、陶器店、DIYなどを一堂に集めたような http://homepage3.nifty.com/breath-taking/chicago/chicago06.htmカテゴリーキラーという業態と考えられるが、経営者一族は敬虔なクリスチャン (ペンテコステ派の一派アッセンブリーズ・オブ・ゴッド)で、神を称える為、聖書の原則に一致した方法で経営しているということである。なぜか、バーコードスキャナーを使わない、オンライン販売も積極的でないにもかかわらず競争の激しい業界で成功しているのはすごい。
ダラスの店舗を紹介しているブログhttp://chipmonk.blog90.fc2.com/blog-entry-73.htmlを見たが、なるほど品揃えが豊富で整然と陳列された感じのよい店である。 この判決の影響についてはよくわからない。アリート判事の法廷意見は非公開企業を定義 してないが、タイムの記事 http://time.com/2941323/supreme-court-contraception-ruling-hobby-lobby/によると内国債入庁の定義では5人以下の人々が会社の半分以上を所有する企業を「非公開企業」という。「非公開企業はアメリカのビジネスの90%以上を構成し、労働力のおよそ52%が非公開企業で働いている、ただしオバマケアは、50人以上の社員を有する企業に健康保険を提供するように要求するもので、それより小さい企業は初めから適用除外である。
非公開企業として有名なのはDell, Cargill, Mars, Heinz, Dole, Kohler, Hilton, Bloombergなど、こうした企業のうち、宗教的理念を経営方針としている企業がどれほどあるのか不明だが、スモールビジネスでは決して少なくないのではないか。 私は、ロー対ウェード判決支持であり、中絶クリニックのピケに反対であるが信教の自由回復法に好意的で、オバマケアに反対なのでこの判決には好感を持つ。
フェミニスト団体は今回の判決に怒っていると言うが、皮肉なことに、多くのアメリカ人女性顧客に愛されている手芸用品店が女性の敵であるとは理解しがたいのである。
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