オ 目的外使用の法律関係
(ア)中央卸売市場事件
(イ)昭和郵便局(全逓昭和瑞穂支部)事件
以上前回
(ウ)全国税東京足立分会事件
全国税東京足立分会事件最二小判 昭59.1.27労判425号[i]は昭和41年10月14日から15日、足立税務署の管理職が組合掲示板に貼りだされた「ストライキ宣言」等掲示紙を撤去しようとしたところ、体当たり、肘突き、足蹴り等の行為により撤去作業を再三妨害し、職場復帰命令に従わず職務を放棄した、全国税足立分会副委員長(徴収課勤務の大蔵事務官)の戒告処分を有効とした原判決を認容したものである。
判決は「ストライキ宣言」を掲示したことは、国家公務員法110条二項所定の違法な行為のそそのかし、またはあおり行為に当るとした。また「秋闘四大要求獲得」の四大要求の一として「アメリカのベトナム侵略にスト抗議しよう!」を掲げている点において、政治的目的を有する文書であるとし、国家公務員法一〇二条一項、人事院規則一四―七の五項五号、六項一二号の各規定に違反するものであると判示した。
国有財産である掲示板を組合が使用する法的関係については、上述の全逓昭和瑞穂支部事件最一小判昭57.10.7民集36巻10号2091頁判時1067号39頁を引用し同じ判断である。
上告棄却の最高裁判決は次のとおり
「‥‥ 庁舎管理者による庁舎等における広告物等の掲示の許可は、専ら庁舎等における広告物等の掲示等の方法によってする情報、意見等の伝達、表明等の一般的禁止を特定の場合について解除するものであって、右許可の結果許可を受けた者は右のような伝達、表明等の行為のために指定された場所を使用することができることとなるが、それは、禁止を解除され、当該行為をする自由を回復した結果にすぎず、右許可を受けた者が右行為のために当該場所を使用するなんらかの公法上又は私法上の権利を設定され又はこれを付与されるものではなく、また、右許可が国有財産法一八条三項にいう行政財産の目的外使用の許可にもあたらないと解すべきことは、当裁判所の判例(最高裁昭和五二年(オ)第五〇〇号同五七年一〇月七日第一小法廷判決・民集三六巻一〇号二〇九一頁)とするところであり、原審の適法に確定した事実関係の下では、結論においてこれと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。‥‥
国家公務員法九八条二項が憲法二八条に違反するものでなく、同法一〇二条一項、人事院規則一四―七が憲法二一条、三一条に違反するものでないことは、いずれも当裁判所の判例(最高裁昭和四三年(あ)第二七八〇号同四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁、同昭和四四年(あ)第一五〇一号同四九年一一月六日大法廷判決・刑集二八巻九号三九三頁)とするところであり、本件各掲示紙は国家公務員法九八条二項前段所定の違法な行為をそそのかし、又はあおる内容のものであって、これを掲示する行為が同項後段に違反し、また、本件各掲示紙のうち一部のものは政治的目的を有する文書であってこれを掲示する行為が同法一〇二条一項、人事院規則一四―七第五項五号、六項一二号に違反するとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、採用することができない。‥‥」
本件は国家公務員法等の判断であるが「ストライキ宣言」の掲示が、違法な行為をそそのかし、又はあおる内容のものであるとしている。
この判決の論理が地方公営企業にも適用できるかについて検討すると、地方公営企業の争議行為を禁止する地公労法17条1項が合憲であることは北九州市交通局事件昭和63.12.8最高裁一小判 民集42-10-739頁、判時1314号で明らかにされたことであり、地方公営企業において「闘争宣言」等が掲示板等に張り出されるケースにおいても、別異に解釈する理由はないと考える。
ただし、政治的行為については国家公務員とは法制度が異なる。地方公営企業法三九条が、企業職員(政令で定める基準に従い地方公共団体の長が定める職にある者を除く。)については、地方公務員法第三十六条(政治行為の制限)の規定は適用しないとしていることから、この点は私企業と大差なく、局所内での政治的行為の禁止、制限について就業規則や労働協約で明示されていれば、政治目的の掲示物の撤去という庁舎管理権の発動が可能と考える。
(エ)鹿児島県立大島高校等6カ所の学校施設目的外使用不許可事件(鹿高教組主催ミュージカル公演不許可)事件
鹿児島地判昭58.10.21訴務月報30巻4号685頁は鹿児島県高等学校教職員組合からのミュージカル公演を目的とする県立学校体育館6箇所の使用許可申請に対し校長が学校教育上支障があるとして不許可処分を適法とした判決であるが、控訴審、福岡高裁宮崎支部判昭60.3.29判タ574号も控訴棄却した。
ここでは控訴審判決を引用する。
本件は現鹿児島県奄美市に所在する県立高校施設の校長による目的外使用不許可処分を、合憲、適法とし、控訴棄却としたものであるが、判例タイムズの解説によると学校施設の目的外使用の法律関係についてアメリカの表現権判例におけるパブリックフォーラム論を踏まえ、学校施設はセミ・パブリックフォーラムとする思想を受け容れた点でスマートな新判例であり、目的外使用の法律関係について丁寧に検討している。。
事案は教職員組合が主任制反対闘争に関連してミュージカル公演(カチューシャ劇団の「ああ野麦峠」)を企画し県立高校体育館の使用申請をしたところ、校長が学校教育に支障があるとの理由で使用不許可処分とした。教職員組合は憲法21条、地方自治法244条3項等に違反するとして損害賠償を請求したものであるが、判決は学校施設は本来学校教育の目的に使用すべきものとして設置されたもので、一般公衆の集合、表現活動の利用のために設置された公会堂、公民館等の公の施設と異なるが、本来使用目的のほかに、社会教育法、スポーツ振興法の趣旨、慣行上、副次的に集合活動の場とされてきたことに照らし、全く住民が学校施設の目的外使用につき、憲法21条に基づく権利がないとはいいきれないとしながら、「本来の使用目的である学校教育上に支障がある場合にまで、その使用を要求する憲法上の権利を有しないというべきであり、また管理者は右施設の本来の使用目的である学校教育上の目的に支障が全く存在しないことが明らかな場合など特段の事情がない限り、集会、表現活動のゆえをもって右施設を使用させることを義務づけられるものではないというべきである。」とし、本件ミュージカル公演は学校教育の目的上明らかに支障がないとはいえないので、不許可処分は憲法に違反しないと述べ、裁量権の濫用にもあたらず、不許可処分を適法としている。なお公演は学校施設が不許可のため野外で行われた。
以上は要約であるが、以下判決の要所である。
「(一)地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもってその利用を供するために設置した公の施設につき、住民がその目的に適う公の施設としてこれを利用することを正当な理由なく拒んではならない(地方自治法244条)。
しかしながら、公の施設をその目的外に使用する場合は、施設管理権の使用許可が必要であり、それは行政財産たる公の施設の用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができるのである(地方自治法238条の4第4項)。
そして、このような公の施設ないし行政財産の目的外使用の一般的原則は、その施設ないし財産の一である学校施設の目的外使用についても、特段の定めがない限り当嵌るといわなければならない。
(中略)
(三)学校施設の目的外使用に関しては、学校教育法八五条に「学校教育法八五条に「学校教育上支障がない限り、‥‥学校の施設を社会教育その他公共のために、利用させることができる。」の旨の規定があるが、これはとくに前示行政財産の目的外使用一般を律する地方自治法二三八条の四第四項を学校施設の目的外使用一般を律する地方自治法二三八条の四第四項を学校施設の目的外使用に敷衍したもので、両規定は同一の趣旨を定めたものにわかならない。(中略)
(五)県教委が公立学校施設の目的外使用許可基準等について定めた管理規則は、地方教育行政法三三条一項に基づき適法に制定されたものであるが、同管理規則は次のように定めている。
「第八条 次の各号の一に該当し、又は該当するおそれがある場合においては、校長は、施設、設備の利用の許可を与えてはならない。
(1)学校教育上支障があるとき。
(2)公安を害し、風俗をみだし、その他公共の福祉に反するとき。
(3)もっぱら私的営利を目的とするとき。
(4)施設、設備を損傷する等、その管理上支障があるとき。
(5)その他校長において支障があるとき。
右管理規則八条も学校施設の目的外使用について前示地方自治法二三八条の四第四項、政令三条、学校教育法八五条、社会教育法四四条一項、スポーツ振興法一三条一項等の趣旨を踏えて学校施設の第一次管理権者である県教委がその目的外使用基準を定めその基準内において校長にその利用許可権限について授権したたものであるというべきである。
二「学校教育上の支障」について
‥‥「学校教育上支障がない」とは、単に施設が狭隘であるなどの物理的支障に限らず、教育上の配慮から広く児童、生徒に対し精神的悪影響を与え当該学校の教育方針に悖るような場合もこれに当たるべきである。
そして、「学校教育上の支障」は、単に現在の具体的な支障の存否だけでなく将来における支障が生じる虞れが明白な場合も含むと解するのが相当である。
(二)本件公演実施と学校教育上の支障
‥‥かくして控訴人組合及び鹿児島県教職員組合と県教委との間に激しい対立が生じ、右両組合員多数が鹿児島県教育庁内等で連日座り込みやデモを行い、ストライキによる反対闘争を行ない、右給与条例成立後は、従前どおり主任の職員会議における選出、一年交替制の確立、主任中心の学校運営の排除を目標とする活動をするとともに、主任手当支給対象者に対し主任手当金を両組合に拠出することを決め、その誓約書を提出させる主任手当拠出闘争に積極的に取組み、その結果鹿児島県立高校の主任手当受給者のうち控訴人組合への拠出者が、昭和五三年七三・六%、昭和五四年七五店・五%に達したが‥‥右拠出闘争から脱落した者もあるし、非組合員でも右拠出に応じたものがいた。控訴人組合は昭和五四年度の具体的闘争目標の一つとして、主任制の空洞化のための主任手当の完全拠出を実現させるため組織をあげて積極的な説得活動をすること及び累積した拠出金を公立学校の体育教材の購入及び不足する学校施設の改善の資金として寄附すること、及び右拠出金をもって本件公演を実施することを掲げていた。本件公演の宣伝用パンフレットにも、「主催者のあいさつ」の表題で「主任手当は、ごく一部の先生にしか支給されず、学校の仕事をみんなで公平に分担しあい協力し合っている先生がたにとっては非常に不公平な手当てであり、先生がたの和が乱れるもととなります。ほとんど大部分の先生方がたがこの主任手当に反対し、主任手当は、支給されても受けとらず、教育を向上させるための資金になるよう寄附されています。」との記載があり、この資金を役立てるため本件公演を計画したとの趣旨が併せて記載されているし、本件公演の際の主催者である控訴人組合の挨拶でも同旨のことが述べられていた。
以上の事実を考え併せると、本件カチューシャ公演が主任制形骸化闘争としてなされた主任手当拠出運動の一環であり‥‥右闘争の教育宣伝を行い、もって主任制度の終局的廃止を目指したものであって、本件公演の会場として本件学校施設の使用を許可することは主任制度をめぐる前示深刻な紛争に一石を投じ、校長らと控訴人組合員のみならず、教職員間の対立、緊張を一層昂め、紛争が激化増大して学校運営に支障をきたし、ひいて児童生徒に対する学校教育上に支障を与える蓋然性が高かったと推認するのが相当であり‥‥適法な処分である。
(中略)
第三 裁量権濫用の検討
‥‥
一 地方自治法二三八条の四第四項、学校教育法八五条は前示のとおり、「用途又は目的を妨げない限度」ないし「学校教育上支障のない限り」その「使用の許可」ができ「利用させる」ことが「できる」ことを定めたものであって、右学校教育上の支障があれば利用許可ができないことは明らかであるが、その支障がないからといって直ちに利用許可を管理権者に義務づけたものではなく、その場合でもなお行政財産たる学校施設の目的用途と当該目的外使用の目的、態様などの関係において合理的、合目的的裁量判断により利用を許可しないこともできる趣旨であると考える。(中略)
そして本件利用不許可処分は‥‥本件公演が学校教育上支障がある場合ないしその虞れがある場合に該り、かつそのように校長が判断してなされたものであって‥‥とくに恣意的な害意をもってなされたものであるなどの特段の事情は認められないから、前示合理的、合目的的裁量判断の枠内にあり、これが裁量権の濫用に当たるとは認められず‥‥
二 控訴人らは本件公演が主任制形骸化闘争の一環として行われたものとすれば、それは組合活動であり‥‥憲法二八条の団結権、地方公務員法五二条の職員団体結成の自由に基づき結成されたものであるから、その正当な団結権教化と経済的地位の向上を目指した団体活動を嫌い、これを尊重せずに学校施設の利用不許可処分をしたのは裁量権の濫用である旨主張するが、そもそも行政財産たる学校施設は本来の学校教育の目的にしようすべきものであり、前示限度でこれを目的外に使用することを許可する場合の法律関係は、私法上の賃貸借などの貸借関係たる性質を帯有するものにほかならないから、特別の事情がない限り賃貸主になろうとするものに賃借人が自己の団結権の保障を根拠に貸借契約の締結を強制することができないことは明らかである。
したがって、第三者の行なう本件公演の学校教育の目的外使用の許可申請と団結権の保障とは無関係であって、控訴人の団結件の保障の故をもって本件学校施設利用不許可処分が処分権の濫用になるという控訴人の主張は採用できない。」
つまりこの判決は、学校施設が副次的に集合活動の場でもありうることを否定しないが、本件ミュージカル公演は、組合による主任手当の拠出を資金として行なわれ、主任制形骸化闘争の教育宣伝を目的とし、教職員間の対立、緊張を一層昂め、紛争を激化増大して学校運営に支障をきたす蓋然性が高かったがゆえに不許可処分は適法であり、団結権侵害にも当たらないとしている。
(オ)福岡県鞍手町立小学校施設使用不許可処分事件
福岡県鞍手町立小学校施設使用不許可処分事件福岡高判平16.1.20判タ1159号149頁公立小学校長による組合分会会議(他の学校の教職員も参加し、非組合員の組合加入勧誘を目的とするものだった)の学校施設使用不許可処分が裁量権の行使を逸脱した違法な処分であるとして教職員組合支部の損害賠償請求が認められた例。
(註)判決文では行政財産の目的外使用について、238条4条4項による許可が必要としているが、平成18年の地方自治法改正で、この条文は238条の4第7項となっている。
判決は次の通り
「‥‥2 本件不許可処分の遺伝違法性(争点1)について
(1)一般に、行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができ(地方自治法2 3 8条の4第4項)、特に学校施設については、学校管理者は、学校教育上支障のない限り、これを社会教育その他公共のために利用させることがで
きると定められているところ(学校教育法8 5条)鞍手町においては,これを受けて、町立小中学校等においては核長が学校の施設.設備を社会教育その他公共のために利用させることができるものとされている(鞍手町立小中学校等管理規則2 5条1項、乙2)。なお、鞍手町立学校教育施設使用に関する条例(乙3)では、社会体育活動等の場として鞍手町立の学校施設を使用しうる範囲を、町立学校の体育館と運動場に限定し、学校教育に支障のないよう教育委員会と当該学校長が協議のうえ使用を許可するものとされているが、上記条例は、体育館及び運動場が町民等の社会体育活動等に供されることが適切でありかつその利用頻度も高いことから、その利用方法を定めたものと解せられ、同条例により体育館及び運動場以外の学校施設の目的外使用を全く許さない趣旨と解することはできない。)。
B分会長のA校長に対する本件許可申請は,上記のような学校の施設についての目的外使用の許可申請であると解されるところ、Z小学校の管理者たるA校長は、学校設置の目的に反しない組合活動のために、裁量によって学校施設の利用を許すことができるだけでなく、
その不許可処分に管理者の裁量権の逸脱、濫用があった場合には違法となると解すべきこと、並びに裁量権の逸脱、濫用に当たるか否かは、許可を求める内容許可が与えられなかった場合の弊害及び与えた場合の障害等の具体的個別的事情を社会通念に照らし総合的に
判断して決せられるべきことはいずれも原判決(‥‥)に説示のとおりである。そして、校長が学校の施設の目的外使用につき、与えられた施管理兼に基づく裁量権に基づく裁量権を行使してその諾否を決するに当たっては、公の財産でありかつ教育目的の施設である学校の管理の必要性とその有効適切な利用の見地から、その申請時の具体的個別的事情(当該施設の他の使用予定など)を前提として、当該許可申請の使用時の時間や場所、使用者の範囲、使用の目的など諸般の事情を総合考慮した的確な判断が求められるのであり、学校長による裁量権の行使が違法なものか否かの判断は、それが裁量権の行使であることを前提とした上で、むその判断が合理性を有するか否か、合理性を有しないとしてその合理性の欠如が社会通念、条理、公平等の観点に照らして著しく妥当性を欠くものか否かを総合的に検討して決せられるべきものである。
そこで、以下、本件不許可処分が.このような見地から裁量権の逸脱.濫用として違法と いうべきか否かについて検討する。
(2)証拠(略)によれば,Z小学校 を含む福岡県内の公立学校においては’教職員組合(福教組)の支部の分会会議は.特別の事情がない限り、分会が置かれた当該各学校の施設を使用して行われていること、このような分会会議のための学校の施設の使用許可申請は、多〈の場合、書面等によらず分会長らが学校長等に対して「何時からどこどこの部屋で分会会議をします。」と告げることによって行われ,学校長等が「はい、分かりました。」などと口頭で答えることによって許可されていたこと、その際、会会議の目的等については、分会側も特段これを告げず、校長側もこれを質すことはなかったこと、が認められる。このように、少なくとも、当該学校の分会員のみによる分会会議を目的とする学校施設の使用許可申請については、当該分会会議の内容が分会員による当該学校教職員に対する組合加入勧誘のための活動を含む場合であると否とにかかわらず、当該施設において当該時間に他に使用の必要があるなど特段の事情がない限り、これを許可する運用が行われていたということができ,かかる運用に特段の問題があっ
たことはうかがえない(但し、一般論として、当該会議の参加者については.申請者である分会長においては外部からの参加者がある場合には管理者側に誤解等が生じないようにこれを明らかにした上で使用許可を申請し、また、管理者である学校長においても、必要に応じてその許否の判断に必要な事項を質問するなどして対応すべき場合もあると考えられるが. これらが従前実際にどのような場合にどの程度行われていたかは措く。)。
(3)これに対し、本件許可申請にかかる分会会議のための学校施設の使用は、
(1)当該学校の分会員のみではなく Z小学校に所属しない支部役員が参加するものであること、及び、(2)支部役員を含む控訴人所属の組合員による非組合員たる教職員に対する 組合加入勧誘を目的とするものであること.を特徴とするものであるといえるから、以下、 この点について検討する。
(4)まず、前記(3)の(1)については.使用者が当該学校の教職員以外の者を含む点で、施設管理の観点から検討を加える必要がある事柄であると考えられる。
この点に関し、被控訴人は、A校長が本件許可申請についてこれを不許可とした理由の一として、学校警備に支障が生じる点を挙げ、外部の組合関係者が来校することになっていると、不審者を組合関係者と思い違いするなどして、学校警備にすきが生じるし、Z小学校では、当時、特定の子供の靴が盗まれたり、学校で飼育していた鶏やウサギが殺されたり.体育館の裏側にシンナーの入った一斗缶が置かれていたりして、同校長としては、警備の点に非常に神経を使わなければならない状況下にあったなどと主張し、原審証人A及び当審証人 Gの各証言中にはこれに沿う部分がある。
しかしながら、本件許可申請に対する不許可処分を行った際、A校長がBに対し、警備上 に支障が生じる点について特段の説明をした形跡はなく、当審における証人Gの証言によっても、本件不許可処分の直後に、A校長がその経緯についてG教育長に報告を行った時点でも、これについては触れていなかったことが認められることや、原審における証人Aの証言 内容などからすると、本件不許可処分の段階においては、A校長が警備上の問題を本件許可申請を不許可とする主たる理由と考えていたとはいえないこと(その主たる理由は、組合勧誘行為による教員の精神的動揺など,後記(5)に記載のとおりの被控訴人の挙げる事情で あると考えていたこと)がうかがえる。そして,被控訴人が不許可処分の理由として挙げる上記の諸点は、A校長と当該支部役員との面識や用務員の対応の問題等を含め,いずれも学校警備上の抽象的な危険性があるというに過ぎないものというべきで、控訴人の支部役員等が分会会議に参加するため来校することによって警備上何らかの具体的な危険が生じることや、一律に支部役員の參加する分会会議のための学校施設の使用を不許可とすることがその
危険を回避するために有効な手段となり得ることを認めるに足りる資料は見当たらない。他方、一般に、支部役員による分会員との連絡、意見交換、指導.助言等は、これが違法な争議行為に関する活動等でない限り、その適法な組合活動の一環として許されるというべきで あるから、この目的のために学校施設に立ち入ることをもって直ちに違法ということはできない上、社会通念上これを妨げるべき合理的理由もない。これらに加えて.分会会議のため の学校の施設の使用許可申請に対する使用の許否の実情は上記(2)のとおりであり,その中には施設使用者の範囲について支部役員など当該分会員以外の者が参加する場合が含まれていたものと考えられることをも考慮すると、学校施設の使用者として当該分会員以外の者が含まれていることを明示して行われた本件許可申請について,その具体的な人数や氏名及び地位等の具体的態様を問うことなく、また、警備上の問題点を具体的に説明するなどしないまま,一律に外部者であるということのみで支部役員の参加する分会会議のための学校施設の使用を不許可とすることは,合理性を欠くといわざるを得ない。
(5)次に,前記(3)の(2)については,分会会議の内容が違法な行為等を目的とする場合は別論として,教職員組合の会議である以上.職務である教育に関連する各種活動を内容とすることが予定されるものであり、また,労働組合である以上、その組織の人的 かつ財政的基盤である組合員の維持拡大に関する活動が分会会議の内容となり得ることも当然のことというべきであるから、このような分会会議の内容や目的の違いによって,その使
用許可申請の許否の判断を異にすべき性質のものと考えることはできないし,このことは, 支部役員が参加して行われる分会会議においても.碁本的に同様であるというべきである。
これに関し,被控訴人はA校長が本件許可申請請にについてこれを不許可とした理由の一と
して、学校教育に支障を生じる点を拳げ、A校長は、事前に組合加入勧誘の対象者がC, D, E及びFの4名であることを聞き及んでおり、その中には,当日休暇を取ろうか、出席 を断ったら気まずくなるだろうかと動揺している者、授業に関して生徒及びその保護者との間のトラブルで神経をすり減らすような関係が続いて悩んでいる者、妊娠障害で苦しみ、特別休暇を繰り返している者がいたため、校長としては正常な授業を維持するためには授業と直接関係のないことで教員らにこれ以上の精神的負担をかけさせないように配慮する必要が
ったし,激しい組合加入勧誘がなされることも予想されたので、上記対象者の精神的負担を軽減させたり、組合加入勧誘による学校内での組合員と非組合員との気まずい人間関係が生じることを危惧しなければならなかった旨主張、これに沿う原審における証人A及び当審における証人Gの各証言部分がある。
しかしながら、教職員の日常の執務状況やこれに伴う精神的負担の有無等に対する学校長としての一般的な配慮の必要性の問題はともかく、そもそも上記主張のような組合加入勧誘に関連する行為についての事情ないし危惧は、0それ自体.基本的には勧誘者ないし組合とその勧誘対象者各自の個々的対応に委ねられるべき性質のものであるばかりか、かかる行為が行われる場所の問題に限っても、これが学校の施設で行われた場合と学校の施設以外で行われた場合とでその勧誘対象者への影響ないし効果に質的な差が存するということはできず、控訴人傘下の分会会議のために学校の施設の使用を不許可とする根拠としては薄弱であるといわざるを得ない。また、この点に関連して、原審における証人Aの証言中には、A校長自身、平成11年4月にZ小学校に着任して以降本件許可申請までの間に、オルグ目的のため
学校施設使用許可申請を経験したことがなく、他の公立小中学校の校長に問い合わせたところによると、組合員獲得のオルグであれば、学校外で会合をしてもらっている旨の回答を得たと述べる部分があるが、これらを裏付ける資料はない、そもそも被控訴人の上記主張自体.当該学校に所属する分会員のみによる当該学校教職員に対する組合加入勧誘に関する活動との比較において、これに当該学校外の支部役員が参加して行われる組合加入勧誘に関
する活動が特有の性質を有するとして主張されているものでもないから、控訴人が主張するように、本件不許可処分自体が直ちに不当労働行為性を有しているというべきかどうかは別論としても、組合加入勧誘対象者に関する上記のような事情が、A校長の本件不許可処分の合理性を基礎付ける事情となり得るものでないことは明らかであり、被控訴人の当該主張は
失当であるといわざるを得ない。
(6)また、被控訴人は,A校長が本件許可申請についてこれを不許可とした理由の一として、鞍手町にはZ小学校から約6 0 0メートル離れた位置に中央公民館が設置されており、ここで分会会議を開〈ことができる旨助言したことを挙げ、ほかにも学校の近くに会合に適当な場所があるので学校施設の使用を認めなくても憲法が保陣する団結権を侵害することにならない旨主張する。
しかしながら、控訴人を初めとする教職員組合が、本邦における他の多数の労働組合と同様、基本的にいわゆる企業内労働組合の性質を有する上、教職員の職務自体の特質に加え、
控訴人の労働組合としての組織の規模や分会会議の頻度及び分会会議の開催に関する上記(2)の実情に照らしても、その会議の内容如何にかかわらず、学校施設を使用しての分会会議と学校外の施設を使用してのそれとは、管理者側及び労働組合側双方にとって、その利便性や実効性等の問題を含めて相当の差違があり、学校外の施設の使用に関する本件不許可
処分をもって単に控訴人において場所的な利便が受けられなかったに過ぎない程度の問題として看過することのできないものがあるというべきであって,被控訴人が挙げる代替施設である中央公民館の問題に関しても.証拠(乙4の2)によれば.使用許可を受けようとする ときは.公民館使用(変更)許可申請書を使用の7日前までに公民館長に提出し,許可を受けなければならず(鞍手町公民館使用条例施行規則3条),これが適当な代替施設となり得ないおそれがあると認められること(これに反する当審における証人Gの証言は採用できない。)などを総合すると.被控訴人が主張する上記事情は、いずれも、本件会議に学校施設 の使用を不許可とする根拠としては薄弱であるといわざるを得ない。
(7)以上のような.教職員組合の分会会議のための学校施股使用に関する運用の実情(上 (2) )を含めた諸事情に加えて、本件使用許可申請において予定された使用者(分会会議の参加者)は、許可の対象となる施設であるZ小学校の教職員とこれを含む鞍手郡内及び直方市内の教職員で組織する控訴人の支部役員であり、教育施股としてのZ小学校からみて教職員以外の外部の者を含むものではないこと、の使用目的が、控訴人の組合活動の一環たる分会会議であり、憲法2 8条の趣旨からも、その団結権が尊重されるべきであること。被控訴人が指摘する上記各事情の他に、本件許可申請にかかる施股について控訴人以外の者による利用が予定されているなど、本件申請を許可することによってZ小学校の施設の管理運営上特段の支障が生じることを基礎つける事情は見当たらないこと等、本件にあらわれた諸般の事情を併せ考えると、本件において本件許可申請に対してA校長の行った不許可の裁量判断は不合理で、社会通念上著しく妥当性を欠くものといわざるを得ない。そして、このことは、一般に、労働組合が使用者の許諾を得ないで企業施設で組合活動を行うことは,その利用を許さないことが使用者の施設管理権の濫用と認められる特段の事情がない限り正当性を有しないこと(最高裁判所昭和5 4年10月30日第三小法廷判決•民集3 3 巻6号6 4 7頁參照)や、労使慣行がそれ自体で特別の法的効力を認めるべき実定法上の根拠はないこと(但し、一般に、労使慣行がそれに反する使用者の権利の行使を権利の濫用として無効とする効果を持つことがあり得るし、少なくとも,本件においても裁量権の濫用の
判断の一要素として従前の運用の実情が考慮されるべきは当然である。)を前提
にしても、 なお同様であるというべきである(略)。
(8)以上のとおりであって,本件不許可処分は,裁量権の逸脱.濫用として違法と
いわざるを得ない。」
本件は、下級審判例であり、判例タイムズ以外判例評釈がないが、教研集会以外で組合側が勝訴した点で注目した。不当労働行為に該当するか否か争われたのではなく、校長の学校施設使用不許可の裁量判断は不合理で、社会通念上著しく妥当性を欠くと判示であるが、印象としては救済命令取消訴訟であるが総合花巻病院事件最高裁第一小法廷昭和60年 5月23日『労働委員会関係裁判例集』20集164頁http://web.churoi.go.jp/han/h00312.htmlのケースと理屈としては類似していると思った。
これは、組合が上部団体である医労協に加盟し、原告の意に副うような労使関係が崩れた時期に、病院は従前の施設利用を拒否するようになったことから、従来の例を破る特段の正当な事情は認められないから、病院施設を組合に利用させないことによって組合活動の弱体化を図ったものとみられても仕方なく、組合の運営に対する支配介入にあたるから、労組法七条三号に該当する不当労働行為であるとして、労委命令に違法はないと判示した原判決を支持したものである。
本件では従来機関運営の分会会議は学校施設使用を許可していたのに、校長が非組合員の組合加入勧誘を目的としていることに着目し、組合に施設利用を拒否したことを不当労働行為とはしていないが、施設利用を不許可とする合理的根拠とはみなさなかったのである。
(カ)広島県高教組定期総会学校施設使用不許可事件
広島高教組定期総会学校施設使用不許可事件広島地判平17.2.9(掲載-裁判所ウェブサイト) 広島県高教組の支部である原告がそれぞれの事務局のある高校の体育館で定期総会を開催するための使用許可申請の校長による不許可処分を適法とした。
判決(抜粋)
「 (ア) まず,本件各大会の目的及び使用態様について検討する。
本件各大会は上記のとおり組合活動の一環として行われるものであり,前記(1)イ認定のとおり,本件各大会は原告らの組合員全員が参加資格を有し,新年度の運動方針などが報告・議決されるものであり,第50回定期大会(府中地区)には約250名もの組合員が参加する(証人E)のであるから,本件各大会では原告ら地区支部の意思が決定され公になるものと考えられ,例えば各種委員会や分会会議などと比べても大きな社会的影響を有する形態で開催されるということができる。
(イ) 続いて,代替施設の確保の困難性を検討する。
前記(1)ウ(ア),エ(ア)に認定のとおり,原告旧府中地区支部においても原告三次地区支部においても,本件各申請を行う前に代替施設である府中市文化センター及び三次市まちづくりセンターを予約しており,本件各大会の1年前の第49回各大会はこれら施設において開催されていたことが認められる。そして,たとえ学校施設以外の施設を使用することによって事前準備や使用料,駐車場等の面で若干の不都合があるとしても(証人E,同F,同H),前記(1)ウ(イ),エ(イ)に認定のとおり本件各大会は特に混乱もなく開催されたのであるし,使用料を要したとしても,従前はたまたまこれが免除されていたに過ぎず,本来,施設を使用した原告らが料金を負担すべきことは論をまたない。原告らは他の施設使用の申込み等の事前準備のために年次有給休暇を取らなければならなくなったとして不満を述べるが,本件各大会は組合活動の一環であって,職務専念義務(地方公務員法35条)を負う教職員が組合活動を行うために年次有給休暇を取るべきことは当然である。これら事情からすれば,原告らにおいて代替施設を確保することが困難であったとはいえない。
(ウ) 従前の経緯を検討する。
前記(1)イに認定のとおり,春の定期大会や批准集会は従前から高教組の各地区支部事務局が置かれている高等学校の体育館を使用して開催されてきたが,平成11年度の批准集会から一部を除いて高等学校の体育館を使用できなくなり,平成12年度の春の定期大会からは全く使用できなくなったことが認められる。しかしながら,これは平成10年の文部省是正指導以降,県教委が学校施設の使用関係について,それまでの事実上の慣例にとらわれることなく,学校設置目的との親和性,学校教育上の支障の
有無を一つ一つ審査して判断するという方針で臨んだ(前記(1)ウ(ア),エ(ア))からに他ならない。事実上の慣例を見直すという県教委の姿勢は文部省是正指導に従ったものと考えられるところ,確かに学校施設の使用関係の見直しは是正項目ではない(乙1)けれども,前記(1)アに認定の背景事情からすれば,文部省が是正指導を行うに至ったのは被告広島県における教育の適正化を図る必要があったと考えたからであると推測され,学校施設の使用関係の見直しもこの流れに則ったものと考えられる。そこで,文部省是正指導の内容をみると,そこでは教育内容や学校運営管理を法令等に従って実施するように求めており(乙1),特に明白な違法性を有するものは認められないから,文部省是正指導と同様の趣旨で学校施設の使用関係を見直すという県教委の施策にも相応の理由があると考えられる。原告らは文部省是正指導とそれ以降の県教委の施策に関して反対の立場を取るが,いずれが相当であるかは畢竟,民主政の過程ひいては県民の民意に委ねるべき事柄である。したがって,被告広島県においては文部省是正指導及びこれに伴う慣例の見直しによって,基礎となる事情が変更したというべきであって,原告らが学校施設を使用して春の定期大会を開催してきたという従前の経緯を過大に重視すべきではない。
(ア) 施設管理上・学校教育上の支障を検討する。
a 本件各大会が開催された平成14年4月20日は土曜日で,戸手高等学校でも三次青陵高等学校でも授業や特別な行事は行われておらず,本件各大会を開催しても部活動その他への影響はなかった(被告A,同C,弁論の全趣旨)し,従前は高等学校の体育館を使用して春の定期大会が開催されてきたとの経緯(前記(1)イ)からすれば,施設管理上の支障は特に認められないと考えられる。
b しかしながら,原告らの組合活動の一環である本件各大会を学校施設で開催することは,次に述べるように,学校教育上の支障を来すといわざるを得ない。第1に,前記(1)ウ(エ),エ(エ)に認定のとおり,本件各大会の内容は第49回各大会と大略同じであるところ,第49回定期大会(府中地区)において,「ストライキを基軸とした通年的な戦いを堅持して諸要求の実現を目指さなくてはなりません。」とストライキを視野に入れた組合活動が提言された上,ストライキの方針であったが最終的に不満を残しつつもストライキを回避するに至った経緯が詳細に報告され,第49回定期総会(三次地区)では,高教組がストライキを配置し,諸要求実現のために戦う方針であると組織決定され,ストライキ権が確立されたが最終的にはストライキが回避されるに至った経緯が詳細に報告された上で,「確定闘争は職場闘争の集大成です。だからこそ日常的な職場闘争をさらに強化していくことが,最大の課題だと思います。」と提言されている。そこで検討すると,地公法37条1項は地方公務員の争議行為を禁止しているのであって,ストライキ権の確立から回避に至る経緯を報告し,争議行為を視野に入れた活動方針を示すだけでは,直ちに地公法37条1項に反するものではない。しかしながら,学校教育上の支障の有無は,本件各大会の内容が現に法令に違反しているか否かだけで判断されるのではなく,法令違反がないとしても,生徒,保護者等が公教育に対して不信を抱く危険性があれば,学校教育上の支障を認めることのできる事情として考慮するのが相当である。現実にストライキの実施が予定されているものではなくても,ストライキ権が確立されたことの報告や,ストライキを視野に入れた活動方針の提言は,ストライキの実施という意図や法令違反の可能性を示すものであるし,「ストライキを基軸とした通年的な戦いを堅持」などの内容からすれば,生徒,父兄等が公教育に対して不信を抱くことは想像に難くなく,本件のストライキに関する内容は,学校教育上の支障を肯定する事情として考慮するのが相当である。
第2に,前記(1)ウ(エ),エ(エ)に認定のとおり,第49回定期大会(府中地区)において,主任制とは対等・平等であるべき教職員集団の間に分裂を持ち込もうとする制度であって,その実働化により職場に差別と分断が持ち込まれるとして反対の立場を明確にし,そのために学校組織の確立に向けた闘争を行うべきと提言され,第49回定期総会(三次地区)では,主任制とは教職員の管理・統制ひいては教育の国家統制に向けた攻撃であるとして反対の立場を示し,その実働化阻止闘争の経過と共に学校組織の見直しが提言された。そこで検討すると,学校教育法施行規則65条1項,22条の3第1項は高等学校に教務主任及び学年主任を置く旨を定めているから,主任制に反対し,学校組織の見直しと確立を提言している第49回各大会の内容には,学校教育法施行規則65条1項,22条の3第1項に抵触するものが含まれていたと認められる。
第3に,前記(1)ウ(エ),エ(エ)に認定のとおり,第49回定期大会(府中地区)において,卒業式等での国旗掲揚・国家斉唱は権力者の意図を貫徹させ,権力者に従わせるための上意下達システムを構築しようとするものであるなどとして,国旗掲揚等を強制すべきではないとの立場を明確にし,強制阻止に向けた活動を展開すべきであると提言され,第49回定期総会(三次地区)では,国旗掲揚・国家斉唱の半ば暴力的な強制に対して的確な対抗措置や阻止行動を講じなければならないと提言された。そこで検討すると,学校教育法43条,106条により高等学校の学科及び教科に関する事項は監督庁たる文部省が定めるとされているところ,同法施行規則57条の2に基づく高等学校学習指導要領(平成元年3月15日号外文部省告示第26号)第3章の第3の3は,「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と定めているから,第49回各大会の内容には,同学習指導要領に反する内容が含まれていたことは否定できない。なお,原告らは学習指導要領の法的拘束力を否定する旨を主張するが,学習指導要領は,全体としてみた場合,高等学校における教育課程に関し,教育の機会均等の確保及び全国的な一定水準の維持の目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的な遵守基準を設定したものとして,法的拘束力を有するものとして有効と解されるのみならず,学校教育上の支障の有無を判断するに当たっては,法令違反の有
無のみを考慮するものではないのは上記のとおりである。文部省告示である学習指導要領に反している以上,生徒,県民等が公教育への不信を抱くことは否定できず,日の丸・君が代に関する内容は学校教育上の支障を肯定する事情として考慮すべきである。
第4に,前記(1)ウ(エ),エ(エ)に認定のとおり,第49回定期大会(府中地区)において,次回の参議院選挙で新社会党から立候補する予定の者を組織推薦し支援することが決定されたこと,第49回定期総会(三次地区)においも同様に決定されたことが報告された。そこで検討すると,教育基本法8条2項において学校での党派的政治教育が禁止されていることなどから明らかなように,公教育においては政治的中立性が求められている。それにもかかわらず第49回各大会では特定政党の候補者を推薦する旨が報告されたのであって,教職員団体である原告らが特定政党に対する支持の報告を学校施設で行うことによって,政治的中立性を揺るがす事態を招く可能性があったことは否定できない。なお,原告らは,特定政党の支持について教職員組合としての原告らの政治活動であり,公職選挙法136条の2に反しないと主張する。しかしながら,法令違反がないとしても学校教育上の支障を判断するための事情となり得るのは上記のとおりである。いかに組合活動としての政治活動であったとしても,組合員は教職員であって,その教職員団体が特定政党の支持の決定をことさらに学校施設において報告することは,公教育の中立性を著しく害する結果となることは明らかである。したがって,特定政党支持に関する内容は学校教育上の支障を肯定する事情として考慮すべきである。
このように,本件各大会は,主任制については学校教育法施行規則に現に違反する内容を打ち出し,日の丸・君が代問題については高等学校学習指導要領に反し,ストライキ実施・政党支持については公教育に対する不信を招く危険性を内包していることが認められる。本来中立である
べき公教育の実践の場である県立学校において,上記のとおり現に学校教育法施行規則に違反する内容等を含む本件各大会を学校施設で開催することは,原告らの主義主張に反対する生徒や父兄,県民はもちろん,そうでない者に対しても,公教育への不信を惹起させる危険性があることは否定できない。そして,前記(1)アに認定のとおり,被告広島県の教育を巡って様々な議論が紛糾し,全国的にも注目を集めてきたとの経緯をも併せ鑑みれば,県民や国民の間に公教育への不信を引き起こす危険性は,もはや抽象的なものではなく具体的なものとして認められるのであって,これらからすれば,本件各大会を開催することにより学校教育上の支障を来すと認めるのが相当である。
(オ) そこで,前記(ア)ないし(エ)に認定判示した各種事情を総合すると,組合活動を目的とする本件各大会は,原告ら地区支部の意思が決定されるもので大きな社会的影響を有すること,代替施設を確保するのに困難はなかったこと,従前は使用が認められていたという経緯があるけれども,被告広島県においては,相応の理由によって施設使用関係についての事実上の慣例を見直す施策が取られて基礎となる事情が変更したのであり,従前の経緯を重視することはできないこと,本件各大会のために学校施設を使用しても施設管理上の支障は認められないけれども,生徒,父兄,県民の公教育への不信を引き起こす具体的な危険性の存在という学校教育上の支障が認められることからすれば,本件各不許可処分の判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等によりその判断が事実の基礎を欠き又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により判断が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合には該当しないので,被告A及び被告Cが裁量権を逸脱濫用したものとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって,本件各不許可処分はいずれも適法である。
(3) 原告らの主張について
ア 原告らは,本件各不許可処分が憲法21条1項に違反する旨を主張するので検討する。憲法21条1項は集会の自由を保障するところ,集会に使用されることが前記(2)アに判示のとおり,本来的に教育目的のために設置されている学校施設の目的外使用の許否については管理権者に一般の行政財産と比
較してもより広範な裁量が認められており,憲法が集会の自由を保障した趣旨はかかる裁量の範囲内,あるいは少なくとも学校教育上の支障がない範囲内において考慮すべきであって,前記(2)イに認定判示のとおり管理権者等に裁量権の逸脱濫用も学校教育上の支障の不存在も認められない以上,本件各不許可処分によって集会の自由の趣旨が否定されたと認めることはできず,原告らの上記主張は採用できない。
イ 原告らは,本件各不許可処分は高教組の活動を抑えようとする不当労働行為意思の下になされた違法なものであると主張する。しかしながら,前項(2)に判示したように,本件各不許可処分は学校教育上の支障が認められることを理由として管理権者等の裁量権の範囲内で適法に行われたものであるから,
不当労働行為には該当しないといわなければならない。それだけでなく,本件各不許可処分は原告らの事務局が置かれている高等学校における学校施設での集会の開催を制約するものに過ぎず,原告らが公務員の労働基本権や日の丸・君が代などの様々な問題について議論を深め,原告らの立場から提言することを否定するものではないし,他施設の使用により原告らに多少の不便があったとしても,前記(2)イ(イ)に認定判示のとおり原告らにおいて代替施設を確保することが困難であったとすることはできない。また,前記(1)ウ(ア),エ(ア)に認定のとおり,県教委は各県立学校の分会に対して,分会専用電話やファクシミリの設置場所としてその学校の校舎の一部を使用することを許可し,地区支部に対しては地区支部事務所としてその地区支部が置かれている学校の校舎の一部を使用することを許可している。加えて,学校長は高教組主催のスポーツ大会等のためにグラウンド等の使用を許可している(乙10,11,被告A,同C)ところでもある。したがって,本件各不許可処分が不当労働行為意思をもってなされた不当労働行為に当たるとする原告らの主張は採用できない。
ウ 原告らは,本件各処分は便宜供与の一方的廃止であって不当労働行為に当たると主張する。前記(1)イに認定のとおり,従前から春の定期大会や批准集会は各地区支部の事務局が設置されている高等学校の体育館を使用して開催されてきたことは認められる。しかしながら,学校施設などの行政財産は,住民全体の利益のために使用されるものであって,特定の個人や団体の利益のために使用されるべきものではない。前記(2)アに判示のとおり,本来,行政財産は行政上の用途又は目的のために最も適正に使用されるべきものであるから,特定の個人や団体に当然に行政財産の使用請求権を認めることはできないのである。このことは,地方自治法238条の4第4項等の規定からも明らかである。とすれば,従前から施設の使用を認めてきたという経緯があったとしても,その施設の本来の目的を阻害する態様での使用であったのであればこれを是正すべきは当然であるから,公務員労働者は従前の施設使用の実績を基に施設の使用継続を求めることはできないというべきである。なお,使用不許可処分によって公務員労働者の労働基本権を不当に害することはできないこともまた当然ではあるけれども,本件においては,前記(2)イ(ア),(イ),(エ),(オ)に認定判示のとおり,本件各大会の目的は学校施設の設置目的とはかけ離れていること,代替施設の確保が困難であったという事情は認められず,本件各大会を開催すること自体は否定されていないこと,本件各大会を学校施設で開催すると学校教育上の支障を来すと認められることなどからすれば,原告らの労働基本権が違法に制約されたとみることはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。」
(キ)広島県高教組支部教研集会学校施設使用不許可事件
広島県高教組支部教研集会学校施設使用不許可事件 広島高判平18.1.25判時1937号広島県高教組東地区支部など四支部は平成14年8.9月に開催予定の支部教研集会の会場として、県立高校6校の施設の使用許可を申請したが、校長が集会の内容が学習指導要領に反しているなどとして不許可処分にしたことに対し、組合側が裁量権の逸脱、違法があるとして損害賠償を請求したものであるが、一審(広島地判平17.1.20)は、裁量権の逸脱、濫用があるとして約260万円の損害賠償を認めたが、控訴審は一審判決を取消、損害賠償請求を棄却した。
(判決要旨)
学校施設においては、その設置目的に沿って使用することが原則とされ、目的外に使用する場合の管理権者の裁量は、学校施設がその性質上、広く一般に開放、利用されることを予定した施設ではないことから、行政財産一般と比較してより広範にわたるというのが相当であり、管理権者の広範な裁量の下で、その許可処分によって初めて例外的に使用が認められるにすぎないと解すべきである。
教研集会においては高教組の当年度の運動方針を受けて、一定の指導方針と研究方針を提示し、学習指導要領や学校教育法施行規則、県教委の施策に対峙する討議を行うといった労働運動的側面を強く有しているといわざるを得ず、その目的は教育研究活動にとどまめものとは到底いえないから、学校施設を教研集会の開催のために使用することは、その設置目的に沿うとはいえない。
学校長において、教研集会の開催のために使用させることは学校教育法上の支障があると判断したことが明白に合理性を欠くものと認められず、本件不許可処分に裁量権の逸脱、濫用の違法があるとうことができない。
(ク)呉市教委教研集会使用不許可事件
呉市立中学校教研集会使用不許可事件 最三小判平18.2.7 民集60巻2号401頁、判時1936号63頁、判タ1213号106頁[ii]は平成11年11月13日(土)14日(日)広島県教組が広島県教研集会会場として学校施設の使用を申し出、校長が、職員会議を開いた上で支障がないと判断し口頭で了承されたが、その後呉市教委の指導があり、不当に使用を拒否されたとして損害賠償を求めた事案で、一審、二審とも県教組が勝訴、最高裁は前年まで一回を除き会場として使用されていたこと、右翼団体の妨害もなかったとして、不許可処分が裁量権の逸脱したものであるとして上告を棄却したものである。
本判決は、最高裁として初めて、学校施設の目的外使用の諾否の判断の性質、司法審査のありかたを明らかにしたもので、あくまでも原審確定事実の判断ではあるが、類似事件の参考となる判例といえる。
(註)判決文では行政財産の目的外使用について、238条4条4項による許可が必要としているが、平成18年の地方自治法改正で、この条文は238条の4第7項となっている。
判決
「‥‥‥ (1) 地方公共団体の設置する公立学校は、地方自治法244条にいう「公の施設」として設けられるものであるが、これを構成する物的要素としての学校施設は同法238条4項にいう行政財産である。したがって、公立学校施設をその設置目的である学校教育の目的に使用する場合には、同法244条の規律に服することになるが、これを設置目的外に使用するためには、同法238条の4第4項に基づく許可が必要である。教育財産は教育委員会が管理するとされているため(地方教育行政の組織及び運営に関する法律23条2号)、上記の許可は本来教育委員会が行うこととなる。
学校施設の確保に関する政令(昭和24年政令第34号。以下「学校施設令」という。)3条は、法律又は法律に基づく命令の規定に基づいて使用する場合及び管理者又は学校の長の同意を得て使用する場合を例外として、学校施設は、学校が学校教育の目的に使用する場合を除き、使用してはならないとし(1項)、上記の同意を与えるには、他の法令の規定に従わなければならないとしている(2項)。同意を与えるための「他の法令の規定」として、上記の地方自治法238条の4第4項は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができると定めており、その趣旨を学校施設の場合に敷えんした学校教育法85条は、学校教育上支障のない限り、学校の施設を社会教育その他公共のために、利用させることができると規定している。本件使用規則も、これらの法令の規定を受けて、市教委において使用許可の方法、基準等を定めたものである。
(2) 地方自治法238条の4第4項、学校教育法85条の上記文言に加えて、学校施設は、一般公衆の共同使用に供することを主たる目的とする道路や公民館等の施設とは異なり、本来学校教育の目的に使用すべきものとして設置され、それ以外の目的に使用することを基本的に制限されている(学校施設令1条、3条)ことからすれば、学校施設の目的外使用を許可するか否かは、原則として、管理者の裁量にゆだねられているものと解するのが相当である。すなわち、学校教育上支障があれば使用を許可することができないことは明らかであるが、そのような支障がないからといって当然に許可しなくてはならないものではなく、行政財産である学校施設の目的及び用途と目的外使用の目的、態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により使用許可をしないこともできるものである。学校教育上の支障とは、物理的支障に限らず、教育的配慮の観点から、児童、生徒に対し精神的悪影響を与え、学校の教育方針にもとることとなる場合も含まれ、現在の具体的な支障だけでなく、将来における教育上の支障が生ずるおそれが明白に認められる場合も含まれる。また、管理者の裁量判断は、許可申請に係る使用の日時、場所、目的及び態様、使用者の範囲、使用の必要性の程度、許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度、代替施設確保の困難性など許可をしないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してされるものであり、その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきものと解するのが相当である。
(3) 教職員の職員団体は、教職員を構成員とするとはいえ、その勤務条件の維持改善を図ることを目的とするものであって、学校における教育活動を直接目的とするものではないから、職員団体にとって使用の必要性が大きいからといって、管理者において職員団体の活動のためにする学校施設の使用を受忍し、許容しなければならない義務を負うものではないし、使用を許さないことが学校施設につき管理者が有する裁量権の逸脱又は濫用であると認められるような場合を除いては、その使用不許可が違法となるものでもない。また、従前、同一目的での使用許可申請を物理的支障のない限り許可してきたという運用があったとしても、そのことから直ちに、従前と異なる取扱いをすることが裁量権の濫用となるものではない。もっとも、従前の許可の運用は、使用目的の相当性やこれと異なる取扱いの動機の不当性を推認させることがあったり、比例原則ないし平等原則の観点から、裁量権濫用に当たるか否かの判断において考慮すべき要素となったりすることは否定できない。
(4) 以上の見地に立って本件を検討するに、原審の適法に確定した前記事実関係等の下において、以下の点を指摘することができる。
ア 教育研究集会は、被上告人の労働運動としての側面も強く有するものの、その教育研究活動の一環として、教育現場において日々生起する教育実践上の問題点について、各教師ないし学校単位の研究や取組みの成果が発表、討議の上、集約される一方で、その結果が、教育現場に還元される場ともなっているというのであって、教員らによる自主的研修としての側面をも有しているところ、その側面に関する限りは、自主的で自律的な研修を奨励する教育公務員特例法19条、20条の趣旨にかなうものというべきである。被上告人が本件集会前の第48次教育研究集会まで1回を除いてすべて学校施設を会場として使用してきており、広島県においては本件集会を除いて学校施設の使用が許可されなかったことがなかったのも、教育研究集会の上記のような側面に着目した結果とみることができる。このことを理由として、本件集会を使用目的とする申請を拒否するには正当な理由の存在を上告人において立証しなければならないとする原審の説示部分は法令の解釈を誤ったものであり是認することができないものの、使用目的が相当なものであることが認められるなど、被上告人の教育研究集会のための学校施設使用許可に関する上記経緯が前記(3)で述べたような趣旨で大きな考慮要素となることは否定できない。
イ 過去、教育研究集会の会場とされた学校に右翼団体の街宣車が来て街宣活動を行ったことがあったというのであるから、抽象的には街宣活動のおそれはあったといわざるを得ず、学校施設の使用を許可した場合、その学校施設周辺で騒じょう状態が生じたり、学校教育施設としてふさわしくない混乱が生じたりする具体的なおそれが認められるときには、それを考慮して不許可とすることも学校施設管理者の裁量判断としてあり得るところである。しかしながら、本件不許可処分の時点で、本件集会について具体的な妨害の動きがあったことは認められず(なお、記録によれば、本件集会については、実際には右翼団体等による妨害行動は行われなかったことがうかがわれる。)、本件集会の予定された日は、休校日である土曜日と日曜日であり、生徒の登校は予定されていなかったことからすると、仮に妨害行動がされても、生徒に対する影響は間接的なものにとどまる可能性が高かったということができる。
ウ 被上告人の教育研究集会の要綱などの刊行物に学習指導要領や文部省の是正指導に対して批判的な内容の記載が存在することは認められるが、いずれも抽象的な表現にとどまり、本件集会において具体的にどのような討議がされるかは不明であるし、また、それらが本件集会において自主的研修の側面を排除し、又はこれを大きくしのぐほどに中心的な討議対象となるものとまでは認められないのであって、本件集会をもって人事院規則14-7所定の政治的行為に当たるものということはできず、また、これまでの教育研究集会の経緯からしても、上記の点から、本件集会を学校施設で開催することにより教育上の悪影響が生ずるとする評価を合理的なものということはできない。
エ 教育研究集会の中でも学校教科項目の研究討議を行う分科会の場として、実験台、作業台等の教育設備や実験器具、体育用具等、多くの教科に関する教育用具及び備品が備わっている学校施設を利用することの必要性が高いことは明らかであり、学校施設を利用する場合と他の公共施設を利用する場合とで、本件集会の分科会活動にとっての利便性に大きな差違があることは否定できない。
オ 本件不許可処分は、校長が、職員会議を開いた上、支障がないとして、いったんは口頭で使用を許可する意思を表示した後に、上記のとおり、右翼団体による妨害行動のおそれが具体的なものではなかったにもかかわらず、市教委が、過去の右翼団体の妨害行動を例に挙げて使用させない方向に指導し、自らも不許可処分をするに至ったというものであり、しかも、その処分は、県教委等の教育委員会と被上告人との緊張関係と対立の激化を背景として行われたものであった。
(5) 上記の諸点その他の前記事実関係等を考慮すると、本件中学校及びその周辺の学校や地域に混乱を招き、児童生徒に教育上悪影響を与え、学校教育に支障を来すことが予想されるとの理由で行われた本件不許可処分は、重視すべきでない考慮要素を重視するなど、考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており、他方、当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず、その結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものということができる。そうすると、原審の採る立証責任論等は是認することができないものの、本件不許可処分が裁量権を逸脱したものであるとした原審の判断は、結論において是認することができる。‥‥」
この事件は一審、二審とも組合側が勝訴したが、下級審と最高裁では理論構成に差異がある。[iii]原審では、市教委に積極的に研修の場として学校施設を確保すべき配慮義務があるとし、許可しない場合の正当理由と存在の立証を求めている。
つまり一審判決は「学校施設の使用の許否の判断は、管理権限者の広い裁量に委ねられているものであるが、
管理権限者の裁量権の行使にあたって恣意が許されないのはいうまでもなく、使用目的が学校施設の設置目的に沿っているのに、特に理由もなく使用を拒否したとか、使用目的が設置目的に沿うものでなくとも、不当な理由により拒否するなど、管理権限者の判断において、裁量権の逸脱・濫用にあたる事情があれば、違法というべきであり、その判断は、学校施設の使用目的、代替施設の確保の困難性、施設管理上、学校教育上
の支障などの諸事情を基礎として総合的に判断されるべきものである」としたうえで、
本件を、目的外使用の問題ではなく、設置目的に沿った使用の問題と捉えているような行論を展開し、結論として、「本件教研集会は、原告の労働運動という一面も併せ持ってはいるものの、主として、教員などによる教育研究活動の報告、検討会としての性格を有し、学校施設の設置目的に沿うものとして取り扱わなければならないこと、また、代替施設の提供は一応はなされているものの、学校教科項目の研究討議は、器具、設備との関係で、教室等
の学校施設で行われることが必要不可欠であって、他の施設では、研究討議に不便を来し、研究討議が十分になされないおそれがあり、他の施設の提供では十分とはいえないこと、そして、さらに、前記認定判断のとおり、施設管理上、学校教育上の支障など、その使用を拒否するにつき、正当な理由が何ら認められないことなどの事情を総合勘案すると、原告の他の主張の当否を検討するまでもなく、本件不許可処分は、呉教委において、その裁量権を逸脱した違法な処分であるといわざるを得ない」とするのである。
最高裁は原審の考え方について法令解釈を誤っているとし、理論構成を修正したうえで、本件は目的外使用不許可の裁量権の逸脱があったという結論については原審の判断を支持した。
最高裁判決では、学校施設の目的外使用は本来、限定的なものであって、これを許可するかどうかは原則として管理者の裁量に委ねられているとし、その場合の裁量権の濫用と目される司法審査の判断指針として「その判断要素の選択や判断過程」にまで立入った「合理的」判断を求める一方で、その判断が
「重要な事実の基礎を欠くか,または社会通念に照らし著しく妥当性を欠く」場合にのみ濫用となるものとして、裁量権の幅を広く解している。
(ケ)都立王子養護学校「ものづくり教研」使用事件
都立王子養護学校事件東京地判平18.6.23判タ1239号169頁の事案は次のとおりである。平成17年2月上旬東京都障害児学校労働組合(都障労組)のS分会長(教諭)は、口頭で王子養護学校のK校長に、「第15回ものづくり教研」と称する集会の開催場所として学校施設の使用許可を求めた。その際、校長は集会の内容が不明であるとして資料の提出を求めたため、S教諭は、前年の案内書面を提出した。案内書面は次のように記載されていた。
表題 『ものづくり教研』のご案内-手打ちそばをつくって食べ、『学校と人権』を考える-
『特別支援教育』で『障害児』教育が、いえ、学校そのものが大きく変えられようとしています。『教育ニーズ』によって子どもたちによって生活の場でなくなる、と危惧するのは私たちの考えすぎでしょうか(中略)一方、今の日本はイラクへの自衛隊派遣を強行するなど、憲法を踏みにじり戦時体制に向けてつき進んでいます。その憲法と表裏一体の関係にある教育基本法が既に踏み荒されている荒々されていると言っても過言ではない状況が東京都では相次でます。今の状況をどう考えるのか‥‥午後の部では、学校における子どもと教職員の人権問題に長年取り組んでこられた弁護士のWさんをお招きして『学校と人権』をテーマに講演会と学習会を行います」
K校長は平成17年2月9日口頭でS教諭に対し、案内文を判断資料とすると、学校施設の使用を許可できない旨回答したが、S教諭が理由ア文書にして示すよう求めたので、14日「‥‥貴都障労組は案内のとおり、国及び都の方針に反対の意思を表明しています。都立学校の校長として、都の管理する施設の使用を認めるのは適切でないと考えます。‥‥」との文書を交付した。
その後原告都障労組は、3月10日「組合主催学校教育連休の会場拒否についての解明要求書」を校長に提出する等の経緯があり、5月の協議の場でも校長は許可することはできない旨説明したので、組合は、本件不許可処分が裁量権の逸脱濫用であるとして100万円の損害賠償を求めたものである。
東京地裁は、先例の呉市立中学校教研集会使用不許可事件最三小判平18.2.7民集60巻2号401頁の司法判断基準を踏襲して、本件不許可処分が裁量権を逸脱したものとして11万円の限度で都の損害賠償責任を認めた。控訴審東京高裁平19.1.31判タ1239号169頁も控訴棄却している。
(判決の主要部分)
「ところで、学校施設の確保に関する政令(昭和24年政令第34号。以下「学校施設令」という。)1条,3条1項,2項,地方自治法238条の4第4項、学校教育法85条等の各法令の諸規定によれば、学校施設の目的外使用を許可するか否かは、原則として、管理者の裁量に委ねられているものと解するのが相当である。そして,管理者の裁量判断は、許可申請に係る使用の日時,場所,目的,態様,使用者の範囲、使用の必要性の程度、許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度、代替施設確保の困難性など許可をしないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してされるものであり、その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断基準の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となると解するのが相当である。(中略)前記認定によれば、養護学校等においては、児童及び生徒らが、物作りの実践を通じ,自発的に考え主体的に生活を作り出すこと、地域の人と触れ合うこと、働く意欲や働く力を培うこと等を目的として、物作りを実践する授業が教育課程に取り入れられ、ものづくり教研は、養護学校等の児童、生徒、保護者及び教職員らが共同で物作りを実践し、養護学校等における授業の作り方や教材の工夫等を議論、検討する集会であって、活動内容において養護学校等の教育目的に合致する上、參加した教職員らが、実際に、それぞれの勤務先において、集会での体験を授業内容に取り入れているという意味において,養護学校等の授業を準備するための教員らの自主的研修としての意義ももつ集会であるといえる。これまで開催されてきたものづくり教研が、いずれも管理規則15条7号に当たるものとして使用を許可されてきたという事情は、ものづくり教研のこのような教育的意義が重視された結果にほかならないと考えられる。そして,実際にも,ものづくり教研の開催によって、これまで混乱を招いたことはなく、特に、児童又は生徒等に教育上悪影響を与え、学校教育の運営に支障が生じることもなかった。
ものづくり教研は、他方で、教員の人事考課に関する講演会等労働組合活動としての側面を有する活動もしているが、教員らによる自主的研修という側面についてみる限り、自主的で自律的な研修を奨励する教育公務員特例法19条、20条の趣旨にかなう集会であるということができる。そして、物作りのためには,各種調理器具,特殊機器,作業台,強力なガス器具等の備品が具備されている学校施設を使用する必要性は高いため、これまでも、ものづくり教研は、養護学校の施設を利用して実施され、ハム、ソーセージ作りと藍染めを予定していた本件集会についても、学校施設を使用する必要性は同様に高かったといえる。
しかしながら、前記認定によれば、K校長がした本件不許可の回答の主たる理由は、原告が、国及び被告の方針に反対の意思を表明していること、本件文章類似の文章を掲載した書面等が案内書面として配布されることで、児童・生徒及び保護者らに、国及び被告の方針に関する誤解を生じさせ、よって教
育上の悪影響を与えるおそれや、学校側が国及び被告の方針に反対する_体に助力しているとの誤解や混乱等を生じさせるおそれがあるので、これらの弊害を回避する必要があるということにあり、本件文書取扱基準を作成した経緯に照らし配布物の記載内容を重要な判断資料として考慮したものと窺われる。確かに、平成16年11月に被告が策定した「東京都特別支援教育推進計画」の内容が、障害の重度•重複化や多様化、養護学校や心身障害学級の在籍者の増加という現状にかんがみ、障害の種類、程度に応じ、特別な場で指導を行う「特殊教育」から転換し、障害のある児童•生徒1人1人の教育ニ一ズに応じ、教育機関と保健、医療、福祉、労働等他の分野と積極的な連携を図るなどして、適切な教育支援を行うことを基本的方針とするというものであったから、本件文章は、上記の被告の方針に反対する意思を表明するものであるとはいえる。とはいえ、本件文章は、上記被告の方針を殊更にねじ曲げて伝達したり誤解を生じさせるような批判を展開するものではなく、保護者等がその内容を誤解するおそれがあるということはできない。また、本件案内書面には「2 • 28都障労組『ものづくり教研』のご案内、「問い合わせ先、都障労組」などの記載がされており、主催者が王子養護学校とは異なる団体であるが記載上も明らかであるから、本件集会の開催にあたり、本件案内書面類似の書面が配布されたとしても、保護者等に、被告の方針に反対する団体に学校側が助力しているとの誤解を生じさせるおそれがあるともいえない。このことは、平成15年度のものづくり教研開催に当たり、本件案内書面が配布されたものの、特に弊害が生じたり、混乱が惹起された等の形跡がないことに照らしても明らかである。したがって、仮に本件案内書面類似の書面が配布されたとしても、被告が主張するような弊害等が生じるおそれがあったものとは認められない。
以上によれば、本件不許可の回答は、原告が国や被告の方針に対して反対意思を表明している点や本件案内書面類似の書面の配布により混乱が生じるおそれがあることのみを理由としてされたものであり、重視すべきでない考慮要素を重視している上、
考慮した事項に対する評価が合理性を欠いている。一方K校長は、養護学校教諭の経歴を持ち、養護学校教頭、養護学校校長を歴任し、前任校においては、教育研究会のために学校施設の使用許可をした経験も有し、教育研究会においては、主に障害児教育に関する情報交換や研究報告を、教育的意義
を有することも承知しており、本件集会も、従前の活動同様、教育現場へ還元がされる物作りを実施、研究することを予定していることや物作りのためには作業台等の備品が備わっている学校施設を使用する必要性が高いことを容易に推測できたにもかかわらず、あえて本件集会の内容、ねらいや意義等の説明を求めることもなく、それらを全く考慮の外に置き、その結果、社会通念に照らし、著しく妥当性を欠いた判断に基づきなされたものというべきであり、K校長の有する裁量権を逸脱してなされた違法なものというほかない。」
(コ)大阪市立人権文化センター事件
大阪市立人権センター事件大阪地判平20.3.27判タ1300号177頁は、平成12年の人権文化センター開設以来、原告部落解放同盟大阪府連合会生江支部、同住吉支部、同平野支部部落解放同盟西成支部は、大阪市長(磯村隆文市長)の行政財産目的外使用許可により大阪市立生江人権文化センター、同住吉人権文化センター、同平野人権文化センター、同西成人権文化センター内に支部事務所を設置し、平成19年3月31日まで目的外使用許可の更新(継続)がされていたが、大阪市(関淳一市長)は、各人権文化センターの平成19年4月1日以降の行政財産使用許可申請を不許可処分とした。
本件各不許可処分の理由は、「人権文化センターにおける貴支部事務所による行政財産の使用については、平成12年4月に人権文化センター条例が施行された後、その前身である解放会館当時から使用されてきたという歴史的経緯に鑑み平成12年10月より暫定的に目的外使用許可を行ってきた。しかしながら、人権文化センター条例施行後7年近くが 経過しており、平成17年度定期監査等結果報告において本市監査委員からは『広く一般の利用に供する市民利用施設という性質に鑑み、使用許可の見直しについて早急に検討されたい』との意見、また、昨年8月、『大阪市地対財特法期限後の事業等の調査・監理委員会』 の提言において『外部への移転』との方向が示された。こうした意見を踏まえ、広く一般の利用に供する市民利用施設という性格に鑑み、特定の団体事務所に対する使用許可について
見直すこととし,平成19年度は行政財産の目的外使用許可は行わないというものであった。
これに対し原告が不許可処分は違法無効であるとして取消請求を行ったものであるが、大阪地裁は裁量権の逸脱濫用はないとして、請求を棄却した。
(*なお、大阪市内に12地区13施設あった人権文化センターの機能は、近年、地域老人福祉センター、青少年会館等地域施設と統廃合がなされ市民交流センターという名称の施設になっているようである)
行政財産の目的外使用の司法判断については、先例の呉市立中学校教研集会使用不許可事件最三小判平18.2.7民集60巻2号401頁を引用し「普通地方公共団体の長には‥‥広い裁量があるというべきであり、目的外使用の不許可処分が違法となるのは、普通地方公共団体の長がかかる裁量権を逸脱濫用した場合に限られ、裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が重
要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って,裁量権の逸脱又は濫用として違法となると解すべきである」としたうえで、
「同和政策が特別対策から一般施策として行われるようになり,それとともに人権文化センターの位置付けも広く一般市民が利用することを予定した施設になったことからすれば,その一室である本件各事務室部分を部落差別から部落民衆を解放することを目的として活動する特定の運動団体である原告ら(‥‥)の
支部事務所として利用させることは、現在の同和政策のあり方と矛盾するだけでなく、広く一般市民の利用を予定する本件各センターの目的ないしそのあり方に反する‥‥平成17年度定期監査等結果報告及び大阪市地対財特法期限後の事業等の調査 監理委員会の提言も上記と同じ趣旨であるから、処分庁が上記監査等結果報告及び提言を本件各不許可処分における考慮要素としたことは合理的なものというべきである。」等として不許可処分に合理性を欠くところはないとしている。
旧解放会館の時から、長年にわたって、支部事務所として使用されていた経緯についても、「そもそも行政財産は、行政目的達成のために利用されるべき財産であることからすれば、従前の歴史的経緯として、その使用が認められていたことから、直ちにそれと異なる扱いをすることが裁量権の濫用となるものではない。むしろ,行政財産である本件各センターの一部を長年にわたり、
特定の運動団体である原告らの支部事務所として、目的外使用許可という手続すら採ることなく、平成12年まで使用させていたというその歴史的経緯自体、少なくとも法的観点からは、正当化することはできない」と言い切っており、処分庁に幅広い裁量権を是認した判例といえるだろう。
「‥‥
1本件各不許可処分が本件各合意に反して違法であるという主張について
原告らは、行政庁が私人とある行政行為をする合意をしたときには、その裁量権が付与さ れた趣旨に反しない限り,当該合意に法的拘束力が認められるという確約の法理が解釈上認められることを前提とした上で、本件各合意に反する本件各不許可処分は違法であると主張する。
しかし、地方自治法(平成18年法律第5 3号による改正前のもの。)2 3 8条の4第1 項は、行政財産は、同条2項に定めるものを除くほか、これを貸し付けたり、これに私権を
設定することはできないとし、同条3項は、これに違反する行為を無効としている。したが つて.仮に被告が、大阪府連及び原告らとの間で、平成12年ころ、行政財産である本件各事務室部分を原告らに継続的に貸し付けることを内容とする本件各合意をしたとしても、それは上記条項に違反する無効なものであり、確約の法理を適用する前提を欠くというべきである。
これに対し、原告らは、社会福祉法2条3項11号において、第二種社会福祉事業として 隣保事業(隣保館等の施設を設け,無料又は低額な料金でこれを利用させることその他その
近隣地域における住民の生活の改善及び向上を図るための各種の事業を行う)の実施が定められていることから、原告らは、近隣地域住民の代表として隣保館である本件各センターに
ついて私権の設定が認められると主張する。しかし、上記規定は、第二種社会福祉事業に含まれる隣保事業の定義を定めたものにすぎない上、同号にいう隣保館等の施設の利用は、近隣住民による公の施設としての隣保館等の利用を規定したものであり、同施設に対する私権の設定を想定したものとはいえず、行政財産に対して私権の設定を禁じた地方自治法(平成 18年法律第5 3号による改正前のもの。)2 3 8条の4第1項の規定を排除する趣旨を含むと解することはできない。原告らの上記主張は失当である。(中略)
2本件各不許可処分における裁量権の逸脱濫用の有無について
(1)地方自治法2 4 4条の規律に服するか否かについて
原告らは、裁量権の逸脱濫用を主張する前提として、本件各事務室部分の使用関係は、地方自治法2 4 4条の規律に服すると主張するので検討する。
ア 同法2 4 4条2項は,「公の施設」について、普通地方公共団体が正当な理由のない限り、住民の利用を拒んではならないと規定するが、これは、住民がその所属する普通地方公共団体の提供する役務をひとしく受ける権利を有すること(同法10条2項)に鑑み、行政財産のうち、住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供された公の施設について、
住民の自由な利用を保障した点にあると解される。
この趣旨に照らせば.同法2 4 4条2項の規律に服するのは、住民の利用に供するための施設を、その設置目的に基づいて使用する場合に限られ、それ以外の場合には、同法2 3 8 条の4第7項の目的外使用許可の問題として処理するのが相当である。そして、公の施設の設置及び管理権限は普通地方公共団体の長にあり(同法149条7号)、公の施設に関する事項は、原則として条例で定めるとされている(同法2 4 4条の2第1項)ことからすれば,当該施設が住民の利用に供されるためのものか否かは、当該施設に関する条例の規定や当該施設の使用•管理の実情などを考慮して判断すべきであり、この判断は、当該施設のある建物(本件では、本件各センター)全体についてではなく、当該施設(本件では,本件各
事務室部分)ごとに行うべきである。
イ そこで、このような観点から、本件各事務室部分が住民の利用に供するためのもので
あるか否かを検討する。
(ア)証拠(‥‥)及び前提事実によれば、以下の事実が認められる。
A 本件各センターの設置及び管理に関する事項に関して、人権文化センター条例が制定されている。同条例において、本件各センターは、地域住民の自立支援及び自主的活動の促
進に関する事業、人権啓発及び人権に係る調査研究に関する事業、市民交流の促進に関する事業及びその他市長が必要と認める事業を行うこと(同条例3条)、本件各センタ一の供用 時間は、午前9時15分から午後9時15分まで、本件各センターのうち、ホール、講堂、集会室.研修室.会議室などの各施設部分(以下「本件各施設部分」という。)の供用時間は,午前9時3 0分から午後9時0 0までであり、本件各施設部分を使用しようとする者は,指定管理者の許可を受けなければならないこと(同条例5条1項,6条)。本件各施設、部分を使用するためには、使用料(例えば,研修室は,1室1日7 6 0 0円の範囲で市長が定める額)を前納しなければならないこと(同条例10条)が定められている。
B 被告市民局のホームページには、本件各センタ一の貸室として、ホール、集会室、会議室、学習室などが、一日当たりの使用料とともに記載されている。
C 本件各センターには、本件各事務室部分を含む事務室が複数あるが、そのいずれも、上記条例における本件各施設部分やホームページにおける貸室に含まれていない。
D 被告は、本件各事務室部分について、1年単位の目的外使用許可という上記条例に規定されていない形式で、原告らに継続的に使用させてきた。
(イ) 人権文化センター条例の上記各規定や本件各事務室部分の使用・管理方法等に照らせば、本件各事務室部分を住民の利用に供するための施設であると認めることはできず、原告らの本件各事務室部分の使用関係について、地方自治法2 4 4条の規律に服するものということはできない。
これに反する原告らの主張は、理由がない。
(2)行政財産について目的外使用許可をするに当たっての裁量権について
ア 地方自治法2 3 8条の4第1項は、行政財産は、原則として、これを貸し付け、交換 し、売り払い、譲与し,出資の目的とし、若しくは信託し又はこれに私権を設定することができないとし、同条6項は、これに違反する行為を無効とする。その一方、同条7項は、行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができるとし、行政財産の目的外使用許可の制度を定めている。
目的外使用許可の制度が定められた趣旨は、行政財産が、本来、公益を増進するという行政目的を達成するために用いられるべきものであることから、その使用による行政目的の達成を確保するとともに、他方で、行政財産によっては、本来の用途又は目的外に使用させても、その用途又は目的を妨げないばかりか、場合によっては、行政財産自体の効用を高めることもあることから、当該目的以外の使用に供しても本来の使用目的が阻害されない例外的な場合に、当該行政財産の効率的な利用を可能にしようとした点にあると解される。
このような目的外使用許可の制度が定められた趣旨に加えて、行政財産が、本来、行政目的達成のために使用されるものであり、地方自治法も目的外使用許可について具体的な要件を定めることなく「その使用を許可することができる。」(同法2 3 8条の4第7項)とし、同条9項は、行政財産の目的外使用許可をした場合において、公用若しくは公共用に供 するため必要を生じたときは、これを取り消すことができるとしていることからすれば、普通地方公共団体の長は、当該行政財産につき目的外使用許可の申請があったとしても、これを許可すべき義務を負うものではなく、当該行政財産の性質、これにより達成しようとする行政目的の内容、公用又は公共用に供する必要の生ずる見込み、当該許可をした場合に予想される支障の程度及び当該許可の相手方が享受する利益の性質など諸般の事情を総合的に考慮してその可否を判断することが予定されていると解すべきである。
そして,これを判断するに当たり、普通地方公共団体の長には要件及び効果の双方において広い裁量があるというべきであり、目的外使用の不許可処分が違法となるのは、普通地方公共団体の長がかかる裁量権を逸脱濫用した場合に限られ、裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が重
要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って,裁量権の逸脱又は濫用として違法となると解すべきである。
イ 原告らは、本件各事務室部分を原告らの支部事務所として利用することが本件各センターの設置目的に適合していることから、本件各不許可処分の処分庁の裁量は地方自治法 244条2項の規定に準じて収縮され,正当な理由のない限り行政財産の使用の不許可処分をすることはできないと主張する。
しかし、前記のとおり、同条項の趣旨は,住民の利用が予定された施設について、住民の自由な利用を保障した点にあると解されるのであり、このような施設ではない本件各事務室部分の利用には妥当しない(もっとも,当該行政財産の利用が当該財産の設置目的に適合していることは、当該裁量権の逸脱濫用の評価根拠事実の1つにはなり得る。)。
したがって.原告らの前記主張は採用できない。
(中略)
‥‥、本件各不許可処分について、処分庁の裁量権の逸脱濫用があるか否かについて検討する。
(ア)本件各センタ一の設置目的は、基本的人権尊重の精神に基づき、歴史的社会的理
由により生活環境等の安定向上を図る必要がある地域の住民の福祉の向上並びに市民に対する人権啓発の推進及び市民交流の促進を図り.もってすベての人の人権が尊重される社会の実現に寄与することを目的とし(人権文化センター条例2条)、その事業は,地域住民の自立支援及び自主的活動の促進に関すること、人権啓発及び人権に係る調査研究に関すること,市民交流の促進に関すること等を行うものとされている(同条例3条)。そして,原告 らは,部落差別から部落民衆を解放すること等を目的とする団体であり(‥‥)、地域住民に対する相談活動.地域住民の福祉向上のための活動、部落差別や外国人差別などについての人権啓発活動等を行っていること(‥‥)からすれば、原告らの活動は、本件各センターの設置目的及び事業に沿うものといえる。
しかし、同和政策は、昭和4 4年に10年間の時限法(後に3年間延長)として同対法、
昭和5 7年に5年間の時限法として地対法、昭和6 2年に5年間の時限法として地対財特法(平成4年と平成9年にそれぞれ5年間延長)という特別法が制定された上で、特別対策と
して物的な生活環境の改善を図るべく行われてきたこと(‥‥)、平成8年5月には、国において、同和地区、同和関係者に対象を限定した特別対策の結果、その目的は概ね達成され、一般施策の中で同和問題の解決が図られるべきであるとされたこと(‥‥)、平成9年に地対財特法が5年間延長されたのは、従来の特別対策から一般政策への移
行を円滑に行うことを目的としており、指定の事業以外は,一般対策で行うことが基本方針 とされたこと(‥‥)、平成9年1月には,大阪市同和対策推進協議会においても、
今後の同和政策は、一般施策を有効、適切に活用することを基本方針とし、特別措置については、廃止あるいは統合し、一般施策に移行することを基本として進めるべきであるされたこと(‥‥)、平成13年10月には,同協議会において、平成14年3月末の地対
財特法の失効後は、同和地区及び同和地区住民に限定した特別措置としての同和対策事業は廃止すべきであり、残された課題については、一般施策での対応を検討すべきであるとされ
たこと(‥‥)、地対財特法は,平成14年3月31曰に失効したことなどからすれば、現在における同和政策については、同和地区ないし同和地区住民に対する特別政策という形ではなく、広く一般市民を対象とする一般施策の一環として対応することが地対財特法等の予定するところといえる。
そして、人権文化センタ一ないし解放会館の位置付けについて、昭和4 0年ころから昭和 5 0年ころまでは、解放会館は.同和問題の根本解決のための拠点であり、地区における総合対策の場であり、地区を対象とした総合的社会福祉施設として位置付けられていたこと
(‥‥)、平成元年ころから平成4年ころには,地区住民のための施設であると ともに地区周辺地域住民との交流とコミュニティ作りのための拠点として位置付けられるよ
うになったこと(‥‥)、平成9年ころから平成11年ころには、地区住民の拠点施設にとどまらず、周辺地域住民を対象とする人権啓発センターの機能と住民交流のコミュ ニティセンタ一としての機能を有する広く市民が利用する施設として位置付けられるように
なったこと(‥‥)、平成12年4月1日には、解放会館から人権文化センターに名称が変更され、その設置目的•事業内容について、解放会館の設置目的が同和地区住民の社会的、文化的、経済的生活の向上を図り、同和問題の速やかな解決に資することであり、
その事業内容も、同和問題の調査、研究や地区住民の各種講習、相談及び指導や地区住民の自主的組織活動の促進に関すること等とされていた(人権文化センター条例2条,3条)のに対して、人権文化センターの設置目的は,一定の地域の住民の福祉の向上だけでなく、市民に対する人権啓発の推進及び市民交流の促進を図り、もって人権尊重社会の実現に寄与することとされ、その事業内容も地域住民の自立支援等の促進だけでなく、人権啓発及び人権に係る調査研究や市民交流の促進とされ(人権センター条例2条.3条)、その設置目的•事業内容も変更されたことなどからすれば、人権文化センターは、同和地区住民のための施設ではなく、一般施策を活用する自立支援センター、人権啓発住民交流の拠点として地区内外に開かれたコミュニティセンターというべきであり、広く市民が利用することを予定した埯設といえる。
以上のように,同和政策が特別対策から一般施策として行われるようになり,それとともに人権文化センターの位置付けも広く一般市民が利用することを予定した施設になったこと
からすれば,その一室である本件各事務室部分を部落差別から部落民衆を解放することを目的として活動する特定の運動団体である原告ら(‥‥)の 支部事務所として利用させることは、現在の同和政策のあり方と矛盾するだけでなく、広く一般市民の利用を予定する本件各センターの目的ないしそのあり方に反する。
そして、平成17年度定期監査等結果報告及び大阪市地対財特法期限後の事業等の調査
監理委員会の提言も上記と同じ趣旨であるから、処分庁が上記監査等結果報告及び提言を本件各不許可処分における考慮要素としたことは合理的なものというべきである。
(イ)原告らは、処分庁は、原告らに対して一度も退去要請やそれに向けた協議をしておらず、本件各センターの一部を支部事務所として使用してきた歴史的経緯や本件各合意があったことを考慮していないことから、本件各不許可処分は、考慮すべき事項を考慮していないと主張する。
しかし、被告と原告らの上部組織である大阪府連は、平成11年10月19日、同年12月 3日、平成12年1月2 0日に解放会館の今後のあり方についての協議を行い、その際、 被告が持参した資料には、支部事務所については暫定的に目的外使用許可と記載されており、.被吿の担当者は目的外使用許可について説明したこと(‥‥)、被告は、平成12年3月16日から平成17年10月11日までの大阪市財政総務委員会等において、一貫して、特定の運動団体である原告らの支部事務所が本件各センタ一にあることは好ましくなく、その見直しの協議を継続している趣旨の陳述をしており、大阪市財政総務委員会は、非公開ではあるものの,モニターを通じて別室で傍聴ができ,その議事録は3か月から5か月後に公開されていたこと(‥‥)、原告らと部落解放同盟日之出支部以外の大阪府連の各支部は、支部事務所を各人権文化センターから他に移し、同センターから退去していること(‥‥)からすれば、被告は、遅くとも平成17年ころまでには、大阪府連や原告らに対して.退去要 請及び退去に向けた継続的な協議を行っていたことが認められる。また、.そもそも行政財産は、行政目的達成のために利用されるべき財産であることからすれば、従前の歴史的経緯として、その使用が認められていたことから、直ちにそれと異なる扱いをすることが裁量権の濫用となるものではない。むしろ,行政財産である本件各センターの一部を長年にわたり、
特定の運動団体である原告らの支部事務所として、目的外使用許可という手続すら採ることなく、平成12年まで使用させていたというその歴史的経緯自体、少なくとも法的観点からは、正当化することはできない(なお、大阪市議会等において、遅くとも平成元年、平成4 年、平成9年に原告らが解放会館を無償で使用していることが問題となり,審議されている (‥‥)。
加えて、前記のとおり、同和政策を特別対策としてするのではなく、一般施策として実施する基本方針が定められたこと(‥‥)、それに伴い、解放会館ないし本件各センターの位置付け、具体的な設置目的及び事業内容も変更されたこと (‥‥)からすれば、現時点において、従前の歴史的経緯を重視する必要性は低い (しかも、処分庁は,平成12年10月1曰から平成19年3月31曰まで目的外使用の許可を継続しており、これは上記同和政策や本件各センタ一の位置付け等が変更されたが、従前の歴史的経緯から直ちに退去できない原告らに対する猶予期間と解することができ、処分庁は、本件各不許可処分をするに至るまで、従前の歴史的経緯を十分に踏まえてもいたといえる。)。
また、本件各合意については、仮に本件各合意がされていたとしても、それが違法で、無効であることは前記のとおりであるから、これを考慮しないことが処分庁の裁量権の逸脱濫用を基礎付けることにはならない。
したがって、原告らの前記主張は理由がない。
(ウ)原告らは、本件各不許可処分は.①原告らが被告と共同して、エセ同和行為廃絶、人権啓発などの人権領域に関わる主要な団体や事業体に協調的に参画して具体的協議、会議、企画等の活動を行っていること、②原告らの中には本件各センター以外にその事務所として利用できる場所が各地区内に存在しないものもいることを考慮しておらず、要考慮事項の考慮が不十分であるとも主張する。
しかし、原告らの活動が人権文化センターの目的に沿ったとしても、その支部事務所をそこに設置することまでその目的に沿うことにはならず、かえって、その目的に反することは前記のとおりである。したがって、原告らの上記活動を積極的に考慮したとしても本件各不許可処分が不合理であるとはいえず、原告らの前記①の主張は理由がない。
また、前記のとおり、大阪府連の支部は、原告らと日之出支部を除き、支部事務所を各人権文化センターから他に移していることや本件各事務室部分の各面積(‥‥)に照らせば、原告らの支部事務所を設置する場所が各地区内に存在しないと認めることはできず、原告らの前記②の主張も理由がない。
(エ)以上からすれば、処分庁が平成17年度定期監査等結果報告及び大阪市地対財特法期限後の事業等の調査・監理委員会の提言並びに本件各センターの性格を考慮して、本件各不許可処分をしたことについて、その判断が重要な事実の基礎を欠くとも、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くともいえず、処分庁において、裁量権の逸脱又は濫用があったと
はいえない。」
(サ)目的外使用不許可を争点とする判例理論の要点
以上、行政財産の目的外使用を争点とした7判例をみてきたが、要点だけいえば次のとおりである
A 組合掲示板の使用関係は行政財産の目的外使用ではなく、一般的禁止の解除(事実上の使用許可)であって、私法上、公法上なんらの権利を設定するものではない
昭和郵便局掲示板撤去(全逓昭和瑞穂支部)事件最一小判昭57・10・7最一小判民集36巻10号2091頁行政財産たる掲示板の使用関係につき、国有財産法18条3項の目的外使用であることを否定し、庁舎管理権に基づく掲示物の使用許可によって事実上使用を許可されたものであることを明らかにしたうえ、その許可の性質は講学上の「許可」、すなわち一般的禁止の解除であって、これにより私法上のみならず公法上においてもなんら権利を設定、付与させるものではないと判示した。全国税東京足立分会事件最二小判 昭59.1.27労判425号もこの判断を踏襲している。
上記判例は、いずれも郵政省の庁舎管理規程等の法的性格について判断したものであり、公労法適用国営企業や税務署の事案であるが、この判例法理は、地方自治体や地方公営企業の庁舎管理規程についても別異に解釈する理由はないように思われる。
B 「ストライキ宣言」の掲示は、違法な行為をそそのかし、又はあおる内容のものとして撤去理由となる。
全国税東京足立分会事件最二小判 昭59.1.27労判425号の判示であるが、この論理が地方公営企業にも適用できるかについて検討すると、地方公営企業の争議行為を禁止する地公労法17条1項が合憲であることは北九州市交通局事件昭和63.12.8最高裁一小判 民集42-10-739頁、判時1314号で明らかにされたことであり、地方公営企業において「闘争宣言」等が掲示板等に張り出されるケースにおいても、別異に解釈する理由はないと考える。
C「アメリカのベトナム侵略にスト抗議しよう!」といった、政治的目的を有する文書の掲示は、国家公務員法、人事院規則違反で撤去理由となる。
全国税東京足立分会事件最二小判 昭59.1.27労判425号の判示であるが、政治的行為の規制については教育公務員を除いて地方公務員と国家公務員とは法制度が異なるのみならず、地方公営企業の場合は、地方公営企業法三九条が、企業職員(政令で定める基準に従い地方公共団体の長が定める職にある者を除く。)については、地方公務員法第三十六条(政治行為の制限)の規定は適用しないとしていることから、この点は私企業と大差ないといえるのである。従って、直接この判例法理を適用できないが、局所内での政治的行為の禁止、制限について就業規則や労働協約で明示されていれば、政治目的の掲示物の撤去という庁舎管理権の発動が可能と考える。
D 呉市立学校教研集会使用不許可事件最高裁判決の示した判断基準について
呉市立中学校教研集会使用不許可事件 最三小判平18.2.7 民集60巻2号401頁、判時1936号63頁、判タ1213号106頁 は平成11年11月13日(土)14日(日)広島県教組が広島県教研集会会場として呉市立中学校の施設の使用を申し出、校長が、職員会議を開いた上で支障がないと判断し口頭で了承されたが、その後、呉市教委の指導があり、不当に使用を拒否されたとして損害賠償を求めた事案で、一審、二審とも県教組が勝訴、最高裁は前年まで一回を除き会場として使用されていたこと、右翼団体の妨害もなかったとして、不許可処分が裁量権の逸脱したものであるとして上告を棄却したものである。
本判決は、最高裁として初めて、学校施設の目的外使用の諾否の判断の性質、司法審査のありかたを明らかにしたもので、あくまでも原審確定事実の判断とはいえ、重要判例と認識している。
D-1 原審との理論構成の違い
この事件は一審(広島地判平14.3.28民集60巻2号443号)、二審とも組合側が勝訴したが、原審と最高裁では理論構成に差異がある。 一審判決は、市教委に積極的に研修の場として学校施設を確保すべき配慮義務があるとし、許可しない場合の正当理由と存在の立証を求めている。
一審判決の論理構成は「学校施設の使用の許否の判断は、管理権限者の広い裁量に委ねられているものであるが、
管理権限者の裁量権の行使にあたって恣意が許されないのはいうまでもなく、使用目的が学校施設の設置目的に沿っているのに、特に理由もなく使用を拒否したとか、使用目的が設置目的に沿うものでなくとも、不当な理由により拒否するなど、管理権限者の判断において、裁量権の逸脱・濫用にあたる事情があれば、違法というべきであり、その判断は、学校施設の使用目的、代替施設の確保の困難性、施設管理上、学校教育上の支障などの諸事情を基礎として総合的に判断されるべきものである」とし、本件を、目的外使用の問題ではなく、設置目的に沿った使用の問題と捉えているような行論を展開し、[iv]結論として、「本件教研集会は、原告の労働運動という一面も併せ持ってはいるものの、主として、教員などによる教育研究活動の報告、検討会としての性格を有し、学校施設の設置目的に沿うものとして取り扱わなければならないこと、また、代替施設の提供は一応はなされているものの、学校教科項目の研究討議は、器具、設備との関係で、教室等の学校施設で行われることが必要不可欠であって、他の施設では、研究討議に不便を来し、研究討議が十分になされないおそれがあり、他の施設の提供では十分とはいえないこと、そして、さらに、前記認定判断のとおり、施設管理上、学校教育上の支障など、その使用を拒否するにつき、正当な理由が何ら認められないことなどの事情を総合勘案すると、原告の他の主張の当否を検討するまでもなく、本件不許可処分は、呉市教委において、その裁量権を逸脱した違法な処分であるといわざるを得ない」とするのである。
最高裁は原審の考え方について法令解釈を誤っているとし、理論構成を修正したうえで、本件は目的外使用不許可の裁量権の逸脱があったという結論については原審の判断を支持した。
最高裁判決では、学校施設の目的外使用は本来、限定的なものであって、これを許可するかどうかは原則として管理者の裁量に委ねられているとし、その場合の裁量権の濫用と目される司法審査の判断指針として「その判断要素の選択や判断過程」にまで立入った「合理的」判断を求める一方で、その判断が
「重要な事実の基礎を欠くか,または社会通念に照らし著しく妥当性を欠く」場合にのみ濫用となるものとして、裁量権の幅を広く解している。
D-2 この判決はやはり組合活動に甘い
下級審判例で公立学校の学校施設の利用許可申請拒否を適法とした例は少なくない。少なくとも以下に挙げる6判例だが、(1)を除く5判例は教職員組合主催集会等の不許可を適法としているのである。
(1) 広島県能美町立小学校施設使用不許可事件広島地判昭50.11.25
(2) 鹿児島県立大島高校等6カ所の学校施設目的外使用不許可事件(鹿高教組主催ミュージカル公演不許可)事件 鹿児島地判昭58.10.21訴務月報30巻4号685頁、
(3) 同控訴審福岡高裁宮崎支部判昭60.3.29判タ574号
(4) 広島県高教組「人事委員会報告説明会」県立高校体育館使用拒否事件 広島地判平14.3.28(判例集未登載)
(5) 広島県高教組定期総会学校施設使用不許可事件 広島地判平17.2.9(掲載-裁判所ウェブサイト)
(6) 広島県高教組支部教研集会学校施設使用不許可事件 広島高判平18.1.25判時1937号
呉市立学校事件最高裁判決は「職員団体にとって使用の必要性が大きいからといって、管理者において職員団体の活動のためにする学校施設の使用を受忍し、許容しなければならない義務を負うものではないし、使用を許さないことが学校施設につき管理者が有する裁量権の逸脱又は濫用であると認められるような場合を除いては、その使用不許可が違法となるものでもない。」と述べ、これはプロレイバー学説である受忍義務説を明確に否定した国労札幌地本ビラ貼り事件・最高裁昭和54年10・30第三小法廷判決民集33巻6号647頁『労働判例』329号と同趣旨と思えるが、最高裁は原審の判断と同様、教員の自主研修を教育公務員特例法19条、20条(平成15年改正で21条・22条)の趣旨にかなうものと評価し、組合活動としての側面があることを否定しないが、教研集会それ自体には好意的であることが、不許可処分を違法とする結論をもたらしたとみる。しかしこの最高裁判決の直前の広島県高教組支部教研集会学校施設使用不許可事件 広島高判平18.1.25判時1937号 が教研集会不許可を適法としており、教研集会不許可が必ず違法となるというものみなすのは早計に思える。
D-3 過大考慮・過小考慮定式による裁量権逸脱の判断についての批判
本件は最高裁が学校施設の目的外使用に許可に関して、学校施設の法的性質に鑑み、学校教育上支障がなくとも不許可にする管理者の裁量を認める一方、本件事実関係に過大考慮・過小考慮定式を当てはめることにより、裁量の逸脱濫用を導いたものである(仲野武志論文参照)。判決では「その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査」のあり方について「その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきものと解するのが相当である。」という基準を示したが批判はある。
私がこの司法審査基準についてまず疑問に思うのは、企業秩序維持の観点から労働組合の経営内施設使用に関する指導判例である国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33巻6号647頁が「企業は‥‥‥職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもつて定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるもの、と解するのが相当である。」と判示し、これは企業施設の組合活動の正当性を「許諾」と「団体交渉等による合意」に基づく場合
に限定したものと解され、このこととは、オリエンタルモーター事件最二小判平7.9.8労判679号等でも踏襲され、判例は安定的に推移している。
国労札幌地本事件の判例法理は、一般の労働組合活動と施設管理権との関係であるから、公立学校施設と職員団体の関係に直接適用されるものではないが、国労札幌地本判決の法理では、本件のような施設管理権の濫用の有無について過大考慮・過小考慮定式は示されておらず、すでにのべたとおり、法益権衡論も排除していることから、それとの比較でこの学校施設は一般私企業以上に裁量権統制が強められたという心証はぬぐえないのである。
本件の過大考慮・過小考慮定式の判定方法を批判する評釈としては、新進気鋭の行政法学者仲野武志のものがある。[v]
判決は、教研集会の要項などに、学習指導要領について批判的な内容の記載は存在するが、いずれも、自主研修としての性質をしのぐほどに中心的な討議対象となるまでは認められないとしている。
しかしながら仲野氏いわく「本件集会は基調報告の他、教科をテーマとする分科会と教職員の人事、勤務条件及び研修制度をテーマとする分科会から構成されており、少なくとも後者の分科会には労働としての性格が純粋に現れていたと考えられるからである。そうすると、本件不許可処分のうち後者の分科会に限れば労働運動としての性格を自主的研修との性格と別個の対象事実と捉えた上、前者の性格を重視したとしても、それは適正な考慮であったといいうるように思われる。」と述べ、さらに「もうひとつの疑問は、本件集会の政治的性格についての過大考慮の判定方法にある。すなわち判旨は、犯罪構成要件(人事院規則14-7第6項の政治的行為)に該当しない限り、政治的性格は「使用目的の相当性」に関する考慮対象事項にならないとしているように解されるが、このような絞り込みの根拠は必ずしも明確ではない。使用が政治的行為に該当する場合はむしろ義務的に不許可処分をすべきである‥‥」とされているが、鋭い指摘のように思える。
D-4呉市立学校事件判決の影響力
この判決が示した司法審査基準は、その後の下級審判例でも踏襲されており、都立王子養護学校事件東京地判平18.6.23判タ1239号169頁は、都障害児学校労働組合(都障労組)の教研集会の使用不許可処分が裁量権の逸脱であり違法としているほか、大阪市立人権センター事件大阪(地判平20.3.27判タ1300号177頁が地域施設の事務室部分について、本判決とほぼ同様の司法審査基準「目的外使用の不許可処分が違法となるのは、普通地方公共団体の長がかかる裁量権を逸脱濫用した場合に限られ、裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って,裁量権の逸脱又は濫用として違法となると解すべきである。」)を適用して、平成19年(当時関淳一市長)、11カ所ある市立人権センター各施設のうち4カ所(現在は地域施設が統廃合され市民交流センターと名称を変更)における部落解放同盟大阪府連合会各支部事務所の目的外使用許可の更新不許可処分を適法と判断しており、学校施設以外でも影響を及ぼしている。
大阪市立人権センター事件大阪地裁判決は、使用不許可処分の判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くことはないと判断されており、すんなり適法とされた。呉私立学校判決の過大考慮の判定方法に問題があるとはいえ教研集会の判断以外に悪影響はいまのところない。
大阪市立人権センター事件大阪地裁判決が、学校施設以外の公用行政財産の目的外使用に、呉市立学校事件の判断基準を適用したので、同じく地方自治法244条の7第4項の行政財産の目的外使用が適用される地方公営企業についても。この判断基準を用いることは可能といえるだろう。
[i] 判例評釈 「季刊公企労研究」59号122~123頁1984年6月、新谷真人「季刊労働法132号168~170頁1984年7月 、「警備法令研究会・捜査研究」34巻3号89~96頁1985年3月
[ii]判例評釈
川神裕・最高裁判所判例解説~~民事篇<平成18年度>〔上〕〔1月~5月分〕206~239頁「法曹時報」59(11)号284頁最高裁判所判例解
松澤幸太郎「月刊高校教育」39巻8号86~89頁2006年6月
岡田正則「法学セミナー」51巻10号116頁2006年10月
川神裕「ジュリスト」1333号109~111頁2007年4月15日
藤原ゆき「季刊教育法」152号74~79頁2007年3月
仲野武志・判例評論578(判例時報1956)177~180頁2007年4月1日
大江一平「関西大学大学院法学ジャーナル」80号395~418頁2007年4月
有田謙司「法律時報」79巻8号173~176頁2007年7月
渡辺暁彦「同志社法学」59巻1号271~297頁2007年5月
本多滝夫「平成18年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1332〕」39~40頁2007年4月
黒原智宏「自治研究」84巻10号142~151頁2008年10月
吉澤邦和「行政関係判例解説<平成18年>」1~10頁2008年1月
山本隆司「月刊法学教室」359号104~119頁2010年8月
上村貞美・名城ロースクール・レビュー22号1~25頁2011年10月
安藤高行「近年の人権判例(6)」『九州国際大学法学論集』16巻3号2010年(ネット公開)
[iv]安藤高行「近年の人権判例(6)」『九州国際大学論集』16巻3号2010年(ネット公開)
[v]仲野武志「公立学校施設の目的外使用の拒否の判断と管理者の裁量権」判時1956号177頁
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