入手資料整理169
10855 義江彰夫 摂関家相続の研究序説『史学雑誌』76-4、1967年
古いが、家領の相続研究の基本的な論文なのでよんだところ、夫婦別姓反対論のひとつの根拠を発見し有益だった。
1.氏の財産と家の財産の違いについて
「氏の財産」として『殿下渡領』これは氏行事の費用負担にあてられるものである。『氏院寺領』これは勧学院領、法成寺・東北院・平等院に寄進された所領であり、氏長者が臨時徴収権・荘官任免権・裁判権を握る。
これは私の意見だが、このほか氏長者には氏爵の推薦権もあると思うが、氏爵は和気氏、百済王氏も含めて15世紀頃まで行われており、家格が固定した中世においても家ではなく氏も存在意義があったとみる。
2.夫側から妻・嫁への処分と一期知行後の帰属
義江氏によれば、「夫側から妻・嫁への処分がなされたばあい、一期の知行ののち妻・嫁の生家に伝領されることなく父側にもどさるべきことは、すでに律令法(戸令応分条)さえ認めるところであり、摂関家においても古くから一環して慣習として通っている」
事例
道長→源倫子(鷹司殿)→頼通
頼通→隆子女王(高倉北政所)→養女祐子内親王→忠実
基実→平盛子(白川殿)→後白河上皇が没収→基通
「摂関家領横領」事件の評価が問題になる。関白氏長者基実は藤原忠隆女との間に男子基通をもうけていたが、平清盛は摂関家と接近を図るため女盛子を基実の妻とした。その2年後仁安元年(1166年)基実は24歳で夭没、基通は幼少のため六条天皇の摂政には弟松殿基房がついた。しかし殿下渡領等をのぞく家領のいっさいは、清盛によって子のいない盛子に伝領されることとなり、盛子は基通を養子とした。
義江氏は「妻への処分が可能であるという慣習を利用して平家が事実上横領したことを示すものであるから、特殊な例外」としているが
田中文英「平氏政権と摂関家」『平氏政権の研究』所収によれば「このことから直ちに清盛が摂関家領を平家領にして「荘園領主」に転化したと理解することは飛躍を免れない」のであって、「清盛の摂関家領支配の方式は、摂関家領を前関白夫人たる盛子に白河殿領として伝領させ、基通が幼少のため氏長者にすることができないので自己の意のままになる氏長者が出現するのを待機しているものなのであった。これは横領にはちがいないが、摂関家領を平氏の所領になし、みずからが本家の地位について家領支配を実現しようとするものではなかった」という。
結果的には基実の遺領は基通に伝えられ、これが近衛家の基幹所領になるのであるから、平家が横奪したのではない。むしろ、盛子は養子の基通が幼少であることから家長代行としての中継ぎの役割であり、家領が直系で継承されたことから見て、日本的「家」制度のモデル的事例ともいえるのではないかというのが私の感想である。
このように、妻に処分された家領を他氏が横奪することは原則として律令にも慣習にも反するのである。平清盛は、摂関家領の収入を横領したかもしれないが、平家のものにすることはできなかった。
よって、現代の夫婦別姓論者が、夫に従うのも、舅姑に仕えるのむもいや、婚家姓もなのらない。それでいて婚家の財産は相続で横奪することを合法化するというのは、伝統的な法・慣習に反するといえるのである。
10857関口裕子「日本古代の豪貴族層における家族の特質について(下)」『原始古代社会研究6』校倉書房1984年』
公的家とは
家令職員令は有品親王と職事三位以上について、家政機関の職員とその職掌を規定しており、職員の俸給は禄令で決められた国家官人である。
著者によると、国家的給付としての封戸の所有主体として家政機関の設置を公認したものであるが、家政機関が律令制定により初めて設置されたというものではなく、有力家に存在する現実の家政機関を基盤として立法化されたものとする。
品封・位封は男子の半分とはいえ内親王や職事三位以上の女性にも公的家は設置されるので、これは、婚姻家族と父子継承を基本とする「家」ではなく、男女個人の経営体に附属される家政機関のことである。本主死去により消滅する非永続的な家であるはずだが、本主死後も「家」が継続することがあるという。
ここから私の意見だが、王臣家とか、院宮王臣家というのも公的な家政機関が附置されている、皇親、貴族のことをいうはずである。公的家がもともと、個人に附置される家政機関で、死去により消滅するものだとしても、蔭位制(高位者の子孫を父祖である高位者の位階に応じて一定以上の位階に叙位する制度)があり、とくに9世紀後半から10世紀にかけて源藤二氏を中心とするヒエラルキー的な門閥社会となっていくと、個人に設置される家政機関としての「家」もしだいに父子継承の門流、さらに家として認識されていくということでよいのではないか。
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