下書き (エ)1
エ)憲法24条は教会法(古典カノン法)の理念を継受しており、夫婦同氏がその理念に一致する。
これまで、わが国の伝統的な家族慣行に照らして夫婦同氏制が妥当なものであると言ってきたが一転して視点を変えたい。
争点になっている憲法24条だが、夫婦別姓論者が憲法違反というのとは逆に、むしろ夫婦同氏が憲法24条の理念に合致していると私の見解である。
なぜならば「.婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」というのは12世紀古典カノン法の合意主義婚姻理論に由来するものだからである。
むろん憲法24条起草者が古典カノン法を意識して起草はしていないかもしれない。しかし、人類史上、親や領主の承諾も不要、教会挙式も不要、個人の合意のみで(理念的には二人の証人かなくても)婚姻が成立するというのはラテン的キリスト教世界の教会法だけなのである。合意主義的婚姻理論とは、ランのアンセルムス、シャルトルのイヴォ、サンヴィクトルのフーゴ、ぺトルス・ロンバルドゥスが理論化し、教皇アレサンデル3世(位1159~81)、が決定的に採用した合意主義婚姻理論にほかならないからある。
教会挙式は16世紀のトレント公会議以降義務付けられたのであり、イギリスにいたっては、宗教改革でトレント公会議を否定したので、古典カノン法がコモンローマリッジとして18世紀中葉まで生ける法だった。居酒屋であれ二人の証人さえいれば容易に婚姻は成立した。
なぜ、グラティアヌスなどの合衾主義を採用しなかったかというと三つ理由がある、一つはヨゼフは許婚者というのがならわしだが、フーゴはマリアとヨゼフの間に真実の結婚があったと主張し、合衾がなくても、婚姻は成立するとせざるをえなかったためである。第二に
合意がなければ結婚はないということは、独身を通し僧になる可能性を拡大した。第三に合意主義はイギリスからの上訴の裁定によりカノン法になったもので、婚前交渉のある北西ヨーロッパの基層文化に合致していた。処女性を重視する地中海地方では合衾主義でもよかったが教会法はどの地域でも通用する普遍的な制度を採用したのである。
もっとも教会がファミリーネームを制定したわけではない。しかし教会法が適用されたラテン的キリスト教世界、例えばフランスにおいて血族の概念が確立したのは13~14世紀、父系姓の確立は14世紀である[フランドラン1993]。父系姓というのがファミリーネームで、夫婦同姓なのであり、これは、夫婦の一体性を重視する教会法的婚姻理念の影響が最も大きいと考えられるからである。
つづく
注記(ロンバルドゥスに)
塙陽子「カトリック教会婚姻不解消主義の生成と発展」『家族法の諸問題(上)』1993 信山社
「先ず、合意が『私は汝を娶ろう』の意味において、≪ego te accipiam in uxorem≫≪ego te accipiam in maritum≫なる言葉でなされたとき、sponsalia per verba de futuro(未来文言の約婚)として婚約が成立する。これに対し『私は汝を娶る』の意味において≪ego te accipio in uxorem≫≪ego te accipio in maritum≫なる言葉で交換された場合には、 suponsalia per verba de praesente(現在文言の約婚)であって、婚姻はただちに成立する。しかしこの婚姻は所謂matrimonium ratum(et non consummatum)(未完成婚)であって、信者間にのみ成立する婚姻であり、原則として非解消で在るが若干の例外を認めうる。 すなわち、夫婦の一方が婚姻に優る状態であるところの修道生活に入る場合、又は教皇の免除(despensatio)を得た場合には解消しうる。この未完成婚の状態にある夫婦にcopula carnalis(身体的交渉)を生じた場合、始めて『二人の者合して一体となり』(erunt duo carne una)、キリストと教会の結合を顕わし、秘蹟としてmatrmonium ratum et cosummatum(完成婚)が成立する。これは絶対に不解消である。また、婚約の場合において、当事者がverba de praesentiを交換した場合、これは婚姻に転換するが、単に未完成婚にすぎず、完成婚になるためには更にcopula carnalis(consummatio)を要する。唯、verba de futuroを表示した当事者間においてverba de praesentiを交換する前にcopula carnalisを生じたときは、直ちに完成婚を生じた。したがってconsummatioは婚姻の成立に不可欠のものではなく、単に婚姻を不解消とするものにすぎない」
図式化すれば以下のようになる。ロンバルドゥスは合意主義婚姻理論とされ、合意主義にこだわった神学者といわれるが、合衾の意義もそれなりに重視されており、巧妙に折衷させた理論といえるだろう。
①現在文言での約言(婚姻成立)→合衾(完成婚)
②現在文言での約言(婚姻成立)→合衾の前に修道生活入り又は教皇の免除(例外的に婚姻解消)
③未来文言での約言(婚約)→現在文言での約言(婚姻に転換)→合衾(完成婚)
④未来文言での約言(婚約)→合衾(完成婚
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