下書き)地方公営企業の職員の労働関係に適用できる法律、判例法理について(3)
承前(ただし(2)と一部重複し一部をカットした。)
4. 庁舎管理権について
但し、組合掲示板の一部撤去を正当とした昭和郵便局掲示板撤去事件最一小昭和57・10・7判決民集36巻10号2091頁判時1067号は.郵政省庁舎規程(昭和四〇年一一月二〇日公達七六号)六条に定める庁舎管理者による庁舎等における広告物等の掲示の許可は、掲示等による、表明等の一般的禁止を特定の場合について解除する処分であるとした。組合は使用権ないし利用権を取得せず、右許可の撤回または掲示板の撤去に対する原状回復請求権および債務不履行を理由とする損害賠償請求権は存しないと判示したが、企業秩序論は引用されず、端的に、掲示板それ自体が行政財産であるため庁舎管理権の問題として処理されていることからよ、庁舎管理権の発動のありかたについても言及しておく必要がある。
(1)庁舎管理権の根拠
庁舎管理権の根拠についてはA公物管理権を根拠としてそれ自体独立した公法上の特殊な物的支配権とするもの(田中二郎『行政法』(中)有斐閣版432頁、原龍之助『公物営造物法』57頁)と、B所有権の現れにほかならないとする(美濃部達吉『日本行政法』(下)786頁)を根拠とする見方に分かれる。このほか有力ではないが特別権力関係説や、部分法秩序の理論もあるが、この際無視してよいと考える。
行政主体が公物本来の機能である公共用又は公用に供するという目的を達成させるために有する特殊の包括的な権能を公物管理権という(田中二郎『新版行政法』中巻全訂版317頁)。A説では公用物たる庁舎の管理者が直接、国又は地方公共団体等の事務又は事業の用に供するための施設としての本来の機能を発揮するために一切の作用を行う権能を庁舎管理権とされ、その作用の形式から(1)庁舎管理規則(抽象的な規則の定立)、(2)目的外使用の許可(目的外使用)、(3)ポスター・ビラの撤去その他庁舎内の障害物の除去(事実上の行為)があるとされるのである。
B説は、永井敏雄大阪高裁元長官(平成26年退官)が法務省刑事局付検事時代に書かれた論文[i]である。行政裁判所の認められてない現憲法下では公法上の権利の効果は乏しく意義がない。私人の施設管理権と統一的に説明できたほうがよい、借上庁舎等他有公物についても判例及び学説は債権に基づく妨害排除請求権を認めているから問題ないとするものである。
(2)行政財産の目的外使用について
地方公共団体の公有財産は行政財産と普通財産に分類され(自治法238条3項)行政財産とは、普通地方公共団体において公用又は公共用に供し、又は供することと決定した財産をいい、普通財産とは、行政財産以外の一切の公有財産という(自治法238条3項)。
行政財産の目的外使用については、その用途又は目的を妨げない限度で、その使用を許可できる(自治法238条4項7号)している。
「公用又は公共用に供し」と区別していることには意味がある。公用(財産)とは事務また事業を執行するため、直接使用しているために保有しているもので、庁舎、議事堂、研究所、公用車等という。
公共用(財産)とは住民の一般利用に供されるために保有しているもので、道路、橋梁、公園、学校、病院等の敷地、建物をいう。公共用財産について、公共の利用に供するために人的サービスを伴い、上記の目的のために施設管理サービスを行っているものを「公の施設」という[ii]。
ア 地方自治法と地方公営企業法の関係
地方公営企業法では、「地方公営企業の用に供する資産」(地公企法9条7)には自治法に定める、行政財産と普通財産の両者が含まれるとしているが、地方公営企業法と地方自治法の関係はおよそ以下のとおりである。
○地方自治法の適用がある
自治法238条(公有財産の範囲と分類)
自治法238条3項(職員の行為の制限)
自治法238条4項(行政財産の管理及び処分)
自治法238条5項(普通財産の管理及び処分)
自治法238条の6(旧慣による公有財産の使用)
自治法238条7項3号から6号まで(行政財産を使用する権利についての不服申立)など
○地方自治法の適用除外
自治法96条1項5号から7号まで(契約の締結、財産の交換、出費等、重要な財産の取得又は処分について議会関与を排除)地公企法40条1項による。
自治法237条2項 など。
したがって、地方公営企業用資産のうち行政財産の目的外使用については、その用途又は目的を妨げない限度で、その使用を許可できるとしている地方自治法が適用される。
なお、地方公営企業用資産のうち行政財産を目的外使用された場合に徴収する使用料については、条例で定めることを要せず、管理者限りで定められる(地公企法40条3項)。行政財産の目的外使用の許可およびその取消、使用料にかかる督促手数料等の決定についても管理者が定めるものである(行実昭和41.10)[iii]。
イ 公用財産と公の施設は違う
なお自治法224条2項は正当な理由がない限り、住民が「公の施設」を利用することを拒んではならないとし、同条3項で住民が「公の施設」を理由することについて、不当な差別的取扱いをしてはならないと定めているが、庁舎は行政財産のうち公用財産であり、「公の施設」とは別の範疇である。水道局についていえば庁舎等は公用財産、配水本管は公共用財産あるいは公の施設と区別してよいと思う。
ウ 庁舎管理規則における目的外使用の規定の例
ちなみに国有財産法18条3項には「行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができる。」と自治法238条4項7号と類似の規定があり、国営企業や省庁の庁舎管理規則もそれに準拠した規定がなされているのである。
例えば『郵政省庁舎管理規程』(昭40・11・20公達)では「庁舎等における秩序維持等、犯罪の防止、業務の正常な遂行、清潔の保持及び災害の防止を図る」(一条)という目的のために必要な事項を定めたとし、「庁舎管理者は、庁舎等における秩序維持等に支障がないと認める場合に限り、庁舎等の一部をその目的外に使用することができる」(四条) とされ、国有財産法の趣旨に沿ったものとなっている。また厚生労働省が入居する霞ヶ関の『中央合同庁舎第5号館の管理に関する規則』では「第1条 この規則は、国有財産法(昭和23年法律第73号)第5条の2の規定に基づき財務大臣の指定した中央合同庁舎第5号館を厚生労働大臣が統一的に管理することを目的とし、「12条 管理官庁等は、原則として合同庁舎を所掌業務以外に使用させてはならない。2 管理官庁等は、やむを得ない事由によりその管理する合同庁舎の一部を目的外に使用させようとする場合は、あらかじめ「使用許可申請書」(別紙第4号様式)を提出させ、当該申請書を審査し、当該行為が所掌業務の遂行を妨げず、かつ、庁舎内の秩序維持及び安全保持に支障のないものに限り「使用許可書」(別紙第5号様式)を申請者に交付し、許可するものとする。この場合において、管理官庁等は、必要な条件を付し、又は指示することができる
」
としている。
エ しかし組合への掲示板は目的外使用とされないのが判例の通説
一般的にいって目的外使用の実例として地方自治法等の解説書で例示されているのは、食堂、売店施設、理髪室等の厚生施設、記者クラブ等の広報施設、災害時の応急施設である。清涼飲料やタバコの自販機の設置等もそうであろうし、映画のロケーション撮影のため便宜供与する場合も目的外使用の範疇と考えられる。
しかし組合掲示板の判例では、組合に便宜供与された使用関係は事実上の使用関係であり、組合に使用権を設定するものではないとしている。
昭和郵便局掲示板撤去事件最一小判昭57・10・7最一小判民集36巻10号2091頁判時1067号39頁について--庁舎管理権をめぐる問題」は行政財産たる掲示板の使用関係につき、国有財産法18条3項の目的外使用であることを否定し、庁舎管理権に基づく掲示物の使用許可によって事実上使用を許可されたものであることを明らかにしたうえ、その許可の性質は講学上の「許可」、すなわち一般的禁止の解除であって、これにより私法上のみならず公法上においてもなんら権利を設定、付与させるものではないことを明言した[iv]。判決は「庁舎管理者は、庁舎等の維持管理又は秩序維持上の必要又は理由があるときは、右許可を撤回することができる」とした。
掲示板が国有財産法の目的外使用であったとしても、それは民法上の使用許可で契約関係を生じるものであるから、被許可者に何ら使用の権利を生じさせるものではない説く見解もある[v]。しかし判決は掲示板の使用関係はそのように議論のある目的外使用ですらないので、なんら組合に占用利用の権利性を設定、付与するものでないとしているのである。
また税務署における組合掲示板につき足立税務署事件最二小判昭59・1・27労判425号30頁は「庁舎管理者による庁舎等における広告物等の掲示の許可は、専ら庁舎等における広告物等の掲示等の方法によってする情報、意見等の伝達、表明等の一般的禁止を特定の場合について解除するものであって、右許可の結果許可を受けた者は右のような伝達、表明等の行為のために指定された場所を使用することができることとなるが、それは、禁止を解除され、当該行為をする自由を回復した結果にすぎず、右許可を受けた者が右行為のために当該場所を使用するなんらかの公法上又は私法上の権利を設定され又はこれを付与されるものではなく、また、右許可が国有財産法一八条三項にいう行政財産の目的外使用の許可にもあたらないと解すべきことは、当裁判所の判例(最高裁昭和五二年(オ)第五〇〇号同五七年一〇月七日第一小法廷判決・民集三六巻一〇号二〇九一頁)とするところであり、原審の適法に確定した事実関係の下では、結論においてこれと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。」とし、昭和郵便局事件と同じ結論である。
[i] 永井敏雄「庁舎管理権と裁判所」『警察学論集』31巻9号1978年
[ii]村上順・白藤博行・人見剛編
別冊法学セミナー211号『新基本法コメンタール地方自治法』日本評論社2011年313頁
[iii] 詳細は加賀裕『地方公営企業の理論と実際』帝国地方行政学会1978年163頁以下参照。
[iv]茂田忠良・内田淳一「昭和郵便局掲示板撤去事件に対する昭和57年10月7日最高裁判決について--庁舎管理権をめぐる問題」『警察学論集』36巻1号 1983
[v]槇重博「郵政省庁舎管理規程(昭和四〇年一一月二〇日公達第七六号)六条に定める許可の性質(最判昭和57.10.7)『民商法雑誌』89巻1号 1983
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