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2014年9月の1件の記事

2014/09/28

下書 公労法適用職場において組合員にスト参加を強制する組合の統制権を明確に否定した昭和47年から昭和50年の6判決の意義についての説明その1

                                  川西正彦

○問題-地方公営企業等の労働関係に関する法律(以下「地公労法」と略す)適用職場において労働組合が時限ストライキの批准投票を行い、「組合の指令に従うことを表明する」と記載された用紙に大多数の組合員が賛成であった場合、組合員は労働組合の統制権によりスト参加を強制されるか。

○結論を先に述べると、地公労法適用職場においては組合員であれ労働組合であれ地公労法11条1項を遵守する義務があり、たとえスト権が組合員大多数の賛成で批准されたとしても労働組合はスト参加を組合員に強要する統制権を有しないのであって、組合員は、スト指令に従う義務もない。当局が組合も組合員も法令を遵守する義務があると職員に指示したとしてもそのことが不当労働行為とされることはないと考える。

 ここでは、その法的根拠について説明を行いたい。
 我が国の労組法は、労働組合の資格要件や労働委員会制度など詳細に規定するが、集団的労働法上の実体的な権利義務についての記述は多くなく、団体行動(組合活動及び争議行為)の中心テーマである正当性をめぐる問題その他、大部分が判例・学説の解釈に委ねられている。不当労働行為制度によって保護される正当な組合活動か否かも、労働委員会の命令以外に救済命令取消訴訟の膨大な蓄積があり、結局のところ判例の分析によって、何が正当な行為か否か、あるいは微妙な問題かを判断することになる。
 そこで法的根拠としては、まず公共企業体等労働関係法(「公労法」と以下略す)適用職場において組合員にスト参加を強制する組合の統制権と組合員の受忍義務を明確に否定し組合員の就労権を明らかにした昭和47年から昭和50年の6判例kの存在を示したい。

一.公労法適用職場においてスト参加を強要する組合の統制権を否定する6判例
①全逓横浜中郵事件差戻後控訴審 東京高裁昭47.10.20判決 判時689号51P 判タ283号120P 労判164号29P 労働法律旬報822号(差戻後上告審-最一小昭49.7.4決定棄却 判時748号26P)
②動労糸崎駅事件控訴審  広島高裁昭48.8.30判決 刑事裁判月報5巻8号1189P 判タ300号 労判184号(上告審-最一小昭51.4.1決定棄却 刑事裁判資料230号215P)
③国労岡山操車場駅・糸崎駅事件控訴審 広島高裁昭48.9.13判決 刑事裁判月報5-9-1958、判タ301号、労判187号、判時727号(上告審-データベースから発見できず)
④動労鳥栖駅事件控訴審 福岡高裁昭49・5・25判決 判タ311号97P 判時770号11P(上告審-最三小昭50.11.21決定棄却 判時801号101P)
⑤国労東和歌山駅事件控訴審 大阪高裁昭50.9.19判決 刑事裁判月報7巻9-10合併号826P(上告審-データベースから発見できず)
⑥国労広島地本事件上告審 最三小昭50・11・28判決 民集29巻10号1634P 判時時報798号3P、判タ30号201P 

 以上の6判例は、一般的には著名ではないが、組合の違法争議行為指令は組合員を拘束しないという内部統制否定の法理を示したものとして知られているものである。
⑥は組合の統制権を争点とした最高裁第三小法廷の判決である。①~⑤はいずれもマスピケ事犯で、無罪判決を破棄して公務執行妨害罪又は威力業務妨害罪を適用し有罪とした高裁判決であるが、上告審は①②④が上告棄却で原判決を認容しており、著名でない③⑤は筆者が調べた範囲では判例データベースで上告審を発見できなかったが、棄却と考えられるから、公労法適用の職場ではスト参加の内部統制否定の法理は判例として確立されているとみてよいと考える。

 横浜中郵事件差戻後控訴審東京高裁昭47.10.20判決は「公共企業体等の職員および組合は公労法一七条一項により争議行為を禁止されているのであるから、組合自身も組合員もこれを行なつてはならない義務を負っているこというまでもない。それゆえ、組合としては組合員に対して同盟罷業への参加を強制することのできない筋合いのものであり、これを組合員の側からいえば、各組合員は、法に従うべきであるという建て前からも、また自らが解雇等の民事責任を負わないためにも、組合の指令にもかかわらず、同盟罷業に参加することなく就業する業務を負うとともに権利を有するものである。いいかえれば、公共企業体等の組合がたとえば同盟罷業の決議をしても、その決議は違法であって民間企業の組合の場合のように組合員に対し法的拘束力をもつものではなく、組合員としてはその決議に従わずに就業しても、特段の事由のないかぎり組合の統制に対する違反ないしはいわゆる裏切りの問題は生じないと解すべきである‥‥」とする。
 動労糸崎駅事件控訴審広島高裁昭48.8.30判決 は「一切の争議行為が少なくとも労働法上一般的に違法とされている国鉄においては、組合は組合員に対する統制権の行使を理由として、斯る違法な争議行為に参加することを強制することは許されず、組合員は右職場集会実施の組合本部指令に服従すべき義務はなく、従って、これに参加を促がす勧誘、説得を受忍すべき義務もないのである。」とする
 動労鳥栖事件控訴審福岡高裁昭49・5・25判決は「公共企業体等労働関係法一七条一項は、公共企業体である国鉄の職員および組合が争議行為を行うことを禁止し、職員、組合の組合員、役員は、この禁止された行為を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならないと規定し、同法一八条は、右規定に違反した職員は、解雇されると規定しているのであるから、本件の国鉄動力車労働組合その組合員も争議行為を行つてはならない義務を負つていることはいうまでもない。‥‥それ故、組合としては、組合員に対して、公労法上違法とされ、しかも解雇等という民事責任を負わされるような同盟罷業に参加を強制することはできない筋合であって、組合がたとえ同盟罷業を決議しても、それは公労法上違法であり、民間企業の組合の場合のように法的拘束力をもつものではなく、組合員としては組合の決議、指令にかかわらず同盟罷業に参加することなく就業する自由を有するのであつて、これに参加を促がす勧誘、説得を受忍すべき義務はないのである」とする。
 国労岡山操車場駅・糸崎駅事件控訴審広島高裁昭48.9.13判決は「国鉄職員は、公共企業体労働関係法一七条一項により争議行為を禁止されているのであるから、国労の組合員も争議行為を行ってはならない義務を負っていることはいうまでもない。それゆえ国労としては、ピケッティングの対象が国鉄職員である以上、非組合員はもとより、たとえそれが組合員に対する場合であっても、ストライキへの参加という違法な行動を強制することのできない筋合のものであって、組合がなしたストライキ決議は違法であり、組合員に対して法的拘束力をもつものではない。」とする。
 国労東和歌山駅事件控訴審大阪高裁昭50.9.19判決も広島高裁昭48.9.13判決と上記の部分は全く同じである。
 以上5判例はマスピケ事犯である。

 
 国労広島地本事件最高裁第三小法廷昭50・11・28判決は脱退した国労組合員に対する組合費請求に関するもので、最高裁は本件臨時組合費の闘争資金の支払請求を認容し、組合員には協力義務があるとしたが、争議行為の参加については組合は組合員に対して「多数決によって違法行為の実行を強制されるいわれはない」としたものである。同判決は、組合決議の拘束力一般について検討し次のように判示している。
 「思うに、労働組合の組合員は、組合がその目的を達成するために行う団体活動に参加することを予定して加入するものであり、また、これから脱退する自由も認められているのであるから、右目的に即した合理的な範囲において組合の統制に服すべきことは、当然である。したがって、労働組合の決定した活動がその目的と関連性をもつものである限り、たとえ個人的にはそれに反対の組合員であっても、原則としてはその決定に拘束され、そこで定められた活動に参加し、またその活動を妨害するような行為を避止する義務を負うとともに、右活動の経済的基礎をなす組合費を納付する義務(以下これらの義務を「協力義務」という。)を免れないというべきであるが、他方、労働組合の活動が多様化するにつれて、組合による統制の範囲も拡大し、組合員が一個の市民又は人間として有する自由や権利と矛盾衝突する場合が増大し‥‥‥‥労働組合の決定した活動が組合の目的と関連性を有するというだけで、そのことから直ちにこれに対する組合員の協力義務を無条件で肯定することは相当でなく、問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較衡量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要である。
 そこで、右の見地から、公労法に違反して行われる争議行為とこれに対する組合員の協力義務関係について考察する。
 まず、同法違反の争議行為に対する直接の効力(争議行為の参加)については、これを組合員に強制することはできないと解すべきである。禁止違反の争議行為の実行に対して刑罰や解雇等の不利益な法的効果が結びつけられている場合に、その不利益を受忍すべきことを強いるのが不当であることはいうまでもなく、また、右のような不利益を受ける可能性がない場合でも、法律は公共の利益のために争議行為を禁止しているのであるから、組合員が一市民として法律の尊重遵守の立場をとることは是認されるべきであり、多数決によって違法行為の実行を強制されるいわれはない。‥‥」

二 地公労法11条1項合憲の最高裁三判例
 
 もっとも上記の6判例はいずれも公労法17条1項の争議行為禁止規定が適用される職場(公労法は三公社五現業の多くが民営化され林野事業も一般会計化されたために現在は特定独立行政法人等の労働関係に関する法律」と改称)のものであるが、以下の理由により地公労法適用職場においても、別異に解する理由はないと考える。
 北九州市交通局事件最高裁第一小法廷昭和63年12月8日判決(民集42巻10号739P判時1314号)は、全逓名古屋中郵事件大法廷昭和52.5.4判決(刑集31巻3号182頁)が国営企業職員の争議行為禁止が合憲として挙げた理由は地方公営企業の場合にもあてはまるとして、地公労法11条1項を合憲とし、三六協定締結・更新拒否による超過勤務拒否闘争、民間ディーラー整備員の入構拒否、五割休暇闘争等を同条違反として組合役員に対する停職六ヶ月等の懲戒処分を適法としている。
 次いで北九州市小倉西清掃事業所事件最高裁第二小法廷昭和63年12月9日判決(民集42巻10号880P、判時1314号)が地公労法付則四項によつて地方公営企業職員以外の単純な労務に雇用される一般職の地方公務員に準用される同法一一条一項の争議行為禁止規定も合憲とし、さらに北九州市院病院局事件最高裁第三小法廷平成元年4月25日判決(判時1336号)が、同じく単純な労務に雇用される一般職の地方公務員に準用される地公労法一一条一項の争議行為禁止規定を合憲とした上で、市立病院の24時間ストを企画、指導した市一般職員に懲戒免職等の処分を適法としている。
 よって最高裁のすべての小法廷が争議行為を禁止する地公労法11条1項を合憲とし争議行為に対する解雇等の懲戒を適法としているから、それは確立された判例といえるからである。
 前記統制権否定6判例のは制定法により禁止された行為を労働組合は組合員に強制できないという趣旨であるから、国会によって地公労法11条1項が、修正、削除されないかぎり、地公労法適用職場にもあてはまると解するのが妥当であり、仮に当局が、職員に対して、組合のストライキ決議は組合員を拘束しないと指示したとして、それについて組合側から労働委員会に申立があっても当局が負ける要素はないものと考えられる。
 

三 理論的分析

 ここでは上記ピケッティングに関する5判例の理論的分析を行うことにより、職員の就労権を明らかにしていきたい。

(一) ピケッティングの正当性の判断基準

1.犯罪の成否についての指導判例は羽幌炭礦事件判決

もっとも無難な論文として全逓名古屋中郵判決より前のものだが、最高検検事臼井滋夫「ピケッティングの正当性の限界」『法律のひろば』30巻4号1977年に依拠しつつ、筆者の見解を加える。
 まず争議行為の限界についてはリーディングケースとして山田鋼業事件大法廷判決昭25.11.15刑集4.11.2257と朝日新聞西部支社事件大法廷判決昭27.10.22民集6.9.8である。
 争議行為は労務提供拒否という不作為を本質とし、したがって、これに随伴する行為も消極的行為の限度にとどまるべきであり、それを越えて使用者側の業務を妨害するような意図及び方法での積極的な行為は許されないとの見解が確立したものであって、この点についてプロレイバーが主張するように労働法は市民法個人法秩序を超克するものと解する余地はない。
 そしてピケッティングと犯罪の成否についての画期的判例が羽幌炭礦事件大法廷判決昭33.5.28刑集12.8.1694であり、事案は、争議続行と組合指導部に反発して組合を脱退し第二組合の結成に加わった労働者と非組合員による出炭を阻止するためのマスピケッティングであるが、「同盟罷業は必然的に業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであって、これに対し使用者側がその対抗手段の一種として自らなさんとする業務の遂行行為に対し暴行脅迫をもつてこれを妨害するがごとき行為はもちろん、不法に、使用者側の自由意思を抑圧し或はその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは許されないものといわなければならない‥‥。されば労働争議に際し、使用者側の遂行しようとする業務行為を阻止するため執られた労働者側の威力行使の手段が、諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱したものと認められる場合には刑法上の威力による業務妨害罪の成立を妨げるものではない。」と判示した。
 問題は、「諸般の事情」の解釈だが、臼井検事は、「基本となる基準はあくまで労働力の提供拒否にとどまるか否かであり」労働力の提供拒否にとどまるか否かという基準では割り切らないことを意味するというプロレイバー解釈は誤りと指摘している。 
 プロレイバー労働法学では、争議権とは本質的に「業務妨害権」であり、同盟罷業による業務妨害状態を有効に維持するためにピケッティングは争議行為の範囲にあるとし、一定程度の実力行使も許されるというものであるが、最高裁はもちろん認めていない。
 
 2.可罰的違法性論の席捲により「暴力」容認判決が続出した事態について

 ここから私の見解だが、にもかかわらず、昭和30年代から40年代にかけて主として下級審においてスクラムや実力ピケを正当な行為として無罪とする判決が続出したのは、藤木英雄東大教授の刑法学説(可罰的違法性論)によって構成要件の縮小解釈を打ち出したことが、司法判断に影響を及ぼし、犯罪構成要件の判断を縮小したり構成要件を曲解する傾向、外形的には構成要件に該当する行為があっても被害が軽微であるとか、許容されている限界を逸脱していないなどとして、刑事罰の対象としない判断を助長したためである。
 可罰的違法性論は一般的には「構成要件に該当すると認められる行為のうち、当該行為の予想する可罰的程度に達しない行為は犯罪でないとし刑事責任を否定する見解」、「違法性の相対性・段階性を前提とする理論」 とされるが、藤木教授は労働法理念の正当化のために場合によっては医療行為の手術や相撲・拳闘が暴行とされないように構成要件に該当した行為の違法性が阻却されることがあるという学説を流布し、 労働争議なら相当な程度の有形力行使の違法性阻却はなされて当然だとの悪しき風潮をもたらした
 藤木教授はピケッティングについて、「組合員であって争議から脱落した者は‥‥統制力の行使として、緊急の場合、スクラムによる絶対阻止が許される」「組合の組織の防衛をはかる目的で、会社のために就労しようとする者を‥‥強力な威力行使によって、その通行の最終的な阻止を試みることは‥‥場合によっては合法」 などと述べた。
 ただし藤木教授はすべての有形力行使を暴行とすべきではないとしつつも、撲る、蹴る、押す、突くは暴行であり、刑法35条適用の余地なしとするのであるが、この点はプロレイバーから押す行為はマスピケでなされるとき暴行とはいえない場合もあると批判されている。
 可罰的違法性論により実力ピケ無罪とした下級審判例は多いが、ここでは典型的な2判例の引用にとどめる。
 まず光文社事件東京高裁昭48.4.26判決判時708号である。
 これは第二組合員が通勤途上の路上で第一組合員と支援者6人に包囲され両腕をつかまえられ、引っ張り、押されるなどして腰を低く落として抵抗するのもかまわず、音羽通りを横切り、約30メートル引きずられたあと、さらに両脇下に手をさしいれたまま、引っ張り押すなどして、お茶の水女子大裏門を経て、200メートル余り自由を拘束され連行されたにもかかわらず、判決は「被告人の有形力の行使は説得を有効に実施するための場所の選定にともなうきわめて短時間のものにすぎず、しかも身体に殴打、足げり等の暴行を加えてないのはもちろん、その着衣その他に対しても何ら損傷を与えていない程度のものである」と述べ、「なお外形的には、逮捕罪にあたる」ことを認めつつ「被告人らの守ろうとした利益とその侵害した法益との権衡、労働組合法、刑法を含む法全体の精神からみて‥‥常軌を逸したものといえるかどうか頗る疑わしく」結局本件は「犯罪として処罰するに足りる実質的違法性をいまだ備えていない」として逮捕罪の成立を認めた一審を破棄して無罪判決を下した。
 要するに労働争議においては人を捕まえて強制連行しようと、殴打、足げり等も着衣損傷も認められない程度の有形力行使は許されるとしたのである。
 滝野川自動車事件横浜地裁昭45.12.17判決は第一組合員6名および全自交の労組員合計7名が、第一組合員約百数十名と共謀のうえ、昭40.6.8午前10時から午後1時までの間、第二組合員十名が就労のためタクシー10台を運転して車庫通路より進発しようとするのを阻止するため、通路に乗入れた宣伝用自動車の車輪を取りはずし、貨物自動車の前車輪を横溝を掘って落し込んだうえ、百数十名がスクラムを組んで労働歌を高唱し、坐りこむ等して会社の運送業務を妨害したにもかかわらず、威力業務妨害罪に当たらないとしたものである。 このように軽微とはいえない事案まで無罪とするのは異常なあり方といえるだろう。
 
 3.久留米駅事件方式の確立とその意義

  このような実力ピケを無罪とする下級審判例が否定されるターニングポイントとなったのが、国労久留米駅事件大法廷昭48.4.25判決刑集27巻3号418Pである。
 典型的なマスピケ事犯であるが「勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行われた犯罪構成要件該当行為について刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたっては、その行為が争議行為に際して行われたものであるという事実を含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、法秩序全体の見地から許容されるべきものか否かを判定しなければならない」との判断方式を打ち出した。
 臼井検事によれば、久留米駅事件方式は、「争議行為(同盟罷業)自体の労働法上の合法・違法の評価と、その争議行為の際に争議行為の目的達成のためになされた労働者の個々の犯罪構成要件該当行為に対する刑法上の違法性の有無の判断とを意識的に区別した」とする。
 この意味するところは、私の考えでは次の3点を指摘できる。
(1)プロレイバー労働法学が争議行為を「業務妨害権」として、業務妨害状態を維持するためのピケッティングも争議権に含まれるという見解を示していることと一線を画すため、ピケッティングを争議行為付随行為とした。
(2)久留米駅事件大法廷判決と同日に全農林警職法大法廷判決(刑集27巻4号547頁)が下され、あおり行為で処罰するには違法性の強い行為であり、かつ通常争議行為に随伴するものと認められない(二重のしぼり)ものとする全司法仙台事件大法廷昭44.4.2判決(刑集23巻5号685頁)を判例変更しているが、これは国家公務員法の事案で、この時点では公労法17条1項違反の争議行為に、労組法1条2項(刑事免責)が適用されるとした全逓東京中郵事件大法廷昭和41年10.2判決(刑集20-8-901P)が判例変更されていない。
 周知のとおり全逓東京中郵判決は、刑事免責を与える余地はないという先例を覆し、公労法17条1項違反の争議行為にも労組法1条2項の適用があるとし、公務員であっても労働基本権は尊重されその制限は合理性認められる最小限度のものとすべきとし、公労法違反の争議行為であっても、①政治スト、②暴力行為をともなうもの、③不当に長期にわたり国民生活に重大な障害を与える場合の三条件を除いて刑事制裁を科すことはできないとしたものであり(限定的な合憲判断)、藤木英雄東大教授の「可罰的違法性論」の影響下にある判例でといえる。
 全逓東京中郵判決の影響は大きく、多くの下級審判例が三条件にあてはまらないものとして、マスピケや機関士などにスト参加を説得するためのピケッテイングとして国労や動労が線路上で進路をふさぎスクラムを組んで列車を止めるような行為を正当化し無罪としたのである。
 久留米駅事件大法廷判決では臼井検事が解説しているように「「公労法17条1項に違反してなされた争議行為につき労組法1条1項の適用があるかどうかという問題について‥‥この問題に触れることなく、「諸般の事情」を考慮に入れたうえ「法秩序全体の見地」から違法性阻却事由の有無を判定すべきものとする立場を打ち出した。」ものである。
 要するに、同盟罷業それ自体を合法と判断するか否かにかかわりなく、ピケッティングは争議付随行為として区別して違法性阻却事由の有無を判定することとしたのである。
(3)同盟罷業それ自体か合法と判断するか否かと区別するということは、本件は国鉄の事案であるが、久留米駅事件方式の判断基準を争議権が認められている私企業にも適用できるものとしたことである。
 久留米駅事件方式の特色の第一として臼井検事がコメントしているのは「実質的違法性論に立脚して違法性阻却事由の有無を判断すべきものとしつつ、犯罪構成要件該当性ないし構成要件該当性における違法性推定機能を重視していることである。わけても労働争議の際の行為についても,一般原則のとおり,犯罪構成要件該当性に刑法上の違法性を推定する機能を認め」たことである。
 私が言い換えれば、労働事件を特別視し、プロレイバー労働基本権思想に依拠し、外形的に構成要件に該当する行為でも、刑罰に処すほどのことではないとして違法性を阻却し実力ピケを合法としていた下級審の判断を否定する判断方式ということである。
 この判決が重要とされる意味は、この後下級審における可罰的違法性論の影響にある無罪判決が私企業のケースも含めて次々と覆され有罪判決が下されるようになったことに尽きるだろう。
 前記内部統制否定5判例のうち②~⑤が久留米駅事件方式により有罪判断をとったものである。①は久留米駅事件以前のものであるが、争議行為それ自体の適法性判断と争議付随行為としてのピケッテイング等の適法性判断を別にしている点で久留米駅事件方式を先取りしているともいえるのであり、差戻後上告審最一小昭49.7.4決定が久留米駅判決を引用しているので結局5判例すべてが久留米駅事件方式で決着したともいえる。
 私企業の労働組合の争議行為については、ピケッティング事案として、労働組合役員による他組合員への断続的暴行、逮捕行為につき日本鉄工所事件最高裁二小 昭50.8.27判決(刑集29巻7号442頁)、前述した逮捕行為につき光文社事件最高裁三小昭50.11.25判決(刑集29巻10号929頁)、毎日放送労働組合が春闘としてストに入ったところ、会社側はテレビ生中継(午後1時~「ママの育児日記」)を管理職にて行なうこととし、組合は番組を中止させるために、組合員約四〇名が、スタジオ扉前に集り、労働歌を高唱し、拍手し、シュプレヒコールを行い、メガホンのスピーカーを扉の隙間に押し当てたりして、六分間余り生放送に労働歌等の騒音を混入せしめた事案につき最高裁一小昭和51.5.6判決(刑集30巻4号519頁)が無罪とした原判決を破棄自判して久留米駅事件方式により有罪判決を下している(これらの判例を図表1を参照)。


(ⅰ) ①について、井上祐司「新判例評釈-公共企業体職員等のピケが違法とされた事例-横浜中郵事件差戻後控訴審判決-」判タ288、①④⑥について角田邦重「最近の最高裁におけるピケット論の動向-日本鉄工労組、光文社、動労鳥栖駅事件を契機として-(上)(下)」労判245、246、②~⑤について久留米駅事件方式による判例として臼井滋夫「ピケッティングの正当性の限界」『法律のひろば』30巻4号1977年が引用している。
(ⅱ) 岡野行雄「公安労働事件裁判例をめぐる可罰的違法性論」『警察学論集』27(9) 1974
(ⅲ) つまり藤木教授は労働刑法での違法性概念について「労働権の保障の結果それと矛盾する限度で財産権に対する保障が後退するのは当然のこと」「「通常の一般市民間でなされた場合に威力ないし脅迫にあたる行為であっても、労働争議という実力闘争の場において常態を逸脱しない‥‥程度の行為については‥‥威力あるいは脅迫にあたらないとして構成要件該当性を否認することにより問題を処理することが許されよう」と述べたわけである。藤木英雄『可罰的違法性の理論』有信堂高文社1967 81頁
(ⅳ) 藤木 前掲書 181~182頁
(ⅴ) 熊本典道 「マスピケと暴行(1)-嘉穂鉱業事件-」『別冊ジュリスト』33号77頁
(ⅵ) 岡野 前掲論文

図表1


Iii


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