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2016/09/22

地方公営企業職員の争議行為及び争議付随行為に対してどのような責任追及ができるか(下書)その16

11.北九州市交通局事件最一小判昭63・12・8民集42-10-738判時1314、中労委ウェブサイトデータベース

 本件は懲戒処分を不当労働行為として取消した地労委の救済命令を使用者側が不服とし救済命令取消訴訟であるが、一審救済命令支持、二審救済命令取消し、上告審棄却。
 最高裁が初めて地公労法11条1項を合憲と判示したうえ、北九州市交通局労組合意のもとに三六協定の締結更新を前提とした超過勤務が平常勤務として組み入れられていたところ、超過勤務自体に関する格別の要求を有していた事情は認められないのに、財政再建計画阻止という要求を貫徹するための手段として、三六協定の締結、更新を拒否し、組合員に時間外勤務を拒否させて、超勤拒否闘争を実施したが、これは地公労法11条1項の禁止する争議行為に当たるとした。
 
(1) 争議行為の概略

 本件は大略して次のような事件である。
 北九州市の交通事業は独占地域である若松区を除いて、西鉄バスと競合関係にあり、旧五市時代から承継した事業も含め赤字が累積し昭和40年に1億6000万円に達したため、運賃改訂、給与改定、人員削減、高齢者退職完全実施、ワンマンカーへの移行等による財政再建計画案を作成し、北九州市交通局労組と協議を重ねだが意見の一致をみず、自治省の指示に従った最終案を昭和42年6月15日市議会に上程し(7月3日本会議可決)、6月21日~23日、6月27日から7月1日まで及び7月3日三六協定締結、更新拒否による超過勤務拒否闘争、ディーラー整備員入構拒否、完全点検闘争、休暇闘争が行われた。一審判決では超勤拒否、安全点検、あるいは年休要求と、いろいろ名目は違っても自らの事業所における業務阻害を目的とした争議行為ないしはそれに付随した争議手段であったとしている。
 闘争によるバスの欠行率は、6/21 8.04%、6/22 8.55%、6/23 4.19% 、6/27 8.48%、6/28 8.60%、6/29 3.90%、6/30 6.62%、7/1 6.40%、7/2 1.47%、7.3 36.79%であった。
 北九州市交通局長は、以上の参加人及び訴外X1ほか一二名の行為 が、同市交通事業の業務の正常な運営を阻害する行為であって、地公労法という第一一条一項に違反し、北九州市交通局就業規程第九〇条一一号、地方公務員法第二九条第一項第一、第三号に該当するので、前記の如き争議の計画、指導及び実行を行った執行委員長もしくはその他の役員である前記訴外X1ほか一二名に対し、昭和四二年八月二日付をもって懲戒処分を行った。
 停職6か月3人(X1、X2、X3バス運転手、うち1人執行委員長、)。停職3か月4人(X4、X5、X6、X7、X8バス運転手3人と事務1人、うち書記長1人、副執行委員長1人)、停職1か月4人(X9、X10、X11、X12バス運転手2、車掌1、整備士1、うち中央委員1人)。  
 
*註 北九州市交通局就業規程
第90条 職員が次の各号の一に該当するときは、免職の処分をする。
(11)同盟罷業、怠業、その他局の正常な運営を阻害する行為をしたとき、もしくはこのような行為を共謀し、そそのかしまたはあおったとき。

争議行為の詳細は次のとおり(一審判決で引用される使用者側の説明)

  参加人は、昭和四二年六月一一日頃から本庁舎及び整備工場にある整備課事務所に合理化反対等のビラを多数貼付し、更に同月一五日、戦術委員会で同月二一日ないし二三日の超過勤務拒否闘争、同月二七日ないし同年七月一日の超過勤務拒否闘争及び完全点検闘争、同月三日のストライキを決定し、当局の警告を無視してこれを実施した。その具体的事実関係は、以下述べるとおりである。
? 昭和四二年六月二一日から同月二三日までの間の状況
? 参加人は六月二一日から同月二三日までの三日間、第一波実力行使超過勤務拒否闘争と称し労働基準法第三六条の規定にもとづく協定(以下「三六協定」 という。)の締結を拒否し、北九州市立養護学校スクールバスおよび福岡行き 定期便を除く全ての部門で超過勤務を拒否し争議行為を行った。
  北九州市交通局においては運行ダイヤの編成にあたっては事業管理者への諮問機関として労使双方の委員によって構成されるダイヤ審議委員会の審議を経て定められていたが、本件紛争当時の公示ダイヤは参加人側の同意のもとに一日約九勤務の超過勤務ダイヤを組み入れており、超過勤務拒否が行われれば正常なダイヤ運行に支障をきたすことは労働組合も充分承知のうえでこれを争議行動の手段として行ったものである。
? 六月二一日前述のとおり参加人が超過勤務を拒否したので整備関係の勤務時間外の整備作業が困難となり、当局としては何とかして業務の正常な運営を維持しようとして、いすず自動車、ニッサン自動車、ふそう自動車の各ディーラーに整備業務を依頼した。またこのことを参加人に申し入れたところX6書記長は「ディーラー整備員の入構は認めない。あえて入構を強行するなら実力を もって阻止せざるをえない。」と答え各営業所においてディーラーの派遣した整備員の入構について次のとおり妨害した。
イ 二島営業所関係 
  同日午後三時三〇分頃当局の要請に応じてふそう自動車のディーラー整備員二名が来たが、構門付近にてX3、X9両執行委員外組合員六~七名が整 備員の車の前面にピケを張り横に長椅子を二脚並べ整備員の入構を阻止した。
これに対しY2整備課長が両執行委員らに整備員の入構を妨害しないよう再 三にわたり申入れたが聞き入れず結局整備員を入構させることができなかった。 
また同日午後四時頃日産自動車のディーラー整備員が来たが構内付近でX7、X9両執行委員が直接整備員に「入構されては困る」などと云って入構を阻止した。
ロ 折尾営業所関係
  同日午後四時頃当局の要請に応じて、いすず自動車北九州支店のディーラー整備員三名が整備作業を行うべくやってきたが、X10 執行委員は「組合が 承認していないのにディーラー達を中に入れて作業させることはけしからん」「ディーラーの者をスト破りに入れることは不都合だ。絶対阻止する」などと抗議し、整備員が乗ってきた車が動くことができないように組合員と共に取巻き入構を阻止した。
ハ 小石営業所関係 
  同日午後四時三〇分頃、二島営業所で入構できなかったふそう自動車のカーディーラー整備員をつれて小石営業所に来たY3管理係長に対しX2執行委員外組合員一五~一六名が取巻き激しく抗議し、入構を阻止した。
  ? 六月二二日折尾営業所において二番勤務の運転手が出勤せず超過勤務拒否により代行者を充てることができなかったことからY4営業所長が欠行ダイヤを代替乗務し一回目のダイヤを運行した後、二回目のダイヤを運行するため乗務しようとしたところX10、X11 両執行委員が「管理職による運行は認めないことを組合の機関で決定している」と抗議し、Y5職員課長が再三にわたり運行 を阻止しないよう申し入れたがききいれず、やむなくY5職員課長はY4営業 所長に乗務を命じ運行しようとしたが、組合員一〇数名がバスの前面にピケットを張り運行を阻止した。
  このためY5職員課長は運行を強行すれば怪我人が出る虞れがあるので運行を断念した。この結果二番勤務のその後のダイヤは欠行した。
  ? なお参加人は許可なく局庁舎にポスター、プラカード類を掲示結着することは庁舎管理規程により禁止されていることを知りながら六月一一日頃から本庁舎の屋内外の窓、屋内の壁、廊下等および整備工場にある整備事務所の屋内外の窓や壁などに合理化反対に関するものあるいは職制を個人的に中傷もしくは攻撃するものなど多数のビラを貼付し当局の再三にわたる撤去要請、撤去命令 にもかかわらずこれを無視し続けた。
  このような事態に際して当局は撤去命令が実行されないので、ビラを貼付した参加人の手を措りずに庁舎管理規程第六条の規定によって当局の費用で外部から作業員を雇い入れ、撤去作業を始めたのである。これに対し参加人は激しく抗議し作業を妨害し撤去作業を中止させるに至ったのである。 
  すなわち六月二二日午後一時頃からY6庶務係長が作業員と共に本庁舎のビ ラの撤去作業を始めたが、多数の組合員がおしかけて「何故?ぐのか」等と云ってY6係長らに激しく抗議し、そのような状態に外部から雇い入れた作業員もおじけづいてしまい撤去作業を中止せざるを得なくなった。
  同日折尾駅前案内所に出向いていた撤去作業の責任者のY7庶務課長に対し、X10、X11 両執行委員外組合員一〇数名が「何故ビラ撤去を指示したのか、中止させよ」などと云ってビラ撤去作業の中止をせまり激しく抗議した。
  同日午後一時頃整備工場の整備事務所においてY2整備課長が作業員に指示をしてビラの撤去作業を始めたが、X6書記長、X9執行委員外組合員四名が来て作業員がビラを?いでいるのを中止させ、Y2整備課長に対し激しく抗議し、Y2整備課長は「組合が庁舎管理規程に違反して無断で貼ったものだから 撤去する。」と云ったがX9らは激昂し大声で抗議を繰り返し、Y2整備課長はやむなく撤去作業を断念した。
  また当局がビラ撤去を中止した後の午後四時頃X9執行委員ら組合員一四~一五名は整備課事務所に来て、Y2整備課長が強く制止したにもかかわらず、同事務所の窓硝子に五〇~六〇枚のビラを貼付した。
? 昭和四二年六月二七日から七月一日までの間の状況 
参加人は六月二七日から七月一日までの五日間第二波実力行使、超過勤務拒否、車両の完全点検斗争と称する争議行為を行った。
  超過勤務拒否斗争は前述のとおりである。完全点検斗争は次のような方法で行われた。   北九州市交通局においては出庫前三〇分間乗務員を始業点検に従事させることと定めており乗務員は局所定の始業点検表に従い車両を点検し、運行管理者に経果を報告し確認または指示を受けることが義務づけられている。
  ところが右期間において参加人は完全点検斗争と称して運転手が行う始業点検にことさら執行委員を加え運行にまったく支障のないささいな欠陷をとりあげ完全に修理整備しなければ運行させないとしつように抗議し出庫を遅らせたりあるいは出庫を不能にしたりしたものである。
イ 二島営業所関係   
七月一日午前五時三〇分頃からX5副執行委員長、X3、X7両執行委員の三名が順次出庫する車両について各運転手と共に始業点検を行い三~四台の車 両(ツーマン用)についてパイロットランプ(乗降扉のドアの開閉を示す)の点滅不良をみつけ、Y8営業所長に対し修理しなければ出庫させないと云ってきた。Y8営業所長は「パイロットランプの点滅不良は何ら運行には差し支えない」と出庫を命じた。しかし上記三名の組合員はあくまでこれを容れずその 結果バス運行に欠行をもたらした。
  ロ 小石営業所関係
  六月二七日午前五時すぎY8営業所長が点検斗争に備えて代車にするつもりで二島営業所から貸切用バスを運転して小石営業所に赴き車を構内に入れたところ、X8執行委員は車のキーを預っておく、代車には使わせない旨云って車 両のキーをはずして所持し続け、Y8営業所長がキーの返還を求めたが拒絶した。 
  七月一日午前五時二〇分頃から午前八時頃までにかけX2、X8両執行委員が順次出庫する車両について各運転手と共に始業点検を行い四~五台の車両についてバッテリー液が不足しているから液を補給しなければ運行できないとY 9営業所長に対し云って来た。Y9営業所長はバッテリー液は定期的に整備課の方で点検補充しており運行に支障のない旨云いわたしたが、X2、X8両名はバッテリー液の補充をしなければ運行させないなどと云って運行阻止した。
  ? 昭和四二年七月三日の状況
  参加人は財政再建計画案が市議会で議決される予定の七月三日に第三派の実力 行使、休暇斗争、超過勤務拒否斗争と称して多数の組合員が一斉に休暇をとりダイヤの大幅な欠行を生じる争議行動を行った。
  これに対し当局は業務阻害を目的とした休暇申請については承認しない方針を決定し、その申請を拒否したのであるが、参加人はその承認を強要し各営業所等 において次のような紛争を生じさせた。
イ 小石営業所関係
  七月二日午前九時半頃から営業所事務室において、X2、X8両執行委員外多数の組合員がY9営業所長およびY10 係長を取り囲み、七月三日の休暇承認を要求して激しく抗議を行った。午後一時頃まで「休暇を認めよ」「認められない」との応酬が続き、午後一時半ごろY7庶務課長が来所し同人とX2、X8ら組合員との間で同じようなやりとりが続いた。Y9営業所長らは「病気の 者は病気休暇として認めるので医師の診断書を提出するよう」指示したが、X2、X8らは「診断書料がいる」「日曜日で診断書がとりにくい」などと云ってY9営業所長らの指示を受け容れず、休暇申請をそのまま認めるよう要求した。
  午後三時に至りY9営業所長らは組合側の激しい抗議に抗しきれずやむなく 休暇を承認した。
  七月二日午後二時すぎ、小石営業所においてY9営業所長は七月三日の同営業所のワンマン五番勤務の乗務員が欠員となることを知り、七月三日が休日の予定となっていた北九州市交通局新労働組合所属のZ1運転手に休日振替による出勤を命じた。
  七月三日午前四時四〇分頃X2、X8両執行委員ら組合員多数がY9営業所長に対し「労働組合が超過勤務拒否斗争として三六協定の締結を拒否しているときであり、Z1運転手の振替勤務を取り消すよう」要求して激しく抗議した。Y9営業所長らは「Z1運転手の振替勤務は休日の振替えによるもので休日出勤でない。三六協定の有無にはかかわりない」旨反論したが組合側の激しい抗議に抗しきれずやむなくZ1運転手の振替勤務を取消した。
ロ 二島営業所関係
  七月二日午前一〇時頃X3執行委員外組合員二〇名が本庁舎二階事務室においてY5職員課長、Y11 自動車課長およびY8営業所長に対し、七月三日の休暇を承認せよと激しくせまり、Y5職員課長が「七月三日は労働組合が休暇斗争を予定しており、業務に支障をきたすので、当日の休暇は承認できない」と 承認を拒否したのに対し激しく抗議を繰り返し、休暇承認を強要し、Y5職員課長らはつるしあげの中で抗しきれずやむなく当日の休暇を承認した。
  七月三日午前五時頃点呼場において、X3執行委員外数名の組合員が当日の年次有給休暇の承認を激しく要求し、Y8営業所長が「当日は労働組合の休暇斗争が予定されており、また超過勤務拒否が行われているので、交替勤務者がいないので期日を変更するよう」と繰り返し述べ当日の休暇承認を拒否した。
  これに対しX3ら組合員は「病気の者はどうするか」と詰問し、Y11自動車課長が「病気の者は乗務させるわけにいかない」と答えると、すかさずX3は休暇申請の理由を病気のためと書き替えるよう組合員に指示し病気を理由にした 申請書を一括してY8営業所長に提出した。Y8営業所長は病気の者は医師の 診断書を添えて病気休暇の申請をするように云ったが、組合員らは「早朝で医師は起床していない」「初診料等がいる」等といって激しく抗議を続けこのため午前七時頃Y8営業所長らは長時間の組合側の激しい抗議に抗しきれずやむなく当日の休暇を承認した。
  ハ 折尾営業所関係   
七月三日午前四時二〇分頃からX1執行委員長、X6書記長、X10、X11 両執行委員外組合員多数がY4営業所長、Y5職員課長に対し、当日の休暇承認を激しく要求し、Y4営業所長が「当日の年次有給休暇は認められない」「病気の者は医師の診断書を付して病気休暇の手続をとるよう」申し渡した。これに対し組合側は「従来から病気理由の年次有給休暇を認めているではないか」「他の営業所では診断書がなくても年次有給休暇を認めているではないか」などと激しく抗議し、午前七時すぎ、Y4営業所長らは長時間の激しい抗議に抗しきれずやむなく休暇を承認した。
  ニ 整備課関係
   七月三日午前四時三〇分頃から午前八時二〇分頃まで整備課事務所において X3、X9両執行委員、X12中央委員外組合員多数がY2整備課長に対し、当日の休暇不承認について激しく抗議し、その際X12中央委員は激昂し、Y2整備課長の机の上にあった木製の補職名札を手にして机の上を激しくたたき机上のガラスを破損した。

(1)一審福岡地判昭52・11・18判時874号
組合側は、地労委に救済を申立、福岡地労委は昭和47年 4月26日処分の取消しを命令したので、使用者側が不服として救済命令取消訴訟を提起したが一審請求を棄却。

 (抜粋)
6 地公労法第一一条一項は‥‥およそ一切の争議行為を禁ずるかにみえる文言である。従って若し本条項を争議の全面一律禁止の規定としてのみ解釈運用しなければならないとすれば、本条項による労働基本権の制約は‥‥著しく合理性を欠き、違憲であるか、もしくはその疑いが極めて強いということになる。何故ならば、公務員の特殊性に応じて争議権を制約するにせよ、その態様には多くの方法が考えられるのに(労働関係調整法第三五条の二、第三六条ないし第三八条、電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律第三条、船員法第三〇条等参照)、争議主体、争議態様その他前述の条件を顧慮することなく全面一律に争議を禁止することは、憲法第二八条による労働基本権保障の趣旨に甚だしく背馳するからである。
7 このように考えると、地公労法第一一条一項は、地方公営企業の業務もしくは職員の職務の公共性の強弱、争議行為の種類、態様、規模等を考慮し、労働基本権の尊重保障によって実現される法益と争議行為を禁止することによって保護される法益を衡量し、なお住民生活全体の利益を害し、住民生活への重大な障害をもたらし、もしくはそのおそれがあるものとして合理的判断により禁止したものと解釈するのが相当である。
(略)
六 不当労働行為の成立について
1 本件争議行為の検討
本件昭和四二年六月二一日から二三日まで、同月二七日から七月一日まで及び同月三日の参加人及びその組合員(‥‥)の行動が、超勤拒否、安全点検、あるいは年休要求と、いろいろ名目は違っても要するに自らの事業所における業務阻害を目的とした争議行為ないしはそれに付随した争議手段であったことは、前記認定の事実にてらして明らかであり、その意味で年休申請も労働者の私的生活上の必要に基くものではなく、その実質はストライキであった。
 そこで、右期間に発生した個別の紛争の評価は別として、以上の争議行為が地公労法第一一条一項で禁止された争議行為に該当するかどうかを判断する。
 ‥‥本件交通事業の規模、市民利用度、独占の度合い(‥‥)、争議の規模、態様(‥‥)、争議の結果(‥‥)、本件争議に参加した参加人所属の組合員らの職種(乗務員、整備員主体)等を検討するに、その期間において延べ九日に及び、争議の性質上ダイヤの運休が不規則に生じたため、乗客の混乱もある程度発生した事実はあるが、本件交通事業の内容は民間企業のそれと異るところはなく、その独占状態等を考慮しても公共性の度合いは特段に強いとはいえず、本件程度の争議を禁止してまで守らなければならなかったほど地方住民の共同利益に対する侵害が重大であり、住民生活への重大な障害があった(‥‥)とは考え難い。
 従って、本件争議行為が地公労法第一一条一項によって禁止された争議行為にあたるとは認められず、全体としてみるときは正当な労働組合の活動であったと判断するのが相当である。
2 本件争議期間中に発生した個別の紛争について
 ‥‥
(イ) 六月二二日折尾営業所におけるY4営業所長の代替乗務阻止(訴外X10、同X11、同X6関与)、
(ロ) 六月二七日小石営業所におけるY8営業所長に対する代車準備阻止(訴外X8関与)、
(ハ) 七月三日小石営業所におけるZ1運転手振替勤務阻止(訴外X2、同X8関与)、
(ニ) 七月三日整備課事務所における訴外X12のガラス破損行為
は正当な組合活動とは認め難く違法評価をうけざるを得ないが、これと不当労働行為との関係は後述する。
 その余の争議手段ないし紛争について。
ディーラー整備員の入構就労拒否については違法とするほどのものがなかったことは前記の通りである。
 ビラ貼りに関しては、その手段方法に若干穏当を欠くものがあったことは否定できないが、前記の如く全体としての争議そのものが違法とは認められない以上、直ちに争議時の文書活動として正当性を否定することは相当でない。なお、本件認定の程度のビラ貼りで、建物の効用を減損せしめたとも認められない。
 点検闘争についてもこれが通常の業務のうちで行われたものであるなら格別、原告が地公労法第一一条一項の争議禁止を文言通りに全面一律禁止と解して組合による一切の争議行為を認めない立場で臨んでいたわけであるから、参加人はこれに対していわゆる順法闘争のかたちで争議を行ったものと推認される(‥‥)。従って、就業命令に対する抗議活動のかたちで業務阻害が行われたことは自然のなりゆきであり、その中に暴行脅迫にわたる行為がない限り(‥‥)特に違法と目すべきものはない。
年休闘争についても点検闘争と同旨の理由により、特に違法と目すべきものはない。
 (略)
3 原告は、前記の如く訴外X1ほか一二名に対する懲戒処分を行ったが、その主たる理由は同人らが夫々組合役職にある者として企画・指導して行った本件の争議が全体として地公労法第一一条一項(及びこれをうけた北九州市交通局就業規程第九〇条一一号)に違反ないし該当する点にあったことは疑いがない。
 本件争議中には、前記の如く違法評価を免れない若干の個別行為は認められるが、その不当性は、原告が争議そのものの違法を主張して為した争議対策に対する行為として考えれば、おおむね軽微であり、本件懲戒処分を為した真の理由は原告の主張は別として、かかる不当性の軽微な当該個別行為にあるとは認められないからである。
 してみると、本件懲戒処分は、右訴外人らが夫々組合の役職にある者として昭和四二年六月二一日から同年七月一日までの間にいわゆる三波にわたる争議を企画、指導関与して実施した点に決定的な動機があったというべきである。そうすると、その争議が全体としてみる限り、地公労法第一一条一項の禁止する争議行為に該当せず、従って参加人組合の正当な行為と評価される以上、本件懲戒処分は、労働者が労働組合の正当な行為をしたことの故をもって為された不利益取扱いであると認めるのが相当である。
七 本件救済命令の正当性
 そうだとすると、被告が本件懲戒処分が労働組合法第七条一号の不当労働行為を構成すると判定して発した本件命令は結果において相当であり、これを取消すべき瑕疵は認められない。

(3)二審福岡高判昭55・12・22労民31巻 5号1033頁


 原判決を取消し、福岡地労委の救済命令を取り消す。
(1) 判示事項概略
○地方公営企業労働関係法11条1項は、憲法28条に違反しない
○労働組合が超過勤務の正当性を是認しながら超過勤務に関する労働条件自体ではなく、労使間の他の紛争について自己の要求を貫徹する手段として三六協定の締結ないし更新を拒否することは、同盟罷業に該当する。
○労働組合の参加しているダイヤ編成審議会の審議を経て定められたダイヤ編成において、超勤が恒常化され、それを拒否すれば平常のダイヤ運行に支障を来す状況の下で労働組合が三六協定の締結ないし更新拒否により超勤拒否闘争を行ったことが地方公営企業労働関係法11条1項に禁止する争議行為に当る。
○地方公営企業におけるピケは、争議行為の適法性を前提とし、争議権保障の範囲内で許されるものであって、地公労法により争議行為が禁止されている以上、本件ピケは正当な組合活動ということはできない。
○地方公営企業における安全点検闘争は、単に交通安全配慮の仕業点検ではなく、組合の要求貫徹の手段としてなすものであるから、業務の正常な運営を阻害する行為に該当する。
○ 地方公営企業における年次有給休暇闘争は、組合の指令に基づき組合員全員が一斉に職場を離脱し、業務の正常な運営の阻害を狙った同盟罷業ということができ、争議行為に該当する。
○地方公営企業における超勤拒否闘争、ピケ、安全点検闘争、年次有給休暇闘争は、地公労法及び市就業規則に違反するものであるから、同闘争を企画、指導、実行させた組合幹部に対する停職等の処分は不当労働行為に該当しない。
○地方公営企業労働関係法4条は争議行為以外の職員の組合活動につき労働組合法7条1号本文を適用しているにとどまり、地方公営企業労働関係法11条1項に禁止する争議行為には、労働組合法の該規定を適用する余地はない。

 良性の判決といえる。丁寧にも交通局長が懲戒処分の根拠に挙げてない地公法32条違反でもあるということを説明している。

(判決抜粋)
二 本件懲戒処分の発令について
 地公労法第一一条一項は、「職員及び組合は、地方公営企業に対して同盟罷業、怠業その他の業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。また、職員並びに組合の組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし、又はあおってはならない」旨規定し、同法第一二条は、前条の規定に違反する行為をした者を解雇することができる旨規定する。そしてまた、地方公務員法第三二条は、職員に対し法令等や上司の職務上の命令に従う義務を課しており、同法第二九条一項は、同法に違反した職員につき免職その他の懲戒処分をすることができる旨規定しているところ‥‥参加人が第一波ないし第三波の実力行使としてした超勤拒否闘争、完全点検闘争、一斉休暇闘争につき、訴外Bが参加人の執行委員長としてこれを計画指導し、同F及び同Eが副執行委員長、同Gは書記長、訴外Mを除くその余の訴外人ら八名はいずれも執行委員として、いずれも前記闘争行為の計画に関与した行為、更に、訴外Bの七月三日の折尾営業所における前記認定の行為(休暇闘争の煽動)、同Eの前記認定の同日の若松渡し場案内所における管理職によるバス運行を阻止した行為、同Fの同月一日の二島営業所における完全点検闘争を実行した行為、同Gの七月三日折尾営業所における休暇闘争煽動の各行為、同Cの前記認定の六月二一日小石営業所におけるデイーラー整備員の入構阻止、同月二七日及び七月一日同営業所における完全点検闘争の実行、同月二日同営業所における行為(休暇闘争の煽動)、同月三日同営業所におけるR運転手の振替勤務阻止の各行為、同Dの前記認定の六月二一日二島営業所におけるデイーラー整備員の入構阻止、七月一日同営業所における完全点検闘争の実行、同月二日及び同月三日本庁舎、同営業所及び整理事業所における休暇闘争煽動の各行為、同Iの前記認定の六月二七日小石営業所における代替車のキーを取上げてその運行阻止、七月一日同営業所における完全点検闘争の実行、同月二日同営業所における行為(休暇闘争の煽動)、同月三日同営業所におけるR運転手の振替勤務阻止の各行為、同Hの前記認定の七月一日同営業所における完全点検闘争の実行行為、同Jの前記認定の六月二一日二島営業所におけるディーラー整備員の入構阻止、同月二二日整備事務所におけるビラ撤去作業の妨害及びビラ貼付、七月三日整備事務所における休暇闘争煽動の各行為、同Lの前記認定の六月二二日折尾駅前案内所におけるS庶務課長に対するビラ撤去作業中止要求による同作業の妨害、同日折尾営業所における管理職によるバス運行の阻止、七月三日同営業所における休暇闘争煽動の各行為、同Kの前記認定の六月二一日折尾営業所におけるディーラー整備員の入構阻止、同月二二日同営業所における管理職によるバス運行の阻止、同日折尾駅前案内所におけるS庶務課長に対するビラ撤去作業中止要求による同作業の妨害の各行為、同Mの前記認定の七月二日二島営業所における休暇闘争の煽動、七月三日整備事務所における休暇闘争の煽動及びT整備課長の机のガラスを木製の名札で叩いて割った行為は、いずれも地公労法第一一条一項、北九州市交通局就業規程第九〇条一一号の規定等に違反するものであるとして、地方公務員法第二九条一項一号及び三号に基づき、同四二年八月二日、右訴外人らを本件懲戒処分に付したものであることが認められる。
三 本件各闘争と地公労法第一一条一項該当性等について
1 先ず、参加人は、超勤拒否(三六協定締結ないし更新拒否)は、三六協定のない状態における超勤拒否であるから、違法視される理由はない旨主張する。
 そこで、参加人の本件超勤拒否すなわち三六協定の締結ないし更新拒否が地公労法第一一条一項の争議行為になるか否かにつき考える。超過勤務に関する三六協定を締結するか否かは、原則として、労働組合ないし労働者の自由に属するところであるから、労働組合が超過勤務自体の労働条件に関する労使間の意見不一致のため、同協定の締結ないしは更新を拒否したとしても、これをもつて直ちに違法とすることはできないことはいうまでもないところである。しかし、労働組合が、当該事業の運営が超過勤務に依存すること、すなわち、超過勤務の正当性を是認しながら、超過勤務に関する労働条件そのものではなく、労使間の他の紛争についての自己の要求を貫徹する手段として三六協定の締結ないし更新を拒否し、超勤を拒否することは、争議行為(同盟罷業)に該当するものと解するのが相当であるところ、参加人が本件三六協定の締結ないし更新を拒否し、組合員の超勤を拒否させるに至った経緯並びにその態様はさきに認定したとおりであって、同事実からすると、控訴人の交通事業におけるバスの平常の運行ダイヤは、参加人も加わったダイヤ編成審議会の審議を経て定められたものであり、一日九勤務が超勤ダイヤとして編成されていて超勤が恒常化され、超勤の拒否があれば平常のダイヤ運行に支障を来たす状況にあつたところ、参加人の前記三六協定の締結ないし更新拒否による超勤拒否闘争は、超勤の恒常化(正当性)を認めながら、控訴人の財政再建計画に関する参加人の要求を貫徹するための手段としていたものであり、かつ、控訴人の交通業務の正常な運営を阻害するためにしたものであつて、地公労法一一条一項の禁止する争議行為に該当するものといわざるをえない。
 よつて、参加人の右主張は理由がない。
2 次に、参加人は、ディーラー整備員の入構阻止及び管理職による自動車の運行阻止は、いずれもスト破りに対するピケッティングであつて、正当な組合活動である旨主張する。
 しかし、ピケッティングは、争議行為の実効性を確保するための手段として意義を有するものであつて、当該争議行為の適法性を前提とし、争議権保障の範囲内においてのみ許されるものであるところ、参加人に対しては後記のように地公労法第一一条一項により争議行為が禁止されているのである以上、ピケッティングによる前記阻止行為はいずれも違法であって、正当な組合活動ということはできない。よって、参加人の右主張は理由がない。
3 更に、参加人は、完全点検闘争は、北九州市交通局自動車乗務員服務心得第四一条による仕業点検として義務付けられた通り行つたに過ぎない旨主張する。
 しかし、すでに認定したように、本件完全点検闘争は、単に交通安全の配慮から入念に仕業点検したということではなく、実質的には、参加人の要求を貫徹する手段として業務阻害を行おうとするものであつて、いずれも自動車の運行に差支えない整備状況であったのに、上司の出庫命令に従わず、自動車の運行を阻止したことは、いずれも地公労法第一一条一項の業務の正常な運営を阻害する行為に該当するものというべきである。よつて、参加人の右主張も理由がない。
4 また、参加人は、年次休暇闘争は、法律によって与えられた権利を行使したものであつて、争議行為ということはできない旨主張する。
 年次休暇の権利は、労働基準法第三九条一、二項の要件を充足することによって、法律上当然に労働者に生ずる権利であって、年次休暇の利用目的は、労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、労働者の自由であり、本来使用者の干渉を許さないものである。しかし、いわゆる一斉休暇闘争は、労働者がその所属事業所において、その業務の正常な運営の阻害を目的として、組合等の指令により全員一斉に休暇届を提出して職場を放棄・離脱するものであつて、その実質は年次休暇に名をかりた同盟罷業にほかならない。したがつて、その形式いかんにかかわらず、本来の年次休暇権行使ではないのであるから、これに対する使用者の時季変更権の行使もありえないものである(最高裁判所昭和四八年三月二日第二小法廷判決・民集二七巻二号二一〇頁参照)。ところで、本件における休暇闘争は、さきに認定したように、参加人の指令に基づき、組合員である職員が全員一斉に休暇届を出すことによって職場を離脱し、控訴人の業務の正常な運営の阻害を狙ったものであつて、一種の同盟罷業ということができ、地公労法第一一条一項により禁止された争議行為に該当するものというべきである。よつて、参加人の右主張は理由がない。
5 ところで、参加人は、地公労法第一一条一項の規定は、地方公営企業職員の争議行為を全面的一律に禁止したもので、勤労者の団体行動権を保障した憲法第二八条に違反し無効である旨主張する。
(一)地公労法第一一条一項の規定は、その文理上、地方公営企業の職員及び組合に対し、同盟罷業その他一切の争議行為を禁止しているものということができる。
(二)ところで、地方公営企業に勤務する職員も、憲法第二八条の勤務者として、同条の保障を受けるものというべきである。
 しかし、地方公営企業の職員は地方公務員であるから、身分及び職務の性質・内容において非現業の地方公務員と多少異なるところはあっても、等しく公共的職務に従事する職員として、実質的に地方の住民全体に労務を提供する義務を負う点においては、両者の間に基本的な相違はなく、地方公営企業の職員が争議行為に及ぶことは右のような地位の特殊性と職務の公共性と相容れず、また、それによる業務の停廃が地方住民ないし国民全体の共同利益を害し、それら住民等の生活に重大な障害をもたらすおそれがあることは、非現業の地方公務員、国家公務員ないしは公労法の適用を受ける五現業、三公社等公共企業体の職員の場合と選ぶところはない。
 そして、地方公営企業の職員は、非現業の他の地方公務員と同様、財政民主主義に表われている議会制民主主義の原則により、その給与その他の勤務条件が法律ないし地方議会の定める条例・予算の形で決定さるべき特殊な地位にあり、団体交渉権・労働協約締結権を保障する地公労法も条例・予算その他地方議会からの制約を認めている(地方公営企業法第四条、第二四条二項、第三八条四項、地公労法第八ないし第一〇条)。また、地方公営企業の事業は、利潤の追求を本来の目的としておらず、その労使関係には、私企業におけるような市場の抑制力が働かないため、ここでは争議権は、適正な勤務条件を決定する機能を果すことはできず、かえつて議会における民主的な手続によってなさるべき職員の勤務条件等の決定に対し不当な圧力となり、これをゆがめるおそれがある。したがつて、これら職員の地位の特殊性や職務の公共性からして、地方住民全体ないし国民全体の共同利益のため、法律がその争議権に制約を加えてもやむを得ないものといわなければならない。
 そしてまた、地方公営企業の職員についても、憲法によってその労働基本権が保障されている以上、この保障と住民ないし国民全体の共同利益の擁護との間に均衡が保たれるようすることは、憲法の趣意と解されるから、その労働基本権の一部である争議権を禁止するにあたつては、相応の代償措置が講じられなければならないところ、現行法制をみるに、同職員は、地方公務員として法律上その身分の保障を受け、給与については生計費、同一又は類似の職種の国及び地方公共団体の職員並びに民間事業の従業者の給与その他の事情を考慮して条例で定めなければならない(地方公労企業法第三八条三、四項)とされている。そして、特に地公労法は、当局と職員との間の紛争につき、労働委員会におけるあっせん、調停、仲裁の制度を設け、その第一六条一項本文において、「労働委員会の仲裁裁定に対しては、当事者は、双方とも最終的決定としてこれに服従しなければならず、また、地方公共団体の長は、当該仲裁裁定が実施されるように、できるだけ努力しなければならない。」と定め、さらにまた、同項但し書は、当該地方公営企業の予算上又は資金上、不可能な資金の支出を内容とする仲裁裁定については、第一〇条を準用して、それを地方公共団体の議会に付議して、同議会の最終的決定に委ねることにしているのである。これらは、職員ないし組合に労働協約締結権を含む団体交渉権を付与しながら、争議権を否定する場合の代償措置として、よく整備されたものということができ、右職員の生存権擁護のための配慮に欠けるところはないものというべきである。
 以上により、地公労法第一一条一項による争議行為の禁止は憲法第二八条に違反するものではないと解する(最高裁判所昭和四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁、同昭和五一年五月二一日大法廷判決・刑集三〇巻五号一一七八頁、同昭和五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁参照)。
 よつて、参加人の前記主張は理由がない。
四 結論
 以上のとおり、地公労法第一一条一項は、地方公営企業の職員及び組合の一切の争議行為を禁止し、また、職員並びに組合の組合員及び役員は右禁止された行為を共謀し、そそのかし、又はあおってはならない旨規定しているのであるから、右職員及び組合役員が右法令の禁止に違反して争議行為を行い、あるいは右争議行為を共謀し、そそのかし、又はあおった場合には、法令遵守義務を定めた地方公務員法第三二条に違反したものとして、同法第二九条一項一号及び三号に該当し、懲戒処分の対象とされることを免れないと解すべきである。そして、この場合に、地公労法第四条が労働組合法第七条一号本文の適用を除外していないことを根拠として、地公労法第一一条一項違反の争議行為のうちにもなお、労働組合法第七条一号本文の「正当な行為」にあたるものと然らざるものがあるとし、右「正当な行為」に当る争議行為については、地方公務員法第二九条一項一号による懲戒処分をすることができないというような解釈は、これを採用することができない。けだし、地公労法第四条によれば、地方公営企業の職員に関する労働関係については、地公労法の定めるところにより、同法に定めのないものについてのみ労働組合法の定めるところによるべきものであるとされているところ、右職員の争議行為については、地公労法第一一条一項において一切の争議行為を禁止する旨定めているので、その争議行為につき更に労働組合法第七条一号本文を適用すべき余地はないからである。地公労法第四条が労働組合法の右規定の適用を除外していないのは、争議行為以外の職員の組合活動については地公労法に定めがないので、これに労働組合法の同規定を適用して、その正当なものに対する不利益な取扱いを禁止するためであって、地公労法違反の争議行為についてまで「正当な行為」なるものを認める意味をもつものではない。また、労働者の争議行為は集団的行動であるが、その集団性の故に参加人個人の行為としての面が失われるものでないから、違法争議行為に参加した個人の責を免れ得ないことはいうまでもないところである(最高裁判所昭和五三年七月一八日第三小法廷判決・民集三二巻五号一〇三〇頁参照)。
 これを本件についてみるに、さきに認定したところからすると、参加人がした前記認定の第一波ないし第三波の超勤拒否闘争、完全点検闘争、一斉休暇闘争は、いずれも地公労法第一一条一項の争議行為に該当するものというべく、訴外Bはその執行委員長としてこれを計画指導し、同F及び同Eはその副委員長、同Gはその書記長、訴外Mを除くその余の訴外人八名はいずれもその執行委員として、戦術会議において前記争議行為を計画し、組合員をして同争議行為を行わせたものであること、更にまた、訴外Bが七月三日折尾営業所で、多数の組合員と共に、U営業所長らに対し組合員の休暇承認を激しく要求したこと(休暇闘争のあおり行為といえる。)、同Eが同日、若松渡し場で管理職によるバスの運行を阻止したこと、同Fが同月一日、二島営業所で点検闘争を実行し、V営業所長の出庫命令を拒否してバスを欠行させたこと、同Gが、六月二二日、整備事務所で当局のビラ撤去作業を妨害し、七月三日、折尾営業所で前記Bらと共にBと同様の休暇闘争のあおり行為をしたこと、同Cが、六月二一日、小石営業所でディーラー整備員の入構を阻止し、七月一日、同営業所で完全点検闘争を実行し、P営業所長の命令を拒否してバスの運行を阻止し、同月二日、同営業所で多数の組合員と共にP営業所長らを取囲み、長時間にわたり、組合員の休暇承認を激しく要求し(休暇闘争のあおり行為といえる。)、同月三日、同営業所でR運転手の振替勤務を阻止したこと、同Dが、六月二一日、二島営業所でピケを張り、ディーラー整備員の入構を阻止し、七月一日、同営業所で完全点検闘争を実行し、V営業所長の出庫命令を拒否してバスを欠行させ、同月二日及び三日、本庁舎・同営業所及び整備事務所でO職員課長、V営業所長、T整備課長らに対し、多数の組合員と共に組合員の七月三日の休暇承認を激しく要求(休暇闘争のあおり行為といえる。)したこと、同Iが、六月二七日、小石営業所でV営業所長が点検闘争に備え、代車にするつもりで二島営業所から運転してきた貸切用バスのキーを取上げ、七月一日、同営業所で完全点検闘争を実行し、P営業所長の命令を拒否してバスの運行を阻止し、同月二日、同営業所で前記Cらと共に同人と同様の休暇闘争のあおり行為をし、同月三日同営業所でR運転手の振替勤務を阻止したこと、同Hが、六月二一日、二島営業所でデイーラー整備員の入構を阻止し、七月一日同営業所で完全点検闘争を実行し、V営業所長の出庫命令を拒否してバスを欠行させたこと、同Jが、六月二一日、二島営業所でピケを張り、デイーラー整備員の入構を阻止し、同月二二日整備事務所で当局のビラ撤去作業を妨害し、更に、同日、当局の制止をきかず同事務所の窓ガラスにビラ五、六〇枚を貼付し、七月三日、同事務所で前記Dらと共にD同様休暇闘争のあおり行為をしたこと、同Lが、六月二二日、折尾駅前案内所で多数の組合員と共に、S庶務課長に対しビラ撤去作業の中止を激しく要求してビラ撤去作業を妨害し、同日、折尾営業所でピケを張り、U営業所長の欠行ダイヤの代替運行を阻止し、七月三日、同営業所で前記B、Gらと共に同人らと同様休暇闘争のあおり行為をしたこと、同Kが、六月二一日、同営業所でディーラー整備員の入構を阻止し、同月二二日、同営業所でピケを張り、U営業所長の欠行ダイヤの代替運行を阻止し、同日、折尾駅前案内所で多数の組合員と共にS庶務課長に対しビラ撤去作業の中止を激しく要求して、ビラ撤去作業を妨害したこと、同Mが、七月三日、整備事務所で前記D、Jらと共に、同人ら同様休暇闘争のあおり行為をし、その際、T整備課長の机のガラスを木製の名札で叩いて割ったこと等、以上の訴外人らの各行為は、地公労法第一一条一項及び北九州市就業規則第九〇条一一号に違反し、また、地方公務員法第三二条にも違反するものであつて、同法第二九条一項一号及び三号の懲戒事由に該当するものといわなければならない。
 よつて、控訴人が右条項を適用して、右訴外人らを懲戒に付した本件懲戒処分は相当であって、訴外人に対する本件各懲戒処分が労働組合法第七条一号本文の不当労働行為に該当するいわれはないものといわなければならない。

(4)上告審
 棄却
「‥‥地公労法は、現業地方公務員たる地方公営企業職員の労働関係について定めたものであるが、同法一一条一項は、「職員及び組合は、地方公営企業に対して同盟罷業、怠業その他の業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。また、職員並びに組合の組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし、又はあおってはならない。」と規定し、これを受けて同法一二条は、地方公共団体は右規定に違反する行為をした職員を解雇することができる旨規定し、また、同法四条は、争議行為による損害賠償責任の免責について定めた労働組合法八条の規定の適用を除外している。しかし、地公労法一一条一項に違反して争議行為をした者に対する特別の罰則は設けられていない。同法におけるこのような争議行為禁止に関する規定の内容は、現業国家公務員たる国の経営する企業に勤務する職員(以下「国営企業職員」という。)及び公共企業体職員の労働関係について定めた公共企業体等労働関係法(昭和六一年法律第九三号による改正前のもの。以下「公労法」という。)におけるそれと同一である。
 ところで、国営企業職員及び公共企業体職員につき争議行為を禁止した公労法一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは、当裁判所の判例とするところであるが(昭和四四年(あ)第二五七一号同五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁、名古屋中郵事件判決)、この名古屋中郵事件判決が右合憲の根拠として、国営企業職員の場合について挙げている事由は、(1) 公務員である右職員の勤務条件は、国民全体の意思を代表する国会において、政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮を経たうえで、法律、予算の形で決定すべきものとされていて、労使間の自由な団体交渉に基づく合意によって決定すべきものとはされていないこと、(2) 国営企業の事業は、利潤の追求を本来の目的とするものではなくて国の公共的な政策を遂行するものであり、かつ、その労使関係には市場の抑制力が欠如しているため、争議権は適正な勤務条件を決定する機能を十分に果たすことができないこと、(3) 国営企業職員は実質的に国民全体に対してその労務提供の義務を負うものであり、その争議行為による業務の停廃は国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれがあること、(4) 争議行為を禁止したことの代償措置として、法律による身分保障、公共企業体等労働委員会による仲裁の制度など相応の措置が設けられていること、の四点に要約することができる。
 そこで、名古屋中郵事件判決が右合憲の根拠として挙げた各事由が地方公営企業職員の場合にも妥当するか否かを検討する。
 地方公営企業職員も一般職の地方公務員に属する者であるが、一般職の地方公務員の勤務条件は、国家公務員の場合と同様、政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により、国民全体の意思を代表する国会が定める法律及び住民の意思を代表する地方議会が定める条例、予算の形で決定されるべきものとされているのであつて、そこには、私企業におけるような団体交渉による決定という方式は当然には妥当しないというべきである(最高裁‥‥五一年五月二一日大法廷判決・刑集三〇巻五号一一七八頁(岩手県教組事件判決)参照)。そして、このような一般職の地方公務員の勤務条件決定の法理について、地方公営企業職員の場合にのみ別異に解すべき理由はない。現行法規上、地方公営企業職員の勤務条件の決定に関しては、当局と職員との団体交渉を経てその具体的内容の一部が定められることが予定されており(地公労法七条)、しかも、条例あるいは規則その他の規程に抵触する内容の労働協約等の協定にもある程度の法的な効力ないし意義をもたせている(同法八条、九条)などの点において、団体交渉が機能する余地を比較的広く認めているが、これは、憲法二八条の趣旨をできるだけ尊重し、また、地方公営企業の経営に企業的経営原理を取り入れようとする立法政策から出たものであつて、もとより法律及び条例、予算による制約を免れるものではなく、右に述べた一般職の地方公務員全般について妥当する勤務条件決定の法理自体を変容させるものではない。
 次に、地方公営企業の事業についても、その本来の目的は、利潤の追及ではなく公共の福祉の増進にあり(地方公営企業法(以下「地公企法」という。)三条)、かつ、その労使関係には市場の抑制力が働かないため、争議権が適正な勤務条件を決定する機能を十分に果たすことができないことは、国営企業の事業の場合と同様である。
 また、地方公営企業職員が実質的に住民全体に対しその労務提供の義務を負っており、右職員が争議行為に及んだ場合の業務の停廃が住民全体ひいては国民全体の共同利益に少なからぬ影響を及ぼすか、又はそのおそれがあることも、国営企業職員の場合と基本的には同様である。もつとも、地公労法の適用される地方公営企業は、法律上具体的に列挙されているものに限定されず(地公労法三条一項)、その種類、内容、規模等には、種々のものが含まれうるが、その事業は、あくまでもその本来の目的である公共の福祉を増進するものとして、公益的見地から住民ないし国民の生活にとつて必要性の高い業務を遂行するものであるから、その業務が停廃した場合の住民ないし国民の生活への影響には軽視し難いものがあるといわなければならない。
 更に、争議行為を禁止したことの代償措置についてみるに、地方公営企業職員は、一般職の地方公務員として、法律によって身分の保障を受け、その給与については、生計費、同一又は類似の職種の国及び地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定めなければならないとされている(地公企法三八条三項)。そして、職員と当局との間の紛争については、国営企業職員及び公共企業体職員についての公共企業体等労働委員会(現国営企業労働委員会)のような特別の紛争処理機関は設置されていないものの、労働委員会によるあっ旋、調停、仲裁の途を開いたうえ、一般の私企業の場合にはない強制調停(地公労法一四条三号ないし五号)、強制仲裁(同法一五条三号ないし五号)の制度を設けており、仲裁裁定については、当事者に服従義務を、地方公共団体の長に実施努力義務を負わせ(同法一六条一項本文)、予算上資金上不可能な支出を内容とする仲裁裁定及び条例に抵触する内容の仲裁裁定は、その最終的な取扱いにつき議会の意思を問うこととし(同法一六条一項ただし書、一〇条、一六条二項、八条)、規則その他の規程に抵触する内容の仲裁裁定がなされた場合は、規則その他の規程の必要な改廃のための措置をとることとしているのである(同法一六条二項、九条)。これらは、地方公営企業職員につき争議行為を禁止したことの代償措置として不十分なものとはいえない。
 以上によれば、名古屋中郵事件判決が公労法一七条一項の規定が憲法二八条に違反しないことの根拠として国営企業職員の場合について挙げた各事由は、地方公営企業職員の場合にも基本的にはすべて妥当するというべきであるから、地公労法一一条一項の規定は、右判決の趣旨に徴して憲法二八条に違反しないことに帰着する。論旨は、ひっきよう、名古屋中郵事件判決の立場とは異なる独自の見解を前提として原判決を論難するものであつて、採用することができない。
 論旨は、上告参加人の労働基準法三六条所定の協定(以下「三六協定」という。)締結、更新の拒否による本件超勤拒否闘争が地公労法一一条一項の禁止する争議行為に当たるとした原判決は、法令の解釈適用を誤り、かつ、判例違反を犯すものである、というのである。
 原審の適法に確定した事実関係は、(1)上告参加人は、被上告人の提示する本件財政再建計画の実施を阻止するため、昭和四二年六月一〇日ころ、組合員の投票によってストライキを行うことを決定し、これを受けて、上告参加人の戦術委員会は、同月二一日から二三日まで超勤拒否闘争を、同月二七日から同年七月一日まで超勤拒否闘争及び安全点検闘争を、同年七月三日に超勤拒否闘争及び一斉休暇闘争を行うことを決定した、(2)被上告人経営のバスの運行ダイヤは、労使の委員によって構成されるダイヤ編成審議会の議を経て定められていたが、当時の公示ダイヤは、上告参加人の同意のもとに一日九勤務が時間外勤務ダイヤとして編成されており、被上告人の交通局においては、このダイヤを実施するために超過勤務が恒常化していて、超過勤務拒否があれば、平常のダイヤ運行に支障を来す状況にあつた、(3) 右運行ダイヤを実施するため、被上告人と上告参加人との間において従来から三六協定が締結、更新されてきたが、上告参加人は、本件財政再建計画についての労使の交渉が難航することが予想されるようになった同年四月ころから、同協定を一日ないし数日の期間を定めて締結、更新しつつ事態の推移をみていたところ、同年六月一五日本件財政再建計画案が市議会に上程されるや、前記戦術委員会の決定どおり超勤拒否闘争を行うこととし、バスの正常な運行のための同協定の締結、更新方の当局の要望を拒否して、右決定に係る期間各部門において組合員に時間外勤務を拒否させた、というのである。
 これによれば、被上告人の交通局においては、従来から上告参加人同意のもとに三六協定の締結、更新を前提とした超過勤務が平常勤務として組み入れられてきたところ、上告参加人は、当該超過勤務自体に関する勤務条件については格別の要求を有していた事情は認められないのに、本件財政再建計画の実施阻止という要求を貫徹するための手段として、三六協定の締結、更新を拒否し、組合員に時間外勤務を拒否させて本件超勤拒否闘争を実施したということになるから、右超勤拒否闘争は、地公労法一一条一項の禁止する争議行為に当たるものといわなければならない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。また、所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。‥‥」

(4)岩淵正紀調査官解説の要所

○争議行為禁止の合憲性
A 岩教組学力テスト事件大法廷判決の判示を踏襲

「地方公営企業職員も一般職の地方公務員に属する者であるが、一般職の地方公務員の勤務条件は、国家公務員の場合と同様、政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により、国民全体の意思を代表する国会が定める法律及び住民の意思を代表する地方議会が定める条例、予算の形で決定されるべきものとされているのであつて、そこには、私企業におけるような団体交渉による決定という方式は当然には妥当しないというべきである」がポイントであるが、これは全農林警職法判決に倣った説示であり、国と地方の違いを考慮していないとの異論はないわけでもない。しかも、地方公営企業職員は、労働組合を結成することが認められ(地公法労法五条)、団体交渉権が与えられていて、具体的な勤務条件の一部は団体交渉により決定することが予定されている(同法七条)、また地方公営企業には労働基準法が全面的に適用される地公法(三九条一項)、したがって時間外労働又は休日労働させる場合には過半数の労働者が組織する労働組合がある場合はその労働組合と三六協定を締結しなければならない。
 しかしながら、地方公営企業は独立採算制(地公企法17条、17条の2第2項)をとっているが、独立した法人格を有さず、法的な経営主体は地方公共団体である。憲法15条にいう「公務員」は国家公務員と地方公務員の両方が含まれることは明らかであり、実質的に、その使用者はで国民であって、労務提供義務を国民に対して負うという意味において憲法上同一の地位を負う。地方公共団体の財政等に重大なかかわりをもつ地方公務員の勤務条件を基本的に法律および条令、予算で定められるべきことは。憲法の予定しているところである。したがって勤務条件の決定につき私企業におけるような団体交渉による決定という方式は当然に妥当しないという点においては、国家公務員と地方公務員に本質な違いはないとみることができるのであり、調査官は妥当な判断としている。(つづく)
 

 

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