地方公営企業職員の争議行為及び争議付随行為に対してどのような責任追及ができるか(下書)その9
また懲戒権者の広範な裁量権を是認し、社会観念上著しく妥当を欠くもの、裁量権付与の目的逸脱・濫用したものでない限り違法にならないと判示した。
争議行為を理由とする懲戒処分について最高裁の初めての判断を示したもので、被引用判例が110と多数あるように懲戒処分の有効性についての指導判例といえる。
つまりプロレイバー学説は、労働基本権確立、階級的戦闘的組合活動支援の立場から、争議行為の権利は、集団的行動の権利であり、団体的組織的行動である争議行為は、職務秩序に違反する職員の個別的非違を制裁する懲戒制裁とは論理的性格を異にするので、原則として懲戒処分を科しえないとするのである。[室井力1978]
これに対して、争議行為は争議行為禁止規定に違反すると同時に上司の職務命令への服従義務ならびに職務専念義務にも違反することとなり、当然に、国公法八二条の懲戒事由に該当するという見解が対立し、行政事務はこの立場に立っている。本件の最高裁判決は、原審の判断を退けて後者の見解を採用した[宮田三郎1986]と解説しているとおりである
つまり神戸税関判決は、行政当局の処分事例として一般的にとられていた争議行為禁止規定が他の服務規定違反とが競合的重畳的に成立するとする説(競合説)を是認した。
越山安久の判例解説(最高裁判所判例解説民事篇昭和52年414頁以下)によると、「争議行為禁止規定とその他の服務規定とは、その趣旨、目的、保護法益を異にし、その双方に違反する以上、競合的に適用されるのは当然である」というものである。
つまり国家公務員が争議行為を行った場合、争議行為を禁止した国公法98条2項(本件では旧98条5項)、法令または上司の職務上の命令に違反に従う義務を定めた98条1項、職務専念義務を定めた101条1項、組合活動により勤務中の職員の勤務を妨げてはならない義務を定めた人事院規則14-1第3項、場合によっては信用失墜行為を禁止した国公法99条に違反することになる。
競合説の是認の意味は大きい。争議行為は集団行動であるが、争議行為でない公務員の個別的非違行為を懲戒制裁する場合にふつう適用される、上司の職務上の命令に従う義務、法令を遵守する義務、職務専念義務やその他の規則の違反にも該当することを明らかにすることによって争議行為を行った個々の職員に対する懲戒処分を承認したという意味が、非競合説よりより明確なものになったのである。
集団行動であっても個々の職員の行為の総和であり、個々の職員の非違行為としても責任が問うことができることを明確にした意義がある。
最高裁大法廷は争議行為の時に生じた行為についても、就業規則を適用して解雇することができる。会社は正当な争議行為中の組合員の部署を他のいかなる者をもってしても代置することができない」と定めてある団体協約の失効後、組合員外の者の作業を暴行脅迫をもって妨害するような行為は、同盟罷業の本質と手段方法を逸脱したものであって、正当な争議行為とはいえないと判示したが、次の通り、正当な争議行為は消極的限度にとどまるものであり、使用者側の業務遂行行為を暴行脅迫により妨害できないことを明らかにしている。。
「当時上告人等組合員側のした行為は単なる職場占拠に止まらず、被上告人会社側の非組合員職員によつてなさんとした業務の遂行を暴行脅迫をもつて妨害したものであつて、違法な争議行為であることは寔に明瞭といわねばならない。けだし、同盟罷業は必然的に業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであつて、これに対し使用者側がその対抗手段の一種として自らなさんとする業務の遂行行為に対し暴行脅迫をもつてこれを妨害するが如き行為は、叙上同盟罷業の本質とその手段方法を逸脱したものであつて到底これを目して正当な争議行為と解することはできないのである。そしてこの事は法令等に特別の規定が存しない限り労働事情の如何によつて右解釈を左右されるものとは考えられない。若しそれ所論の如く使用者側による所謂切り崩し又はスト破り行為等の行われる恐れありというだけでは、未だもって上告人等労働者側の前示行為を正当化せんとする根拠とはなし難いものと解せられるのである。」
本件は、神戸税関判決より後の最高裁決定だが、ストライキに対抗する性格を有するストライキ中の操業が法的に保護されるか否かが直接の争点となり、ストライキ中の操業が法的に保護されること。組合側の計画していた争議行為に対抗するためにとられた措置であるという理由で業務性を失うことはないことを明らかにした決定的な意義のある裁判例である。先例として、上記の三判例(朝日新聞西部本社事件、羽幌炭礦事件、進駐軍横浜事件)を引用したうえね、違法性阻却判断基準として久留米駅事件方式をとり、建造物侵入罪、威力業務妨害罪、傷害罪の成立を認めた原判決を認容する決定である。
使用者は、労働者測がストライキを行つている期間中であつても、操業を継続することができることは、当裁判所の判例の趣旨とするところであるへ昭和二四年(オ)一〇五号同二七年一〇月二二日大法廷判決民集六巻九号八五七頁、同二七年(あ)第四七九八号同三三年五月二八日大法廷判決・刑集一二巻八号一六九四頁、同三一年(あ)第三〇六号同三三年六月二〇日第二小法廷判決・刑集一二巻一〇号二二五〇頁参照)。使用者は、労働者側の正当な争議行為によつて業務の正常な運営が阻害されることは受忍しなければならないが、ストライキ中であつても業務の遂行自体を停止しなければならないものではなく、操業阻止を目的とする労働者側の争議手段に対しては操業を継続するために必要とする対抗措置をとることができると解すべきであり、このように解しても所論の指摘するいわゆる労使対等の原則に違背するものではない。従つて、使用者が操業を継続するために必要とする業務は、それが労働者側の争議手段に対する対抗措置として行われたものであるからといつて、威力業務妨害罪によつて保護されるべき業務としての性格を失うものではないというべきである。 。
‥‥‥そうすると、会社のした右車両分散等の行為は、ストライキの期間中もこれに参加しないd所属の従業員によつて操業を継続しようとした会社が、操業を阻止する手段として支部組合の計画していた車両の確保を未然に防いで本来の運送事業を継続するために必要とした業務であつて、これを威力業務妨害罪によつて保護されるべき業務とみることに何の支障もないというべきである。以上と同趣旨の原判断は相当として是認できる。
‥‥‥ストライキに際し、使用者の継続しようとする操業を阻止するために行われた行為が犯罪構成要件に該当する場合において、その刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたつては、当該行為の動機目的、態様、周囲の客観的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならない(前掲、昭和三三年五月二八日大法廷判決、同四三年(あ)第八三七号同四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻三号四一八頁、同四六年(あ)第一〇九五号同五〇年八月二七日第二小法廷判決・刑集二九巻七号四四二頁、同四八年(あ)第一二三一号同五〇年一一月二五日第三小法廷判決・刑集二九巻一〇号九二八頁参照)。
‥‥‥本件争議においては、会社側の強い関与を背景に誕生し支部組合に比較するときわめて会社寄りの山労が存在し、この山労が会社従業員の三分の二近くを擁して会社の操業継続に協力したこと、これら山労の存在及び行動が労使間にかなりの力の不均衡を生ぜしめ支部組合側の争議権行使の実効を著しく減殺するものであつたこと、しかし、これらの事実は、一面においては、支部組合として争議突入の当然の前提として受容すべき事柄の一つであつたことなど、前記認定に現われている諸般の事情及び所論の指摘する交通産業における特殊性をすべて考慮に入れ、法秩序全体の見地から考察するとき、本件車両確保行為は到底許容されるべきものとは認められない。
そうすると、威力業務妨害罪又は建造物侵入罪に該当する本件車両確保行為には刑法上の違法性に欠けるところはない‥‥‥」
争議権のある私企業でもストライキ中の操業は法的保護があるといきちんとした判例がある以上、地方公営企業の管理職が最高裁判例で否定されているプロレイバー学説を根拠に業務命令をしないというあり方は、労組に労務指揮権を掣肘されているあり方といえるし、違法行為を正さない姿勢は不適切な労務管理であるといえる。
この基準は、下級審がプロレイバー学説を根拠に安易に懲戒処分無効判決をできないものとした理解でき、いわゆる相場よりもやや重い懲戒処分であっても司法部は干渉しないことを意味しているものともいえるから、懲戒権者の広範な裁量権を与えるものであるる
。逆にいうと、違法争議行為があっても懲戒処分をしないもしくは、機関責任だけをとって、率先助勢者の処分を行わないとか、組合との不透明な癒着とも思われるような実害の小さい処理がなされる根拠にもなりうるので、これは地方議会のチェックが必要であるといえる。
2.四国財務局(全財務四国地本高松支部)事件最三小判昭52・12・20民集31-7-1225 判時874
「全財組区愛四国地本及び高松支部において‥‥三七年九月二八日‥‥一審被告に対し勤務評定に関する合同交渉を申し入たが、‥‥交渉が進捗しなかったところ、その間において一〇月一日午後二時頃、一審被告が各課長からそれぞれ第一表停車に勤務状況報告書を交付して、勤務評定実施を命ずるや、組合側は直ちに掲示板、局庁舎食堂入口等に「勤評反対」「オールA・公開」等と記載したアジビラを貼付する等これに対抗する措置に及んだ。かような状況下において。一審原告Kが、一〇月二日午後四時五分頃勤務時間中、四国財務局の階上、階下事務室において、前後約五分間にわたり、携帯拡声器で、第一次評定者に対し、勤務状況報告書に記入しないことを要請する趣旨の放送を行なった。‥‥当時階下事務室には約三〇名の職員が執務しており、また階上の事務室にも約三〇名の職員が執務していた。そして右放送の音量は、無職員のなす電話の通話の邪魔になりかねない程度のものであり、各事務室全体に聞こえる程度の大きさであったのである。従って、いずれの事務室においても執務中の職員の妨害になった。‥‥‥」
10月5日の放送について
「一〇月五日午後三時頃勤務時間中、右原告Tが、局階上事務室において、携帯拡声器を用い、執務中の職員に対して午前中の局長と共闘役員との会談及びその後の状況について約四、五分にわたり放送した。そうして、M総務課長がS総務係長をして、この放送の中止命令を伝達させたのであるが、同原告は右中止要求を受けた後も、なおこの放送を続けたのである。右放送の当時、局階上事務室において執務していた職員は焼く三〇名であり、右放送は、形態拡声器によって、階上広間事務室全体に聞こえる程度の大きさでなされ、執務中の職員がその方に気を取られていたのであるから、その口調が淡々としたものであったかに否かなどにかかわらず、執務中の職員がこの放送によって執務を妨害されたことは明らかである。」
懲戒事由に当たるかの判断
「一審原告Kは公務員として職務専念義務があるにもかかわらず、前認定のとおり、勤務時間中において、本件勤評反対闘争の目的達成のためで第一次評定者に対し‥‥勤務状況報告書を記入しないでくれと要請する放送を、前認定の相当時間にわたって行ない、勤務中の他の職員の執務を妨害する結果を惹起したのであるから、その際用いた言語が刺激的なものであったかどうかは問うまでもなく、その行為の態様からみて、他に特段の事情がない限り、この放送は違法を免れないというべきである。‥‥その放送の内容、並びに時間、方法などの態様からみて、及びそれが多数の職員の執務の妨害になっている事実等からすれば、本件放送は、本件勤評反対闘争の一環として行われた組合活動であるが、たやすく組合運営のため必要最小限度のものとはいえないものであって、勤務時間中の組合活動としては正当なものとは認められず、あえて当局の中止命令等を待つまでもなく、違法を免れないものというべきである。‥‥Kはみだりに職務を放棄して右マイク放送により他の職員むの勤務を妨害したというべきである。」
「一審原告Tの放送に対しS係長が制止したのは‥‥M総務課長がその中止命令を伝達させたものであり、その制止にもかかわらずTはその放送を続けたのである。‥‥右放送そのものがその際、内容的にも、時機的にも組合側にとってある程度必要なものであり、淡々と報国が行われたものであったとしても、前認定の右行為の態様からみて、勤務時間中の組合活動として全く違法性を欠くものとはいえない。従って右原告Tの子非初が、みだりに職務を放棄して、放送を行ない、もって職員の執務を妨害したものとされるのは止むを得ない。」
臼井滋夫
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1977c 「公務員等の争議行為をめぐる刑事判例の動向--名古屋中郵事件判決
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渡部尚
「刑事判例研究179地方公務員法六一条四号にいう「あおり」「あおりの企て」の意義〔浦和地裁昭和六〇・六・二七、判時一一六二・二〇。地方公務員法違反被告事件、有罪・控訴〕『警察学論集』
その他
注解法律学全集5 国家公務員法・地方公務員法 園部逸夫監修、栗田・柳編 青林書院1997
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川西みたいなぐうたらできる公務員って理想の生き方だよな
過労死とは無縁なところで民間の労働環境を上から目線で批判できるんだから
自分は大して働かないくせに民間は過労死するまで働けと言えるからな
投稿: | 2016/09/07 00:40