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2014年11月の6件の記事

2014/11/30

下書き)地方公営企業の職員の労働関係に適用できる法律、判例法理について(1)

地方公営企業に適用できるものについて一般論をまとめた上で具体論に入ります。

 

(目次) 

1.一般地方公務員との相違点

2.企業秩序定立維持権の判例法理が適用できる

3 施設管理権限の指導判例、国労札幌地本事件判決の判例法理は当然適用できる

○同判決の意義

(1)プロレイバー学説「受忍義務説」の明確な排除

(2)法益権衡論の観点での違法性阻却説の明確な排除

(3)抽象的危険説の確立

 

 

 1.一般地方公務員との相違点

 

 地方公営企業の労働の関係については一般地方公務員とは異なり私法関係とされる。都水道局時間外労働拒否事件東京高裁昭和43.4.26判決『判例タイムズ』222号202頁がそうであるが、ここでは都水道局時間外労働拒否事件 東京地裁昭和40・12・27判決『労働関係民事裁判例集』16巻6号1213頁を抜粋(一部略)して引用する。

 「企業法〔地方公営企業法を指す〕は、地方公営企業の職員の身分取扱いについては原則として地公労法の定めるところによるものとし(三六条)、地方公務員法の職階制、給与、勤務時間その他の勤務条件、政治行為の制限等に関する規定は、職員に適用しない旨(三九条)を定めており、地公労法は‥‥職員の労働関係について原則的に労働組合法、労働関係調整法を適用するものとし(四条)、その労働条件に関しては団体交渉及び労働協約の締結を認め(七条二項)、右協定の内容が当該地方公共団体の条例、規則、予算に抵触する場相手の措置をも定めている(八ないし十条)‥‥もっとも、地方公務員法の任用(一五ないし二二条)、分限及び懲戒(二七ないし二九条)、服務(三〇ないし三五条、三八条)等に関する規定は、地方公営企業 の職員に対してもその適用があるけれども、これらの事項でも労働条件と目すべきものについては、なお団体交渉、労働協約、苦情処理、調停、仲裁の対象となりうるところである。(地公労法七条二項)。以上によると地方公営企業の職員の労働関係については‥‥私法的規律に服する契約関係とみるのが相当であり‥‥」とする。

 民間私企業における労働契約関係と公務員の勤務関係とを区別する考え方もあったが、公共企業体においては私法関係とする考え方が下級審で定着したため、最高裁は、下級審裁判例を追認し、国鉄中国支社事件判決・最一小昭49・2・28民集28巻1号66頁、判時733号において国鉄職員の懲戒処分は行政処分でなく私法上の行為であるとした。また目黒電報電話局事件判決・ 最三小昭52・12・13民集31巻7号974頁電電公社について「公社はその設立目的に照らしても企業性を強く要請されており、公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係とその本質を異にするものではなく、私法上のものであると解される。」としており、地方公営企業もこの点については別異に解釈することはない。

 従って、職場の規律維持に関して、三公社五現業や私企業に関する判例法理は、地方公営企業においても適用することが可能である。

 

2.企業秩序定立維持権の判例法理が適用できる

 

 我が国の労組法は、労働組合の資格要件や労働委員会制度など詳細に規定するが、集団的労働法上の実体的な権利義務についての記述は多くなく、団体行動(組合活動及び争議行為)の中心テーマである正当性をめぐる問題その他、大部分が判例・学説の解釈に委ねられている。不当労働行為制度によって保護される正当な組合活動か否かも、労働委員会の命令以外に救済命令取消訴訟の膨大な蓄積があり、結局のところ判例の分析によって、何が正当な行為か否かを判断することになる。従って労働関係は実定法というより、裁判所が案出した判例法理によって争われることが多いのであるが、その典型例が、企業秩序定立維持権である。

  リーディングケースである富士重工業(原水禁運動聴取)事件最高裁[i]第三小法廷昭和52年12月13日判決民集31巻1037頁は、「企業秩序」の維持確保のために「企業」に求められる権能として、()規則制定権(2)業務命令権(3)企業秩序回復指示・命令権(4)懲戒権を当然のこととして列挙し、このような「企業」体制を前提とした労働契約を媒介に労働者の「企業秩序遵守義務」を演繹し[ii]。「労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによって、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負う‥‥」としたのである。

 企業秩序論の主要な判例としては、同日の目黒電報電話局事件判決・ 最三小昭52・12・13民集31巻7号974頁[iii]、国労札幌地本ビラ貼り事件判決・最三小昭54・10・30判決民集33巻6号647頁[iv]、関西電力事件判決・最三小昭58・9・8労判415号[v]であるが、昭和50年代に最高裁によって案出された最大の理由は「施設管理権」の脆弱さと空隙を埋める必要性によるものと

解するのが妥当である。

 すなわち、終戦直後、経営者が直面した「経営権」に対する組合規制力を強化するための生産管理闘争のようなきわめて悪質な争議行為に対し、使用者は経営権を確立する必要があった。

当初は企業内組合活動を規制する根拠を、労働規律から施設利用までカバーする「経営権」に求めていたが、包括的な経営権の観念を裁判所が必ずしも受け入れなかったために根拠は「労務指揮権」+「施設管理権」であるとされるようになった。

 しかし、「労務指揮権」はその法的根拠を労務当事者の契約に求めざるをえず、「施設管理権」の主張も脆弱性を有していた。その根拠を所有権・占有権という物権的権利に求める限り、所有権の一部をなし、建物、敷地等の会社施設を維持、保全、改良する具体的機能として内容づけられることとなり、妨害排除の物権的請求権か、無権利者による無断利用、毀損行為をとらえて行う不法行為にともなう賠償請求という、民法上の主張にとどまり従業員懲戒の根拠としては難点があったのである。

このことはプロレイバー労働法学者につけ込む隙を与えていた。「受忍義務説」[vi](使用者の施設管理権も団結権・団体行動権の保障によって内在的・本質的に制約を受け「受忍義務」を負うとする[vii])という悪質な学説を流布させ、企業内無許可施設利用の組合活動の増長させたのである[viii]

 労務指揮権+物的維持管理権限に限定された施設管理権の主張は、直接労務指揮権限をもって規律しえない時間帯である、休憩時間、就業時間前、就業後の組合活動について空隙を残すことになったのである[ix]

 この空隙を埋めることができるようになったのが、ようやく昭和50年代になって企業運営の諸権利を統合する上位概念として形成された「企業秩序論」と称される判例法理が成立してからのことである。

 中嶋士元也[x]は企業秩序論の内容範囲機能を次の5点にまとめている。

1.服務規定・懲戒規定設定権限

2.企業秩序維持権限にもとづく具体的指示命令権

1)労務提供への規律機能

()労働者の職務専念義務の発生

()他人の職務専念義務への妨害抑制義務

(2)労務履行に関する附随機能(信義則機能)

(3)秩序違反予防回復の機能

3.施設管理の機能

4.企業秩序違反の効果(懲戒機能)

5.その他の機能

 いずれも法的常識の範囲にあるものとして評価されており、いかにプロレイバー学者が批判しようと、企業秩序論はリーディングケースより35年以上経て、判例法理としては安定的に維持され定着したものといえるだろう。

 

3 施設管理権限の指導判例国労札幌地本事件判決の判例法理は当然適用できる

 

 「企業秩序」論を展開したもののなかで国労札幌地本ビラ貼り事件判決最高裁第三小法廷昭和54・10・30判決民集33巻6号647頁『労働判例』329号がいわゆる施設管理権限[xi]の指導判例としてよく引用されるが、この判例法理は、国鉄、郵便局等の三公社五現業のほか、私企業一般に適用されており、地方公営企業も私法関係とされる以上、当然適用可能である。

 「企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のもとにその活動を行うものであつて、企業は、その構成員に対してこれに服することを求めうべく、その一環として、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもつて定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができる」ものとした。

 要約していえば使用者の権限として企業秩序に服することを労働者に要求する権利を認めた判決である。使用者はその行為者に対して行為の中止を求めることできる。原状回復等、必要な指示命令ができる。懲戒処分もなしうる。ただし使用者に「施設管理権」の濫用と認められる特段の事情がある場合は別で、それを除いて無許諾の組合活動は正当な行為として認められないということである。

 

○同判決の意義について要点を三点に絞れば以下のとおりである。

 

(1) プロレイバー学説「受忍義務説」の明確な排除

 

 最大の意義はプロレイバー学説の「受忍義務説」を明確に排除したことである。

 すなわち「‥‥労働組合による企業の物的施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものであることは‥‥明らかであつて、利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用しうる権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない、というべきである」と判示したのである。これによって職場規律維持に有害だったプロレイバー学説の一つが崩壊した。

 

(2) 法益権衡論の観点での違法性阻却説の明確な排除

 

国労札幌地本判決により使用者の施設管理権限を侵害する組合活動は原則として正当性はない。ただし同判決は権利の濫用と認められるような事情がある場合は別なので、例外的に労働組合活動が正当とされることがある含みを残してはいる。

判決が言い渡された当時、「当該施設を許さないことが権利の濫用と認められるような事情」はリップサービスに過ぎないだろう、現実には濫用と認められるものはほとんどないだろうと考えられ、労働組合に大変厳しい判決と受けとめられた。

 もっとも何が「権利の濫用」なのかということだが、国労札幌地本判決は具体的な判断基準を示していないので、これはその後の判例の蓄積によって判断していくことになる。

 

この点『権利の濫用と認められるような特段の事情』に法益権衡的な違法性阻却の判断枠組みを設定し、判例法理に風穴を開けようとする試みが、少数の裁判官、中労委や下級審によってなされてきたが、結論を先に言えばこれらの試みはいずれも最高裁により明確に退けられており、国労札幌地本判決の判例法理は変質することなく、安定的に判例を維持している。

 ここで法益権衡論と言っているのは、企業の企業秩序定立権、労務指揮権、施設管理権に対して、労働者の団結権・団体行動権保障による組合活動の必要性を重視し、両者の法益を調和させる総合的判断をとることにより、無許諾であっても使用者の権利の侵害程度の低い組合活動を許容(違法性阻却)しようとする考え方である。

 プロレイバー学説というのは総じていえば法益衡量、法益調整論なのであるからそれに近いものである。しかし、以下のとおり少なくとも最高裁は国労札幌地本事件判決を引用して四度にわたって法益権衡論による挑戦を明確に退けているのである[xii]

 

●池上通信機事件[xiii]

 組合結成以来、工場の食堂を会社の許可を得ないで職場集会のために使用してきたことに対して、職制による阻止、説得、組合に対する警告等が不当労働行為にあたるかが争われた池上通信機事件最三小昭63・7・19判決判時報1293号判タ682号 の伊藤正己裁判官の補足意見が法益権衡論である。

 最高裁は原判決を是認し不当労働行為に当たらないとして、神奈川地労委の上告を棄却した。東京高裁昭59・8・30判決労民集3534 459頁 判時1154号 は「団体交渉等を通じて組合活動のための会社施設の利用について基本的合意を締結するのが先決であるとして、組合がその後個別にした従業員食堂の使用申し入れに対して許諾を与えなかったのも、やむを得ない措置というべきであって、これを権利の濫用ということはできないし、会社が組合員の入構を阻止したり、組合員集会の中止命令などの措置を採って、会社の許可を得ないまま従業員食堂において開催されようとする組合員集会を中止させようとし、あるいは組合員が無許諾で従業員食堂を組合活動のために使用した場合に組合又はその責任者の責任を追求し処分の警告を発するなどしたのは、先に見たようないわゆる施設管理権の正当な行使として十分是認することができる」と述べている。

 伊藤正己裁判官は結論のみ同意の補足意見を記した。それは施設利用に関して合意のない状況での、施設利用不許可の状況で、組合活動が強行されても、それが即、正当でない組合活動と評価されることはないとし、「特段の事情」の有無を「硬直した態度」ではなく、当該企業施設を利用する「必要性が大きい実情を加味し」諸般の事情を総合考慮し、法益権衡の立場に立って評価判断しようとするもので、違法性阻却説の判断枠組みを提示したもの[xiv]であるが、一裁判官の少数意見にとどまるのであるから、判例を変質させているわけではない。

 

●日本チバガイギー事件[xv]

 

 次に、労働組合の食堂使用および敷地内屋外集会開催の不許可が不当労働行為に当たるかが争われた日本チバガイギー事件最一小平元・1・19判533号の中労委の上告趣意書が法益権衡論である。上告趣意は「労働者の団結権、団体行動権保障の趣旨からする施設利用の組合活動の必要性と、その施設利用により使用者が蒙る支障の程度との比較衡量により、両者の権利の調和を図ることが要請される。そして、使用者の施設管理権行使が右の調和を破るときには、権利の濫用があるといわなければならない」とするものであった。この判定基準(法益調整比較衡量)は国労札幌地本判決が否定したプロレイバー学説の受忍義務説にかぎりなく近づいていく意味で判例法理の否定ともいえる最高裁への挑戦だった。

 しかし、最高裁は集会不許可を「業務上ないし施設管理上の支障に藉口」するもので不当労働行為にあたるという中労委の判断を違法とする原判決を是認し、「本件食堂の使用制限及び屋外集会開催の拒否が施設管理権を濫用したものとはいえず、したがって、右使用制限等が労働組合法七条三号所定の不当労働行為に当たらないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない」として中労委の上告をあっさり棄却している。

 

●済生会中央病院事件[xvi]

 

 済生会中央病院事件最高裁第二小法廷平成元年12月11日判決民集43121786頁判時1334号、労判552号は、勤務時間内であるが事実上の休憩時間で、業務に支障のない態様でなされた無許可組合集会等に対する警告書交付は不当労働行為に当たるかが争われた事件だが、東京地労委-中労委-東京地裁-東京高裁まで、警告書交付を不当労働行為としていた判断を覆し、不当労働行為にあたらないとしたことで重要な判例である。

 つまり控訴審で是認された東京地裁昭和61年1月29日判決『労働判例』467号ml は、国労札幌地本判決を引用しながら、本件組合集会への警告書交付は『権利濫用と認められる特段の事情』があるという次のような判断をとっていた。

「本件各集会は原告病院が外来看護婦の急患室勤務の負担を加重する勤務表を作成したことに端を発し‥‥職場内で協議する必要から開かれたものであって、その開催された時間帯も事実上休憩時間と目される時間帯であり、業務や急患に対応しうるように配慮された方法で行われ、現実に業務に支障が生じていないこと、従来本件と同様の態様でなされた集会について原告らは何ら注意を与えていないことが認められ、これら事情は、本件集会が就業時間後に開催しなかったのが外来看護婦の中に保育の必要性がいた者がいたにすぎないものであったとしても、なお前記の特段の事由に該当する」というものである。実際には業務に支障がないから許容されるべきと言うのである。

 これに対して最高裁判決は「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。」「労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない。」「労働時間中に職場集会を開く必要性を重視して、それが許されるとすること」はないと断言したうえ「本件警告書を交付したとしても、それは、ひっきょう支部組合又はその組合員の労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎないから、病院(上告人)の行為が不当労働行為に該当する余地はない」と明快な理由で原判決を破棄した[xvii]

 

 奥野久之裁判官の反対意見は「一般的には違法とされるべき行為であっても、組合員の意思を集約するために必要であり、かつ、労働組合ないしその組合員(労働者)のした義務違反ないし病院の権利に対する侵害の内容、態様及び程度その他諸般の事情をも総合して、団体行動権の実質的保障の見地から相当と判断される場合には、正当な組合活動として取り扱うべき場合がある」という法益権衡的な違法性阻却説であるが、少数の反対意見にとどまった。

 

●オリエンタルモーター事件[xviii]

 

 オリエンタルモーター事件最二小平7・9・8労判679号判時1546号は組合執行委員長らによる守衛への暴言、脅迫を契機として業務に支障のない限り食堂の集会利用等の使用を承認してきた慣行を変更し不許可とした事案につき、原判決を破棄しこれまで業務に支障のない限り使用を認めてきたとしても、それが食堂の使用について包括的に許諾していたということはできないし、食堂の無許可使用を続けてきた組合の行為は正当な組合活動に当たらないとした。さらに条件が折り合わないまま、施設利用を許諾しない状況が続いていることをもって不当労働行為には当たらないとした。

企業施設の組合活動の正当性を「許諾」と「団体交渉等による合意」に基づく場合に限定した国労札幌地本判決の枠組に従った判断と評価できる。

東京地裁平2・2・21判決労判559号労民集41116頁判時1368号は不当労働行為に当たらないとして、中労委の救済命令を違法として取り消した。ところが、原判決控訴審東京高裁平2・11・21判決労判583号労民事集416971頁判タ757号は、それでは組合活動が著しく困難となるとして、不当労働行為に当たるとしていたのである(法益権衡論ともいえる)。

 以上の最高裁判決、池上通信機事件、日本チバガイギー事件、済生会中央病院事件、オリエンタルモーター事件は、いずれも無許諾の組合集会事案であるが、法益権衡論を否定し正当な組合活動ではないとしている。国労札幌地本ビラ貼り事件判決の判例法理を維持したものと評価することができるのである。

 

(3)抽象的危険説の確立

 

 これは、日本テレビの報道番組でよく知られている河上和雄元最高検公判部長の判例評釈[xix]が指摘されていることである。

 「本判決が、具体的企業の能率阻害を判示せず、抽象的な企業秩序の侵害のおそれのみをもって、施設管理権の発動を認めている点は‥‥目黒電報電話局事件に関する最高裁判決(昭和五二・一二・一三)の延長線上にある判示として、あらためていわゆる抽象的危険説を確立したもの」と評されているが、重要な指摘だと思う。

 つまり、政治活動等をめぐる判例では、目黒電報電話局事件・最三小法判昭52・12・13日民集31巻974頁 労働判例』287号で一応の決着をみるまで、具体的危険説をとるものと抽象的危険説をとるものに下級審判例が分かれていた。具体的危険説とは「現実かつ具体的に経営秩序が紊され経営活動に支障を生じる行為」でなければ施設管理権の発動ができないというものである。高木紘一[xx]によるとナショナル金銭登録機事件東京高判昭44・3・3労民集18巻5号、東洋ガラス事件横浜地川崎支決昭43・2・27労民集19巻1号、日本パルプ工業事件鳥取地米子支判昭50・4・22『労働判例』229号[xxi]、明治乳業事件福岡地判昭51・12・7『労働判例』256号がそうした判例である。

これに対して、抽象的危険説とは施設管理権の侵害ないし作業能率の低下等の「おそれ」、すなわち、経営秩序の侵害に対する抽象的な危険が存すれば禁止しうるとするもので、この立場に立脚する判例として関谷製作所事件東京地決昭42・7・28労民集18巻4号、ナショナル金銭登録機事件東京地判昭42・10・25労民集18巻5号、横浜ゴム事件東京高判昭48・9・28『労働法律旬報』923号[xxii]がある。

最高裁判例では、目黒電報電話局事件・最三小法判昭52・12・13民集31巻974頁判時871号では「一般私企業においては、元来、職場は業務遂行のための場であって政治活動その他従業員の私的活動のための場所ではないから、従業員は職場内において当然には政治活動をする権利を有するというわけのものでないばかりでなく、職場内における従業員の政治活動は、従業員相互間の政治的対立ないし抗争を生じさせるおそれがあり、また、それが使用者の管理する企業施設を利用して行われるものである以上その管理を妨げるおそれがあり、しかも、それを就業時間中に行う従業員がある場合にはその労務提供業務に違反するにとどまらず他の従業員の業務遂行をも妨げるおそれがあり、また、就業時間外であつても休憩時間中に行われる場合には他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後における作業能率を低下させるおそれのあることがあるなど、企業秩序の維持に支障をきたすおそれが強いものといわなければならない。したがつて、一般私企業の使用者が、企業秩序維持の見地から、就業規則により職場内における政治活動を禁止することは、合理的な定めとして許されるべきであり‥‥‥‥局所内において演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等を行うことは、休憩時間中であつても、局所内の施設の管理を妨げるおそれがあり、更に、他の職員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後の作業能率を低下させるおそれがあつて、その内容いかんによつては企業の運営に支障をきたし企業秩序を乱すおそれがあるのであるから、これを局所管理者の許可にかからせることは、前記のような観点に照らし、合理的な制約ということができる。」と判示し、具象的な業務の阻害ではなく、たんに「施設の管理を妨げるおそれ」「その後の作業能率を低下させるおそれ」等の抽象的な企業秩序の侵害のおそれのみで、施設管理権の発動を是認したものである。

続いて国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁『労働判例』329号の判断は、控訴審判決のいう「業務が直接阻害されあるいは施設の維持管理上特別に差し支えが生じ」ていなくとも、ロッカーのビラ貼付が「組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼす」ことは本来の鉄道事業を能率的に運営する企業秩序維持の観点から「企業秩序を乱す」ものであるから、正当な組合活動であるとすることはできない。「本来の業務自体が直接かつ具象的に阻害されるものでなかつた等」の事情は「判断を左右するものとは解されない」と判示したのであるからこれは抽象的危険説をとったものとされるのである。

従って、使用者の施設管理権限の発動は,業務が直接、具象的に阻害されることを要するものではない、たんに「職務専念を妨げるおそれ」「業務への集中を妨げるおそれ」「作業能率を低下させるおそれ」「休憩時間の自由利用を妨げるおそれ」「使用者の管理を妨げるおそれ」等の抽象的な企業秩序を侵害を示すだけで十分なのである。(つづく)

 

 


[i] 就業時間中、他の従業員に原水爆禁止の署名を求め、その運動のために販売するハンカチの作成依頼、販売などをした他の労働者の「企業秩序違反事件」に関し、会社の調査に協力しなかつたとしてなされた懲戒譴責処分を無効と解した事例。「いつ、いかなる場合にも、当然に、企業の行う右調査に協力すべき義務を負つているものと解することはできない。けだし、労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによつて、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負うが、企業の一般的な支配に服するものということはできないからである‥‥調査に協力することが労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的であると認められない限り、右調査協力義務を負うことはないものと解するのが、相当である」と判示した。

菊池高志「労働契約・組合活動・企業秩序法政研究 『法政研究』49(4) 1983 http://hdl.handle.net/2324/1792

調査官解説 江見弘武・法曹時報33巻5号225頁1981年,その他評釈阿久沢亀夫・労働判例287号4頁/吉田美喜夫・日本労働法学会誌52号104頁/橋詰洋三・判例評論253号33頁/橋詰洋三・労働判例百選<第四版>〔別冊ジュリスト72号〕34頁/窪田隼人・民商法雑誌80巻3号350頁/坂本重雄・法律時報50巻4号57頁/秋田成就ほか・労働判例308号4頁/諏訪康雄・昭和52年度重要判例解説〔ジュリスト666号〕198頁/西谷敏・ジュリスト659号78頁/萩沢清彦・判例タイムズ357号101頁/萩沢清彦・判例タイムズ367号44頁/林修三・時の法令1008号50頁/和田肇・ジュリスト678号152頁

[ii]池田恒男「国労札幌ビラ貼り事件」最高裁判決の「画期的」意義--現代日本法の一断面」『社會科學研究』33(5) 1981

[iii]石橋洋「企業内政治活動・ビラ配布の自由と企業秩序 : 目黒電報電話局事件・明治乳業事件判決を素材として」『季刊労働法』142号1987 http://hdl.handle.net/2298/14089

菊池高志「労働契約・組合活動・企業秩序法政研究 『法政研究』49(4) 1983 http://hdl.handle.net/2324/1792

大内伸哉「判例講座 Live! Labor Law(17)企業内での政治活動は,どこまで許されるの?--目黒電報電話局事件(最三小判昭和52.12.13民集317974)」『法学教室』347 2009

調査官解説越山安久・法曹時報33巻2号257頁1981その他評釈遠藤喜由・地方公務員月報179号45頁/横井芳弘・労働法の判例〔ジュリスト増刊〕126頁/喜多實・季刊労働法108号116頁/吉田美喜夫・日本労働法学会誌52号104頁/宮里邦雄・労働経済旬報1176号16頁/玉田勝也・公企労研究34号91頁/高木紘一・昭和52年度重要判例解説〔ジュリスト666号〕202頁/坂本重雄・法律時報50巻4号55頁/山口浩一郎・判例タイムズ357号105頁/山口浩一郎・労働判例287号22頁/山本吉人・労働判例百選<第四版>〔別冊ジュリスト72号〕36頁/松崎勝・公務員関係判例研究19号32頁/西村健一郎・民商法雑誌79巻4号568頁/西谷敏・ジュリスト659号78頁/西谷敏・労働判例百選<第四版>〔別冊ジュリスト72号〕106頁/前田光雄・地方公務員月報180号48頁/野田進・ジュリスト686号153頁/郵政省人事局労働判例研究会・官公労働32巻9号46頁/林修三・時の法令1003号52頁/林修三・時の法令1004号49頁

[iv]山口浩一郎「使用者の施設管理権と組合活動の自由--最高裁「国労札幌地本事件」判決を素材として」労働法学研究会報 31(3) 1980角田邦重「『企業秩序』と組合活動一『最高裁・企業秩序』論の軌跡」労働判例

435 号調査官解説山口浩一郎・法曹時報32巻7号1063頁、その他評釈 鵜澤秀行・労働判例329号8頁/下井隆史・判例タイムズ407号6頁/下井隆史ほか・ジュリスト709号78頁/河上和雄・法律のひろば33巻1号41頁/外尾健一・季刊労働法115号28頁/角田邦重・判例評論259号41頁/久保裕・教育委員会月報351号9頁/宮里邦雄・労働判例329号10頁/窪田隼人・民商法雑誌82巻6号828頁/山口浩一郎・労働判例329号4頁/時岡泰・ジュリスト709号76頁/秋田成就ほか・労働判例330号4頁/松村利教・昭和54年行政関係判例解説91頁/水野秋一・法律のひろば33巻3号73頁/西谷敏・昭和54年度重要判例解説〔ジュリスト718号〕268頁/竹下英男・日本労働法学会誌55号132頁/中山和久・労働判例百選<第四版>〔別冊ジュリスト72号〕198頁/渡部正和・警察学論集33巻3号100頁/平山優・地方公務員月報198号58頁/平山優・地方自治387号51頁/林修三・時の法令1057号59頁/林修三・時の法令1058号57頁 その他石橋洋「企業内組合活動慣行の法理」『流通經濟大學論集』19(2) 1985

[v] 企業秩序論の概説として三井正信「労働契約法と企業秩序・職場環境(1) <論説>」『廣島法學』三井正信33(2) 2009 http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00027808

 

[vi]受忍義務説の論理構成は「施設管理権」とは元来法律用語ではなく、昭和28・9年頃使用者側から主張された政策概念としたうえ、所有権・占有権の一つの機能として位置づけ、次のように物的管理権に限定して承認するというものであった。(西谷敏「施設管理権の法的性格とその限界」『法学雑誌』大阪市立大学法学会26(34), 1980

「本来それは、使用者が企業施設に対する所有権に基づいて当該施設を支配し、それの維持、保全のための必要な措置をする等の管理を行う権能(物的管理権)をさすものと解せられ‥‥」(片岡曻『法から見た労使関係のルール』労働法学出版1962 109頁) そのように、施設管理権の物権的性格を強調しそれゆえ「物的管理権である以上、施設管理権は組合活動に対して直接向けられるべきものではない」とされる。(峯村光郎『経営秩序と団結活動』総合労働研究所1969 161頁、本多淳亮『業務命令施設管理権と組合活動』労働法学出版1964 21頁)

 プロレイバー学説に従うと、施設管理権とは、物的管理権であって、企業の秩序の維持のために措置を行う権能ではない。そうすると狭義の業務命令権と抵触しない就業時間外、休憩時間は、使用者に対する示威であれ、集会など、広範な組合活動が規制できないことになる。ビラ貼りなどについても、対象物を毀損するなど損害を生じせしめた場合(例えば窓ガラスを破損した)、結果的損害の事後的てん補を請求する権利程度のものに矮小化されるのである。

 しかし工場や機械を所有しても実際に人を配置して操業しなければ財産を生み出さない。物的施設は経営目的に従って使用収益にまで用いるのでなければ財産としての意味をなさないのであるから、使用者が物的施設に対して有する所有権等に基づく権能を、その消極的な維持改善にとどめるというのは詭弁としかいいようがない。

 なお、本件はロッカー室でのビラ貼り事案であるが、休憩時間の企業秩序遵守義務については従業員の政治活動につきすでに目黒電報電話局事件最高裁第三小法廷昭和52年12月13日判決民集31巻974頁が「一般私企業の使用者が、企業秩序維持の見地から、就業規則により職場内における政治活動を禁止することは、合理的な定めとして許されるべき」「従業員は労働契約上企業秩序を維持するための規律に従うべき義務があり、休憩中は労務提供とそれに直接附随する職場規律による制約は受けないが、右以外の企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れない」と判示している。

[vii] 「受忍義務説」は昭和30~40年代に大きな影響を及ぼし、企業秩序を混乱させる元凶となったもので、今日でも多くの学者が支持している。

 受忍義務説の立論の基礎は憲法28条の団結権、団体行動権をプロ・レ-バー的に広く解釈し、それは私人間効力の及ぶもので使用者の権利や自由(その中心は財産権、具体的には労務指揮権や施設管理権)を一定の制約の契機が含まれていると解するものである。片岡曻・大沼邦宏『労働団体法』青林書院1991年 p263

「労働組合は‥‥‥労働力の取引過程の取引過程に介入し‥‥企業の内部にまで踏み込んで集団的な規制力を及ぼそうとする‥‥それは不可避的に使用者の取引を制約することになるし‥‥市民法上の権利や自由を侵害せざるをえないのであってそれゆえ現実に久しく違法評価を受けてきたのである‥‥にもかかわらず、むしろ、それを歴史的かつ社会的所与としつつ、生存権の理念に基づいて団結権に高度の法価値を認め、積極的な法的保護を与えることを意味している。要するに団結権(広義)は、その性格上、団結活動と対立する使用者の権利の自由の譲歩なくしてありえないものである」と説き「かくして、団結権(広義)は『市民法上の諸権利に対抗しそれを制約するあらたな権利として登場してきたものであり、それを基本権として憲法上保障することじたい、全法体系を貫く価値観の転換をともなわずにはいない‥‥』(籾井常喜『組合活動の法理』からの引用)ということができよう」と述べ、団結権(広義)とは他者の市民法の諸権利を制約する権利、全法体系の価値観の転換をともなうものである断言している。

 しかも、「受忍義務説」が「正当な」組合活動と評価すべきというのは組織、運営に関わる組合活動だけではない。片岡・大沼前掲書は「団結を維持・強化するために必要な活動も認容しなければならない」p273「労働者相互の働きかけの自由、それに対する干渉・妨害を抑止することが、使用者の受忍義務の中心的な内容をなす」p274、さらに「団体行動権の保障が『圧力形態としての本質の法的承認』を意味するものである以上、使用者は結局のところ、かかる本質を有する労働者の集団行動を認容し、いわば団結力に基づく威圧を甘受すべく義務づけられていると解する」p276。「業務運営や施設管理に多少の支障が生じたとしても‥‥直ちに組合活動の正当性が否定されるわけではない。損なわれる使用者の法益よりも大きな法価値が認められ、なお正当と評価されるケースは少なくないだろう」、「示威ないし圧力行動たる実質を有する組合活動の場合にも‥受忍義務が使用者に課され、それに対応する法的保護が労働者や労働組合に与えられることは基本的に承認されなければならない」p279とする。

 

[viii] 「受忍義務説」を採用した下級審判例

 昭和34年1月12日福岡高裁判決(三井化学三池染料事件)民集10巻6号1114頁では「そもそも会社の構内管理権は決して無制限なものではなく、組合の団結権に基く、組合活動との関係で調和的に制限せらるべきであるから、会社は組合活動の便宜を考慮してある程度の譲歩を行うべきであり、組合としてもでき得る限り右管理権を尊重しなければならない」という互譲調和論としての曖昧さを残していたが、刑事事件であるが昭和38年9月28日全電通東海電通局ビラ貼事件名古屋地裁判決『判例時報』359号に至って「使用者の施設管理権も労働者の団結権保障とのかねあいから、使用者が労働者に対して施設利用の便宜を拡張するとか、禁止の解除を行うとかの意味ではなく、権利の本質的な意味で制約をうけ、そこから生じる使用者の不利益は使用者において受忍すべき場合があると考える。」と使用者の受忍義務を団結権保障のコロラリーとして承認した。

 事案は昭和34年総評の指導する春闘において、同年3月全電通役員が中心となって東海電気通信局(名古屋市中区)庁舎の正面玄関やガラス窓等に、不当処分撤回、大巾賃上げ等を求める趣旨のビラ約四千枚を糊で貼付した行為が、庁舎の外観を著しく汚したものとして刑法260条の建造物損壊罪に問われたものであるが、判決は建物の大部分をビラで貼りつくすとか、醜悪で見るに耐えない等の程度に至らなければ建造物の効用を毀損したとはいえないとして、刑法260条の構成要件に至ってないと判断し、みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札する行為を拘留又は科料に処すとした軽犯罪1条33号との関係も論及し、労使の紛争状態の組合活動については同法は適用されないと断じた。更に傍論として仮に本件ビラ貼りが形式上建造物損壊に当たるとしても、それは組合活動の一環として合法的であり、違法性を欠き無罪であるとした。

 なお、無断ビラ貼りについては本文(次回以降)で後述するとおり近年では正当な組合活動として評価した判例はほとんどない。

[ix] 菊地高志「組合のビラ配布と施設管理権-日本ナショナル金銭登録事件を中心として-ー」日本ナショナル金銭登録機事件横浜地裁昭4329判決 労判172号(1973.5.1)の解説参照

[x] 中嶋士元也「最高裁における『企業秩序論』」『季刊労働法』1571992

[xi]国労札幌地本ビラ貼り事件最高裁判決は、「施設管理権」という言葉をあえて用いず、「職場環境を適正良好に維持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限」と表した。「施設管理権」と表さないのは、プロレイバー学説が物的管理権に限定されるべきものとしているからで、それと一線を画すためだろう。

[xii]私が法益権衡否定の意義を重視する理由は、本来、近代市民法秩序における自由、所有権、財産権と社会権的団結権労働法と相容れない性格を有するものであるからだ。プロレイバー労働法学の主張は、総じて言えば階級的・戦闘的労働運動の支援のため、労働組合に他者の財産権・所有権を制約(法益侵害)する権力を肯定し、近代市民法秩序を改変してしまおうという学説である。これに対し、最高裁は生産管理闘争を違法とした山田鋼業事件大法廷判決昭和25年11月15日 刑集4巻11号2257頁 判例タイムズ9号において、団結権・団体行動権は、国民の平等権・自由権・財産権に絶対的に優位するものとは認められないとして以来、プロレイバー的な、団体行動権の市民的権利に対する優位というような市民法秩序転覆の主張はもちろんみとめていないのである。いったん法益権衡論を認めてしまうと坂道を転げ劣るように市民法秩序は崩壊していくのであり、容認しないのは当然のことである。

 

[xiii]大内 伸哉 「企業施設を利用した組合集会に対する使用者の施設管理権の行使と支配介入--池上通信機事件(最判昭和63.7.19)(労働判例研究-747-)」『ジュリスト』988 1991

『別冊ジュリスト 労働判例百選(6)  安枝 英訷 134号  240

[xiv]渡辺章『労働法講義下労使関係法雇用関係法Ⅱ』信山社出版2011

[xv]9680小西 国友「 労働界再編成下の組合活動と施設管理権--日本チバガイギー最高裁判決を契機に〔含 質疑応答〕」『労働法学研究会報』』40巻28号1989

9448「組合活動と施設管理権,併存組合と差し違え条件-日本チバガイギー事件(最判平成1.1.19)」『労働法学研究会報』40巻24号1989

[xvi]調査官解説増井和男・法曹時報42巻3号235~254頁、ほか評釈安枝英のぶ・月刊法学教室115号96~97頁1990年4月/岸井貞男・民商法雑誌103巻1号115~131頁1990年10月/宮澤弘・労働経済旬報1411号25~31頁1990年3月5日/佐治良三・最高裁労働判例〔10〕―問題点とその解説447~512頁1991年3月/秋田成就・季刊労働法155号102~117頁1990年5月/小宮文人・平成元年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊957〕221~223頁1990年6月/上條貞夫・月刊労委労協405号29~34頁1990年1月/盛誠吾・日本労働法学会誌76号

[xvii]最高裁は、集会の態様が、業務に影響のないようなされたとか、外来の看護婦が通常の昼休みをとれない実態にあり、その時間が事実上休憩時間だった等の事情を『特段の事由』とすることにより、不当労働行為にあたるとする労働委員会、下級審の判断を粉砕したのである。

 本件は、警告が不当労働行為に当たるかが争われたもので、懲戒処分を是認したものではいが、この判決によって勤務時間中の無許可組合集会が正当な行為とされる余地は全くなくなったのであるから重要な判例といえる。

 

[xviii] 辻村昌昭 施設管理権および照会票による組合員調査と支配介入--オリエンタルモーター事件・最高裁第2小法廷判決(平成7.9.8)の研究〔含 判決文〕『労働法律旬報』1383 1996『現代労働法学の方法』信山社2010所収

道幸哲也「組合集会等を目的とする従業員食堂の使用禁止及び三六協定締結のための組合加入調査の不当労働行為性--オリエンタルモーター事件(最高裁判決平成7.9.8)」『判例時報』1567 1996

秋田成就「労働判例研究-839-会社が食堂の使用を許可しないこと,三六協定に際し組合加入の有無を調査したことと不当労働行為の成否--オリエンタルモーター事件(最高裁判決平成7.9.8)『ジュリスト』1086 1996

判例要解--組合員調査と不当労働行為の成否--オリエンタルモーター事件(最高裁判決平成7.9.8)『労働法学研究会報  47(2) 1996 

小俣勝治・季刊労働法178号1996年

萬井隆令・民商法雑誌115巻3号439~443頁1996年

菅野和夫・労働判例百選<第7版>〔別冊ジュリスト165〕2002年11月

中村和夫・労働判例百選<第8版>〔別冊ジュリスト197〕2009年10月

[xix]河上和雄「企業の施設管理権と組合活動--昭和541030日最高裁第三小法廷判決について(最近の判例から)」『法律のひろば』3311980

[xx]高木紘一「政治活動の禁止と反戦プレートの着用-目黒電報電話局事件」『ジュリスト』666

[xxi]近藤昭雄「協約自治の限界と政治活動禁止条項の効力-日本パルプ工業事件を中心に-『労働判例』229

[xxii]座談会竹下英男・水野勝・角田邦重「企業内における政治活動の自由-横浜ゴム事件・東京高裁判決をめぐって-」『労働法律旬報』850号 1974

2014/11/23

購入雑誌等整理5

26『労働法律旬報』1778号2012年10月下旬号
名古屋功「労働組合における街宣活動の正当性」
出田健一「労働組合の街頭活動の正当性」
27 『労働法律旬報』1775号2012年9月上旬号
晴山一穂「大阪市職員政治活動制限条例の問題点」
根本到「大阪市労使関係に関する条例の法的問題点」
28『労働法律旬報』1772号2012年7月下旬号
青野恵美子・高須裕彦「ウォール街占拠運動-新しい社会運動の可能性(上)」
29『労働法律旬報』1773号2012年8月上旬号
戸塚秀夫「「浦和電車区事件」東京高裁判決に対する意見書 最高裁判所第三小法廷宛(二〇一〇年一月二一日)」
30『月刊高校教育』2014年7月
耳塚寛明「「高い成果を上げている学校のポイント」お茶の水女子大副学長の教育社会学者だが、結局のところ「学力をもっとも規定する要因は、家庭の社会経済的背景であり、残念ながら個々の子どもの努力や学校の取組ではない」という。
 私も、努力なんて無意味、教育制度を変えても学力なんか向上しないという冷めた見方とりたい。財務省のいうとおり35人学級などは費用対効果ではあまり意味がないともいえる。
31『労働法律旬報』1825号2014年10月上旬号
 林弘子「妊娠・産休・育休取得と降格-初の最高裁判断」
安倍労働規制改革政策決定過程の記録4
32『週刊東洋経済』2011/7/9
「スーパー仕事人の成功する交渉術」
33『日本歴史』773号2012年10月
小倉久美子「日本古代における天皇服喪の実態と展開」
34『日本歴史』795号2014年8月
大川原竜一 書評 前之園 亮一著『「王賜」銘鉄剣とし五世紀の日本』
 従来古代国家成立の画期として五世紀後半の雄略期が重視されてきたが、允恭期を重視する新説。允恭は、記紀の伝える病弱・消極的な人物ではない。初めて倭と朝鮮半島南部の軍事指揮権および安東将軍を認められて、倭王の国際的地位を高め、最初に大王と呼ばれた画期的な存在なのだという。
35『日本歴史』794号2014年
大津透「高松塚古墳随想」東大教授なので影響力がある。高松塚古墳の被葬者を文武朝の左大臣石上麻呂とする

2014/11/22

入手整理資料141

1-183本多淳亮『米国不当労働行為制度』有斐閣1953年
1-184中島醸『アメリカ国家像の再構成ニューディール・リベラル派とロバート・ワグナーの国家構想』勁草書房2014年

1-185大沢秀介『フラット化した社会における自由と安全』
続・原発と言論
 ── 政府による「言論」の統制について 山本龍彦
サイバー犯罪の特徴と諸対策遂行上の法的課題 ── 社会はサイバー犯罪にどう対処すべきか 四方 光
予防と自由 ── アメリカの性犯罪者規制を素材にして 大林啓吾
国家秘密と自己統治の相克 ──ウィキリークス問題を素材として 横大道 聡
カナダにおける機密情報伝達行為に対する規制と憲章上の自由 手塚崇聡
アメリカの移民をめぐる最近の状況 ──アリゾナ州対合衆国事件判決を中心に 大沢秀介
外国テロ組織(Foreign Terrorist Organization)に対する実質的支援を禁じる連邦法の合憲性をめぐるアメリカ合衆国連邦最高裁判決 小谷順子
アメリカ合衆国における政教分離原則と政府助成 ── 信仰を基礎とした社会統合戦略 岡田順太など14論文

慶應の大沢秀介門下と思われる論文集、アメリカ憲法の最新情報を得るために購入

1-186角田邦重『労働者人格権の法理』中央大学出版部2014年
1-187森岡・今野・今井『いのちが危ない残業代ゼロ制度』岩波ブックレット2014根か
1-188エリックシュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ『ハウグーグルワークス』日本経済出版社2014年
1-189河内祥輔『古代政治史における天皇制の論理』【増訂版】吉川弘文館2014年(1986年原版の増補改稿)
1-190菅野・安西・野川編『論点体系労働法2賃金・労働時間・休暇』『論点体系労働法3人事・労災補償・安全衛生』第一法規2014年

2014/11/15

入手資料整理140

1-174 孫田秀春『労働法の開拓者たち-労働法四十年の思い出-』実業まの日本社1958
もちろん著者とは反対のイデオロギーで批判するための本。ドイツ留学に関する記事が多い。ローマ私法の個人主義を嫌う人々によって労働法が開拓されたということだが、私は反対にローマ私法の個人主義のほうが王道だと考え。ローマ法の労働は役務賃貸借という定義は18世紀のナポレオン民法に踏襲され、二千年の価値がある。我が国にも継受していることでそれを否定する理由はない。

1-175 M.バーチャル/J.ロビン 伊藤健市一訳『最高の職場-いかに創り、いかに保つか、そして何が大切か-』ミネルヴァ書房2012
 経営書。アメリカの優良企業の事例など。まず目についたのは最高の職場にいる従業員は余分に働く、従業員は職務分掌を越える仕事もこなして初めて自信がつくというところだ。私が時短に反対するのもそういう理由。オープンドアーシステムなど双方向のコミュニケーション、気さくさも企業風土の重要なポイントとしている。引用されているのはほとんど組合不在企業だろう。   

1-176-1 『労働法と現代法の理論 西谷敏先生古稀記念論集 上』日本評論社2013年
労働契約における労働者の「意思」と「規制」……吉村良一
  労働法の実現手法に関する覚書……山川隆一
労働権の再検討と労働法システム……三井正信
労働条件決定法理の再構成――労働協約・就業規則・労働契約の意義と機能……川口美貴
  取引的不法行為と自己決定権……吉田克己
良心について――憲法19条をめぐる考察……笹倉秀夫
公務員に対する職務命令の法的性質……晴山一穂 その他全部で22論文

1-176-2労働法と現代法の理論 西谷敏先生古稀記労働法と現代法の理論 西谷敏先生古稀記念論集した
労働法における集団的な視角……道幸哲也
労働組合の未来と法的枠組み……和田 肇
労働協約の規範的効力と一般的拘束力……浜村 彰
団体交渉は組合員の労働契約のためにあるのか?――団体交渉の基盤と射程に関する理論的考察……水町勇一郎
ILO条約と公務における団体交渉……清水 敏
法学と法実務――比較法史学的考察……水林 彪
子どもの自己決定権に関する一考察――ドイツの割礼事件をめぐって……西谷祐子
ドイツ連邦労働裁判所における基本権の第三者効力論の展開……倉田原志
イギリスにおける雇用関係の「契約化」と雇用契約の起源……石田 眞
 ディーキン説の検討、雇用契約が関係的かつ相互的な性格を有しているという観念は、コモンローと雇用保護立法の複雑な関係から生み出された。裁判所は擬制解雇の領域において、誘い板書は、使用者に対して次第に「協力」や「誠実」という積極的な義務の遵守を要求するようになった。
 主従法の時代は雇傭とは他者の当事者に排他的な労務の提供することで、一定の対価で特定の仕事をなす契約と区別された。1867主従法修正をへて1875年の使用者・労働者法により、契約違反を理由に投獄さけれることはなくなり、契約違反には適切な民事救済がなされるようになったとするが、家内使用人や事務員は対象とならず、今日の「契約」モデルは事務員からはじまったもので、1906年の公訴裁判所判決が労働者側の解約の予告義務に対し、使用者にも予告期間に労務を提供できなかった場合でも賃金相当額を支払う義務があるという当事者の相互義務り原則を産業労働者に適用したことしから、産業労働者も契約モデルとなったという説明である。
 予告義務の法理との関係が複雑でこの点を整理して確認する必要がある。
アメリカにおける法学の政治的性格:「法と経済学」と「批判法学」――テレス著『保守派法運動の台頭』の紹介を通して……相澤美智子ドイツ集団的労働法理論の変容……名古道功
ドイツにおける大学教員の業績給……藤内和公
「使われなかった」年休、そして「ゆとり社会」の行方――ドイツ国内法とEU指令との相克……丸山亜子
ドイツ労働契約法理における法的思考……米津孝司

1-177金尚均編『ヘイト・スピーチの法的研究』法律文化社2014
 7人の論文集。レイシズム批判の論者のほか、憲法学者の遠藤比呂通氏は「従軍慰安婦」に対すするヘイトスピーチを禁止することを緊急にやらなければならないとする。しかし、ヘイトスピーチの法的規制消極論の論者の論文もあるので一応バランスはとっている。
第 4 章 表現の自由とは何か 遠藤比呂通
第 5 章 表現の自由の限界 小谷 順子
第 6 章 言論規制消極論の意義と課題 小谷 順子
  Ⅱ アメリカにおける規制消極論 2
 Ⅲ 伝統的な規制消極論 4
 Ⅳ 「PC(ポリティカル・コレクトネス)」に反対する規制消極論
 Ⅴ 規制効果に対する懐疑論に基づく規制消極論
 第 7 章 刑法における表現の自由の限界 櫻庭 総 など
 小谷順子静岡大学教授は慶応出身の40代のアメリカ法研究者で1992年の連邦最高裁RAV判決(ヘイトスピーチ規制立法違憲判決)の専論のあるスマートな印象である。
 小谷氏は、アメリカでは新規の表現内容規制を設けることに強い警戒感があることに加え、政治的表現の規制及び萎縮につながることに対する警戒感があることなどを述べたうえ、ヘイトスピーチ規制は肯定されてないとする。ヘイトスピーチこそ規制しないが、人種的動機で遂行された犯罪に刑罰を加重するヘイトクライム法は存在し、政府も人種差別や宗教差別の解消をめざすメッセージを発しており、憎悪や偏見が社会生活に支障をきたすことがないよう努めているとして、大筋で規制消極論を展開している。
 櫻庭総山口大学准教授はヘイトスピーチの刑事規制は早計とする。ただし我が国の憲法学では、「価値の低い」言論の分類を公権力に委ねることの懸念や、対抗言論の余地なしとして、国家が規制、介入することにより「思想の自由市場」が脅かされることの懸念から、規制消極論が有力とされるが、実質的には市川正人の学説「‥‥暴力行為の煽動や侮辱を自己目的とするきわめて限定的な人種差別的表現処罰ならば、規定の文言がが明確であるかぎり、日本国憲法の下でも許容される可能性がある」という「条件付き合憲論」が有力と述べており、憲法学は規制消極論で固まっているわけでもないのでやはり警戒を要するのである。「条件付き合憲論」だけでなく集団誹謗罪創設論もあるのでこれに乗るような政治的動きには警戒を要すると考える。
 私は集団誹謗表現規制ももちろん反対。1992年RAV判決は法廷意見を記したスカリア判事の真骨頂を示したものとし高く評価している。暴力的ビデオ・ゲームを未成年に販売することを禁止した州法を違憲とした2011年のBrown v. Entertainment Merchants Association (formerly titled as Schwarzenegger v. Entertainment Merchants Association) でもスカリア法廷意見は、保護されない言論とされる新たなカテゴリーをバランシングによって創設することを求める政府側の主張を斥け、長い禁止の伝統を欠くような保護されない言論を新設することはないとした。この法廷意見が覆されない限り、合衆国では、立法府が低価値であるとする、あるいは政治的な理由で保護されない表現領域が新たに立法化されても違憲となるのである。ようするにチャイルドポルノ規制で打ち止め。これ以上の表現内容規制するべきでない。

1-178 園田寿・曽我部真裕編著『改正児童ポルノ禁止法を考える』日本評論社2014年
第1章 児童ポルノ禁止法の成立と改正……………………園田 寿
第2章 判例から見た児童ポルノ禁止法……………………………奥村 徹
[コラム] セクスティングと児童ポルノ製造罪………………園田 寿
[コラム] 児童ポルノサイトへのアクセス遮断(ブロッキング)……曽我部真裕
第3章 単純所持規制の憲法上の論点……………………大林啓吾
第4章 所持規制の刑法上の論点………………………高山佳奈子
第5章 児童ポルノ単純所持規制についての検討………落合洋司
――刑事実務の観点から

1-179長沼秀世・新川健三郎『アメリカ現代史』岩波書店1991年
2冊め、前の本がぼろいので新品に近い良本とかえる。ニューディールの労働政策に詳しい。

1-180 平尾武久『増補アメリカ労務管理の史的構造-鉄鋼業を中心として』千倉書房 1984年
 1870年代から1920年代くらいまでのアメリカ経営史。クラフトユニオンを使った内部請負制から、クラフトユニオンを追い出して、直接労務管理体制の確立とし、組合不在となった鉄鋼業の近代的労務管理体制の確立、アメリカにおける反労働組合色の強い労務管理を浮き彫りにしている名著だと思う。

1-181 ライト・ミルズ/河村・長沼訳『新しい権力者-労働組合幹部論』青木書店1975年
1-182 中澤誠・皆川剛『検証ワタミ過労自殺』岩波書店2014年

2014/11/12

プライムニュース 女性活躍法案テーマの番組の感想

  解散で今国会は先送りになりそうだが、「BSフジ プライムニュース」の女性活躍法案の番組見たが、女性活躍のために時短だ、イクボスだイクメンだ。自然の成り行きを待っていたら80年以上かかかるから強制だとか本当に不愉快な話ばつかりだった。 スティーブ・ジョブズの逸話として「マッキントッシュ」の開発メンバーは、「週80時間労働、それがうれしい」と大書されたTシャツを着させられて仕事に臨んでいた。それくらいで熱中しないと業績をあげることは難しいということだ。  1920年頃までアメリカ鉄鋼業は週休なし、1日12時間週84時間労働はふつうにあった。フーバー商務長官が時短させたのだが余計なお世話だ。女性のために勤勉に働く価値を否定するなんてとんでもない。

2014/11/09

(下書き) 英米における消極的団結自由(その1)

                              川西正彦

 

一 はじめに

 

(一) 英米法圏のトレンドは集団的労働関係から個別雇用契約(私的自治)へのパラダイム転換である

 

1 オセアニアの先進立法は社会権的団結権を排除する

 

 私は古典的自由主義者リチャード・A・エプステインRichard Epstein(ニューヨーク大学教授)の、「人間は自己の身体について排他的な独占権を持つ‥‥このことは、自己の身体を用いて行われる労働についても、同様に自己によって所有されることを意味する‥‥労働の自己所有のシステムにおいては、人々に他人の労働を支配する権利は認められず、労働を所有している個人が、自分がふさわしいと考える方法で‥‥自己の労働を支配する独占的な権利を与えるものである」[i] という見解に基本的に賛同する。自己自身の雇用について労働条件の決定権を他者に譲る(組合や政府)の団体主義にうんざりしその害毒に常に直面しているためである。

 要するに団体協約や労働者保護法によって、個人の労働力処分を制限したり、制約したりすることがない個別契約主義(私的自治)が最善だというものである。(そうでなくても集団的労働関係や政府による規制についても自己自身によりコントロールするため、集団主義的枠組みからオプト・アウトする自由があれば次善の選択といえる)。

 エプステインは、平穏な団体行動を合法化した1932ノリス・ラガーディア法や雇用主による不当労働行為の禁止を規定した1935年ワグナー法の構造を徹底的に批判し、こうした労働法を撤廃し、雇用・労働はコモンローの契約法と不法行為法だけで処理する[ii]あり方でよいという主張である。ニューディール立法は大恐慌による混乱への対応であり、平穏な時期であればこれらの立法は個人の自由と経済的な富を破壊するものとして拒絶される政策である。平常に戻った以上、それを継続する理由はなくなったとするものだ。言い換えれば、近代市民法原理、民法だけで十分、労働法は不要だというものである。

 エプステインの主張は突飛なものではない。1947年のタフト・ハートレー法の立法過程においてフレッド・ハートレー下院議員の法案は全国労使関係局の廃止、反トラスト法への労働組合への適用を含む、1914年のクレイトン法以前に戻す反労働組合立法であった[iii]。 しかし実際成立した法案は、タフト上院議員の主導によりワグナー法の原則を維持しつつ、労働組合の力を削ぐ中立立法でよいという考え方によるものだった。中道の政策ともいってもよいが、それはトルーマン大統領の拒否権行使を覆し再可決するための現実的妥協でもあった。

私はロバート・タフト上院議員を尊敬するが、法案それ自体はより広い支持を得るための次善の選択としての評価であり、最善はハートレー下院議員の法案だったと考えるものである。

よって、個人の自由を回復するためコモンローに回帰せよというエプステインの主張はアメリカでは普通の思想である。

我が国の民法のモデルとなっているフランス・ドイツ両民法の根本思想も、個人主義である。殊にフランス民法においては、個人主義的民法の大原則である、個人財産て゜権尊重の原則、契約自由の原則、自己責任の原則が確立され徹底されている。ローマ法であれ、ナポレオン民法であれ、コモンローであれ個人を保護する体系であることは基本的には同じである。

 他方、労働法や社会権的団結権は個人の権利よりも団体優位の思想に基づいており、特定集団の利益のための法である。それは本質的に近代私法と矛盾し、本来両立が困難な性格のものである。

 フランスでは、1886年労働組合を合法化したが労働協約は民法の「契約の相対効」(民法典1165条)により法的強行性が否定されていた。[iv]。英国コモンローは今日でも労働協約は営業制限の法理に反し違法であり、それ自体法的拘束力はない[v]

自己自身の労働力処分にかんする取引に自由意思による決定が許されない。自己自身がかかわってないし、認めてもいない協約に拘束されるというのは近代市民社会では本来理不尽なものである。労働力取引の制限は前近代のギルドの営業規制のあった時代に後退したも同じであり、近代市民法秩序において労働協約を法認する余地はなかったのである。

にもかかわらず近代私法原則をねじ曲げて、欧州大陸諸国で労働協約を合法化し個別契約主義から団体主義に移行した直接の要因は第一次大戦にある。労働協約を世界で初めて法認したのは1914年のスイスだが、ドイツは1918年、フランスは1919年である。

ドイツでは1918年「中央労働共同体協定」を受けて同年の「労働協約令」により労働協約が法認された。経営者側から19世紀以来の労働組合の要求を呑んだのは共産主義革命を防ぐためには労働組合に経営権を認めさせたたうえで体制内化させたほうが無難という戦術的譲歩による結果である。敗戦による混乱、ハイパーインフレ、革命への恐怖という労使双方に共通の基盤の上に成り立っていたことは疑いないものであり[vi] 、労働協約の法認や今日欧州大陸諸国の協約自治体制というものは戦間期に特有な事情により成立したもので歴史的必然であったわけでは全くない。

ILOもイギリスやフランスの国内事情で第一世界大戦の戦後処理のためにつくった組織である。戦争の遂行には労働組合の協力体制が不可欠だった。戦時協力の見返りとして、また戦後兵員の復員、軍需産業の生産低下に伴う雇用の混乱に対処するために、国際労働・社会主義会議の要求に譲歩する必要から設立されたものだった[vii] 

我が国は労政審議会等で三者構成原則を採るなどILOの政策に忠実であるが、我が国設立当初から係わっているのは、第一次大戦の戦勝5大国の一つとしてパリ講和会議に参加したことによるのであって戦勝国とのつきあいで国際労働機構への参加を余儀なくされただけにすぎない。要するに腐れ縁である。第一次大戦の負の遺産のような組織に追随していることにより新自由主義政策の転換できない足かせとなっていることは国益に反していると考えるものである。

この点、英米オセアニアは、ILOとは距離をとり、三者構成原則やコーポラティズムはとってないので、政策転換は容易なのはうらやましい。

エプステインは徹底した古典的自由主義の主張だが、英米法圏では現実的な政策なのであり、すでにオセアニアでは新自由主義的な労働改革の実績があるのだ。

私は、原理原則にこだわらず政府の規制を残した多少のバリエーションを許容することにやぶさかではない。例えば1996年オーストラリア職場協定(Australian Workplace AgreementAWA)」ように政府が労働条件の基準を法定しつつも労働協約を排除した使用者と個人が交渉する個別雇用契約制度とし時間外労働については使用者に賃金割増を強制しないあり方も悪くないと思う。(2005年制定職場関係改正法(Work Choices ActともAWAを発展させた立法である)

 

 オーストラリア自由党の政策と似ているもとして、政権交代があって挫折したとはいえ、ニュージーランド国民党政権の1991年雇用契約法(Employment Contracts Act)は「労働組合」、「団体交渉」および「労働協約」という集団的労働法の概念を排除し、代わって市民法的な契約自由を理念とする雇用契約を集団的労使関係の基礎に据えた立法だった。クローズドショップ・ユニオンショップ協定を明確に否定したうえ「被用者団体」は単なる社団であって、社会権的団結権の概念を明確に排除した[viii]。「労働組合」は雇用契約のための交渉代理人にすぎず、「団体交渉」は交渉代理人と使用者の個別的交渉に改変された。個別的雇用契約については「集団的雇用契約があるときは、使用者と被用者は、集団的雇用契約の定める雇用条件に反しない範囲で個別的に雇用条件を交渉することができる」(19-2[ix]とあり、集団的取引が優先されることとしている。しかしながら個別雇用契約を原則とする同法の意味は大きいと考える。

 同法は、団体交渉に関する規定も、それを支援する規定も、不当労働行為などの特別な救済も用意しない。集団的取引とるか否かは当事者の任意であるし、使用者に「団交応諾義務」を課すものは何もない [x]

 なおニュージーランドでは時間外労働の割増賃金を定めた立法はなく、1991年雇用契約法は契約自由なので、割増賃金やペナル賃率を強要されないものである[xi]

 

 社会権的団結権の概念を排除しているので19世紀から20世紀初期に戻ったような法だが、これが世界で最も先進的と思われる雇用立法なのである。

 私は我が国においてもこのように団体交渉による労使関係から個別契約による労使関係にパラダイム転換を指向する政策があってしかるべきと考える。TPPを契機として、外国企業を誘致しやすくするためには、労働法制の抜本改革をともなうプロビジネスな政策を打ち出さなければ、我が国を経済成長の軌道に乗せていくことはできないのではないかと考える。

 

2 アメリカでも大勢はニューディール型労使関係から非組合セクター型労使関係に移行している

 

 既に述べたように1930年年代の労働法を廃止したうえ、労働組合を反トラスト法の適用対象とすることが最善である。しかし現行全国労使関係法のままでも、すでに1970年代からニューディール型(団体交渉)労使関係は退潮となり、非組合セクターの労使関係が主流となっている

1960年代までは、GMやUSスチールのように団体交渉による労使関係が先進的と考えられていた。しかし組合セクターの企業は、制限的労働規則(restrictive work rules)により工場内における職務を細分化し、職務範囲を極めて狭い範囲に限定し、組合は個々の職種ごとに賃金等を設定し、仕事の規制を行うので、職場組織は極めて硬直的となる。日本企業と比較すると人員配置で融通が利かず新技術の導入でも利であり、競争力で劣ることとなる。

しかし1970年代に組合のない工場や企業の増殖により大きく事情が変わった。「工場革命」という。ゼネラルミルズ、モービル・オイル、カミンズ・エンジンは部分的に組合のある会社であったが、インテル、デジタル・エキップメント、テキサス・インスツルメントなどは完全に組合不在の企業である[xii]

アメリカでは1920年代に洗練された労務管理としてはロックフェラー・ヒックス流といわれる従業員福祉を重視する、温情主義的経営(ウェルフェアキャピタリズム[xiii] )によって効果的に労働組合組織化を抑止した経験から、組合不在企業の従業員に対してフレンドリーな企業文化が根づいていた。古くからの組合不在企業としてはIBM、コダック、シアーズ等がよく知られている。このため組合不在企業の評価が高いのである。

もっとも1990年代以降にIBMもシアーズもコダックといった古くからの組合不在企業が競合他社との競争等大きな試練を迎えたことは周知のとおりであるが、しかし後続するハイテク企業、サービスギ業の新興企業、例えばマイクロソフトであれ、シスコシステムズであれ、クァルコムであれ、ウォルマートであれホームデポであれ、アメリカのエクセレントカンパニーの大多数は組合不在企業である。

むしろ組合のある有名企業、ゼロックスやキャタピラ、ボーイング、クローガーの方が少数派になりつつある。

アメリカ合衆国の、2013年の労働組合組織率は11.3%で公共部門が35.3%、民間企業は6.7%にすぎない[xiv]わが国の大企業の多くがユニオンショップの組合があるのに対し、アメリカでは組合不在企業が主流といってさしつかえない。全国労使関係法は会社御用組合や従業員代表制を禁止しているので、組合不在企業は1対1の個別契約なのである。組合員は1450万で、公共部門750万、民間700万。アメリカ合衆国の組織率のピークは1954年。ハフィントンポストの記事にグラフが載っている。 http://www.huffingtonpost.com/2013/01/23/union-membership-

民間企業の組織率の低さは明白である。(続く) 


[i]井村真己「アメリカにおける雇用差別禁止法理の再考察(1)」 『日本労働法学会誌』100号2002年

[ii] 水町勇一郎『集団の再生-アメリカ労働法制の歴史と理論』有斐閣2005年 120頁

[iii]長沼秀世・新川健三郎『アメリカ現代史』岩波書店1991 471頁

[iv] 水町勇一郎『労働社会の変容と再生-フランス労働法制の歴史と理論』有斐閣2001年72頁

[v]イギリスではあくまでも雇用契約は一対一の個別契約であるが、個別契約中に「労働協約を参照する」などの文言を置き、協約の内容を取り込むことにより、事実上労働協約が機能している。水町編『個人か集団か?変わる労働法』勁草書房2006年神吉知郁子「第二章第3節イギリス」156頁

[vi]枡田 大知彦「ワイマール期初期の自由労働組合における組織再編成問題 : 産業別組合か職業別組合か」『立教経済学研究』 55(3) 2002http://ci.nii.ac.jp/naid/110000987134〔※ネット公開〕栗原良子「ドイツ革命における『ドイツ工業中央共同体』(二)完」『法学論叢』91巻4号1972

[vii]大前   ILOの成立-パリ講和会議国際労働立法委員会 」『人文学報』京都大学 47) [1979

[viii]林和彦「ニュージーランドにおける労働市場の規制緩和--一九九一年雇用契約法の研究(1) 」『日本法学』75(1) 2009 65頁

[ix]林和彦 前掲論文71頁

もともとニュージーランドでは、労働組合の交渉力が強く、賃金の決定も職能別組合による中央集権的な方式で行われていたが、同法施行後、個別雇用契約が広く一般的になった。1990年に団体交渉でカバーされていた適用比率は60%あったが、1994/95年には29%、同法廃止後の2005年には18%にまで縮減している。組織率は1991年が43.3%、2000年には17.7%である

[x]林和彦「ニュージーランドにおける労働市場の規制緩和--一九九一年雇用契約法の研究(2・完) 」『日本法学』5(1) 75(2)2009 39頁

[xi] 林和彦「ニュージーランドにおける労働市場の規制緩和--一九九一年雇用契約法の研究(1) 」『日本法学』75(1) 2009 38頁

[xii]S・M・ジャコービィ著内田・中本・鈴木・平尾・森訳『会社荘園制-アメリカ型ウエルフェア・キャピタリズムの軌跡』北海道大学図書刊行会1999年428頁

[xiii] さしあたりS・M・ジャコービィ前掲書、平尾武久・伊藤健市・関口定一・森川章『アメリカ大企業と労働者-一九二〇年代労務管理研究』北海道大学図書刊行会1998

[xiv] 合衆国衆国労働統計局2014年1月24日プレスリリースhttp://www.bls.gov/news.release/union2.nr0.htm

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