地方公営企業職員の争議行為及び争議付随行為に対してどのような責任追及ができるか(下書)その12
⑧B説 個人責任を問えなければ違法争議を掣肘できないとし、組合の責任とは別個に違法行為者としての個人責任を免れないとした下級審判例
三井化学染料事件福岡地判32・7・20労民集8巻4号503頁
「組合の決定に基く組合活動といってもそれが違法な争議行為であるときは組合自身の責任(例えば損害賠償責任)を生ずることは勿論、当該違法行為者自身においても個人責任を負うべきものだと言わなければならない。けだし組合の決定に基き、組合のためにする行為だからといってこの行為に基く結果の責任をすべて組合に転嫁することを認めるにおいては、行為が行為者の判断、意欲、決意に基づく価値行為たる本質をないがしろにし近代法の基本理念に背馳するそしりを免れないばかりでなく、組合の名のもとに違法行為を敢えてする組合員の行為を阻止し得ない事態を招来するからである。‥‥違法組合活動をなした者はその行為によって生ずることのある組合の責任とは別個に違法行為者としての個人責任を免れない‥‥」
名判決だと思うが、この法理は20年後の全逓東北地本判決で確定したのである。
⑨B説田辺公二1965『労働紛争と裁判』弘文堂
43歳で急逝した英米法に精通した学者。名著「同盟罷業権について」を収録し死後出版された全集の2巻である。司法研修所教官、水戸地裁判事、東京地裁判事を歴任。
違法争議行為の責任問題については、組合員の個別責任を否定するプロレイバー労働法学の見解について次のように批判する。
「‥‥労務提供の拒否などを「誘致」することが争議行為の本質だという考えに立ってみますと、争議行為というものは多くの組合員相互の誘致、さらにこれによって生ずる共同の労務放棄行為というものから成りたっている。そういう非常に緊密な精神的・有機的な共同活動である。これは株主が年に一度総会に来て、ごく形式的に会社の運営に関与するのとは根本的に違っていまして、組合員がこれに関与している程度がきわめて高いのであります。ですから一般の民法学者にこの問題を議論してもらえば、やはり組合と争議を指導した組合幹部から、さらに参加した組合員の全部にまで、理論上は一応責任が及ぶという結論になるのではないか。‥‥ドイツの学説でも‥‥たとえその行為が違法でも指令に違反して参加しないということは、到底期待できないということから、この責任をのがれさせようとした。しかし、この説は、結局一般に認められるには至らなかったのであります。違法な命令に従ったからといって、やはり責任は免れないというのが一般の刑法なり不法行為の考え方で、これはなかなか簡単には破れない‥‥」
ようするに、個人責任を否定するプロレイバー学説は、ドイツですら認められない反市民法理論、とんでもといわざるをえない。
⑩B説菅野和夫1971「違法争議行為における団体責任と個人責任(一)ー損害賠償責任の帰属の問題として」『法学協会雑誌』88巻2号
「‥‥違法行為者は自己を拘束する他人の命令に従ったことをもってその責任を免れる一般的根拠となしえないこと責任法の基本原則である‥‥争議行為の「二面集団的本質」は、「個人の埋没」ばかりでなく、個人の「実行行為性」をも意味しうる‥‥団体法的見解の個人責任否定論は、まず、不法行為法や契約法の基本原則からその当否が疑われるようなあまりにも広範な無責任の結論を導いており、しかもその十分な理由づけを行っていない‥‥」
⑪A説よりB説に改説、川口実「争議行為に対する責任追求としての懲戒処分(四・完)」法学研究(慶大)44巻12号11頁「懲戒は抽象的には解雇の自由にもとづいてはいるが、具体的には就業規則の適用として捉えられ、実質的には労使間における信義則違反行為として評価されるにいたったのである‥‥違法争議行為が実質的に信義則に反する場合は、その違法性に応じて、各段階の懲戒処分が加えられ、その処分が同時に信義則違反として無効になるかどうかが具体的に判断されることになる‥‥」
⑫A説慶谷淑夫1970「一般公務員の争議行為、政治活動による行政処分の問題点」『法律のひろば』23巻12号12頁
「個々の労働者は、使用者と労働契約を締結することによって企業内に編入され企業秩序に服することになるのであり、このような関係は、労働契約関係が続く限り存続し、それは争議行為が行われたからといって変わるものではない。ただ争議行為が正当であれば、企業秩序違反の責任を問わないというだけであり、もし違法な争議が行われ、企業秩序を侵害すれば、当然企業秩序違反として懲戒事由に該当することは明らか‥‥」
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