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2016/08/07

地方公営企業職員の争議行為及び争議付随行為に対してどのような責任追及ができるか(下書)その5

その2 http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2016/06/post-0f39-1.html
その3 http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2016/07/post-99e8.html
その4 http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2016/07/post-f846.
目次
(Ⅱ)争議行為それ自体、もしくは争議行為に際して付随して行われた犯罪構成要件該当行為は刑事責任を免れない
一 争議行為禁止の合憲性をめぐる判例の変遷
(一)第一期 三鷹事件判決から檜山丸事件判決
1.三鷹事件最大判昭30・6・22刑集9-8-1189
2.国鉄檜山丸事件最二小判昭38・3・15刑集17-2-23 
(二)第二期 全逓東京中郵事件判決から全司法仙台事件・都教組事件
1.全逓東京中郵事件最大判昭41・10・26刑集20-8-901
(1)判旨
(2)特色
A合憲としつつも労働基本権を制限するための条件をかなり絞っている
B違法性二元論
C可罰的違法論
(3)悪影響
2.都教組勤評事件 最大判昭44・4・2刑集23-5-305
(1)判旨
(2)二重の絞り論
3.全司法仙台事件 最大判昭44・4・2刑集23-5-685
(1)判旨
(2)趣旨反対結論同意意見(以上第2回)
4. 札幌市労連事件(札幌市電ピケット事件)最三小決昭45.6.23刑集24-6-311
(1)多数意見
(2)下村三郎裁判官の反対意見(要旨)
(3)松本正雄裁判官の反対意見(要旨)
(4)本決定の評価
 ①  物理力を行使したピケットを正当としたきわめて例外的な裁判例
 ② 先例としての価値は認められない
  A 前提となっている刑事免責適用は判例変更された
  B 久留米駅事件方式により安易な可罰的違法性論がとられなくなった (以上第3回)
  C 名古屋中郵事件方式により諸般の事情は違法性を肯定する方向で考慮される
  D   国労広島地本事件最三小昭50・11・28判決により組合の違法争議行為指令は組合員を拘束しないという内部統制否定の法理が示されており、争議行為が禁止されている職場においては罷業脱落組合員に対するピケッティングとしても正当化されることはない
5.第七青函丸・長万部駅事件最一小判昭45・7・16刑集24-7-475
6.浜松動労事件最一小昭45・7・16判時865
7.全逓横浜中郵事件第一次上告審昭45・9・1刑集24-10-1345
(1)多数意見 (入江・城戸・田中・松田・色川・大隅・飯村・関根各裁判官)
(2)反対意見(石田長官、草鹿、長部、下村、松本、村上各裁判官)
(4)評価
(5)全逓横浜中郵事件差戻後控訴審東京高裁判決昭47・10・20労判822
(6)全逓横浜中郵事件差戻後(第二次)上告審最一小決昭49・7・4
8.福教組事件 最三小判昭46・3・23刑集25-5-110
(1)多数意見
(2)下村三郎、松本正雄裁判官の反対意見
10.佐教組事件 最三小判昭46.3.23刑集25-2-110
(三) 第二期から第三期への転換期の判例(久留米駅事件方式の採用)
1.裁判所非難の高まりと司法左傾化の是正
2. 大法廷判決における中郵判決反対派の増加 (以上第四回)
3.国労久留米駅事件最大判昭48-4-25刑集27-3-419
(1)大法廷判決多数意見
 A 建造物侵入罪について
 B 公務執行妨害罪について
(2)久留米駅事件方式の画期的意義
 A 可罰的違法性論の影響をストップ
 B 違法性推定機能の重視
 C 争議行為と争議行為に際して行われた行為とを区別した意味
4.久留米駅事件方式を採用した判例の意義
(1)私企業においても争議行為の限界をより明確にした
(2)公労法適用職場において争議行為への参加を強制する内部統制権と組合員が勧誘・説得を受忍する義務を明確に否定
 A 非組合員に対する物理的就労阻止は争議権のある私企業でも有罪とされる
 B 公労法適用職場では組合員はスト参加を強制されない旨(内部統制の否定)明示した判例
(a) 動労糸崎駅事件広島高判昭48・8・30 判タ300 労判184
 (b)  国労岡山操車場駅・糸崎駅事件広島高判昭48・9・13 判タ301 判時725
 (c) 動労鳥栖駅事件 福岡高判昭49・5・25 判タ311、判時770
 (d)国労尼崎駅事件大阪高判昭49・4・24 判時743
 (e) 国労東和歌山駅事件 大阪高判昭50・9・19刑事裁判月報7-9・10合併号-826
(3)動労尾久事件最三小決昭49・7・16 刑集28-5-216
3.国労久留米駅事件最大判昭48-4-25刑集27-3-419
 時系列的には第三期といえるが、中郵事件大法廷判決が判例変更されていない時点公労法違反の争議行為と関連する判例を第二期から第三期への転換期として扱う。
 本件は久留米駅信号所のマスピケ事犯について建造物侵入、公務執行妨害いずれも無罪とした原判決を破棄し、刑法上違法性を欠くものではないとして、刑事責任を問えるとした判決であるが、公労法違反の争議行為についても刑事免責(労組法1条)の適用があるとした中郵事件大法廷判決は判例変更していない。
 中郵判決の枠組みのままで、争議行為そのものの違法性評価と「争議行為に際して行われた行為」とを区別する「久留米駅事件方式」とよばれる画期的違法性阻却の判断基準により、事実上、可罰的違法性論の争議附随行為への適用を否定したのであり、私企業も含めて労働刑事事件においてターニングポイントとなる意義を有している。
 事案は大略次のとおりである。
 国労門司地本は、年度末手当増額支給等のため昭和37年3月31日に指令職場(八幡駅及び久留米駅)で勤務時間内2時間の職場集会を実施することとし、組合員に動員を指令した。
 3月30日、久留米駅長の禁止に反し国労組合員40~50名が久留米駅東て子扱所に立入り、2階信号所に通じる階段でピケットの配置についたため立錐の余地のなく占拠される状態となった。
 同扱所は、列車の正常かつ安全な運行を確保するうえで重要な施設であり、駅長は主席助役を赴かせ、携帯マイクでピケットの退去を要求した。又、国鉄当局現地対策本部(本部長は門司鉄道管理局営業部長)の命を受けた鳥栖公安室長は、退去に応じないときは鉄道公安職員によって実力で排除する旨の警告を行ったが自発的に退去しなかったため、30日午後8時20分頃鉄道公安職員約60名に実力で排除するよう命じた
 被告人3名の国労役員は、禁止されている東て子扱所に立入り、国労組合員数名と共謀のうえの職務執行中の鉄道公安員に対し2階信号所の窓からバケツや洗面器に入れた水を浴びせる暴行を行ったことが、建造物侵入罪、公務執行妨害罪に当たるかというものである。
 原判決の一審福岡地裁久留米支部判決昭41・12・14は被告人3人について建造物侵入について有罪(共同正犯、刑法130条、60条)としたが、公務執行妨害については、鉄道公安職員が法律上許容された限度を超えた著しく強度の実力を用いたため、職務執行行為が違法として無罪の判決を下した。
 旧第二審福岡高裁昭43・3・26は、昭和41年の全逓東京中郵判決における公労法17条違反の争議行為につき争議行為につき「政治目的のためにおこなわれ行われた場合、暴力を伴う場合、社会通念上不当に長期に及ぶなど国民生活に重大な障害をもたらす場合には正当性の限界を超えるものとして刑事制裁を免れない」という基準に従い、本件争議行為は不当性を伴うものではなく、刑事制裁の対象にならない場合にあたるとし、東て子扱所への被告人の立入りも、その他国労組合員による侵入占拠も、違法又は不当視できない争議行為の一環として行われたもので、建造物侵入を無罪、鉄道公安職員に水を浴びせたことも暴行とはいえないとして、公務執行妨害も無罪として、一審の有罪部分を破棄した。
    上告審は破棄差戻(多数意見8、諸反対意見5)
(1)大法廷判決多数意見
 A 建造物侵入罪について
 「被告人ら三名は、いずれも管理者たる○駅長の禁止を無視して‥‥それぞれ信号所に立ち入ったものであるから、いずれも人の看守する建造物に看守者の意思に反して侵入したものといわなければならない。ところで、勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について、刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたっては、その行為が争議行為に際して行なわれたものであるという事実をも含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならないのである。これを本件について見るに、信号所は、いうまでもなく、列車の正常かつ安全な運行を確保するうえで極めて重要な施設であるところ‥‥被告人○は、当局側の警告を無視し、勧誘、説得のためであるとはいえ、前記のような状況のもとに、かかる重要施設である久留米駅東てこ扱所二階の信号所の勤務員三名をして、寸時もおろそかにできないその勤務を放棄させ、勤務時間内の職場集会に参加させる意図をもつて、あえて同駅長の禁止に反して同信号所に侵入したものであり、また、被告人○および同○は、労働組合員ら多数が同信号所を占拠し、同所に対する久留米駅長の管理を事実上排除した際に、これに加わり、それぞれ同所に侵入したものであつて、このような被告人ら三名の各侵入行為は、いずれも刑法上違法性を欠くものでないことが明らかであり、また、このように解して被告人ら三名の刑事責任を問うことは、なんら憲法二八条に違反するものではない」
B 公務執行妨害罪について
「鉄道公安職員は、必要最少限度の強制力の行使として、信号所階段、その付近、同所内にいる労働組合員らに対し、拡声器等により自発的な退去を促し、もしこれに応じないときは、階段の手すりにしがみつき、あるいはたがいに腕を組む等して居すわつている者に対し、手や腕を取ってこれをほどき、身体に手をかけて引き、あるいは押し、必要な場合にはこれをかかえ上げる等して階段から引きおろし、これが実効を収めるために必要な限度で階段下から適当な場所まで腕をとつて連行する等の行為をもなしうるものと解すべきであり、また、このような行為が必要最少限度のものかどうかは、労働組合員らの抵抗の状況等の具体的事情を考慮して決定すべきものである。
 このような法令解釈のもとに本件の状況を見るに‥‥鉄道公安職員らは、再三にわたって労働組合員らの退去を促し、退去の機会を与えたが、これに応じなかつたため、やむなく、労働組合員らの手を取り、引張る等、実力を用いて排除にかかったというのであり、さらに、記録によれば、被告人らが前記のように二回にわたる実力行使の際に鉄道公安職員らに対しバケツで水を浴びせかけたのは、単に数杯の水を浴びせかけたというものではなく、原判決も一部認めているように、寒夜それぞれ数十杯の水を浴びせかけ、そのため鉄道公安職員らのほとんどが着衣を濡らし、中には下着まで浸みとおつて寒さのため身ぶるいしながら職務に従事した者もあり、ことに第二回の投水の際には石炭がらや尿を混じた汚水を浴びせかけたというものであつたこと、また、右排除行動にあたって負傷者が出たのは単に原判決の認めるような労働組合側の者だけではなく、労働組合員らの抵抗等により鉄道公安職員側にも負傷者が出たことがうかがわれるのである。‥‥鉄道公安職員らの本件実力行使は必要最小限度の範囲内にあつたものと認める余地があり、もしそのように認められるとすれば、鉄道公安職員らの排除行為は、適法な職務の執行であり、これを妨げるため二階信号所から鉄道公安職員らに対しバケツで水を浴びせかけた被告人らの所為は、公務執行妨害罪を構成するものと解されるのである。」
 
(2)久留米駅事件方式の画期的意義
 【久留米駅事件方式】
勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行われた犯罪構成要件該当行為について、刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するに当っては、その行為が争議行為に際して行われたものであるという事実をも含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に容れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならない。
A 可罰的違法性論の影響をストップ
 端的にいえば、この判断基準は藤木英雄東大教授の可罰的違法論の影響に歯止めをかけることが最大の目的であったといえる。
  実際可罰的違法性を欠くとして無罪 とした判例は130件あったが、久留米駅事件方式をとって、無罪とした原判決を破棄した日本鉄工所事件最二小判昭50・8・27 刑集29巻7号442頁 以降ほぼ完全に姿を消し、実務上可罰的違法論は消え去った(ただし実質的に考察して構成要件に該当しないというかたちで無罪とした判例はこれ昭和50年代においてもある[前田1984])。したがって時代の画期といえるのである。
 可罰的違法論は労働法規範の正当化規範によって、争議行為が労働組合の正当業務であり、社会的相当性のあるものとして、犯罪構成要件行為であっても可罰的違法性を欠くとして無罪にしてしまう理論であり、争議行為ないし争議行為に際して行われる行為にある程度の有形力行使を是認するものである。
 むろん労組法1条2項但書は暴力の行使を労働組合の正当な行為と解釈されてはならないとあるが、これは「暴力」を高度の良俗違反に限定するなど狭く解釈していくことで、実質有形力行使是認にもなりうる規定であった。結果的にミリバント、階級闘争型の労働組合を支援するものとなった。
 そもそも刑事免責の考え方はイギリスの1875年「共謀罪財産保護法」に由来するものであり、労働争議、協定、団結はコモンローでは共謀罪そのものであったが、制定法で起訴されないとしたものである。共謀罪は実行されなくても犯罪なのだが、我が国では刑事免責が有形力行使是認の論理にすりかえられてしまったのである。
 加えて昭和41年の中郵判決が公労法違反の争議行為でも刑事免責規定が適用されるとしたため、その適用範囲がそもそも争議行為を禁止している公共企業体職員にまで拡大したのである。
  要するに「法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならない」とは、市民刑法(近代市民法)とコンスピラシーを容認する労働法論理の衝突については、市民刑法優位の判断をとることを基本にしたという趣旨がにじみ出た判断基準と理解してよいと思う。
 そのような意味で労働法論理による市民法秩序の超克を主張するプロレイバー労働法学に打撃を与えた点では、久留米駅事件方式に決定的な意義を認めてよい。
  可罰的違法性論の典型的下級審判例として、ここでは2判例を引用する。
 まず光文社事件東京高裁昭48.4.26判決判時708号である。
 第二組合員が通勤途上の路上で第一組合員1名と争議支援者5人に包囲され両腕をつかまえられ、引っ張り、押されるなどして腰を低く落として抵抗するのもかまわず、音羽通りを横切り、約30メートル引きずられたあと、さらに両脇下に手をさしいれたまま、引っ張り押すなどして、お茶の水女子大裏門を経て、200メートル余り自由を拘束され連行された事件であるが、判決は「被告人の有形力の行使は説得を有効に実施するための場所の選定にともなうきわめて短時間のものにすぎず、しかも身体に殴打、足げり等の暴行を加えてないのはもちろん、その着衣その他に対しても何ら損傷を与えていない程度のものである」と述べ、「なお外形的には、逮捕罪にあたる」ことを認めつつ「‥‥常軌を逸したものといえるかどうか頗る疑わしく」結局本件は「犯罪として処罰するに足りる実質的違法性をいまだ備えていない」として逮捕罪の成立を認めた一審を破棄して無罪判決を下した。
 労働争議においては人を捕まえて強制連行しようと、殴打、足げり等も着衣損傷も認められない程度の有形力行使は暴力とはいえないので許されるという判断である。
 藤木英雄の弟子である刑法学者前田雅英[1984]は、連行距離のみみれば不可罰、軽微な事件と述べているが、本件は別の組合員で統制権は及ばないにもかかわらず、強制連行して就業の権利を奪っており、殴打、足蹴りさえなければよいということでは、労働争議でならば標的とされたものは拉致・監禁されても仕方がないという人権無決と評価できる(上告審-最三小判小昭50・11・25 刑集29巻10号928頁で。ピケッティングの合理的限界を超えた攻撃的、威圧的行動として評価し、久留米駅事件方式により原判決を破棄)。
 
  滝野川自動車事件横浜地裁昭45.12.17判決は第一組合員6名および全自交の労組員合計7名が、第一組合員約百数十名と共謀のうえ、昭40.6.8午前10時から午後1時までの間、第二組合員十名が就労のためタクシー10台を運転して車庫通路より進発しようとするのを阻止するため、通路に乗入れた宣伝用自動車の車輪を取りはずし、貨物自動車の前車輪を横溝を掘って落し込んだうえ、百数十名がスクラムを組んで労働歌を高唱し、坐りこむ等して会社の運送業務を妨害したにもかかわらず、威力業務妨害罪に当たらないとしたものである[岡野1974]
このように軽微とはいえない事案まで無罪とするのは異常である。藤木英雄東大教授の理論は結局、労働組合に有形力行使特権を付与するものだったといえる。わが国の司法がその影響から脱出し、法秩序回復の契機となったのが久留米駅事件方式であったと評価する。
B 違法性推定機能の重視
 専門家の解説としては臼井滋夫の見解が参考になるだろう。
「久留米駅事件方式」の特色として「実質的違法性論に立脚して違法性阻却事由の有無を判断すべきものとしつつ、労働争議においても、一般原則のとおり犯罪構成要件該当性に刑法上の違法性を推定する機能を認め、しかも、この判断が講学上「いわゆる開かれた構成要件」に属するものとして、違法性推定機能が弱いとされている建造物侵入の成否に関してなされたものであることは注目に値するとしている。
 別の言い方をすると中郵判決は労働基本権尊重=争議権保障という考え方がにじみ出ているが、中郵事件そのものは単純不作為の罷業であった。中郵判決が判例変更されていない以上、争議行為に刑事免責の余地を残しているといっても、刑事免責の拡大解釈に明らかに歯止めをかけた。
C 争議行為と争議行為に際して行われた行為とを区別した意味
 臼井滋夫の解説[臼井1977a]によると久留米駅事件方式は「大法廷判決によって定立された争議行為及びそれに伴う個々の行為の正当性の限界に関する基本的原則を踏まえつつ、同盟罷業自体の労働法上の労働法上の無合法・違法の評価と付随的ないし補助的な行為についての刑法上の違法性判断とを意識的に区別して、違法性阻却事由の有無についての刑法的評価のあり方を包括的・一般的な形で簡潔に表現したものと理解される」としている。
 これは第一に争議行為を消極的行為に限定する最高裁の立場を再確認し、争議権の限界についてのプロレイバー学説「(積極的な業務阻害を認める)を否定し、その影響を受けた下級審の判断を覆す趣旨である。
 第二に争議権のある私企業労働者に加えて、公労法適用労働者(地公労法も同じことだが)、争議行為禁止違反で解雇規定であっても、事業法で罷業についての罰則がない、例えば国鉄職員のケースでは、ピケッティング等を争議行為に際して行われた行為とする範疇での判断基準を示した方が合理的であるということである。
(最高裁の立場は争議行為は消極的限度にとどまるもの)
 最高裁は、争議行為の限界について「同盟罷業は必然的に業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであつて、これに対し使用者側がその対抗手段の一種として自らなさんとする業務の遂行行為に対し暴行脅迫をもつてこれを妨害するが如き行為は、叙上同盟罷業の本質とその手段方法を逸脱したものであつて到底これを目して正当な争議行為と解することはできないのである。」(朝日新聞西部本社事件 最高裁大法廷昭27.10.22刑集6巻9号857頁)としているように、争議行為は労務提供拒否としいう不作為を本質とし、これに随伴する行為も消極的限度にとどまるべきであるとするものである。この点はピケッティングの犯罪の成否についての重要な先例である羽幌炭礦事件大法廷判決昭33.5.28刑集12-8-16も同趣旨である。
 他方、プロレイバー労働法学は、争議権は本質的に「業務妨害権」であり、同盟罷業による業務妨害状態を有効に維持し強化するためのピケッティングも当然争議権に含まれるという見解であり、この見解を採用し、ある程度の実力行使を是認する下級審判例も少なくないが、最高裁はそのような見解をとっておらず、使用者の業務遂行を阻止するためにとられた威力行使の手段が諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱したものと認められる場合には、威力業務妨害が成立する[羽幌炭礦判決]としているのである。
 
  大法廷判決の争議行為の限界は消極的限度にとどまるべきものとしているのが明らかであるから、使用者の業務遂行を阻止するためにとられた威力行使の手段は争議行為自体ではなく争議行為に際して行われた行為という範疇とするという論理と考えられる。
 加えて、国鉄の場合、公労法18条が争議行為禁止に違反した者は解雇するものとするとの規定はあるが、郵便法のようにそれ自体刑事処罰規定はない。これは地公労法の構造と同じだが、本件のような建造物侵入罪は、争議行為に際して行われた行為という範疇で刑法的評価を行うこととしたのである。
 
4.久留米駅事件方式を採用した判例の意義
(1)私企業においても争議行為の限界をより明確にした
  ここでは、昭和48年~50年の中郵事件の大法廷判決が判例変更されていない時点で久留米駅事件方式を採用した判例を取り上げる。
 久留米駅事件方式を採用し下級審の無罪判決を覆した判例としては私企業のものも少なくない。
  労働組合役員による他組合員への断続的暴行、逮捕行為につき日本鉄工所事件最高裁二小 昭50.8.27判決(刑集29巻7号442頁)、出勤途中で六人によって包囲され強制連行された第二組合員の逮捕行為につき光文社事件最高裁三小昭50.11.25判決(刑集29巻10号929頁)、業務妨害では毎日放送千里スタジオ事件最高裁一小昭和51.5.6判決(刑集30巻4号519頁 管理職で運営されたテレビ生中継番組を中止させるため組合員約四〇名がスタジオ扉前に集り、労働歌を高唱し、拍手し、鯨波を行い、メガホンを扉の隙間に押し当てたりして、六分間余り生放送に騒音を混入せしめた)がいずれも無罪とした原判決を破棄自判して久留米駅事件方式により有罪判決を下している。そのような意味で久留米駅事件は争議権のある私企業においても争議行為の限界も明らかにした。
(2)公労法適用職場において争議行為への参加を強制する内部統制権と組合員が勧誘・説得を受忍する義務を明確に否定
A 非組合員に対する物理的就労阻止は争議権のある私企業でも有罪とされる
 
   一方、公労法違反の争議行為に付随する行為の無罪を覆した判例は、いずれも動労や国労のストに絡むマスピケ事犯である。我が国では英米のように大量動員ピケッティング自体を違法とする制定法はなく、英国のように他の職場から動員すること自体も違法とはされていないため、マスピケの法的評価はなお不透明なところがある。
また我が国では英米のように争議行為に参加しない労働者の消極的権利は制定法で定めていない。
   しかし、非組合員と統制権が及ばない組合員(脱退した組合員、争議に反対する第二組合員、組合執行部が争議中止を決定したが執行部に反対する争議続行派が就業派に対して行なうケース等)に対する物理力を行使して就業を阻止するピケットについては最高裁ではすべて有罪の判断を下しており、争議権のある私企業においても非組合員や争議行為をしない別の組合員は、就労権を主張できると結論できる。
   例えばホテル・ラクヨー事件最判昭32.4.25刑集11巻4号1431頁(非組合員に対するピケ)、羽幌炭礦鉄道事件最大判昭33.5.28刑集12巻8号1694頁(争議続行決議に反対して脱退した組合員が結成した第二組合に加わった労働者+非組合員に対するピケ)、進駐軍横浜事件最判昭33.6.23刑集12巻10号2250頁(非組合員+争議に加わらなかった組合員に対するピケ)。東北電力大谷電所事件最判昭33.12.25刑集12巻16号1255頁(臨時雇用の非組合員に対するピケ)、嘉穂砿業事件最判昭35.5.26刑集14巻7号868頁(上部団体の炭労の指導による争議の中止と炭労からの脱退を決定した嘉穂労組執行部と対立する争議続行派組合員が、就労派砿員+争議に加わってない職員に対してピケットを行った例)が挙げられる
   また、下級審判例においては、非組合員の就労権と組合員の争議権は対等であり、非組合員の就労権を明示するものがある。例えば横浜第二港湾司令部駐留軍要員労組事件控訴審東京高裁判昭33・3・31『別冊労働法律旬報』№204 1955年]である。
なお、行政解釈は昭和29年11月6日労働省発労第41号各都道府県知事あて労働事務次官通牒があり、「労働組合の統制力は、原則として労働組合の組合員以外には及ばないから、組合員以外の従業員に対しては、当該争議行為についての理解と協力を要請し得るに止まり、その正当な就労を妨げることはできない」としている。
したがって、非組合員とストに反対している第二組合員等の就労権は制定法に明文規定はなくても判例等から導き出される事柄である。
B 公労法適用職場では組合員にスト参加を強制できない(内部統制の否定)
ことを明示した判例
   しかしながら、例外的判例だが物理力を行使したピケットであるにもかかわらず、ごく特殊な事情により違法性を阻却し無罪とした、三友炭坑事件最三小昭31.12.11判決刑集10巻1605頁、)札幌市労連事件(札幌市電ピケット事件)最三小決昭45.6.23刑集24巻6号311頁が存在し、いずれもストから脱落した組合員に対するピケであったことから、脱落組合員に対するピケに関してはなお不透明な点があり、この点ストに参加しない組合員個人の権利を制定法で明文化している英米とは差異があるといえる。
 又、この時期の判例が公労法違反の争議行為であっても刑事免責が適用されるという中郵判決の枠組みのままのため、札幌市労連事件のように争議行為、争議付随行為は無罪とされる余地があったともいえる。
しかし下記の国鉄におけるマスピケ事犯は列車乗務員(機関士や運転士等)やの機関区まで誘導して入区させる操車掛の就労を物理的に阻止するもので、平和的説得とはいえず相手方の自由意思を制圧するものであった。
 下記の判例のうち東和歌山駅事件が非組合員に対する就労阻止を含んでおり指導判例である羽幌炭礦事件大法廷判決が非組合員と脱退組合員に対する物理的阻止のピケを有罪としているから、先例どおりともいえるが、それ以外の事件は非組合員に対するものではない。
   とくに動労糸崎駅事件と動労鳥栖駅事件が典型的だが、動労組合員が同じ動労組合員の機関士や機関助士に対するピケであるため組合の内部統制が争点となったのである。
国鉄(当時昭和38年)ではスト対策としてたとえ組合員であれ事前に代替乗務員に業務命令するのである。例えば鳥栖駅事件では門司鉄道管理局運輸部長が午后七時から九時までに勤務すべき機関車乗務員が動労側によって市内某所の旅館に軟禁されていること、急行「玄海」号(長崎発京都行、鳥栖で機関車を取り替える)を運転すべき機関車乗務員が当日出勤していない旨の報告を受けるや、二六名の代替乗務員の一人であるS・Y機関士(門司機関区の指導機関士で動労組合員)を急行「玄海」号の発機の乗務を命じている。ピケ隊の標的になったS・Y機関士は組合員ではあるが業務命令を優先する考えであったことを供述していた。
   このようなケースで下記の高裁5判例(これ以外にもあるが略す)では争議行為が禁止され、解雇の規定がある公労法適用職場においては、組合員に争議行為参加の慫慂、説得を受忍する義務、スト指令に従う義務はないこと。つまり違法争議行為の指令は組合員を拘束せず、内部統制否定の法理を明らかにしている。
(a) 動労糸崎駅事件控訴審 広島高判昭48.8.30判タ300号、労判184号(上告審-最決昭51.4.1上告棄却 刑事裁判資料230号215頁)
(b) 国労岡山操車場駅・糸崎駅事件控訴審 広島高判昭48.9.13判タ301号、判時727号(上告審-データベースから発見できず)
(c) 動労鳥栖駅事件控訴審 福岡高判昭49・5・25判タ311号、判時770号(上告審-最決昭50.11.21決定棄却 判時801号)
(d)国労尼崎駅事件控訴審゜大阪高判昭49.4.24判時743
(e) 国労東和歌山駅事件控訴審 大阪高判昭50.9.19刑事裁判月報7巻9-10合併号826頁(上告審-データベースから発見できず)
   内部統制否定の法理は国労久留米駅事件大法廷判決より前の全逓横浜中郵事件差戻後控訴審東京高判昭47.10.20判時689号、判タ283号(差戻後上告審-最決昭49.7.4上告棄却 判時748号)が「公共企業体等の職員および組合は公労法一七条一項により争議行為を禁止されているのであるから、組合自身も組合員もこれを行なつてはならない義務を負っているこというまでもない。それゆえ、組合としては組合員に対して同盟罷業への参加を強制することのできない筋合いのものであり、これを組合員の側からいえば、各組合員は、法に従うべきであるという建て前からも、また自らが解雇等の民事責任を負わないためにも、組合の指令にもかかわらず、同盟罷業に参加することなく就業する業務を負うとともに権利を有するものである。いいかえれば、公共企業体等の組合がたとえば同盟罷業の決議をしても、その決議は違法であって民間企業の組合の場合のように組合員に対し法的拘束力をもつものではなく、組合員としてはその決議に従わずに就業しても、特段の事由のないかぎり組合の統制に対する違反ないしはいわゆる裏切りの問題は生じないと解すべきである‥‥」と判示していたことであり、この趣旨を踏襲したのが前記高裁5判例(太字部分)である。
  もっとも、久留米駅事件方式によって有罪判決を維持した動労尾久事件最三小決昭49・7・16刑集28-5-216は、通勤列車を止めただけでなく乗務員の腕を抱えて列車から強いて降ろした悪質なケースで一審、二審とも有罪だったため、あえて内部統制否定の法理に踏み込むことなく、上告棄却としているが、国労広島地本事件最高裁第三小法廷判昭50・11・28民集29巻10号1634頁(脱退した国労組合員に対する組合費請求に関するもので、最高裁は本件臨時組合費の闘争資金の支払請求を認容し、組合員には協力義務があるとしたが、争議行為の参加について多数決によって違法行為の実行を強制されるいわれはないとしたものである。同判決は、組合決議の拘束力一般について検討し次のように判示している。
 
   「‥‥労働組合の決定した活動がその目的と関連性をもつものである限り、たとえ個人的にはそれに反対の組合員であっても、原則としてはその決定に拘束され、そこで定められた活動に参加し、またその活動を妨害するような行為を避止する義務を負うとともに、右活動の経済的基礎をなす組合費を納付する義務(以下これらの義務を「協力義務」という。)を免れないというべきであるが‥‥‥‥そのことから直ちにこれに対する組合員の協力義務を無条件で肯定することは相当でなく、問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較衡量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要である。そこで、右の見地から、公労法に違反して行われる争議行為‥‥に対する直接の効力(争議行為の参加)については、これを組合員に強制することはできないと解すべきである。禁止違反の争議行為の実行に対して刑罰や解雇等の不利益な法的効果が結びつけられている場合に、その不利益を受忍すべきことを強いるのが不当であることはいうまでもなく、また、右のような不利益を受ける可能性がない場合でも、法律は公共の利益のために争議行為を禁止しているのであるから、組合員が一市民として法律の尊重遵守の立場をとることは是認されるべきであり、多数決によって違法行為の実行を強制されるいわれはない。‥‥」と判示しており、したがって最高裁判例もある以上、違法争議行為指令は組合員を拘束しないという内部統制否定の法理は確立されているとみてよい。
つまり争議行為を禁止されている職場では、組合員であれ就労する義務と権利がある上、物理的に阻止する就労妨害が有罪とされるのは当然とのことしでるという論理展開であるが、これは、札幌市労連事件最高裁第三小法廷判決の松本正雄裁判官の反対意見を嚆矢とし、先に挙げた高裁判決の成果から始まったもので、転換期となった70年代前半期に確立したものといえるのである。
(a) 動労糸崎駅事件広島高判昭48・8・30 判タ300、労判184 
 事案は動労(組合員6万人)が機関車の検修合理化と機関区及び基地廃合の反対闘争の一環として決行された昭和38年12月13日全国7拠点(函館・盛岡・尾久・田端・稲沢第二・糸崎・鳥栖各機関区)にやける午後7時を基準として2時間の職場大会(事実上の時限スト、運休5本、客車68本、貨車14本の遅延をもたらした)において、ストに備えあらかじめ国鉄当局から代替乗務の業務命令を受けている動労の乗務員に対して、職場大会に参加させるためのマスピケ事犯である。
 公訴事実は、「被告人[動労岡山地本本津山支部執行委員長]は‥‥運転室乗降ロ附近に集結させ、自らは同運転室に乗り込んで同室を占拠したうえ‥三回にわたり、機関士Sらが同列車に乗務するため乗車しようとするや、右組合員および来援した他組合員ら合計百数十名に対し『スクラムを組め』と命じてスクラムを組ませ、同組合員らと共謀のうえ、その都度右Sらの進路に立塞がり‥‥掛声をかけるなどして気勢をあげつつ同人らを押し返し、あるいは運転室内部から乗降ロの扉を閉めるなどして同機関士の乗車を阻止し、もって威力を用いて国鉄の列車運行業務を妨害した」というものであった。
 一審広島地裁尾道支部判昭43.2.26は、全逓東京中郵事件最大判昭41.10.26刑集20巻8号901頁が労働基本権は尊重されその制限は合理性認められる最小限度のものとすべきとし、公労法違反の争議行為であっても、①政治スト、②暴力行為をともなうもの、③不当に長期にわたり国民生活に重大な障害を与える場合の三条件を除いて刑事制裁を科すことはできないと判示したことを踏まえ、概ねプロレイバー学説の影響のもとに次のような無罪判決を下した。
 「‥‥本件行為により直接及ぼした影響は‥‥六五D列車が約四〇分遅れて発車したことにより四四九M列車が三八分、八七貨物列車が五二分、一〇三七列車が四三分、四一七M列車が二八分それぞれ遅れて糸崎駅を発車したことが認められ‥‥右程度の遅延は未だ国民生活に重大な障害をもたらしたということはできない。‥‥争議行為が如何なる意味でも実力的であってはならないと解すべきではない。‥‥ピケッティング本来の防衛的消極的性格は否定し難いが‥‥平和的或いは穏和な説得以外に出ることができないとすれば、組合は説得の機会すら得られず‥ストライキの失敗を招く結果になりかねない。争議の流動性にかんがみ労使の行動もこれに即応すべく、例えば使用者側や説得の相手方がかたくなに組合側の説得を避けようとする場合或いはさらに積極的にピケやぶりのための暴力を用いる場合には、少なくとも組合員として対杭上右説得の場を確保するためある程度の実力的行動に出るは必要やむを得ない処置として容認されなければならない。労組法第一条第二項但書は暴力の行使を労働組合の正当な行為と解してはならない旨規定しているが、争議行為における一切の有形力の行使を禁ずる趣旨と解すべきではなく、前述の如くピケッティングの正当な目的を達するため必要最少限度の実力的行動は右のいわゆる暴力には該当しないと解すべきである。‥‥右組合員等及び被告人の行動はS機関士を擁する鉄道公安官等に対抗してかなり強力にこれを押し返す等の行動に出てその進行を阻んだことを認められるが、当局が当初より鉄道公安官を使用して遮二無二ピケを破ろうとしたのに刺激された組合員が激化することも事の自然の成り行きであって一概にこれを非難し得ないのである。皮層的外形的事実のみから直ちに被告人等組合員に列車の発進自体を阻止する目的があったったと断ずるのは早計に失するのであって‥‥同機関士説得の機会を与えず唯有無を云わせず実カ行使に出た当局及び鉄道公安官等に対しその攻撃を避けつつ、同機関士を説得する機会をつくる必要上やむを得ずなした行為でいまだ防衛的消極的性格を失わない‥‥。従って被告人の行為は正当なピケッティングの範囲に属し労組法第一条第二項但書にいう暴力の行使に該当しないというべきである」
 控訴審判決は、国労久留米駅事件最大判昭48.4.25を引用して、被告人の本件所為は労組法一条二項本文の適用はなく、威力業務妨害罪が成立するとして、原判決を破棄自判し、被告人を懲役四月執行猶予二年との判決を下した。
本件職場集会の実施は組合の行なう一種の争議行為であるところ、公共企業体である国鉄の職員及び組合は、公共企業体等労働関係法一七条一項により、一切の争議行為を禁止され、同条項に違反してなされた争議行為は、少なくとも労働法上は一般的に違法であり、違反者は同法一八条により解雇の制裁を科せられ、争議行為に際してなされた行為が暴力の行使その他の不当性を伴なう場合には刑事法上においても違法性を阻却されないのであるから(昭和四一年一〇月ニ六日最高裁判所大法廷判決‥‥)、被告人等がS機関士に本件職場集会への参加を勧誘、説得すること自体の違法性を指摘しなければならないが、その点は姑く措くとしても、純然たる私企業と異なり、一切の争議行為が少なくとも労働法上一般的に違法とされている国鉄においては、組合は組合員に対する統制権の行使を理由として、斯る違法な争議行為に参加することを強制することは許されず、組合員は右職場集会実施の組合本部指令に服従すべき義務はなく、従って、これに参加を促がす勧誘、説得を受忍すべき義務もないのである。‥‥原判示のごとく、S機関士は、予め本件闘争に備え本件の前日国鉄当局から代替乗務の業務命令を受けて糸崎駅に待機していた者であり、右業務命令が適法であること及び被告人にはS機関士が本件列車発進のため代替乗務員として同列車に乗車すべく同駅五番線ホームへ来たことの認識が有ったこと‥‥斯様に既に国鉄当局の適法な業務命令を受けてこれに服従し、就労の意思を以て出務している者の場合においては叙上受忍義務のないことは一層明白であるから、同人に本件職場集会への参加を勧誘、説得するに度を超えた物理的な力を以て同人の就労を妨害したり、そのため国鉄の施設や車両を占拠する等して国鉄の正常な列車運行業務を妨害することは、その目的の是非に拘らず許されないものといわなければならない。‥‥‥争議行為への参加を勧誘、説得するには、あくまで相手方が自由な意思決定に基づき自発的に参加する態度に出るのを待つべきであり、言論による説得又は団結による示威の域を超えた物理的な力によってその自由意思による就労を妨害し又は意思決定の自由を奪う程度の心理的抑圧によって不本意ながら就労を思い止まらせるような事態は厳にこれを慎まなければならないところ、‥‥被告人を含む組合員らがS機関士に本件職場集会への参加を勧誘、説得しこれを確保するために執った手段は、その行為の時期及び場所と相俟って、同機関士が代替乗務しようとする正当な就労行為を物理的な実力を行使して妨害したものに該当し、右説得の場を確保するピケッティングの手段として超えてはならない限度を逸脱していたことは明白であると認められる。‥‥被告人は本件六五一D列車の所定乗務員ではないのに、既に所定発車番線に据え付けられ、発車定時刻を経過し、乗客が乗り込んでいる同列車の運転室に乗り込み、同運転室乗降ロ付近には同列車の乗務員に対する説得のためのピケ隊員として百数十名の組合員が配置され、右乗務員の行動の自由は勿論意思決定の自由も制約され、ひいては同列車の発進が阻止され、国鉄の列車運行業務の円滑な遂行に支障を来す虞もないのではない情況にあったのであるから、公共の福祉の維持、増進のため列車の正常且つ安全な運行に責任を有する国鉄当局が、S機関士を同列車に乗車させるため‥‥多数の鉄道公安職員を出動させ、以て同機関士の擁護と本件列車運転室への進路の確保に当らせたことは、国鉄当局は争議中であってもなお業務遂行の自由を有し、況して組合側の説得行為に協力し、これを供手傍観すべき義務を負うものではないこと並びに鉄道係員に対し、鉄道施設内において法規ないし秩序違反の行動に及んだ者を施設外に退去させ得る権限を認めた鉄道営業法四ニ条一項及び鉄道公安係員として、国鉄業務の円滑な遂行のため、その業務運営上の障害を除去するという警備的な職務を鉄道公安職員に認めた「鉄道公安職員基本規定」‥‥「鉄道公安職員基本規定(管理規程)」‥‥の各趣旨に照らし、列車の運行業務を維持するための臨機の措置としていささかも違法の廉はなく、これを目して国鉄当局がかたくなに組合側の説得行動を拒否し、積極的にピケ破りのため実力行使一点張りに出たものと解した原判決の判断は失当といわざるを得ない‥‥以上検討したところによれば、被告人の本件所為は争議行為として許容されるべき限界を超えた違法、不当のもの」
 
 上告審最決昭51.4.1刑事裁判資料230号215頁は上告棄却である。
(b)国労岡山操車場・糸崎駅事件広島高判昭48・9・13判タ301、労判187、判時72
 本件は、久留米駅事件大法廷判決を引用して、列車運行業務を妨害した行為は、正当な争議行為として違法性を阻却されるとした原判決(広島地裁尾道支部昭43・6・10を破棄し、ピケッティングとしての相当性を超えたものとして威力業務妨害罪を認め、国労岡山地本執行委員長Aに懲役8月執行猶予3年、同書記長Bに懲役6月執行猶予3年、同執行委員Cに懲役3月執行猶予2年の判決を下したものである。
事案は大略次のとおりである。 
 昭和三七年年二月国労は期末手当基準内賃金の0.5ブラス3000円を昭和37年3月23日に支給することを要求し、当局は3月23日0.4ヶ月分の支給を回答したが、国労はこれを不満とし、その後当局は動労など少数組合と0.436ヶ月分支給で妥結したが、国労は少数組合と一方的に妥結し、規定事実として多数組合に押しつけるのは団交権の否認として抗議し、指令24号を発して各地方本部は3月30日午後10時以降3月31日午前8時までの間に運輸運転職場を指定し勤務時間内二時間の時限ストを実施することを指示した。
○岡山操車場駅事件 略す
○糸崎駅(山陽本線)事件
 当時、糸崎駅では6番線から、下り393貨物列車が午後11時13分に、2番線から上り48貨物列車が午後11時26分に、5番線から下り急行列車が11時38分に、同駅に到着、機関車を取り替た上、発車することになっていた。
(1)393列車のピケ
 昭和37年3月30日、393列車の発機(機関車)を誘導する操車掛を説得する任務を負った国労岡山地本執行委員Kが動員者約30名とともに待機していたところ、同日午後11時11分頃、本件ストライキに備え予め同駅下り方面の着駅操車掛としての業務命令を受けていた同駅予備助役Sが抗議を聞き入れず、発機は列車に連結され、ただちに発車できる状態となった。このためK執行委員は引率の動員者30名とともに同列車進行方向約2メートル前方の線路上あるいは機関車の横に坐り込みあるいは坐り込む等してピケッティングをはるに及んだ。そのころ同駅西構内を視察のため歩いていた被告人BがさしかかりK執行委員から報告を受け、やむをえないと判断して了承し、統一ある行動をとるよう指示した。このピケッティングにより同列車は1時間50分遅れで発車した。
(2)48列車のピケ
  48列車は到着後機関車(着機)を列車から切り離して機関区に入区させ、機関区から機関車(発機)を出区させて、一旦停止線まで運転し、そこから先は操車掛の誘導によって同列車に連結することになっていたが、発機を誘導する操車掛がいなかったため、同日午後11時15分頃本件ストライキに備え、あらかじめ上り方面の着受操車掛としての業務命令を受けていた同駅輸送助役Tが一旦停止線で停止していた発機を誘導すべく合図灯をもって発機に近づいた。その頃発機に近づいていた被告人Aが同助役の合図灯を認め、同助役を呼びとめ抗議すると同時に、附近の動員者に知らせるべく大声で呼びかけたところ、附近に待機していた地本執行委員Kが同被告人の呼び声を聞き約20名の動員者とともに駆けつけてきたので同人に発機の至近前方線路外側附近、あるいは発機の横に立つなどのピケッティングをはらせるに及んだ。同助役はなおも発機前部のステップに立ち誘導しようと試みたが、ピケッティングのためそれも困難となり、同列車は約1時間48分遅れて同駅を発車した。
(3)31列車のピケ
 31列車は同日11時31.2分頃、同駅4番線に到着したが、同列車の機関車(着機)を切り離し、機関区まで誘導して入区させる操車掛がいなかったため、前記S助役が誘導しようとして着機に近づいた。その際約2.30名を引率して4番線ホーム西寄り線路附近に待機していた被告人Cが同助役の姿を認めるや、動員者約10名と一緒に同助役を取り囲んで抗議し、続いて引率していた動員者とともに発機前方5.6メートルの線路上に立ち、あるいは坐り込むなどしてピケッティングをはるに至った。そこへ被告Aが通りかかり、被告人Cからピケッティングの理由について詳細な報告を受け、これをやむをえないものとして了承し、みずからも同列車の乗客の状況を調べるなどしたが、当局との話合いの結果ピケを解除した。同列車は定刻より4、50分遅れて発車した。
 
判決(抜粋)
 ‥‥原判決は、被告人三名の本件各行為は正当な争議行為として労働組合法一条二項本文の適用を受け違法性を阻却するという。
 しかし、およそ「勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について、刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するに当たって、その行為が争議行為に際して行なわれたものであるという事実をも含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならない」ものであることは最高裁判所‥‥四八年四月二五日大法廷判決の示すところである。したがって、威力業務妨害罪の構成要件に該当する本件行為の正当性判断は、基本となる争議行為そのものの違法性の判断とはおのずから別個の問題に属し、たとえ基本となる争議行為は政治目的のために行われたものではなくまた暴力を伴うものではなく、さらにまた社会の通念に照らして不当に長期に及ぶときのように国民生活に重大な障害をもたらす場合に該らない場合であっても、これに附随して行われた本件各行為が直ちにその違法性を阻却されるということはできない‥‥。
 ところで原判決はピケッティングの正当性の限界について「ストライキの本質は労働者が労働契約上負担する労務提供義務を提供しないことにあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者側に使わせないことにある、」ことを一応認めながら、「しかこのことはあくまで原則であって、争議行為がいかなる意味でも実力的であってはならないと解すべきではない。蓋し労働組合の紐帯がそれ程強固ではなく、組合員に対する使用者の働きかけがしばしば組合指令より強い影響力のある我が国の労働事情では、ストライキの行われた場合使用者側は往々職員その他の者によって操業を継続したり、スキャップを使ってピケ破りをしようとしたりとして容易に組合側の説得などは聞き入れないのが通常であるから、ピケッティング本来の防衛的、消極的性格は否定し難いが、その限界を単なる平和的或は穏和な説得以外に出ることができないとすれば組合は手をつかねてストライキの失敗を待たなければならないことになるからである。‥‥労組法一条二項但書は暴力の行使を労働組合の正当な行為とは解してはならない旨規定しているが、それは前述の如くピケッティングの正当な目的を達成するため必要最小限度の実力的行動をも禁ずるものとして解してはならない」として非組合員などを就業させて操業を継続する場合においては、ストライキの効果が減殺されるのを防止するため、説得活動としてある程度の実力を行使してこれを阻止することも容認されるという見解を示し、さらにピケッティングが同じ組合員に属しながら争議に参加しないで就業しようとする組合員を対象とする場合については「一応就業の自由を有するが、その自由は組合の団結に優先されるから組合の団結の維持に必要な場合は、これに対するピケッティングは就業を翻意さすべく単なる平和的説得にとどまらず、説得に必要な適切な程度では自由意思を一時制圧するような威力を用いることも容認されるべきものと解すべきである。」と判示した。
 しかしながら、国鉄職員は、公共企業体労働関係法(以下公労法という)一七条一項により争議行為を禁止されているのであるから、国労の組合員も争議行為を行ってはならない義務を負っていることはいうまでもない。それゆえ国労としては、ピケッティングの対象が国鉄職員である以上、非組合員はもとより、たとえそれが組合員に対する場合であっても、ストライキへの参加と言う違法な行動を強制することのできない筋合のものであって、組合がなしたストライキ決議は違法であり、組合員に対して法的拘束力をもつものではない。したがって、国労としては、ストライキの決議に従わず就労しようとする組合員に対し、ストライキに参加するよう平和的に勧誘、説得し、あるいは就労しようとする非組合員に対しても就労を翻意させるべく平和的に勧誘、説得することは、ピケッティングの相当な範囲内のものとして許されるけれども、その程度を超えて実力またはこれに準ずる方法を用いてその就業を阻止することは、他にこれを相当ならしめる特段の事由の存在しないかぎり、相当な限度を超えるものとして許されないといわなければならない。
 してみれば、ストライキの実効性の確保や組合の統制権を理由として、右の特段の事由の有無にかかわらず、一般的に実力の行使によるピケッティングを是認する原判決の判断は、国労のように公労法の適用を受ける組合に関する限り正当ではなく、原判決は‥‥公労法ならびに労働組合法一条二項の解釈適用を誤ったものといわなければならない。
 ‥‥ストライキは前記のとおり二時間という比較的短いものであるとはいう‥‥‥明らかに公労法一七条二項の禁止する争議行為にあたり、したがって、右の争議行為に際して行われたピケッティングは、他の特段の事情がない限り、平和的な勧誘、説得の程度を超えて実力またはこれに準ずる方法を用いて組合員などの就業を阻止することは許されないものというべきである。
 (中略)
 ‥被告人三名の本件各行為はいずれも単に説得や勧誘によって、操車掛や列車乗務員の就業を断念させようという程度にとどまるものではなく、実力をもって組合の予定する一定時間‥‥国鉄の列車運行業務を妨害しようとするものであったと認めざるを得ない。そうであるとすれば、公共企業体等の争議である本件の場合においては‥‥とくにこれを相当とする各段の事情も認められない以上、本件各行為はピケッティングとしての相当性すなわち労働組合一条二項の正当性の範囲を逸脱するものといわなければならない。
(c)  動労鳥栖駅事件控訴審福岡高判裁昭49・5・14判タ311
 周知のとおり鳥栖駅は交通の要衝で、昭和38年当時、鹿児島本線は門司港-久留米間が電化されており、長崎本線は非電化であったから、長崎より大阪方面の列車は鳥栖駅にて機関車を短時間で交換し発車していた。
 事案は動労が昭和38年12月13日、車両検修合理化反対等を目的として全国7拠点(函館・盛岡・尾久・田畑・稲沢第二・糸崎・鳥栖)で行われた午後7時を基準として2時間の勤務時間内職場集会(事実上の時限スト)に関するもので、鳥栖駅において動労組合員数百名が、当局の業務命令で長崎発京都行急行「玄海」号乗務を命ぜられた動労組合員の機関士及び機関助士を集会に参加させる目的で乗客を乗せて発車しようとする列車の進路前方軌条枕木附近(車両接触限界内)に沿ってスクラムを組んで立ち並らぶなどして、列車の発進の発進を妨害したことなどが、威力業務妨害罪に問われたものである。
 原判決佐賀地判昭45・5・14は、ほぼプロレイバー学説に沿った判断で、業務妨害罪の構成要件に該当するとしながら、労組法一条二項により正当性ありとして無罪としたが、福岡高裁は原判決を破棄自判し、久留米事件昭和48年4月25日最高裁判決を引用し、争議行為を指揮した動労中央執行委員と、動労西部地方評議会議長を威力業務妨害で懲役8月(執行猶予2年)、発車妨害の組合員を排除した鉄道公安員に暴行を加えた組合員を懲役4月(執行猶予2年)と判決した。私は判決文を読んで一審判決を破棄する論理は優れており長文になるが引用すべき価値のある判決と考える。
 判決[抜粋]
「‥‥右被告人両名が動労組合員約数百共に急行列車「玄海」号前方軌条の枕木付近[いわゆる車両接触限界内]に線路に沿ってスクラムを組んで立ちふさがり、同列車の発進を妨害した事実はほぼ認めたうえ‥‥刑法二三四条の構成要件に該当することは明らかと判示しながら、争議行為の本質は、単なる労務提供義務ではなく、勤労者が使用者の正常な業務を阻害することに求められるべきであり、勤労者の争議行為に対する刑事制裁は‥‥諸般の事情を総合的に考慮し、労働組合活動に当然包含される行為のごときは、正当な争議行為として処罰の対象とならないと解すべきである。また同盟罷業の実効性を確保するため、代替労務者の就労を阻止するなどの補助的手段としてのピケッティングは、平和的説得に限らず、ある程度の実力行使に出ることも場合によっては許される旨の法的見解を示したうえ、本件において、労組法一条二項の適用との関係で、特に考慮すべき所事情が存在すると認定し、右被告人両名の本件所為は、憲法の争議権保障の趣旨に照らして、労働組合活動に当然包含される行為にあたると解すべきであって、刑法二三四条所定の威力業務妨害罪の刑事罰をもってのぞむ違法性を欠くといわざるを得ないしして無罪を言い渡した。しかし、原判決の右判断は‥‥事実を誤認し、かつ、刑法二三四条、労働組合法一条二項、刑法三五条の解釈を誤ったものであって‥‥破棄を免れない。 
 そこで按ずるに、最高裁判所‥‥四八年四月二五日大法廷判決は「勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について、刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するに当たって、その行為が争議行為に際して行なわれたものであるという事実をも含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならない。」と述べている。従って、威力業務妨害罪の構成要件に該当する右被告人両名の本件ピケ行為の正当性の判断は、基本となる争議行為(本件では午后七時を基準とする二時間の勤務時間内職場集会)そのものの違法性の判断とは別個の問題であって、基本となる争議行為が可罰的違法性を欠くものであるからといって、これと付随して行われた本件ピケ行為が直ちにその違法性を阻却されるということはできない‥‥。
 ところで、原判決は、ピケッティングが許容される限界について、「争議行為の本質は、単なる労務提供義務の不履行にあるのではなく、勤労者が使用者の正常な業務を阻害することに求められるのであって、それが権利として許容されるところに、生存的基本権としての争議権が保障される独自の意義があるものと解する‥‥争議行為は、労働者が集団的に就業を拒否し使用者の業務の正常な運営を阻害することにより、使用者との労働条件その他の交渉において実質的な対等を確保しようとする同盟罷業をその典型とするが、これに対して使用者がその効果を減殺するため代替労働者を就労させ、操業を継続しようとする場合には、これに対抗し同盟罷業の実行性を確保する補助手段としてピケッティングが行われる。‥‥当然にその態様は多様であり、流動的であって‥‥ある程度の実力行使にでることも場合によっては許容されるものと解する」と判示した。
 しかし、公共企業体等労働関係法(以下公労法という)一七条一項は、公共企業体である国鉄の職員および組合が争議行為を行うことを禁止し、職員、組合の組合員、役は、この禁止された行為を共謀し、そそのかし、若しくはあおってはならないと規定し、同法一八条は、右規定に違反した職員は解雇されていると規定しているのであるから、本件の国鉄動力車労働組合(以下、動労という。)もその組合員も争議行為を行ってはならない義務を負っていることはいうまでもない。‥‥組合としては、組合員に対して、公労法上違法とされ、しかも解雇等という民事責任を負わされるような同盟罷業に参加を強制することはできない筋合であって、組合がたとえ同盟罷業を決議しても、それは公労法上違反であり、民間企業の組合の場合のように法的拘束力をもつものではなく、組合員としては、組合の決議、指令にかかわらず同盟罷業に参加することなく就業する自由を有するのであって、これに参加を促す勧誘説得を受忍すべき義務はないのである。従って、組合の決議や本部指令に従わないで就業しようとする組合員に対し、同盟罷業に参加するよう平和的に勧誘しまたは説得することは、公労法上の評価はとも角刑法上の観点からは、ピケッティングとして相当な範囲内のものということができるが、その程度を越え実力又はこれに準ずる方法で説得拒否の自由を与えず組合委員の就業を阻止することは、他にこれを相当ならしめる特段の事由がない限り、相当な限度を越えるものとして許されないといわなければならない。そしてピケッティングが右の相当な程度を越えた場合においては、既に労働組合法一条二項にいわゆる「正当なもの」ということはできず、その行為が刑法二三四条の構成要件に該当する限り、違法性を阻却する可罰的違法性を有するといわなければならない。
 してみれば、原判決が同盟罷業の実効性確保を理由として、右の特段の事由の有無にかかわらず、一般的に実力の行使によるピケッティングを是認し、また、原判示S機関士が動労組合員であるから本件職場集会に参加すべき義務があると判示したのは、動労のように公労法の適用を受ける公共企業体の組合に関する限り正当ではなく、原判決は、既にこの点において、公労法ならびに労働組合法一条二項の解釈適用を誤ったものをいわなければならない
 (中略)。
 S対策本部長〔門司鉄道管理局運輸部長〕は、前述のように多数の動労組合員が駅構内に立入ったこと。午后七時から九時までに勤務すべき機関車乗務員が動労側によって市内某所の旅館に軟禁されていること、および前記「玄海」号を運転すべき機関車乗務員が当日出勤していない旨の報告を受けるや、前述二六名の代替乗務員の一人であるS・Y機関士(門司機関区所属の機関紙であるが、動労組合員である。)に対し、右発機を運転するよう命令し、自己が先頭になって、同機関士が動労組合員によって連れ去られないように、数十名の鉄道公安職員に擁護させながら同機関士を誘導し、「玄海」発機に乗車させた。
 (中略)
 「玄海」号〔長崎発京都行夜行〕は‥定刻より約三〇分や遅れて午后七時五二分ころ、第一ボムの上りホーム上り一番線に到着した。すると被告人Nらは運転室に乗り込み、N機関士ほか二名の機関助士がいずれも動労組合員であることを確かめたうえ、直ちに下車して職場集会に参加するよう説得したところ、N機関士ら3名はこれに応じ、直ちに着機より第一ホームに降り、約四・五米歩いて同所にいた第三行動隊員の群れの中にしゃがみこみ‥‥楕円状に取り囲んで気勢をあげた。
 S対策本部長は、急を聞いて第一ホームにかけつけ、N公安室長に対し、ピケ隊を排除しN機関士らを取り戻すよう指したので、N公安室長は、ピケ隊員に「乗務員を出しなさい。出さないと実力行使をする」旨警告したがこれに応じないので‥‥〔公安職員60名と警察官も加わってピケ隊を分散させ、機関士と機関助士1名を発見し、両名の両脇をかかえるようにして着機に乗せ、警備に当たった〕。間もなく着機は客車から切り離され企画区に入り、これに代わってS機関士が運転する発機が午后八時一七、八分ころ客車に連結された。
 すると、第三行動隊約二00名は、責任者の指示により、第一ホームから、「玄海」号の進路に当たる一番線の博多駅方面へ移動し、機留線から移動してきた第二行動隊約二〇〇と合流して、午后は八時二三分頃‥軌条の両外側枕木の付近にスクラムを組んで向かい合って立ち並んだ。被告人Bが「玄海の発車を止めろ」と叫んで指示したので、第四行動隊約百名が第二ホームからかけつけ‥‥これらのピケ隊はワッショイ、ワッショイとかけ声をあげたり、労働歌を唱和し、時には大波を打った様に身体を前方に傾けた。‥‥当局側は、拡張拡声器により再三ピケ撤去要求と実力排除を警告したが、ピケ隊はこれに応じなかったので、‥‥午后八時二五分ごろ実力排除を開始した。‥‥。
 これに対し被告人Nは「突っ込め。押しつぶせ。お前たち田舎の警官は早く帰れ。俺は東京の警視庁の機動隊を相手にしたNだ」と叫んでピケ隊を指揮激励したので、ピケ隊員は、これに従い、排除にあたった公安職員や警察官を押し返すなどして抵抗した。しかし順次排除がなされたので、午后八時二八分頃、発車合図に従い警笛を二三回鳴らした後、公安職員らの逆ピケの中を最徐行で発車した‥〔さらに博多寄りの逆ピケのない地点でスクラムを組んだため、再び公安職員が排除し、「玄海」号は約三、四分停車した後、再び最徐行で発車し〕‥次第に速度をあげて鳥栖駅構内を出ていった。
 その結果、「玄海」号は鳥栖駅で三二分増延し定刻より約六二分発車が遅れた。
 以上の事実が認められる。‥‥本件ピケ行為は、原判決がいうように‥‥S機関士を職場集会に参加するよう説得し、他の組合員らがこれを激励するというに止まるものではなく‥‥「玄海」号の発車を妨害するものであって、代替乗務員であるS機関士に説得を拒否する自由を与えず、その受忍を余儀なくさせるものであって、いわゆる平和的説得のための相当性の範囲をこえており、多数の威力を示して実力により「玄海」号の発射を妨害したものにほかならず、刑法二三四条の威力業務妨害罪の客観的構成要件に該当することが明らかである。
 (中略)
‥公共の福祉の維持、増進のため列車の正常かつ安全な運行に責任を有する国鉄当局は組合の争議中であってもなお業務遂行の自由を有し、まして組合側の説得行為に協力し、これを拱手傍観すべき義務を負うものではないことは明らかであり、代替乗務員を確保し業務を遂行することは、正当であり、その正当性は、国鉄の鉄道業務の公共性にかんがみれば特に強調されなければならない。‥‥証人Sの供述記載によれば‥‥自分は門司機関区所属の機関士であるが、本件当日動労のストが鳥栖駅で行われるので、列車の運行を最少限度確保するための代替要員として、業務命令で門司より出張してきたものであり、組合の指揮に従うことは必要であるが、しかし国鉄職員として業務命令が優先するのでこれに従った。‥‥当局の指示に従って発機の窓をしめたままでなるべく外を見ないようにしていた‥‥原判決が、被告人ら動労組合員が、本件ピケ行為に出ること、同盟罷業の実効性を消極的、受動的に防衛するためやむをえないものだったと判断したのは失当といわざるをない。
なお上告審は最三小決昭50・11・21上告棄却である
(d)国労尼崎駅事件控訴審大阪高判昭49.4.24判時743
 事案は、昭和37年3月の国労年度末手当闘争において、国労の2時間ストの計画に基づき、当時国労大阪地本の副執行委員長の地位にあった被告人らが、他の組合員らと共謀のうえ、①国鉄尼崎駅構内の東西両信号扱所を警備していた鉄道公安職員に体当たりし、九名に負傷を負わせた。②同駅線路上でピケットを張って乗務員等の操業を阻止し、電車二本の発進をそれぞれ約53分ないし約45分遅らせたというものである。 
 一審神戸地裁昭41・12・16判決は無罪判決を下した。①公務執行妨害および傷害について、鉄道公安員の信号扱所の警備は、信号扱所の出入りを完全に阻止して、国労組合員の適法な争議活動を妨害し、信号係員の職場離脱を阻止して不法な監禁状態に置いたとされ、鉄道公安職員への暴力は正当防衛として違法性が阻却される。②威力業務妨害の点については、本件ピケッテイングは労働法上認められた正当な争議行為であり、有効な説得活動を行うための補助的手段であって、約250名ないし約580名の労組員を指導して線路上での渦巻きデモ、坐り込みの方法により電車の発進阻止を行った行為は労組法1条2項の正当な争議行為として違法性を阻却すると判断した。
 控訴審大阪高裁は、原判決を破棄して有罪。①の公務執行妨害および傷害について1名が懲役六月、2名を懲役四月いずれも執行猶予一年、威力業務妨害は3名を罰金5万円に処するとの判決を下した。
(公務執行妨害および傷害について)
 両信号扱所にいた係員らは進んで職場を離脱することを希望していなかったことが窺われ、不法に監禁状態においたということはできない。被告人らはデモ隊による信号扱所の占拠、信号係員の拉致によって両信号扱所の機能のまひによる国鉄輸送業務阻の阻止を図ったもと認められ、鉄道公安職員は適法な職務の執行であり、これを否定した原判決は事実を誤認しているとして原判決を破棄した。
(威力業務妨害について)
  次の通り、久留米駅事件方式によって威力業務妨害罪の成立を認めた
「‥‥被告人らの以上の行為は、昭和三六年度期末手当に関する争議行為に際して行われたピケッティングであるが、その行為が具体的状況その他諸般の事情を考慮して違法性阻却事由があるかどうかについて判断する。
 案ずるに、公共事業体である国鉄の職員および組合は、公共事業体等労働関係法一七条一項により、一切の争議行為を禁止され、同条項になされた争議行為は労働法上の関係において一般的に違法であり、違反者は同一八条において解雇の制裁を科せられるのであるから、組合としては組合員に対し争議行為の禁止を強制できず、組合員も組合の統制に服す義務はないのであるから、争議行為に参加した組合および組合員にないし争議行為に参加ないし協力さすためのピケッティングの手段方法は、その説得の機会をえるために、法秩序全体の見地からみて相当と考えられる範囲に限定せられ、物理的実力行使等によって組合員の就労を阻止することは、たとえ暴力の行使に至らなくてとも、違法性阻却事由に該当する正当な行為ということはできないと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、五二三〇電車、五二三三電車の国鉄尼崎駅構内における停車時間は。いずれもその客扱いする僅か三〇秒位しかないのであるから、右の短時間を利用し電車乗務員に対しスト参加の勧誘ないし説得を尽すということは殆ど不可能ともいうべき‥‥前記電車の運転士らは事件当時、国鉄当局の業務命令にしたがって勤務につき国鉄尼崎駅到着後、客扱いを終わると直ちに発車し、予定時刻どおり目的地まで運転する意思をもっていたものであり、しかも右尼崎駅に到着する前からあらかじめ国労側がストに突入するかもしれないことを承知しながら前記のごとく就労運転していたものであって‥‥ストに参加すべきと呼びかけても、それは相手側の翻意を促すというよりも、むしろ運転士らの自由意思を強いて抑圧しその屈従を余儀なくさせ、彼らに混乱を招くだけの結果となることは疑をいれないから、右のような態様のマスピケッティングは争議手段として許容される範囲、限度を逸脱したものというべきである。しからば、違法性阻却事由はなく、かつ可罰的違法性を具有し刑法二三四条の威力無業務妨害罪が成立することももちろんである‥‥」
(e)東和歌山駅事件 大阪高裁昭50.9.19判決 刑事裁判月報7巻9-10合併号826頁
  本件公訴事実は、「被告人Mは、国鉄労働組合(以下国労という。)南近畿地方本部副執行委員長、被告人Hは同地方本部執行委員であるが、国労が昭和四一年四月ニ六日に実施した闘争に際し、列車の運行を阻止しようと企て
   (一)被告人Mは、
(1)国労組合員約七〇〇名と共謀のうえ、同日午前三時五〇分ごろから‥‥東和歌山駅(現在和歌山駅と改称されている。以下同じ。)六七号ポイン ト北方の紀勢一番線軌道内に多数で立ち並ぶとともに、同日午前四時ごろ、鳳電車区東和歌山支区勤務運転Sが、同駅紀勢二番線に留置されていた電気機関車(EF五二七号)を運転 し、すでに同駅紀勢一番線に到着していた同駅午前四時二分発車予定の名古屋発天王寺行第九ニ 一列車(夜行普通列車)に連結しようとして前進をはじめるや、その前方線路上に多数で立ち塞 がり、次いで同日午前四時一九分ごろ、同機関士がようやく連結編成を終えた右列車を運転して 同駅を発車しようとした際にも、引き続きその前方線路上に多数で立ち塞がつて、同日午前四時三六分ごろまで右列車の進行を阻止し、
(2)国労組合員約四〇〇名と共謀のうえ、同日午前五時前ごろ、同駅五九のイ号ポイント 北方の阪和上り線軌道内に多数で立ち並ぶとともに、鳳電車区東和歌山支区勤務運転士寺本光雄 が同駅午前五時発車予定の天王寺行第二〇ニ電車(直行)を運転して定刻に発車しようとした際にも、同電車の前方線路上に多数で立ち塞がるなどして、同日午前五時ニ九分ごろまで右電車の進行を阻止し、
 (ニ)被告人Hは、国労組合員約三〇〇名と共謀のうえ、同日午前三時三五分ごろから‥‥和歌山駅(現在紀和駅と改称されている。以下同じ。)第 一信号扱所前の出区線軌道内に立ち人って多数で坐り込むとともに、和歌山機関区勤務の機関士Sが同日午前三時三八分発車予定の東和歌山行第六一五三列車(機関車)を運転して右信 号扱所前の出区線から定刻に発車しようとした際にも、その前方線‥上にそのまま多数で坐り込 みを続け、または立ち塞がるなどして、同日午前四時五六分ごろまで右列車の進行を阻止し もってそれぞれ多衆の威力を用いて日本国有鉄道(以下国鉄又は当局という。)の列車運行業務を妨害したものである。」というのである。
  一審和歌山地判昭46.4.26刑事裁判資料201号81頁は、プロレイバー学説に依拠して、「被告人らの本件各ピケ行為はその目的、 態様等に照らせばいずれも許容されるべき行為の限界を越えておらず又その社会一般に及ぼした影響も重大でないことなど諸般の事情を総合して判断すれば、被告人らの本件各ピケ行為はいずれも正当な争議行為として労組法一条ニ項本文の適用を受け違法性を阻却さるべきものというべきである。」として無罪とした。
 控訴審大阪高裁は久留米駅事件方式により原判決を破棄し被告人Mを懲役四月、Hを同二月それぞれ執行猶予一年の有罪とした。
 「‥‥国労が企てた本件ストライキが違法なものであることは明らかであり、組合がストライキの決議をしたとしても、組合員に対してストライキへの参加を求めることは組合の統制権を理由としても違法であることに変りはなく、組合員は組合の要請に従つてストライキに参加すべき義務はなく、就労の意思をもつて出務している場合においては、その受忍義務のないことは一層明白であって、まして組合は、非組合員に対してストライキへの参加を強制すべき権能を有するものではない。もつとも、これは民事上違法であるということであって、 そのために直ちにそれが刑法上可罰的であるということではなく、ストライキに際して行なわれた各種の争議行為の刑法上の可罰性は、前記のごとき判断基準のもとに、諸般の事情を考慮して 慎重な検討を要するところであって、本件ピケッティングの正当性についても同じである。‥‥
  ‥‥関係証拠によれば、被告人らはもとより組合員の誰もが、列車或いは電車の乗務員に対し、本件ストライキへの参加を求め乗務放棄すべきことを求めるいわゆる説得活動を行なつた形跡は認められず‥‥さらに被告人らは、その列車或いは電車に果して誰が乗務しているか、それが組合員であるか非組合員であるかを確認するための努力すらしていないことなどに照らせば、本件ピケッティングが、被告人らが公判廷において供述するごとく、説得のためのものであると認めるには強い疑問が存するものといわなければならない。
 仮にこれが原判決が認定するごとく態度による説得活動であるとみるとしても、本件において被告人ら及び組合員らの態度からみられるものは、単に、被告人ら組合員の意思を表明して乗務員に翻意を求め同調を促すというものとは異なり、あくまでも被告人らの意思に従うことを求めてする実力行動であって、相手方の意思の自由を認める平和的説得とは異なるものといわなければならない。
 まして、九ニー列車に乗務していたSは、鳳電車区東和歌山支区の助役で本件ストライキ に備えて電気機関士兼務を命ぜられていたものであり、ニ〇ニ電車に乗務していたTは、 鳳電車区東和歌山支区の技術助役で同じく本件ストライキ対策として運転士兼務を命ぜられていたもので、いずれも非組合員であって組合の持つ統制権の及ぶ範囲ではなく、また、六一五三列車に乗務していたSは、国労組合員ではあつたが同人は和歌山機関区に所属する機関士であって本件ストライキの対象にはなつておらず組合からスト指令も受けていなかつた者であるから、これらの者に対し前記のごとき態度で乗務放棄を求めることが許される筋合のものではない。
 被告人らの指揮する本件ピケッティングによって、九ニ一列車は三四分、ニ〇ニ電車はニ九分、六一五三列車は一時間ニ〇分の遅延をきたしたのであるが、自動車などによる代替輸送機関が発達してきたとはいえ、国鉄の列車、電車は、今日においても国民生活上必要欠くことができ ない重要な輸送機関であることには変りはなく、特に九ニ一列車及びニ〇ニ電車にはそれぞれの 用務をもつた乗客が現に乗車して旅行中であつたのであり、また「一信」は前記のとおり和歌山機関区の喉元ともいうべき重要な拠点であつて、これらを被告人らの本件ピケッティングによって通行不能にしたことは軽視することができず、さらに、記録によれば、単にこれらの列車、電車にとどまらず他の多くの列車等に運転上の支障を及ぼしたものであることが明らかである。
 労働争議に際ししばしば行なわれるピケッティングが、直ちに刑法上可罰的であるるとされるわけではなく、その態様、対象などによって差異があるとはいえ、ある程度の範囲において刑事上の免責が認められることは、從来の多くの判例によって明らかにされているところであり、そのことは、争議行為が禁止されている労働組合においても同様であるが、これらの組合においては、争議行為が禁止されていることのために、違法性阻却が認められる範囲も、争議行為が禁ぜられていない民間企業の場合に比較して自ずから限定されたものとなることもやむを得ないものといわなければならないところ、本件におけるピケッティングが、前記のごとく非組合員あるいはもともとスト対象にもなっていなかつた者に対するもので、前述のような相手方の意思の自由を認めないような態度で相当の時間列車あるいは電車の運行を阻止し国民生活上重大な影響を及ぼしたものであることなど諸般の事情を考慮すると、それが労働争議に際して行なわれたものであるという事実を含めて検討しても到底それが法秩序全体の見地から許容されるものということはできず、刑法上の違法性阻却を認める余地はない。‥‥‥‥
 また弁護人らは、三友炭坑事件あるいは札幌市電事件についての最高裁判例をひき、本件は違法性を阻却されるべきであると主張するが、前者は争議行為が禁じられていない民間企業に関するものであり、後者は組合の統制権の及ぶ脱落組合員に対するものであることなどの点において、本件とは大きく事情を異にするものであつて、到底同一に論ずるわけにはいかない。
 以上のとおり、被告人らによる本件各所為は、威力業務妨害罪にあたり違法性を阻却するものではないので.これに反する原判決は事実を誤認し法律の解釈適用を誤ったものといわなければならない。‥‥」
(4)動労尾久事件最三小決昭49・7・16 刑集28-5-216
 本件はマスピケ事犯である。動労中央本部は当局の合理化に反対し全国7拠点で昭和38年12月13日午後7時を基準とする、勤務時間2時間の職場集会(事実上のスト)を指令した。被告人動労本部中央執行委員らは、約350人のピケ隊を組織し、上野発黒磯行525列車(11両編成で乗客約1200人が乗っていた)の尾久駅入構を待ち受け、ホーム一杯に押しかけ、約150人を線路上に降ろして列車の前方軌道上にスクラムを組んで、うずくまることなどし、また乗務員を職場大会に参加させるためその腕を抱えるなどして強いて下車させ、20時頃から20時44分頃までの間列車の発進を不能ならしめた。当時の新聞をみると1面の扱いで、尾久駅線路上でアノラックに覆面姿の組合員がうずくまり、通勤客を乗せた列車を止め、ホームでは支援者が集まって拍手するという当時を知らない者にとっては異様な写真を見ることができる。ただ本件は一審から有罪だったため、最高裁決定(棄却)は簡潔なものであり、判例としての意義は久留米駅事件を引用したというだけで特にコメントすることはない。
 一審は、威力業務妨害罪、共同正犯(刑法234条233条60条)S被告人懲役四月執行猶予二年、他の2名は罰金5千円。東京中郵判決の趣旨に沿い「公労法一七条違反の争議行為であっても、その刑事上の責任については労組法一条二項の適用がある」「当該争議行為が同条第一項の目的を達成するものであって、かつ、単なる罷業又は怠業の不作為が存在するにとどまり、暴力その他の不当性を伴わない場合には、刑事制裁の対象とならない」という基準で違法性を判断し、 所属組合員に対するピケについて「些細な実力的行動をも許さずとまで解すべきでないことは弁護人のいうとおり(であるが)、本件ピケは(中略)、すでに列車の運行を開始し、有機的な運転管制に服して線区に入り、多数の乗客を乗せた通勤列車を運転中の機関車乗務員に対してなされるものであるから、その時期、場所、方法、態様において制約を受け」るものであるとし、「説得にもかかわらず組合員が就労せんとする場合には、団結による威の域を超えた物理的な力で、就労を妨害することは許されない。」のであるから、「機関車の側方に於いて、その進行を妨げない程度の間隔をおいて集合し、車外から運転室の乗務員に対し団結の示威を背景として職場集会への参加を呼びかける程度」が適法の限界であり、本件は「労組法一条二項所定の正当な組合活動に該当しない」と判示した。
 控訴審も一審の判断をほぼ全面的に是認した。
 最高裁は決定で棄却。ただし一審の違法性判断とは異なり、久留米駅事件方式の違法性判断基準を採用している。
(決旨)
「‥ 右列車の乗務員が前記動力車労働組合所属の組合員であることを考慮しても、被告人らの本件所為は、法秩序全体の見地(‥‥四八年四月二五日大法廷判決‥‥)からとうてい許容しがたい不法な威力の行使による業務の妨害であるというべく、これにつき威力業務妨害罪の成立を認めた第一、二審判決の結論は、相当である。」
参考文献
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為と刑事罰」『警察学論集』30巻7号
1977c 「公務員等の争議行為をめぐる刑事判例の動向--名古屋中郵事件判決
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東京中郵事件調査官解説『最高裁判所判例解説刑事篇昭和41年』
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日教組スト事件調査官解説『最高裁判所判例解説刑事篇平成元年』
岩教組スト事件調査官解説『最高裁判所判例解説刑事篇平成元年』
埼教組スト事件調査官解説『最高裁判所判例解説刑事篇平成二年』
中村秀次
2010「刑法総論に関する裁判例資料-違法性及び違法性阻却-」『熊本ロージ
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1957「労働争議行為と違法性」『 総合判例研究叢書/(5)刑法 -- 総論/刑
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1967 『可罰的違法性の理論』有信堂高文社
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1984 「労働組合役員の他組合員に対する暴行,逮捕行為と実質的違法阻却事
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