地方公営企業職員の争議行為及び争議付随行為に対してどのような責任追及ができるか(下書)その1
目次 Ⅰ 刑事制裁はどのようなケースで可能か
要旨
(Ⅰ)争議行為を禁止するが、直接的な罰則がない地公労法
(今回はここまで)
(Ⅱ)争議行為に付随して行われた犯罪構成要件該当行為は刑事責任を免れない
(Ⅲ)物理的に就労を妨害するピケッティングは業務妨害罪を構成する
地公労法適用の地方公営企業等職員の争議行為及び争議行為に付随する行為につき、一般論としてどのような行為に対していかなる責任追及をどのようにして可能か、刑事制裁と懲戒処分の両面から検討するのが本稿の目的である。実務的には主として懲戒責任の追及になるが、刑事制裁もありうるので区別して取上げることとする。
Ⅰ 刑事制裁はどのようなケースで可能か
要旨
地公労法11条1項争議行為禁止違反に対して刑事罰則はなく、事業法にも業務の不取扱いそれ自体を構成要件的行為とする罰則はない。
しかしながら、全逓名古屋中郵事件大法廷判決(最大判昭52・5・4)は公労法が禁止する業務阻害、あおり等が刑法その他の罰則の構成要件に該当する場合は、労組法1条2項(刑事免責)の適用はなく、刑事法上違法と評価されると判示しているから、地公労法も別異に解釈する理由はない。
また争議に際して付随的に行われた犯罪構成要件該当行為(例えば業務妨害罪、公務執行妨害、逮捕監禁罪、建造物侵入罪、不退去罪、損壊罪)の違法性阻却判断方式は、その行為が争議行為に際し付随して行われたという事実も含めて、行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものか判断される(国鉄久留米駅事件最大判昭48・4・25、及び全逓名古屋中郵判決)とされているので、昭和40年代に席捲した可罰的違法論により無罪とされる傾向は是正されている。従って諸般の事情から社会的相当な行為として違法性が阻却される余地はなく刑事責任を免れることはできないと考える。
(Ⅰ)争議行為を禁止するが、直接的な罰則がない地公労法
労組法1条2項は組合活動であって「正当なもの」について、正当行為に関する刑法35条の適用を認めている(刑事免責)。又、労組法8条は「同盟罷業その他の争議行為であって正当なもの」に関する損害賠償の免除(民事免責)を規定している。労働者が刑事責任を問われたり、労働者又は労働組合が労働契約不履行や不法行為を理由にして民事責任を追及されないことを民刑免責という。
しかし公務員、行政執行法人の職員、地方公営企業職員は、以下の法規により争議行為を全面的に禁止され、合憲である以上、争議行為が正当な組合活動とはいえず、正当な争議行為もありえないから民刑免責は認められないし、不当労働行為制度の保護も認められないと解されている。
なお、刑事免責が適用されないことは全逓名古屋中郵事件大法廷判決(最大判昭52・4・5刑集31-3-112が「公労法一七条一項に違反する争議行為が刑法その他の罰則の構成要件に該当する場合は、労組法一条二項の適用の適用はなく、他の特段の違法性阻却事由が存在しない限り、刑事法上これを違法と評価すべきもの」として確定的な判例となっていることである。
(争議行為禁止規定)
○国家公務員法98条2項(昭和41年改正前の98条5項)
「職員は、政府が代表する使用者としての公衆に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をなし、又は政府の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。又、何人も、このような違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおってはならない。」
○地方公務員法37条1項
「職員は、地方公共団体の機関が代表する使用者としての住民に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をし、又は地方公共団体の機関の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。又、何人も、このような違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおってはならない。
○行政執行法人の労働関係に関する法律(旧公共企業体等労働関係法*)17条1項
「職員及び組合は、行政執行法人に対して同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。また、職員並びに組合の組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、唆し、又はあおってはならない。」
*旧公労法は組合活動をめぐって膨大な判例の蓄積があるが、三公社五現業の多くが民営化(国有林野事業は一般会計事業化)したため現在は行政執行法人職員適用の法律として名称も変更されている。
○地方公営企業等の労働関係に関する法律11条1項
「職員及び組合は、地方公営企業等に対して同盟罷業、怠業その他の業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。また、職員並びに組合の組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、唆し、又はあおってはならない。」
但し争議行為禁止違反について刑事罰則があるのは国公法及び地公法だけである。
○国家公務員法110条1項17号(昭和41年改正前の110条17項)
「何人たるを問わず第九十八条第二項前段に規定する違法な行為を遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てた者」につき三年以下の懲役または十万円以下の罰金に処する。」
○地方公務員法61条4号
「何人たるを問わず第三十七条第一項前段に規定する違法な行為の遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てた者」につき三年以下の懲役または十万円以下の罰金に処する。」
いずれも、「あおり」等積極的に争議行為を指導した者に限定され、いわゆる単純参加者は処罰の対象とされていない。
一方、旧公労法18条「解雇するものとする」、地公労法12条は争議行為禁止違反に対して「解雇することができる」と規定するが、争議行為禁止違反に対する直接の罰則はなく、違法争議行為に対する刑事制裁はそれぞれの事業法等の規制に委ねられている。
しかし、公労法適用の三公社五現業の業務の不取扱いそれ自体を構成要件的行為としているのは、郵便法79条1項及び公衆電話通信法110条の二つだけなのである(臼井1977c)。
地公労法適用の水道事業についていえば、水道法が、水道施設の操作による水の供給を妨害など多くについて罰則を設けているものの、業務の不取扱いそれ自体を構成要件的行為とする罰則はなく、従って水道局職員の争議行為それ自体につき事業法を根拠としては刑事責任を問うことはできない。
参考文献
臼井滋夫
1977a「ピケッティングの正当性の限界」『法律のひろば』30巻4号
1977b 「五・四名古屋中郵事件大法廷判決について--公企体職員の違法争議行為と刑事罰」『警察学論集』30巻7号
1977c 「公務員等の争議行為をめぐる刑事判例の動向--名古屋中郵事件判決までの軌跡 」『法律のひろば」30巻8号
1977d「「可罰的違法性論」に対する批判的検討」『警察学論集』30巻7号1977
藤木英雄
1967 『可罰的違法性の理論』有信堂高文社
前田雅英
1984 「労働組合役員の他組合員に対する暴行,逮捕行為と実質的違法阻却事由(最判昭和50.8.27) 」『警察研究』55巻1号
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