下書き 公労法適用職場において組合員にスト参加を強制する組合の統制権を明確に否定した昭和47年から昭和50年の6判決の意義についての説明その3
(承前)
(三)全逓横浜中郵事件差戻後控訴審東京高裁昭47.10.20判決の意味
本件はマスピケッティングに関する事案であるが昭和33年の春闘で全逓横浜郵便局支部が全逓中央のスト指令に反し、勤務時間にくいこむ2時間の職場大会開催を拒否したため組合幹部が総辞職したことが発端となっている。それは郵政大臣通達の警告「郵便法79条の判罪に該当する」を重く受け止め、支部組合員には刑事罰の対象となるようなことまでして組合活動をすることには消極的意見が強かつたためである。
このため同郵便局内に臨時闘争司令部が組織され、神奈川県地方労働組合評議会の支援を要請、同地労評の組合員約200名が郵便局通用門前の道路上でピケを張り、局員の就労を妨げ横浜公園の職場大会参加を誘引したことから、郵便局長の要請で機動隊が出動し、ピケ隊が警告に応じず、引き抜きを行ったため、激しい揉み合いとなり、被告人A神奈川県地方労働組合評議会事務局員(日本共産党神奈川県委員会労働組合部委員)は同日9時30分頃、機動隊員巡査Kの制服の襟元掴んで引張りボタン3個を揉ぎ取りネクタイを引張って首を絞め、左腿部を二、三回蹴り上げる等の暴行をなし、被告人T日本鋼管川崎製鉄所労働組合員は、9時25分頃、機動隊員巡査Sに対し左下腿部、左太腿部を各一回足蹴りする等の暴行を働いたため公務執行妨害に問われたとものである。
第一審横浜地裁昭38.6.28判決(判時341号)は、本件におけるピケッティングは威力業務妨害罪の構成要件に該当し、公労法7条1項違反の違法争議行為であったが、しかしながら本件警察官の排除行為も、その際の客観情勢においては警職法第5条後段所定の要件たる「人の生命若しくは身体に危険が及び、又は財産に重大な損害を受ける虞があつて、急を要する」が如き事態は全く存しなかった故に、「本件ピケによって郵便業務が妨害され、国民の財産に損害を及ぼすとするような遠く且つ漠たる要件で、本条後段の制止できる筈がないということは今更いうまでもない」として、本件警察官による排除行為は適法でないとして無罪を言い渡した。
控訴審東京高裁昭41.8.29判決(高等裁判所刑事裁判例集19巻6号631頁)は、公労法17条違反の争議行為は違法であり、労組法1条2項の適用のないことはすでに最高裁の判例(全逓島根地本、国鉄檜山丸事件昭和38.3.15最二小判、刑集17巻2号23頁)で明らかになっているとして、本件ピケッティングは国の経済、国民の財産に重大な損害の虞れのある威力業務妨害罪の現行犯であった故に、その制止は警職法5条後段所定の適法な職務遂行行為であったとして、被告人に懲役三月(執行猶予一年)の有罪を言い渡した。
ところが第一次上告審最高裁大法廷昭45.9.16判決(刑集24巻10号1345頁)は、8対6で昭和41.10.26全逓東京中郵事件大法廷判決の公労法17条1項違反の争議行為についても労組法1条2項(刑事免責)の適用を排除しないとする判例変更を踏まえ、本件ピケッティングを違法であるとした原判決は、法令の解釈適用を誤つたものであり、この点の判断いかんによつては、本件ピケツテイングの違法性にはもとより、警察官のした排除行為の適法性にも影響を及ぼすものと認められるから、原判決を破棄しなければならないと判決した。
なお中郵判決の刑事免責に反対する6判事が反対意見にまわっているが、そのうちの一人が松本正雄裁判官であり札幌市労連事件(札幌市電ピケット事件)最三小決昭45.6.23反対意見を引用している。
差戻後控訴審東京高裁昭47.10.20判決(判時689号判タ283号)は、可罰的違法性論に依拠しつつも、有罪の結論にいたる点で特徴のあるものとなった。
判決は中郵判決の枠組み(①政治スト、②暴力行為をともなうもの、③不当に長期にわたり国民生活に重大な障害を与える場合の三条件を除いて刑事制裁を科すことはできない)に従って本件勤務時間に食い込む2時間職場大会は公企体職員の争議として可罰的違法性なしとしながら、基本となる争議行為(たとえば同盟罷業)は違法でなく、あるいは可罰的違法を欠く場合であつても、これに付随して行なわれるピケツテイングがつねに同様であるということはできないとして本件ピッティングは相当限度を越えた違法があるとして威力業務妨害罪の成立を認めたうえ、公務執行妨害罪の成否について、現に犯罪が実行されている段階に立ち至れば、これを阻止するのは公共の秩序の維持に当たる警察の当然の責務であるし、またこの場合には現行犯として行為者を令状なしに逮捕することすら認められているところからみても、犯人に対し犯罪の実行をやめさせるため強制力を行使することが許され、この場合においては特に警職法五条後段の要件を必要としないものと解するのが相当である。警察の本件における実力行使がその権限を濫用したもので違法なものであるとは考えられないから、公務執行妨害罪を構成するとしてこと明らかであるというべきであるとして原判決破棄自判 刑法95条1項を適用し被告人神奈川県地方労働組合評議会事務局員(日本共産党神奈川県委員会労働組合部委員)A、日本鋼管川崎製鉄所労働組合員Tを禁固二年執行猶予一年と有罪を言い渡した。
同判決は本件ピケッティングが正当でない理由として組合の内部統制否定の法理を次のように展開するのである。
「ピケッティングが相当性の範囲内にあるか否かは右に述べたように諸般の事情を考察することによつて決せらるべきものであるが‥‥ピケットの相手方のいかんないしはその立場が重要なものとして考慮される必要がある。そこで、この点につき検討してみるのに、公共企業体等の職員および組合は公労法一七条一項により争議行為を禁止されているのであるから、組合自身も組合員もこれを行なつてはならない義務を負つているこというまでもない。それゆえ、組合としては組合員に対して同盟罷業への参加を強制することのできない筋合いのものであり、これを組合員の側からいえば、各組合員は、法に従うべきであるという建て前からも、また自らが解雇等の民事責任を負わないためにも、組合の指令にもかかわらず、同盟罷業に参加することなく就業する業務を負うとともに権利を有するものである。いいかえれば、公共企業体等の組合がたとえば同盟罷業の決議をしても、その決議は違法であつて民間企業の組合の場合のように組合員に対し法的拘束力をもつものではなく、組合員としてはその決議に従わずに就業しても、特段の事由のないかぎり組合の統制に対する違反ないしはいわゆる裏切りの問題は生じないと解すべきである。したがつて、これに対するピケッテイングの態様、程度も、組合員が組合の同盟罷業の決議に従う義務のある民間企業の場合と趣きを異にするのであつて、公共企業体等の組合としては、同盟罷業の決議に従わず就業しようとする組合員に対し、同盟罷業に参加するように平和的に勧誘または説得するのはピケッテイングとして相当な範囲内のものということができるが、その程度を越え実力またはこれに準ずる方法を用いて組合員の就業を阻止することは、他にこれを相当ならしめる特段の事情の存在しないかぎり、相当な限度をこえるものとして許されないといわなければならない。ただ、このように考えると、その結果民間企業ならば許される程度のピケッテイングであつても、公共企業体等の場合は許されないものが生ずることになるが、これは、その相手方たる組合員の立場の相違が諸般の事情の重要なものとして考慮される結果にほかならないのである。そして、ピケッテイングが右の相当な限度を越えた場合においては、すでに労組法一条ニ項にいわゆる「正当なもの」ということはできす、その行為が刑法二三四条の構成要件に該当するかぎり同条によつて処罰さるべきいわゆる可罰的違法性を有するものとみることができる‥‥そこで、以上の見解を前提として本件のピケツテイングの違法性をみるのに、まず本件の同盟罷業については特にこれを一般の場合と違つて違法でないとしまたは違法性が微弱であるとするだけの事由は発見することができず、そうしてみると、横浜郵便局支部が同盟罷業の性質を有する勤務時間内食いこみ職場大会開催の指令を違法であるとして拒否し指令返上の挙に出たことも、同支部所属の各組合員が原判示当日出勤就業しようとしたことも正当な行為であつて、組合側としてその入局を実力を用いてまで阻止することを正当ならしめる特段の事情があつたものとは認められない。そして、他方本件のピケツテイングの態様をみると、前に認定したところから明らかなように、組合員の入局、就業を一切認めないのはもとより、その他の者の出入をも認めない態勢にあつたということができ、そのことは速達一号便がなかなか出発することができなかつた事実、局側管理者の出入りをも禁止するとの放送がなされた事実、警察側介入に近い終りのころには臨闘側代表者すら職員通用門からの入局を阻止された事実などからも認めることができる。そして、その阻止の方法としては、前記のように多数のピケ隊員により厚いピケツ卜が張られていたことからみても、ことには局側管理者Aらが現に一部組合員を率いて身を挺して入局しようと二、三度試みたがピケ隊に押し返されて失敗した事実からみても、単に勧誘または説得によつて入局を断念させようというようなものではなく、実力をもつてあくまでもその入局を阻止しようとするものであつたと認めざるをえない。そうであるとすれば,公共企業体等の同盟罷業である本件の場合において、前に説明したように特にこれを相当とする事情の認められない以上は、右のピケツテイングは相当性すなわち労組法一条二項の正当性の範囲を逸脱するものであること明らかだというべきであり、それが刑法二三四条所定の「威力ヲ用ヒ」たものにあたることは疑いなく ‥‥右の不法な威力行使の結果、入局就労しえなかつた組合員の業務およびこれに伴う局の業務が現に妨害されたことも明らかであるから、右の場合に威力業務妨害罪が可罰的違法性あるものとして成立することは肯認されなくてはならない。」
(つづく)
« (下書き)公労法適用職場において組合員にスト参加を強制する組合の統制権を明確に否定した昭和47年から昭和50年の6判決の意義についての説明その2 | トップページ | 刑法176条・177条改正反対 »
「東京都労務管理批判」カテゴリの記事
- 東京都水道局の対労働組合の労務管理の是正を求める意見具申(2024.12.31)
- 東京都水道局の争議行為対応等労務管理を是正を求める意見具申 その4(完)(2024.12.22)
- 東京都水道局の争議行為対応等労務管理を是正を求める意見具申 その3(2024.12.22)
- 12月20日全水道東水労2時間スト中止と19日から20日の経過(2024.12.21)
« (下書き)公労法適用職場において組合員にスト参加を強制する組合の統制権を明確に否定した昭和47年から昭和50年の6判決の意義についての説明その2 | トップページ | 刑法176条・177条改正反対 »
コメント