入手資料整理159
(テーマ順法闘争)
1-47林迪広「怠業・順法闘争」『労働争議論 浅井淸信教授還暦記念』法律文化社(京都)1965年
総論的に順法闘争=争議行為説 ただし三六協定締結拒否は原則として争議行為とするのは適切でないとする。
順法闘争とは 「一般に順法闘争といわれるものには、労働基準法およびその関係法令、種々の安全保安法規の遵守というかたちでおこなわれているもの、有給休暇を集団的に一斉にとるというかたちでおこなわれているもの、定時出退の厳守、時間外労働協定の締結拒否の戦術、または業務上の指示を無視して作業動作を関係諸規定どおりに忠実におこなうかたちのものがある」
順法闘争の法的評価
「順法闘争は、社会的事実としては明らかに争議行為である‥‥問題は、法的意味における争議行為に該当するか否かである。」と述べるが結論はそのほとんどが、法的にも争議行為であるとする。
労調法6・7条の概念、労働関係の当事者間での主張の不一致、主張の貫徹を目的として行う行為、業務の正常な運営を阻害する性質の三点から検討しているが、結論は労調法7条にいう争議行為に該当する。 「順法そのものを目的とする順法闘争はともかく、他の争議目的達成のための手段たる順法闘争においては、それを労使間に生じている紛争を全体的に直視して位置づけるならば、結局は「労働関係における意見の不一致」を原因として順法闘争が行われていることは明らかである。したがって‥‥法的意味での争議行為たる一定要件を満たす」 ‥‥ 業務の正常な運営の阻害については、「正常」の意味は「平常」とは区別して法規に従った業務の運営と解し、順法闘争によって法規どおりの作業を行ったとしてもなんら、「業務の正常な運営」阻害したとはいえないとする主張と、「正常」とは法規に従った業務とは解さず、法規に違反していても事実上行われている状態をさすものと解し、順法闘争も争議行為であるとする主張が対立しているが、結論的にいえば「労調法第七条にいう『正常』な業務の運営とは使用者の労働者使用に関する指揮・支配権能が他のものに阻害を受けずに事実上円滑に行為されている状態をさ状態をさすのであって、この場合においては、使用者の指揮・支配の内容が個別的契約関係の権利義務にてらして適法なりやいなやを価値的に判断することを前提とせず、ただ雇用関係を有する労働者に対する使用者の事実としての指揮権限が、労働組合の事実行為による阻害によらず貫徹されている状態をいう‥‥」
プロレイバー学説は、順法闘争を争議行為とみなさない立場で、順法闘争を支援する趣旨のものが多いと思うが、著者はそうではなく、論旨としてはまともなものだと思う。ただ三六協定についてはプロレイバー学説と同様である。 現実問題として、鉱山労働などを別として一日八時間労働でおさまってしまう事業所などほとんどない考えられ、三六協定が締結されていなければ、支障のある事業所がほとんどであるとすると、そもそも、過半数組合が締結しない限り、所定時間以外の労務の指揮、支配ができないこととなり、実質的に三六協定は運用次第で争議行為を内包するものといえるかもしれない。世界的に日本しか類例のないものであり、市民法的感覚では異常なありかたといえる。
そもそも厚生労働省が強行法規である労働基準法違反の摘発をしだしたのは、90年代の全ホワイトカラー裁量労働制案に危機感をいだいた労働組合勢力の突き上げによるもので2000年以降のことで、比較的最近のことである。それ以前は労使関係に積極的な干渉はしなかった。今日でこそ三六協定締結なしで時間外労働をしている企業を「ブラック」などと指弾されることがあるが、高度経済成長期から80年代までは、労基法の遵守というのは市民法的感覚(契約自由・意思自治・勤勉な労働倫理)から無視されて普通のことであり、当時であれば法規に反している経営体がほとんどだったといえるのではないか。市民法的な契約関係や慣行を重視する見解からは、そもそも契約自由・私的自治の侵害である労働者保護法の統制を遵守することには好意的になれないのであるが、著者のように順法闘争につき、それは社会的事実としても争議行為であり、法的にも労調法の争議行為にあたるとする見解はほぼ妥当なものといえると思う。
1-48西川美教『労働裁判官の眼』総合労働研究所1972年
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