民法750条・夫婦同氏(夫婦同姓)制は合憲とされるべきである 下書きその5(選択的夫婦別氏・夫婦別姓絶対反対)
(C)ドイツ連邦憲法裁判所の氏に関する決定について
再三述べているとおり、明治民法が夫婦同氏制をとったのは、婚入配偶者の婚家帰属、日本的「家」制度の慣習と合致するのと同時に、大陸系欧州諸国ドイツ、オーストリア、スイス、イタリアといった当時夫婦同氏制の外国法制を継受したという側面があるのである。
しかし、ドイツの1993年の氏に関する法改正は、「夫婦は共通の氏(婚氏)を決定するべきである」という原則を示しつつ「その夫婦が婚氏を決定しないときは、彼らは婚姻締結時に称している氏を婚姻締結後も称する」とし、夫婦同氏制は名目的になり、たんに倫理的、道義的義務にすぎなくなって、事実上選択的夫婦別姓になったとされている。
なぜこんな規定になってしまったのか、その経緯は、富田哲[2003]に依存するが、大筋で次の通りである。
○もともとドイツでは妻は夫の氏を称するものだった
欧州で姓は血族名であり、父祖の名に基づいている。アンリ2世の時代フランス貴族は血族名は洗礼名のように慣習になっていなかった[フランドラン1993]。ドイツでも基本的には同じことで父系血族名が姓といえるだろう。
1896年公布1900年施行民法1355条は「妻は夫の姓を取得する」とあり、夫の姓を称することが権利であり義務でもあったが、未婚時の姓を併記する慣習も認められていた。
日本の婿取、入夫婚のような夫が妻の氏を選択できる規定はなかった。1957年改正では男女同権法にもとづき、「婚氏および家族の氏は夫の氏とする。妻は身分官吏に対する表示により未婚時の氏を夫の氏に不可する権利を有する」とされた。妻の未婚時姓併記の慣習を権利としたのである。
○1976年改正で夫も妻の氏を選択できるようになった
1976年改正では「夫婦は共通の氏を称する」民法1355条1項としたうえで「夫婦は、婚姻締結に際して、身分官吏による表示により、夫の出生氏または妻の出生氏を婚氏として決定することができる。決定するに至らないときは、夫の出生氏が婚氏となる」同2項と規定した。
○連邦憲法裁判所1988年3.18決定 (夫婦同氏を合憲判断)
民法1355条夫婦同氏の義務がドイツ基本法により保障されている人格権を侵害しないとした。理由は、(1)氏が識別のメルクマールとして社会的機能を有しており、かつ家族共同体を表示していること(2)付随的氏の前置を認めていること(3)通称使用を認めていることであった。とりわけ、氏が社会的標識として機能し、家族を表示する点について尊重され保護されるべきであるとした。
「人格権」なるものはドイツが本場である。この趣旨からすると出生氏への愛着云々とか、結婚しても出生氏を通すことが、人格権として憲法上の権利という主張は、ドイツでも通用しないのだから我が国でも通用するはずがないといえる。
○連邦憲法裁判所1991年3.15決定。(民法1335条2項2文を違憲とする)
「夫の出生氏または妻の出生氏を婚氏として決定することができる。決定するに至らないときは、夫の出生氏が婚氏となる」の後段がドイツ基本法3条2項「男女は平等の権利を有する。国家は、男女の平等が実際に実現するように促進し、現在ある不平等の除去に向けて努力する。」という規定に反し違憲とした。そのうえで、民法改正までの暫定措置として、婚氏の合意に至らなかった夫婦は婚姻締結時の氏を維持するなどとした。
こり決定はインパクトが大きくラジカルなものと受け止められ、1993年の法改正にいたったのである。
ハプニングのような憲法判断に思える。しかし我が国の現行民法には夫婦共通の氏が合意に至らないとき夫の氏とするというような、氏の決定について文面上性差別的な規定はない。民法1335条2項2文があまりにも不用意な規定に思えるのである。我が国には戸籍があり、法律婚が入籍と称されるように慣習では、一般的嫁入婚か、婿取婚かは入籍する前に合意されているのがふつうであり、ドイツとは事情が異なるし、そもそもドイツ基本法と、日本国憲法の平等権の判断枠組みは異なると思えるから、この判断は日本法に適用できないと思う。
このように、憲法裁判所が一方で夫婦同氏を合憲としながら、共通の氏が合意に至らないとき夫の氏を称するという強行規定が違憲とされ、結果的に名目的な夫婦同氏制、事実上の選択的夫婦別氏とするいびつなかたちでの立法政策がとられたのである。
私が思うに夫婦一体的なキリスト教法理による夫婦同姓を貫徹できなくなった、ドイツなどの国々は、もはや西洋文明圏内が世俗化し、堕落したことを意味するか、社会主義思想の感化といってよい。我が国は見識をもって夫婦同姓を護持すべきである。
夫婦斉体思想が西洋であれ東洋であれ文明的な婚姻家族である、それを否定するのは反文明である。文明対非文明の文化闘争である。
富田哲
2003「ドイツにおける夫婦別姓の導入」『歴史評論』636
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